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症候群-追放王子ト亡国王女-
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「ちょっと何でこうなるのよ!」
寝惚けている間に連れられ、トラックの中での五日間という長い間詳しい話も聞かされないまま辿り着いたのは新生ライドル王国城。
ジャンヌは不機嫌で、眉間に皺を寄せて目元を痙攣させている。彼女にしてみれば、ただのルネ王国の貴族が他国の王女と関係を持っている事は不思議で仕方ない。
前を歩くヴィヴィアンの肩を力強く掴むと、彼は嫌そうに顔を歪めながらも振り返る。
「何?」
「何、ってこっちが何?よ!」
「よくある言い合いだね」
「笑ってんじゃないわよ!何であんたみたいな王族でもない人間が他国の王女と知り合いなのよ」
ヴィヴィアンは呆れて天井を見上げ溜め息を吐くと、ジャンヌには背を向けて前に向き直し、ラヴェンナと2人の軍人…の後ろを歩いて行ってしまう。質問にも答えてもらえず、人を小馬鹿にしたような表情且つ溜め息までされては、ジャンヌの怒りは増す一方。






















隣を歩くアンネを抱き抱えると走り出し、追い付いたら隣を歩き出す。
睨んでみるのだが、ヴィヴィアンは気にも留めず涼しい顔をして歩いている。
「ちょっと!質問に答えなさいってば!あんた頭悪いでしょ?」
「頭は君よりは絶対的に悪くないし、しっかり聞こえていたよ」
「じゃあ何で、」
「何で?ベルディネが僕の話を聞いていなかったからだよ。僕は此処へ来るまでの車内でちゃんと説明をしました。僕の父はルネで暮らしていたけれど実際はライドルの人間で、王に仕えていた軍人だったから王女とも関わりがあるわけで。それで僕は王女と婚約をしていたんだけれど、ルネとの勝手な戦争のせいで離れ離れ。婚約は自動的に破棄」
半分は嘘で、半分は事実な話。ジャンヌには全てが事実だという事になっている。人間はなんてこんなにも容易く嘘を吐けてしまうのだろう。
「その元婚約者があんたを迎えに来て、何でこの国まで連れて来てるのよ」
「僕が悪政ばかりのルネを嫌いな事は彼女も知っているからさ。彼女なりの優しさかな」
未だにジャンヌの頭の中は混乱していて、婚約、破棄、優しさ、悪政、など様々な単語が彼女の頭の中を渦巻いている。
一度自分の頭を軽く叩くと、どんどん進んで行くヴィヴィアン達の後をついていく為また走り出した。

































行き着いた場所はとても大きくて広い部屋。壁の上部には歴代のライドル国王の肖像画が飾られている。
再建したばかりとあってか、まだ数枚しか飾られていない。部屋全体はキラキラ輝く金色の坪や壁画。見た事の無い文化に感動しているジャンヌとアンネの瞳は輝いていて、口はだらしなく開きっぱなし。
そんな2人を呆れながらも微笑むラヴェンナと、完璧に呆れて冷ややかな視線を送るヴィヴィアン。
一方。2人の軍人は一つの大きな扉の奥にある一室へヴィヴィアンを案内して、3人で入って行った。
「おい」
未だに感動している2人をラヴェンナが大きな声で呼ぶと、2人は我に返りこちらを向く。
ラヴェンナは2人の細い手を優しく握り、白い綺麗な歯を見せて満面の笑みを見せる。その後力強く引っ張られて有無も言わさず、ヴィヴィアン達が入って行った部屋とは反対側にある部屋の中へ入るのだった。































