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症候群-追放王子ト亡国王女-
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同時刻、
弥彦山裏手に広がる
日本海海岸――――


ガーッ、ガーッ、

「えー、こちらA班。先程弥彦山から飛翔した中国軍戦闘機の行方は」
「山の梺海側にて発見!今から機内に入り、パイロットの捕獲任務に移行致します!」
「手荒に扱うなよ。パイロットが奴にせよ日本の王子にせよ国際連盟軍中国代表にせよ、生きたまま陛下へ献上せねばならぬからな。まあ…それ以外は煮るなり焼くなりその場で始末しろ」
「了解!」
空が真っ赤に染まる海岸。3機のルネ軍戦艦の内、海岸に停泊している戦艦の隊長が無線で部下へ通信をとっているその背後の戦艦入口から戦艦内へ入って行くルネ軍服を着て鎧兜を装着した小柄なルネ軍人1人が居た。
























戦艦内――――

――…よし!艦内へ潜入成功だ!――
小柄なルネ軍人はルネ軍人ではなく、実は慶司だったのだ。
今から10分前。中国軍戦闘機を山の梺に乗り捨てて其処にルネ軍の意識を向けて…その隙に自分は海岸に停泊中の戦艦の元へ身を隠しながら近付く。途中、
「貴様ジャップだな!」
1人のルネ軍人に遭遇したがそれは慶司が望んでいた事。


キィン!

「ぐああ!」
敵を斬りつければ、慶司が殺したルネ軍人が身に纏っている鎧兜と軍服を剥ぎ取り装着。これで慶司はルネ軍人に変装完了。というわけだ。
そして現在。
――上手く潜入はできたけど…。しかし広いな―
東京ドーム四つ分の大型戦艦というだけあって艦内は屋敷かと錯覚する程の広さ。しかし屋敷のような造りでは決してなく、銀色の壁と廊下が続くしガタンガタンと機器が作動する音が聞こえてくる無機質な艦内。
――取り敢えず、僕が軍服を奪取したこの軍人の部屋へ行ってみよう。あまり艦内をウロウロしていたら怪しまれるからな――
胸ポケットに入っている軍人の端末を取り出せば、この軍人の個人情報全てが入ったデータが画面に映し出された。


























「此処か…」


パタン、

部屋へ入ると1人部屋の室内もやはり無機質で生活感は皆無。病院のような簡易ベッドと小さな机と椅子があるだけ。窓すら無いから圧迫感を覚える室内。ベッドに腰を掛けた慶司は兜を外す。端末機のタッチパネルを指でタッチしたりスライドをしながら、ルネ軍の情報を調べていく。
「この軍人の名はハワード・シュヴァルツ准尉20歳。A班に所属…か。この名を呼ばれたら僕を呼んでいるという事か。今作戦の内容は…奴を捕らえ、また、反ルネ勢力組織を結束させている愚かな日本の王子の捕獲…!?僕も捕らえるつもりだったのか…」
記載された作戦内容に慶司は目を丸める。
「今作戦終了後、一度本国へ帰還。ブーランジェ新将軍への報告後の明朝、植民地カイドマルドへ軍事工場建設の下見…。良かった。一度ルネへ戻るんだな。なら僕の思い通りだ。後はこの戦艦がルネへ戻るまでにこのまま誰にも変装が気付かれなければ…!」


ピッ、

端末機の電源を落とせば、画面が真っ暗になる。慶司はベッドの上に置いた刀ムラマサを手に取る。
「この刀ムラマサは手にした人全員が別人のようになり狂暴になる…と刀が言っていたのにどうして僕は自我を保てたまま使えたんだ…?」
刀に問い掛けてみても、しん…とした室内に刀からの返答は無くて。
「おかしな刀だ」
首を傾げてすぐ刀を置く。懐からビリビリに破かれた亜実の写真を取り出した慶司は、机の棚の中にあったセロハンテープで写真を貼り合わせて元に戻す。継ぎ接ぎだが、亜実の顔に戻った写真。
「新田見君の妹…確か亜実ちゃんだっけ…。二度遊んだかな。…新田見君が田村さん達を殺めてまで生きたかった理由ってもしかして、亜実ちゃんなのかな…。でも亜実ちゃんは今何処に居るんだろう。新田見君からは一切聞いていないからもしかしたら…」
憂いの瞳の慶司の脳裏で蘇る楽しかった過去の影像と共に聞こえてきたのは、過去の音声―――。




























