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症候群-追放王子ト亡国王女-
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パァン!

「ふふ。肉弾戦は好きではありませんの」
エリザベス目掛けてバッシュが発砲するがカァン!と音をたてて彼女の真っ赤で通常の倍の大きさの戦闘機に銃弾は弾かれる。
「くっ…!」
頭上から見下ろしてくるエリザベスの瞳に映るバッシュの鬼の形相を彼女は鼻で笑うと、外したばかりのヘルメットをかぶり直す。
「そちらの王様には息を引き取ってもらいましたが、それだけでは今戦の任務を遂行したとは言えませんね。今戦の作戦内容はアンデグラウンド王国の殲滅ですから」
ちっとも絶やさぬ笑顔でそう言いながら開いたコックピットハッチの中へ入ろうと彼女が背を向けた。


カチャ…、

そんな彼女に気付かれぬよう懐の中の拳銃に触れておくバッシュ。
「ロゼッタちゃんもイーデンちゃんも殲滅はするな…なんておかしな考えをお持ちでしたよね。我が国の軍事工場で強制労働させる為のアンデグラウンド人が必要だから?ふふふ。そう言ってアンデグラウンド人を生かそうとしている魂胆が見え見えだというのに。そう思いませんかバッシュちゃ、」


パァン!


キィン!

「なっ…!?」
「あらあら。貴方も魂胆が見え見えのようですよバッシュちゃん?」
バッシュが放った銃弾を、腰に付けていた剣で振り向き様に弾いたエリザベス。


カラン、カラン…

バッシュの足元に転がるのは今彼が放ち、今彼女に弾き返された銃弾。






















ドクン…!ドクン…!

深い所から心音が聞こえてくるバッシュ。表情こそ彼女を睨み付けたままではいるものの、今目の当たりにした彼女の腕前にツゥッ…冷や汗が彼の頬を伝ったのを彼女が見逃すはずが無かった。
「だから先程申しましたでしょう?わたくしは肉弾戦を好まないと。バッシュちゃんと空で戦いたいのです。互いの専用機で」
「っ…!」
「うーん。でも困りましたね。バッシュちゃんの機体でしょう宮殿の外にあった専用機は。あの状態では恐らく60%は破損してしまっています。それではわたくしが楽しめません。他に壊れていない新しい機体はありますか?」
首を傾げてにっこり微笑むが、バッシュはただ下を向き唇を噛み締め拳を強く握り締めたまま立っているだけで返答する気は無さそうだ。ヘルメットの下でエリザベスが冷たいその瞳に、彼を映した時。
「女王陛下!」


ゴオォッ…!

地鳴りにも似た機械音が聞こえてくると1機の青色のイギリス軍戦闘機がすぐ其処に着陸した。コックピットハッチが開けばまだ若い青年の少尉がホッ…と肩を落としていた。エリザベスは彼の方を向く。エリザベスはヘルメットをかぶっているから少尉からは彼女の表情が見えないが。
「ホッ…。良かった。ご無事でしたか陛下。先程ウィルバース大将から女王陛下を本国へお連れするよう司令を受けました。大将はもう次期こちらへ着くそうですが、その前に陛下の身の安全の確保をという事で恐れ多くもアンデグラウンド殲滅部隊の私が陛下をお迎えに参、」


パァン!

「なっ…!?」
「え…?」
少年らしさが残る笑顔を浮かべて母国の君主の為に敵兵の中を命懸けで掻い潜ってきた少尉の腹部を1発の銃弾が貫通し、そこから温かい血が噴き出す。


ブシュウウ!

敵ではあるがバッシュは目を見開き顔が真っ青。それもそのはず、エリザベスを迎えに来た彼女の国の国民である少尉の腹部ど真ん中に発砲したのは、正真正銘エリザベスだったから。




















撃たれた直後は状況が把握できずにいた少尉がその笑顔を浮かべたままゆっくり自分の腹部に目を向ける。
「え…?どうして僕の腹から血が…血…!?」


ドサッ!

「う、うああああ!?」
倒れた瞬間腹を押さえて自分の機体の上で悲鳴を上げて転げ回る少尉。痛みに転げる度に血が噴き出すその光景にバッシュはエリザベスを見るが彼女は自分の機体から少尉の機体へ移ると、蚊を払うかの如く少尉を払い落した。


バシッ!

