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First Kiss【完結】
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俺は、たった今杏夏からまさかの話を聞かされ、尚且つそんな時に健が勢い良く現れたという二つの驚きで、柄にも無くかなり動揺して目が見開いているんだ…!
「あ。杏夏具合良くなったんか?」
「うん。ありがとう。お陰様で。今から帰ろうかなって思ってたの」
「大輝と?」
…馬鹿健め。言いながらにやけて俺の方を見てくる健の顔が明らかに“ヨリ戻したんだおめでとう!”な表情をしていたものだから俺はつい、健の右足を杏夏には見えないよう思い切り踏み付ければ、
「痛ってー!」
と声を上げる。ざまあみろ。
「?どうかしたの健」
「いや、ないない!何でもない!ははは」
杏夏には笑顔を振りまくが、俺には睨み付けてくる健なんて別に気にしないがな。
「じゃあそろそろ帰るか杏夏。送っていく」
「本当?ありがとう」
「あーっ!待て待てちょい待って!特に大輝!」
「…何だ」
背後から俺の鞄を思い切り引っ張るな!
「あのさ俺昨日…あれだったじゃん」
「あれ?もっと詳しく話せ。何を言いたいのかさっぱりだ」
「だからー!その…冴に見られたじゃん。竜二先輩の女友達と一緒に居たところ…」
「ああ。それがどうかしたのか」
「どうかもクソもねーよ!今日一日俺の様子見てりゃ分かるだろ!冴の奴超イライラしてて会話はしないし、マジ避けられてるしさ!」
「自分で撒いた種だろ」
「うっわ!マジ鬼!つーか悪魔だろ大輝!」
何とでも言え。
珍しく沈んでいる健が沈んでいるなりにも俺の後ろで喚いているがまあ、ほとぼり冷めれば仲は戻るだろう。以前も同じような事があったからな。























俺は杏夏の左手を握る。
「杏夏、帰るぞ」
「つーか杏夏は冴から何か話されなかった!?俺の事とか俺の事とか!」
「健いい加減にしろ。杏夏は今体調が悪くてだな、」
「うーん。何も言ってなかった。でも冴、今日元気無かったかな。笑いも愛想笑いって感じだったし」
「マージーで!?かなりヤバいんすけど俺ー!」
頭抱えて喚くな。相変わらずうるさい奴だな…。
「つか大輝!杏夏!頼む!マジで今から冴の所付いてきてくんね?」
「男なら1人でどうにかしろ。第一、杏夏は体調不良だから早く帰らせたいし、俺は俺で今から竜二の溜り場のクラブへ向かう」
「え?竜二先輩の所?また何でだよ。大輝、竜二先輩の事超苦手なタイプじゃね?」
「苦手じゃない。大嫌いだ」
「ははー。ぽいよなー」
「竜二。あいつが一番エミリーの行方を知っていそうだからだ。もしかしたらあのクラブにエミリーが来ているかもしれないからな」
「んー?じゃあハルに聞いた方が早くね?」
「…悪いがあいつはあからさまに竜二に頭が上がらないタイプだろう。なら、竜二から口止めされていてもおかしくはない」
「大輝って探偵みたいだなー。ま、でも俺も行くわ。繁華街行くって事っしょ?」
「あれ…。そうしたら健、冴の事どうするの?」
「え?ああ。あいつさっさと帰ってさぁ!何処行ったかも分かんねぇんだよ!けど、あいつの行きそうな所って繁華街じゃん?なら冴も居るかなーって」
…そういう事か。明らかにエミリーの事は序でに聞こえる気がするが…そこは目を瞑ろう。
とりあえず玄関までやって来て杏夏を自転車の荷台に乗せ、その隣を自転車に乗った健が漕ぐ。夏だからまだ明るいが、やはり陽は落ちてきている。
「じゃあ杏夏を送ったらお前と俺は昨日のクラブへ行、」
「待って大輝。あたしも行く」
「…何言っているんだ。お前は体調不良だろう」
…さっきのあの告白が本当ならば…妊婦を連れまわすわけにはいかないしな…。というか、あの言葉は本当なのか…気になるが聞けない。いや、それより。本当に俺の子供なのか?いや、俺はこれからどうすれば良いのか?など頭の中がぐちゃぐちゃで、杏夏と健の声が遠くに聞こえる。
「…き、…大輝?あたしの話聞いてた?」
「え…いや、悪い。考え事をしていた」
「平気。あのね、あたしだってエミリーの友達。だから探したい。すごく心配だよ。あの子強がっているけど本当は寂しいんだと思う。…本当は男なら誰でも良いんじゃないよ…女の子なら好きな人だけが良いんだよ…。でもエミリーはそれを伝えるのが苦手で…」
ぎゅ、と俺の腰にまわした両手に力を込めた杏夏は俯きまるで自分事のように心配するから、俺と健は顔を見合わせる。
「ならさ杏夏!具合悪くなったらすぐ俺に言えよ。ほら、大輝鈍いからさー!」
「何だと?」
「ふふっ、そうだね。ありがとう健」
「ほらほらー!杏夏もそう言って、痛ぇ!大輝お前、チャリ漕ぎながら殴るとか意味分かんねぇから!」
ギャーギャー喚く健を置いて自転車を漕いでいけば、俺の後ろで杏夏が笑った。久しぶりに聞いたこいつの楽しそうな笑い声。
俺は健には聞こえないよう杏夏にだけ聞こえるように話す。
「杏夏」
「ふふっ。え?何?」
「…元気な子を産めよ」
俺がお前に遠回しに何を言ったか、果たしてこいつは理解できたのか…。天然だから無理に等しいだろうけどな…。















































