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症候群-追放王子ト亡国王女-
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ルネ軍
東京駐屯地近郊―――

「そうちゃん!けーちゃんは?!」
「無事です!」
「そう!良かっ、」


ドン!ドン!

「河西さん!!」
長引く戦闘の中ルネ軍駐屯地の破壊を優先し、まずはルネ軍の戦意喪失を計画した総治朗達。だがそこで彼らを待ち構えていたのはルネ軍ではなく中国軍。河西の機体から煙が上がりよろめいた所に中国機のサーベルが向かってくる。
「散々こちらの邪魔ばかりしたな。どうせお前達はもう死んだ国だ」


ガッ!

「っ…、旧式の分際で」
振り上げられたサーベルを受け止めたのは総治朗機サーベル。分かり切っていた事だが、実際刃を交えると実感する。やはり新型と旧型とでは差が大きい。総治朗の顔にも焦りが見られる。
「そうちゃん!あたしの事は良いから早く、」
「河西さんは殿下の援護をお願いします!」
「え?!」
「殿下がもう時期此処へ来ます!まだ距離はありますがレーダーが殿下の機体を補則しました!西の方角です!っぐ…!」


ガシャン!

「他人の心配をしている余裕があるとは随分己に自信があるようだな日本!」
回避したがサーベルを擦った総治朗機のフロントガラス右部分が割れる。
「っぐ…!河西さん早く!!」
「わ、分かったわ!そうちゃん必ず帰ってくるのよ!」
その声が届かぬ程の辺りの戦争の音。






















中国機のサーベルに圧されつつ微動だにしない互い。痺れを切らした中国機は溜息を吐き、操縦桿を強く握る。
「はぁ…。旧式でこのサーベルを受け止めきれた事は褒めよう。しかし剣だけでは我々には敵わない。侍の時代は終わったと何度言ったら分かる?」
中国機の背から二つの発射口が現れて総治朗機をロックする。総治朗はオレンジ色の目を見開く。
「今は西洋武器の時代だ。時代に取り残された者達よ…」


ガクン…!

発射口に赤い熱が集まっていった時。突然ガクンと体勢を崩してしまった中国機。何が起きたか分からない総治朗が呆然としていると。


バチ、バチ…

中国機から青い火花が散り出し、そして…


ドンッ!!

「なっ…!爆発した!?」
今まさに総治朗機を仕留めようとしていた中国機が何と突然爆発してしまった。辺りに灰色の煙が立ち込めた時その煙の向こうでキラリと光る一点の光を捉えた総治朗は迷わずサーベルを繰り出した。


キィン!!


「くっ…!ルネ軍か!」
「正〜解!次はてめぇの番だ日本!」
中国機が勝手に爆発したのではなかった。中国機の背後を捉えたルネ機が中国機の背後からコックピットを一突きで刺したのだ。次は自分なのか?そんな弱い考えが総治朗の脳裏を過るが、戦闘に集中する事で忘れようとした時。


ガー、ガガッ、

ルネ機からのオープンチャンネルが繋がり、敵パイロットの映像がモニターに映し出される。
「難儀だよなぁ日本人っつーのはくそ真面目だからペコペコ上に従う。お前もそうなんだろ?確か日本王室の生き残りが居るって聞いているぜ」
「殿下には指一本触れさせない!」
「おいおい。そう熱くなんなって。俺らは此処を中国の奴らから奪い返したいだけだ。アメリカへの中継地点にはもってこいだからなこの島は。だからさぁ、亡国のダメ王子なんて興味ねぇんだわ」
「…!貴様ごときが殿下を侮辱するな!!」


キィン!ガッ!!ガッ!

