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症候群-追放王子ト亡国王女-
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こんな土砂降りなのに全く濡れていない咲唖。
「咲唖…!良かった…現実じゃなくても君と再会する事ができて。咲唖。僕は、僕を信じてくれた君を守る事ができなかった。けど、マリーは守り抜くよ。僕の過ちの被害者達に償うしかもう今の僕にはないんだ…だってそうだろう。ライドルやカイドマルドのようにまた都合良く僕を拾ってくれる国なんてもう無いだろうから。…本当は死んでしまおうと思っていたけど…あんな風になってしまったマリーを見たら…。ベルディネの言っていた言葉の意味がやっと分かったんだ。だから僕は…」
「できるはずがありませんよ貴方のような人間に」
「え…」
口が裂けてしまいそうな程ニィッ…と笑った咲唖からの予想外の返答にヴィヴィアンは目を見開く。これが本当に夢ならば、もっと自分に都合の良い展開が待っているはずじゃないのか?
「咲唖…」
「己の力を誇示したいが為に関係も罪も無い人間を国を殺して彼らの亡骸の上で脚を組み嘲笑ってきた貴方にそんな事ができると本気で思っているのですか?」
「ち、違う!そうだったけど僕にはもうこれしかないんだ…とは言っても僕は結局…」
「口先だけの人間。結局は死にたがりの死ねない弱き者。本当はただ許されたいだけで罪を償う気など端からないのではありませんか?」
「咲唖!聞いてくれよ!僕は本当に変わったんだ!もう変わったんだよ!だから…っ!?」
感情的になって咲唖の細い両肩を掴んだ瞬間。一瞬にして咲唖が消えてしまったのだ。驚いて辺りを見回す。目を開き切り青ざめた顔で必死に。
「咲唖!?咲唖何処に、」
「今更綺麗事を言うなら初めからそうしていれば良かったのではありませんか」
「さ、…っ!!」
やっと聞こえた咲唖の声に薄ら笑みが浮かんだのも束の間。声がした下を向くと何と其処には、黄色の瞳をした二つの眼球がギョロッと自分を見上げて話し掛けていたのだ。白目に血管を血走らせて。これが咲唖だなんて思いたくもない。
「っ…さ、さく、あ…!」


ドン!

思わず後退りした為、後ろに居た人間にぶつかってしまい咄嗟に振り向くと其処に立っていたのは…





















「フランソワ…!?」
水色の正装をしたフランソワが立っていた。目元だけ暗くて口元しか見えない彼もまたさっきの咲唖同様、雨に全く濡れていない。
「フ、フランソワ!僕の側近だったお前なら分かってくれるだろ!僕はもう変わったんだ、気付いたんだ!争いは負の連鎖しか生まないという事に!マリーがあんな風になってしまったのも全て僕のせいだ!だから変われたんだ…お前なら分かってくれるよね、僕はもう変わった事に!」
「果たしてそうでしょうか?」
「なっ…!?」
「ヴィヴィアン王子貴方は先代ダビド国王陛下を殺した殺人鬼です」
「っ…!そうか…そうだったね…お前は僕の事を信じてくれなかった…信じようとしなかった!だから、」
「殺しました。私を。貴方が。たったそれだけの理由で。自分が気に食わなかったから。ただそれだけの理由で」
「それだけ!?それだけなんて言わせない!低能なルヴィシアンの命令を信じた低能なお前らルネ軍人のせいで僕の未来は奪われたんだ!それをそれだけの理由で済ますな!だからフランソワお前は目障りなんだよ!!」


ガシャン!