午後10時55分、
繁華街―――――

「竜二くーん?今日来てないわー」
制服から私服へ着替えて竜二の溜り場である例のクラブへ行く。入口で、金髪で素行の悪そうな女がタバコを吸いながらクラブの扉に寄り掛かってそう言う。
「あーマジですか?連絡先とか知りません?」
「ないないー。うちらそこまで仲良くないっつーか同じクラブでちょい挨拶する程度?みたいな。しかも明日此処、休みだしねー」
「あー分かりました。じゃあ明後日来ますわ!」
「そうしなー。じゃねー」
やる気なさそうにヒラヒラ手を振り、女はクラブの中へ戻ろうとする。
一方、女と会話をしていた健が諦めて俺達の元へ戻ってこようとした時。


ガッ!

俺は、あと少しで閉じそうだったクラブの扉を力付くで開ける。案の定、女も健も杏夏も俺のその行動に驚いて目を丸めていたが。
「ちょ、きゃはは!どうしちゃったの君ー?そんなに怖い顔してさぁ」
「本当に竜二は今日此処に来ていないのか」
ピクリ。今までそれなりに笑顔だった女の表情が俺のこの一言で別人のように切り替わる。かなりイライラしている。
「はぁ?居ないつってんじゃん!」
「なら何故俺達を中へ入れさせないようにお前が扉の前で立っている」
「は?ちょ、きゃはは!何それ刑事ごっこ?今時流行んねーよばーか!」
…タバコ臭いし笑い方は下品だし口は悪いし、最悪な女だな。思わず顔が歪む。女はタバコを吹かしながら俺の耳元で囁く。低い声で。
「それ以上調子乗ったらお前ら高校生の分際でこのクラブに出入りして尚且つ、飲酒した事警察に突き出してやるし」
…くそ。最悪だが俺の負けだ。俺が言い返せないと分かれば、女はまたあの耳障りな高笑いを上げてバン!と、わざと力強く扉を閉めてクラブの中へと戻っていった。




































(side.Ryuuzi)

