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First Kiss【完結】
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(side.Kanata)

「…ありえないっ」
「えっと…何が?」
デート…じゃなくて!エミリーと駅前を歩き中。今から、喜多田が入院している病院へ見舞いに行くんだ。結局俺の右足の怪我は打撲で済んだから、俺って案外頑丈!?まあ、まだ痛いから引き摺ってるけどな。
ところで。エミリーは道行くカップルを睨みながらそんな事を呟いたんだ。そんな夏休み3日目の事。
「鮎川気付かなかったの!?さっき擦れ違ったカップルの3組全部うちの学校しかも、うちの学年の生徒だよ!?」
「え?そうだったんだ。てか俺、カップルと通り過ぎたかどうかも記憶に無いんだけど…」
「キモッ!」
「は!?何でそれだけでキモい言われなきゃいけな、」
「ちーがーうっ!擦れ違ったカップル達の事をキモいって言ったのっ!」
「え?」
な、何だそっちの事か…。ホッとした。
エミリーの歩幅に合わせながら歩く。俺より遥か目線下に見えるエミリーに気付かれないようにチラ、と見たら、やけにまたアヒルみたいに口を尖らせてるし…。ご機嫌斜めっぽい。
「な、何でだよ?」
「だってさっきのカップル全員地味で暗くてキモい奴らだったんだよ!?ああいうカップルマジキモいし!何であいつらみたいな地味でおとなしい系が幸せになって、可愛いエミリーは幸せになれてないのーっ!ムカつくムカつくーっ!」
だからそうやって、こんな道のど真ん中で地団駄踏むなって!…って、普通一緒に歩いている奴がこんな状況なら恥ずかしく思うんだろうけど、俺の場合エミリーに盲目過ぎるから、こんな明らかにヤバイわがままでさえ可愛いって思っちゃうから…
「俺って超末期…」
















































県立病院―――


コン、コン

「…誰だ」
「あたし出るよ。はい。どちら様ですか?」
ガラッ。病室の扉が勢い良く開かれる。
「じゃーんっ!エミリーの登場だよーっ!」
「エミリー!」
おいおい、此処病院だってば…!
喜多田は個室だから良いけど、エミリーの声って甲高いからかな?廊下をたまたま通っていた看護師さんに何故か俺がギロッて睨まれて、ペコペコ平謝りする始末…。けど…
――エミリーが少しでも元気を取り戻してくれて本当に嬉しい――
エミリーは杏夏と両手を繋いで、2人共超嬉しそうな笑顔を浮かべて喋っているのが見える。
俺は病室の扉を静かに閉めると、喜多田が横になっているベッド脇の小さいテーブルの上に見舞いの紙袋を置く。
「良かったな。鮎川」
「喜多田のお陰だよ。お前がこんなになってまで協力してくれたからこそ、永山と相坂も協力してくれたんだし…はい。これ。少ないけど」
紙袋の中から取り出した見舞いは、黄色の箱に入ったチョコレート。
「ああ。悪かったな。気を遣わせて」
「何言ってんだよ。杏夏と一緒に食べるかと思って量が多いの選んだんだ。良かったら…ってえ!?ちょっ!」
ありえないだろっ!喜多田があと少しでチョコレートの箱を受け取ろうとした瞬間。ひょいっと箱を持ち上げたのは誰か…って言わなくても分かるよな?エミリー…。
「ねぇねぇー!大輝とアン姉!エミリーにもチョコちょっとちょうだーい!いいでしょー!」
って言ってる傍からバリバリ包装紙破いてるし!箱開けてるし!

























