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First Kiss【完結】
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(side.Kanata)

おはようございます!皆さん今日も1日頑張っていきましょう!
…ごめんなさい!超浮かれてます俺鮎川彼方!
いや、だってさだってさ!14年間も(気が付いたのは最近だけど)片想いしていた相手と両思いになれたんだぞ?その相手ってのは、勿の論エミリーなわけですが!
昨晩は酔ってはいたけど記憶は確かなんだ。ちゃんと全部覚えてる。一言一句までとはいかないかもしれないけど、エミリーが告ってくれた事だってちゃんと覚えてる。
最初はカラオケの時の悪夢が脳内を過ったけど、これはそうじゃない、って確信できたし。…金盗られなかったし!
嗚呼、どうしよう。俺実は本気で本気で死ぬまで彼女ができないんじゃないかって思ってたくらいだから、好きな人と両思いになれてマジでテンション高い!調子に乗ってるとか思われたって全然気にならないくらいだから!





























午前9時40分。
1時間目終了のチャイムが校内に鳴り響き、生徒達が友人と大笑いしながら教室で又は廊下で屯ってる。普段ならこんな時間帯に登校しない。つまり遅刻なんてしない俺。
騒音のB組教室へ入り窓際後ろから2番目の席に着いてすぐ、机に顔を伏せる。…眠いとかじゃない。眠いとかじゃない!
――腰が超痛いんですけど!!――
いや本当マジで!だから机に顔を伏せるこの体勢が一番楽なんだ!本当は横に寝転がるのが一番良いけど、教室でそんな事をしてたら馬鹿だろ?
あー駄目だ。ズキンズキンする。今日体育無くて良かった。本当に良かった!俺の腰痛の理由は言わずとも…昨日というか今日の夜中というかまあやっと童貞卒業したわけなんだけど!自分で言うのも恥ずかしいけど…。
ていうか、明らか順序がおかしいというか真逆な俺とエミリーの関係は本当に恋人同士なのか、改めて不安になってきた。
――手も繋いでないのに!てか両思いになって10分も経ってないのに!――
エミリーがエミリーだから超不安なんだけど、まあ金を盗られなかったから一安心?
いや、でも前小耳に挟んだエミリーの噂によるとこの木楚学園に山のように居るエミリーの言う『元カレ』ってのはどうやらその…セフレらしい…。いや、噂を鵜呑みになんてして…しまいそうになる。
「はぁ…浮かれてんの俺だけだったら嫌だな…」


















そんな時だった。
ヴヴヴ、とケータイのバイヴが振動したから重たい怠い体をぐぐっ、と動かしてブレザーのポケットからケータイを取り出してみれば、エミリーからのメール!ヤバい嬉しい!即行開けば内容は…

【Date 05/12 09:41
From エミリー
Subject ぉはよ(≧▽≦)
ぇみり〜だニャァ♪きの〜はぁりがとッ(=・ω・=)
かなた君だぃちゅき(^з^)/★★これからレヽ〜ぱレヽ仲良くするぞッ!!!
でも!!学校でゎみωなにバレないよぅレニUて!!
ね〜ね〜かなた君の家オジサンとオバサンレヽるU"ゃω!!!どーすんのヽ(*`Д´)ノぇみり〜ラブホ行きたいなぁ♪♪ワラ】

あー。俺今、周りから絶対超キモい奴だと思われてる!だって、ケータイの画面と向き合いながらデレデレの顔してるんだぞ!多分、デレデレしてる。鏡見てないけど!
だってこのメール超可愛いじゃん!ギャル文字がなかなか解読に時間かかるのは置いておいて!
――え、てかラブホって…えぇ!?――
あ、あんな25禁(俺的に)っぽいお城みたいな場所ですか…!?ヤバい…最近の高校生はマセ過ぎだ…俺も高校生だけど。
何か不安だけど、断ったら別れるとか言われそうだよなぁ…断れないしな…。とりあえず早速返信しようとボタンを押し欠けてピタリ…と右手の指が止まった。
――学校では皆にバレないように…か――
俺とエミリーが付き合っている事がバレないようにしろ、って意味。
分かってはいた。分かってはいたし、付き合えただけで満足して高望みなんてしちゃいけない事も分かってた。…けど。





















