症候群-追放王子ト亡国王女- ページ:2 ガーッ、ガーッ… 呆然中の彼女に繋がったノイズ混じりのオープンチャンネル。 「貴様の好きな花火を目の前で見れた感想はどうだ?」 「何ですって…!?」 敵の男性の低い声。しかも皮肉たっぷりな内容のその通信に、いつでも余裕だったエリザベスが眉間に皺を寄せてギロリと睨み付けた時。 「ぐあああ!」 「うああああ!」 ドン!ドン!ドン! 「な、何事ですか!?」 次々と周囲の部下達が炎を上げて再び撃墜されていくではないか。しかし先程の青い光は見えない。爆発した周囲を見渡すがエリザベスの目が追い付かない程の速さの敵機が、すぐ其処に居る事は確か。 ビー!ビー! その証拠にエリザベス機のレーダーが敵機1機を感知している。しかしそれを目が捉えられないのだ。 「そんな事あるはずがありませんわ!目に止まらない速さの機体を人間が操縦してはそのパイロットが速度についていけず身体が分解しますもの!」 「普通の人間なら、な」 「え…!きゃああ!!」 ドドドドッ!! フロントガラスにようやく新手の敵を捉えたら、息をも吐かせぬ速さでフロントガラスに攻撃を食らったエリザベス機。銃器で発砲された為エリザベス機のフロントガラスは割れて破片が飛び散るから、ヘルメットを装着しているものの顔の前に腕を翳す。空いている右手で操縦桿を握った。しかしまた敵を見失った為辺りを忙しなく飛びながら探すが、すぐ其処に居るはずの敵をやはり目が捕捉できない。それだけの異常な速度なのだ。だから見えない敵に四方八方から攻撃を食らってしまう。 ビー!ビー! 機体破損箇所はこの数分の間で何と8箇所。彼女の顔に初めて動揺が見られた。 「何て事ですの!中佐!大佐!早くわたくしの援護にまわりなさい!聞こえているのですか中佐!大佐!」 繋がらない部下へ必死に呼び掛けていたが、もう我慢の限界。ぐっ、と唇を噛み締めた彼女はあの兵器のボタンを押した。 「いくら補則できないくらいスピードが速くてもこれに飲み込まれてしまえば一溜まりもありません!!」 またあの黄色い光が放たれるが… ドン!ドン! 「な、何故?!」 まただ。天から降り注がれた青い無数の光が彼女の黄色い光を撃ち落としていく。まるで天からの裁きかの如く。 最後の頼みの綱も呆気なく撃ち落とされてしまい呆然のエリザベスの後方で浮かんでいるボロボロのバッシュ機に近付く1機のオレンジ色の戦闘機【昇華】 機体の右部分が剥がれ落ちて外からコックピットが丸見えな程大破しているバッシュ機。エリザベスが目で捉えられない程の新手昇華を操縦するパイロットがバッシュに通信を繋げる。昇華のパイロットは劉邦だ。 「バッシュ応答しろ。ロゼッタ姉さんは何処に居るか分かるか?バッシュ!」 機体を近付けてみれば、彼が応答しないのも納得できた。頭部や顔や口に腕等々…至る所に重傷を負い、血を流して力無くだらん…とコックピットの座席に凭れ掛かり目を瞑って意識の無いバッシュが見えたから。 「チッ。この程度の相手にこの様とは。連盟軍の恥を曝させるな馬鹿が」 耳にかけたイヤホン型通信機で通信を繋げる。 「こちら中国軍劉邦。E25地点に負傷者1名。直ちに戦闘空域から離脱させるよう求む」 「了解しました」 ブツッ、 用件だけ伝えてすぐどちらからともなく通信が切れる。 「まったく。何処の国も勝手に兵器を生産しているとは…条約なんてものはあって無いものと同じか」 一方―――― 辺りの煙が晴れた時。エリザベスをはじめとするイギリス軍とアンデグラウンド軍とアンデグラウンド国民の瞳に映ったモノは… 「な、何ですのアレは…!」 