サーベルを振り上げて間髪空けず次々と攻撃する総治朗機。しかしルネ軍にひょいひょいかわされたりサーベルで受け止められたりで敵の機体に触れる事すらできず。
「おいどーした?殺るどころか触れる事もできねぇのか?」
「っ…!!」
「なぁさっきから思ってたんだけどお前、笹寧周治郎の子供だろ?」
「っ…!?」
「はっ、図星って顔だな。顔コピーしたのかよってくらいそのまんまだもんなァ」
『笹寧 周治朗(ささね しゅうじろう)』とは総治朗の父親の名。両親が離婚して母方の姓にかわった為現在は新田見だが、最初は笹寧が彼の姓だった。



















サーベルから青い火花を散らしながらルネ軍パイロットは話しを続ける。
「お前は真実を聞かされていねぇんだろうなぁ。お前の親父の死は第三次世界大戦で日本を守る為に散った英雄として。おふくろと妹は被爆した…ってところだろ?自国の軍人が敵に恐れをなしたなんてとてもじゃねぇが恥ずかしくて言えねぇから捏造しといた方が良いもんなァ?」
「なっ…?!何を言って…」
パイロットはガタガタの歯を見せてニィッと笑う。
「お前の親父は敵前逃亡したんだよ」
「っ…!?」


ドクン…!

脳裏で蘇るのは自分が尊敬する父が敬礼をする姿。ツゥッ…と冷や汗が頬を伝う。
「お前だけ別の県に疎開していたらしいからおふくろと妹の死に目も会えなかったって事になっているんだろうなその様子じゃあさ」
「何を勝手な事を言っているんだ貴様は!」
「敵前逃亡したお前の親父は俺らに殺されたんじゃねぇ。日本人に殺されたんだよ。頭パーンッて撃たれてな」
「…!!」
「もう一つ教えちゃうと敵前逃亡した夫を殺さないでー!ってすがりついて惨めったらしく泣いたお前のおふくろと一緒に居た妹はルネが日本占領後、俺らの本国へ強制的に送られた。日本軍によってな敵前逃亡した軍人の家族も非国民だからなァ!」
ガタガタ震え出す総治朗の身体。真っ青な全身。
「まあ本当はお前も送られるはずだったんだろうけどお前を探すも何も俺らに占領されて日本はそれどころじゃなかったからな。良かったなぁラッキーボーイだぜお前?」
パイロットは鼻で笑う。
「この前見たぜ。本国の軍事工場で過労死寸前まで働かされているお前の妹」
「亜実…だけ…なのか?」
「亜実…何だそりゃ?嗚呼お前の妹の名前かァ!そうだな。だけ、だったなァ。おふくろは工場で酷使された末とっくに逝っちまったらしいぜ?」
「っ…あ"…そんな…母さんが…父さんが…」


ドドドドド!!

「はっはっは!ルネ軍内じゃあ笑い者で有名だったぜお前の家族!敵前逃亡なんざ今時珍しいってな!まあ俺らルネ軍相手なら無理もねぇかァ!はははは!」
情緒不安定で攻撃されるがままなのに総統治朗はもう操縦桿さえ握っておらず、その震える両手でヘルメットの上から頭を覆う。目はこれ以上ない程見開かれていた。





















「…な、…っ…そん…なっ…」
「お兄ちゃんお兄ちゃんってメソメソしてまともに働かねぇから今頃おっ死んじまってるかもしれねぇけどなお前の妹!」


ドン!ドン!!

煙が上がり炎が上がり機体破損の火花が上がる総治朗の機体。
「同志に何をする!!」
異変に気付いた日本人部隊の2機がルネ軍を銃撃するが、振り向き様に盾で防御される。
「なっ…!弾かれた?!」
「数が多かろうがシビリアンが集まった軍隊なんざ1分と保たねぇんだよ!」


ドドドドド!!

「ぐあああ!!」
「うああああ!!」
「はははは!お前を助けに来てくれた仲間が死んだぞ?攻撃してこいよ!それともアレか?お前も敵前逃亡しますってやつだろ?敵前逃亡した親父の血を引いているんだもんなァ!?」
煙が上がり火花が燻る総治朗の機体をロックしたルネパイロットは白い歯を見せて笑う。
「楽しいぜ、本っ当楽しいぜ上から見下すってのはさァ!!」
大きな砲撃口から発射された1発の弾。総治朗機目掛けてピンポイントで飛んでくる。


ドンッ!!

辺りには爆発により煙がたちこめてやがて晴れる。其処にはもう総治朗機の姿は無かった。
「はっ、跡形も無くおっ死んじまったってところか」


ビー!ビー!

「後方に敵反応?新手、ぐあ!!」


ドッ!!