ふと、顔を上げて教室の中に目を向ける。
いつものギャル達カップルは勿論、普通系の子達だってさ。普通に彼氏や彼女と楽しそうに喋ってる。教室に遊びに来た彼女と喋ってる彼氏とかもいる。…そういう事はしちゃいけないんだ俺は。
そう思ったら、俺の心の奥底から本能が叫んでくる。
“俺という人間はそんなに、付き合っている事が恥ずかしい彼氏なの?”
必死に理性で堪えるけど。タイプが違う事だって一目見れば分かる。ギャルで目立つエミリーと、がり勉で地味な俺。
…エミリーと付き合えて超嬉しい反面、寂しい部分…。けど今はそんな事忘れて!早速エミリーに返信を送ったんだ!

【Date 05/12 09:59
From 彼方
Subject おはよう!
こちらこそよろしくお願いします!驚いててまだあんまり信じられないけどな(^^;;エミリーの事守っていく(^O^)v
分かった。学校ではいつも通りにしてるな〜
てか昨日の事相坂達に何か言われなかったか(^^;!?
おじさん達来月のハズが・・・(;´д`)
ラブホ行った事ないからな〜いくらすんの(・・;)??】


キーンコーンカーンコーン

2時間目のチャイムが鳴ってもまだ教師が来ないから、俺は相変わらずケータイに夢中だ。
昨日までの俺なら、10分休憩は読書三昧だったのになぁ。…なんて思い出しながらいじっていたら速!早速エミリーからの返信がきた。

【Date 05/12 10:03
From エミリー
Subject かなたくん(*^^*)
冴達ゎまだ会ってな〜レヽ(^ω^;てか!かなた君敬語ゃめて(`Δ´)ワラ
ぅ〜ω??\12000くらレヽだっナニかニャ??ゎかんな〜ぃ(^▽^;ぃくらでもイイU"ゃω??ワラ
てかね〜付き合ぅとみωな指輪買ってωU"ゃω!ぇみり〜も欲ちぃなぁ♪♪ダメかニャ!?(T^T)】

――指輪?――
メールの最後に書いてある指輪の話。
チラッ…とクラスメイトの彼女、彼氏持ちの奴らの左手薬指に目を向けると…嗚呼、あれか。銀色に光る指輪がはめてある。
――指輪なんて婚約時か結婚してからだと思ってた――
何かもう最近の高校生事情が皆無な俺ってヤバいよな?エミリーの為にも調べなくちゃな!

【Date 05/12 10:16
From 彼方
Subject Re;かなた君(*^^*)
分かった!じゃあ放課後生徒会室来てな〜(^O^)てかエミリー腰痛くないの!?俺超痛いんだけど湿布で治るもん!?(^^;
指輪(?_?)あ〜確かに皆してるな〜今日見に行くか(*^.^*)
サイズ何号?エミリー小さいからな〜そこが可愛いって意味だからな(*''*)あのさ!良かったら昼飯生徒会室で一緒に食べない?おごるんで(^^)】

よし!返信、と!
「鮎川!」
「はいっ!?」
ビビった!いつの間にか教師が教壇に立っていてプリント片手に俺の事を呼んでいたし。呼び方のイライラ具合といいクラスメイトからの冷たい視線といい、俺は何度も呼ばれていたけど気が付かなかったってパターンかもしれないな…。ケータイに夢中で本当に気が付かなかったんだけど…いや俺が悪いんだけどさ。
つーか、よりによって男の生活指導の恐い教師校内2位を誇る数学教師かよー…。慌てて席を立って教師の前に立つけど、なかなか顔は上げられず。数学教師の尖った眼鏡がギラリと光る。