機体の足元に落下した少尉はもう痛みに叫ぶ事もできず白目を向けて息絶えているのに、血だけは止まる事を知らぬかのようにまだドクドク溢れていた。
「っ…?!」
「さあバッシュちゃん。少尉の機体ならパッと見ではありますが、破損率13%程度。我が軍の機体なのですけれどバッシュちゃんなら機体が変わっても操縦できますよね。それに、ほとんど壊れたバッシュちゃんのあの機体に乗るよりは良いかと思いますの。さあどうぞ!少尉の物だったこの機体に是非乗って下さいな。…あら?」
部下である少尉の物だった機体に右手を差し出して満面の笑みで乗るように彼を誘うが…。


カツン、コツン、

一方のバッシュは下を向きながら1人でスタスタ歩き出すと、エリザベスと少尉との機体の足元の隙間を通って宮殿の外へ出て行ってしまったのだ。そんな彼を目で追うエリザベス。彼女の瞳に映る彼が外に着陸させておいた自分専用機に乗り込む。ロゼッタとの戦闘で右の翼は焼け落ちて頭部も凪ぎ払われ自慢である二刀のサーベルも一刀しかない状態。それでも頑固としてバッシュは自分専用機に乗ったのだ。当たり前だろう、敵に用意された機体に乗るなんてプライドが傷付く以前の問題。





















ガコン!


ゴオォッ…!

コックピットハッチが閉じて地鳴りにも似た機械音がすると、バッシュ専用機が徐々に地面から浮き上がる。
「あらあら。わたくしのせっかくの好意も無視ですか。貴方に戦闘可能な機体を勧めたのは貴方の為ではなく、わたくしの為だというのに。何か勘違いなさっているようですね」
エリザベスは腰に右手をあてて、ふぅと息を吐く。
「これでは5分と経たずにわたくしが勝ってしまうではありませんか。殺し合いは楽しむ事に醍醐味があるというものでしょう?」
コックピットハッチが閉じれば彼女の機体も地上から浮き上がり上昇。宮殿上空に上がれば、既にバッシュが待ち構えていた。
「まったく。半分以上破損したそんな機体でわたくしに勝てると本気で思っているのですか?」


カタカタ、

キーボードに打ち込んでいけばエリザベス専用機内モニターに"起動"の文字が英語で表示される。


ガーッ、ガーッ、

ノイズがしてエリザベスからバッシュへのオープンチャンネルが繋げられる。それをバッシュが無言で開けば、バッシュ機のモニターにエリザベスの映像が映し出された。
「バッシュちゃんご存知ですか?我がイギリス軍トップの名を」
「興味ねぇよ」
「ふふ、でしょうね。知っていれば立ち向かってくるはずがありませんもの。このわたくしこそが女王にしてイギリス軍将軍です」
「だろうな」
「え?」
「命取るか取られるかの戦場にわざわざ自ら出て来るような戦争狂女王が軍のトップをやってても不思議じゃねぇっつってんだよ」
「まあ!ありがとうございます!褒めてくださるので、」
「褒めてなんかいねぇよ!!」
「っ…!」


ドガッ!!

不意を突かれた。バッシュの怒鳴り声と同時に、右手に装備した1本のサーベルがあの赤い光を纏った状態でエリザベス専用機を攻撃。























しかし、エリザベス機の白地に黒い十字架が描かれた大きな盾で受け止められてしまう。だが、案の定サーベルが触れた箇所からエリザベス専用機の盾は熱が一気に広がっていく。ロゼッタとの戦闘時よりも熱の広がる範囲が広いし勢いが倍はある。それは、バッシュが機内で熱量を最大限まで操作しているから。それは彼の怒りが頂点に達している事の表れでもある。
一方のエリザベス。徐々に赤い光に包まれていく自分の盾を機内から見ているだけで盾を引き戻そうともしないから、盾の2/3が既に溶けてしまっている。
「どうした?まだこのサーベルの能力が理解できないのかよ。あんた将軍のクセにココ、超悪いみたいだな」
ココ、と言いながら自分の頭を叩いてみせて彼女を馬鹿にしてみても、モニターに映るエリザベスは無表情で無反応。
「…?」
不思議に思いつつも、こんなにも隙だらけの獲物を仕留めるなら今。バッシュは右手でサーベルの操縦桿を操縦しつつ空いている左手で素早くキーボードを打ち込んでいく。モニターにはミサイル発射の準備が整っていく様が無数の英数字で表示されていく。
「こんな馬鹿の相手してる暇はねぇんだよ。俺は…俺はこの国を守らなきゃいけねぇんだよ…!」

