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First Kiss【完結】
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生徒会室前。
お昼休みなのに特別教室棟のこの階だけは静か。生徒会室の天井の窓から外に漏れる室内の明かり。
――鮎川、待ってるんだ…――
昨日エミリーが怒ったのに、大嫌いだって言ったのに…。いつも通り生徒会室でお昼ご飯をエミリーと一緒に食べられると思って待っているなんて本ッ当馬鹿だよね。
朝教室で、エミリーに新しい彼氏できた、ってみんなが騒いでいた話し声だって同じ教室に居たんだからぜーったい聞こえているはずなのにさ。よく待っていられるよね…本当に馬鹿だし。
エミリーは生徒会室の扉を音たてないようにそーっ、と。ほんの少しだけ開ける。


カタン…、

室内で1人で受験対策テキスト読んでる鮎川。やっぱり待ってるんだ…。待っていなかったら待っていなかったで少しムカつくけど。
テーブルの上には購買で買った調理パンが5個と…エミリーが大好きな苺サンド。でもしばらくしたら、鮎川は溜息を吐きながらテキストを閉じると調理パンの袋を開けて食べ出すの。エミリーが来ないから諦めたって感じで。
でも二口くらい食べたら…嘘。ありえない。大食漢のアイツが食べ欠けのパンを袋に戻した。つまり残したってわけ。残りの4個なんて手、つけてないし!何なん?要らないなら買うなって感じだし!
ほら!テーブルに顔を伏せちゃうし!細いし病弱なんだからちゃんと食べなきゃ駄目じゃん!…って…。エミリー何やってんだろ…。






















パタン…、

少し開けてた扉を閉めて生徒会室の扉の前で立ち尽くすの。
――扉1枚向こうには鮎川が居るのに。…ほとんどは鮎川が悪い。けど、エミリーにだって悪いトコいっぱいあったから謝って早く仲直りしたいのに…――
生まれつきの頑固な性格がなかなか素直になってくれないから、そのまま1人で教室に戻るの。下を向きながら。こんなのエミリーらしくないのに…。




































「じゃあ7時間目のロングホームルームは中間テスト明けの修学旅行のグループ決めするからなー」
7時間目。始まってすぐ教室に入ってきたエミリーのクラスの担任。髪は薄くなった太めの男。因みに50歳後半くらいじゃない?コイツ、いっつもエミリーのスカート丈をニヤニヤしながら注意してくるしオヤジ臭するからマジ嫌ーい。
いつもならホームルームは寝たりケータイいじったりで聞かないけど、修学旅行のグループ決めなら仕方ないっか。起きていてやるし!
――てかこの学校は修学旅行が3年生の時なんだー。中間テスト明けて3日後だったっけ?ハードだし!ま、エミリーは勉強しないけどね――
「はぁ?てか明日から中間だっつーのに今日決める必要無くね?」
「せっかくテスト勉強できると思ったのになぁ!」
「ぎゃーぎゃー喚くな!今まできっちり勉強していなかったお前達が悪い!」
「はー?うっぜ!そんなんだから先生結婚できないんじゃないですかー?ギャハハ!」
「何だと!」
あーもう。うざっ。いいからさっさと始めてよ。エミリー機嫌悪いんだから、騒がしくしないで!





