「俺達に黙ってあんな物を作っていたというのか!」 「あ、あれは…!」 「嗚呼…!あれはきっと神が我がアンデグラウンドを救う為に授けてくださった物…!!」 顔が青ざめるイギリス人。死んでいた瞳に希望の光を映すアンデグラウンド人。あの頃と同じ真っ青な夏空には、グレーのアメリカ軍戦闘機数20機とその更に上空に戦闘機と同色の大型のアメリカ軍戦艦が浮かんでいたのだ。サッカーコート三面分の大きさ。 「空に戦艦だなんて聞いた事がありませんわ!!」 「なら貴様の軍は時代遅れ。ただそれだけの事だ」 「なっ…!?」 ドッ!! エリザベス機背後にまわっていた劉邦の専用機昇華が容赦無くサーベルで斬り付ける。 キィン!! それを自機のサーベルで受け止めた時エリザベスは驚き、目を見開いた。 「サーベルが…!」 先程バッシュから食らった熱により、あんなに長かった彼女のサーベルがもう2/3…いや、それ以上溶けてしまっていたのだ。これではもうサーベルとは呼べない。そんな彼女の瞳に映ったもの。それは、戦闘不能となったバッシュ機を退避させようと運んで行くアメリカ軍戦闘機1機。エリザベスは鬼の形相でバッシュ機を睨み付けた。 「貴方が…貴方が馬鹿な事をしたからわたくしの大切な機体が傷物になったのです!!貴方が全てを狂わせた!ロゼッタちゃんも!この戦も!わたくしの計画も!だから貴方を生きて帰すわけにはいきません!!」 「…!まずい!」 強い力でエリザベス機に振り払われてしまった劉邦。彼女を追い掛けるが先程最高速度を出した昇華は機体が次に最高速度を出せるまで数分かかるのだ。このままではバッシュと、助けに来たアメリカ軍戦闘機もろとも落とされてしまう。一方のエリザベスは2機目掛けてミサイルの発射口を向けて瞳孔を見開いた狂者の如く嗤った。 「二度とわたくしの前に現われないよう葬ります!!」 ドン!ドン!! 「あ"あ"あ"あ"!!」 「何…!?」 「代表!!」 攻撃では発射までのタイムランがあり間に合わない。だから劉邦はアメリカ軍2機を庇う為2機の前に壁となり、1発のミサイルを機体頭部に食らってしまったのだ。 「代表!!」 「早く行け!!」 「は、はい!」 劉邦の怒鳴り声に怖気付きそうになりつつもアメリカ軍戦闘機パイロットはバッシュ機を運び、高速度でこの場から離脱して行った。 「待ちなさい!!」 「頭の良い王というものは戦場なんて部下に任せてその手柄を己の物とし、高見の見物をしているものだろう?」 「!!」 彼女の前に立ちはだかった劉邦の機体。今攻撃をくらい凪ぎ払われた機体頭部から煙が上がっている程度だ。 「……。何が言いたいのですか劉邦ちゃん」 「貴様は低能だ、と言いたかっただけだ」 「このわたくしを侮辱するのはおやめなさい!!」 全て溶けてしまったサーベルを劉邦機に投げ付けてから、先程バッシュ機を退避させたアメリカ機をすぐ追い掛けて飛行しつつ劉邦砲撃を繰り返すエリザベスだが、劉邦機はやはり目にも止まらぬ異常な速度でこちらの攻撃をかわしながら攻撃をしてくる。速過ぎて彼をロックできないからこちらの攻撃が全く当たらない。遊ばれ翻弄されるだけ。息が上がる。 「代表」 「何だ」 一方の劉邦はアメリカ軍が用意した戦艦からの通信を受ける。 「代表が対峙している機体下部の発射口。この惨状はそれの仕業です。こちらから撃ち、破壊しましょうか」 「それでは街へも被害が及ぶ。私1人で破壊する」 「しかしそれは危険では」 「構わない。