しん…

え?てか、何この沈黙!怒るなら怒るで早く怒ってくれ!!
俺の顔をまじまじと見てから数学教師はフンッと鼻を鳴らす。何?何?何なんだよ言いたい事あるならさっさと…!
「フン。成る程な鮎川。お前が最近成績が低迷している理由はそれか」
え?は?何?何言って…!教師は俺の事を指差した。クラスメイトの前にも関わらず堂々と。
「首筋のキスマーク!鮎川お前、女に夢中で学業はさっぱりのようだな!」
「い"っ…!?」



















騒つく教室内。
咄嗟に俺は首筋右側を右手で隠す。これは確かにその、今朝エミリーが付けたモノで…。ワイシャツの襟でうまく隠していたつもりだったんだけどな…。つーか!教師のクセにそういうプライベートな事情まで突っ込んでくんなよな!!
俺は怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、教師からプリントを乱雑に取り上げる。


バサッ!

「鮎川!何だその態度は!」
あーもう!ウゼー!プリント片手にそのまま席へ戻る道中。案の定、クラスメイトからもヒソヒソ言われているのがダイレクトに聞こえる。
「つーかアイツ彼女居んのー?」
「うえっ!マジで?俺昨日、童貞君とか言っちゃったよ!」
「どうせ出会い系で知り合って騙されて貢がされてる女じゃなーい?」
「でも昨日エミリーと居たよな?」
「はぁ!?エミリーがあんなキモい奴好きなわけねーだろっ!」
イライライライラ。あーもう!どいつもこいつも勝手な事言いやがって!




















「ほらお前ら静かにしろ!次!鈴!」
俺はわざと椅子をガタン!といわせて席に座る。
本当は俺はエミリーの彼氏なんだとか言いたい。言ってやりたい。でも言っちゃいけない約束だしさ。言ったらエミリーが友達無くしたら可哀想だから。孤児院の時友達がいなかったアイツを知っているから、余計我慢しなくちゃって思える。
――俺が我慢すれば良い。そうすればエミリーが幸せになれるなら――
俺はさっき配られたプリントに目を向ける。多分この前やった学力テストの数学。確かエミリーの事ばっかり考えていてサービス問題しか解けなかっ…えええ!?
答案を開いて俺は、目が飛び出るんじゃないかと思う程目を見開く。目が血走る!いや、確かに確かにヤバいとは思っていたけど…!
――42点って!!――
ずぅん…、って効果音がぴったりな俺。机にぐったり伏せる。ヤバいヤバいヤバい。こんなんじゃ一流大学なんて絶対行けない!学年順位1位が2位に下がったなんてもんじゃない!!
順位表は総合だから最後配られるし、学力テストは成績には入らないんだけど、俺がいかに勉強を疎かにしているかは一目瞭然…憂鬱だ。


ヴヴヴ、

…エミリーからのメール。

【Date 05/12 10:23
From エミリー
Subject (*´ω`*)
ぁりがと〜〜(≧▽≦)指輪ずっと欲ちかっナニωだァ(*´д`*)実ゎもらっやことナよぃの;;みωなえっち目当てだから。。。(;O;)
かなた君ず〜と一緒にぃてね(*^з^*)腰痛いのゎ知らな〜い(≧▽≦)/ワラ
撫で撫でUてぁげりゅ(*/□\*)ワラ
ぉ昼賛成!!!ラブラブしょうね♪♪(゜▽゜*)
かなた君購買で苺サンド買ってきてくだUゃレヽm(。_。)mぺコリ】

ケータイを開く。
はぁ…いいなぁ。エミリーは気楽そうで…あ。ていうか…
――エミリーって進路どうするんだろう?――
そんな間にも答案を配り終えたらしく、教師が中間テストに出る問題のラストスパートに突入していたから慌ててノートを取る。
黒板を見る為に顔を上げたら、俺の前の席の鈴が顔をこっちに向けてジーッと見てたからびっくりして目をギョッ!とさせてしまうだろ!
「……」
「な、何…?」
「…彼女できたんだ。おめでとう」
何そのすっごく棒読み!祝福の言葉のハズなのに何でそんなに祝ってないの!寧ろ怒ってる!
そういえば鈴は喜多田とヨリ戻したのかなー…?エミリー達とはまた仲が復活してたけど…って!そんな事よりも早く勉強しなくちゃ!中間テストで学年順位1位をキープする為にも!