クラブ内――――

「ギャハハ!マジかよー」
「竜二くーん」
お?このクラブに通ってる、年上の金髪の女がタバコ吹かしながら俺らの所へ来るとソファーに座る。
「さっきさー昨日の高校生達来たよー。竜二くん探してたっぽいし」
「昨日の…ああ。ハルの仲間の黒髪と金髪の奴ら?」
「そうそうー。金髪の女も居たけど。てかさぁ!その金髪の男超タメ口だし竜二くんの事呼び捨てしてるし、竜二は中に居るんだろう?とか言ってきて中入ってこようとしてさぁ!超しつこいしウザかったんだけどー!」
「あー。悪い悪い。まあそんなイライラすんなって。ビールおごるからよ」
「きゃー!竜二くん超金持ちー!毎日飲みに来てるけど良いバイトとかしてんのー?」
俺はタバコを吸殻に擦って火を、消す。白い歯をニヤリと覗かせて。
「まあねー。超良いバイトだぜ!俺はなーんにもしなくて良いんだからさぁ」
「きゃはは!何ソレー?そんなバイトあるわけないっしょー?」
盛り上がる女や仲間達に笑いかけて俺は席を立ち、ケータイを片手に電話をかける。ハルに、な。


トゥルルル…

「もしもし」
「おー。ハルかー?お前今暇だろ?マジムカつく事あってよー。この前言ってたアイツ、頼むわ。え?大丈夫大丈夫。俺の仲間も呼ぶし、俺も行くからよー。じゃあ駅前公園なー」


ブツッ!

ギャハハ!ハルの奴、完璧ビビってやんの!そんなにお友達が大切かよ?
電話を終えた俺がソファーへ戻ると、俺の仲間の男と飲んでいる濃いブラウンのミディアムボブの新入りの女に声を掛ける。
「おーい。冴ちゃん楽しんでっかぁー?」
そう。今日の新入りはこの派手ないかにもギャルな女名前は冴。高校生らしい。
「超楽しんでまーす!」
「ギャハハ!竜二さーん!冴ちゃん超飲みっぷり良いんすよー」
「マジかー。そりゃ飲み甲斐あるなぁー。つーか冴ちゃんビビったぜ?1人で繁華街歩いてたから声掛けたら。なになに?彼氏と喧嘩中?みたいな?」
「そうなんですよー!何か知らない女と一緒に居て、しかもうちの悪口言ってたし!マジムカつきますよねー!」
「まあまあ飲めや。飲んで忘れろ!そんな男の事なんざ!」
「あざーっす!」
おいおい。ビール、大ジョッキで一気したぜ冴ちゃん?だから仲間達皆爆笑だし、
「一気!一気!」
コールまで上がるしマジ盛り上がるわ!
――しかもこの後、あの胸くそ悪ぃ大輝をボコボコにして金も巻き上げられるしな!――
「酒も飲めて女も食えてサンドバックでストレス解消!しかも俺はなーんもしなくても金が入ってくるし、超楽しいぜ!」
クラブの音楽にも負けず劣らずの俺らの笑い声がクラブ内に響き渡った。










































(side.Daiki)

午後11時42分、
駅前――――――

「そろそろ帰った方が良くね?杏夏の体調もまだ万全じゃないならさ」
健の言う通りだ。これだけ捜し回ってもエミリーは勿論、冴も遊んでいる気配は無い。人はまだ居るし駅前は騒がしいが、今日はこの辺りにした方が無難だ。その事を言えば杏夏は、
「まだ諦めない」
なんて頑固一徹だ。
「その気持ちは充分分かるが、闇雲に探したところで俺達の体力が消耗するだけ。つまり逆効果だ。杏夏。ここは健も心配してくれている。帰ろう」
返事ではなく、代わりに口を尖らせたご機嫌斜めな杏夏の表情が返ってくるだけだから、俺と健は顔を見合わせる。溜息を吐く俺と笑いながら肩を竦める健だった。
「相坂は電話に出ないのか」
「出ない出ない。出るわけないっしょー。メールもフルシカトだし。あ、じゃあうちそっちだから」
ケータイ片手に自転車を漕いでいたら曲がり角に差し掛かり、健が一旦自転車のブレーキをかける。
「ああ。また明日な」
「気を付けてね」
「おう!あ!杏夏!もし冴からメールか電話きたら健が謝ってたって言っておいてなー」
じゃあ、と右手を上げると健の自転車を漕ぐ音とライトのジージーいう音がだんだん遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
「…帰るか」
「うん」






