『お前は…前へ進めない…母国すら…守れない…』

「くっ…!」
ロゼッタの死に際の言葉を思い出せば、自分を保たせる為ダンッ!と機内を拳で叩く。
「…あんたの言う通りだ。俺はあんたに執着するあまり、自分の立場すら使命すら放棄するところだった。なら俺は俺の国を守る為にそしてあんたがイギリスを止めたかったように、俺があんたのできなかった事を代わりに遣り遂げる。だから…」
モニターに"発射"の文字が英語で表示された。
「もうちょっと1人で其処から見守っていてくれ姐さん」


ドン!ドン!ドン!

機体から発射された3発のミサイルがエリザベス専用機へ向かう。同時に、バッシュのサーベルの熱に侵されていたエリザベス専用機の盾が真っ赤に染まり跡形も無く溶けた時。盾の後ろに隠れていたモノがギラリと光った。
「なっ…!?」


ドスッ、

それがエリザベス専用機のサーベルでそれが自分の方へ向かってくる…とバッシュの脳が全てを理解するよりもサーベルの刃がバッシュ専用機を貫く方がたった1歩早かった。





















ドン!ドン!

バッシュ専用機が先に発射していたミサイルはエリザベス専用機の背中から現れた対ミサイル用砲撃で呆気なく爆発処理される。


ドン、ドン!

戦争の音は止まない。エリザベス専用機からは銀色に光るサーベルが何と、とても離れた距離からバッシュ専用機を貫いているのだ。それはエリザベス専用機のサーベルが異常に長いからという理由ではなく…
「伸縮自在のサーベル。どんなに逃れようとしてもわたくしからは逃げられないのですよ」
にっこり微笑んでそう言って伸縮性を持つサーベルをバッシュ専用機から引き抜けば…


ドンッ!!

無惨にも周囲の戦争の音に勝る爆発音をたててバッシュ専用機は自機が上げる灰色の煙幕に包まれてしまった。その様をフロントガラス越しからつまらなそうに口を尖らせて見つめるエリザベス。
「あらあら。本当はもっとゆっくりじっくり殺して差し上げたかったのですけれど。この程度で息絶えてしまう人間だったのですね。わたくしの機体性能全てをお見せする事ができなかったのですもの。この戦闘をせっかく楽しみにしていましたのに裏切られた気分ですわ」
地上へ落下するバッシュ専用機の残骸を灰色の煙幕の中からズームしてモニターに映すエリザベスは白い綺麗な歯を覗かせて狂喜の笑みを浮かべる。
「でもとてもお似合いな最期ですよバッシュちゃん。貴方のように力も無いクセに一国の軍のトップを名乗るような世間知らずのガキには、ね」
背を向けてバッシュ専用機から離れて飛行中のエリザベス専用機。他のアンデグラウンド機の位置をレーダーで確認する。この爆発を聞き付けてだろうか、宮殿周辺へ高速度で向かってくるアンデグラウンド機を示す赤の点が6機。
「では、バッシュちゃんにお見せする事のできなかったわたくしの機体能力を貴方がたにお見せするとしましょう。貴方がたのような手駒にもならない一般兵に使用するのは不本意なのですが…。せめて跡形も無く消されてわたくしを存分に楽しませて下さいね」
機体を操縦するものとは別の操縦桿をエリザベスはぐっ、と思い切り押し倒した。
一方、エリザベス専用機へ向かって高速度で飛行するアンデグラウンド軍戦闘機6機。宮殿周辺の上空が黄色く眩しい光でピカッ!と光った。
「っ…!?眩しい!何だ?あの光、」
次の瞬間。360°辺り一帯をその黄色く眩しい光が音も無く飲み込めば、走馬灯を見せる時間はおろか悲鳴を上げさせる時間すら与えずアンデグラウンド軍6機は勿論、周辺の城下町が一瞬にして吹き飛んでしまった。


ドォンッ!!