「ダメ。…って言ってもエミリー食べちゃうもんね。いいよ、食べて。ね。大輝」
「ああ…俺は構わないが」
「やったー!2人共イイ夫婦になれるよーっ!いただきまぁす!」
「馬鹿!エミリー!こういうのは、良いって言われても食べちゃ駄目なんだってば!」
エミリーが一粒のチョコに手を伸ばした時、ギリギリセーフ!俺が後ろから箱を取り上げちゃえばエミリーは身長が低いから取り返せない。
背伸びしてまで取り返そうとしてくるエミリーをひょいひょい、ってかわせば、頬を風船みたいに膨らませて本日2回目の地団駄踏む。あーあ。杏夏の腕に抱きついて俺を睨んでいるし…。
「やだやだやだー!鮎川が意地悪するっ!アン姉助けてっ!」
「別に意地悪なんてしてないだろ!食べたいなら後で買ってやるから!」
「どうせこれみたいな大きい箱のやつ買ってくれないじゃん!1人分のショボいチョコしか買ってくれないじゃん!エミリーは今食べたいのーっ!」
「ふふ。彼方は案外ケチなんだね」
「え!?な、何だよ杏夏まで!」
「ああ。チョコの一つや二つくらいくれてやれ」
「喜多田お前までそうやって!」
「キャハハ!3対1で鮎川の負けじゃん!ばーかっ!ばーかっ!」
なっ…何だよこの空気!
俺がすっかり悪者状態でポカーンとしていたら、ひょい、と背伸びをしたエミリーにチョコの箱を奪われてすぐエミリーは一口に3粒も食べて幸せそう。杏夏も喜多田もそれで良いって雰囲気だから…
「ま…、良い…のかな?」
いや、良くはないか…。
「あっ。そうだ。エミリーに話があったんだ。大輝。ちょっとエミリーと病院の中庭で話してくるから。良い?」
「ああ」
あれ?杏夏はエミリーの右手を握ると(つーかエミリーまだチョコ食べてるし!全部食べる気だろあいつ!)エミリーを連れて病室を出て行ったんだ。
…イコール、ただでさえ無口な喜多田と、友達になったとはいえ、人見知りする俺…っていう会話が続かない以前に会話が見付からない最悪の組み合わせ2人だけが病室に残されたんだけど…!


しん…

…案の定沈黙。喜多田に至っては頭の後ろで腕組んで目閉じて、今から寝ますよー体勢に入ってるんだけど!
――2人共早く戻ってきてくれ!息が詰まる!――

































(side.Emily)

中庭――――

病院服を着た入院中の子供達が追い駆けっこしているピンクや黄色の花が可愛い綺麗な中庭。
売店で買った苺オレ片手にエミリーがベンチに座れば、コーヒー片手にアン姉も座る。あっ!苺オレはアン姉のおごりだよ?エミリーは可愛いから女子にもおごってもらえるんだし♪
「おいちー!苺オレ超久々に飲んだっ」
「ふふ。エミリーって何でも美味しそうに飲んだり食べるから良いよね」
「あったり前じゃーん!」
あっ。もう終わり?一気に飲んじゃったから苺オレもう無くなっちゃったし!ストローを噛む。
「ねぇねぇー!アン姉。話って何ー?」
「うん。エミリー。修学旅行の時辛い思いさせてごめんね」
修学旅行…。たったその単語を聞いただけで、エミリーの心臓がドクンッて鳴った。
鮎川はアン姉と別れた…っていうかフラれたって言ってたけど、修学旅行の事を思い出したらせっかく気分が良かったのに沈むし…。
「別に…。て、てかさ!アン姉って本当に鮎川と別れたの!?」
怖い恐い。もしも鮎川の嘘だったら?でも気になるの。でも恐いの。でもすっごく気になるの。確信がほしいのに、確信がいらない…。
聞かないはずだったのにエミリーの口が勝手にアン姉に質問してた。やだやだ。アン姉からの返事聞きたくないのに、聞きたい。
「うん。別れたよ」
「えっ…本当に?」
「うん。本当だよ」
全身の力が抜けちゃってエミリーは大きく息吐いてベンチの背もたれに背を預けたの。
――良かったぁ…――
「はぁっ…。でも何で?」
「あたし妊娠したから」
「え…」
え?何なに?どういう意味?全然分かんないよ。赤ちゃんできたのに別れたの?何で?
エミリーの心臓が超大きい音で超速く鳴る。一瞬にして具合悪くなってきた。吐き気までしてきた。涙が溢れそうになってきた。全身が小刻みに震え出した。もう、顔上げられない。アン姉の顔見れない。一生見れない。うんうん、見たくない。
