それからの帰り道は、点滅した街灯しかない暗い住宅街。自転車を漕ぐ音とライトの音に紛れ、俺と杏夏の会話がぽつりぽつり聞こえるだけだ。
「大輝」
「…体調はどうだ」
「ありがとう。平気。大輝に打ち明けたら安心してさっきから一度も具合悪くなってない」
「…母体にストレスは悪影響…と聞くからな」
「うん…。大輝は大学進学したいんだよね」
…きた。俺から出そうと思っていた話題だったが杏夏から切り出されてしまったな…。そうだ問題はここだ。…俺達はまだ高校生。
「まだ産婦人科行ったわけじゃないんだけどね。でも…多分そう」
「俺は…」
「あたしはもう少しお腹大きくなったら学校辞めなきゃ。だからって、苦じゃないよ。そりゃ寂しいけど…。お父さんにも近々言うつもり」
「俺も会いに行く」
「ありがとう…。ねぇ。さっき大輝が言ってた事…信じて良いんだよね?」
…さっき言ってた事…?ああ、あれの事か。杏夏の奴天然だから流されたものだとばかり思っていたが。
ぎゅ、と俺の腰に抱き付く杏夏に、背を向けて自転車を漕いだまま口を開く。
「まだ大学進学にするか就職するか正直、杏夏の話で迷っている」
「大丈夫だよ。大輝は大学進学したいでしょ。こんな言い方ムカつくかもしれないけどあたしのお父さん、お金持ちだから」
「…社長だもんな。まあそれは承知の上だが、早く働いてお前と2人で暮らすのも悪くはない」
「…じゃあさっき言ってた事信じて、」
俺は息を吸い込む。
「当たり前だ。元気な子供を産んでお前も元気でいてくれればそれで良い」
杏夏の家はまだだが、自転車を停めた。人影が無く家からの明かりも無い深夜の住宅街。自転車から降りて杏夏と向き合う。でかい水色の瞳が上目遣いで見てくる。
「それって。それって…」
上手い言葉は言えないからただ、静かにキスをした。





































午後11時59分―――

「さて…」
杏夏も送ったし。もうこんな時間か。自転車を漕いでいたら。


ヴヴヴ、

「…ハルか?」
ケータイのバイヴが鳴り漕ぎながら開けば、ハルからの着信。こんな時間にあいつからなんて…。取り敢えず電話に出る。
「もしもし」
「大輝くーん。何回も電話したんだよ?あ。もしかして寝てた?」
「いや。今家に帰ろうとしていたところだ」
「あ、そうなんだー。調度良いや。今から駅前公園来てくれない?エミリーちゃんの情報、竜二先輩が会話の中でぽろっと口に出していたからさ…」
「…分かった。今行く」


ブツッ

ただただ、俺は自転車を走らせた。駅前公園へと。




































駅前公園―――

「ハル」
「あ!早いねー!」
自転車を入口に停めれば入口付近のブランコにこんな真夜中に1人座っていたハル。いつもの貴公子張りの笑顔でぶんぶん右腕を振ってブランコから降りると、俺の元へ駆けてきた。
「もしかして近くに居たの?超早いからびっくりだよー良かっ、」
「竜二は何処だ」
「え…」
呆然。目まで丸めたハルは俺の重たい一言を聞いた直後、あの貴公子張りの笑顔が徐々に崩れてほらな。しまいには小刻みにガタガタ震える両手を強く握り締めている。…飄々としているがハルはこういう肝心な嘘は吐けない奴だから。
「な、何言ってんの?あ、て、てかさ!さっき電話で言ってたエミリーちゃんの事なんだけど!」
「ハル。お前は嘘が下手過ぎる。粗方、竜二に俺を此処に呼ぶよう言われたんだろう」
「は、はぁ?な、何言っちゃってんの大輝君落ち着いたら?」
「落ち着いていないのはお前の方だハル。…いいか。金輪際竜二達との関わりを断て。あいつらは素行の悪いだけの不良とは違う。犯罪者だ。だか、ら、」
「良識人ぶってんじゃねぇよ!」


ゴッ!