その為の李 劉邦だ。アメリカ軍の戦闘機部隊は民間人の身の安全の確保を。戦艦は敵の残存勢力の消滅を」 「了か、あっ!」 ガー、ガー… 「ん?」 ノイズが聞こえて戦艦の男性艦長からの通信が突然切れると別の場所から劉邦への通信が繋がった。 「どうし、」 「やあ。我が軍の戦艦は気に入ってもらえたかな?」 「…ジェファソン代表」 聞こえてきたのは、現在アメリカに居るジェファソンの陽気な声だった。 「まあそれなりに」 「はは、素直じゃないなお前は。本来ならあの戦艦はルネへ攻め込む時の我が軍の秘密兵器だったのだが。まあ、この情報は全世界にリークされるからルネも怖気付くだろう。そうそう。増援が必要ならいつでも。じゃあな」 ブツッ! 「言いたい事だけを言ってまったくあの人は…」 通信を一方的に切られて溜息。その間も劉邦機のスピードに翻弄されているエリザベス機をロックした。 一方のエリザベスは、あちこちで大破する自軍の圧倒的不利な戦況を受け入れられずにいた。部下達へ通信を繋げる。 「何をしているのです!あんな戦艦ただ大きいだけでしょう!貴方達は我が国の為に命を費やしなさい!きゃああ!!」 ドン!ドン! 先程劉邦がロックした為砲撃が彼女を直撃。機体が傾いて左側大破。操縦桿で体勢を整え直そうとしてもガチャガチャ鳴るだけで操縦不能。 「なっ…こんな時に故障!?帰投したら軍事会社の人間皆殺しです!!」 「そういうところが低能だと気付かないのか?」 「!!」 目の前に再び現われた劉邦機がすぐ視界から消えた瞬間ガコン!と機体下部に大きな衝撃を受けたエリザベスはハッ!と顔を上げて叫んだ。 「おやめなさい!それは…!きゃあああ!」 ドン!ドンッ!! 人間には不可能ではないかという程の速さでエリザベス機下部の発射口を破壊する事に成功した劉邦。劉邦はわざとこちらから彼女へ映像通信を繋げた。 「こんな虐殺兵器をルネに使用していれば貴様の国も世界から賞賛されたというのに。本当に頭の足りない王だ。これでは国民が哀れだな」 「お黙りなさい!!」 反撃しようと全てのボタンを押すがエラー。劉邦の攻撃により、操縦も攻撃も不能となってしまった彼女の機体。 「何故です!?連盟国とはいえ、こんな弱小国家の援護をして何か得をするというのですか!?偽善の心など戦場には不要のはず!皆が自国繁栄・拡大・名誉の為に戦うからこそ戦争でしょう!?」 劉邦はヘルメットの下で鼻で笑った。 「はっ…。確かに貴様の言う通りだな。普段ならば私は援護になどまわらない。けど今回だけは特別だった。貴様の妹から命令があった。弟の国を守ってくれ、とな」 ダンッ! その一言にエリザベスは顔を真っ赤にして肩を震わせ、拳で機内を思い切り殴って怒りを露にする。 「弟…!?そうやってたかが連盟国代表同士の関係に深入りすれば明日は我が身という事も分からない家族ごっこしかできない愚か者です貴方達は!!」 ブツッ! 一方的に通信を切った劉邦は援護に来た戦艦へ通信を入れる。 「E25地点に2機戦闘機を送ってくれ。これから大罪人の滷獲任務へ移行する」 "大罪人"それは、エリザベスを指す。 もう機体が戦闘不能の彼女を隣からチラ、と見てから劉邦は空を見上げた。 「姉さんは何処に居るのだろうか…」 「ふふふ…」 「?」 再び繋げられた彼女からの通信。奇妙な笑い声に耳を傾ける。 「ふふ…ははは、あはははは!」 「…正気か貴さ、何っ…!?」 ガコン! 機体不能の為攻撃はできないが動く事はできるエリザベス機が突然彼の機体にしがみ付いてきたではないか。