4年前―――――

「聞いた?あの子あの子」
「日本の王子慶司様でしょ?でも何で王子様が一般の中学に入学してるの?王室の子供って代々家庭教師とお城で勉強してきたんじゃなかった?」
「友達が欲しい慶司様自らのご希望!ってニュースで言ってたよ」
「しかも俺達のクラスとか気を遣っちゃうじゃんな。王子様に何か言ったりしたら俺達は村八分だろ?」
「ねー。だから王子様と同じクラスとか最悪!」
「しっ!声大きいよ。聞こえてたらどうするの?」
「え。嘘!やばっ!」
――やっぱり無理だったのかな…――
桜舞う春。京都の中でも身分の高い家の子息しか入学できない中学に入学した僕。クラスメイト達が言う通り日本王室は代々城で専属家庭教師から勉強を受けるんだけど、僕が我儘を言って普通の中学に入学させてもらったんだ。だって、城に籠って学友の1人もできない姉上達を見ていたら僕はそんなの嫌だ友達が欲しい!学校という所へ行ってみたい!って思ったんだ。期待に胸を弾ませて入学。けど…クラスメイト達から聞こえてくる言葉は、王子の僕が一般市民と同じ空間に居る事への不満ばかりだった。
友達どころか誰1人として僕に話し掛けてはくれないし、僕から話し掛けても苦笑いで当たり障りのない返事をしたらすぐ離れていく。机に伏して今日も授業が終わるのを今か今かと待つ時間が始まる。こんなはずじゃなかったんだけどな…
「えっと…宮野純君?」
「えっ?」
呼ばれた。声を掛けてほしい僕の気のせいかな?と思ったんだけど、顔を上げた其処には明るい栗色の髪で優しい目をした1人のクラスメイトが居た。
――あ。分かる。この子の名前。だって僕は学校が楽しみ過ぎてクラスメイトの名前をもう全員分覚えているんだから――
「えっと…新田見…総治朗君?」
「え!」
「え?!あれ?違った!?」
「うんうん、うんうん!あってるよ新田見総治朗だよ。びっくりしたんだ。まだ入学して間もないのに俺の名前を覚えてくれていたんだね!」
「〜〜っ!」
――そ、そんな大声で言うなよっ!僕がクラスメイトの名前全員分を覚えているのが皆にバレちゃうじゃないか!――
僕は、恥ずかしさと虚しさで頬杖を着いて外方を向いちゃうんだ。それでも新田見君は天然なのか僕の気持ちを察そうとはしなくて、どんどんお構い無く話し掛けてくる。本当は嬉しいのに何だか小恥ずかしくてさっきから外方を向いたままだな、僕。だって家族以外の同い年と話すなんて慣れていないから。





















「ねぇ宮野純君。委員会は何に入るの?」
「え…次の時間委員会決めだっけ…」
「うん!良かったら一緒にしないかな」
「え!良いの?!」
「え!良いかな?!」
「いやいやいや!僕が聞いているんだよ」
――どんだけ天然なんだ!まあ、姉上で慣れているけど――
「うん、喜んで!宮野純君は何委員会に入りたいの?」
「うーん…体育委員かな」
「じゃあ決まりだね!」
「え?新田見君は何かないの?」
「俺は何でも良いよ」
「ふぅん…」
「じゃあさ部活は?」
「部活?」
「うん。何か入りたい部活あるの?」
「うーん…野球かな」
「本当?俺もだよ!今日の放課後体験入部あるよね。一緒に行こう」
「うん」
「良かった〜」
「総ちゃーん!」
「あ。綾夏」
教室の入口からショートヘアの女子が新田見を呼ぶ。分かる。あの子は同じクラスの七瀬綾夏さんだ。付き合っているのかな?
「また後で話そうね」
「彼女?」
「え?う、うん」
わー、分かりやすいな。新田見君は頭を掻きながら恥ずかしそうに顔を真っ赤にして笑うんだ。新田見君が彼女の綾夏さんの元へ行く時、僕は呼び止めてみた。少し勇気を出して。
「新田見君!」
「うん?」
「あの、その…宮野純君って言いにくくない?その…」
「あ。じゃあ慶司君だね!」
「〜〜っ!」
本当に変わった子だ。これが僕から見た新田見君の第一印象であり、ずっと思っている事であり。周りがどれだけ"変わり者"な視線を新田見君に送っても新田見君は全く気にせずに僕と接してくれた。後にも先にも僕の友人は新田見君だけだったけれど、それで良かった。たくさん居いたってうわべだけの友人なら、たった1人でも僕を信頼して僕も信頼できる友人1人の方が良い。
それからは放課後泥だらけになるまで野球部で新田見君とバッテリーを組んで、部活で疲れているはずなのにその後2人で遊びに行ったりしたっけ。帰宅すると泥だらけの僕を必ずタオルで拭いてくれる姉上。
「慶司また遅くまで遊んでいたのですか?」
「だって姉上、僕に友達ができたんですよ!」
「ふふ、それは良い事ですね」
「すごく優しくて良い人なんです!姉上みたいに天然ですけど」
「まあ!慶司ったら」
「あはは!」
「じゃあもうその子と慶司は親友ですね」
「はい!」


























