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症候群-追放王子ト亡国王女-
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慶司の前へ飛び出した総治朗は両手を大きく広げた。茂みから現れた1人のルネ軍人が持ったマシンガンに自ら当たりに行った。慶司の前に立ちはだかる壁となる為。慶司を守る壁となる為。
「新田見君!!!」





























































同時刻、
弥彦山中腹――――――

「何だ?さっきのアレは」


ザッ、ザッ、ザッ、

山道を歩くルネ軍人達。
「途中ジャップ共が大量に死んでいただろ?」
「斬られた傷だなあれは。でも何故だ。私達がこの山へ入る前に既に他の国が来ていたという事か」
「それにしては他国の戦艦も見当たらないし戦闘機もレーダーは感知しませんでしたよ」
「そうだな…」
「それより喉が渇きません?」
1人の若い軍人が担いでいるリュックサックから水筒を取り出す。だが上官が強制的にそれをリュックサックの中へ戻す。
「馬鹿者。まだ始まったばかりだぞ。配分を考えろ。大事な時に水分が無くては戦にならないだろう。士官学校で習わなかったか」
「はーい…。…あれ?」
「どうした」
「少尉!彼処に池がありますよ!」
「何?」
上官の肩越しに見つけたものは、生い茂る木々の向こうにキラリ光った小さな小さな池。若い軍人は後ろに居る10人の部下達を喜んで手招きする。
「おーい!お前達も来いよ!池だ!水だ!水があるぞ!」
「おお!!」
「水だってよ!」
「助かった!」
「お、おい!待てお前達勝手に行くな!」
上官の脇をすり抜けて行く部下達。上官の制止の声すら聞こえない程彼らの喉は焼ける程熱く渇いている。バシャバシャと池に入り、手で水を掬い口へ運ぶ部下達を離れた場所から腕を組み呆れて眺めていた上官はハッ!と血相変える。
「…!お前達直ちに其処から離れろ!これは罠だ!」
「え?」


バシャッ、

振り向いた時、池の底に埋めてあった地雷を1人の部下が踏んでしまった。


ドンッ!!

「うわあああ!」
「痛い痛い!腕がああ!」
喜びが一瞬にして血の涙と悲痛な叫び声に変わった瞬間だった。その隙を見計らい、池の裏の茂みから梅達が逃げ出した事などルネ軍人達には気付く余裕も無かった。

































「はぁ、はぁっ、成功ね!梅!」
生い茂る木々に身を隠しながら、総治朗が先程居た場所へ戻る為走るジャンヌ達。
「ええ!総治朗さんが仰っていた案…先程の場所にある池の底に地雷を隠せば、戦禍で喉の渇いたルネ軍人達は池を見付けたらすぐ池の水を得る為確実に池の中へ入る。罠が仕掛けられているとも知らず」
「その罠の背後の茂みに私達が隠れていれば、罠に掛かったつまり地雷を踏んだルネがそれに気をとられている間、確実に逃げる隙ができる!」
「少し考えれば分かりそうな罠。けれど水を欲すあまり、そんな単純な罠にすら気付かない人間心理をついたようね」
息を切らしながら走るジャンヌ、梅、マリー。
「はぁっ、はぁ」
「マリー様大丈夫?私がエミリーちゃん抱くのを交代するわよ」
マリーは青い顔をしつつも首を横に振る。
「はぁっはぁ、い、いいえ…!皆さん…わたくし達の事は、はぁっ、はぁ、気になさらないで下さいっ…はぁっ、はぁ」
「何遠慮してんのよ!ほら!貸して。私が抱っこしてあげるわ」
「あら?」
「どうしたの梅」
「今、そっちの茂みで慶司さんの声が…」
「本当?!じゃあ早く行きましょう!」
「ええ!」
「マリー様大丈夫?」
「はぁっ、はぁ、も、申し訳ありません…エミリーを…ジャンヌさんに預けて…しまい…、」
「だから気にしないで!ほら。マリー様、私の右手に掴まって」
「はぁ、はぁっ、」
「あんたに万が一があったらヴィヴィアンに何されるか分からないからね」
ニコッ。強く明るいジャンヌの笑顔にマリーはポタポタと涙を伝わせる。
「も、申し訳ありません…」
差し出されたジャンヌの右手を握った。

























「確かこっちの方から慶司さんの声が…」
茂みを掻き分けた梅が先頭に進む。


ドドドドド!!

