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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「近頃我国を敵視する低能な国々が増えてきました。我国への世論は地に落ちてしまっている。ですから表向きは中国と我国は友好関係を築いたとする。そうしておけば我国を侵略国家と呼ぶ国々も見直すでしょう。しかし蓋を開ければ、彼ら中国は私達ルネの支配下。私達が他国と同等に扱われるなど吐き気がします。ふふ、簡単でしたよ。首席を亡き者とし、会議室を襲撃し、宦官達を脅したら顔を真っ青にしてすんなりと我々の言いなりです。そして、宦官からお聞きしたのですが…李 劉邦と呂雉と張 偉という人間は幼少期から特殊な訓練及び投薬を受け身体能力は常人の倍以上の人間兵器というのは本当ですか?」
「…それがどうした…」
「反論しないという事は事実…という事で宜しいですね?では、我々の研究の為に来てもらいますよ」
ブーランジェ機の右腕が劉邦機を掴もうと近付くが…


ドン!ドン!!

砲撃でその右腕を焼き落とす劉邦。それでもブーランジェは楽しそうに微笑む。
「ふふふ。そうですね大人しく捕まっては面白味がありません。死なない程度にいたぶってあげましょう。何せ貴方がたは我々ルネが次世代兵器を作る為の研究材料ですからね」
ギラリ光るサーベルを繰り出したブーランジェが立ち向かってくるから、劉邦もエリザベス女王と交戦した時と同じ目にも止まらぬ速さで小雨の中飛行しつつ銃で応戦する。
「ふふ。先日は肉弾戦でしたが、やはり戦闘機の方が遣り甲斐がありますね。どうです?私の愛機ルーブルの性能は?」
「…ゴホッ!」
「ん?」
「…っぐ…あ"っ…!!」
「おや?」
突然ガクン!と俯いた劉邦。様子がおかしい。コックピット内の様子はブーランジェ機内モニターにでかでか映し出されている。それに伴い、劉邦機のあの異常に速い動きもピタリと止まってしまうからつまらそうなブーランジェは何と自らサーベルを下ろしてしまう。
「どうかしたのですか?随分体調が悪そうに見えますが。まさか、その異常な機体速度に身体がついていけていないとか?はっはっは。返事くらいしてはどうです?」
「っぐあ"っ…あ"あ"…」
「…!?」
モニターに映る劉邦の頭部の開いた傷口から真っ赤な血がドクドク流れ出して口からも血を吐く為、ヘルメットの中は一瞬にして血の海と化する。腕など身体の傷口からも血が染みて白い軍服がみるみる赤に染まってゆく。その不気味な光景にブーランジェでさえも嫌そうに顔を引きつらせ、首を横に振りながら劉邦機から離れていく。





















「な…何ですか貴方…!傷の手当てくらいしておいて下さいよ…。嗚呼…何て気味の悪い光景だ。私は美しいモノしか見たくないというのに!嗚呼見なければ良かった。さっさと本国へ連れて行ってしまおう…」


ブツッ!

こちらから通信を切ってしまえば彼の不気味な映像も消えるからホッ…と息を吐く。さてと…と呟き、機体左腕で劉邦機の左腕を掴む。


ガシャン!

「ん?」
掴んだブーランジェ機の左腕が綺麗にすっぱりと斬れて地上へ落下してしまう。ブーランジェは笑顔のまま首を傾げて、突然起きたこの状況を判断しようとするが…


ドドドド!!

「っ!?新手ですか!」
上空から連続で砲撃を食らうが何とか回避する。新手の敵をモニターで探す間にも…


ガッ!!

「嗚呼…!私のルーブルの頭が…!」
上空から現れた1機の敵に機体頭部を凪ぎ払われてしまった。頭部はレーダーが組み込まれている為レーダーはもう使い物にならなくなってしまった。ブーランジェは新手と向き合う。新手の敵機は赤色で機体胴体部にアメリカ国旗を描いた1機の戦闘機。敵の持つ2本のサーベルが赤く熱を帯びているが、それもデザインか何かだろうと全く気にしないブーランジェ。
「おや。二刀流ですか。これは珍しい。いや、それよりもこんな所にアメリカ軍がしかも1機で来るなんて珍しい。もしや国際連盟軍同士、中国の援護でしょうか?それなら残念。中国はつい先程我々ルネと同盟を…っな…熱い!?な、何ですか機内のこの異常な温度は…!?っぐ…!」
適に喋る隙すら与えずラベラ喋っていたブーランジェが突然目玉が飛び出そうな程目を見開き、自分の首を両手で押さえる。ダラダラ流れ出す汗。まるで熱帯砂漠に居るかの如く、突然温度が高くなった機内。


ビー!ビー!