悠長にしていたらレーダーが示す後方を振り向いた時に頭部を凪ぎ払われたルネ機。パイロットの灰色の瞳に映るのは、煙を上げる総治朗機を掴んでいる旧日本軍戦闘機1機だけ。
「チッ!砲弾を食らう前にてめぇがそいつを助けたってわけか。でも残念だったなァ、助っ人のお前もそんな旧式の機体じゃそいつと同じ末路だ!」


キィン!

片手で総治朗機を。空いている片手で握ったサーベルでルネ機とぶつかる旧日本軍戦闘機。この機体パイロットは慶司だ。






















「新田見君を戦闘空域から離脱させて下さい河西さん!」
「了解よ!」
後方からやって来た河西に戦闘不能の総治朗機を手渡す。
「そう簡単に獲物を逃してたまるかよ!」
慶司機を蹴り飛ばして河西機と総治朗機に迫りくるルネ。


ガッ!!

しかし慶司がルネ軍の前に再び立ちはだかる。
「良い度胸じゃねぇかガキ!そいつは庇う価値のねぇ野郎だぜ?そいつの親父は第三次世界大戦で俺達を前に敵前逃亡!そいつだってその話をされただけでショックで戦意喪失!オマケにお前に俺の相手をさせて仲間に戦闘空域から離脱してもらおうとしてるとんだお荷物野郎だ!これじゃあ敵前逃亡と似たようなモンだよなァ!」
「それがどうした!」
「…何?」
「僕達王室が新田見君や新田見君の父上や日本人を巻き込んだんだ!敵前逃亡させるような辛い思いをさせたんだ!」
パイロットは機嫌悪そうにギリッ、と歯を鳴らす。
「ほう…お前はさっきのガキみてぇに口でどうこう言われてビビる奴じゃねぇようだなァ…。ベラベラベラベラ綺麗事ばっかり並べて胸くそ悪りぃんだよ!!」


ガコン!

砲撃口が一度に三つ繰り出されて慶司機に向く。しかし彼はビクともせず大きく口を開いて呼んだ。
「ヴィヴィアン!!」
「何っ…?!仲間か!?」
慶司が叫ぶように呼んだ声。ルネパイロットは咄嗟に後ろを振り向くが、遠くでルネ軍が中国軍と日本軍と交戦しているだけ。誰も居ないじゃないか。舌打ちをしてもう一度前を向き直す。
「はったり噛ましてんじゃねぇぞくそガキ!!」
「上、見落としてますよ」
「何っ…!?」


ドンッ!!

少年の甲高い声が通信越しに聞こえてルネ機が機体ごと上を向いたその瞬間、鋭く尖ったサーベルが頭上からルネ機の脳天を一突き。わざとレーダーが補則できない遥か上空で待機していたヴィヴィアンだ。
「武器や速度は改良しているみたいだけど、レーダーの観測範囲は僕が居た頃のままか」
ルネ機の残骸が火の粉をつけて散る。慶司とヴィヴィアンの機体を前に、ルネ軍はゴクリ…と唾を飲み込む。
「そんな…少佐が…たった2機に…やられた…?ひぃっ!」


ドン!ドン!ドン!

慶司とヴィヴィアンは二手に分かれヴィヴィアンが右を。慶司が左を。次々とルネ機を凪ぎ払っていく2人の機体。辺りで爆発して散っていくルネ軍。
「この周辺のルネ勢力は駐屯地内のみだよ」
「あいつらが東京から外へ出てしまう前に其処を叩けばルネの戦意を喪失することができるという事か」
「でも以前一度東京駐屯地は中国軍によって半壊されているよ。まずは其処に居る人達を片付ける方が先かな?」


スッ…、

ヴィヴィアンが指差した先には多くの中国軍が待ち構えていた。
「慶司君」
「分かっている。お前が昨夜言っていた作戦通りで良いんだろう?」
「できれば、ね」
「馬鹿にするな!できる!」
2人は先頭に立つと日本人部隊を率いて中国軍と刃を交えるのだった。





























ルネ軍東京駐屯地―――


ウー!ウー!