「じゃあ今日決めるグループは、3泊4日の修学旅行で2日間ある体験学習の時に行動するグループだ。このグループ編成は高校生活最後の良き思い出とする為、3学年全クラスからくじ引きでグループ編成するからな」
「はぁー?めんどくね?」
騒めき出す教室内。
ん?教師の言う意味がよく理解できなくて、首を傾げる。隣の席の化粧に夢中のギャルの友達に聞くの。
「ねぇねぇどういう意味?」
「何がー?」
「グループ決めが3学年全クラスとかエミリーよく分かんないんだけど!」
「要するに全部で40のグループがあってさぁ。1つのグループのメンバー5人はA組からE組までの生徒がごちゃ混ぜって事っしょ。くじ引きの箱は1つだから1つのグループ全員C組の生徒になるかもしれないし」
「えーっ!?じゃあエミリー以外他クラスの全然知らない奴のグループになるかもしれないじゃん!」
「もしかしたら地味な女子、又は地味な男子の中にエミリー1人かもよー?」
マスカラ付けながら友達が笑うけど、もしそうなったら超つまんないじゃん!イライラするから
「やだやだ!」
って駄々こねながらも、くじを引く列に並ぶ。
――地味な奴らばっかりとかエミリーが嫌いな嘉納とかと一緒だったら嫌だし!あっ。でもそうだったら誰かに代えてもらえば良いんじゃん?――
「エミリー頭イイー!」
「ほら華浦。お前が引く番だぞ!」
「やだキモーい!触んじゃねーっ!」
「お前!教師に向かって何て口の利き方をするんだ!」
マジこの教師ムカつくってか、エミリーの手触ってくんなだし!ガンッ!ってエミリーが教壇を蹴ったらビビッたから教室中大爆笑。
「キャハハ!キモーい!」
「っ!華浦お前の成績全部赤点にしてやるからな!」
「されなくても赤点でーす!」
「あはは!エミリーお前それ言い返せてねぇから!」
「そう?別にいーやー!」
ギャル男の友達と爆笑しながら席に着いて、グループの番号が書かれた小さい紙を開く。エミリーの周りにギャルの友達がいっぱい集まってきて、みんなで一緒にくじを開いて見せ合えば教室中が超騒がしくなる。だから教師が必死な声で
「静かにしろ!」
って言うけど、誰1人として言う事聞きませーん!























と・こ・ろ・で!エミリーはというとくじの番号は、22。目が見開くの。だって嬉しいじゃん!この番号って!
「見てみてー!エミリーのグループの番号22!にゃんにゃんだよ!」
「はぁ?ぶりっこうっぜ!あはは!」
「ムカつくー!エミリーが可愛いからって僻まないでくださーいっ!」
「はいはい。可愛い可愛い」
「ぶーっ!てかさ!てかさ!誰かエミリーと一緒いる?」
目を輝かせてみんなの番号見てみるけど、1人もいないし!席を移動してギャル男達にも番号聞きに行くの!
「ねぇねぇ。誰か22番いないのー?」
「エミリー22番なん?」
「うん。でもみんな違うんだよーっ」
「俺ら22番いたっけ?」
みんな顔を見合わせるけど…
「いなくね?」
「いないわー。ごめんなエミリー」
「えーっ!マジショックなんだけど!」
サイアクーって言ってたら、
「冴とか杏夏が一緒かもしれねぇじゃん」
って励ましてもらったから少しは希望が持てるけど…。
「あと4人誰なんだろー」
――鮎川は何番だったかなー?――
ケータイを取り出す…けどやっぱりまだメールできないよ。何番だった?って聞きたいのに。まだ素直になれない。早く謝っちゃえば楽なのに。エミリーから謝るってのは柄じゃないしなぁ…。
つまんなーいって呟きながら、トボトボ席に戻ろうとしてふと視界に入ったのは、地味な女子メンバー5人。地味だし暗いからエミリー喋った事ないけど。
「え?可那子ちゃんだけ違うグループなの?」
席に座って頬杖着きながら会話を盗み聞き…じゃないからね!聞こえてくるだけだし!
話の内容からして、5人のうちミリアって子1人だけ違う番号のグループだったっぽい。
――てか、他4人同じグループとか。くじ運あり過ぎじゃない?――
「みんな何番だったの?」
「私達22番だよ。可那子ちゃんは?」
「あたし23番だよ…」
他の奴ら22番?はぁ?あんな地味な奴ら4人とエミリーが一緒なワケ?
はぁ。溜息出たし。絶対会話続かないしー!てか話さなくても良いし!
残り4人全員地味なあいつらなワケ!?あり得ない!期待もできないじゃん!
はぁ。ってまた溜息を吐いて何気にその地味グループを横目で見たら、みんなしてエミリーの事見てたし!可那子って子だけ外れた代わりって感じでエミリーが地味メンバーと同じグループのくじを引いたから?そんな嫌そうな目で見んなだし!ウザっ。睨んでやったらみんな慌てて目を反らしたしね!キャハハ!マジウケる!
