「はぁあ…」
駄目だ溜息しか出ない。
4時間目も終わって、クラスメイトは皆、席を立ち教室を出て行く。廊下からも他クラスの奴らの賑やかな声が聞こえる。
一方の俺はというと、机に顔を突っ伏して溜息。4時間目までの科目全て、3日後に迫った中間テストの範囲ラストスパートをかけていた授業内容だったわけなんだけど。全然ついていけてない…!それは、いかに俺が今日までの授業をいい加減に聞いていたかって事。エミリーの事が好きだと自覚してからのノートを見れば…ほらな。超雑。てか、テキトーだ。
英語のノートを閉じて、また溜息。
「今まで勉強を疎かにした事なんて無かったのにな…」
…ってああ!!ヤバい!思い出して俺は飛び起きてダッシュで教室を飛び出す。だってだって!エミリーと一緒に昼飯食べるって約束したのに!しかも俺から!しかもエミリーに、購買の苺サンド買ってきて!って頼まれてたのに!


ガタンッ!

教室を勢い良く飛び出して、1階の購買まで階段を駆け降りようとしたその時!
「えー?エミリーマジで昼ご飯食べないの?」
「うーん。用事思い出したから出掛けてくるーっ」
「出掛けてくるとか!ウケる!」
「キャハハ。大丈夫大丈夫。5時間目までには戻ってくるってー」
C組の教室から喋りながら出てきたエミリーと相坂と鈴とえっと…C組のその他の青軍応援団幹部だったケバいギャル3人。
ばったり鉢合わせちゃって俺と目がばっちり合ったのはエミリー。…とギャル達。エミリーはギャル達にバレないように、ニコッて笑ってくれたけど、ギャル達からは超敵意剥き出しの視線を送られているんだけど!
多分…いや、絶対、昨日エミリーと一緒に居たのを俺が強引に誘ったからって話になっているからなんだろうけど…。
くるりと背中を向けて階段を降りていても、ギャル達から俺への罵声が背後から聞こえてくる。
「つーかよく平然と学校来れるよなぁ!」
「エミリー拉致っといてさぁ!」
「大体ハル君からエミリー盗ろうだなんて、がり勉のクセに無謀な行為は控えろって感じ!」
「ギャハハハ!」
ムカつくムカつく!!さすがにここまで言われたら"俺はエミリーの彼氏なんだ!"って怒鳴ってやりたい。けど、エミリーの事を考えたら俺が我慢するしかないしでも…何かなぁ!
「エミリー!次アイツに何かされたらうちらに言えよー!」
「そーだし!何で昨日がり勉と一緒に居たん?」
「貢がれたからだよね?」
「…う、うん!そうだし!エミリーが見返りも無しにあんな地味な奴とデートするわけないじゃんっ!」
「やっぱりなぁ!ギャハハハ!」
エミリーの声が若干震えていたからまだ信用できる。エミリーは演技しているだけだよな?俺と付き合っているのが知られたくなくて、演技しているだけだよな?
…分かってはいるけど、右手拳を力強く握り締めたまま購買へと駆けて行った。





























