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First Kiss【完結】
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現在―――

しん…
静まり返った病室個室。
部屋の扉の向こうからは、看護士さん達が歩いていく足音がたまに聞こえるくらい。超静か。清々しい太陽の日射しや、そよ風とか小鳥の囀り。
喧騒から離れたこの病院は何か懐かしく感じる。別に今日初めて来た病院なんだけどっ!
相変わらずぷいってしたまま朝、1階の売店で買った少女漫画を見るエミリー。場面は、好きな男と超ラブラブの主人公の女がちゅーしてる場面。
――…ムカつくっ――
バン!って音たてて両手でそれを閉じる。人の幸せって喜べない。例え漫画だろうとね。
閉じちゃったらやる事無くなったし。病院の中はケータイ使えないしなぁ。他に暇潰しの道具何かあったっけ?
持ってきたピンク色したエナメルの鞄の中をガサゴソ漁る。その時、あいつがエミリーに話し掛けてきた。少しは反省して黙ってろっての!





























(side.Kanata)

…はぁ。
射し込む太陽の日射しが瞼の向こうからでも眩しく感じて、重たいそれを開いたんだ。
目が覚めたら辺りは知らない白の部屋。記憶を辿ると、昨日バイト帰りに俺は不良に絡まれて殴られて…そこからは漫画みたいな展開だ。全く何も覚えていない。そこだけ見事に記憶が飛んでいるんだ。
でもその後、何か大きくて煩い音がして、霞む視界ながらも目が覚めた時見知らぬ部屋…壁は何色だとか広さはどのくらいだとか、室内の様子は一切覚えていない。けど確かに覚えていたのは、目の前に何故かエミリーがいて。意識が朦朧としていたながらに目の前にエミリーがいた事に驚いていたな、確か。
…で。驚いていたのも束の間、目の前のアイツはガタガタ震えていて…何に怯えていたのかは覚えていないんだけど、アイツが目を力強く瞑って怯えていた事はしっかりと今でも鮮明に覚えている。





















そこで俺が何を思ったのかはそれもまた覚えていないんだけど…多分俺ならきっと、こう思ったんじゃないかな、って。
せっかく皆の輪の中心で笑顔の絶えないエミリーになれたんだから、孤児院の時みたいに怯えるエミリーはもう見たくない、って思ったんだと思う。…で。そんなアイツを目の当たりにした俺がアイツに何をしてやれたのかも覚えていないっていうオチ。
――どうしよう。また変な事言ったりしたりしなかったかな――
不安は募る一方で、チラチラと気付かれないように何故か俺が横たわるベッドの隣のパイプ椅子に座るエミリーを見る。
俺と居るといつもそうだけど、今はとびきり機嫌が悪そうだ。眉間に皺寄ってるとかそれだけじゃなくて…何て言うの?イライラオーラを感じる。超感じる!
とりあえず部屋を見渡して分かった事。俺は昨夜不良に絡まれて怪我を負って…手当ての為病院に運ばれてだから今こうして真っ白な病室のベッドで横たわっているんだろう。
服も制服じゃなくて、病院特有の薄い白の生地に青のストライプが入った長袖永ズボン。触れてみれば、腕や脚、頭や顔にも包帯や傷テープが貼られているけど、そこまで痛くはないから幸い大事には至らなかった…っぽい?
――てかそれより視界が霞む…いや、違うこれはきっと…――
昨夜の記憶を眉間に皺寄せながら辿っていけば…ああ、そうだ。不良共に絡まれた時眼鏡もぶっ飛ばされた…気がする。そこから拾った覚えもないから、今視界が霞む理由は多分いや絶対、眼鏡をかけてないからだ。もしかしたらエミリーが俺の眼鏡持ってたり…しないよな。
てかその前に、どうしてエミリーが此処に居るの?いやそれよりも前に、俺はどうして此処に居るの?考えだせば考えだす程次々と浮かびだす七不思議。どれから聞こうか…なんて決めてもいないのに、とりあえず口を開き欠けた時俺の脳内で見事な程鮮明に響いた。昨夜の不良共の声が。