機内に鳴り響くのは機体ダメージが大きい事を知らせる嫌なサイレン。モニターにはブーランジェ機の頭部があった場所から機体の下部へ下部へとじわじわ熱が広がり、機体が徐々に徐々に溶け出している事を示している。
「な、何ですかこれは?!もしや機体の整備不良?!そんな!整備はいつも万全のはず…!」
「触れられたら後は熱されて死ぬだけっつーサーベルの能力だよ!!」


ドッ!!

「ぐああああ!!」
機体両脚を凪ぎ払われたブーランジェ機は成す術も無く地上へと落下していった。

























一方、1機でやって来たアメリカ軍戦闘機は最後まで彼を仕留めず、劉邦の機体へ駆け寄ると映像通信を繋げる。アメリカ軍戦闘機を操縦してきたパイロットはバッシュ。
「兄さん!無事で、…!」
モニター越しに見えた劉邦のコックピット内部。彼は気絶して応答は無いしヘルメットの中は血の海。真っ赤。コックピットのあちこちに彼の真っ赤な血がべっとり付着していた。彼の真っ白な軍服が今もまだじわりじわり赤に染まっていくからバッシュは唇を噛み締めると通信を切り、劉邦機を鷲掴み。
「ディスクなんて後だ。兄さんあの時の傷がまだ完治していないのに…っあ"!?」


ドンッ!ドン!

「アメリカ軍戦闘機が何故此処に!?」
「しかも1機だけ?まあ調度良い!その中国機を渡してもらおう!」
劉邦を早く安全な場所へ連れて行きたい時に限って。本国からの増援部隊だろうかルネ軍3機がバッシュ機を攻撃してくる。
「兄さんの機体を狙ってる!?よく分かんねぇけど、お前らの相手してる暇はねぇんだよ!」
その時。遠くの空へと去って行く日本国旗の描かれた戦闘機とそれに続くルネ軍戦闘機10数機がバッシュの目に留まる。
「…!」
「貴様待て!」
バッシュはルネ軍3機の間をぐん、と高速度で駆け抜けると逃げるようにこの戦場から離脱していった。


ザァーッ…

雨は勢いを増す。
「て、撤退しますよ…!」
「ご無事ですか大将!あ、いや…ブーランジェ中将…!」
自分のせいで位が下がったブーランジェの階級を言い直して駆け寄るのはメッテルニヒ機。先程の交戦で命を取り留めたブーランジェが部下に撤退の司令を下せばルネ軍は本国へと戻っていく。辺りには、ルネ軍の本国からの増援部隊に壊滅させられた中国軍の機体が墜落している。一方、燃え盛る東京駐屯地の炎もこの雨によって勢いを失っていく。戦闘の煙が晴れていくと其処には真っ暗な空が広がっていた。

































































新潟県――――――


ザァーッ…

星一つ見えぬ真っ暗な夜空から降ってくるのは刺さるような土砂降りの雨。遠くからはゴロゴロと雷が鳴りピカッ!と白い光が山の向こうで光って少し経ってからドンッ!と窓が振動する程の大きな音が鳴る。
宿内で夕食中のジャンヌ達は箸を止める。ジャンヌが障子戸を上に上げて窓の外を覗けば、外は真っ暗だし雨音と降り方が尋常ではない。会話も大きな声を出さなければいけない程。窓の外を白米を食しながら見つめるマリー。
「酷い雨ですわ…」


ドンッ!!