「新田見君!!」
「え…、」
茂みを掻き分けた梅が見た光景。梅のつり上がった黄色の瞳に映った光景は、最愛の人が異母兄弟を守る盾となり真っ赤な血を噴いている光景だった。


ドサッ、

「ハハハハ!やっと見つけたぜ敗戦国日本の王子様!!」
「新田見君!!」
その光景は、梅の後ろに居るジャンヌとマリーの目にもしっかり焼き付いていた。呆然とする梅。何が起きたのか全く思考が追い付かない。


ハラリ…

「ん?」
その時。総治朗の着物の懐からルネ軍人の足元に落ちた1枚の写真。ルネ軍人が拾ったそれには、愛くるしい笑顔を浮かべた総治朗の妹亜実が写っていた。ルネ軍人はその写真を見て悪魔の如くニヤリと笑む。
「おぉ!これはこのジャップの家族の写真か?ハハッそうだよな、そうなんだよ。人を殺ってる兵士にも家族は居るんだよな。今頃この写真の家族もこのジャップの帰りを待っているんだろうなァ。それとももうこの家族はおっ死んでしまっているか?まあ、どちらにせよもう会えないな」


ビリッビリッ!

「…!!」
笑いながらルネ軍人は亜実の写真を破り捨てる。その無惨な破片が慶司の目の前で塵となり地面に落ちていく。慶司の中で何かが切れた。
「ルネェェエエ!!」
「え…?総治朗…さん?」
「…ハッ!梅姉様!ジャンヌさん、マリーさん…!」
突如聞こえてきた梅のその声に、梅達がすぐ其処ルネ軍人の背後に居た事に気付いた慶司の顔色が一瞬にして青くなる。同時に振り向いたルネ軍人は鎧兜の下で歯茎を見せて笑った。


ガシャン、

マシンガンを脇に構え直すルネ軍人。銃口は梅達…は勿論だがその一番後ろに居るマリーに一番の狙いを定めて。
「おぉ。何という幸運。其処に居らっしゃるのは我がルネ王国の恥さらしヴィヴィアン元王子の婚約者マリー様ではありませんかぁ!」
「えっ…、」
「やめろぉぉおお!!」


ドドドドド!!

























「っ、はぁっ、はぁっ…」
「け、慶司…さん…?」
鳴り響いたマシンガンのけたたましい銃声。しかし、寸前で刀でルネ軍人を背後から斬りつけた慶司。お陰でマシンガンの銃口は標的のマリー達を外して発射された。


ズルッ…

「ぁ…ぅ…あ…ジャッ…プ…の分、際…で…」


ドサッ…、

慶司が右手に構えた刀に背中を貫通されて串刺し状態だったルネ軍人は捨て台詞を吐き捨てると、刀を引き抜いた慶司によって地面に力無く崩れ落ち、果てた。
「はぁ…はぁっ…」
「慶司さん…その刀は…もしかして…」
この刀の威力を知った。先程。だから間に合わないと思った慶司は、ルネ軍人がマシンガンを発射する直前総治朗の傍に転がっていた刀ムラマサを掴み、ムラマサでルネ軍人を一突き。ムラマサは慶司の右腕を包みながら紫色の怪し気な光を纏っている。
「慶司さ、」
「新田見君!!」


カラン!

梅の声など最早聞こえていない慶司はムラマサを投げ捨てると、其処で仰向け血塗れに倒れている総治朗の元へ駆け出す。
「新田見君!!」
総治朗の体を抱き上げれば、体の下の地面には赤黒い血溜まりができていた。
「新田見君!新田見君!!」
目は開いているものの視点が定まっておらず、何処を見ているのか分からない。慶司の声はこんなにも至近距離なのに届いていない。その時。慶司の脳裏では1年前宮野純慶吾となって自分を庇った為散った姉咲唖の血塗れの姿と、目の前の総治朗の姿とが重なる。

『仲直りして下さいね』


ドクン…!