その光が消えればシャングリラ宮殿はギリギリ飲み込まれなかったが、飲み込まれてしまった城下町はぽっかりと無くなっていた。建物の残骸すら何一つ残さず。例えるならば、その町にだけ隕石が落下してぽっかり穴が空いてしまったかのような状況。大きく抉れた地面の其処に城下町があったと誰が信じるだろうか…。
煙が晴れると辺り一帯に鼻を刺す焦げ臭さが充満する。周辺で戦っていたイギリス軍人達は自機のフロントガラス越しから見えるぽっかり抉れた城下町に苦笑いだ。
「は…はは。見ろよジョン。女王陛下だ…きっと女王陛下だぜあれは」
「間違いねぇ…町一つ一掃しちまう兵器を積んでる機体もあんなえげつない事ができるのも女王陛下しかいねぇ…」
「けどさすがにやり過ぎじゃ…」
「はっ、ジムお前そんな事を陛下の前で言ってみろ。首を飛ばされるぞ。…好機だ。ロゼッタ少将が裏切ったせいで俺達天下のイギリス軍がこんな弱小国家に土をつけられる所を救って下さったんだ陛下が!」
「その通りですよ君達」
「トーマス少佐!」
「ではこの有り難き好機を最大限有効活用し終わらせましょう。いきますよ、アンデグラウンド殲滅作戦です」
「了解」
トーマスは不敵な笑みを浮かべると部下達を従えて、アンデグラウンド軍の部隊へと特攻して行った。























一方、
アンデグラウンド軍――――

戦闘機から見下ろせる惨状に一同呆然。髭を生やした男性パイロットは機内で頭を抱えて目を見開く。
「あ…ああ…城下町が…リンダ…ジェレミー…!」
「家族の死を嘆いている暇は無いぞブライアン大尉!大、」


ドンッ!

城下町に残してきた妻子の死を嘆いていた大尉は同胞の中佐に声を掛けられても我に返れず。その隙をつかれ、遠方からのイギリス機砲撃1発で撃墜されてしまった。
「大尉!!」
中佐は部下達と共にイギリス軍の砲撃を回避しつつ、耳から口にかけたイヤホン型通信機の電源を入れる。
「チッ…!バッシュとの通信が繋がらない以上どうしようもないな!…総員に告げる!これ以上民間人に被害が及ばぬようまずはあの大量虐殺兵器を積んでいる赤い機体の破壊を優先させる!フォーメーションを崩すなよ!そこをつかれる!」
「了、」
「わたくしの破壊を優先するのですか?」
「なっ…!?」
レーダーが感知するよりも早くエリザベスの声が全てのアンデグラウンド機オープンチャンネル越しに聞こえれば、一瞬にして血の気の引いた中佐は冷や汗を伝わせながら機体ごと後方を向く。


ビー!ビー!

其処には今ようやくレーダーが感知したエリザベス専用機が真後ろに浮かんでいた。機体がまるで中佐達を嘲笑っているかのように見えた。
「そ、総員直ちに後退、」
「させませんけれどね」
「なっ…?!」


ドンッ!

中佐の怯えきり見開かれた瞳に再びあの眩しい程の黄色の光が放たれて一瞬の出来事だった。次は城下町から離れたアンデグラウンドの民間人が最も多く避難している防空壕が五つある街に、黄色い光の爆弾が放たれた。
「う、嘘だろう…」
中佐の部隊は勿論、地下深くにある防空号まで一瞬で吹き飛ばされてしまった。もはや涙すら流せない。声も出せない程の残虐さにアンデグラウンド軍は呆然。
「嘆いている暇は無いと先程同胞にも忠告したばかりでこの様か愚かなアンデグラウンド軍!!」


ドン!ドンッ!!

アンデグラウンド戦闘機を次々とサーベルで撃墜していくイギリス軍。

























上空のあちこちで真っ赤な炎と黒煙が上がるその様を頬に手を添えて機内からうっとり見つめているのはエリザベス。
「まあ。何て美しい花火なのでしょう!広国土しか取り柄のない弱小国家のアンデグラウンドがこんなにも素晴らしいショーを見せて下さるなんて光栄ですわ!あははははは!」
口に手を添えて今までに見た事の無い程満面の笑みで高笑い。心から戦争を楽しんでいる彼女のその様を人と呼べるだろうか?
「ふふ。わたくしにもっともーっと見せてくださる?美しい花火を!」
「ざけんじゃねぇよ!!」
「…!!」


ドガッ!!

