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症候群-追放王子ト亡国王女-
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辺りがまだ暗く、隣に居る人物の姿もはっきりと見えない朝。夏らしく既に気温は上がってきている。
ライドル軍本部前には戦車が綺麗に整列し、隣国ルーン帝国を植民地にする為行動を開始した。静かなライドルの朝に響き渡る戦車が走行する音。
3階の自室の窓から、戦場へと向かう戦場を見下ろしているラヴェンナは溜め息を吐いていた。



































先頭をきるのは、勿論将軍。その後ろには大将に降格したゴアと、それに続く軍人達が乗った戦車。
ヴィヴィアンは空いている隣の席にこの辺りの地図を広げて、それをチラチラ横目で見ながら戦車を走らせる。
ルネに居た頃も先頭をきって戦場へ出た事はあったが、今回は今までとは違う。全く違う。一つの軍の将軍として戦いに出られるのだ。嬉しさで笑みが絶えない。国へ戦争を仕掛けに行くというのに、全く感じられない緊張感。余裕の表情だ。
そんなヴィヴィアンの後ろから、眉間に皺を寄せてイラ立ちながらも進んで行くのはゴア。今の彼の心情が行動に表れているのか、どことなく操縦が荒く感じられる。突然速度を上げてみたり落としてみたりなので、後ろから続いてくる軍人達は操縦に困ってしまう。



























軍人達だってゴア同様、突然現れた人間しかもライドル王国を壊滅させたルネの人間が自軍のトップに立つなんて普通考えられないし、許せる事ではない。
しかし、絶対王政の国ライドル王国の国王には自分達たかが軍人が逆らえるはずもない。ルネの人間をライドル軍のトップに立たせた事は、国王に何らかの策があるから。そうであるように軍人達は願っている。


ドン!ドン!

何発もの爆発音がして、辺りの砂漠の砂が舞って前方が見えなくなる。
「何だこれは!まさかルーンの奴等か」
突然の事に驚いて目を丸めているゴアと軍人達。そんな時、彼等の無線が繋がる。
「動揺しているの?こんな奴等一発で殺せる。情なんて捨てて何も躊躇わず、敵を撃ちルーン帝国に向かって進めば良いだけだよ」
ヴィヴィアンの声に、ゴアの顔は怒りで更に皺が増えた。
「チッ!」
舌打ちをして嫌々ながらも指令に従い、敵ルーン軍の戦車を探す。
ヴィヴィアンは左右を見た後不気味に笑んだ。同時に、砂埃で見えなかった前方からこちらへ向かって来る紺色をしたちっぽけな戦車が目に入った。動揺一つせずにまた笑むヴィヴィアン。
自分の近くに居る軍人達に早口で戦法を伝えると、返事も待たずに一方的に通信を切った。


ブツッ!

3発の爆発音と同時に再びヴィヴィアンの前方が砂埃で見えなくなってしまう。無線を手に取り、先程繋げた軍人達に再び繋げる。
「よくやってくれたよ。後は…君達の周りに敵らしきものは居るかな?」
「いえ、先程大将率いる3機で敵の戦車2機を破壊してから辺りは静まっております」
「今君達がやったものと合わせて3…。敵はたった3機で来たという事か。何て非力な。ではこのまま直行しよう」
「はっ!」
3機でしか迎えてこなかったルーン軍を嘲笑いながら、この砂漠の向こうにだんだんと見えてきた背の高いルーン帝国の城を目指す。
暗かった辺りも気が付いたら太陽が強い光を放っていた。砂漠という事もあって、車内の温度は上昇する一方。額から流れ出てくる汗を乱暴に拭い、地図を手にする。
形がはっきり分かる程ルーン帝国の城が見えてきた。という事は、ルーン帝国占領も後少し。
「ライドル王国の為じゃない。僕が僕である為に、ルーン帝国という国名を奪ってやる」
戦車の扉を右拳で力強く叩き、微笑んだ。


