生徒会室――――

「はぁ。何で苺サンドあんなに人気あるんだよ!」
何とかやっと苺サンドをゲットした俺。ただでさえ購買は早く行かないと生徒の集団で溢れかえっていて、身動きできない戦争状態だってのに。
エミリーに頼まれた苺サンドは女子に人気あるサンドイッチらしくて、1年から3年までの買いに来る女子ほとんどが購買のおばさんに
「苺サンドください!」
って必死だったから、売り切れる寸前でようやく買えた俺。けど苺サンドにばかり時間をかけたせいで他はもう余り物しかなくて仕方ないから炒飯弁当とカツ丼弁当にした。…けど弁当って結構値段高いからなぁ。
弁当1個の値段が菓子パンや調理パン3個+92円くらいするから、大食いな俺としてはパン4個の方がお得なんだけど…いや、バイトクビになったから今節約してるんだけど。
溜息を吐きながら、静かな特別教室階4階の階段を登りながら、ふと顔を上げたら階段を登って真正面に見える生徒会室の明かりがついていた。
――あれ。エミリー早いな――
思わず顔がにやける。
1段飛ばしで階段を駆け上がって弁当片手に勢い良く生徒会室の扉を開いた。


ガラッ、

「エミ、…あれ!?」
「あっ…!お、おはようございます生徒会長…!」
其処には、茶髪のおさげ髪で鼻の辺りにそばかすのある眼鏡の1年生の女子『松石 花子』が居た。




















生徒会室のパイプ椅子に腰掛けて長机で生徒会の書類をまとめているこの女子は、生徒会メンバーの1人。おとなしくて、ええと…所謂俺みたいなタイプ。一緒にしちゃって悪いけど!
この子は生徒会活動に一番熱心だ。皆、大抵入るだけ入って仕事は俺に任せるけど、この子はたまに昼休みや放課後こうして生徒会室に来て書類をまとめたりしているんだ。てか、おはようございますじゃなくてこんにちはじゃ…?まぁいいけど。
「ああ…うん。お疲れ様。頑張ってるんだな」
ガタン、って俺が1個席を空けた隣の隣の椅子に腰掛ければ、松石は超挙動不審にビクッ!として背中を丸めてカリカリと書類をまとめている。そんなに紙に目を近付けたら今より視力が悪くなるのに…なんて思ってる場合じゃない!
悪いけど退室してもらわなくちゃ!だってこれからエミリーと2人きりで昼食だから!
「あー…その。松石」
「は、はいっ!」
「えーっと…あの…な」
「きゅきゅ、球技大会のプププ、プログラムでしたら明日に完成しますっ!」
「え!あ、ありがと!」
いやそうじゃなくって!なかなか言い出せない俺!いや、だってさ。此処は生徒会室。生徒会室で生徒会の仕事をやってる奴に、
「彼女とラブラブしたいから出ていってくれない?」
なんて言えないだろ!!いや、そんな直球になんて言わないけどな。わざと嘘吐いて。えーと…
「友達と話したいから悪いけど…」
って濁らせて遠回しに出ていってもらいたいけどそれでもなぁ…何か良心が痛みます…。




















チラ、と横目で松石を見る。超熱心に仕事しているし…チラッ、と今度は室内の壁掛け時計に目を向ける。まだ昼休みが始まって10分。あと35分…しかないけど俺的には。エミリーまだかなぁ…ってケータイを開いたまさにその瞬間。


ガラッ!

「彼方君お待たせー!」
「エミリー!」
はぁはぁ息を切らしてやっと来たエミリー。俺ってば、キモいくらいデレデレしてすぐ様立ち上がるとエミリーに駆け寄る。
「遅れたぁ!カモフラージュの為に出掛けるって嘘吐いたら、冴達が玄関まで見送りに来ちゃってさぁ。エミリーね一旦外出てグラウンドの方から回ってきたの!超疲れたしぃ!」
「ごめんな大変だっただろ?あ、ほら!エミリーの好きな苺サンド買ってきたから!」
「本当?ありがとーっ彼方く…、…誰」
「え?あっ!!」
俺の肩の向こうをひょいっと覗いたエミリーの顔が、一瞬にして不機嫌になる。それもそのはず。机で生徒会の仕事をしていた松石を見付けたから。
エミリーは、眉間に皺を寄せて明らかイライラしながら松石に近付く。
「あ、エミリーその!こいつ生徒会の子で!」
「…名前は」
「えっ、あっあのっ」
「名前はって聞いてんじゃん!つーか出てってよマジめーわく」
エミリー!!何でそんなに直球!?いや、それがエミリーなんだけどさ、もっとオブラートに包んだ言い方とか…できるわけないか。
エミリーに怒鳴られて小動物みたいに
「ひぃ!」
って声を上げた松石は、慌てて書類を掻き集めてダッシュで生徒会室を飛び出して行ってしまう。

