『つーかこれに写ってんのエミリーじゃん!』


ドクン…、

開き欠けた口はそのまま。目が見開く。腕が小刻みに震え出す。






















…そうだった。昨日俺に絡んできた不良共はたまたま俺を狙ったんじゃなかった。会話からして俺だけを狙っていたんだ。そいつらが俺のケータイを開いた時。貼ってあったエミリーとのプリクラを見た後あいつらは次々とエミリーの話題を出したっけ…。
…いや、そんなハズあるわけないだろ。そんなハズあるわけない。…でも本当はすごく疑っている俺がいる。
――もしかして、昨夜俺に暴行するよう命じたのは…――
いや、駄目だ最低だ俺。そこから先を口にするのはもってのほかだし、思っても駄目だ。ただ…あいつらとエミリーが知り合いなだけだろ?何でもかんでも悪い方向にばかり考えるなよな俺!
…でもさ、でも、さ。さすがに二度も騙されて金まで盗られてたら…そういう気持ちになったって仕方ないよ…。でも本当は、コイツを一番初めに疑ってしまった俺が一番許せないからこんな気持ちになるんだけど。
なんてぐだぐだ考えていたら、エミリーは床に置いたピンク色のエナメル鞄をガサゴソ音たてながら漁り始めた。俺に背を向けながら。
そんなコイツに、あの日もう関わらないと誓っておきながら話し掛けずにはいられない俺自身が一番ムカつく。
「…あのさエミリー」
返事は無い。…って当たり前か。
ピクリとも手を止めず動じもせず、そのまま鞄の中を漁っている。…変に暴言吐かれるよりいいかな、なんてポジティブ過ぎるから駄目なのかな?
「俺…昨日の事全く覚えてなくてさ…。俺どうやって病院まで来れたのかとか…どうしてエミリーが此処に居てくれるのかとか知り、」


ドン!

「…!」
あ、危ないだろマジで!!俺が言い終わらない内にエミリーは鞄の中から取り出した単行本サイズの漫画本を1冊俺の顔の前すれすれのところでぶん投げたんだぞ!?
漫画本はそのまま俺が横になるベッドの上を通り過ぎて床に落ちたんだけど…エミリー絶対俺の顔を狙ったよな!?
ああもう!何かさっきまでコイツに騙され続けてもコイツを疑っちゃいけないだとか考えてたけど、そんないい子ちゃんな考えもうどうだっていい!今のはマジ腹が立って、思わず上半身を起こしてエミリーを睨む。
「危ないだろ!お前何考えてんだよ!」
「はぁ!?何その口の利き方!鮎川くせに調子のってんじゃねぇよ!」
「調子なんて、」
「命の恩人に対してその口の利き方は調子のってるとしか考えらんないしっ!」
…え?命の恩人って…。
繋がる。俺が殴られた後エミリーが居てその後俺は何故か病院に居てそして此処にエミリーが居る…。
話が繋がった。漫画の展開過ぎるだろ?こんなの都合良すぎるって。はは…駄目だ、本当に駄目だ俺…でもちょっと…心の中だけでなら良いよな神様?
殴られて金まで盗られた一番身体も心も痛いこの時に偶然だろうけど、一番大切で大好きな人が目の前に現れてくれた漫画みたいなあり得ないのにあり得ちゃったこの展開を喜んでも良いよな!?
心の中で浮かべる笑みが表に表れないようにわざと下を向く。
「その、本当にありがとう。俺昨日よく分かんない不良に絡まれて…エミリーが見付けてくれなかったら俺…」
「違うし。エミリーが鮎川なんかを助けるわけないじゃん?」
「え?」
強がってんのかな?なんて考える俺は相当自惚れてる?結局のところ、エミリーが助けてくれたんじゃないのか?
よく分かんないけど、助けてくれたくれてないどちらにせよ、こうして傍に居てくれるだけで本当に本当に嬉しい。やっと笑みがおさまったから顔を上げてエミリーを見れば…はは、やっぱり相変わらず嫌そうに顔反らされちゃったけど。
「そっか…。でもどちらにしろエミリーが、」
「お前を助けてやった心優しい救世主はエミリーの旦那だから」
…声が、出なかった。え、とかそういう声すら一切出てこなかった。
























目が見開いて咄嗟にエミリーの方を再度振り向くけど、こいつは鞄の中から新たに取り出した少女漫画を読みながら空いている左手の指にパーマがかかった黒い髪を絡ませているだけ。やっぱりちょっと機嫌悪そうに。