せっかく竜二達から解放されたのに。エミリーもう、男遊びしないって決めたのに。1人しか好きにならないって決めたのに。
どうして神様はエミリーにばっかり意地悪するの?赤ちゃんができたならエミリー、もう一生一緒に居れないじゃん。またなの?智の時だってそうだったじゃん。何でエミリーは幸せになれないの?何でエミリーだけこんなに不幸なの!!
「うっ…ひっく…何でっ…小さい時からずっと…好きだったって言ってたのに…何でっ…」
やだやだやだ。涙がボロボロ溢れ出す。アン姉が顔を覗き込んでるっぽいから、顔をわざと外方向けてやる!
「エミリー…?あの…」
「うるさいっ!何なん!エミリーを呼び出して何なん!修旅の時ごめんって言っておきながら、何でこんなこと言ったの!?これなら秘密にされている方がマシだったし!何でエミリーから彼方君を盗るの!?」
「えっと…エミリー。あたし、大輝との赤ちゃんができたんだけど…」
「へ…?」
え…あれ…?ちょっと待って。今、何て言った?
ほっぺにまだ涙を伝わせたまま目が点のエミリーがアン姉をボーッ、と見ていたらアン姉が口に手を添えて笑ったし…!え?これってもしかして…
「ふふっ。ごめんごめん。先に言えば良かったね。正真正銘大輝の子だから安心して」
「え…じゃあエミリー勘違いしてた系…?」
「してた系。だね」
「よ、良かったぁ!超良かった!何これ!?マジ嬉しいんだけど!良かったぁ!」
悲しい涙が止まったかと思えば、次は嬉しい涙がボロボロ溢れる。でも、本当本当本当に良かったの!安心したんだもん!アン姉の方に身を乗り出すし!
「じゃあさじゃあさ!鮎川とはえっちしてないって事?ちゅーだけ?」
「そうだよ」
「はぁあ〜!超良かったぁ!超安心したし!エミリー死んじゃうかと思ったっ!」
「ふふっ。エミリー、やっぱり彼方の事が好きなんだね」
「当ったり前じゃん!…あっ!ちちち、違うし!そんなわけないじゃん!何でエミリーが、あんながり勉で地味でダサくてスポーツの成績毎回2のところ、出席態度が良いからおまけしてもらって辛うじて3の奴を好きになるわけ!?マジ有り得ないから!!」
ううっ…!アン姉の奴、
「はいはい」
って言いながらクスクス笑うなーっ!別に別に!エミリーは、エミリーはっ…!
「内緒にしてあげるから。彼方に素直になれなくても、友達のあたしにくらい素直になって良いんだよ」
「うぅ…アン姉っ〜!」
「よしよし」
ムカついた時もあったけど、やっぱりアン姉は大好きな友達だもん!
エミリーが思わずアン姉に抱きつけば、アン姉がエミリーの頭を撫で撫でしてくれたの!




























「それでねっ!この前エミリーが"好きな人が居る"って言ったら俺もいるし!って言ってきたんだよ!?」
「うーん。それって明らかにエミリーの事でしょ」
「え!?わっ、分かんないし!そうかもしれなくもない事もないけどっ!」
「どっち?」
あーもうっ!アン姉はいつも余裕綽々だからそうやって笑うけど!
「エミリー、真面目に恋愛した事は無いから分かんないんだもん!」
「そういえばエミリーと恋バナした事無いよね」
「だって…エミリーは告られたら好きでもない奴と付き合っていたから…真剣な片想いとか恋愛って分かんないっ…」
足をバタバタさせて口を尖らせるの。うっ…今、ぐぅ〜ってお腹鳴った。アン姉には気付かれていないっぽいけど!
「さっきね。此処来る時同じ学年のカップル3組見た。多分、夏休みきっかけに付き合ったんだと思うっ。そいつら皆、男も女もおとなしい地味系でさっ。初めての彼氏彼女です!って感じで超浮かれててマジキモかったし!昔そういう友達もいてマジキモかったから友達やめてやったしねぇ!…でもさっ。エミリーは今まで何人も付き合った事あるけど…ああいう地味なカップルに限って長続きするじゃん。1人目の彼氏彼女と結婚しそうじゃん。別にね、付き合った人が生涯1人ってのはエミリーぜーったい嫌!つまんないじゃん!…けど…。エミリーみたいに、彼氏と付き合ってすぐ別れるような女ってその時は超楽しいけど…最近思うんだ。エミリーみたいな女って最後は幸せになれない気がする…」
「エミリー…」
いつの間にか中庭で遊んでいた子供達も居なくなってエミリーとアン姉だけになってたの。沈黙…。
「エミリーね、ダメなの。好きでもない奴と付き合って、いつかエミリーもそいつの事を好きになるかなーって思ってもすぐ飽きちゃうし。それの繰り返し。本当、飽き性なの。けど、本気で好きになった片想いの相手には上手く素直になれないの…」
「…彼方に?でも前付き合ってたでしょ」
「けど好きじゃなかったって言ったっ。その後、好きでいても良い?って言ったけどこの前、お前なんてただの幼なじみだし!って言っちゃったし…うぅ…。あいつがエミリーを好きだったとしても、エミリーどうしても素直になれないよっ…」
しゅんっ、て俯いちゃう。はーあっ…。もうお昼ご飯近いのかな?病院の中からイイ匂いがする!またお腹鳴りそうだし。
「じゃあさ。エミリー。計画立てておいてあげる」
「へ?」
突然立ち上がっちゃってどうしたのアン姉?
「今度ハルが外出許可出たら皆で飲みしよう。勿論、鮎川も誘って。その時にあたし達が鮎川とエミリーがくっつくように計画立ててあげるから」
「はぁ!?って事は、エミリーが鮎川を好きだって事を冴達にも言うって事じゃん!有り得ない有り得ないっ!エミリーみたいなギャルがあんな地味がり勉好きになったって学校中に広まったら、他のギャル達から変な目で見られるじゃん!付き合えたとしても、あんながり勉と校内で堂々と付き合えないしぃ!」
「そうやって人の目を気にする癖やめなさいっ!」
うっ…。アン姉のくせに目をキッ!ってつり上げてエミリーに説教してきたしっ!
エミリーはほっぺを膨らませてベンチから立ち上がって、1人でさっさと病院の中に戻るし!アン姉追いかけてくんなっ!
「べーっ!だ!」
あっかんべー!してやったのにクスクス笑うなっ!!




































