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First Kiss【完結】
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「た、誕生日おめでとう。アクセサリーも鞄も何が良いか分からないからさ一番無難な、」
「話し掛けんなって言ったじゃん。皆がいなくなったの見計らって話し掛けるとこも超ウザイんだけど。襲われそうでエミリー超怖ーい」
目も合わせず真っピンクの口紅を塗りながら言うその低い声には、鮎川もついに怒りを堪えきれなくなったみたい。怒りで肩がカタカタ震えているもん。
「エミリーが俺と幼なじみだって事知られたくないって言うから、他の奴らいないの見計らって話し掛ければエミリーが嫌がらずに済むと思ってやってるだけだろ!」
「エミリーの為にとでも言いたいの?ばーかっ。あんたがやる事全部ウザイだけなの」
「っ…!そりゃエミリー達みたいな目立つグループじゃないし地味だけど違うタイプだから話し掛けるな、って何だよ!意味分からないだろ!」


ガタン!

はあ?何こいつ。
鮎川は、エミリーが使っている机に思わずって感じで身を乗り出してきたの。その衝撃でマスカラが数本、口紅が数本倒れた。
エミリーは口紅を塗っていた手を止め、ギロリと鮎川を睨み付ける。鮎川にしか見せないエミリーの冷たい眼差しに内心ショックを受けながらも、表面では動じないよう現状維持しているんだろうね。可哀想な鮎川君!きゃはは!
「ただ祝いたかっただけなんだよ。ただ昔みたいに話しをしたかっただけなんだよ!何で話すことすら駄目なんだよ!」
「…あんたさ、自覚してない?」
「…え?」
…駄目だこいつ。天然もいいとこだよ。
突然鮎川の顔を問うように覗き込んできたエミリーに、キョトンとしてしまう鮎川。一瞬2人の間に沈黙が起きるの。



























「エミリーの事どう思ってる?」
「どうって…同い年だけど兄妹みたいっていうか家族みたいだ、って…」
本当に駄目。こいつの無自覚っぷりには、呆れて怒鳴る気にもなれない。ある意味可哀想な子。
「…エミリーと2人きりになってるのにチャンスだとか襲いたいだとか思わないの?」
「は、はぁ?襲いたいって何、」
「ちゅーしたいとか、えっちしたいとか思わないの?」
「ちょ…何言ってるんだよ!家族同然のエミリーにそんな事思うはずないだろ!」
「自覚してないんだ…こんな奴もいるんだ…」
呆然としたまま鮎川の顔を覗き込むエミリーに対し、頭上にハテナマークを浮かべる鮎川は、エミリーが何を言いたいのかさっぱり理解できていない様子。
何なのこいつ?傍から見たらあからさま。なのに本人は無自覚。
「エミリー、何が言いたいんだよ」
「べっつに。まあ、自覚してくれないほうがこっちとしては都合が良いけど」
言いながらエミリーは、化粧品を黒地にピンクの水玉模様のポーチに片付けて更にそれを鞄に片付け始めるから、鮎川は慌て白い紙袋をエミリーの前に突き出す。半ば無理矢理強引に。
エミリーは冷めた瞳のまま紙袋と鮎川の顔を交互に見る。なかなか受け取らないの。だってすんなり受け取ったら軽い女でしょ?
「エミリー何でこの時期に転入…てかそれより受け取ってくれよコレ!」
「……」
更に突き出された白い紙袋。鮎川にそれを持たせたまま紙袋の中身を覗いて、中から中型の白い箱の取っ手を掴み、両手で取出し、それを机の上に置く。エミリーが箱の中から取り出したモノそれは…。
























エミリーの真っ赤な瞳が一瞬ほんの一瞬だけど、大きく見開かれたの。そうしたら鮎川は優しい表情になる。
箱の中から現れたモノそれは、真っ白な土台にエミリーの瞳のように真っ赤な可愛い飾りがついた所謂ショートケーキ。しかもワンホール。だからつまりバースデーケーキ。
スポンジとの間にも大きな苺ぎっしりが挟まっている。超美味しそう。ケーキ中央には、長方形のホワイトチョコレートのプレートにブラックチョコレートのソースでHAPPY BIRTHDAYって書かれている。しかもケーキの周りに付着しているセロハンにはこのケーキの店名『Frantiska』と明記されているの。
このFrantiskaっていう洋菓子店は、フランスの一流パティシエが作っている高級洋菓子店としても有名な店だから、甘党のエミリーが知らないはずがないの。まさか昼休みこれを買いに…?