突然ノイズに紛れて繋がった敵機からのオープンチャンネル。先程撃墜したはずの人間の声が再び聞こえてエリザベスが機体ごと後方を振り向く。すぐ真後ろにはトーマス機と刃を交えているバッシュのボロボロの戦闘機の姿があった。
「ご無事ですか女王陛下」
「まあトーマス少佐!わたくしを助けに来て下さったのですか?」
「はは。彼は何ぶんなかなか諦めの悪い小僧でしてね」
エリザベスを仕留めに再びやって来たバッシュ機とサーベルでぶつかり合い火花を散らすトーマスからは笑顔さえ見受けられる余裕振りだ。
一方のバッシュ機は右の翼と頭部と左サーベルが無いという本来では危機的状態の上、先程エリザベスに貫通させられた機体の両脚と左腕が無い。唯一残った機体部分も焼け焦げている為、本来であればとっくに戦闘不能。そんな彼の機体を見下して鼻で笑う。
「あら!その機体状況で生きていたのですか?バッシュちゃん貴方は一体命を幾つお持ちですの?」
なんてエリザベスが皮肉を言っても彼は無反応。





















「ははっ!その機体状況で私達に立ち向かうとは。度胸だけは認めてやりますよバッシュ!」
「てめぇの相手をしてる暇はねぇんだよ!!」
「っな…!?」
目の色が変わればバッシュは息の根を吹き返したかの如く敵に抵抗させる隙を1秒たりとも与えず、1本となったサーベルでトーマス機を何度も何度も斬り付けるではないか。


キィン!キィン!!

バッシュの猛攻に手も足も出ないトーマスはチラッ…と後方を見て冷や汗を伝わせる。
「くっ…!女王陛下が見ておられる前でこの私を…!調子に乗るな小僧!!」


ドン!!ドンッ!

「っ…!くそが!!」
女王に認めてもらいたい貴族になりたい一心なのだろう。トーマスは見開いた目を血走らせ怒鳴り散らせばミサイルを機体下部から連続して発射。これにはさすがのバッシュも顔を青くしてすぐに機体を後退させつつミサイルを回避又はサーベルで凪ぎ払う。一方バッシュに事極命中しないからトーマスの額に青筋が立つ。
「ちょこまかと!!」


ドンッ!ドン!

馬鹿の一つ覚えのようにミサイル攻撃ばかり繰り返すトーマスを上空から見下ろすエリザベスは左頬に手を添えて溜息。
「はぁ。トーマス少佐ったら。ミサイルを放ちつつバッシュちゃんがそれに気を取られている隙にサーベルで墜としてしまえば良いというのに」






















高見の見物もつまらなくなったのだろう。好戦的なエリザベスはバッシュとの戦闘に夢中のトーマスに通信を繋げる。


ガー、ガガッ、

「トーマス少佐?」
「お、お待ち下さい陛下!今!今すぐにこの小僧を私が!!」
「ふふ。期待していますよ。それではわたくしはその間に少しお掃除してきますわ」
優しい声でアンデグラウンドの人間を殺傷する事をそう例えるとエリザベスは背を向けて駅やビルが建ち並ぶ中心街へ飛行していく。その姿を見逃さなかったバッシュは、トーマスのミサイルを凪ぎ払うとエリザベスの後を慌てて追い掛ける。
「行かせるかよ!!」
「それはこちらの台詞ですよ小僧!!」


ドガッ!

「ぐっ…!邪魔なんだよあんたは!!」
トーマスの脇を過ぎる時にまたも攻撃をされ足止めを食らいイラ立ちが増すバッシュだが、トーマスの攻撃に対応しなければこちらがやられる。気持ちばかりが前へ前へと焦るのに身体は足止めを食らっていて進めないもどかしさ。
「軍の統率者なのでしょう?!」
「それが何だっつーんだよ!!」
「裏切り者から我が軍の戦略と機体弱点を教えてもらいながらこの様ですか?バッシュ。君はアンデグラウンド将軍なんてものは名ばかりで若いが故に、年配者ばかりの軍を統率できていないんじゃないのかな?」
「っ…!うるせぇよ!!」
トーマスの挑発に乗せられては命取りだ!と心の奥から声が聞こえるのに身体がいう事を聞かない。怒り任せにサーベルで闇雲に斬り付けるから、軽々かわされてしまう。
「そういうところですよ君の弱点は。若いが故に頭に血が昇り易く自分をコントロールできなくなり、果てには周りが見えなくなる。だから挑発に乗せられ自ら手をかけてしまったのではないかなぁロゼッタ少将に」
「っ…!!」


ドクン…!

