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First Kiss【完結】
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「…!!」
顔を上げれば、わざとらしくエミリーから顔を反らして商品をレジに通しながら蚊の鳴く声で値段を読み上げる店員…鮎川。一瞬にしてエミリーの顔が歪むの。苛立ちでね。
――そうだった。ハルが鮎川と同じバイト先だったとか言ってたなぁ。バイト先聞いたらコンビニって言ってたし…――
此処だったんだ?てかエミリーの家から超近いから最悪!ま、エミリーが家に帰る事なんて滅多に無いから良いけどねー。
あーあ。それにしても何でこいつに鉢合わせちゃうかなぁ?本っ当神様っていないよね!あームカつく!こいつの優等生面見るとムカつく!
「…あの」
「はぁ?」
「ナ、ナゲットとハッシュドポテト1個ずつで良い…ですか」
「そうして」
はっ!何ビビッちゃってんの?声まで震えてるし相変わらず目すら合わせられない鮎川。
店員としてエミリーに接する鮎川を、眉間に皺寄せてイライラをあからさまに顔に出して腕組みして、鮎川がナゲットとハッシュドポテトを袋に詰めるのを待つ。その間もやっぱり店内にはエミリー達しか居ないから…良い機会じゃない?レジに身を乗り出して、さっきから俯きっぱなしの鮎川の顔を覗き込むの。ピンクの妖艶に光る唇をニィッと笑んで。だからそこで目ぇ反らすなっての!
「ねぇ店員さん?店員さんってさぁ、生真面目そうに見えて案外口軽いし本心は見た目と反対だよねぇ?」
「…っ、な、何…」
わざと"店員さん"って呼んでやるの。あんたの名前すら口に出したくないしね?






















「店員さんってば、エミリーとの昔話や最近のお話まで包み隠さずぜーんぶ杏夏ちゃんにお話しちゃったんでしょう?」
「…!ごめん!俺、」


ガン!

「!」
「今更遅ぇし。言い付け一つ守れないの?最低」
レジの台を思い切り蹴付ければ揺れる台。ビクつく鮎川。はっ!その顔最っ高。写真に収めちゃいたいくらいだよぉ?
そんな時カップルが来店してきたから、ハッ!とした鮎川はエミリーが買った商品を袋に詰めだす店員モード。チッ。タイミング悪ーい!
「…その話はまた学校で謝るから」
「はぁ?学校とかまたとか、お前にエミリーと話せる次の機会があるわけないじゃん?」
「…っ、」
キャハハ!本当はそこまでイライラしてないんだけど超イライラした口調で挑発すれば、また寂しそうな顔するからマジウケるんですけどー!
とりあえず料金支払ってお釣り受け取って、最後にエミリーは鮎川の顔を覗き込んで嗤ってやったの。
「いつまでもエミリーのヒーロー気取ってんじゃねぇよ。マジキモいからね?」
「…っ、」
キャハハ!
超ショック!って感じで目見開いて何も言い返せないって事はコイツ、自分の事まーだエミリーのヒーローだと思ってたってワケ?ばーか!キモいから!
本当は声出して笑ってやりたいけど、エミリー優しいからぁ?笑い堪えて袋を持った時。
「…?」
…アレ?
袋の一番上に入ってるナゲットとハッシュドポテトが入った袋の中が見える…アレ?よく見れば、ナゲットとハッシュドポテトが2個ずつ入ってるし…
ハッ!としてすぐさまお財布の中からレシートを取り出して凝視するの。エミリーはちゃんと1個ずつて言ったのに!もしかしたら鮎川の奴、勝手に2個ずつ入れて2個分の金取ったとか!?
…アレ?
「ナゲット1個150円、ハッシュドポテト1個120円…」
1個分しか支払ってないよ?アレ…?




















