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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「あの国旗は…日本軍!?でもあいつらはもうルネの支配下のはずじゃ?!」
その時劉邦の脳裏でダイラーに捕らえられていた慶司の姿が過った。
「…恐らく死にきれない残党が足掻いているだけだ。それにあの機体。破損ヶ所が多い上、旧世代の機体。東京内に他3機が目撃されているがすぐに始末でき…う"っ!!」
「劉邦?どうかしたのかい?」
「っ…、何でもない。先程送った作戦プラン通りまずはこの死に損ないの処理に移る」
「……。うん。分かったよ」
劉邦の機体コックピット内部。操縦桿を握る両手に巻かれた包帯から血が滲み、ポタ…ポタと頭部から滴る血がコックピットを赤で濡らしていく。アメリカ国際連盟軍本部で受けた傷が完治しないどころか、簡単な手当てを施しただけで傷口が開いた状態のまま日本軍の残党へと立ち向かっていくのだった。































ルネ軍東京駐屯地――――

「何!?日本国国旗が描かれた戦闘機を発見!?あいつらめ…まあ良い。どうせ第三次世界大戦時の機体だろう?旧世代の遺物など恐れるに足らんわ!もしもの場合があったとしても出兵させた日本人共を盾にすれば良いからな!」
部下からの通信も軽くあしらうのはルネ軍東京駐屯地部隊隊長。
「貴様ら!中国軍をさっさとこの地から排除しろ!母国をこれ以上荒らされたら辛いんだろう?なぁ負け犬共?ははは!」
対中国軍用に訓練機関も短期間で済ませた日本人民間人の寄せ集め部隊を嘲笑う隊長。黒いルネ軍の戦闘機を操縦する彼らはルネの支配下となり、ルネに従わざるを得ない植民地の日本人達。通称日本人部隊。隊長の盾になるような布陣をとらせられている。すると前方から山吹色の戦闘機が10数機高速度で飛行してきた。隊長は右手を振りかざす。
「日本人共!1機たりとも此処を突破させるな!させたらお前ら全員晒し首だ!はははは!!」
「ひでぇ…」
「それじゃあ中国軍と殺り合おうがどっちにしろ俺らは殺されるんだ…」
「これが敗戦国の末路だと言うのか…」
迫り来る敵機を前にしたらこの中で少ないながらも居る軍人経験ある人間でさえ身震い。前を見ても後ろを見てもどちらにしろ自分達の明日は、ルネ軍と中国軍によって決定付けられる。逃げ道が無い。
1人の中年男性は目をぎゅっ…と瞑り、震える両手で操縦桿を握り締める。脳裏に浮かぶのは、ルネ軍軍事工場へ強制的に送られた妻子の力無い後ろ姿。
「うっ…ぐっ…愛美、寛恵…お前達だけでも生きてまた日本の地を踏み締めてくれ…!」


ドドドドド!!

中国軍勢から連続発射される砲撃。為す術無く次々炎上して街へ墜落していく日本人部隊戦闘機。彼らを盾に、遠く安全な場所から高見の見物のルネ軍駐屯地隊長は次々LOSTしていく日本人部隊の様子を耳を掻きながらレーダーのモニターで眺めるだけ。
「ふぅん。やはりこの程度か。盾くらいにはなると思っていたが。まあ戦闘機なんざ幾らでもあるからな。無能な日本人共でも多勢居れば数打ち当たるだろう。…ん?」
隊長の目に止まったのは、次々撃墜されていく日本人部隊の中で中国軍戦闘機を次々と撃墜していく1機の機体。日本人部隊の人間だ。目を疑い二度見するが、頭の後ろで腕を組んで背凭れにドスンと背を預けて隊長は笑む。
「ほぅ。たまに居るんだよなこういうデキル奴。ラッキーってな!ま、お前はどんだけ頑張って中国軍を墜としたって所詮最後は俺らに酷使されて死ぬ運命よ日本人。はっはっは!そんなに奮闘されると哀れ過ぎて泣けてくるぜ日本人さんよぉ?」
隊長は優れた1機の日本人部隊パイロットへすぐに音声のみの通信を繋げる。






















ガーッ、ガガーッ…

「よお日本人さん。お前なかなかやるじゃねぇか」
「……」
「ん、じゃあ此処はお前に任せるわ。俺は他に用があるのよ。ルネ様はお前ら暇な日本人さんと違って多忙だからなぁ。嗚呼羨ましいぜ暇な日本人さん?ギャハハハ!」


ブツッ!