咲唖が残してくれたあの手紙の一文。
「っ…、新田見君は…新田見君は刀のせいだけでは済まされない事をした…その罪は一生消える事は無い…。けど…僕だって僕達王室だって、王室の身勝手なせいでたくさんの日本人を…殺した…。敵じゃない…戦争に参戦する道を選んだ僕達が日本人を殺したんだっ…」


ヒュー、ヒュー…

耳を澄ませねば聞こえない程の総治朗の細い呼吸音。やはり視線は何処を向いているのか分からない。
「だから…だからっ…、ごめん…ごめんね新田見君…。僕は自分の今までの言動を棚に上げて、新田見君に冷たい態度をとった…。ごめん…本当にごめんね新田見君…」


ヒュー、ヒュー…

「だからっ…」
咲唖の優しい笑顔の後に血塗れの咲唖が慶司の脳裏を過る。慶司は太股の上に乗せた拳を強く握る。
「喧嘩別れなんてもうしたくないんだっ…姉上の時みたいにっ…僕が冷たい態度をとっていたのにっ…、そんな僕の事を自分の命と引き換えに守ってくれたのに…姉上の時みたいにお礼も言えないまま喧嘩別れなんて僕はもうしたくないっ…新田見君、僕が悪かったよ…!これから一緒に罪を背負って日本を建て直そう!だから…だからっ、僕と仲直りしてほしいよ…!」
やはり声は届いていない。慶司の目から溢れる涙が雨の如く総治朗の頬に降り注ぐ。
「ハッ…!」
呼吸音すら聞こえなくなった。慌てて総治朗の脈をとる為、手首に手をそっ…とあてる。
「…!!くっ…!」
強く瞑った目から一筋の新しい涙が慶司の頬を伝い、慶司は総治朗の手首から手を離す。目を開いたまま呼吸をもうしていない総治朗の瞼に左手を添えて瞼を閉じさせる。
「僕の…最初で最後の親友になってくれて…本当ありがとう…」
「け…い…し…く…、ん…」
「えっ…!?」
すぐ近くから聞こえる爆発音にかき消されてしまいそうだったけれど、確かに彼の声で確かに彼の口が動いていた。慶司は驚き再び手首に手をあてる。
「に、新田見君!?新田見君聞こえる!?僕だよ!慶司だよ!新田見君聞こえるの?!」


しん…

しかし返事は無く、手首の脈ももう無かった。信じたくなくて彼の左胸にも手をあててみたが、やはり心臓は既に止まっていた。


























「っう、ぐ…!!」
溢れる涙を唇を噛み締めて堪える慶司。瞼を閉じさせた総治朗の瞳からも一筋の涙が伝っていた。
「やっと…やっと、昔みたいに慶司君って呼んでくれたね…。にたみく…、っ…うっ…ぐっ…!」
拳を握り締め、込み上げてくる胸の苦しみをかき消そうとする。あの時と全く同じ胸の苦しみはもう味わいたくなかったのに。
「うっ…ぐすっ…ひっく、ひっく…総治朗さんっ…そんなっ…総治朗…さん…」
「ハッ…!」
今まですっかり忘れてしまっていたが、背後から聞こえてきた梅の啜り泣く声に我に返った慶司。途端、今まで少し遠くに聞こえていた戦争の音が耳元すぐ其処で聞こえ出した。
「う、梅姉様…!」
振り向けば、肩をひくつかせて泣く梅の肩を抱いて慰めるジャンヌ。その隣には顔を手で覆い泣くマリー。
「梅姉さ、」
「うわあああん!」
「!!」
慶司に抱き付いてきた梅に驚く。
「梅姉様…」
「うわあああん!どうしてどうして!?どうしてあの優しい総治朗さんが民間人を殺めて、どうして総治朗さんが死んでしまったのですか!?どうしてどうして!?せっかくこれから楽しい思い出を作れると思っていたのに!どうしてなのですか慶司さん!どうしてこんな事にならなければいけなかったのですか!」
「ね、姉様…」
「私にはもう何もかも分かりません!どうして父上を母上を妹達と弟と咲唖さんと小町と総治朗さんを失わなければいけないのですか?!どうして私の周りの皆さんがどんどん居なくなってしまうのですか!?もう、もうっ…私にはもうっ…いやあああああ!!」


ガクン!