振り払おうとしても払えないが、相手はもう攻撃ができない敵。恐れる事など何も… 「貴方のような愚民の捕虜になるくらいなら…!!」 「…!貴様まさか…!」 エリザベスは半狂乱な笑みを浮かべると、劉邦機にしがみ付いたまま一つのスイッチに手を伸ばした。 「貴様まさか自爆する気か!!」 「はいっ!劉邦ちゃんも道連れです…!」 「女王陛下!!」 「え…!」 ドンッ!! 「くっ…新手か!」 今まさに…というところで聞き覚えのある男性の声がしてエリザベスがスイッチを押さずに済んだ。しかし新手のイギリス軍戦闘機2機から砲撃を食らう事になってしまった劉邦は高速度で後退して彼らから離れる。 「ウィルバースさん!ルーベラ少尉!」 新手…それはイギリス軍ウィルバース大将とルーベラ少尉。やっと来てくれた同胞に、光を失っていたエリザベスの瞳が輝きを取り戻す。 「さあお2人共!アンデグラウンドを孅滅するので…え!?」 彼女の命令も聞かず2機は両脇から彼女の機体をがっちり掴んで離さない。そんな2人の行動の意味が理解できず慌てる。 「ど、どうしたのですか!さあ!今なら…!」 「ウィルバース大将より命令だ。イギリス軍総員に告げる。直ちに撤退する。そしてアンデグラウンド軍へ告げる。今戦を我が軍は降伏する」 「!?ウィルバースさん貴方は正気ですか!?プライドというモノが無いのですか!」 「…申し訳ありません。しかし女王陛下。時に民というものは、どんな地位や名声よりもかけがえのないものだという事を思い出して下さい」 「な、何を…!?」 ブツッ、 一方的に通信を切ればウィルバースはルーベラと部下達と共にエリザベスを連れて、アンデグラウンドの空を飛び立って行いった。 バチバチ… 辺りからは、落下した敵味方どちらもの戦闘機の残骸や崩壊した建物から燻る炎の音と、人間が焼け焦げた臭いが充満している。 「やった!裏切り者自ら負けを認めたんだ!ジェファソン代表に至急連絡を!」 「了解!」 アメリカ軍戦艦からは今戦の終結を喜ぶ声が止まない。アメリカ軍戦闘機パイロット達はアンデグラウンド戦闘機パイロット達と機体越しだし無言ではあるが、お互いに通じ合うモノがあった。 「それでは我が軍は本国へ帰還次第ルネとの戦闘へ移行する。…中国代表?」 戦艦の前を通り過ぎてアンデグラウンドの街へと降下していく劉邦機を見つけた艦長が呼び掛ける。 「代表はお戻りになられないのですか」 「探さなければいけない人がいる。ジェファソン代表にはそう伝えておいてくれ」 「了解しました」 同時刻、 ヨーロッパ地方上空―――― 「放しなさい!何故降伏などという恥る事を行ったのですか!それでも貴方は我が国の人間なのですか!」 「大将…」 「構わない。今女王陛下に何を言ったところで同じだ」 帰投中のイギリス軍。通信を全部下へ繋げて半狂乱で叫ぶエリザベスの機体をがっちり掴んだままのウィルバースとルーベラは、互いに通信で会話する。 「今回の件で我が国への世論は…」 「少尉が考えている通りだ」 「そんな…」 「これは女王陛下だけの罪ではない。これがどんなに愚かな任務かという事に気付けなかった上、女王陛下を止められなかった私達の罪でもある…」 ウィルバースは空を見上げた。 「ロゼッタ…お前がやろうとしていた本当の事は…」 ビー!ビー! 「大将!南の方角に敵反応です!」 「何!?アンデグラウンド軍が追って来たというのか!?こちらは降伏したはずだ!」 後方である南の方角をイギリス軍全員が振り向いたまさにその瞬間。 ドン!ドン!