頭に血が昇ったヴィヴィアンは目をつり上げると地面に落ちていた灰色の大きな石を手に取りフランソワ目掛けて投げつけた。しかしその瞬間、フランソワも咲唖同様一瞬にして姿を消してしまった為、鬼の形相のヴィヴィアンは辺りを見回して叫ぶ。
「何処行ったフランソワ!出てこい!早く!!」
「そんなだから貴様には無理なんだ」
「っ…!?その声は…!」
無感情で淡々とした少年の声に、狂者の如く開き切った目をして後ろを振り向く。土砂降りの暗闇の中ダミアンが立っていた。





















前の2人同様目元は暗く前髪で隠れており、口元しか見えない。不気味なくらいにんまり笑む口元しか見えない。
「…はっ。ダミアン。今更何の用?僕に命令してくるところには心底腹が立ったけど、低能な君のお陰で僕は僕の力を世界へ誇示する事ができた!それだけは感謝しているよ」
「そうだ。そうやって貴様に生きる機会を与えてやった私をも貴様は殺した。自分が王位に就く為には弊害であった私を殺した。そんな我が身大事な貴様が罪を償うだと?はっ、笑わせるな下衆が」
「…!ふざけるな!自分が頂点へ君臨する為に邪魔者を排除するなんて当然の事じゃないか!だって僕達は欲の塊で造られた人間なんだからさ!」
目を見開きそう叫ぶ彼の瞳に映るダミアンのたったさっきまで笑んでいた口が静かに閉じる。
「その人間らしさが抜け切らない限り貴様も世界も何も変わらないんだ。一生」
「いちいち煩いんだよ!」


ガシャン!

また石を投げつけてやれば、やはりダミアンも一瞬にして消えた。ヴィヴィアンは白い歯を覗かせて笑む。狂喜に満ちた笑顔で。
「はっ…お前らが言う事は全て過去に過ぎないんだよ…お前らを殺した事なんて所詮過去に過ぎないんだよ!僕はもう変わるんだ…変わってマリーとエミリーと普通に暮らして普通に生きる!きっとできるんだ僕なら!僕は人類の中でこの世界で最も優れた人間なんだ!そんな僕を神が見捨てるはず無いだろ!!」
「表面上だけ罪を償いその後は自分が今まで犯した過ちを過去とし放り投げ、自分は愛する人間達と共に平和に幸せに生きるのですか?そんな、許されたいが為に行った形だけの償いなど自己満足にすぎません」
「なっ…!?」
足元に視線を落とせば其処には様々な瞳の色をした無数の眼球達が辺り一面に群がっていた。皆血走った瞳でギョロギョロ見てくるから、気味が悪くてヴィヴィアンは顔を引きつらせる。一歩後ろへ後退りすると…


グシャ、

「ギャアアアア!」
眼球を踏み潰した何にも例える事のできない気持ちの悪い感触がして、踏みつけたそれらから生々しい血が吹き飛び、悲鳴を上げる。眼球の悲鳴は以前戦場で聞いた事のあるものばかりだった。






















「っ…あ…!」
「ほら。そうやって人間を踏み潰し殺してきた貴様に巡礼なんてものは一生似合わない」
「王子には人を殺める事の方がお似合いですよ」
「今更聖人を気取ったところで心の奥は変えられない。変わらないんだよヴィヴィアン・デオール・ルネ!」
「う…うあああああ!」
発狂して頭を抱え目を強く瞑るとヴィヴィアンは叫び声を上げながら走り出す。この空間から逃げるように。でも逃げられなくて、走る度に足元では踏み潰した眼球達の悲鳴と嫌な感触がして、何処まで走っても走っても無数の眼球達が自分の事を見てくる。
「僕は兄上に濡れ衣を着せられたんだ!そんな僕の過ちくらい神は許してくれるはずなんだ!」
「そうやって被害者面するところもプライドのお高い貴方にはとってもお似合いですよ」
「たかがその程度の不幸か。実の親に薬漬けにされ身体を開かれた私からしてみたら笑い飛ばせる程度の不幸だ」
「煩い!黙れ!皆黙れよ!!」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
「ケラケラケラケラ!」
眼球達が自分を嘲笑う声が脳に直接触れられたかのように伝わってくるから耳を塞いだところでそれから逃れる事なんてできない。
「うああああああ!」
ただひたすら走る。すると、この眼球の海に浮かぶたった一つの白い扉を見つけたヴィヴィアンは血眼になりながらも扉目掛けて走ってドアノブを握る。そうすれば眼球達が彼を逃がさないとばかりに足元から脚、腰、胴体へ上へ上へと群がってくるからドアノブを思い切り回して勢い良く扉を開いた。


バタン!