しん…

しばらく沈黙が起きたから、鮎川は内心焦り出したんだろうね。あわあわし出してエミリーの顔色伺ってくるの。
「あ、あれ?エミリー苺とかケーキ好きだった…よな?あれ違っ、」
鮎川が話し途中だけどエミリーはケーキを箱の中に戻して紙袋の中へ片付けると鞄を持って、空いている方の右手に紙袋を持つ。まあ…紙袋受け取ってやったって事ね。
くるり、と鮎川には背を向けて席から立ち上がると、後ろの出入口の方から無言でスタスタと歩いて行ったから鮎川は慌てて声を上げる。
「あっ、ケーキそれ!一応保冷剤入れてもらったけど、生クリームだから早く冷蔵庫入れたほうが良いからな!」
鮎川の忠告は聞こえている。うざい程。けどわざと無視したままエミリーは教室を出て行った。


























無音の教室にぽつんと残された鮎川。
エミリーからお礼の言葉なんて貰えなくて暴言ばかり貰っていたけれど、鮎川の顔には暖かな笑みが浮かんでいたの。何処かとても嬉しそう。まだ明るい青空を窓越しに眺めていた。
「てっきり要らないって言われると思ってたけどまさか受け取ってもらえるなんてなー…」
独り言、廊下まで筒抜けだから!独り言ならもっと小声で言え!
エミリーがたった今まで座っていた椅子をきちんと片付けると、上機嫌で教室を出てきた。
けど、たった今まさに鮎川が教室を出たのと同時にエミリーを迎えにきてくれたハルと一緒に並んで廊下を歩くエミリーの後ろ姿が遠くに見えた時、鮎川は何か感じたかな?イラっときたかな?…したかな?






































「ハッピーバースデーエミリー!」
焼き肉店の後にやって来たカラオケボックスでお酒を飲んで、既に出来上がっているエミリー達の盛り上がりは最高潮を迎えているの。
テーブルの上を散らかしてもお構い無しに思い切り歌を唄う面々。お酒のせいかな?何か気分爽快!超気持ち良い!冴と健はノリノリで唄っているし、あのアン姉と大輝もお酒のせいか、いつもよりすごくハイテンション。
エミリーはお酒を飲むと笑い上戸になるから、爆笑する事も特に無いのに笑いながらハルにもたれかかってチューハイを一気飲みするの。



























「じゃあまた明日ねー!」
「冴明日はちゃんとプレゼント持ってきてよね」
「うるっさい!」
カラオケを出て、住宅街に位置する人気の無い深夜の公園に集まったエミリー達。楽しかったエミリーの誕生会ももうおしまい。
健は冴を。大輝はアン姉を自転車の後ろに乗せて…つまりニケツして!って事。はい、これで解散!ってなわけで、皆帰って残ったエミリーとハル。ふふ、この雰囲気ってもしやもしや、だよね?
仕方ないなぁ!って事でエミリーがハルに寄りかかるの。これで普通なら10秒と経たないうちにオチルんだから。…けどそれはエミリーの誤算だったって事を後で思い知る。
チラ、と潤んだ瞳でハルを見上げるんだけど、何かおかしい。こいつ、さっきと変わらず余裕綽々の貴公子張りの笑顔。意味分かんない!もっとドキドキしたり照れたり動揺したりしろっ!
「ハル。今日はエミリーの誕生日お祝いしてくれてありがと」
またぴたっ、てくっついてこいつの様子をチラ、と伺うんだけど…ちっとも動揺していないし!何こいつ!エミリー様が甘えてやっているんだからおろおろしたり動揺したりしろっ!余裕な顔してる男が一番ムカつく。
「僕も嬉しかったよ。まさかエミリーちゃんと仲良くなれるなんてさ」
「あはは、エミリー超心広いから」
「うん。優しいもんね」
…駄目だ。こいつ扱い辛い。そこら辺の男みたいに、エミリーに先導されてコロっとオチレば良いのに!顔が良いからってこいつ調子乗ってるし。絶対乗ってるし!!
