室内へ入ると、女性用のたくさんの服が綺麗にハンガーに掛けられて並んでいる。部屋の壁画はとても美しく所々にキラキラ輝く宝石が埋め込まれている事もあって、服がより一層輝いて綺麗に見える。
再建したばかりのライドル王国は占領した旧モナ王国の城をそのまま使用している。けれど、これから時が経てばモナの文化は跡形も無く消されていくのだ。
壁画に埋め込まれている宝石の輝きは美しくもあり、どこか寂しくも感じられた。
「さーて。まずはそこの小さいお嬢様からだな!何色が好きだ?」
ラヴェンナは元気で明るく、アンネの顔を覗き込む。不安にさせないようにしているのだが、逆に彼女の声の大きさにアンネは驚いているようでジャンヌの足にしがみ付き、左半身をジャンヌの後ろに隠している。
「困ったな。あたしは駄目男に対しては鬼だが、それ以外の奴等には優しくしているつもりなのだが」
頭を掻き、溜め息を吐く。
「あの…」
「ベルディネ王国王女ジャンヌ・ベルディネ・ロビンソン」
「え」
「お前は確か白が基調のドレスを着ていたよな?という事は白が好きなんだな!そうだろう?」
ラヴェンナは勝手に1人で話を進めて、ジャンヌに合うドレスを探し始めたのだ。

























トラックの中ではラヴェンナの姿を少し見かけただけだし、彼女はヴィヴィアンや軍人とばかり話をしていたので、面と向かって会話をするのは今が初めてだ。服選びに夢中でこちらに背を向けているラヴェンナを見る。
「…変な事聞くけど」
「何だ?別に構わないぞ」
「これって罠じゃないわよね?」
「罠?はは、童話だったら罠の展開かもしれないな。大丈夫だ。ライドルもあたしも、ルネやそこらの大国みたいに腹の中真っ黒ではないしライドルは卑怯な事を嫌う国だ。安心しろ」
力強い眼差しで微笑んでくれたラヴェンナからは嘘を吐いているようには到底見えない。それだけですぐ安心をしたジャンヌは小さく息を吐き、緊張で上がっていた肩が自然と下がるのだった。
「これはどうだ?」
白く、所々にラメが入った綺麗なドレスをジャンヌの前に差し出す。腰には大きな白いリボンがついていて可愛らしい。
ドレスなど着るのが面倒な服は全て城の侍女達に着させてもらっていたジャンヌは1人で上手く着る事ができず、ラヴェンナに手伝ってもらう。
そんなやり取りや話をしている内に早くも打ち解け合った2人からは、楽しそうな笑い声まで聞こえてきた。
「ねえ、ラヴェンナ。私は何の為にあいつに此処へ連れて来られたのかな。あいつ、私の事嫌ってるのよ。いちいち有り得ないくらい冷たいし」
ジャンヌの言葉に、ラヴェンナの鼓動は一瞬だけ大きく鳴る。
日本や他の同盟国との外交の為にヴィヴィアンがジャンヌを連れて来ただなんて言えない。表情も声も変えず、動揺しないよう慎重に言葉を探す。
「友達だから、じゃないのか」
「友達?それはまず有り得ないわね」
「そういえば、ベルディネの再建がどうとか…」
ラヴェンナは言った後失敗ってしまったと思ったが、もう遅い。
"ベルディネの再建"
という嘘を吐いてジャンヌを連れて来たヴィヴィアンの真の目的は、かつてベルディネと親しかった国との外交。そんな事も知らないジャンヌの顔には"ベルディネの再建"という言葉を聞いた時、一瞬笑みが浮かんでいた。
ラヴェンナは胸が痛む。別に自分が計画した事ではないのだが、やはり結果的に誰かが傷つくのは見ていて気持ちの良いものではない。
ドレスについたリボンを整えて、立ち上がるラヴェンナ。
「よっし、完成だぞ」
「こんなに可愛い服を着ていたらあいつ、絶対に馬鹿にするわ」
「馬鹿になんてしてきたらあたしに言え!ぶん殴ってやるからな、安心しろ」
「うん、ありがとう」




































一方。
既に服を着替え終えたヴィヴィアンは軍人に連れられ、城の調度真裏にあるまだプレハブの軍本部へ訪れていた。
ライドルが占領する際にモナ軍の本拠地だった此処は壊滅させられてしまったので今はまだプレハブで、隣に大きく新しい軍を建築中なのだ。
煩いくらいの機械音、人々の怒号が飛び交う。
新しく着用した白いブラウスの上に黒のカーディガン、そして黒のズボンのヴィヴィアンの姿は軍服を着た軍人ばかりのこの場にはとても珍しい。案の定、軍人達は横目でこちらを見ては通り過ぎて行くそんな人々の姿を楽しむように微笑。
「まだまだみたいだね。でも旧ライドル王国が使用していた機体なども少しは残っているんだろう?」
「はい、それに加えましてモナ国の機体も少々」
「モナの機体なんて必要無いよ。小国の兵器なんて使い物にならない」
微笑しながら言って軍内へ入って行くヴィヴィアンの背を軽く睨みながらも、軍人2人は言いたい言葉を堪え、後ろに続く。