「ではこれで7時間目のロングホームルームを終わる。さっさと帰って明日の中間テストに備えろよー」
「起立、礼」
みんな怠そうに欠伸しながら次々と教室を出て行く下校時間。ケータイのバイブが振動してたから取り出せば、竜二先輩からのメール。
――今から迎えに行く…だって――
そうだった。昨日、今日指輪買いに行くから放課後迎えに行くって先輩言ってたっけ…。
何だかなぁ…。指輪買ってくれるまでエミリーの事を愛してくれている人なのに。外見もギャル男だからみんなにも自慢できる彼氏なのに。
――鮎川の顔ばっかり浮かんできちゃうし…―
二股の罪悪感?こんなのいつもの事なのに。
「はぁ…エミリー本当にどうしちゃったんだろう。らしくないし…」
「おーい!エミリー!」
「冴?アン姉?」
C組の教室の後ろ出入口から顔を出したのは、煩いくらい明るい冴と、体育祭の時からすっかりエミリーのグループと仲直りなアン姉。まだ大輝とはヨリを戻してないっぽい。
…てか!アン姉は体育祭の時(大輝もだけど)エミリーが鮎川の事を好きだって事気付いていたっぽいからカァッー!って顔が熱くなるの。 恥ずかしいとかじゃなくて何か何かムカつくんだもん!
「どしたんエミリー?」
「何でもないっ!」
「あっそ。てかさ、うちら6時間目に引いたんだけどエミリー、修学旅行の体験学習グループ何番?」
…最悪。また思い出しちゃったし。どうせエミリーのグループもう全員埋まっちゃったから、期待も希望も無いし!
エミリーが大きい溜息を吐けば、冴とアン姉は察したっぽい。2人からは苦笑いが返ってくる。
「どうしたんエミリー」
「…冴とアン姉何番だった?」
「うちは13番で」
「あたしも13番。エミリーも13番だと良いねって話してたんだけど」
………。サイアク。
まさに空いた口が塞がらないエミリーを苦笑いで見る冴と、相変わらず無表情なアン姉。
























「あー…エミリー。あんたの表情で分かったわ」
「何番だったの」
うわーん!ってエミリーがアン姉に抱き付いて泣き真似すれば、アン姉がよしよし、ってエミリーの頭撫で撫でしてくれたけど!
「エミリー22番なのーっ!しかも残りの4人全員エミリーのクラスの地味メンバーの奴等だしぃ!そのメンバーの中のミリアって子1人だけ23番のグループで外れたから、地味メンバーからエミリーが邪魔者見たいな目で見られてんの!マジありえないよねぇ!?」
「マジ?つまんなくね?誰かに替えてもらいなよ」
冴の奴、自分はアン姉と一緒だからって他人事と思ってるし!あーもうっ!ハルの事と言いムカつくムカつく!ガン!って机を蹴るし!
「…あ」
そしたら、アン姉が何か思い出したっぽいから、エミリーと冴がアン姉を見る。
「どーしたのアン姉」
「…鮎川が23番だった」
「!!」
ななななっ!?何言い出してんの!?ばっかじゃないの!
いつもながらに無表情だけど、アン姉ってやる事なす事大胆過ぎるっていうかいい迷惑だし!…でもそれって…それって…!!
「ちょ、アン姉どしたん?がり勉は確かに23番だったけど、今関係無くね?」
「うん。関係無い」
「…アン姉頭大丈夫?」
「…大丈夫。…じゃあねエミリー。行こ、冴」
「え?ちょ、何処行くんアン姉!」
アン姉の後を、頭上にハテナ浮かべながら追い掛けてC組の教室を出て行く冴。
…てか、てか。最後教室を出る時アン姉、エミリーの方見てニコッ、て笑ったし!なな、何それ!?
「あたし良い仕事したでしょ☆」
みたいな笑顔!?ばっかじゃないの!そういうの有り難迷惑って言うんだし!有り難…迷惑…って…。





















エミリーは静かに席を立ち上がるの。教室の隅で集まって話してるさっきの地味メンバーの女子の内、1人に近付く。本当は喋りたくもないタイプだけど仕方ないじゃん!だって…
「…ねぇ」
「ひぃ!な、何?」
何!?そのあからさまなビビり方!それはそれでムカつくからムッとするけど、エミリー大人だもん!抑えるんだもん!「…エミリーの22番とあんたの23番のくじ交換して」
「え?い、良いの?」
「良いって言ってんじゃん!早く交換してっ!」
「あ、う、うん!エミリーちゃんありがとう!」
エミリーちゃん?!気安く呼ぶなだしっ!
あーあ。超喜んでるしあいつら。エミリー様のお陰なんだからねもうっ!

