ドクン、ドクン

煩い鼓動の音と速さは増していくばかりで、布団を力強く握り締めた両手が震えているのが嫌でも分かる。
「あ…彼氏の事か…。そっか。じゃあ今度会ったら何かお礼しなくちゃだな…も、勿論エミリーにもだからな?何が良いかなー2人でどっか食事できる券とか?他に何か、」
「彼氏じゃない。智は旦那。エミリーの夫。…一緒に暮らしてんだから」
「…!」
そうだよなそうだよな。不良にボコボコにされてもう俺最悪だなんて思って、目が覚めたらエミリーが傍に居てくれて、どうしよう超嬉しいだなんて浮かれていた俺が馬鹿だった。こんな夢みたいな良い事続きの現実じゃない事くらい分かっているハズなのに、どうしてさっきあんなに浮かれちゃったんだろうな。
…だから余計、天国から地獄へ勢い良く突き落とされた気持ちになる。
一方のエミリーは俺の事を横目でチラ、と見てから鼻で笑うと、椅子から立ち上がって病室の扉の前で立ち止まった。俺に背を向けて。
「エミリーはただ智に今日1日だけ鮎川の傍に居てやれって言われたから。それだけ。勘違いしないでよね。エミリーはお前の顔なんか見たくもないんだから」
「……」
「…だから鮎川が入る隙なんてこれっぽっちも無いんだから早く諦めてよ。ウザいだけだから」
捨て台詞を残して出て行ったエミリーのパタパタいう足音がどんどん遠ざかって、やがて少しも聞こえなくなった。
何処に行ったんだろう?もう戻ってきてくれないのかな…?気持ちばかり前へ前へ焦るのに、身体が追い付かない。ショックで動けないんだ。女の子じゃないのにさ、超ダサいよな…。



































『只今の時刻12時をお知らせ致します』
あれから病室を出て、1階にある中庭へやって来た俺。だって病室で1人で居たら余計気が滅入るだろ。
春らしいぽかぽか陽気の下、ピンクや白や黄色の小さい花を前に病院服を着た4歳くらいの男の子が1人で楽しそうにしていた。他に患者は居ない。
俺はその子の隣に屈んで話し掛ける。俺は1人っ子だから、弟や妹が欲しかったってくらい小さい子供が好きなんだ。だから泣かせない自信はある!
「お花、綺麗だな」
「うんっ!早くぱぱとままに見せたいなぁ!」
キラキラ輝く幼児特有の大きい瞳。けどこいつの首や腕には注射の跡がいくつもあって。
――難病なのかな――
それでも笑顔を絶やさず両親に会いたい前向きな姿を見たら、失恋で落ち込んでいる俺が情けないんだと改めて思い知らされたし、ちょっと元気を分けてもらえた気がした。
その子をひょい、って後ろから抱き上げて抱っこしてやればやっぱり病気持ちなんだな、ってすぐ分かるくらい軽くて。4歳児ならもうちょっと体重あっても良いんじゃないか?ってくらい。でも抱っこされてきゃっきゃっはしゃぐその明るさに俺の顔に笑みが浮かぶ。




















「わー!抱っこ抱っこ!」
「早くぱぱとままに会えると良いな!」
「うん!ぱぱとままに抱っこしてもらいたい!」
「何だよそれー!お兄ちゃんじゃ嫌なのか?」
「違うよ!あはは!」
からかってこいつの茶色の髪をぐしゃぐしゃにしてやれば、満面の笑み浮かべて楽しそうにはしゃぐから可愛い。
いいなぁ俺も、弟か妹欲しかった。なんてもう無理な事を心の中で呟いて小さい溜め息吐いていたら、後ろの方から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。それはだんだんこっちへ向かっている気がして、顔だけを後ろへ向ける。
「!」
「はあ、はぁっ、何処行ってんだっ!勝手に居なくなんなっ!エミリーが智に怒られんじゃん!」
「エミ、痛っ!」


バシン!