まだ人数も戦闘機の数だって少ないこの軍はルネ軍とは桁違いの力だろう。辺りを見回しながら周りの軍人達に聞こえないよう、隣を歩く軍人に小声で話し掛ける。
「名はどうしたら良い?」
「はい。ラヴェンナ様の婚約者、という事でしたのでまだ御結婚をされていませんでしたから王族以外の人間はヴィヴィアン様の事を知らない様です」
「じゃあ…ヴィヴィアン、とだけ名乗っておけば良いのかな」
「その様です」
「おいタージ!お前、こんな所へ民間人を連れて来てどういうつもりだ?こんの、馬鹿野郎がぁ!!」
怒鳴り声がして、顔を上げると、1人だけ赤の軍服を着た坊主頭の大柄な男が立っていた。恐らく将軍なのだろう。
この男の分厚い唇から出た言葉に、ヴィヴィアンに付き添っていた軍人はおどおどして、あのその…の一点張り。全く頼りにならない。
この男もこの軍人の事は相手にしていないようで、ギョロッとした大きな目でヴィヴィアンを睨み付けてくる。
「おめえ、自分でしっかり名乗れ」
ヴィヴィアンは左胸に手をあてて、含み笑いする。
「僕はラヴェンナ様と以前お付き合いをさせて頂いておりましたヴィヴィアンと申します。ラヴェンナ様、そしてこのライドル王国を守るよう国王様から命じられたのです」
――この男、ルネとライドルとの戦争では黄色軍服だったはず。前の将軍は戦死でもしたのか?――
「おめえ、何処の国の人間だ?」
「ルネですが」
「ルネ!?」
男は大きな目を更に大きく開いて、大声で叫んだ。
ライドル人は肌の色が他国より濃い褐色だから、白人のルネのヴィヴィアンの肌の色は目につく。変に嘘は吐かない。それに国王からの命令とあれば、絶対王政の国では誰も逆らえまい。
男の声に、辺りを忙しなく走っていた軍人達の足もピタリ…と止まり、こちらを見る。


























眉間に何重もの皺が寄った男はルネへの怒りでいっぱいだという事が一目で分かる。焦った付き添いの軍人はヴィヴィアンを庇うように前に立ち、必死だ。
「ゴ、ゴア将軍しかしですね、彼の軍入隊も国王様から彼が命じられたのでありますし」
「そうです。同様に、彼のライドル軍将軍任命も命じられておりま、」
"将軍任命"
この言葉にゴアという名のライドル軍将軍の怒りは一気に頂点へ達したのだろう。話をする軍人の1人を、肘で思い切り突き飛ばしたのだ。


ドン!

「うぐっ!」
苦しそうに声を上げて藻掻く。


ザワッ…!

辺りは騒つき、さすがのヴィヴィアンも目を丸める。ゴアに顔を向けてみると、彼の目はつり上がり、怒りで血管は浮きでていて体は小刻みに震えているし、強く握り締められた拳が今にもこちらへ飛んできそうだ。
「ふざけた事ぬかしてんじゃねぇ!この国の将軍は俺だ!前将軍が死に際に言ってくれたんだ、ゴアにこの国の平和を任せたってなあ!!」
「し、しかし将軍!将軍の今の態度は国王様に背くという立派な犯罪、」
「うるせぇ!そんなの関係ねぇ!こんなひょっこり出てきたガキに譲れるわけねぇだろ!力も実際に見てねぇってのに何で俺が地位もプライドまでも傷つけられなきゃいけねぇんだ!」
叫び暴れるゴアの右拳はヴィヴィアンに向かって勢い良く飛んできた。その瞬間、周囲の野次馬軍人達は強く目を瞑る。


