サイレンが鳴り響く駐屯地内。滑走路から次々と飛び立つ戦闘機。オペレーター達も動揺を隠しきれない。
「E小隊、G小隊発進して下さい!」
「くそ!少佐の部隊が全滅だと!?」
「駐屯地を襲撃されるのも時間の問題のようだな…。つい先日朱い中国軍たった1機に襲撃されたばかりだというのに!」







































同時刻、
中国―――――――

「そうですか。4部隊中3部隊ほぼ壊滅ですか」
暗い会議室内で他の宦官達の前にあるソファーに1人で座り張らの戦況を伺う宦官。
「どうする宦官!劉邦と呂雉とはまだ合流できねぇ!それより、敵はルネ軍だけじやねぇ!旧日本軍の残党共まで介入してきてややこしくなってんだ!」
「旧日本軍?そんな過去の遺物に貴方達は手を焼いているというのですか?」
「怒るなよ宦官!それがルネが強制出兵させた日本人達も裏切って旧日本軍側についちまった!それだけなら民間人の寄せ集めの日本なんてあっという間に始末できるんだが、1機…いや、2機尋常じゃねぇ腕前のパイロットが居て俺らもルネも翻弄されてんだ!」
――たかが1、2機に…。情けない――
張とは温度差のある宦官。彼に聞こえぬよう舌打ちすればデスクに着き、ノート型パソコンをカタカタ素早く打ち出す。
「どうする!一旦引くか?!」
「何馬鹿な事を言っているのです。張。貴方は今ルネ軍東京駐屯地近辺に居ますね?」
「え…な、何でそれを知ってるんだよ…?」
ニヤリ。皺の寄った口元を笑ませる宦官の細い瞳にはノート型パソコンに表示されている張の現在位置が映っていた。
「ではそのまま特攻なさい」
「は?何言ってんだよ。駐屯地からも続々とルネの戦闘機が発進されているし、俺ら全員が駐屯地へ突っ込んだところで…」
「いいえ、貴方1人で特攻するのですよ」
「はぁ?無茶苦茶言うんじゃねぇ!そうじゃなくてだな俺が聞きたいのはこのまま作戦続行させるのかそれともプランを変更するのかって、」
【20、19、18…】
「…?な、何だよこのカウント…?」
ポン、とエンターキーを宦官が押したと同時に張の戦闘機内は赤いライトが点滅して機械的な声が20からカウントを始める。張の機内には不安にさせるサイレンが鳴り響く。




















「張。貴方の機体には発艦前、時限爆弾を搭載させてもらいました」
「っ…!?こ、こんな時に冗談言ってんじゃねぇぞ!笑えねぇんだよ!」
「冗談?私がそのようなくだらない戯れ言を嫌う人間だという事をよく知っているでしょう?因みに貴方の機体のみこちらから私が操作できるようにもなっていますから脱出も自爆もできませんからね。フッフッフ…」
冷や汗がダラダラ流れ出す。心臓が張り裂けそうな程心音が大きな音をたてる。
【14、13…】
「じ、冗談じゃねぇぞてめぇ!!」
固定されたベルトを剥ぎ取ろうとしても取れず、コックピットハッチの開閉ボタンを押しても作動せず。すると張の機体は突然高速度で動き出す。東京駐屯地目掛けて。
「なっ…!止まらねぇ!」
ガチャガチャ操縦桿を動かしても機内全ての装置を使っても機体がいう事を利きかない。
【11、10…】
カウントは0へと容赦なく進む。
「嘘だろ…?おい…何だよこれ…。俺らは親に売られて兵器同然に訓練されて…。変な薬を打ち込まれて…人間らしい扱いを一度も受けずに今まで生きてきたんだ…なのに…こんな最期…!」
「兵器同然に育成された貴方達の最期は兵器らしく国の為に戦場で散る。それこそが貴方の本望でしょう張?」
「ふざけんな!俺も劉邦も呂雉も人間だ!心を持った人間なんだよ!てめぇらは兵器として俺らを育てたとしても、俺らは紛れもない人間なんだよ!!」
その時。遠くの空で劉邦と呂雉の機体を見つけた張は目を大きく見開く。
「はぁ。これだから完璧な兵器が作れない。人間に心など無ければ、」


ブツッ!