ドン!! 「なっ…!?」 後ろからついてきた部下達の機体が次々と爆発していくではないか。その間を高速度で飛行する1機の戦闘機を捉えたルーベラが前へ出た。 「少尉危険だ!君1人では、」 ガッ!! サーベルでぶつかり合うルーベラと敵機。火花が散る。 「何者だ!」 「何者〜?それおかしくない?あんたらがルネの領空を我が物顔で通っているのが悪いんでしょ?」 「くっ…!」 少女の甲高い声が話す内容そして敵機の黒光りした戦闘機からして敵はルネ軍。しかしたった1機だ。それなのにさっきたった一瞬で多くの部下が撃墜されたのだ。操縦桿を握るルーベラの右手に力が込められる。圧されつつも立ち向かうルーベラを見ている事しかできないウィルバースはここで手を放してしまったら半狂乱なエリザベスが何をしでかすか分からないから放せない。つまり、ルーベラの援護がてきないのだ。 「やめるんだ少尉!すぐに撤退し領空を出よう!聞こえているのか少尉!」 一方のルネ軍パイロットはウィルバースが掴んでいるエリザベスの真っ赤な機体をモニターに拡大して映すと、赤いヘルメットの下でにんまり笑った。 「見〜っけ!」 「え、あ"っ!!」 ドッ!! サーベルを凪ぎ払い、何とルーベラの機体を土足で踏み付けて乗り越えるとエリザベス機目掛けて急加速。 「大将!女王陛下を!!」 「分かっている!」 ドン!ドン! 砲撃で対応するウィルバース。しかしエリザベス機を掴んでいる為か、いつもの的確な腕もぶれてしまう。すぐにルーベラが援護にまわろうとしてもルネ機がこちらへミサイルを連射してくる為、2人はエリザベス機を守る事で精一杯。 「くっ…防戦一方とは!ぐあ!」 「大将!!」 ルネ機は何とウィルバース機の頭部を思い切り蹴りつけ、彼が隙を見せたところでサーベルで頭部を凪ぎ払う。その圧倒的戦力に、エリザベスを守る事を優先するウィルバースは太刀打ちできない。 「くっ…大将に何て事を!」 「あ〜だめだめ!あんたみたいなか弱い女の子じゃ敵わないいってぇーの。それっ!」 ドガッ!ドガッ!!ドガッ! 「あ"あ"あ"あ"!!」 ルネ機はサーベルを回転させながら、無慈悲なまでにルーベラ機を斬り付けていく。 「キャハハハ!だぁから言ったでしょ?これがあんたら二流国家とあたしら一流国家との違いなんだって!あっ!チャーンス!」 ウィルバースとルーベラがルネ機から食らった攻撃の衝撃でエリザベス機から手を放してしまった。それはルネの好機。ルネ機はエリザベス機をがっちり掴んで捕獲した。 「大将!女王陛下の機体が…!」 「分かっている!行くぞ少尉!」 「はい!」 高速度で降下していくルネ機を追い掛ける2人を、ルネ機パイロットは後ろを振り向きながら嗤う。 「国王様が欲しいって言ってるんだもん。渡さないよーだっ!キャハハハ!バッカじゃないのあんたら!さっき言ってあげたじゃん。此処はルネの領空なんだってば!」 辺りの雲が晴れれば、いつの間に。4機のルネ軍戦闘機が姿を現す。彼らを背にエリザベス機を奪取したルネ機パイロットはウィルバースとルーベラを指差し、ウインク。 「不法入国者撃墜しちゃってー!!」 ドン!ドンドン! 「くっ!しまった!誘われたか!直ちに帰投するぞ少尉!」 ルネの新手の威力に勝ち目が無いと判断したのだろうウィルバースはルーベラ機を強引に掴むと、猛スピードでルネ領空を逃げるように飛び去って行く。 「何故ですか!女王陛下を見捨てる気ですか!」 「違う!私は…!」 「大将!!」 「少尉!我々にはイギリスで我々の帰還を待つ国民が居る…!」 