深い所で心音が聞こえるバッシュ。一方のトーマスは白い歯を覗かせると次のミサイルを発射するボタンに手を触れた。その時。


ドンッ!!

「おや。はっはっは。これはこれは。おいたが過ぎますねぇ女王陛下は」
遠くでまたあの光が光った。また街がエリザベス機に一つ吹き飛ばされた事を意味する光だ。





















そんなえげつないエリザベスにトーマスは肩を竦めながら笑う。
「はっはっは。さすがは女王陛下。やる事に無駄が無い。そう思いませんかバッ…居ない!?」
さっきまで目の前に居たはずのバッシュ機の姿が忽然と消えていたのだ。すぐに機内のモニターを確認するが周囲に敵反応無し。慌てて辺りを見回す。
「なっ…!?この一瞬で何処へ消えた!?くっ…!これでは陛下に会わせる顔がない!」


ビー!ビー!

「敵反応!?」
すると、敵反応を示すレーダーからのサイレンに機体ごと辺りを見回すがそれでもバッシュは居ない。レーダーでは後方を示しているのに。
「くっ!何処に居る小僧!!」
「機体中央…左部…」
「なっ…!?何処からだ!?…まさか!」
トーマスが上空を見上げた時。雲の切れ間から一筋の赤い光がキラリと光った。
「機体中央左部を貫けば姐さんの仇が討てる!!」
「んなっ…!!」


ドスッ!!

すぐ戦闘態勢を整えたトーマスだが、バッシュ機を見つけるのが遅過ぎた。わざとレーダーが感知できない上空高度に身を潜めてトーマスの隙をついたバッシュ。上空から最高速度で降下して、熱を纏ったサーベルでトーマス機コックピットがある機体中央左部を一突き。
「じょ、お、へ…ぐああああ!!」
サーベルの熱に耐えきれなくなった彼の全身から血が噴き出せば人体が消滅すると同時に機体は爆発。


ドン!ドン!ドンッ!!

バラバラと焼け焦げた彼の機体の破片が火の粉の雨となり、抉れた城下町へ落ちていった。


















「はぁ…はぁ…っぐ…!姐さん…あと1人だよ…あんたを人間に見なかった奴をあと1人殺れば終わるかもしれない…だからあんたを消した俺が代わりに今…」


ドンッ!ドン!

「う、嘘だろ…」
容赦無く降り注がれた光。2発の爆発音と光々と広がるあの光が見えてすぐ黒煙が晴れた其処にはまた新たに兵器を落されたアンデグラウンドの街が二つ消滅させられていた。
「ぐっ…!」
頭部や全身から滲む血。眩暈がする。しかし最後の頼みの綱である気力を自ら手放してしまえば、全てが終わってしまう。


ダァンッ!!

右手拳で機内を殴り意識を保てば、今の機体が出せる最高速度でエリザベスの元へと急加速して行くのだった。



































一方のエリザベス――――

たった数10分の間に五つも街を吹き飛ばしたエリザベスは、まだ尚自軍に対抗してくるアンデグラウンド軍達の事を戦闘空域から少し外れた場所から眺めていた。頬杖を着いて鼻歌まで歌いながら。
「ふんふふ〜ん♪お可哀想に。王様がお亡くなりになられてしまったアンデグラウンドは軍統率者のバッシュちゃんが降伏を認めない限り軍人はおろか、民間人への被害が拡大する一方ですわ。まだガキに国を任せたアンデグラウンド悲劇の末路。うーん。それにしてもこんなに美しい光景またお目にかかれるか分かりませんわ。記念に写真におさめておきましょう!」
機内から敵機調査用カメラを取り出せばフロントガラス越しにレンズのピントを合わせる。あちこちの街が抉れた母国でまだ尚戦い続けるアンデグラウンド軍達に。
「はーい皆さん笑顔の準備は宜しいですか?では撮りますよー!はいっポー、…!!」


ドン!!

「くっ…!いつの間に!?」
ピントがぴったり合った時。タイミングが良いのか悪いのか。エリザベス機フロントガラス真ん前に現れたバッシュ機が赤い光を纏ったままのサーベルを思い切り振り上げたのだ。寸のところで後退して直撃を免れたエリザベスだが回避する際に機体左部を擦ってしまった。


ビー!ビー!