「きゃあ!」
大きな音と地震かと思う程の揺れ。雷が近くに落ちたのだろう。皆が目を閉じ身を震わせて驚く。少ししてから目を開くと…
「きゃ…!真っ暗…!さっきの雷で灯りが消えてしまったの?小町、蝋燭を」
「は、はい!」
室内の灯りは消えてしまった。停電だ。小町が蝋燭に火を点せばぼやけたオレンジ色の炎が暗闇を照らす。


ザァーッ…


ゴロゴロ…

遠くからは横殴りの雨音。近い雷音。これらや暗く怖い不安なこの刻は、上空を敵軍が旋回している事に怯える時と酷く似ている。アンネはジャンヌに抱き付いて顔を埋めて怖がるから頭を撫でてあげる。そんなジャンヌも酷く怖がっていたが。
「大丈夫よ。雷や雨はすぐ止む。戦争と違って」
「お姉ちゃん、怖いよ…」


ガラガラ…

「ひぃっ?!」
その時。雷とも雨とも違う音がすぐ近くから聞こえて、彼女達全員はビクッ!と身震いする。
「こ、小町!今の音は玄関の引き戸を開けた音に似ていたわ!」
「あ…!そ、そうですねそう言われてみれば確かに!わ、私見てきます!」
「あ!待ちなさい!貴女1人じゃ危ないでしょう!」
ガラッ、と部屋の戸を開けて停電で真っ暗な廊下へ出て行く小町を追い掛ける梅。
「梅様はお部屋でお待ち下さい!」
「貴女1人じゃ心配だわ」
「それはこちらの台詞です!梅様の身に何かあったら…!」
小町と梅のやり取りと2人の足音が遠ざかっていく。






















一方のジャンヌはハッ!とすると、両耳を両手で塞ぐマリーの肩にそっ…と触れる。
「ねぇ」
「ひぃっ?!…あっ、ジャンヌさん…!も、申し訳ありませんびっくりしてしまいました…」
「良いわよ。気にしてないから。ねぇ、もしかしてあいつらが帰って来たんじゃない?」
「え…」
マリーは顔を上げる。
「この雨じゃ火薬も使い物にならないから一時撤退してきたんじゃないかって事!ほら、ヴィヴィアンに会いに行こう?ね?」
ジャンヌは立ち上がりマリーの腕をぐいぐい引っ張るが、彼女は首を何度も横に振って断固として動こうとしない。
「い、いえ!わたくしはまだ…まだ…ヴィヴィ様の事を許せたわけではありませんから…」
「そう?じゃあ私も一緒に此処で待ってるわ」
「うぅ…お気を遣わせてしまい申し訳ありません…」
「あはは。平気よ!私も腕引っ張っちゃってごめんね」
「い、いえ…!」
ジャンヌとマリーそしてアンネは梅達が戻ってくるのを待ちながらもう一度外へ目を向ける。
「雨、止まないわね」
「はい…」
「うあああああ!!」

「な、何!?」
雨音と雷音にも勝る程の叫び声が玄関の方から聞こえてきて、今もまだそれは続いている。バタバタと廊下を駆けてくる4人分の足音が聞こえてくるから、ジャンヌはマリーとアンネに其処に居るよう言うと立ち上がり、部屋の戸をほんの少し開けて廊下を覗くと…
「うあああああ!」
「そうちゃん待ちなさい!」
其処には俯きながら頭を抱えて発狂して廊下を駆ける総治朗が居た。あの叫び声は彼のものだったのだ。すぐに追い掛けてきた河西によって両腕を後ろで強く掴まれるが、それでも尚声を上げて暴れている。いつも大人しい彼らしかぬまるで別人の彼にジャンヌは勿論、梅と小町も呆然。
「放して下さい!!僕はルネに行くんだ!!亜実を助けに行かなきゃいけないんだ!!僕は!!」
「落ち着きなさいそうちゃん!一体何があったの!」
「そ、総治朗…さん…?」
目を見開き呆然の梅が力無く彼に歩み寄るが河西によって待ったをかけられてしまい、小町が彼女の肩を優しく支える。
「放して下さいって言ってるだろ!!僕は、俺は!!ルネへ行かなきゃいけないんだよ!!」


パァン!