「っ…!そんな…!」 強く目を瞑り血が滴る程強く唇を噛み締めたウィルバースの操縦桿を握る右手がずっと震えていた。 一方―――――― 飛び立って行った彼らイギリス軍を見て笑うルネ軍パイロット。 「キャハハ!何?信じらんなーい!そんなに自分の命が大事なわけ?可哀想だねぇエリザベス女王様!キャハハ!ま、いっかぁ。陛下の欲しいモノは傷物になる前に手に入ったんだし!帰るよ〜」 4機の部下を引き連れて、エリザベス機を滷獲したルネ機のパイロットはアンジェリーナだ。 ガー、ガガッ、 アンジェリーナは1人の男性へ通信を繋げる。すると正面モニターに映し出されたのはアントワーヌ。 「はい」 「聞いて聞いてアントワーヌ!陛下に言われた通りエリザベス女王の滷獲に成功したのよ!」 ブイサインをしてみせる彼女に、彼は彼らしくない穏やかな笑みを浮かべた。 「そうでしたか。それはお疲れ様です」 「ねぇねぇ!じゃあさぁ帰ったら同い年の女共より100倍は頑張ってるあたしにチューしてくれ、」 ブツッ! 「なっ?!最悪ー!一方的に通信切るとか有り得ないあの堅物!」 口を尖らせて文句の連発。頬杖を着くと、機内に貼ってあるアントワーヌの1枚の写真を人差し指でつん、とつつく。目尻を下げてもの寂し気に。 「本当よね…?あたしに普通の女の子と同じ生活を送らせるって約束をしてくれたのは本当よね…アントワーヌ?」 5機の戦闘機は、雲が晴れて見えてきた聳え建っつルネ城へ向かって降下していった。 同時刻、 ルネ城国王室―――― 大型テレビに映し出されたアメリカ軍の空上型大型戦艦の映像を何度もリプレイさせて凝視するのはルヴィシアン。その後ろに立って何度もリプレイ操作するのは側近アマドール。 「いつの間にこんな大型戦艦を…しかも空中に…」 そう呟く側近に背を向けたまま、次はテレビ番組を映すよう指示するルヴィシアン。どの番組も今戦のイギリス軍VSアンデグラウンド軍の戦闘という異例の事態の特報一色。 「我が国が一度も映らないとは」 その時。ニュースの映像がキャスターから国際連盟軍アメリカ代表ジェファソンに切り替われば、2人は少しだけテレビ画面に興味を示す。 「今回の異例の事態によりイギリス王国を国際連盟軍から永久追放させる」 「はっ。それで大丈夫なのか?我が国一つも倒せない負け犬共の集まりが」 「そして今戦で初披露となった空上型戦艦。今最も愚かなヨーロッパのルネ王国が我が軍の戦艦に脅威を抱いたのであれば、直ちに降伏するように」 「なっ…!?何様だこいつは!!」 ブツッ! すぐにリモコンでテレビの電源を落としたアマドールはそう怒りつつも内心ハラハラだ。何故なら、ジェファソンにこんな事を言われて馬鹿にされても全くの無反応だからだ。すぐ其処のソファーでくつろいでいるルヴィシアンが。 彼の背しか見えないから彼が今何を思い何を考えているのか全く分からない。だからどの言葉を選んで口から出せば彼の機嫌を損ねずに済むかは検討もつかない。 しん… 無駄に静まり返った室内は息が詰まりそう。 「ふはははは!」 「こ、国王様…!?」 ギシッ…、と背凭れに寄り掛かりながら突然高笑い。まだ背を向けているから彼の表情は分からない。 「面白くなってきたじゃないか。そう思うだろう。なぁ、アマドール?」 「も、勿論でございます!」 くるり。やっと彼が顔を向けた。 「以前提案した通り、至急国民総出で出兵させろ。大国面したあの国に土をつけてやれ」 ルヴィシアンはとても楽しそうに嗤っていた。 [*前へ] [戻る] |