現在―――

「くっ…!」


ガンッ!

壁を殴った慶司の右手拳が震えていた。
「新田見…君っ…!」
「総員に告げる」
「!?」
ノイズと共に艦内スピーカーからルネ軍人の野太い声の放送が入った。一瞬にして張りつめる空気。慶司は咄嗟に顔を上げる。
「今作戦は終了した。間もなく戦艦は本国へ帰投する」
ぐっ…、膝の上に置いた拳に力が入る。
「ここからだ…ここからです姉上。僕は必ず成し遂げてみせます…!」


ザザァッ……

3機の戦艦が去って行く。夜だというのに一面明るく真っ赤に焼けた日本の空を背にして。水面は静かに揺れていた。



















































































ルネ王国――――

「スー、スー」
エミリーの寝息と外から野犬の遠吠えや烏の鳴き声しか聞こえない静かな夜。伸び放題の雑草や生い茂る木々で真っ暗な森の中に在る荒廃した3階建ての病院。
「懐かしいね。まさかまた君と此処に来る事になるなんて思ってもみなかったよ」
「ふんっ。私もよ!」
此処は1年前、ヴィヴィアンが王室から追放された直後やって来た森の廃病院。ジャンヌと初めて出会った場所だ。あれから1年が建った廃病院だが、元から荒廃していた為荒廃振りは1年前と変わり無い。
1階の部屋でエミリーを寝かせたヴィヴィアンとマリー。ヴィヴィアンは床の隅に見つけた物を見て鼻で笑う。自分が1年前此処で脱ぎ捨てた紫色の王子服。埃と枯れ葉が積もったソレを手に取ってみる。
「このお洋服はヴィヴィ様の…」
「うん。そうだよ。はは、見るだけで憤りが甦っちゃうね」


ビリッビリッ!

「あはははは!」
護身用ナイフでそれを切り刻めば、紫色の布切れが足元にハラハラ舞う。そんな狂気染みた彼の行動は本当に彼が心を入れ換えたとは思い難くてジャンヌはヴィヴィアンの肩を掴む。
「ちょっとヴィヴィアン!あんたマリー様の前でそういう事するのやめなさいよ」
「大丈夫ですわジャンヌさん」
「え?マリー様…」
マリーは優しい笑顔でヴィヴィアンの両手を取る。
「ヴィヴィ様、思い出してしまったのですね…。でももう大丈夫ですわ。ヴィヴィ様は何もしておりません。お父様には何もしておりませんよ。今日はもう眠りましょう」
「僕…は…、」
「…大丈夫ですわ。ね?」
頭を包み込めば、まるで子供のようにマリーの胸に顔を埋めたヴィヴィアン。
「スー、スー…」
寝息が聞こえてきた。嘘のようにすぐ眠ってしまったヴィヴィアンに、ジャンヌは目をぱちくり。マリーは相変わらず優しい…けれどどこか切ない笑みを浮かべたままエミリーの隣にヴィヴィアンを寝かせて、そっ…とボロボロの毛布を掛けてやる。目だけで会話をするジャンヌとマリーは互いに頷くと、最上階の部屋へ移動する事に。