「っ、…あ…」
強く頬を叩く音がした。それを目の前で見た梅は口を両手で覆う。河西が総治朗の頬を叩けば彼はガクン…、と崩れ落ちて目を瞑り、ようやく大人しくなる。河西はそんな彼の事を軽々担いで奥の部屋へと歩いて行く。
「小町ちゃん。そうちゃんの怪我の治療をするから手伝ってちょうだい」
「あっ…は、はい!」
「ありがと」
「ま、待って下さいな河西さん!総治朗さんは一体どうされたのです!大丈夫なのですか!」
梅の悲痛な声に河西は足を止めると顔だけを彼女に向けた。
「大丈夫。パニック状態になっていたから今は気を失っただけよ。怪我もすぐ治療してしまえば大丈夫な程度ね」
「で…でも!総治朗さんいつもと全く違ったわ!別人の様…!一体何が…」
「…ごめんなさい。あたしも何も分からないの。さっき此処へ連れて来る途中急に目を覚ましてからこんな状態で…。梅ちゃんは心配しないで。部屋で暖かくして待っていてちょうだい」
それは優しい言葉なのに遠回しに"来るな"と言われたのだろう。小町は梅の方を心配そうにチラチラ見ながらも、河西と共に奥の部屋へと入って行く。


パタン…

襖が閉じて梅は廊下で1人取り残される。俯き、両手で左胸をおさえていた。そんな彼女の事を戸の隙間から見ていたジャンヌが声を掛けようとするが…
「只今戻りました」
「…!慶司さん!?」
玄関の方から慶司の声が聞こえると梅は顔を上げて走って行く。彼女の目には薄ら涙が見えたが笑みが戻っていたので、ジャンヌはパタン、と戸を閉めるのだった。

























「慶司さん!おかえりなさい!」
梅が駆けて行けば、真っ暗な玄関には慶司とヴィヴィアンの姿があった。ヴィヴィアンは梅とは目を合わせずにブーツを右足から脱ぐ。一方の慶司は、暗闇の中でも光った梅の涙に目を丸めてしまう。
「梅姉様どうかしましたか?」
「え?」
「慶司君」
「?」
慶司の右肩にヴィヴィアンが左手をポン、と置く。彼が慶司に目で合図を送る。"泣いている女性に理由を聞くのは避けた方が良いよ"という合図の意味なのだが、当の慶司は全く理解不能のようで難しそうに顔を歪めていた。
「申し訳ありません梅姉様。ルネ軍駐屯地は中国軍により先に全滅させられましたが、まだ中国軍をこの地から追い出せないまま…」
「良いのですよ、慶司さんがこうして無事帰ってきてくれただけで私は咲唖さんに喜んで報告ができます」
「梅姉様…」
「さぁ、さぁ。暗いので足元に気を付けて下さいな。さっきの雷で停電してしまって」
「さっき近くに落ちましたからね」
「恐らくもう次期復旧すると思いますけれど」
「そうですね。待ちましょう」
慶司の上着を梅が預り、慶司がヴィヴィアンより先に中へ入る。
「あの…慶司さん。総治朗さんと河西さんが先程帰還なさったのですけれど…」
「本当ですか!良かった!2人と連絡がとれなくて心配していたので嬉しいです!」
慶司が笑顔になるのと反対に梅は視線を落としてしまうから、彼は首を傾げる。
「梅姉様?」
「…総治朗さんが帰還してすぐ大声を出して…自分はルネへ行かなければいけないんだ、と暴れていらしたのですよ…」
「え…新田見君が?」
梅は慶司の方を向く。
「慶司さん何か心当たりはありません?あんな総治朗さんを初めて見たのでとても驚いてしまって…恐いです」

『そいつの親父は第三次世界大戦で俺達を前に敵前逃亡!そいつだってその話されただけでショックで戦意喪失!オマケにお前に俺の相手させて、仲間に戦闘空域から離脱してもらおうとしてるとんだお荷物野郎だ!』

その時慶司の脳裏では先程交戦したルネ軍パイロットの言葉が過った。
「もしかしたらあの時に…」
「え?何か心当たりがあるのですね!」
「2人共下がっていて下さい」
「!?」
ヴィヴィアンが2人の会話を遮り、玄関の戸を開けて外へ出て行く。慶司もすぐに駆け出すから、梅は玄関の階段で切ない顔をして待つのだった。





