「ギャハハ!後頭部一発とかヤバくないっすか竜二さん?」
「容赦ねぇー!」
「こいつ頭から血流れてんすけど!」
うっ…くそ…。最悪だ…。ハルが竜二達に利用されて俺を誘き寄せた事くらい最初から分かっていた…いたが、迂闊だった。ハルと話していた隙を狙われ、背後から…バット…か?バットで頭部を竜二に思い切り殴られ、その場に俯せで倒れこむ俺。頭がぐわんぐわんするし、視界が霞む。吐き気までしてきた。
すると、霞む視界でもはっきりと誰か分かる程近くに竜二がガタガタの歯を覗かせて顔を覗き込んできた。
「よーっす!大輝くーん元気してた!?」


ドスッ!

「っぐ…!」
「ギャハハ!でかい図体のくせにちっとも抵抗しねぇのかよダッセ!」
っぐ…やばい…。
腹部や背を竜二やその仲間数人の不良共蹴られ、一瞬呼吸ができなくなるし、痛みよりも息苦しさの方が増す。視界もだんだん見える範囲が狭まる…。




























「今日俺達のクラブ来たんだってなぁー?ぶっちゃけ今日俺らあそこに居たけどー!つーか何?お前俺の事探ってんだって?つーか疑ってんの?なぁんでっかなぁー?」


ドスッ!

「ぐあっ!」
「おら!答えろよクソガキ!」
殴る蹴るの繰り返しで喋れるはずがないだろう!この低能共が…!口内は血の味がする。
「おーい。ハルー?お前のダチ全っ然返事しねぇんだけど!つーかもう死んじゃった系?」
…霞む視界だが、辛うじてハルが目を泳がせ顔を真っ青にしながら俺を見下ろしているのが見え…


ドスッ!

「ぐああ!」
とどめと言っても過言ではない。竜二が俺の鳩尾を殴ってそれからもう、意識も朦朧。叫び声すら上げる力が、無い…。
「エミリーの居場所知りたいんだってなぁ?あんな男とヤる事しか能のない女必死こいて探すなんざ時間の使い方損してんなぁ大輝君?」
「はぁ…はぁ…」
「ギャハハ!竜二さーん!ヤバいっすよ!こいつもう死にますって!」
「はは。大輝くぅん?良い事教えてやろっかぁ?お前らクソガキ共が探してるエミリーちゃんはなぁ、もう俺の金を稼ぐ玩具でしかねぇから探して見付けたって無駄だぜ!なっ!」


ドッ!

無抵抗だというのにそれが癖のように竜二が俺の腹部を蹴れば、ジーンズのポケットから財布を抜かれる。頭上で馬鹿笑いするあいつらの笑い声すら遠退く…。
「よっしゃ。この金は明日の飲み代なぁー!」
「ヒュー!竜二さん太っ腹っす!」
バイクのエンジン音…。遠退く意識。
「おーい!ハルいつまでそんな所に居るんだよ。行くぞー」
竜二がハルを呼ぶ声がしてすぐ、遠ざかっていった足音はハルのものだったか…?それすら分からない間にバイクのエンジン音と笑い声が深夜に鳴り響き、やがて消え去る。そして俺の意識も同様に…。













































(side.Anka)


ヴヴヴ、

「もしもし。冴」
「あ!アン姉起きてた!?」
「うん。今、ベッド入って寝ようとしていたところ。どうしたのこんな夜中に。あ。そうそう。冴何処行ってたの。健がね謝りたいって言って、」
「あのさアン姉!今日アン姉達繁華街のクラブ来たっしょ!?」
どうしたんだろう。冴、すごく慌てた声してる。ベッドで横になりながらお腹を擦って、首を傾げる。
「うん。何で分かるの」
「え?あー…健と喧嘩中なんさうち!だから繁華街歩いてたら誘われてそのクラブ行ったら竜二って男がハルに電話してて!」
「…竜二?」
確かその竜二って人がエミリーの元カレ…。
クラブに行った時あの女の人は竜二はクラブに居ないって言ったのに。やっぱり大輝が言ってたみたいに、あの女の人は嘘吐いていたんだ。
「その竜二って人がどうかしたの?」
「よく分かんないんだけど!健と大輝の事も知ってて!何か、ハルに今から呼び出せとか言ってたんよ!誰を呼び出せって言ったかまで聞こえなかったんだけど!だからさもしかしたらあいつら、ヤバいとこに足踏み入れちゃったんじゃないかって!アン姉、大輝に電話してみて!うち、健に電話するから!」
「うん…大丈夫だと思うけど…。分かった。何もなかったらあたし、もう寝るね」
「電話する前に寝ちゃ駄目だからね!」
「ふふ。分かってる」
どうしたんだろう。あんなに声裏返らせてまで。
大丈夫だよ。大輝はあたしを送ってくれてからもう1時間は経ってる。万が一があったら、大輝のお母さんがあたしに連絡してくるだろうし。
