病室――――


ガラッ!

「あ。エミリー、杏夏おかえ、」
「鮎川!帰るぞっ!」
「え?ちょ、待てって!」
あーっイライラするっ!
病室に戻ってすぐ、ピンクの鞄をわざと乱暴に肩にかけてわざと足音うるさくしてさっさと病室出ていこうとする!チラ、と後ろ見たら、何なん!鮎川の奴オロオロしてるだけで、全っ然帰ろうとする気配しないし!
ムカつくからもう1回病室の中に戻って鮎川の右手を掴んで引っ張ってやったし!
「帰るのっ!」
「え!てか、何でそんなに怒ってんだよ?」
「あたしが怒らせちゃったかも」
「え!?杏夏が!?」
キッ!ってアン姉を睨めば、アン姉が顔の前で両手合わせてごめんねってポーズをしてるけど、ふんっ!って外方を向いて鮎川のを手引っ張って病室出ていった!…あ!
忘れモノしたから、本当は嫌だけど顔だけを扉から病室に覗かせたし!
「アン姉!大輝!助けてくれてありがとっ!あと…おめでとっ!」





























(side.Anka)

ふふ。エミリーは可愛いね。
「…あれは本当に礼を言っているのか?」
「うーん。言葉はありがとうって言ってたけど、声は怒ってたよね」
「…何を怒らせたんだ」
「え?エミリーが彼方を好きなのに素直になれないから…色々ね」
「ああ…やっぱりあいつらヨリを戻していなかったのか。俺も鮎川に聞いたら、付き合ってない、エミリーには片想いだって言ってたな…」
「あーあ。ほら。あたしの言った通りあの2人やっぱり両想いなんだよ」
「何処からどう見てもな」
「あとはあの2人次第だよね。ま。あの2人は可愛いから、見てると面白いけど」
「…杏夏」
「ふふっ。ごめんごめん」












































(side.Emily)

はーあっ。素直に…かぁ。素直になれるもんならもうなってるし…。
「エ、エミリー?肉焼けてるけどいる?」
でもなぁ…素直になったところでもしも。もしも!鮎川の好きな人がエミリーじゃなかったら悲しいだけじゃん!?
「えーと…。と、とりあえず焼けたやつ皿に入れておくからな!」
…あっ。タレが入った小皿に鮎川が肉を取ってくれてやっと我に返ったの。
お昼ご飯。エミリーの要望で駅南ビル2階の焼肉屋に来たんだった。何か鮎川の奴、次々と焼けた肉を皿に入れていくから山盛りなんだけど!
はーあっ…。目の前に好きな人が居て、好きな人と同じ家で暮らしているのに(取り敢えず1週間の期限付きだけど)寂しいなんて…なんかなぁ…。




























「はい、あーん!」
「あーん」
うげっ。マジキモ!隣の席のバカップルが、はいあーん!してる声聞いて尚且つ見ちゃったから鳥肌たったし!他人の惚気とかラブラブしてるところってマジキモいよねぇー?
すぐ鮎川の方を向き直せば、こいつ真剣に肉を焼いているように見せ掛けて、顔が超赤いんだけど!
…そーだっ。からかってやろうっと。調度今ヴィンがエミリーの小皿に乗せた肉を取って、鮎川の口まで運んで…
「はいっ!あーん、して?」
「…えっ!?」
キャハハ!今一瞬、時が止まってなかった!?目を超泳がせて両手ガタガタ震わせてるし!やっとって感じで、耳まで真っ赤にした鮎川がちょっとだけ身を乗り出した。チャーンス!