キョトン、ってエミリーが顔を上げれば鮎川と一瞬目が合ったけど、すぐに反らした鮎川はレジから少し離れてピザまんとか肉まんの補充し出すし…。
「…くれんの?」
エミリーが小さい声で尋ねれば、ピザまんを入れていた手が止まった。
「…な、何人で食べるのか分かんないけど2個ずつなら足りるだろ…!…多分」
…足りるとか足りないとか、本当はどうでもイイくせに。本当はただ、何でも良いからエミリーにおごって、エミリーから許してもらうのを待ってるだけのくせに。…そういうの、女の子ってすぐ気付いちゃうんだから。馬鹿だよねぇ男って。
「あはは!物で解決しようだなんて随分と汚いやり方だね!」
「違う!本当にそんな事考えてないからな!あの日の事はいくら謝っても許してもらえない事くら、」
「つーかこれ以上エミリーに馴れ馴れしく口利くな」
ギロリ。大きい赤い瞳で睨めば、一瞬イラっとした表情浮かべた鮎川だけど、ほらね?すーぐ俯くから情けない!キモい!
エミリーは買い物が入った袋片手に、カップルの間を強引に割ってコンビニを後にしたの。後ろなんて振り返らずに暗い夜道を、イライラしながら帰っていったの。
































(side.Vincent)

…はぁ。
「すみませーんピザまんも2つお願いしまーす」
…あの日、何で俺は、あんな取り返しのつかない事をしてしまったんだろう。悔やんだところで過去に戻ってやり直せるわけもないし、無かった事にもできない。卑怯だけど、神様が居るのなら、あの日カラオケボックスでの出来事…いや、あの日の放課後全て無かった事にしてほしい。
俺にもエミリーの記憶にも跡形もなく消してほしいのに…。
「あのー、ピザまん2つ良いですかぁ?」
「えっ!あ、ああ!すみません!只今!」
ヤバ。レジに並んだカップルの彼女が俺の顔覗き込みながら不思議そうに催促していた様子からして俺、ボーッとしてた…よな?絶対。
慌てケースの前に立つんだけど…ええっと…肉まんだっけ?あんまんだっけ?ピザまん?カレーまん?
…ヤバイ。またあやふやに返事したから、この彼女が何を頼んだか忘れてしまった!2つ、ってのは覚えているんだけど…な、何だったっけ…!?
トング片手に、ケースの前に並ぶ肉まんやあんまんと睨めっこしながら、うーん、って冷や汗流していた時。背後からトングを持った誰かの手がスッ…と伸びてきてピザまんを2つ取り出したんだ。俺がハッ!として後ろを振り向けば…
「はい!ピザまん2つお待たせ致しましたー!」
無駄にキラキラ輝いた笑顔の城田が居た。
城田はレジに立っていた俺を押し退けると、俺が打ち途中だったレジを手早く正確に打って最後に「ありがとうございました」って語尾に星でもつきそうな爽やかな笑顔と一緒にカップルを送った…。
再び客が居なくなった店内。押し退けられた俺が我に返ると同時に、俺の方を向いた城田の気味が悪いくらいの笑顔。ゾッとする。女の子達は何でこんな作られた笑顔にときめくのかが分からない。いや、それは俺が女じゃないからなんだけど、俺がもし女だとしても、こいつの裏のある笑顔くらい見破れるハズ。
その時。店内の時計の針が調度9時を差した。今日は9時あがりだった。俺も…城田も。
そそくさと帰ろう、と思ってバックルームへ逃げるように駆けた時声を掛けられてしまったんだ。
「鮎川君。良かったら遊んで帰ろうよ」
「いや、俺テスト勉強があるし…」
中間テストまでまだ1ヶ月あるけど、それくらいしか断る理由が見当たらないし、おかしな理由だろうと何でも良いからとにかくコイツとは一刻も早く離れたいんだよ!!
背を向けたままの会話だけど、コイツがニコッてまたあのキモい笑顔を浮かべている姿が容易に想像できたんだ。
「そっか。残念だな。じゃあまた今度。幹部で集まった時に」
「あ、ああ…そうだな…」
死んでも嫌だけどな!!
遊ぶっつったって、どうせコイツの事だ。俺からカツアゲしようとしてるに決まってる。それか、エミリーとの事を聞き出させられるか…。

