「はぁっ…はぁ…」
何とか扉の向こうへ逃げる事に成功して扉に背を預けて乱れた呼吸を調える。群がってきた眼球達はこの部屋へ入った途端蒸発してしまった。ヴィヴィアンは脂汗をかきながら薄ら目を開いていく。
「マリー!!」
真っ暗な空間にたった1人で立っているマリーの後ろ姿を見付けると一目散に駆け出す。






















ポン、

彼女の肩に手を乗せれば先程の咲唖達とは違った。彼女には触れる事ができた。安堵の息を吐く。
「マリー…。今まで本当にごめん。僕は君があんな風になってからやっと気付いたんだ…。はは、遅いよね?でももう大丈夫だよ。僕がこれからマリーを守っていくし、マリーが望む争いの嫌いな人間になるし、マリーが望む争いの無い平和な世界になるように頑張るから。だからもうこれ以上戦いに関わらないよ。だから…」
「だから僕を受け入れてだなんて、なんて図々しい方なのでしょう貴方という人間は」
「え…マ、…っ!!」


ギギギ…

身体は背を向けているのに首だけが回り、顔だけ180°後ろを向いたマリーの狂気に満ちた顔が嗤う。
「う、うああああああ!」
「罪を償ったところで貴方が犯した過ちの爪痕は一生消える事はありません。そんな事ご存知でしょう?偽善者の貴方に今更守ってもらおうとも思っていません」
「うああああああ!」
「そうだ。だからこのまま悪を貫き通す事より楽な事は無い」
「っ…?」
背後から聞こえてきた産まれた時から1秒たりとも聞かなかった事は無い少年の甲高い声にドクン!と心臓が深い所で鳴った。頭を抱えて呼吸を乱し脂汗をかいたヴィヴィアンが恐る恐る後ろを振り向くと…
「な…何で僕が居るんだよ…!?」
其処には自分が立っていた。まだ王室に居た頃の紫色の服に正装しているし右目もまだ失明していない遠い日の自分が其処に立って微笑んでいた。























「今までずっと国の道具で父上の道具で兄上の道具で辛かったでしょ?父上殺害の濡れ衣を着せられはしたけれどお陰でヴィヴィアン・デオール・ルネという人間を表へ出す事ができたんだ。もう自分を押し殺したり自分の気持ちにまで嘘を吐く必要は無いのに。ねぇ、僕。どうしてまた自分の気持ちに嘘を吐く事を自ら望んでいるの?」
「嘘なんて…嘘なんて吐いてない!僕はマリーが望む争いの嫌いな人間として生まれ変わるんだ!分かったんだよ、争いをしたって得る物は何も無いんだって。エミリーはもう居ないけど…もうマリーまで失いたくないんだよ!」
「でもマリーはたった今言ったよね?今更罪を償ったところで貴方の犯した罪が消える事は一生無いって。分かっているんだよ?皆。言う事全て綺麗事で傲慢で卑劣で戦争狂で自分が一番可愛い人間それがヴィヴィアン・デオール・ルネなんだ、って」
「違、」
もう1人のヴィヴィアンの右手が、光を失った右目に触れてくる。その瞬間、もう1人のヴィヴィアンの姿が満面の笑みを浮かべた兄ルヴィシアンの姿に変わった。
「っあ、あ…!」
「分かっていないのはお前だけなんだよ…親愛なる弟ヴィヴィアン・デオール・ルネ!!」


グシャッ!!