パタン…、

2人の寝息が聞こえてくる1階の部屋の扉を後ろ手で静かに閉めた。






















3階――――

「1年前確か私達がこの部屋を使っていたのよ。ヴィヴィアンは1階。ね、アンネ」
「うん!」
ボロボロのベッドに脚を開いた豪快な体勢で勢い良く腰を掛けたジャンヌの膝の上に座るアンネ。
「まあ。アンネちゃんもご一緒だったのですか?」
「ええ。近くの町でアンネと出会ったのよ。最初は私に全く心を開いてくれなくてね」
アンネの髪を撫でる。マリーはそっ…、とジャンヌの隣に腰を掛けて膝に手を置く。
「ねぇ。マリー様。ヴィヴィアンの事なんだけど…」
「ヴィヴィ様は…思い出されてしまったのでしょう…先程のお洋服を見て全て…。それとももしかしたら、ルネというこの国に居る事自体がヴィヴィ様にフラッシュバックをさせてしまったりストレスを与えてしまっているのかもしれませんわ…」
「さっき言ってたお父様の事って…」
「…ジャンヌさんが御察しの通りですわ。ヴィヴィ様は目の前でルヴィシアン様にお父様を殺められてしまいました。その罪を着せられた事が今回の件なのですが、その事然りヴィヴィ様は一度も仰った事はございませんが…もしかしたらヴィヴィ様は御自分がお父様をお守りできなかった事をとても悔いていらっしゃるのかもしれません」
「でもあいつ言ってたわよ?父上はマリー様との結婚を反対しようとしていたとか、自分を政略結婚の道具としか思っていない人間だ!とか…」
「…それもヴィヴィ様の本心でしょう。でもきっと心の奥底では…。…ヴィヴィ様はプライドのお高い方ですから」
「…そうだったわね。あいつのどれが虚勢でどれが本音かを分かるのは、やっぱりマリー様あんただけだわ」
「ジャンヌさん…」
「な、何よ!そんな思い詰めた顔しちゃって!こっちが緊張しちゃうじゃない!」
「申し訳ありません…」
「別に謝らなくて良いのよっ!」
「わたくし、ヴィヴィ様の本性を知ってしまった時に心にも無い事を言ってしまったのですわ…」
「え?」
「戦争が好きなヴィヴィ様は本当は周りが仰るようにヴィヴィ様なのではないですか。お父様を殺めた犯人は!…と」
「……」
マリーは顔を手の平で覆い肩を震わせる。
「わたくしのせいですわ…わたくしのたった一言のせいでヴィヴィ様は、本当は自分がお父様を殺めたのでは?と思い込むようになってしまったのですわ…!本当は違うのです!でもわたくしが…わたくしがっ…!ヴィヴィ様が一番辛くて情緒不安定な時にあんな事を申してしまったから…!あの時掛ける言葉はそんな言葉ではなかったはずですのに…!あの時どうしてわたくしは優しい言葉を掛けて差し上げる事ができなかったのでしょうか…!」
「マリー様にだってストレスになっているじゃない」
「え…」
マリーは顔を上げる。紫色の大きな瞳は涙に濡れていた。





















「ヴィヴィアンの事よ。だからマリー様だけのせいじゃないわ。ヴィヴィアンだってマリー様に負担を与えているの。マリー様あんたは自分を責め過ぎ。考え過ぎ。確かに原因が0とは言えないわ。私はあいつじゃないから、マリー様のその言葉があいつのトラウマになっているかはあいつじゃないから私には分からない。でももしそうだとしても、あいつだって今までずっとマリー様の前だけ優しくて戦争反対の人間を装っていた。けど実際は戦争狂でえげつない本性をマリー様に見せて、マリー様を悲しませたじゃない。だからね。第三者の私から見たらどっちもどっちなのよ。あ。でもヴィヴィアンの方が悪いところはたくさんあるわよ?!99.9%くらいね!」
「ジャンヌさん…」
「ごめん。きつい事言っちゃったかも私…」
マリーは首を横に何度も振る。
「いえ、わたくしだけでは気付けない事をジャンヌさんがたくさん教えてくれましたわ。それに、ジャンヌさんのような考え方を見習わせて頂きますわ!」
「えぇ?!見習うってそんな!大層なモンじゃないわよ!」
「わたくしはどうしてもマイナス思考になってしまうので、ジャンヌさんのように少しでも前向きに考えられるようになりますわ。そうしないとヴィヴィ様もわたくしも前へ進めませんもの」
ジャンヌは指で鼻を掻く。ちょっと得意そうに笑んで。
「えへへ。そんなに褒めてくれるのはマリー様だけよ。ねぇ。ところで。ヴィヴィアンはルネへ来たわけだけど、これからどうするかは…」
「わたくしには分かりません…申し訳ありません」
「だから謝らなくて良いのよ。うーん、あいつが考えている事は分からないわ。でもルネに居る事は調度良いかも。私にとって」
「え?」
「私は今まで口先だけで夢ばかり見ていて何も行動に起こさなかった。起こすのが怖かったのかな。でももう決めたわ。そろそろ着けなくちゃね」
「何を…ですか?」
「決着よ!」
割れた窓の外から射し込む眩しい程の月明かりが白い歯を見せて笑んだジャンヌを照らしていた。