「おはよー」
「あ!鈴木先輩、武内先輩おはようございます!」
「きゃはは!ハル君は今日もイケメンだねぇ彼女が羨ましいわぁ!」
「そんな事ないですよ!」
俺達が帰るのと入れ替わり立ち替わりでやって来た女子大生2人…この2人は俺が超苦手な派手な超ギャルなんだけど、その人に黄色い声を受けては、またあの作られた笑顔を振りまく城田。
そんな3人から逃げるようにバックルームへ入り、コンビニの制服から学校の制服に着替える。ボタンを外しながらもレジの方からバックルームまで聞こえてくるのは、女子大生2人の耳障りな程でかい声。
「つーか、ハル君とあのがり勉がペアとかウケるー!」
「ねぇねぇ!ハル君とがり勉だったらどっちのレジ並ぶ?」
「ハル君に決まってんだろ!ギャハハ!」
「だよねだよねぇ!アハハ!」
〜〜っ!ムッカつく!全部筒抜けなんだっつーの!わざとだろうけど!
俺は怒りで顔真っ赤にして目つり上げながら、クリーム色のセーターに右腕を通す。それでも終わらないあいつら馬鹿3人の談笑がこれ以上耳に入ってくるのがムカつくし嫌だから、ブレザーのポケットから青色の小型音楽プレーヤー取り出して青色のヘッドフォンを左耳にかけて右耳にかけようとした時。
「そんな酷い事言ったら鮎川君の彼女に怒られますよ」
「はああ!?ちょ、ハル君冗談過ぎるだろっ!」
「ギャハハ!あの暗いがり勉に彼女居んの?ま、どーせがり勉彼女でしょ?暗くてぶっさいくな!」
「キャハハハ!それもそうか!それでも彼女居る事になるもんなぁ!」

ムカつくムカつくムカつく!どいつもこいつも愚弄しやがって!第一、俺に彼女なんて居ないし!
居ない…けど無意識の内にケータイ開いて、さっきの休憩時間にやり取りしていた鈴からのメールの返信を開いては、それを少しの安らぎの様にホッ、と安堵する俺。

【Date 04/19 20:02
From 鈴杏夏
Subject お疲れ♪♪
バイトお疲れ様ですっっ(≧▽≦)♪
返事はバイト終わって疲れてなかったらでいいから( ̄^ ̄)v
いえいえ。今日はあたしが悪いから気にしないで(T^T)仕切り直して明日からまた友達として仲良くしてください(*'-')
日曜楽しみだね♪♪行きたいところ決めておいて(^O^)気を付けて帰るんだよ(`Δ´)(笑)それではぁ♪(*^▽^*)♪】

――仕切り直しって…すごいよな。フラれてもこんなに前向きでいられるなんて、羨ましいくらいだよ――
ロッカーにもたれかかる。まだあいつらから俺に対する愚弄の談笑は終わらないけど、鈴からのメールを見て味方の存在に安堵した俺は、まだかけていなかった右耳のヘッドフォンをかけて、焦げ茶色の学生鞄片手にあの3人の後ろを通り過ぎて行く。
――嗚呼、あいつらが俺をクスクス笑って見ながらまた何か言ってる――
その程度の事しか思わないようにしよう。それ以上を考えてしまったら、バイトまで憂鬱になるから…って俺は俺に言い聞かせてそのまま1人、バイト先のコンビニを出て行ったんだ。





























住宅街というだけあって一定感覚でしか設置されていない街灯も点滅している真っ暗な帰り道。俺の自転車の走る音だけがする。脳裏で蘇るのは、今朝エミリー達がバラした俺の過ち。
「…俺、こんなんで明日学校行けんのかな」
なんて、たまには誰も居ない場所で弱音も吐きたくなる。次に蘇ったのはたったさっきエミリーが買い物に来た時の場面。あの魔女みたいな笑顔が嫌でも脳裏から離れない。
「話し掛けんなって言ったじゃん…それなのに何でエミリーから話し掛けてくるんだよ…。あんな事言われるんなら一生無視された方がマシだっつーの…」
ブレーキを握る両手に力が込められる。
そんな時頬にポツ、と一滴あたった。ふと顔を上げてみれば目に入って凍みた。
「雨か…」
今日は1日中晴れだって言ってたクセに。でも降ってきてしまったモノは仕方ないから、俺はさっきよりちょっと顔を伏せながら、さっきよりかなり速い速度で自転車を漕ぐ。前から容赦なく顔を濡らす雨がウザい。ブレザーが雨に濡れ、独特の臭さに顔が歪む。