宦官の通信を一方的に切った張は、劉邦と呂雉の2人に通信を繋げた。


ガー、ガガッ、

「はぁ、はぁ…劉邦、呂雉…!」
「張か」
「張かい?あんた今何処に、」
「お前らもう本国へ帰るな。ぜってぇだ…!」
「何おかしな事を言ってんだい!頭でも打っ、」
「今俺はっ!宦官に勝手に積まれた時限爆弾の機体に乗っている!!」
張の裏返った叫び声に2人は目を見開いて息を呑む。
「ど、どういう事だい?意味が分からないよ張!」
「あいつは俺らの事を本気で使い捨ての兵器としか思ってねぇ!俺の機体は発艦した時からあいつの手の内で、もうこっちじゃ操縦できねぇ!あいつが今俺の機体を東京駐屯地へ突っ込ませようとしている!」
「そんな!それじゃあ張あんたは…!劉邦!?」
「なっ…?!」
張の通信を最後まで聞かず、助ける為に張へと急加速していく劉邦の機体。それを呂雉が追う。一方の張も、高速度でこちらへ向かってくる劉邦の機体を捕捉する。
「なっ…馬鹿野郎!俺はもう人間爆弾同然だ!助けなんていらねぇ…いや、無理なんだよ!」
「……」
「くっ…!こんな時まで無愛想を貫いてんじゃねぇよ!だから俺と呂雉以外のダチができねぇんだよ劉邦お前はっ…!う、ぐっ…!」






















【6、5…】
ポロポロと涙が溢れるのに張はへへっ、と笑っていた。迫りくる駐屯地。迫りくるカウント。劉邦と呂雉2人同時に張の映像が通信で繋がる。
「俺の分まで中国も日本も…啀み合う事の無い時代を作れよお前ら」
「張、」
「其処に居たか中国軍!」
その時劉邦の前に立ちはだかったのは慶司の機体。劉邦が珍しく怒りを露にして鬼の形相になる。
「邪魔をするな!!」
「なっ…!?」
機体中央部の発射口を慶司に向ければすぐ発射口に熱が集められていき、赤い光が放たれる。
「慶司君!!」
後を追ってきたヴィヴィアンが慶司機ごと掴んで劉邦の攻撃を回避させた次の瞬間。


ドン!ドンッ!!

「…!!」
カッ!と白い光が辺り一帯に光った直後大きな爆発音と共に東京駐屯地は真っ赤な炎を上げて爆発。付近に居たルネや中国や日本全ての戦闘機が爆風に吹き飛ばされていく。張の機体が駐屯地に突っ込んだと同時に、搭載されていた爆弾のカウントが0になった瞬間だった。
「な…!?」
「慶司君大丈夫?」
「ありがとう。助かった。しかしあの爆発は一体…?」
慶司機を支えるヴィヴィアン機。真っ赤な炎を上げてもくもくと黒煙を上げて炎上する駐屯地を2人は上空から見下ろす。
「分からない。けど、中国軍がやったんだ」
「ルネの敗戦という事か…?」
「それも分からない。でも確実にルネの戦意は喪失できたよ。以前受けた中国軍の襲撃で他県の駐屯地も復旧していない中、唯一復旧していたのはこの東京駐屯地だけだったみたいだからね」
「くっ…またあいつらが日本を荒らした…!」
「慶司君。爆発に巻き込まれた日本人も多い。いくら中国相手だけとなっても今の僕達の状態じゃ確実に負ける。河西さんと新田見君も居ないし。中国を叩きたいところだけど、離脱するなら彼らがあの爆発に気をとられている今だよ」
「…分かった」
煮え切らないながらもヴィヴィアンと慶司は生き残った日本人部隊の人間と共に、中国軍に気付かれぬよう辺りの煙に姿を隠して離脱していく。2人に続く日本人部隊の数が20も無かったが。

































一方、
劉邦と呂雉―――――

燃え盛る駐屯地を上空から見つめて呆然。魂の抜けた人形の様。
「そん…な…、張に積まれた爆弾で…駐屯地が壊滅…?でもこんなの…こんなやり方でルネを殺ったってちっとも嬉しくないよ!こんなやり方あったもんじゃないよ…!」


ダァン!