外――――――

「どうした!」
土砂降りの雨の中。玄関の屋根の下へ慶司が出れば、ヴィヴィアンが指を差す。その先を見た慶司の目が見開かれた。
「アメリカ軍と…中国軍戦闘機…!?」
土砂降りの雨音と近くで鳴る雷音に掻き消されるエンジン音。宿の前に赤のアメリカ軍戦闘機と朱色の中国軍戦闘機が着陸していたのだ。慶司は腰に付けた刀を鞘の上から握り締める。
すると暗闇の中2機の脚部の間から1人の人間がこちらへ向かって歩いてくる。それは、雨に打たれながら劉邦をおぶっているバッシュの姿。まだ此処からでは2人の姿をはっきり捉えられないが慶司はヴィヴィアンの一歩前へ出ると、すかさず刀を引き抜いた。
「何者だお前達!!」
ようやく姿がはっきり捉えられる距離まで来た2人。おぶられている劉邦は意識を失い血塗れ。そんな彼の姿を目の当たりにした慶司は目を見開く。一方のヴィヴィアンは相変わらず平然としていたが。
「あいつは…!日本を奪いに来た中国人…!!」
「慶司君、会った事があるの?」
「会ったも何もあいつが日本を…!!」


ガシャン!

「!?」
するとすぐ其処までやって来たバッシュが自分と劉邦の拳銃計3丁と、2人分の剣計2本を地面の上へ捨てたのだ。抗戦の意思は無いとの意思表示だろう。たった今捨てられた武器と俯くバッシュを交互に見て動揺する慶司は刀をスレスレの所まで突き付ける。
「どういうつもりだ!何者だ!名乗れ!これ以上お前達余所者に日本を荒らされてたまるものか!!」
「兄さん…さっきまでしてたのに…息、してなくて…」
「何て言った?聞こえない!もう一度言、…!?」
するとバッシュは劉邦をおぶったまま崩れ落ちるようにその場に座り込むと何と、自分の頭を地面に擦り付けたのだ。
「なっ…!?お前は何を…」
「お願いだ!!兄さんを助けてほしい!酷い怪我なんだ!出血が多過ぎてさっきまで息してたのに今はもうしていないんだよ…!アメリカに帰るまでには距離があり過ぎる!俺はどうでも良い!兄さんだけ頼む!お願いだ…!」
土下座をして声を裏返らせるバッシュ。雨に打たれても今の彼にそんなモノは少しも気にならない。























一方の慶司は動揺してしまうが、刀を突き付けたまま眉間に皺を寄せる。
「ふざけた事を!日本はその中国人のせいでまた侵略されたんだ!誰が敵を助けるものか!このままお前達が朽ち果てても、お前達のエゴのせいで命を落とした多くの日本人はもう戻ってこないんだ!それなのによく助けを求められるな!お前の神経を疑う!!」
「っ…、分かってる!でもこのままじゃ兄さんが!…っ!?」


キィン!

顔を上げた瞬間バッシュは血の気が引いた。何故なら、突き付けた慶司の刀の刃先がバッシュの前髪を少しではあるが斬ったから。銀色の髪が水溜まりの中へハラリ…と落ちる。慶司の瞳は恐ろしい程据わっている。
「分かっていないからそうやって助けを求めてくるんだ。争いの火種ばかりを生み、他国を平然と侵略するお前達は平和の中に居ちゃいけない。生きていちゃいけない人間なんだ」
「っ…ぐ…!何でもする…!だから兄さんを…!」
歯を噛み締めて力無く俯くバッシュ。そんな彼を冷たい瞳で見下ろす慶司の隣からヴィヴィアンが一歩前へ出てバッシュの前に立つから、慶司が眉間に皺を寄せる。
「おい!お前、何を!」
「君達、国際連盟軍だよね?」
「え…」
そう言われてバッシュが顔を上げれば、傘をさしたヴィヴィアンの不気味なくらい優しい笑顔があった。
「へぇーすごいね。何でもしてくれるの?ならさぁ。取り引きしようよ。僕の…いや、僕達のお願いも聞いてくれるならその人を助けてあげても良いよ」
「本当か…!」
「おい!何勝手な事を言っているんだ!」
ガッ!と力強くヴィヴィアンの左肩を横から掴む慶司はとても怒っている。
「慶司君。この人達は国際連盟軍だよ」
「それがどうした!」
笑んだままヴィヴィアンは慶司に耳打ちをする。すると、耳打ちをした内容に慶司は目を見開いて驚いた様子を見せるがすぐ眉間に皺を寄せて震える両手拳を握り締めた。ヴィヴィアンに言いたい事がありそうな顔をする慶司ではあったが、反論はしなかった。





