パクッ!

「ばーかっ!」
キャハハ!差し出してやった肉を鮎川が食べる寸前で、エミリーが食べちゃったし!鮎川の奴、呆然だよ?
「何勘違いしちゃってんのー?ギャグに決まってんじゃん!本気にしないでよねエミリーの方が恥ずいって!」
「っ…!べ、別にそのギャグに乗ってやっただけだろ!」
「はぁ!?乗ってやったって何!?やった、って偉そうな言い方エミリーにすんなだしっ!ねーえっ!早くお肉焼いて?エミリーお肉焼いた事無いから分かんなーいっ!」
「っ…分かったよ!焼けば良いんだろ!」
エミリーとしてはこういう言い合いは本当に心を開いていなきゃできないから楽しいんだけど…鮎川にとったら嫌なのかな?鮎川は真面目だから、こんな言い合いも冗談って捉えられなくて、本気にしちゃっていたりするのかな?それでエミリーが…嫌われたりするのかな?
それからお腹いっーぱいになって、お会計。レジに消臭スプレーが置いてあったから、鮎川がお金を払ってる隙に!


シューッ!

「うわっ!な、何!?」
「消臭スプレーだよっ。ビビった?シューッしてやったんだしー」
「あ、それか…。じゃあエミリーも」
「かけ過ぎだし!てか、鞄にかかり過ぎ!濡れるんだけど!」
「あはは、そうかな?」
「あーっ!お前ぜーったいさっきの仕返ししただろっ!鮎川のクセに生意気なんだよっ!」
「うわっ!ゴホ!顔に吹き掛けんなって、ゴホ!」
キャハハ!ざまあみろだし!エミリーはやり返されたら倍返ししちゃうもんね!
次は…ってふと後ろを見たら、レジに並んでるお客さん達が何かエミリー達を超睨んでるんだけど!ムカッとしていたら鮎川に右手をぐいっ、って引っ張られたし!何なん!?
「はぁ!?引っ張んな!」
「お客さん待ってるだろ!ほら、早く店出るぞ!」
鮎川、人目を気にし過ぎじゃない?引っ張られながら、渋々お店を出る時だったの。レジ待ちしていたお客さん達の声が聞こえてきた。
「やぁね!今時の若い子達は!」
「人目もはばからずイチャイチャしちゃって!」
「マジあいつらバカップルじゃね!?」
バ、バカップルじゃないし!あっ!ていうか、ていうか!
「こんな地味な男とエミリーがカップルなわけないだろばーかっ!!」
うっ…また口が滑っちゃった…。エミリーの前を走る鮎川は一切無反応だったけど…
――素直になるって、勉強より超ムズい!!――







































午後6時52分――――

何だかんだで、あれからお買い物していたらもうこんな時間になっちゃった。早くお夕飯の準備しなきゃじゃん!あっ、勿論鮎川がだよ?エミリーはお姫様だから家事一切しなくて良いんだもん!
駅から離れて少し人気の無い道に出る。夏だからまだ空は薄明るくて沈み欠けた夕陽のせいかな?空が赤紫色してるの。すごく綺麗だったから、エミリーは立ち止まって空を見上げた。
「超綺麗…」
「珍しいよな。たまに夕方こんな空になるけど何で何だろう」
エミリーの前を歩いていたはずの鮎川が戻ってきてエミリーのすぐ前に居る。同じように空を見上げてたの。


ドン、ドン、

そしたら遠くから太鼓…?お祭りみたいな音楽が聞こえてきたから、鮎川を見たら鮎川にも聞こえていたらしくて、辺りをキョロキョロ見回してた。
「何の音?お祭りっぽいよね?」
「…あ!多分あそこだ!」
「え?あっ!ちょっと!エミリー於いていくなバカっ!」
ばーかっ!鮎川の奴、独り言呟いてすぐ走り出したたし!これだから男子って子供なんだよっ!
仕方ないから大人なエミリー様が鮎川の後についていってやったもん!辺りに人は居なかった。鮎川とエミリーだけ。