ルーン帝国―――

一方ルーン帝国では、ライドル王国が攻めてきた事をルイス皇帝自ら国民に公表したばかりだった。突然の事に国民からの反発の声は厳しくもあり、正しい。
「何故こんな間際に発表をする!!」
「もう逃げ道が無いじゃないの…」
「皇帝は死にたいのか!」
国民の前で演説する皇帝に向けて投げられたのは罵声だけでなく、大きな石や空き缶などの物。軍人達が反発する国民を取り押さえ、地面に体を押しつけて確保したりと人々は荒れていた。
「ルイス様…」
皇帝を囲むように立っていたルーン帝国の大将、中将、少将らは無理にでも皇帝を城内へ帰す。しかし皇帝はそれを拒み、軍人達の手を振り払い、前へ出て行く。それを再び後ろから引き止める軍人達。これの繰り返しだ。
皇帝の前に立ち塞がったのは、体格の良い大きな男の大将。皇帝は大将を睨み付ける。
「退け!皇帝の命令だ。私のせいでこのような事態になってしまったのだから、国民から何をされても仕方のない事。死ぬまで国民からの罵声を浴びさせろ!」
「いいえ。ルイス様の御命令とあっても、私は断固拒否致します。ルイス様に物を投げて反発する国民などルーン帝国の国民ではありません!」
「皇帝の命令を聞け無いお前も同様だろう!」
力強くて大きな声に、大将の言葉が詰まった。
その隙を見て皇帝は大将を押し退け、再び国民の前に現れた。国民からの罵声は増す一方。
「本当に申し訳ない。国民の皆様に不安を与えない為にこの事は内密にしておいた。つい最近再建したような国相手だから、私達で何とかなると思っていたのだ。しかし、先に砂漠で出向いた優秀な軍人達との連絡が途絶えてしまった事は想定外であり、」
「何が想定外だ!ふざけるな!」
「そうよ!日頃の軍の訓練が甘かったんじゃないの!」
「もう終わりだ…」
鬼のように恐ろしい顔をして怒鳴る者、頭を抱え顔を真っ青にしてその場に倒れこんでしまう者など様々で、国民の情緒は不安定そのもの。
「本当申し訳、」
「ルイス様!1番街が敵の攻撃を受けた模様です」
駆け付けてきた軍人の大きな声に皇帝をはじめ、国民達も目を丸めて恐怖に体を大きく震わせた。今まで怒鳴っていた国民達は人が変わった様に黙り込んでしまい、絶望に溢れた顔をしていた。空はそんな気も知らずに綺麗な色をしていて、雲は汚れない白でゆっくりと風に流されている。








































ルーン帝国1番街―――

「きゃああ!!」
悲鳴、爆発音、物が燃える音が絶えない1番街。
此処は城に極めて近い街の為、今皇帝達がいる城からも1番街を包む炎が燃え上がっているのが見えている。
「ははは無残な姿だなルーン帝国の野郎共!なあクラウン?」
「本当ですね、爽快です」
「久しぶりだなぁ。俺等の敵がくたばっていく姿を見るのは!」
語尾に力を込め、目の前に居たルーン帝国の国民誰構わず殺めていくゴア。生々しい返り血を軍服で拭い、不気味に笑む。
周辺は建物が燃え、抵抗してきたルーン軍の戦車や軍人は道端に無残な姿で倒れている。
「おい!」
「はい」
後ろに居る軍人を乱暴に呼び、辺りを見回すゴア。荒れ果てた光景が広がる。ゴアは辺りを見回し続ける。何かを探しているかの様に。
眉間に皺を寄せて恐ろしい顔をして軍人の方を向く。そんなゴアの人相に軍人は怯えて一瞬体を大きく震わせた。
「おい!何処行った」
「は!誰がでしょうか」
「俺の階級を下げやがったあのくそガキだよ!!」











































ルーン城前―――

国民達は軍人の指示に従い隣国へ逃げる為の荷造りを始めていた。
そんな時間など無いのに、叶わないと分かりつつも自分の運に賭けて生きたいと願い続けている。けれど現実は残酷で、ライドル王国の支配下にされるのを待つという事かそが、今ルーン帝国の国民がすべき事。
城内へ戻った皇帝は椅子に腰掛けて、19才の第一皇子を前に優しく微笑んだ。
「もう白旗を掲げようではないか。これ以上抵抗したところで死傷者が増えるだけ。ルーン帝国は植民地どころか、ルーン帝国の血が途絶えてしまう」
「降伏するというのですか御父上!確かに抵抗をすればするだけ死傷者が増えるのは間違いのない事です。しかしよくお考え下さい。我々は敵を迎える側。戦場は我々が知り尽くした地。戦略次第ではこちらが有利ではありませんか?」
「良いのだよ、もう結果は見えている。確かに戦場は我々のホームだ。しかし、いつの間にかライドル王国は力を付けていた様だ。もはやこちらの軍では手に負えない。先程も何10人もの軍人との連絡が途絶えた」
「御父上!!」
第一皇子は両拳を強く握り締め歯をギリ、と鳴らすと皇帝を一睨みして大きな足音をたて、乱暴に扉を開けて部屋から出て行ってしまった。


バタン!