23番のくじ片手に、黒板に書かれたC組のくじ引き結果をノートに写し取っている書記の地味な男子の机の前に立つの。確かコイツ、鮎川と仲が良い田中とかいう名前のオタク。
「ねぇ!」
「ななな、何…ですか…」
敬語!?てかコイツもビビり過ぎだからムカつくムカつくー!ゴン!って一発机を蹴ってやった!
「ななな、何、」
「エミリー、グループ22番だったけど、可那子って子とくじ替えてもらったから。エミリーが23番グループで可那子って子が22番グループだから!書き換えておいてっ!」
「そ、そんな!先生に内緒で勝手にくじ番号を変えるなんて不正行為は、」
「うっざ!エミリーが良いって言ってんだから良いの!書き換えてなかったらどうなるか分かってんの!?お前の眼鏡割るから!」
「っ…!わわわ、分かりました!」
キャハハ!即行書き換えてるし!マジウケるー!
っと。ヤバいヤバい。先輩迎えに来ちゃうし。慌てて1人で教室を飛び出して行った。






































早めに来たせいか、玄関の靴箱には人が疎ら。地味な奴らがポツポツ居て帰っていくだけ。
…だから、もしかしたらアイツも居るかもって思って、周りに誰も居なくなってからB組の靴箱の中からえーっと…
「あ!あった」
鮎川の名前が貼ってある靴箱を見つけてすぐ開く…けど、すぐ閉じた。つまんない。鮎川の靴箱の中、もう内履きしか入ってなかったし。アイツ帰ったんだ。
でも今アイツに話し掛けられたら、昨日の事があるからエミリーはツンツンした態度しかとれないんだろうけど…けど、玄関で待っていてくれたりしたら良いのにな…って思っ…てないし!!別にアイツなんて!アイツなんて…
「あっ!」
ローファーを履きながらふと、玄関の外を見ていたらそそくさと下校していく地味な生徒の中に1人、見覚えある後ろ姿が視界に飛び込んできたの。ソイツは、玄関から左側にある自転車小屋の方にさっさと歩いて行っちゃう。だからエミリーは慌てて立ち上がって、ローファー両方とも踵を潰したまま履いて、玄関飛び出した。
――何でこんなマジになっちゃうんだろう…――
こんなに本気で恋したのは智の時以来…ううん。それ以上かもしれない。不思議。すごく。
走りながら思うの。エミリーはエミリーなのに、まるで別人みたい。初めて感じたの。
「恋愛する事が楽しい、って」
でもそれと同時に、初めて感じたもう一つの感情をエミリーは、まだ気付けないでいたの。





































自転車小屋―――――

へへーん!もう追い付いたし!しかも、自転車小屋もその周辺も鮎川しか居ないから少しチャンス…じゃないし!べべ、別にっ!?
鮎川はエミリーの方に背を向けて自転車に鍵を差し込んでいるからエミリーには気付いていない。だからそーっと、そーっと歩み寄るの。
だって、走ってまで追い掛けてきたなんて思われたくないじゃん!そんなの何か…何か…超会いたかったみたいでエミリーが格好悪いじゃんっ…!
――よし!もう少しだし!後ろから驚かしてや、――
「きゃっ!」


ガシャーン!

「!?…エミリー?」
あーん!もう!何なの!?超最悪!
あと少しってところで、出っ張って駐輪してあった真っ赤な自転車に引っ掛かって転んじゃったし!…てかこの自転車アン姉のじゃん!本当アン姉は有り難迷惑女だしー!
超恥ずかしい!座り込んでたら、鮎川が慌てた様子で目を丸めて駆け寄ってきて、座り込んでいるエミリーの目線に合わせる為に屈んだの。けどエミリーは、口を尖らせる。
「大丈夫か」
「……」
「怪我は無いみたいだな。立てる?」
「んっ!」
言いながら目を反らして鮎川に右腕を差し出す。
あーもう!鮎川の奴鈍い!
え?って感じで呆然としてたけど、やっとエミリーが言いたい事を理解したのか、いつもの気弱な優しい笑顔を浮かべながら、エミリーが差し出した右腕をぐいっと引っ張って立たせてくれたし。
…ヤバっ。顔見れない。恥ずかしいとかじゃなくて…。昨日怒ったばっかりで今甘えちゃったからエミリー格好悪いし…。それに、竜二先輩に抱かれた事とか付き合った事とか…思い出しちゃうと鮎川の顔が見れないよ。鮎川はエミリーには遠い存在に感じる。
――もう一途になるって決めたのに。エミリー、また誰にでも抱かれるような女に戻ってる…って知ったら、コイツはどう思うのかな――