慶司の胸で泣き崩れ落ちた梅は、総治朗の赤黒い血で濡れた地面に顔を押し付けて狂ったように泣き叫んだ。
「姉様…」
「慶司さんは…」
「え、」
「慶司さんは…慶司さんだけは…何処へも行かないで下さい…。私を独りにしないで下さい…」
――嗚呼そうだ。僕は泣いていちゃいけない。いつまでも親友の死を、姉上の死を引き摺って生きていちゃ駄目だ。今の僕は生きているとは言えない。…僕には守るべき国や守るべき人達が居るんだ――
其処で泣き叫ぶ梅を見たら慶司の顔付きがキッ!と戦士の顔付きに変わった。
「うぅっ…うぅっ、総治朗さん、総治朗さん…!」
「梅姉様。お顔をお上げ下さい。これからは僕が…」
「そんなに大声で泣いていたら敵兵に気付かれちゃうよ?」
「ルネか!?」


キィン!

突然聞こえた声に慶司が刀を構えたが…
「まあ、ルネと言ったら僕もルネだけどね」
「ヴィヴィ様!!」
茂みから姿を現した声の主はヴィヴィアンだった。マリーが一目散に駆け寄ればヴィヴィアンは「待たせちゃったね」と言い、彼女の頭を優しく撫でる。一方の慶司は敵ではなかった事にホッ…として刀を鞘へしまう。
「何だお前かヴィヴィアン。驚かせるな」
「あはは。ごめんね」
「お前が戻って来たという事は」
「うん。まあ色々あったんだけどね、細々した事は省いて要点だけを簡潔に話すよ」
「ああ。そうしてほしい」
「此処に居たら無理だね」
「何だと!?」
「うん。さすがの僕も戦艦3機を相手にはできなくてさ。しかも戦艦に大量の戦闘機を積んでいるから尚更、ね」
「……。お前が自分の敗北を認めるなんて雨が降るじゃないか」
「そうだね。このままじゃもっと降るよ、真っ赤な雨が」
「真っ赤な…!」
「あ。ごめんマリー。怖がらせちゃったね」
マリーの方を向いて彼女の頭を優しく撫でて落ち着かせてやる。
「だから此処から離れよう。この場所新潟は僕が居るからルネがこんなにも戦力を敷いてきている。でも此処から脱出すれば。日本の他県なら戦力はここまで酷くないでしょ」
「……」
「さっき中国軍の女性が慶司君に渡した戦闘機の鍵。持っているよね?戦闘機はすぐ裏にあるよ。僕の戦闘機もね。僕の戦闘機にマリーとエミリーとベルディネとアンネを乗せるから、慶司君の戦闘機には梅王女を乗せて早いところこの県から出よう」
「……」
いつまでも難しい顔をして返答しない慶司。だがヴィヴィアンは慶司の返事など端から待つ気は無いから、裏にある戦闘機の元へ皆を連れて行く。
「総治朗さん…」


ぎゅっ…、

梅は総治朗の遺体を抱き締めて、戦闘機の元へ歩いて行く。























「よし、と」
マリー達を自分の戦闘機に乗せ終えたヴィヴィアン。


ドン!ドン!