半ばムキになっていたエミリーは最後の手段に出るの。不本意だけどね。
ハルの首に腕を回してぐいっ、と身体ごとこっちへ向かせて、向き合わせる。エミリーは上目遣いで口を尖らせる。不機嫌そうにすればすぐ心配するハズ。…ハズ。
「はは、どうかした?口がタコみたいだよ」
ムッカつくー!!鮎川とは違った意味でムカつくムカつくムカつく!!エミリー様に対して何て言い方するの!?
男なんてね、エミリーに貢いでエミリーを可愛がってエミリーの言いなりになっていればイイの!昔みたいに男の方が偉いんだぞって言う感覚なんて要らないの!それ以上余計な事しなくていいの!
ムカつくから腕に力を込めて強引に引き寄せる。ふふ、やーっとハルはぽかん、とした表情になるの。ハルの丸まったオレンジ色の眼に映るエミリーの不機嫌な顔。ラメが入ったピンクのエミリーの唇が言葉を発する度、ゆっくり妖艶に動く。
「ハルにならもーっと仲良いコトしてあげても良いよ?」
決め台詞。この後直ぐに誘ってエミリーが先導して…ってあれ!?訳分かんない!突然景色がハルの顔から真っ暗な夜空に変わって、何度もぱちぱち瞬きして状況が飲み込めずにいたの。
でもしばらくして理解した。ハルはエミリーの事を公園のベンチに押し倒していたの。
…これだから強気な奴ってムカつく。外見はそうは見えない貴公子面だけど。だから余計ムカつくのかも。



























エミリーは演技でもなく本気でイライラ。だからさっきみたいにスネた感じとかじゃない。本気で苛立った調子で、眉間に皺寄せて睨むの。
「別にしてもイイけど、外でって常識はずれもいいとこなんじゃない?」
「そうかな?屋内だと逃げ場がないけど屋外ならほら、大声出せば夜中だろうと誰か人が駆け付けてくるからさ」
…何こいつ。何この余裕ぷり。嫌ならどうぞ大声で叫んで助けを求めてください?こいつ、エミリーが、すんなりハルを受け入れる軽い女だと思ってる。絶た、
「んむっ…!」
ちょっと待って!エミリーはOKしていないでしょ!
強引にキスされて超ムカつくから足でお腹を蹴ってやるんだけど、だけど…反面、超久しぶりだった。こんなに優しくキスしてもらえたのは。今までの奴、皆エミリーの身体目当てだから、キスなんておまけって感じだったし、最低な奴なんてそのおまけすら無し。
ムカつくけど超超超ムカつくけど仕方ないなぁ!て思っていたら、静かに唇が離れる。とろんとした眼でハルを見つめながらまた首に腕を絡ませちゃうの。無意識のうちに。
あーあ、今日のエミリーどうかしてる。お酒のせいだ!絶対そうだ!
「エミリーちゃん。さっきから気になっていたんだけど。コレ、何?」
「え?」
甘い刻は中断。
ハルはベンチの上に置いた白い紙袋の黒い取っ手を持って首を傾げる。
…その紙袋の中身はあいつがくれたケーキ。バースデーケーキ。思い出すだけでもイライラする。
せっかく機嫌良かったのも束の間、口を尖らせる。
「別にそれいらないからハルにあげるよ」
「え?いらないってこれ、バースデーケーキじゃないの?」
まだあげる、て言う前から紙袋の中を漁るな!ま、別に良いんだけど。
紙袋の中に入っているケーキが入った箱を少しだけ開けて覗いたハルはすげー、とか超豪華、とか言いながら感動してケーキを見てる。つまんない。エミリー放っておくな!
だからね、ハルの顔をぐいっとエミリーに向けてエミリーからちゅーするの。唇を離して、どうだ!って顔をすると、ハルはくすくす笑いだすからムカつく。また眉間に皺を寄せるエミリー。
「じゃあケーキ貰っちゃうね」
「ケーキの話ばっかりするなっ!」
「くす、はいはい」
「んむっ…!」
また優しいキス。首に絡めていた腕がだんだん、ハルの細くて背骨が浮き上がった背中に絡まる。エミリーは優しいから。仕方ないなぁ許してあげる。
そのままハルを受け入れてあげれば、真夜中の公園の時計の針はどんどん瞬く間にまわっていく。
野犬の遠吠えが一度響き渡っただけで、あとは静かな真夜中の公園。街灯が消えたり点いたり。静かな公園にベンチの軋む音と、白い紙袋が地面に落ちる音が、した。
























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