なんて考えていたら、沈黙が起きてたからハッ!として慌てて話題を探すの。相変わらず鮎川からは目を反らして…って鮎川もエミリーから目を反らしてたし!少し気まずいのは…昨日喧嘩?したからだよね?
「…あのさっ」
「…ん?」
「鮎川のクラスは…修学旅行のグループ…決めた?」
本当は決めた事知ってるよ。本当は鮎川が何番のグループかも知ってるよ。…わざと聞くの。
昨日怒ってごめんねって謝る機会を狙いたいからわざと聞くの。…いっぱい喋っていたいから、わざと聞くの。鮎川は分かってないよね、エミリーの気持ち。
鮎川の自転車のサドルをいじりながら聞くの。鮎川は自転車のハンドルを構えているっぽい。やっぱりお互いまだ、下を向きながらだけど。
「うん…決めたよ。エミリーのクラスも決めた?」
「うん…」
「そっか…」
話が進まなくて普段ならイライラするハズ。だけど、今日は話が進まない方が良いの。だってやっぱり、落ち着く。鮎川と話していると、今まで付き合ってきた男からは感じた事の無かった安心感を感じられる。
「グループ何番だった?」
「え?えーっと…あれ。何番だったっけ」
空を見上げながら頭を掻く鮎川はマジで自分のグループの番号を忘れたっぽいんだけど!!
エミリーがチラチラ視線を送るけど気付いてないし!てか早速物忘れ!?勉強し過ぎで老化しちゃったんじゃないの!?
「あれ、ヤバい。マジで何番だったっけ…ちょっと待って。えーっと…」
――23番グループだろっ!!――
心の中でエミリーが叫んで教えてやるけど!あーもう無理!待ってらんないっ!
「エミリーはねぇ!23番グループだったよっ!鮎川はっ!?」
23番!!強調して言ってやったらやっと気付いたっぽい!
「あっ!」
って言いながら目を見開く鮎川と目が合った。
「思い出した!俺も23番だ」
「ふーんっ…」
超笑顔になってるし。すぐ顔に心情が表れる鮎川はまだまだ子供だしっ!
























「エミリーも23番なんだな。良かった」
「偶然じゃないっ!?」
「それでも嬉しいよ。エミリーは?」
〜〜っ!?何!?いきなり顔を覗き込まれたし!びっくりしちゃってすぐに外方を向くの。
「はぁ!?何がだし!」
「嬉しい?って聞いてるんだよ」
なな、生意気だし!鮎川のクセに策略攻撃だなんて!!エミリーに、
「嬉しい★」
って言わせようとしてるだけじゃん!!
ムカついて全身がカァッと真っ赤に熱くなったから、自転車を思い切り蹴ってやったら案の定派手な音をたてて倒れた自転車に鮎川は顔真っ青!


ガシャン!

「ちょ…、何すんだよ!」
「キャハハ!ざまーみろだしっ!キャハハ」
口を尖らせながら自転車を起こした鮎川を笑ってたら…ぐっ、って右腕を掴まれて引っ張られたからお互いの顔が近付く。真剣な緑色の瞳。


























生徒達の賑やかな声はまだ校舎から聞こえるけどだんだん近付いてくるからドキドキ…するの。
「なにっ…」
「エミリー昨日ごめんな」
「……」
あれはエミリーだって負があったから思わず目を反らしちゃう。
「俺は自分が傷つきたくないばかりに、エミリーを困らせた。家に帰ってから考えたんだ。やっぱり俺は就職、」
もうやだ。ぎゅっ、て抱きつく。
鮎川は顔を真っ赤にして中学生かよってくらい恥ずかしそうにしてる。エミリーは鮎川の胸に顔を埋めて、もっとぎゅっ、て抱きつく。
「…いーの。鮎川は鮎川の夢を叶えていればいーの」
「でも昨日は嫌だ、って」
「エミリーだって大人だもんっ!本当は、急に大学行きたいとか言われて超超チョームカついてるけど!」
「え…ごめ、」
「ごめんねはエミリーが言う番だしっ!」
「え」
ほら!あーもう!そうやってキョトン、とした顔をされるから、本当は謝りたくなかったのに!顔が真っ赤になるじゃん!イライラのせいでっ!
「な、何がごめんねなんだよ。エミリーは別に悪い事してないだろ」
「いーのっ!エミリー様が謝ったんだからいい加減仲直りしろっ!」
…言わなきゃ良かったっ!鮎川の顔がこれ以上ないくらいみるみる真っ赤に染まる。目まで泳がせてるしっ!ばっかじゃないの?たかがこんな一言で舞い上がんなっ!






