右目に触れているルヴィシアンの右手人差し指がヴィヴィアンの右目を潰した。
























「うあ"あ"あ"あ"あ"!」
「どうした!?」


ザァー…

今も尚勢いは衰えず増すばかりの土砂降りの中。咲唖の墓前で背を後ろへ反らしながら頭を抱え発狂しているヴィヴィアンを見つけたのは慶司。
そんな彼へ慶司から1本の赤い傘が差し出される。お陰でこれ以上雨に濡れる事は無いが、既にこんなにずぶ濡れなら傘はもう意味が無い。目を見開き全身をガタガタ震わせ頭を抱えたまま恐る恐る後ろを振り向くヴィヴィアンの瞳に、自分に傘をさしてくれている慶司の姿が映る。青い傘をさした慶司は、ヴィヴィアンの異常なまでに挙動不審な姿を見て驚き目が点で呆然。
「ど…どうかしたのか?そんなに叫んで…」
気に掛けてくれる慶司から目を反らしてようやく気付いた。今見ていたものは全て夢だったのだと。自分はあの悪夢から覚めたのだと。























よろめきながら立ち上がったヴィヴィアンは俯いていてずぶ濡れで雫の滴る前髪で顔を隠して慶司の横を通り過ぎて行く。ヒタヒタと。亡霊のように。
「おい!人の姉の墓前で散々喚き散らしておいて何も無しか!」
顔だけを後ろへ向けてヴィヴィアンに声を上げる。
「ん…なさい…」


ザァーッ…

土砂降りの雨音に掻き消されて途切れ途切れにしか聞こえない謝罪を擦れた声で呟くとヴィヴィアンはよろめきながらまたヒタ…ヒタ…と渡された傘も持たずに墓地の中を歩いて行ってしまう。
一方の慶司は肩を落とす程の溜息を吐いてからすぐに追い掛けた。
「そんなずぶ濡れのまま建物の中へ入られたら迷惑だ。ほら」
そう言いながら赤い傘の柄をぐっ、と差し出してヴィヴィアンに持たせる。口を閉じて俯いたままのヴィヴィアンの口端や頬や目が青紫色に腫れているのは先程慶司が殴ったからだろう。そんな彼の横顔はあの超大国ルネをも翻弄させ、果てにはカイドマルドの王位に就いた人間にはとても見えないくらい憔悴していて、慶司は目線を上に向けて思わずまた溜息だ。
「はぁ…。らしくないな。お前はこれから何がしたい。言ってみろ」
「……」
「ライドル王国やカイドマルド王国がお前に施してくれたように日本に対しても特別待遇を期待しているのか?」
「…違う…。僕は…変わりたいんだ」
「変わりたい?」
「僕はいつも口先だけで我儘で傲慢で卑劣で戦争狂で…。これからは、僕のせいで壊れてしまったマリーを守りたくてもう…戦争から一生足を洗って今までの罪を償いたいと思ったんだ…。でもそんなのはきっとまたすぐに我儘で傲慢で卑劣で戦争狂なもう1人の僕に飲み込まれるだけなんだ。人間なんて所詮変われないのに変わりたいなんて無謀な事を願ってしまうんだ僕は…」
「……」


ザァー…

雨音だけが増す。ポタポタとヴィヴィアンの髪や身体や服から滴る雫。慶司は真剣な表情で口を開く。
「僕もお前と同じだ」
「え…」
やっとヴィヴィアンの顔が上がった。しかし、隣に立っている慶司の顔を見たらすぐにまた目を反らして俯いてしまったけれど。




















「平和になってほしい。大切な人達を守りたい。もう戦いたくない。戦ってほしくない。…そう思っても結局僕は戦う事しかできなかった。話し合いで解決できる世界じゃないんだ。それに敵とはいえ、僕だって多くの人間の明日を奪ってきた。この手で」


ギュッ…!