すぐ近くからの戦争の音は止まず、空は真っ赤。
「慶司君は梅王女を乗せたら僕の後について来てくれるかな」
「……」
「慶司君?」
「慶司さん…?どうかなさいましたか。先程から黙り込んでいらっしゃいますが…」
「…すまないヴィヴィアン」
「え。何?」
下を向き拳を握り締めたまま慶司が口を開く。ヴィヴィアンと梅は首を傾げる。
「僕にはやるべき事があるんだ。今が絶好の機会かもしれないんだ」
「え?何の事慶司君?」
慶司は顔を上げる。
「梅姉様申し訳ありません。ヴィヴィアンの戦闘機に乗って頂けませんか」
「え?!」
「え?ちょ、待っ…!慶司君この戦闘機何人乗りか分かって…、慶司君!?」
ヴィヴィアンの話など聞く耳を持たず中国軍の黄色の戦闘機に乗り込んでしまう慶司。乗り込んだ慶司を外から見上げるヴィヴィアン。
「慶司君何をする気!?」
「悪い。本当にすまないヴィヴィアン。僕は倒さなきゃいけない。これが罪を償う事にはならない。誰も帰ってはこないから。でも、僕はまた敵前逃亡をして母国が火の海になる姿を指をくわえて見ていられない。もう逃げない。戦う。戦わせてくれ!」
「ちょ…!」


ゴオッ…!

慶司が乗った機体からエンジン音が鳴り出せば機体から強い風が吹き機体が浮き上がる。ヴィヴィアンは梅の前に立ち、慶司の機体が吹く風を梅にあたらないようにしている。
「慶司君!?」
慶司の機体が真っ赤な空へと飛び立つ時、機体フロントガラスの向こうで申し訳なさそうに敬礼をする慶司の姿が一瞬見えた。
「チッ!どいつもこいつも!これだから温室育ちの我儘王子は!…はぁ。仕方ない。梅王女。窮屈ですが僕の戦闘機に搭乗して下…あれ?居ない…?」
振り返ると、其処に居たはずの梅の姿は無かった。
「本っ当!どうなっているんだよ日本王室の子供は!躾がなっていないんじゃないの?」
ブツブツ文句を垂れ流しながらも、ガサガサ茂みを掻き分けて近辺を探すヴィヴィアン。





















ドンッ!!

「っ…!!」
「きゃあ!!」


ゴオォッ…!

まずい。すぐ近くの林に砲撃が投下された。すぐ其処の林から真っ赤な炎が上がっているし、此処までその熱が伝わる。機内から聞こえたマリーとジャンヌの悲鳴。
「くっ…!探している暇は無いね。ていうかそれ以前に僕には彼女を探さなければいけない理由なんて無いけれど」
ヴィヴィアンは梅を探すのは諦めて急いで機体に乗り込む。
「ヴィヴィ様…!」
「うん。どうやらすぐ其処まで来ているね。大丈夫だよマリー。今すぐ発進させるから」
「ちょっとヴィヴィアンあんた!梅はどうしたの?」
「ええっと。東の方角は日本海にルネ軍が待機しているから、ああ。あっちのルートを通っていけば良いかな」
「ちょっとあんた!聞いてんの?!梅は何処行ったのって聞いて、きゃあ!?」
「きゃあ!」


ゴオッ…!

ジャンヌの騒々しい声は一切無視。ヴィヴィアンは機体を上昇させる。素早い手捌きでキーボードを打てば、モニターに無数の英数字が表示される。
「ちょ、ちょっとヴィヴィアン!急上昇させるならそう言ってよね!ていうか梅は!?梅はどうしたのよ!」
「知らない。いつの間にか忽然と姿を消していたよ」
「なら探すわよ!あんたまさか、梅1人をこんな場所に置いていくつもりじゃないでしょうね!?」
「悪いけど、こんな戦禍で自分勝手な行動をとる1人の人間の為に僕達の命まで巻き添えを喰う理由は無いよ」
「…!あんた…!全然何も変わっていないじゃない…!」


ガッ!