冴との電話を切ってすぐ、大輝に繋げる。多分、もう寝ちゃったかな。


トゥルルル…
トゥルルル…

…寝ちゃったかな。疲れてたみたいだし…。あたしが妊娠したかも、って言ったから、気疲れもしたかな。永遠のように続くコール。寝ちゃったんだろうと思ってるのにこの電話を切れない…何で?
一旦電話を切ってもう一回かけようとした時。冴からの電話。
「もしもし」
「アン姉!大輝と電話繋がらなかったっしょ!?」
「何で分かるの?」
「…っ、健の家に電話きた…」


ドクン…、

あたしの心臓が、誰かに触れられたみたいに大きく鳴ったの。
「え…」
「大輝のお母さんからで…大輝がまだ帰ってきてない、って」


ガタン、

ケータイが床に落ちた。


























































(side.Ryuuzi)

駅周辺暗闇の中に浮かぶネオン。ラブホの一室。
俺の隣でベッドのシーツに包まった嘉納が天井を見ながらぽつりと話す。
「…竜二先輩」
「んー?」
「あの冴って女。あたしと同じ学校だよ」
「マジ?ダチなん?」
「違う。あいつエミリーと友達だし健の彼女」
「はぁ?それを先言えって嘉納ちゃーん?」
思わず上半身起こしちまうぜ俺。
「冴ちゃんの前でフツーに健達の事貶しちまったし!」
「平気じゃない?」
「まあねー」
寝ながらタバコを吹かして、大輝から盗った…いや、もらった?かなぁー?財布の中から札束取って…おっと。免許証まで出てきちまったぜ。免許証に写ってるこのクソ真面目そうな顔がムカつくけど、まっ、ボコれたしなぁ!
「次はあのがり勉だなー。健の奴は使えそうだし、まだボコらないでおいてやるかぁ!」


ゴトッ、

ゴミ箱の中に大輝の免許証を投げ捨てる。寄り添ってくる嘉納にキスをして、ご満悦な俺は札束で扇いだ。




















































(side.Anka)


ゴトッ…、

午前12時38分、
駅前公園―――

地面に落ちたあたしのケータイ。足元で頭や腕、口から血を流して倒れているあたしの大切な人…。
「大輝!大輝!!」
泣き叫んだって抱き締めたって意識が無いの。返事が返ってこないの…。
冴の電話があってすぐ、健の車であたしと冴と健の3人で探していたら、見付けた。大輝を。
「アン姉…!」
「俺、今救急車呼ぶから!冴は警察に通報しておけ!」
泣き喚くあたしの後ろで冴と健が大輝の為に頑張ってくれている声すら遠くに聞こえる。
あたしはただ頭の中が真っ白で、狂ったようにただただ泣き叫んで、力強く大輝を抱き締める。早く目を覚まして、早く返事をして、って。
「大輝、大輝…!もうあたしだけの大輝じゃないんだよ!もうあたしとお腹の中の子の大輝なんだから…!言ったでしょあたしと赤ちゃんが元気ならそれで良いって。ならね、あたしは!大輝が元気で笑っていてくれればそれだけで良いんだよ…他にはもう何も望まないんだよ…」
神様ってこの世に居ないよね。大輝もエミリーも彼方も酷い目にばかりあってる。あたしはゆっくり顔を上げる。据わった瞳で。
「…許せない…。あたしの大切な人達を傷付けたあの人が許せない…」
もう失いたくない。お母さんを失って、恋人も友達も失うなんて絶対嫌なの…だから…。
救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。





























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