ヤバイ、エミリー今、本気で俺の頭を叩いただろ!
足音の正体は、呼吸を乱してまで俺を探にきてくれたエミリーだった。
相変わらずぷんぷんしていてすぐ顔を外方向けちゃうんだけど、そういう子供っぽいところが超可愛くて、やっぱり諦めたくないって思っちゃうんだよな。でも…
――旦那が居るなら、結局諦めざるを得ないんだけどさ…――
始めは半信半疑だった。エミリーは彼氏がいっぱい居るっぽいし、彼氏の事を旦那って呼ぶ奴も居るじゃん?だから、どうせそんなところだろ…なんて思ったりもしたけどよくよく考えてみれば、俺を病院に入れてくれたイコール経済力が有る。それに何より智、って名前まで出てきているんだ。エミリーに旦那が居るんだ本当なんだって思うしかない。これじゃあ負けを認めるしかない…。
――でもそれが城田じゃなかっただけまだマシかな。タメの方がライバル心が出るし。多分相手は年上なんだろうな。年上が相手ならちょっと負けを認められるっていうか何ていうか…――
「…智、夜に此処来るって。その時土下座してお礼言えっ!」
「う、うん…」
「智超かっこ良いんだから!智を目の当たりにしたら鮎川なんてエミリーの事諦めざるをえないんだから!!これ以上エミリーの幸せ邪魔すんなっ!」
「わ、分かったよ!どうぞお幸せに!」
口からはそんな言葉が出て、顔にはぎこちない笑顔が浮かぶ。
孤児院に居た頃いじめられっ子だったエミリーに好きな人ができて、エミリーを一生守ってくれる人ができて、エミリーを毎日笑顔にしてくれる人ができて良かった。…なんて自分の気持ちに嘘を吐くのなんてもう嫌だ。もうやめたんだ。エミリーの事好きだって自覚してから、もうやめたんだ。自分の気持ちにくらいは嘘吐きたくない、って。




















男の子を抱っこしたまま立ち上がって、エミリーと向き合う。男の子はエミリーを見てポカンとしているし、エミリーは相変わらずツンとして外方向きながら腕組みしている。
エミリーに一生を誓った相手が居るならそんな幸せな2人の間に割り込む事なんてできないししようと思う程悪じゃない。けど、これだけは。これだけは言いたいし、許してほしい事があるから。俺は意を決してスゥッ…って息を吸い込んだ。…んだけど…!
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、僕のぱぱとままみたーい!」
「っな…!?」
「はぁ!?」
男の子は超ご機嫌。きゃっきゃっ言いながら笑顔で馬鹿な事言うから、ほら!!エミリーの奴、目つり上げて怒って身体が震えて俺の事を超!超!睨んでるだろ!お、お前のせいだからな!
「ちょっ…、な、何言ってんだよお前は!」
「その子のせいにする前にお前は顔真っ赤にしてんな!!」
「痛!痛い、痛い!エミリーちょっ、そこ傷口!」
「んなの知るか!ちょっと嬉しいとか思ってんだろ変態鮎川!死ね!」
思い切り傷口の頭を叩かれてギブアップです…!
そんな俺の気も知らず、エミリーに殴られっぱなしの俺の事をケラケラ笑う子供の無邪気な笑顔に、また少しだけ元気を貰った。
































(side.Emily)

あーっもう!イライラするイライラするイライラするーっ!
ケータイ使えないし鮎川の傍に居てやらなきゃいけないってだけで超イライラするってのにぃ!!さっきのガキんちょマジムカつくんだけどー!
あれからガキんちょは看護師さんに手渡して、仕方なく鮎川の病室に戻ってきてやったけど、さっきみたいにベッド脇の椅子に座るのも嫌なくらいイライラするから病室の出入口の扉前で腕組んで何回も何回も病室の外の廊下を覗く!早く智帰ってこい!って意味で!
…今の時間は午後12時32分だから、智が病院に来るまで超時間がある事は分かってるんだけど…分かってるんだけど!少しでも鮎川から離れたいんだもん!
――あっ!なら智が帰ってきそうな時間までに病院に戻ってくればイイだけじゃん!?――
やだもうーっ!エミリーってばどうして最初からこの案思い付かなかったんだろー!?今まで智に言われた通り鮎川の傍に居てやった時間を超無駄にしちゃったし!エミリーってばお利口さんだからー!
じゃあ早速!って事で椅子の上に置いておいたピンクのエナメルバッグのチャック閉めて、右肩に掛けてピンクのヒールをカタカタ鳴らして病室の扉の前で立ち止まる。背中に鮎川からの
「え?帰っちゃうのかよ!?」
的な視線を感じるけど無視無視ー!
くるり、って鮎川の方を向いて超可愛い満面の笑み向けてやんの!わざとね!
「エミリーもう鮎川なんかと一緒の空間に居たくないからーばいばーいっ!」
キャハハ!ヒラヒラーって手を振ったら鮎川の奴呆然としてるし!その顔超ウケるんだけどー!

