背後の席からヴィヴィアンを振り向かせたジャンヌは鬼の形相でヴィヴィアンの胸倉を両手で掴む。ヴィヴィアンは至って平然としているから、余計彼女の癪に障る。
「あんた言ったじゃない!変わるって!自分は被害者であり加害者だ…マリー様も世界もこんな風にしたのは僕だだから変わる、って言ったじゃない!!やっぱりあんたは出会った時から何一つ変わらない口先だけの人間だったのね!!」
「じゃあベルディネ。君だけ降ろすよ。好きに梅王女を探してくれば良いじゃないか」
「ヴィヴィ様…!」
「ええ。分かったわ。降ろしなさい。私が梅を探してくる!」
「へぇ。そりゃあすごいね。でもさぁ、見つけられたとして武器も何も無いシビリアンで力も無い君達がたった2人でこれからどうやって生きていくの?」
「ヴィヴィ様…!!」
「そんな先の事はどうだって良いわ!大事なのは今よ!」
「だから!いい加減そうやって後先考えずに自分の命を粗末にしようとするのやめろよ!死んだら元もこもないって教えてくれたのは君だろう!?」
「…!!ヴィ、ヴィヴィアンあんた…?」
「…ハッ!」
感情的になる彼はよく見た事があるが、ジャンヌの為にこんなに感情的になった彼は初めて見た。だからジャンヌは目を丸めてキョトン。そんな彼女を見て、自分らしかぬ言動をとってしまった事に気付いたヴィヴィアンはハッ!としてすぐ背を向けて操縦幹を握る。
「…悪いけどこんな所で時間をロスしている暇は無いからね」
「ちょ…!きゃあ!!」
ぐん、と急上昇した機体は山頂まで上がった。





















山頂まで上昇させたヴィヴィアンの戦闘機の目の前には10数機のルネ軍戦闘機が。
「山から何か出てきたぞ!」
「我々ルネ軍の戦闘機じゃないか…?」
「そうだ!先日駐屯地を破壊された時に奴が我が軍の機体を奪取したんだ!」
「ではあの機体パイロットは奴だと?」
「確実にな!」
「ハッハッハ!こりゃラッキーだぜ!お前達!誰が捕獲できるか競争だな!先代国王陛下殺しの大罪人を先に捕まえた奴が天下をとるぞ!」
「…だから何回も言わせるなって…」
「むっ?!奴からの通信か!?」
顔を上げたヴィヴィアンの真っ赤な左目は、目の前の敵への憎悪に満ち満ちている。
「僕は何もしていない無実だって何回も言わせるなよ!!」
「んなっ…?!お、お前達直ちに後退しろ!早、」


ドドドドド!!

「ぐああああ!!」


ドン!ドンッ!!

ヴィヴィアン機から繰り出されたミサイル全弾が敵機全機に命中。一弾も外さないその正確さは精密機械の様。
「あははは!!爽快だね!命乞いの言葉すら発せず逝く様!ルヴィシアンの犬の君達にお似合いの最期で、…!ゴホッゴホッ!ゲホッ!!」
「ヴィヴィ様!?」
「ヴィヴィアンどうしたの!?」
高笑い中に突然口を押さえて前屈みになり噎せ返るヴィヴィアン。


ビチャッ、ビチャッ!

「…!!」
「ヴィヴィ様?!どこか具合が悪いのですか?」
「…っ、うんうん。全然平気だよマリー。少し咳き込んでしまっただけだよ。心配掛けてごめんね」
「ほっ…。良かったですわ」
しかしジャンヌだけは見てしまった。ジャンヌの後ろの席に座っているマリーはジャンヌが前に居て壁となっているから見えていなかったが、ヴィヴィアンの真後ろの席に座っていたジャンヌは見てしまった。ビチャッ、ビチャッ、と彼が口から吐いた赤黒い血が操縦席を濡らしていた光景を。
「…!!」
思わず顔が真っ青になり言葉を失う。
「シーッ…」
「!」
ジャンヌに気付かれている事を知ったヴィヴィアンはジャンヌに顔を向けると、真っ青な顔で口の周りを赤黒い血で濡らしながら自分の口の前に人差し指を立てた。
"マリーには秘密にして"
という意味の指。


コクッ…

真っ青な顔をしたジャンヌはただ頷く事しかできなかった。
「ゴホッ…。3人共機内の何処かに掴まっていて。最高速度でこのまま一気にこの場から離れる…から!」


グンッ!

その言葉を合図にヴィヴィアンは機体を最高速度で飛行。


ドン!ドン!

「きゃああ!!」
無数の敵機の合間を旋回しつつも攻撃しながら最高速度で飛行していくから機内には彼女らの悲鳴が響く。ヴィヴィアンは手に汗握りながら巧みに操縦し、ヨーロッパの方角へ飛行していった。













































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あきゅろす。
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