恐る恐る目を開け、目の前に飛び込んできた光景に軍人達は驚いて目を丸め、口をだらしなく開いたまま。
何とゴアの大きな拳をヴィヴィアンは片手で掴んでいたのだ。手は震えていてどことなく辛そうにしてはいるが、しっかりと掴んでいた。これには筋力自慢のゴアも唖然としてしまう。
掴んでいた拳を乱暴に振り払うと額の冷や汗を拭い、微笑んだ。
「そうですよね。僕が貴方の立場でしたらいくら国王命令と言われても実力も知らないましてや敵国に将軍の座を譲るのは躊躇いますね、人間ですから」
「は、はは…やっと理解したみてぇだなガキ」
先程までの威勢は何処へいってしまったのか。ゴアは腕を組んでヴィヴィアンの言葉に答えてはいるが、組んだ腕と声は震えている。
そんな彼を見て、ヴィヴィアンは気付かれないように鼻で笑う。
「ではお相手願います。ゴア将軍?」
人を馬鹿にした笑い混じりの言葉に怒りが再び込み上げたゴアだが、ここは何とか自分を抑えて笑い返す。
「はっ、良い度胸してるじゃねぇかガキ。じゃあ裏にある訓練場で体術を、」
「何を仰るのです、体術?今の世に接近戦なんて古過ぎますよ」
「なっ、てめぇ言わせておけば…!」
「此処で戦闘機を使用するわけにはいきませんから…そうですね拳銃。つまり射撃。これで勝負しましょう。筋力だけあっても無駄だという事を教えて差し上げますよ」
こんなにも不気味で腹の立つ悪魔のような笑みをする人間を見たのはゴアをはじめ、ライドルの軍人達は初めてだった。
































裏に位置する、荒れ地にただ的を置いただけの殺風景で簡素射的場。
その中心部でヴィヴィアンとゴアは拳銃を2丁所持して向かい合う。
軍人達が大きなコンテナを辺りに設置して実際の戦場のようにしていくと、的しかなかった殺風景な荒れ地にはたくさんのコンテナの山々だらけになった。
コンテナを使って身を隠しながら撃っても良いし上に乗ってから撃っても良い。撃つ、といってもゴアの左肩に付けたライドル王国の国旗型の銀色のバッジをヴィヴィアンが地に撃ち落としたら将軍として認めてもらえるというもの。制限時間は8分。
――こんな事をしたって王権が尊重されている国。国王には逆らえず僕が将軍になるのに。まあ僕の実力を、脳筋君に見せ付けてやるのも悪い気はしないし――
生命に関わる事では無いのに、軍人達は2人の事を遠くから心配そうに見ている。ほとんどいや、軍人全員は自分達の尊敬する将軍ゴアを見守っていたが。



























1人の若い軍人が2人の間に立ち、勢い良く腕を上に挙げたのが開始の合図。
「うおおおお!」


パァン!パァン!

大声で叫びながら無我夢中でヴィヴィアンに発砲してきたゴア。
一方のィヴィアンは開始早々、近くにあるコンテナの上に飛び乗ってから数発発砲。
ゴアは本能のままに赴く知性の無い野犬のような眼差しと動きで発砲しながら追ってくる。その姿は醜く、決して美しいとはいえない。
――体力や筋力にしか自信がないのは戦争の時から変わっていないようだな――
コンテナを一つ一つ伝っていく。狙って発砲するゴアだが、ヴィヴィアンの動きが素早い上、筋肉の重さで普通の軍人より足の速さが劣るゴアの足では追い付き難い。
「うおおおお!!


パァン!パァン!

低い声で叫び声を上げながらまだ無闇に発砲をしてくる。
一番高く積み上げられたコンテナの上に乗ったヴィヴィアンは、コンテナとコンテナの間にある空間に居るゴアを見下ろして何かを考えている様子。
その間にもゴアはヴィヴィアンが居るコンテナへ辿り着こうと、必死に登ってくる。
ヴィヴィアンは2丁持っている内1丁の拳銃をゴア目掛けて放り投げると同時に、向かいのコンテナへと飛び移った。


ガシャン!