病室を出て、笑い声上げながらヒール鳴らして廊下を歩くの!
「あの顔マジ最っ高!さあてーこれから智が来るまで何しよっかなー!」
超ルンルンで歩いていた時、遠くの方で見覚えある奴が視界に飛び込んできて…


ガラッ!

「!?エ、エミリー?どうしたんだよ、病院出て行ったんじゃ、」
「煩いっ!黙ってろっ!」
「っ…はい」
最悪最悪ー!何で此処に居るの!?…まあ鮎川の事を心配しに来たんだろうけどっ!
あいつを見付けた途端、今来た道を超ダッシュで戻って鞄を抱えたまま鮎川の病室のベッドの下に潜り込むの!床が汚いから本当はイヤなんだけどこれしか隠れる手段無いんだもん!
「エ、エミリー?本当に何やってんだよ」
「シーッ!!誰が入ってきても、エミリーが此処に居るって事ぜーったい言うなっ!」
「?」
ベッドの下から、上に居る鮎川に話しながらもベッドに頭ゴチンしたりでガタガタ揺れるベッド。もう最悪!って叫びたくなったまさにその時。病室の扉が勢い良く開いたから、エミリーはベッドの下で横に蹲って手で口を覆う。


ガラッ!

「鮎川!」
「す、鈴!?どうしたんだよ!?」
扉の向こうから呼吸乱して飛び込んできたあいつの正体。それはアン姉。さっきエミリーが病院から出て行こうとした時、遠くにアン姉を見付けたから超ダッシュで回れ右した理由分かったでしょ?エミリーが鮎川の見舞いに来たと思われたら嫌だから隠れたのっ!
ベッドの下だから状況がよく分からないけど、アン姉の足元がこっちへ近付いてベッド脇に立ち止まったのだけが見える。
「なるほどな…」
「…?鮎川。何か言った?」
「い、いや!何にも!?」
「そう…」
だーっ!もう馬鹿鮎川!あいつ、エミリーがベッドの下に隠れた理由を理解したみたいでそこまでは良いんだけど理解したからって独り言呟くな!だからキモいんだよお前はっ!って今すぐにでも怒鳴りたいけど堪えるエミリーって超偉いし!
「てか鈴どうして此処に…」
「先生に聞いたら教えてくれた。此処に居るって事と…昨日夜あった事…」
な、何なに?アン姉の声が泣き声になって、その後すぐうわーん!って泣き出したアン姉。
で、ベッドが一瞬揺れたから多分、泣きながらアン姉が鮎川に飛び付いたのかな?アン姉そんなキャラじゃないでしょ!?泣き落とし!?まあそれならそれでさっさと結ばれちゃえばーって感じだから別に良いんだけどね!鮎川とアン姉が付き合ってくれれば、鮎川からのしつこいストーカーが無くなるわけだし?























「うっ…ひっく、痛かった?大丈夫?」
「え、ああ…外傷は酷いけど大事には至らないって。念の為昨晩から今日まで入院してるだけだからさ」
「うん…。昨日メール何回しても返事こなかったから…嫌われたかと思った」
「え!?あ、メールしてたもんな!ごめん。てか朝も待ち合わせ場所行けなくて本当ごめん!」
「仕方ないよ。それより元気そうで安心した」
「ありがとう…てか鈴、授業は…」
「抜け出した」
「え!ちょっ、それなら」
「今日1日ずっと此処に居るから平気」
「〜〜!」
あーっ!ウザい!キモい!エミリーが居る所でイチャイチャすんなっ!キモいからっ!ていうかていうか…!
――今日1日ずっと此処に居るとかマジ迷惑なんですけど!!――
ほら!ここで鮎川何とか言えっ!これじゃあエミリーがずーっとこんな狭くて汚い所でこいつらの鳥肌たつくらいキモいイチャイチャした会話を聞かなきゃいけないの!?マジありえないから!
エミリー今すぐにでも遊びに行きたいのにーっ!ほら早く何とか言え鮎川!イライラも噴火しそう!そんな時だった。