その一方でヴィヴィアンは屈む。バッシュはヴィヴィアンの言いたい事が分かっていない表情をしてまた顔を上げた。
「君さ、確か国際連盟軍の代表をやってたよね?後ろの人も」
「…っ、やってた…」
「ははっ、やっぱり?前記事で見た事があったんだ。…で。こっちの頼み事なんだけど」
ゴクリ…、バッシュは唾を飲み込み。慶司はヴィヴィアンの後ろで険しい顔付きで見つめる。当のヴィヴィアンは口元を笑ませて口を開く。
「頼み事っていうのはさぁー…」


ドンッ!!

「……!!」
「ね?イイでしょ?」
ヴィヴィアンが明かした頼み事は近くに落ちた雷のせいで周りには聞き取れなかったが、バッシュと慶司にだけはしっかりと聞こえていた。
突き付けられた頼み事にバッシュは顔を上げたまま泳ぐ視線を下へ落として雨に打たれる。身体はガクガク震えている。
「さ、中へ入ろうか」
不敵な笑みを浮かべて慶司の脇を歩いて行くヴィヴィアンが玄関の戸を開ける。先に慶司を入らせて自分は次に玄関へ足を一歩踏み入れる。だがそこで立ち止まると後ろを振り向く。其処には土下座の体勢のまま俯いて雨に打たれるバッシュと、意識の無い劉邦が居るだけ。
「僕のお願い受諾してくれたんでしょ?なら、君達も早く中へ入った方が良いんじゃないかな?風邪ひいちゃうよ」
クスッ、と2人の事を鼻で笑ってから玄関へ入っていく。





















まだ外に居るバッシュ達の事をヴィヴィアンの肩越しから覗く慶司。
「本当に大丈夫なのか」
「言い出したのは僕だからね。しっかり見張っておくよ。裏切る素振りを少しでも見せたら即殺すから安心してね」
「…ここまでくると性悪以前の問題だぞヴィヴィアン」
「ヴィヴィアン…?」
慶司の言葉にバッシュはピクッ…、と体を動かしてゆっくりゆっくり顔を上げる。彼の前髪の隙間から捉えた慶司とヴィヴィアンの姿が雨のせいでぼやける。
「お前があのヴィヴィアン・デオール・ルネなのかよ…」
「そうだよ。まあ本来その名は捨てるべきなんだろうけどね」
肩を竦めて満面の笑みを浮かべるヴィヴィアンを見ていたらバッシュは自嘲してまた下を向く。
「はっ…、何だよ…。あんたを捕まえればルネに誇示できるのに…戦況が変わるかもしれないのに。肝心の奴が目の前に居るに俺は何もできねぇのかよ…はっ…はは…最悪だ…」


ガクン…、

俯いたまま力無くその場に崩れ落ちたバッシュを見てヴィヴィアンは腕を組みながら鼻で笑い、見下す。
「君はこうなる運命(さだめ)だった。ただそれだけの事だよ。今更足掻いたって運命は変えられないよ。それにこれは君が言い出した事だよ」
「…兄さんを助けてくれるなら俺の運命なんて地に落ちたって良い」
「はは、優しいんだ?じゃあさっきの話。頼んだからね」
戸は開けたままヴィヴィアンは宿へ入って行く。


ザァー…

雨は止む事を知らないかの如く降り続け、雷もまだ鳴り続ける。


ピカッ!

辺り一帯が白く光った後また近くで雷の落ちた音がした。それは、投下された爆弾の爆発音に酷く似ていたけれど。


































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