「あ!松石!」
「何なん!彼方君何がしたいん!」
「え!?ぐえっ!ちょ、ちょ、痛い!痛いエミリー!」
超イライラしたエミリーにネクタイを思い切り引っ張られて…ちょ、ぐえっ!待って!冗談抜きで首が絞まるから!
背伸びしたエミリーの不機嫌な顔がすぐ其処にある。頬を風船みたいに膨らませて。
「早速浮気かっ!」
「ち、違う!んなわけないだろ!」
「なら何なのあいつ!」
「生徒会の1年生だよ!前からよく昼休みとか放課後生徒会室来て生徒会の仕事してたんだって!たまたま居て、俺も驚いたんだよ!マジで!」
しゅるっ…、ネクタイを掴んでいた手が解けて、俺はやっとまともに呼吸ができるようになる。けどエミリーは背を向けてしまう。
「エミ、」
「…じゃあ始めから、あいつが居るかもしれないって分かるじゃん」
「あ…」
「居てもすぐ追い出せばいーじゃん…何でそうやってさ、そうやっ、」
あーもう。本当俺は駄目な男だ。ヘタレだ本当!
後ろからエミリーを抱き締める。エミリーは、顔だけを俺の方に向けて見上げてくる。頬を膨らませたまま。
「ごめんなエミリー。俺馬鹿だ」
「そんなの前から知ってるし」
「はぁ!?ちょ、」
「ちゅーしてくれたら許すぞっ!」
…ただのバカップル?そんな世間の目、どうだっていーや。
エミリーが可愛くて可愛過ぎる。おねだりされたら、俺は考える間の理性も保たないくらいすぐ、深いキスをする。
まだやっぱり信じられない。エミリーが俺の事を好きになってくれたなんて。都合の良い夢を見ているだけかもしれない。けど、今だけはそんな不安を忘れさせてほしい。





























「あーっ!彼方君また野菜無しじゃん!」
パイプ椅子に腰掛けた俺の膝の上に向かい合う形で腰掛けたエミリーは、俺が買った弁当の内、カツ丼弁当を持ちながら言った一言に俺は首を傾げる。
「え?」
「だって炒飯とカツ丼なんてカロリー高いし!偏るだろっ!」
そう言うと、エミリーが鞄の中から取り出したカップの生野菜サラダ。登校する時立ち寄ったコンビニで買ったらしい。
あ、因みに。付き合っている事は秘密だから、登校も時間差で登校しているんだけどな。
で、サラダを刺したフォークを俺の口まで運んでくれる。え、ちょ、これって!
「はい、あーん!」
ヤバい!もう俺、死んでも悔いはありません!
エミリーが可愛過ぎて、何かもう色々と危ない自分が恐しいけど、必死に理性で保つんだ俺!
「美味しい?」
「う、うん!」
ニコッて笑いながら"美味しい?"とか聞かれたら、もう死にそうだし!耳まで真っ赤になるのが分かる!
俺も、エミリー用に買った苺サンドを取り出してエミリーに食べさせれば美味しそうに満面の笑み浮かべてもくもく食べるから超可愛い…!孤児院時代も俺がよく食べさせてあげていたけど、それとは違うんだ!何か違うんだよ!よく分からないけど!
――街中とか校内でバカップルを見掛けると"お前ら頭沸いてんじゃないの?"とか思ってたけど、いざ自分がそうなるとなんか…!全然悪くないっていうか寧ろ超幸せです…!!――
