ギシ、

「〜〜?!す、鈴?!」
ちょ、何なに!?ベッドが軋んで鮎川の恥ずかしがる声が聞こえて…?
床を這ってバレないようにバレないようにベッドの下からこっそり覗いてみたら…最悪!サイアク!!すぐベッドの下に潜ってイライラが増す!だってベッドに腰掛けたアン姉が、鮎川にぎゅーってしてるんだよ!?鮎川も鮎川だし!好きでもない女にぎゅーっされて抵抗しない…ってかそれよりも、鮎川はエミリーが此処に居る事知ってるんだから、少しは気を遣え!ばーかっ!!




















超キモい超キモい!他人がイチャイチャしてるところってマジキモいしムカつく!
エミリーが此処に居る事アン姉にバレないようにとかそんな事もうどうでも良くなって、イライラが噴火したエミリーはベッドの脚を思い切り蹴ってやった!


ガタガタ、

「!!」
「何?揺れた?」
「あーっ!!何でもない何でもない!何かこのベッドボロいのかすぐガタガタいうんだよなー!」
「…ベッドの下に幽霊が居るのかも」
「ないないない!!」
キャハハ!鮎川の奴声が震えてるんだけど!超焦ってるし!マジウケるから口を手の平で覆いながら声を出さずに笑うの!
「す、鈴!ありがたいけど、やっぱり授業出た方が良いかなーって…」
「あ。そうだ。鮎川に見せたい物がある」
エミリーが怒ってるのを察した鮎川がアン姉を帰そうと遠回しに話し掛けたけど、アン姉話全然聞いてない!それとも他の話題を出して帰らせられないようにする作戦?
どっちだろうと興味無いけど、とにかく早く帰ってよー!エミリー何時間もこの体勢とか肉体的にも精神的にも苦痛なんだけどー!
























「見せたい物?」
「うん。これ」
ガサガサ、って紙袋の中から何か取り出した音がした。何?なに?こいつらの会話で察しなきゃ!
「これって、鈴がモデルやってる雑誌じゃん!」
モデル?は?何?アン姉モデルやってたの?そんな事エミリー達には教えてくれなかったじゃん。エミリーは耳を澄ませる。
「うん。今月号ね前より少し多く写ってるから」
「本当だ!すげー!少し多くとかじゃないじゃん!2ページ丸々特集されてるとかすごいよ!」
「…ありがと」
イライライライラ!鮎川さぁエミリーが居る事すっかり忘れてるよね?てかてか!何でアン姉なんかがモデルやれるわけ?ちょーっと化粧映えするだけじゃん?
エミリーなんて素っぴんでも可愛いし!エミリーの方が断っ然可愛いし!アン姉の照れた声とか絶対調子乗ってるし!ムカつくーっ!ぷう、ってほっぺ膨らますの。
「すげー!雑誌に載るとなんか遠く感じちゃうな」
「ねぇ」
「ん?」
「エミリーとどっちが可愛い?」
「え…」
…もしかしてアン姉、エミリーがベッドの下に居る事に気付いてる?…わけないかぁ!アン姉みたいな天然はそういう策略考えられないもんね?
つーか、エミリーと比べる時点で自ら負けを認めてるようなもんだしねー?
「その…あの…」
「…分かってる。言ってみただけ」
ガタ、って音がしてアン姉の足元がベッドの下から見えた。やったー!帰るんだよね?だよね?帰るならさっさと帰れよって感じー!
さっきまでのイライラはどっかへ吹き飛んじゃって、エミリーはワクワクし出すの!何処行こっかなー!竜二先輩暇かなー?あの人欲しいのいっぱい買ってくれるから春物のお洋服買ってもらうのもイイかもーっ!
でもエミリーがワクワクしているのとは反対に、鮎川とアン姉には何か重たい空気が流れてるって感じ?別にどーでもいいけどねー?


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