自分の震える左手を力強く握る。
「平和を願ったところで僕はもう悪だ。なら最後まで悪を貫き通してその悪を善に変える。お前1人が今から戦闘から離れたところで世界は何も変わらないし、それでお前の罪が許されるわけでもない。今更戦争から足を洗う事は良い事なんかじゃない。投げ出しただけなんだ。現実から目を背けて逃げる事と同じなんだ。ここまできてしまったなら最後まで戦って…その果てに平和を築くしかない。でもこれからの僕達の戦いは、ただ自分の力を誇示したいが為だったり他国を占領し国土を広めたいが為のエゴイズムじゃない。非戦闘員…シビリアンつまり民を守る為の戦いだ」
雨の勢いが次第に弱まっていく。
「平和を築く為だシビリアンを守る為だと今まで人間を散々殺めてきた僕達が言ったところで民衆は信じやしない。彼らに信じてもらう為には僕達軍人に足りないモノを得る事が必要なんだ」
慶司は左手を力強く握り締めるとヴィヴィアンの前に立つ。そんな慶司の気配を感じたヴィヴィアンは静かに顔を上げた。空虚な赤の瞳に、力強い眼差しの慶司を映す。
「僕達に足りないモノそれはシビリアンの気持ちを知る事だ」
「シビリアンの…気持ち」
「詰まる所、僕達のような生まれながらの地位や権力で庶民を上から見下ろす人間は下々の気持ちを理解しているつもりで本当は全く理解していないと思うんだ。上流階級の貴族やほとんどの義勇軍人は敵を殺し、母国が繁栄する事がシビリアンつまり民の幸福だと思っている。けれど本当のところシビリアンはどう思っているのか?それを理解する必要がある。理解しているようで僕達は何一つ理解していないと思うんだ」
「でもそんなモノ解る事なんて…」
「できる。僕もお前もたった今この瞬間から、生まれながらにして得た地位や名声を捨てれば良い。ただそれだけなんだ」
向けられる慶司の力強く決意した瞳が眩し過ぎて自分とは正反対過ぎるから直視する事ができなくて、わざと傘で見えないようにヴィヴィアンは隠してしまう。






















「…お前が僕の考えに賛同してもしなくても、ただそれだけの理由で僕はお前を殺めたりはしないから安心しろ」
「え…」
思わず傘を上げたら、慶司はもう背を向けて本部の方へと歩き出していた。ヴィヴィアンは水溜まりの中を追い掛ける。
「さっきはお前の考えも聞かずに殴って悪かった」
「なっ…どうしてそんな事が言えるんだ慶司君!僕は日本人も…咲唖も…!」
「だからといって、私がいつも怒鳴りあっていては周りの方達が気分悪くなってしまうでしょう」
「え…?」
慶司が顔を向ける。力強い眼差しと穏やかな笑みを浮かべて。
「姉上が言ってくれた言葉だ。話し合いだけじゃ解決しないこんな世の中だからこそまずは僕からお前と話し合い互いの考えを理解し合い、解り合いたいと思った。そうやって小さなところから地道に重ねていけばいつか世界中の人間が争いではなく、話し合いだけで解り合えれば戦争の無い明日はきっと訪れる。争いだけが解決策じゃない事を共に世界に伝えよう。きっとそれが、姉上の望んでいた世界なんだ」
差し出された左手と慶司の顔を交互に見てから、静かにその手を自分の右手で握った。
「傘を閉じて良いぞ」
「え…」
「雨が止んだ」
見上げれば、真っ暗闇だった夜空にはキラキラ輝く星達が点々と顔を覗かせていた。ヴィヴィアンの先を歩く慶司は歩きながら、自分の後ろをついて歩いてくるヴィヴィアンに話し掛ける。前を向いたまま。
「夜が明けたら新潟へ向かう。僕の親友の母方の実家が僕達を受け入れると言ってくれたんだ。ジャンヌさん達やお前の事は僕が説明するから心配するな。それでも特にお前は警戒されると思うが、お前が民の気持ちを理解し、平和を築く姿勢を見せれば、彼らもきっと受け入れてくれる。そういう世界を造っていこう」
「ありがとう、慶司君…」
「お前らしくないな!これからはもっと覇気を持って共に平和を目指…っ!?」


ドクン…、

明るい笑顔でヴィヴィアンの方を振り返った時慶司の心臓がドクン…、と深い所で鳴った。思わず目を見開いてしまった。何故なら、墓地を背にして自分の後ろに立っているヴィヴィアンの周りだけを無数のカラスが音も無く飛んでいたのだ。その事にヴィヴィアンは気付いていない様子。
「!?」
目を擦る慶司がもう一度ヴィヴィアンを見ると、カラス達は始めから居なかったかのように忽然と姿を消していた。



























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