お互いはい、あーんして食べさせて昼飯を食べ終えて。
えーと、まだ昼休みは20分弱あるから!完璧エミリーの虜な俺は向かい合う形のエミリーをぎゅっ、と抱き寄せて首筋にキス。学校で発情してんなよ俺!って俺の中の理性が叫んでいたようないなかったような!
「変態!学校で盛んな!」
「嫌がってないじゃん」
「んぁ…!」
あーまただ!また順番間違えてるよ俺!つーか、俺が"順番間違えてる"って言い出したクセに!言い出しっぺのクセに!
エミリーを膝の上に乗せたまま机に倒して、口にキスしながらワイシャツのボタンを外していけばエミリーも熱っぽい目をしてるから良いよね?良いよな!勝手に自問自答してるけど!
「っ、エミリー…」
「彼方君変態っ…ぁ」
変態?うん確かに…でもまあ
「男はみんなそんなもんじゃないの?」
って余裕そうに笑いながらワイシャツ脱がせて、下着越しに胸にキスした時。俺の脳内を嵐のように過った教師達の言葉。

『鮎川お前女に夢中で学業はさっぱりのようだな!』
『ハッ!この点数でよくもまあ難関の県立柳大学へ進学したいと言えるな!』
『何ですかこの点数!今日から寝る間も惜しんで勉強なさい!心を入れ替えなさい!』

脳裏で甦る教師達からの罵声。………。ヤバい。そうだった。此処は学校。勉強に励む所。そして、俺の希望する進学先は隣の都市にある超一流にして超難関県立柳大学…。






















さっき返却された、とりあえず四教科の学力テスト平均点38点…これはまずいから!!
学校は学校で勉強して!で、学校以外でエミリーとラブラブしよう!で、エミリーが寝てから!又は、エミリーが泊りに来ない日は家で受験勉強!これで勉強も恋愛も両立だぜ!ってさっき決めたのに!駄目じゃん俺!早速道踏み間違えてるじゃん!
冷や汗をかきながら慌てて俺がエミリーのワイシャツのボタンを閉めていけば…案の定。その気だったエミリーは、眉間に皺を寄せて不機嫌そうにムスッとした顔で俺を睨んでくる。だからって目を反らしてしまう俺は、本当ヘタレ…!
「…何。しないの?」
「いや…学校だし!てか俺腰痛かったし!あ、でも夜はちゃんとホテルでするから!な?」
「な?じゃないもん!何なん!彼方君から誘っておいてやめるとか、意味分かんない!エミリーの気持ち考えてないじゃん!」
「え!あ!ごめん!いやでもよくよく考えたら昼休みあと10分くらいで終わるからなーって、」
「ウザい!そーいうの超ウザい!いーじゃん!5時間目跨いだっていーじゃん!6時間目出ればいーじゃん!」
うわあああヤバいヤバい!エミリー超怒ってる!無理もないよな、俺が自己中だったんだ。仕方ない。けど、5時間目って科学の中間テスト範囲最後のページだしなぁ…。今からえっちしてたら確実に5時間目間に合わない!
ダラダラ冷や汗をかきながら、エミリーと壁掛け時計を交互に見る。見てたら、エミリーは口を尖らせながらも自らワイシャツを脱いでスカートも脱ぐから、顔を真っ赤にした俺が慌ててワイシャツを着せようとするけど、まんまと手を振り払われてしまう。
「ちょ、エミリー!」
「彼方君、昨日エミリーの事愛してるって言ったじゃん!」
「…っ!」
怒った口調なのに、目に涙を溜めて上目遣いでそう言われたら(でも策略っぽいんだよなぁ…)オチルしかないじゃんか…!
「あーもう!エミリー愛してる!超愛してる!!」
「あん!」
昼休み終了のチャイムを聞きながらも、流されるがまま5時間目もエミリーと生徒会室でヤってしまったのは言うまでもない…。
――本当俺、駄目人間街道まっしぐら…!!――





