「痛ぇ!何だ、これ。あのガキの銃じゃ、」


パァンパァン!

背後から聞こえた発砲音に驚いたと、同時にゴアの左肩に激痛がした。鼓動が大きく鳴り、恐る恐る自分の左肩に目を向けると…バッジは半分以上が外れかかっていて、風が少し吹いただけでプラプラ揺れるので、撃たれる前に無惨に地に落ちてしまう可能性がある。

























銃声が聞こえてきた方に振り向いて顔を上げると、ヴィヴィアンは向かいのコンテナに移っていて、その姿を夏の太陽の強い日射しが邪魔してしっかり見る事ができない。
しかし其処に居る事は確か。ゴアは左半身を動かさないよう、右半身だけを使ってヴィヴィアン目がけ発砲していく。
「相手から離れた所から狙うだなんて、さすがルネだ!卑怯な手を使うなぁ!」
「……」
ゴアのその一言に、今まで薄ら笑いを浮かべていたヴィヴィアンの表情は一転。


タン!タンッ!

一睨みした後、また素早い動きでコンテナを伝っては地へ向かって飛び降りていき、いつの間にかゴアの目の前に現れ、微笑した。
「のこのこと前に現れやがってえぇ!!」
ゴアは引き金を引く。しかしカチャカチャと情けない音しかせず、目を丸めて拳銃を見つめた後舌打ちして、弾切れした拳銃を放り投げてもう一丁の拳銃を取り出し、銃口を向けてきた。
不気味に笑って引き金を引いたのだが、これまたカチャカチャと情けない音。今度こそゴアの顔は真っ青になり、彼を応援していた軍人達も同様に。
この場に1人だけ微笑する者ヴィヴィアンの笑みが視界に入った事により、ゴアの怒りは再び頂点へ達す。鬼のような形相をして力付くでヴィヴィアンに向かってくるが、腹部を力強く蹴られたらあっさりとよろめいたゴア。一瞬呼吸ができなくなる。


ドッ…、

「っぐ…!」
「やっぱり貴方は体力と筋力だけが取り柄の脳髄まで筋肉人間」
「ぐっ…!ふざけた事言うんじゃっ、」


キィン!

ヴィヴィアンが放った弾がゴアの左肩に付けているバッジの角を擦った瞬間。外してしまったようには思えない。わざと外したとしか思えない。
「計算がなっていないよ。貴方は先程馬鹿の一つ覚えのように2丁の拳銃でずっと発砲していた。拳銃1丁に入れた弾の数くらい把握しているだろ?音で確認できただけで弾数を数えていたんだけれど。貴方が"卑怯"そう言った時既に、貴方の両手が持っている拳銃の弾の残り数はゼロ」
「ふざけんな!」
「…っ!」


ドンッ!

怒りだけで動いている状態のゴアはヴィヴィアンの背をコンテナに強く押し付け、彼の首に手をかける。これにはさすがの軍人達も慌て、皆一斉に立ち上がった。
「はっ、余裕の笑みは何処へいっちまった?」
我を忘れ、狂った姿。
強い力にヴィヴィアンは顔を歪めては時折苦痛な呼吸をしながらも微笑んだ。まだ微笑んでくるヴィヴィアンの事が心底気に入らなくて、ゴアの怒りは増す。
「僕の首をへし折っても未来は貴方にとって良い方向へはいけませんよ」
「死に際の人間が負け惜しみを!!」


キィン!

音をたててバッジは遂に地へと落ちた。
この音でやっと我に返った時にはゴアは目は大きく開いて顔は真っ青。ヴィヴィアンの首を絞めていた手の力も一瞬にして無くなる。体は恐怖で大きく震え出して、止まれ!と心の中で叫び続けても止まるどころか、震えは増す一方。
視点の定まらないゴアの脇を通り、落ちたバッジを手に取ると、ヴィヴィアンは不気味に微笑んでバッジを空高く上げた。
バッジの銀色は太陽と重なり一瞬眩しい光となり、音をたててゴアの目の前に落下した。


カラン!

「ゲームオーバー。僕の勝ちですね。ゴア一般兵?」






















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