返答すらさせず言いたい事だけを吐き捨てて気分も晴れたところで隊長はくるりと戦場に背を向ける。日本人部隊はほぼ壊滅にも関わらず、隊長は駐屯地がある方角へと飛行して行ってしまうのだ。
「バァーカ!雑務なんざ馬鹿な部下共に任せてるっつーの!さーてと。一服してから久々に本国へ戻るとするか。どうせこの戦も俺らルネ軍が勝つわけだし。国王から報酬前借りするかなぁ〜」


ビー!ビー!

「…?敵反、何っ…!?」


ドドドドド!!

敵にロックされたとレーダーからのサイレンに悠長に後ろを振り向いたまさにその時。戦闘機からの銃撃を連続で食らうが、右旋回で撃墜は免れた。こういう時こそ長年の腕が試されるものだと痛感する隊長。だがまだ安心できず、銃撃はまだ隊長だけを目掛けて続く。


ドドドドド!

「くっ!さっきのデキル野郎も中国軍に墜とされたってか!?やっぱり使えねぇなぁ日本じ…何ぃ?!」
辺りの黒煙が晴れ、自分を狙ってきた中国軍戦闘機が目の前に姿を現す…とばかり思っていたのに。何と目の前に現れたのはルネ軍戦闘機たった1機。これに乗っているパイロットは日本人部隊の人間だ。日本人部隊によるルネへの謀反だ。そんな事より隊長は目玉が飛び出してしまうくらい驚いて辺りを見回す。
「な、何だって?!中国軍の奴らは?!日本の奴らは!?」
何処を探したってさっきまで居た日本人部隊も中国軍の姿も見当たらず。気付けば辺り一帯が不気味な程静まっていて、遠くから戦争の爆発音が聞こえてくるだけ。地上から上がる灰色の煙に気付いた隊長が地上へ視線を落とすと、驚愕のあまり身を乗り出した。
「なっ…?!日本の奴らは分かりきっていた事…だが中国の奴らまで全滅させられているだと!?」
地上から上がる煙それは先程中国軍に撃墜された日本人部隊戦闘機の残骸と、たった1機の日本人部隊のデキルパイロットに撃墜された中国軍戦闘機の残骸だった。























瓦礫の上で赤い炎を燻りながらバチバチ音をたて燃える両者の機体の亡骸合わせて30数機。隊長は顔を上げてすぐ、例の1機の日本人部隊戦闘機へミサイルを連射。


ドン!ドン!

しかし素早く的確な動きで回避されてまるで追い駆けっこ状態。
「俺で遊ぶんじゃねぇ負け犬の分際で!一体どういうつもりだ!中国の奴らを全滅させた事は褒めてやる!けどな、俺に攻撃してルネに謀反するなんざてめぇら弱小共には1億年早いんだって事を頭の中にぶち込んでおけ!」
「本当に言葉が汚い。お国柄だよね」
「…!通信!?ぐああああ!!」
謀反者からの通信に気を取られた隙をつかれ謀反者見失い、背後に回られて容赦ない砲撃を食らう隊長。


ドン!ドン!
ドドドドド!!

次々撃ち込まれていく砲撃に為す術も無く口から血を流しながらも、ミサイル発射ボタンへ手を伸ばす隊長。
「っぐっそ…!てめぇ…何者だっ…!」
「何者?貴方がたルネがよく知っている人間ですよ」
「っ…!?その…声…もし…や…ヴィ…、」


ドンッ!!