機内を叩いて俯き肩を震わせる呂雉は目から溢れてきそうになるモノを堪える代わりに鼻を啜る。
「宦官か…!」
ギリッ…!血の滲む包帯を巻いた右手を強く握り締めた劉邦は鬼の形相をしていた。




































一方――――

張の機体がルネ軍東京駐屯地に突っ込んだ爆発に巻き込まれたルネ軍戦闘機も火の粉を背負って次々墜落していく。この様を見て中国軍勢は笑みを浮かべた。
「やった…やった!何があったかよく分かんないけど俺達はルネに勝ったんじゃないか!?」
「勝ったと言っても日本国内のルネにだ」
「でも此処はもう俺らのものって事だろう?」
「寝言は寝てからでお願いしますよ」
「!?だ、誰だ!日本軍、かっ…」


ドッ…!

「お…お前…!」
中国軍パイロット全員に繋がった男性の聞いた事の無い高い声の通信。通信後その者が何処に居るのか探そうと後ろを振り向いた1機の中国機の背後には1本のサーベルが貫通しているではないか。目の当りにした彼らは言葉を失う。


ドドドド!!

「ぎゃあああ!!」
「ぐああああ!」
敵を捕捉したレーダーのサイレンすら聞こえない程の銃声が辺り一帯に響き渡り、中国機を容赦なく攻撃していく。其処から離れた上空に居た劉邦と呂雉は、仲間を攻撃している敵を上空の雲の中から見付け出す。
「ルネ軍じゃないかい!?」
「本国からの増援か…!」
「正解。機転が利きますね李 劉邦」
「なっ…!?」


ドドドドド!

さっきと同じ男性の高い声が彼を呼べば、目の前に現れたルネ軍戦闘機。
「劉邦!!」
砲撃をもろに食らい、機体頭部は吹き飛び右腕もサーベルごと吹き飛ばされてしまった劉邦機は煙を上げつつも、サーベルを振り回して向かってくるルネ機に砲撃で応戦。
「劉邦無事かい!?今行く!っ、ぐあっ…!」
「お前の相手は僕だ!!」
劉邦を助けに向かった呂雉が背後から攻撃を受ける。相手はルネ本国から増援に来たメッテルニヒだ。
「くっ…!本国からの増援だなんて卑怯じゃないかい!」
「人の領地を漁るお前達に言われたくない!」


ガッ!!

呂雉とメッテルニヒのサーベルがぶつかり、戦いが始まった。その一方で、戦闘の灰色の煙で覆われていた雲の切れ間からポツ…ポツ…と雨が降り出す。

























一方の劉邦は逃げながら砲撃でルネ機をこちらへ近付かせまいと攻撃をするが、相手は容赦なく砲撃とミサイルを繰り返してくる。
「くっ…!一体いくつミサイルを積載している…!」
その時。モニターに映し出されたのは今交戦中のルネ軍パイロットブーランジェだ。
「…!」
劉邦は目を見開くと同時に脳裏でつい先日アメリカ国際連盟軍本部で交戦したブーランジェを思い出す。同時に、血塗れのジェファソンの姿も。
「貴様は…!」
「おや。あの時の。貴方が李 劉邦でしたか。お久し振りです。あれから国際連盟軍本部は復旧しましたか?」
「…ふざけた事を聞くな。貴様は何故私の名を知っている」
「おっと。怖い顔だ。そう焦らずとも、それを伝える為に私達はわざわざ本国からやって来たのですよ」
「?」


ブツッ!

ブーランジェの映像が消えて次にモニターに映し出された映像に劉邦は目を見開くと同時に怒りが頂点に達する。その映像とは、中国国内の会議室で握手を交わすルヴィシアンと宦官。引きつった笑顔の宦官の周りには強面で体格の良いルネ軍人達が銃器を構えている。宦官は脅されているのだ。
「これは一体どういう事だ!」
「つい先程本国からの部隊が陛下をお連れして中国へ出向き、結んだのです。ルネ王国と中国の友好的同盟を」


ダンッ!

機内を叩く劉邦。
「ふざけた事を!!たった今まで刃を交えていた国と同盟を締結するなど、」
「あり得ませんよね、普通」
「なっ…?!」
映像が再びブーランジェに切り替わる。彼は優男の笑顔を浮かべていた。




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