妃は、肘掛けに乗っている皇帝の皺だらけの大きな手にそっ…と触れる。皇帝が微笑んで妃に目を向けると優しく微笑み返してくれた。
「ルイス様。皇子2人を此処に連れて来てもらいましょう」
「うむ、そうだな。ルーン帝国でいられる最期の時くらい家族全員で共に居たいものだ」
「はい」
遠かった爆発音が近付いてくるに連れて城は微動する。
































カツン!カツン!

第一皇子の靴の音が、広廊下に響き渡る。下を向いて怒った顔でマントを靡かせながら、足早に乱暴に1人で歩いている。
「御父上は弱い!最後まで抵抗していけば結果なんて変わるはずだ!勝てるかもしれないのに何故自ら負けを選ぶのだ!」
「皇帝の判断の方が余程立派ですよ」
「誰だ!?」
何者かの高い声に第一皇子の足は止まり、辺りを見回して大声で何度も"誰だ!"と叫ぶ。
見回しても、壁に飾ってある歴代の皇帝が描かれた大きな肖像画がこちらを見ているだけで、誰の姿も無い。聞こえてくる音といえば、外からの爆発音や国民の悲鳴。
戦の真っ只中だというのに静まり返っている城内は、ライドル王国に植民地とされるのを静かに待っている事の表れ。
「何者だ!?聞き覚えのない声だな敵兵か!」
警戒して周囲の変化を見落とさぬよう辺りを見回しながら、懐に隠しておいた一丁の拳銃を静かに取り出す。
そんな皇子の様子を太い柱の影から見ているのは、ライドル王国の赤い軍服を着た軍人。不気味に笑む。
軍人の元には、口を押さえられたまだ10才のルーン帝国の第二皇子の姿。人質だ。
まだ幼い第二皇子は目に涙を浮かべて苦しそうに藻掻き、口を押さえている軍人の手を払おうとするが、体格差が邪魔をするから無理だ。
「何処に居る!隠れるなど卑怯な手を使わず出てこい!ライドル王国は卑怯が嫌いな国だと聞いているぞ!」
近付いてくる第一皇子の声。捕らえられている第二皇子の目からは堪え切れなくなった涙が溢れて流れ続ける。同時に、第二皇子は軍人の腹部を蹴る。


ドッ!

「っ…!」
上手く軍人から逃れる事に成功した第二皇子は、彼にとって兄にあたる第一皇子へ駆け寄った。
「兄上!」
「お前!?何故此処に、」
「ふざけたガキだ!」


パァン!パァン!

2発の銃声は静かな廊下には響き渡ったが、外からの激しい爆発音のせいで、城にある各部屋には届かなかった。





























第一皇子の目の前で、弟第二皇子は射殺された。
綺麗な廊下は彼の血痕で汚れる。昨日までの第二皇子の笑顔が、第一皇子の中で思い出される。
目の前で突然起きた悲劇に、第一皇子は目を開いて体を大きく震わせた。目をつり上げ顔を上げてみると。目の前には、第二皇子を射殺したルーン帝国の敵ライドル王国の軍人が居た。見覚えのある顔。
「ヴィヴィアン…!?」


パァン!

第一皇子が真っ青な顔をして軍人の名を口にした瞬間、その名を持つ軍人に射殺された。綺麗な廊下は2人の皇子の血痕で真っ赤に汚れた。
第一皇子は年齢が近い事もあってか、以前彼がルネ王国に訪れた時ヴィヴィアンと親しくなっていた。会話も弾んでいたし、2人共とても楽しそうにしていた。
けれどそれから2年経った今。こんな出会い。こんな事になってしまうのだから、戦争と人間は恐ろしい。
右手に持った拳銃をくるっ、と一回転させてみせるとヴィヴィアンは皇帝達の居る部屋の方に顔を向けて、微笑した。


































「今、何か聞こえなかったか?」
「どのような音ですか。爆発音ですか、銃声ですか」
「いや、気のせいか…」
「外からの爆発音ですよきっと」
皇帝と妃は部屋で手を重ね、ゆったりとした口調で会話する。
その時。


パァン!

銃声がしたと同時に部屋の窓ガラスが割られ、付近に居た軍人達は頭から血を流して前へ倒れた。
他の軍人達は一斉に窓の方を向き、拳銃やライフル銃を構える。部屋の扉に背を向けたのが間違いだった。


パァン!