「ほら、此処だよ」
鮎川を追いかけてきた場所其処は、住宅街を進んだ奥にある小さい神社だったの。辺りは松の木とか柳が立っていて、木にはオレンジ色のぼうっ、とした灯りの…提灯がたくさん飾られていた。
「夏って神社でよく夏祭りをやるらしいよな」
「ふぅん」
また鮎川の雑学披露かっ!お祭りに来てる人達は皆、お花とか蝶々が可愛い浴衣着てるの。女の子ばっかり。だから逆に、私服のエミリー達が浮いちゃってる感じ?
あ。鮎川がエミリーの肩を叩いてきた。…それだけでドキドキするなんてやっぱりエミリーおかしいよねっ!?
「何っ!」
「ほら。あそこで浴衣がレンタルできるんだって」
「あ…本当だ」
鮎川が指差した先には小さいプレハブ小屋があって、その壁には『浴衣レンタル中!』の大きい文字。そう言われてみれば女の子達皆あのプレハブ小屋から出てきてるし。
「エミリーも着る?」
「えっ!イイの?」
「エミリーならピンクとか超似合いそうじゃん」
「エミリーピンク大好き!ねぇ、エミリーも借りてイイの?鮎川がお金払ってくれるよね?」
「はは…言われなくても払いますよっ!」
やったー!浴衣って着た事無いから超嬉しいし!
鮎川からお札を受け取ってプレハブ小屋へ走ったの。でも入る寸前で1回立ち止まって、鮎川の方振り向いた。
「鮎川!浴衣何色がイイと思う?」
「エミリーが気に入った色で良いよ」
いつも近くにあった当たり前のその笑顔の大切さを、エミリーは改めて知る事ができたの。









































「じゃーんっ!可愛いっしょ!」
ふーっ!レンタルする人がいっぱい居たから40分はかかったし!
すっかり外は真っ暗で、提灯の灯りが一層綺麗なんだよ!
エミリーはね、ピンクの地に赤と黄色の大きいお花と蝶々がいっぱいついた派手な浴衣を着て、髪も超盛ってもらったの!頭にピンクのでかりぼんもつけたし!
――でも頭にでかりぼんをつける女って、男から見たら引かれるんだっけ?まっ!鮎川なら何でも許してくれるからいいやっ!――
エミリーが袖を広げてくるっ、って1回転してみせたらね。鮎川が超顔を真っ赤にしてるんだよ!ウケる!
「可愛いだろっ!」
「えっ」
「可愛くないのかっ!」
「か、可愛いですっ!」
「へへっ!あっ!写メろうよ!すみませーん!撮ってもらっても良いですかぁ」
エミリーは鮎川の青いケータイを奪ってエミリーのピンクのケータイと一緒に、射的屋の優しそうなおじちゃんに渡せばすぐに、
「良いよ」
って言ってくれたの!エミリーが可愛いからOKしてくれたんだよね?キャハハ!
鮎川と一緒に並ぶ。
「はは、彼氏君の背が高いから彼女が入らないよ。彼氏君。もう少し屈んでくれるかな?」
「かっ…!?痛ぇ!」
鮎川の奴、射的屋のおじちゃんの間違いにまで顔赤くすんな!って意味でエミリーが下駄で思い切り足踏んでやったの!ウケる!
「撮るよー。はい、チーズ!」


カシャッ!





































「きゃーっ!やっぱりエミリー超可愛いーっ!」
おじちゃんが撮ってくれた写メ、かなり可愛く撮れたんだよ?写メで可愛く撮れる子って素が可愛いんだって!ま、エミリーが可愛いのは当たり前だけどね!
屋台がいっぱい並ぶ中を歩いていたら結構混んで…うわっ。最悪。何処を見回してもカップル、カップル、カップルかよっ!皆、手繋いでるし…!
「あ。エミリー。金魚すくいあるよ。やる?」
「ねぇ鮎川!」
「え?」
「今だけ手、繋いでやるっ!」
「え!?なっ、どうしたんだよ!明日雪が降るだろ!」
「はぁ!?うっざ!死ね!」
とか言いつつエミリーは鮎川にNOなんて言わせないから!鮎川の左腕に掴まってあげたし!鮎川の奴、これだけで顔真っ赤にするのそろそろ卒業しろっ!
「これはボランティアなんだからね!非モテの鮎川に優しいエミリー様がボランティアしてやってるだけなんだし!」
「…あ、あのさ。エミリー」
「何っ!」
「…後で…その…大切な話があるからっ…!」
「えっ…」


ドクン…

大きく鳴ったエミリーの心臓。すぐ鮎川の顔を見上げたら、外方向いてて見えなかったけど…。
――こうやって手を繋いでいたら、誰がどう見てもカップルにしか見えない…よね?――






























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