すると機内には機体異常を知らせる嫌なサイレンが響く。
「チッ…!」
モニターには今サーベルを擦った機体左部が赤く点滅している。これはその部分の破損を意味する。擦った部分からじわじわ熱が広がり、エリザベス機をゆっくりゆっくり溶かしていく。





















「死に損ないはおとなしくしていてくれません?!」
明らかにイラ立っているエリザベスは自慢の伸縮自在のサーベルを取出してバッシュ機に振り落とすが、かわされる。しかしすぐにサーベルを伸ばした。
「わたくしのサーベルの性能はご存知でしょう!!」
「だからだよ!!」
「なっ!?」


ガッ!

サーベルが伸びてバッシュ機に届く前にそれを自機のサーベルで受け止めたバッシュ。それを目の当たりにしたエリザベスの顔が初めて青くなった。
「…!!まさかわたくしがサーベルを繰り出すようにわざと誘ったのですか!」
「ご名答。あとはその大量虐殺兵器をぶっ壊せばあんたはもう脅威でも何でもねぇんだよ。はっ、あんたも俺と同じだな。頭に血が昇上ると普段できる正確な判断もできなくなる」
「くっ…!貴方のような愚民とわたくしを一緒にするのはおやめなさい!!」
バッシュ機サーベルの触れた箇所から赤く染まり溶け出すエリザベス機サーベル。その隙に、エリザベス機下部に付いているあの兵器の発射口目掛けてバッシュ機が下へ潜り込もうとするが…


ガッ!!

絶対に行かせまいとばかりに溶けつつあるサーベルでバッシュ機を攻撃。彼もサーベルで彼女の攻撃を受け止める。しかし触れれば触れる程彼女の方が不利になるというのに彼女がこうせざるを得ないという事は、彼女の戦闘機にはこれ以外の特殊武器はもう備わっていない事の表れ。バッシュは内心ホッ…とするがまだあの大型兵器を破壊できていない。油断できない状況は続く。
「まったく!子供は子供らしくおとなしくお家でわたくし達に怯えていれば可愛いものを!」
「あんたは騙されていたんだ!!」
「はい?」
「トーマスの野郎だよ!あいつが改竄したんだ!姐さんは同盟国であり同じ連盟軍であるアンデグラウンドを攻撃したイギリスが世界から非難される事を恐れた。だから、俺にあんたの軍の戦略や弱点を漏洩した!自軍が圧倒されればあんたが気付いてくれると思っての行動だったんだよ!気付かなかったのかあんたは!!」
「…何に気付くのでしょうか?」
「こんなのはただの虐殺でしかないって事にだよ!!」
サーベルで互いに火花を散らしながらオープンチャンネル越しの会話。フロントガラス越しから目が眩む程の青い火花を感じ取りながらエリザベスはポカン…と空いていた口をニヤリと笑ませた。






















「ふふ…はは…あははははは!」
「なっ、何笑ってんだよ!?狂ってんのか!!」
「そうでしたかそうでしたかぁ。優しいのですねロゼッタちゃんは。わたくしの事を思って」
「そうだよ!何で気付けなかったんだよあんたは!」
「けれど理由がどうであれ、彼女が裏切った事に変わりは無いですわ。それ故に多くの愛しい愛しいイギリス軍人の方が命を落としてしまいました…」
モニター越しに目尻を拭う演技クサイ彼女に対して歯をギリッ!と鳴らす。
「さっき平然と部下を殺したてめぇが言う言葉かよ!!分かってんだよ!てめぇが大馬鹿な戦争狂だって事は!」
「知っていますかバッシュちゃん。ロゼッタちゃんは確かに、不当に領土を獲得する戦争に一度で頷いてはくれない性格の子でした。けれどそれに対し一度も反発した事は無かったのです。今までは。なのに、今回のアンデグラウンド殲滅作戦を告げた時彼女は初めてわたくしに面と向かって反発しました。どういう事かご理解して頂けましたでしょうか?」
下を向いたまま優しい声で問うエリザベスの真意もロゼッタの真意も解らず言葉を飲み込む事しかできずにいるバッシュ。
「え…な…何が言いたいんだよあんたは…」
「知っていたのです。わたくしは。ロゼッタちゃんが反発したあの日から」
「何をだよ…!」
エリザベスは瞳孔を見開き、裂けんとばかりに口を大きく開いてにんまり笑った。
「ロゼッタちゃんはわたくしとイギリスの為に裏切る、と」
「…!!」


キィン!!