放課後――――

はぁぁ…駄目だ駄目だこんなんじゃ駄目だって俺!結局午後は6時間目からしか出席しなかった。イコール、5時間目の科学のテスト範囲は分からない。ノートを見せてくれる友達もいないし…いや、鈴辺りなら見せてくれるかもしれないけど、他人に頼って何が一流大学だよ!それは俺のプライドが許さない。だって自業自得だし。
――でもまあ、エミリーとは更にラブラブになれたけど…――
いや、でも恋人同士だからこそ本当の事を打ち明けなくちゃいけないんじゃないか?行きたい大学があるから、2人きりの時間を週に何回かって決めるとか。それ以外の日は受験勉強に没頭したいから、って。
俺は鞄を持った右手にぎゅっ、と力を込めた。
――よし。そうしよう。エミリーにも分かってもらわなくちゃな――
とりあえず今日は出掛ける約束をしたから生徒会室に行ってエミリーと合流しなきゃな。俺はスタスタと教室後ろの出入口から出て行こうとする。


ガシッ!

「!?」
その時、ガシッ!と力強く左肩を後ろから掴まれて思わずビクッとして恐る恐る後ろを向けば…。其処には、掃除当番の相坂とギャルとギャル男3人が箒の柄の部分に顎を乗せて俺を見ていた。





















相坂とギャルは睨んでいるけど、ギャル男達は妙にニヤニヤ。俺は情けなくも、1歩後ろへ後退り。
「な、何だよ…」
「何だよじゃねーよ!お前エミリーの事はぶらか、」
「待てよ待てって冴ー。鮎川お前、結局のところエミリーが好きなん?でも彼女居るんしょ?」
「!?」
な、な…!?
…嗚呼。そういう事か…昨日レストランでエミリーと居た所を見られた俺はこいつらにエミリーに貢いで強引にアイツを誘ったと思っている。
…で、授業中に教師が言ったキスマークの事は、こいつらは俺に彼女が居ると思っている。しかも金で付き合ってる彼女だと思っている。ムカつく。
「お前ただの女好きかよ!モテない野郎は風俗店でも行ってろ!エミリー巻き込むなよ!」
「ひょー!冴怖ぇー!でもまああーんまりエミリーに手ぇ出さない方が良いぜ?彼氏のハルもそろそろイライラしてるみたいだし!なぁ?」
「そーそー!地味な鮎川君はおとなしくそこら辺の軽い女に貢いでいた方が安全ってわけー!」
「ギャハハハ!忠告とか俺らマジ優しいんだけど!」
何だよ、何で俺だけそんな目で見られなくちゃいけないんだよ!何だよその偏見!?
さすがにムカついたから大笑いするギャル男を睨み付けて、持っている箒を蹴ってやった。


カランカラン!

虚しい音をたてて床に転がる箒を呆然と見ていたこいつらも、すぐに顔を真っ赤にしてお怒りモード。背景に炎が炎上してるって感じなくらいお怒りモード。






















「はぁ!?うっぜ!何なんだよてめぇ!マジ調子乗ってんじゃねぇよ!」
「そーだし!あんたのせいで青軍負けたんだから!」
「そんなん関係無いだろ!調子乗ってんのはお前らの方だろ!人の事を馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!」


ガンッ!

灰色の掃除用具ロッカーを思い切り蹴れば、ロッカーは凹む。けど俺はそのまま、鞄片手に教室を出て行こうとする。
「マジうぜぇ!」
「そういうところがキモいんだよ!」
あいつらの罵声を背に受けながら。両手拳を力強く握り締めて。出たその時。


パタパタ…、

廊下から、B組教室へ入ってこようとパタパタ走ってきたエミリーと鉢合わせる。すぐに、怒った表情から優しい表情に切り替える俺。だって、エミリーは関係無いし。
お互い目をギョッとさせるけど、廊下はたまたま周りに誰も居なかったから良かった。擦れ違い様、エミリーに声を掛ける。小声で。
「あ、エミリー。先に生徒会室行ってるな」
「うん!エミリー今ねぇ冴にプリクラあげたら行くからっ」
ばいばい、って笑顔で手を振るエミリーの頭を撫でて、俺は一足先に生徒会室へ向かう。俺はちゃんと笑えていたかな?






























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あきゅろす。
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