ボタンに手は触れたがそれより先に謀反者がサーベルで背後から隊長機コックピットを貫通。真っ赤な火を上げて墜落していった隊長の機体を機内モニターで拡大して眺めるのは、ヴィヴィアン。今までの彼なら自分の力に自惚れて高笑いをしていた場面。しかし今日の彼は顔色一つ変えなかった。






















辺りに敵反応無し。しかし遠くからは止まない爆発音と銃声。


ガシャン…

ヴィヴィアンは機体を地上へ着地させる。すると、機体の足元に機体を見上げる1人の日本人少年が居る。ルネ軍の軍服を着ているこの少年は先程の日本人部隊の1人だ。ヴィヴィアンはルネ軍に気付かれぬよう少年の戦闘機に乗り込み、日本人部隊に潜入していたのだ。


ガコン!

コックピットハッチが開くとこちらを見下ろしてくるヴィヴィアンに戸惑いながらも、礼を言う少年。
「あ、あのっ…ありがとうございました!僕の代わりに中国軍もルネ軍も倒してくれて…!」
「いや、でも君以外の日本人を救えなかったよ」
辺りで燃える日本人部隊戦闘機の残骸を切なそうに見渡すヴィヴィアン。少年は視線を泳がせる。
「君は避難した方が良いよ。見たところこの辺りにはもうルネ軍も中国軍も居ないみたいだけど、いつ戦闘が起きるか分からないからね」
そう言ってコックピットハッチを閉めようとすると…
「あ、あの!せめて名前だけでも教えてくれませんか!見たところ外国のお方のようですし…」
ヴィヴィアンはフッ、と自嘲した。
「知らない方が良いんじゃないかな。残酷な現実より優しい幻影の方が良いでしょ?」
「え?で、でも…」
「じゃあ、元気でね」


ガコン、

ハッチが閉じて機械音と同時に次の戦場へと飛び立って行ってしまった機体を少年は目を丸めて呆然と見送った。
「お兄ちゃん!」
「美沙子!」
瓦礫の山を裸足で駆けてきたおさげ髪の幼い妹を笑顔で抱き上げる少年。
「良かったぁ!お兄ちゃん美沙子の所に帰ってきてくれた!」
「もう大丈夫だからな。きっとこの戦も終わるはずだよ」
「そうなの?」
「ああ、そんな気がしたんだ。生きていたら父さんと母さんにも見せたかったな。あの人は日本の救世主だ」
「わあい!じゃあね、もう怖い怖いが無くなったらお兄ちゃんまたデパートのパンダさん乗せてね!」
「勿論だよ」
もう姿は見えないが、ヴィヴィアンの機体が飛び立って行った方角の空を少年は見つめていた。

































同時刻――――――

「す、すごい…!」
東京新宿近郊で交戦中の河西と総治朗。総治朗はヴィヴィアンから送られてきた文字のみの通信に目を丸めて驚く。
「どうかしたのそうちゃん?」
「河西さん!ヴィヴィアン・デオール・ルネがルネと中国の両軍を殲滅したそうです!」
「あら〜やっぱりけーちゃんの目に狂いは無かったって事ね!ルネの坊やこのまま最後まで裏切らなきゃ良いんだけど!」
「大丈夫ですよ。殿下と約束しましたから」
「そうちゃん?このご時世あまり他人の言う事を信じていちゃダメよ?死んだ女将もお人好しだったからねぇ」
「分かってます」
前を向けば多勢のルネ軍。しかしこちらも2機だけではない。日本人部隊としてルネ軍に強制出兵させられたルネ軍戦闘機に乗る日本人部隊が河西達の味方についてくれたのだ。
「くそ!あいつら謀反を起こしやがって!」
「しかしあの2機、旧世代型のクセになかなか落ちない!」
「後方より敵機!数30です!」
「チッ!中国軍か!二手に分かれる!お前らは日本人共を!俺達は中国軍の相手にまわる!」
「了解!」
二手に分かれたルネ軍。予想外の日本人部隊の謀反に手を焼くからイラ立ってそのせいでいつもの力を発揮できずにいた。
一方の中国軍も敵はルネ軍だけとばかり思っていたから、まさかのルネ軍分裂に呆然。
「何故だ?ルネ軍の戦闘機が仲間を攻撃している!」
「馬鹿!あれは恐らくルネに強制出兵をさせられた日本人がルネに反逆したんだろう!」
「チッ!ルネだけでも面倒だってのに、よりによってこんな時にレジスタンス起こしているんじゃねぇよ日本人共!」




