一瞬にして頭に血が昇っったバッシュが再び振り下ろすサーベル。それを軽々受け止めるエリザベス。
「ふふ。バッシュちゃんの逆鱗はロゼッタちゃんのようですね」
頭部や口から血を流しながらもつり上げた目を見開くバッシュ。
「ならどうして見殺しにした!!」
「あらあら。やめて頂けませんか。まるでわたくしが殺したかのように言うのは。殺したのは貴方でしょうバッシュちゃん。それにこちらの計画まで狂わせましたし。はぁ。こんなところでロゼッタちゃんを失うなんて想定外ですわ。バッシュちゃんと会っていなかったらロゼッタちゃんもこんな事にはならなかったのでしょうね」
「俺がいなけりゃ良かったのかよ…!」
エリザベスは満面の笑みで両手を口の前で合わせる。
「まあ素敵!敵同士の恋って美しいですよね!でもそれはお話の中限定です。現実ではそんなモノただの自己中心的な人間が行う迷惑極まりない行為。感情を一切持たない人間がいれば好都合なのですけれどね。はぁ。本当残念です。ロゼッタちゃんはわたくしの優秀な駒でしたのに」
「俺の女を侮辱するのもいい加減にしろよ!!」


ドガッ!ガンッ!ドガッ!

堪忍袋の緒が切れたバッシュが一旦彼女から離れ間合いを取ってからすぐサーベルで猛攻に出る。だが彼女はかわしつつ自機のサーベルで攻撃仕返す。























「ふふ!なら優しい優しいわたくしがバッシュちゃんを連れて行って差し上げますよ。ロゼッタちゃんの元へ!!」
エリザベスが目を見開けば彼女の機体の背から三つの発射口が現れてバッシュ機に向いた直後。


ドン!ドンドン!ドン!

「ぐあああ!!」
発射口は三つにも関わらず目にも止まらぬ速さで計12発発射された砲撃を食らったバッシュ。彼の機体を隠す程の黒煙が上がるのも余所に、次の街へすぐ発射口を向けるエリザベス。
「では次いきまぁす!」
首を右に傾げながら右腕を可愛く上げてレバーを押し倒そうとするが…


ガチャ、ガチャ、

「あらら?」
虚しい音がして倒せない。故障か?まさか。すぐにモニターで外の様子を映せば彼女ははぁ…と頬に手をあてて溜息を吐く。モニターには機体下部に付いている発射口を何とかサーベルで食い止めているバッシュ機が映っていたから。バッシュ機は機体の右側が大破して外からコックピットが見えている程の戦闘不能状態だというのに。
「はぁ。まったく。本当貴方はいくつ命を持っているのです?呆れるを通り越して尊敬すらしちゃいます」


ガッ!

半分は溶けてしまったがまだ剣の形は辛うじて残っているサーベルで蚊を払うかの如くバッシュ機を凪ぎ払えば、待ってましたとばかりにレバーを押し倒すエリザベス。発射口に黄色の光が溜まっていき…
「では、発射♪」


ドォンッ!!

また首を傾げて満面の笑みで街を指差せば、発射口からあの黄色の光が放たれた。傍でその光の熱を感じ取りつつ意識朦朧の中それを霞む瞳で捉えたバッシュは震える右腕をフロントガラスの方へ伸ばした。
「れ、は…アン…デ…ン、ド…を守れな…の…か…」
あの光が辺り360°一帯に広がり、街を徐々に飲み込んでいく。
「とっても美しい花火です事!」


ドッ!!

「!?」
街が飲み込まれていく時。遠方から青い一筋の光が天から降り注ぐと、黄色の光の威力が下がり、街は半分の消滅に留まった。


ビー!ビー!

敵機感知のサイレン。後方だ。新手の出現にエリザベスが機体ごと後方を向いた時。


ドン!ドン!

「ぐああああ!」
「あああああ!!」
辺りで街が消滅していく様を暢気に見物していたイギリス軍戦闘機が次々と先程の青い光によって一撃で撃墜されていくではないか。






















「何事ですの!?」
エリザベスは目を見開き、彼らの元へ高速度で飛行して駆け寄る。
「フォーメーションを崩しなさい!こだわっていては全滅してしまいま、」
「女王陛下!!」
「え、」


ドンッ!!

駆け付けたエリザベスに向けて放たれた青い光を受け止めた部下の機体が、彼女の目の前でオレンジの炎を上げて散った。





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あきゅろす。
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