エミリーは腕組みをして、鮎川に背を向けるの。
エミリーも顔真っ赤だったから隠す為とか、そんな在り来たりな理由じゃないんだからねっ!
「エミリー」
「なにっ!」
振り向いたらぐっ、って突然顎を持ち上げられたから、始めの内は、
「ばか!変態!」
って罵声を浴びせていたんだけど…やっぱもう素直になるっ。ここで昨日みたいに怒鳴っちゃったらまた同じ事の繰り返しだもん。エミリーは背伸びして鮎川の顔に近付けるの。
「…彼方君、仲直りっ」
目を瞑ってちょっと間があってからのキス。
昨晩の竜二先輩からのキスも他の身体目当ての男達よりうんと優しかった。けど、今のキスはそんなのと比べものにならない程だし。


カタン…、

優しい触れるだけのキスが終わって唇が離れる。
けど、熱っぽい瞳で彼方君を見つめながらブレザーにぎゅっ、って爪をたてたら応じてくれた。エミリーのお願いに。
「もーいっかいっ…!」
次のキスは深くて甘くてだから息苦しくなって、ドンドン!って彼方君の胸元を叩けば、すぐ唇を離してくれる。
「大丈夫?」
「…も1回っ」
もっと背伸びをしたら、頬を左右からぐいっ、て掴まれて3回目のキス。舌が入ってくるから息苦しいけど、ちょっと頑張ってみるの。彼方君の背中に爪をたてながら。息苦しいけど幸せだから。
「っはぁ…、彼方君ほしいよっ…」
彼方君がトン、ってエミリーの上唇に自分の人指し指を乗せる。
「何が?」
「はあ?!馬鹿!意地悪!言わせんな!」
また背伸びをしながら深いキスをしたらドキドキしちゃって。このまま仲直りでまた優しく抱いてほしくて、ぎゅっ、てしておねだりする為に口を離すの。
そしたら、彼方君からまたキスしてくれるからおねだりは後にして…。ずっとずっとこの刻が続きますように、って目を瞑り欠けた時。


ブロロロロ、

背後遠方から聞こえてきた車の煩いエンジン音。エミリーはハッ!と目を見開くと、すぐ鮎川を押し退ける。
――このエンジン音、竜二先輩の車だし…!――

























自転車小屋のこの場所は玄関から離れているから校門の方は見えないんだけど、もしも、エミリーが鮎川と一緒に居る所を見られたら先輩絶対鮎川に何か言うし!
「お前が元カレかよ」
とかとか…。
そんな事が万が一あったらエミリーが浮気した事バレちゃうし、もしかしたら鮎川に…こんな軽い女いらない、って思われるかもしれないし…。なら竜二先輩との約束を無視しちゃえばすっきりするのにね。
――男依存性なエミリーは、鮎川1人と付き合っているのは嫌なの。一度に2人以上付き合っていないと不安なの。…もう今更、純情な女の子になんて戻れないの――
「ご、ごめん!エミリー今日また友達と遊んで友達の家に泊まるんだっ!」
早口でエミリーがそう言えば鮎川は、
「何で?」
とか
「他の男と遊んでいるんじゃないよな?」
とか問い詰めてくるかと思って恐る恐る顔を上げたら…
え?其処にあるのはいつもの気弱な優しい笑顔だったから、エミリーは目を丸める。
「…友達の家に泊まるなら安心した」
「え…」
「はは、昨日エミリー超怒ってたからさ。今日、別れてって言われるかと思ってたから安心したよ」
――違う。違う!エミリー本当は鮎川が思っているような優しい女の子じゃないの。違うのに…――
「楽しんでこいよ」
そんなに優しい笑顔で見送られたら、胸が痛んで仕方ないよ…。
今言葉を発したら泣いちゃいそうだから俯きながらコクッ、と縦に頷いたエミリーは、鮎川に背を向けて校門の方へと走って行くの。その時。
「エミリー」
優しいいつもの声。でもどこか力のこもったそんな声で鮎川に呼ばれたから、立ち止まって後ろを振り向く。
「俺、信じてるから」
泣きそうになった。罪悪感がエミリーを襲ってきて、涙が溢れそうになった。
