一方の日本人部隊――――

「あ、あの…貴方がたは一体…?旧世代型の日本軍戦闘機に乗っているところからして日本の方…ですよね?」
「宮野純慶司様が発足した日本国革命軍の者です」
「革命軍?!どうしてお前らは日本が占拠された今もまた戦おうとする!お前ら王室や軍隊のせいで俺達民間人はなァ!!」
「だから!」
「あ"ぁ?」
「だからこれからは私達も殿下も地位名声を捨て、見返りを求めず平和の為だけに戦うと誓いました!」
戦闘中の総治朗の力強く悲痛な言葉に彼らは呆然。すると1人の中年男性がふっ…、と笑んだ。
「ふっ…なるほどそういう事か。悪を制するってわけか。まあそうだろうな。俺達がアクションを起こさなきゃ日本は一生ルネに占拠されたままだ」
「でもまた日本人の多くの血が流れるじゃないか!」
「だろうな。けど、何もせず死んでいくくらいなら俺は日の丸背負って戦って死にてぇ。ルネに酷使されて死にてぇ奴は此処を降りるしかねぇだろう」
1人の男性の通信に彼らは戸惑う。だが操縦桿を握ると、力強い眼差しで前だけを見た。
「…ああ、そうだよな!これがもう権力争いや地位目的の争いじゃないと分かった以上、俺は妻と子供達にもう一度あの頃の日本を見せてやりたい!」
「私も同じ思いだ」
「来年の春こそ桜が見れる日本が戻ってくるように」
「皆さん…!本当にありがとうございます…!」
彼らの決意に胸を熱くして礼を言う総治朗。河西もふっ…、と笑む。
「日本の美しさが分からない敵なんてさっさと片付けるわよ!日本はまだ生きているんだから!」
皆目指すものは異なる3軍はサーベルを引き抜き、戦闘へと身を投じた。














































同時刻、
東京千葉方面―――

「逃がすものか!!」
1機の旧日本軍戦闘機と交戦中の劉邦と呂雉。血の気の多い呂雉が先頭をきって追い掛ける一方で劉邦は張から送られてきた文章を開く。
「旧式のクセに生意気だよあんた!!」
「呂雉。張偉からの通信だ。東京駐屯地近郊の援護にまわる」
「あんたは先行ってな!あたいはこいつを仕留めるまで納得がいかな、きゃあ!」


ドン!ドン!

隙を見せないようにしていたつもりの呂雉。しかし劉邦との通信に気を取られていたからか、敵から見ればあったのだろうその隙をつかれ砲撃を食らった。…かと思えば、黒煙が晴れた其処に呂雉の機体はおろか、劉邦の機体も忽然と姿を消していた為、日本軍パイロットは目を見開く。
「何っ?!」


ビー!ビー!

レーダーが鳴りモニターで拡大すれば、劉邦の機体は呂雉の機体を掴んで2人共離脱していくではないか。
「くっ!逃がさない!」
操縦桿を強く握って機体最高速度を出しても1年前の戦争以降修理も施されていない上、旧式の機体では彼らに追い付けないどころか距離が開いていくだけ。それでも彼らを追うつり上がった黄色の瞳。この戦闘機のパイロットは慶司。彼の脳裏では、ダイラーに捕われた後日本へ侵略してきた宦官と劉邦の姿が思い出されていた。慶司は歯をギリッ…!と鳴らして彼らを追った。




























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あきゅろす。
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