ドクン…、

マリーの胸が不安に鳴る。
「あの…ジャンヌさ、」
「ふわぁあ〜。眠くなっちゃったわ。あ。アンネももう寝てるわ!マリー様!今日はこのベッドで一緒に寝ましょ」
「え?あ…は、はい…」
バタン、とベッドに倒れたジャンヌからすぐ寝息が聞こえ出す。しかしマリーは隣で腰を掛けたまま、ドクンドクンドクンとうるさく鳴る左胸に両手をあてて不安な表情を浮かべていた。呼吸がし辛い程胸が苦しくなる。
「…っ、嫌ですわ…嫌です…。ユスティーヌがルネ軍に地図から消されてしまったあの日と同じ胸騒ぎがしますわ…」
月は彼女の不安も知らず、闇夜を照らす程明るく明るく輝いていた。






























































同時刻、
ルネ軍本部――――


ビー!ビー!

本部に鳴り響く嫌なサイレン。夜中に慌ただしい本部。
「逃亡者は第1格納庫から戦闘機1機を奪取し、それに搭乗し逃亡!」
「了解。既にメッテルニヒ少佐の隊を上空へ張ってある」























上空―――

「直ちに止まりたまえ!」
ライトに照らされたルネ城を背にメッテルニヒを先頭にしたルネ軍戦闘機4機が、1機の逃亡者の戦闘機を追う。
「止まらないなら…!ぐっああ!」


ドン!ドンッ!!

「少佐!!くそっ!逃亡者の分際で我が軍の戦闘機を奪取した上、我々に攻撃をするなど!!」
「雑魚が喚かないで下さい。耳障りですの」
「なっ…!?」
フロントガラスの目の前に逃亡者のサーベル先端がこちらを向いていた。
「回避っ…!」
「この距離では無理、ですわ」


ドンッ!!

「アーイ准尉ぃい!!」
逃亡者はルネ機をサーベルで一突きすれば、間髪空けずに見事なまでのサーベル捌きでメッテルニヒ以外の機体を次々と凪ぎ払っていく。


ドンドンッ!!

真夜中に光る真っ赤な炎。
「くっ…!許さない!!」
メッテルニヒは逃亡者と対峙。サーベルを引き抜いた。
「メッテルニヒ少佐!撤退だ」
「なっ…!?何故ですか!」
突然本部から入った通信。
「逃亡者1人に兵を3人も失うなど、君には任せておけないからだ」
「っ…!」
「それに、逃亡者が搭乗していたあの戦闘機は我が軍にある。あの戦闘機の構造が分かれば、逃亡者はもう用済みだ。逃がして構わない」
「しかし、こちらの機体が奪取されています!敵に我が軍の機体性能が知られてしまうではありませんか!その前に逃亡者の抹殺を…」
「君にできるのか?たった10数分で部下を3人も失った君に」
「ぐっ…!」
「案ずるな。逃亡者が奪取した機体は旧式だ。まあ新機が奪取されたところで我が軍の技術に他国が追い付けるとは思えんがな」
「……」
「直ちに撤退しろ。メッテルニヒ少佐」
「…了解」



































ヨーロッパ海上―――

真っ暗な海上を飛行するルネ軍戦闘機1機は後方をモニターで確認する。追っ手は来ない様だ。
「ふぅ。やっとあの薄汚い牢屋から出る事ができましたわ」
この機体を操縦するのは先程ルネから機体を奪取し、メッテルニヒ達と交戦していた逃亡者。
「髪も体もベタベタ…早くシャワーを浴びて温かい紅茶を飲みたいですわ。…でもその前に」
逃亡者はヘルメットを外す。靡く銀色の美しいポニーテール。逃亡者の正体は、VSアンデグラウンド戦後ルネに幽閉されていたエリザベス女王。
「お返しに行かなければいけませんね。バッシュちゃん、劉邦ちゃん…!」



































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