返事はしないでそのまま背を向けて校門まで走って、校門前に停車してあった先輩の白い車後部座席にバン!って力強く扉を閉めて乗り込んだの。
案の定、様子のおかしいエミリーの事をルームミラー越しで心配する先輩。エミリーは俯いたまま。
「どうしたんエミリー。元気無いじゃん」
「…先輩」
「ん?」
「エミリーが男遊びばっかりしている女だって知ってるのに…何で付き合うの?」
先輩はエミリーの問いかけに黙ってフロントガラス越しに一度空を見上げてからハッ、と鼻で笑った。
「何でだろーな」
ルームミラー越しに見えた先輩の笑顔は、アイツの笑顔とは違った。


ブロロロロ、

それからすぐ車はまた、煩いエンジン音をたてる。先輩はタバコを吹かしながら言う。
「エミリー。後部座席の所に小せぇ紙袋あるだろ」
「…うん」
「指輪。買っておいたぜ」
ガサガサ。言われて袋から取り出せば紺色の箱には入っているけどこの指輪…見た事ある。確か…
――ジャンクショップにある安い指輪――
鮎川がくれた指輪より遥かに安い。金額でどうこう言っちゃダメ?
そうじゃない。エミリーは今、やっと気付いた。
――竜二先輩はエミリーに本気なんかじゃない。コイツもハルと同じ。遊びでしかエミリーを見ていない…――
そう気付いても車から降りようとはしないエミリーは本当ダメだね。今まで自分の事こんなに嫌いに思った事無かったのに。
――鮎川を好きになってから、自分の汚さに気が付いた。鮎川を好きになってから自分が嫌いになった――
その理由を考えていたらエンジンがもっと煩い音をたてて車が動き出そうとした時。
「!」
車の窓ガラスに両手をつけて目で追う。自転車に乗った鮎川が車の脇を通り過ぎて行ったから。
どんどん遠ざかっていく鮎川を目で追うのに、体は車を降りようとはしない。そんな葛藤の間にも、車は猛スピードで鮎川の脇を駆け抜けて行ってしまったの。










































(side.Kanata)


午後9時――――

「そう…。付き合ってるんだけど何か…疑っちゃうんだよな」
「付き合ってたんだ。やっぱりね。でもエミリーは男遊びが激しいから鮎川が疑うのも無理ないよ。あたしだったら疑う」
「…しかも指輪外してたしさ。学校でエミリーの友達が言ってたじゃん。エミリーは先輩と付き合った、とか話してたのが聞こえたんだよ」
「噂によると。その先輩とエミリーが付き合い始めたのが昨日で。エミリーが鮎川と喧嘩したのが昨日…。辛いね」
「…放課後は珍しく謝まってきたり甘えてきたんだよ。一昨日なんて結婚したいとか言い出すし…。けど女の子のソレって男が思っているより案外簡単に言ってるだけなのかなって思うんだよな…」
「うーん…あたしの場合は本気だけどエミリーの場合はよく分からない。嫌味とかじゃないけど、よくテレビとかでも言ってるよね。小悪魔な女の子。エミリーはそういうタイプだから」
「……」
「ごめんね。別にエミリーのを悪く言うつもりじゃないから」
「……」
「…鮎川。聞いてる?」
「…もう少し信じてみる」
「…そうしたい鮎川の気持ちは充分分かるけど。4歳の時から好きだったなら信じたい気持ちは分かるよ。…けどね鮎川。黙っているだけが優しさじゃないんだよ。エミリーに負があるなら、怒る事だって優しさなんだよ。鮎川のそれは優しさじゃないんだよ」
「……」
「また何かあったら電話してね」
「うん。ありがとうな鈴」


ツーツー…、

握り締めたケータイを部屋の扉に投げつける。


ガシャン!

ぶつかる嫌な音なんてどうでもいい。明かりを消した真っ暗闇な自室の隅で蹲る。























分かってる。
エミリーの左手薬指の指輪が外れていた事も。
放課後、友達じゃない男と出掛けて行った事も。
それでも、何も知らない振りを装ったり信じてみるなんて言うのはエミリーの為なんかじゃない。まだ、夢を見させてほしい俺自身が傷付きたくないだけなんだって事くらい…分かってる。
でもこのままじゃエミリーはどんどん底無し沼に沈んでいくだけだから、俺が助けてやりたい。更正させてやりたい。そう決めたはずなのに。
「嫌われるのが怖い…」































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