軍人達の背後から聞こえてきた銃声。咄嗟に後ろを振り向いた時には、皇帝と妃は血を流して椅子の上に倒れていた。2人手を重ねたままこの世を去っていった。
ルーン軍人達の顔は青ざめる。部屋の入口には、ヴィヴィアンをはじめとする数10人のライドル王国軍人がライフル銃を構えて立っていたのだから。
「くっそおおお!!」
ルーン軍将軍の男は狂気に満ちた顔をし、叫んで敵に向かって行く。それに続く部下達。
そんな光景を目の当たりにしてもヴィヴィアンは余裕の笑みを浮かべ、銃口を敵に向ける。同時にライドル王国の軍人達もヴィヴィアンと同じ体勢をとる。
「うおおお!!」
「非力なルーン帝国よ、せめて最期くらいは美しくあれ。…撃て」


パァン!パァン!

外から聞こえてくる爆発音と悲鳴の他に、何10発もの銃声と悲鳴が聞こえた。








































先日通ってきたばかりの砂漠を、こんなにも早くまた通ってこれるとは思ってもいなかった。あっさりとルーン帝国を植民地にしたのだ。
夜の暗い砂漠を、ヴィヴィアンを先頭にライドル王国へ帰国するライドル王国軍人達。国で待機していた軍人へ勝利を伝え、その軍人がこの事を国王に伝えた。
「モタモタ考えずすぐに軍を引き上げていれば皇族の血も絶えなかっただろうに」
操縦をしながらヴィヴィアンはフロントガラス越しから、夜空に美しく輝く白い月を見上げる。


ガー、ガー

無線機からノイズがして、通信が繋がる。相手はゴアだ。
「何?」
「少しここらで仮眠をとりませんか?睡魔が襲ってきて操縦が困難な者がほとんどの様です。どうせ任務は遂行しましたし」
ヴィヴィアンは口元に手を充てて黙り、白い月を見上げた後、ゴアの提案に了解した。
「ありがとうございます将軍」
違和感あるゴアの声を聞き逃さなかった。
































軍人達は自分の戦車の中で眠りに就く。しかしゴアは眠りには就かず、最も信頼できる部下を連れて音一つたてぬようライフル銃を肩に担ぎ、外に出る。
3人は顔を見合わせて頷き合う。顔を上げて視線を向けた先にはヴィヴィアンが乗っている戦車。
ゴア達3人は、ヴィヴィアンが眠っている間に、ゴアや軍を散々見下した彼を今此処この時に殺してしまおうと考えていた。
ヴィヴィアンはルーン帝国との戦争で戦死したという事にしようと考えた。現にこの戦争で戦死した仲間だっているし、それに戦争に死は付き物だからアリバイには都合が良い。
悪魔の様な笑みを浮かべて戦車を取り囲み、銃口を戦車に向ける。ゴアが静かに右腕を上げたのを合図に3人で勢い良く車内へ突入すると…。
「あ…居ない?」
車内は裳抜けの殻。ヴィヴィアンの姿は愚か、気配すらしないので、3人は目を点にして顔を見合わせる。


ジャリ、

その時。誰かが砂の上を歩く足音がして音がした方を咄嗟に振り向くと、其処にはいつの間にかヴィヴィアンが腕を組んで立っていた。こちらを見上げている彼の笑みもまた、悪魔のよう。

























ガシャン…!

ゴアは思わずライフル銃を落としてしまい、情けなくも恐怖に唖然として体を震わせた。
足元に転がってきたゴアのライフル銃を手に取り見た後すぐに放り投げて3人を見るのは、ヴィヴィアン。
「馬鹿だな、気付いているんだよこんな幼稚な計画。仮眠の提案を受けた時からね。早く殺したくてウズウズしている、そんな口調で話されたら誰だって気付くから。ね?」
勝ち誇った笑みを3人に向けるとゴアを乱暴に退かせて戦車に乗り込み、ゴーグルを装着すると全軍人の無線機に通信を繋げた。
「全軍に告げる。直ちに起床し、車を走らせて帰国する。仮眠など甘い考えをしていてはライドル王国の未来は無い」
軍人達は皆、目を開き慌てて咄嗟に運転席について先を行くヴィヴィアンの後を大急ぎでついて行った。ゴアは舌打ちし、自分の車を強く叩く。


ドンッ!

その際、叩いた部分が大きく凹んでしまった。


























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