♪〜♪〜

そんな時鞄の中に入れたケータイからメールを受信した着うたが数秒流れた。多分、鈴だろうな。返信遅いから催促?
「早く返信する為にも!」
独り言の掛け声を出して更に漕ぐ速度を上げたまさにその時。悪夢は起こったんだ。まるで漫画の様に上手い展開でさ…。
「はっけーん!」
「!?」


ドッ、

「…っ!」
角を曲がろうとしたその瞬間、待ってましたとばかりに前方から現れたバイクと原チャリの不良共にわざと正面衝突され、その場に派手に転倒。
雨で濡れた固いアスファルトに思い切り打ち付けた身体の上に、俺の自転車がのしかかってくる。
「痛って…!」
まだ昨日殴られた顔が痛いってのに、同じところをアスファルトにぶつけたから腕で拭う。すぐ其処に、バイクや原チャリの馬鹿みたいにウザいエンジン音が聞こえてきて現実を突き付けられた。
――俺、今超ヤバい状況?――




















こいつらを撒いて猛ダッシュで逃げなきゃ!
頭がやっと判断できた瞬間、ぐっ、とこめかみから引っ張られて顔を上げさせられた。目の前には派手な金髪に染めた男の不良共が5人。パッと見だけど、年齢は俺とそう変わりはないと思う。高校生か、それよりちょっと上か…20歳まではいってないだろう。
いかにも人間としてクズな悪魔の笑顔を俺に向けてくる。
「黒髪短髪に眼鏡!いかにもがり勉おぼっちゃまな風貌尚且つ木楚学園の制服!ギャハハ!ピンポーン!こいつだぜ!」
「帰りのルートまで把握済みなんてアイツもなかなかやるよなぁ!」
何だよ何なんだよ!こいつらの会話からして、ただたまたま俺に絡んだんじゃなくて端から俺狙いだったって事かよ!?アイツって誰だよアイツって…
ふっ、と脳裏に浮かんだ魔女の笑みを浮かべるエミリーの顔。けど、俺はすぐ左右に大きく首を振るんだ。
――最低だ!最低だ俺は!何でエミリーの顔を浮かべたんだよ!アイツはそんな奴じゃ、――


ゴッ!

「か、はっ…!」
視界が、霞んだ。不良共が三重に見えた。
腹を思い切り蹴られて反対側のガレージに思い切り背を打ち付けた俺は、蹴られた瞬間できなくなった呼吸の分を取り戻す為必死に呼吸をしようとするんだけど、むせて咳き込む。
そんな俺の様子なんてお構い無しに3人がかりで背中を思い切り蹴ってくる不良共。


ドスッ!ドスッ!

「ゲホ!ゴホ!」
「おいおいちょっとは反抗してこいよ?つまんねぇなぁおぼっちゃまって奴は!」
ウザいウザい。消えろマジで消えろ!
ドラマや漫画やニュースでこういう不良に絡まれる場面をよく見るけど、まさか実際にあるなんて。そんなコト遠い世界だと思ってた。何で俺なんだよ!
――これが俺に対しての罰…?――
エミリーに怖い思いをさせた罰ならこの程度の痛み、あいつに負わせた痛みより全然程度が低い。神様も案外優しいんだな。…でも。
――このまま死なせるならその前に、もう一度あいつに謝らせる時間をくれたって良いだろ…――
なんてのは俺の我儘?虚ろな瞳に意識朦朧とした中でも俺は俺を自嘲する。





















「ぷっ!こいつ殴られてんのに笑ってんぜ!?きもッ!」
違う違う!俺は…!
「科学数学英語フランス語、参考書ばかりかよ。つまんねぇ人生送ってんなぁコイツ!」
ちょっと離れた所から聞こえた笑い声に視線を移してみれば、他の2人が俺の鞄を逆さまにして中から流れ出す教科書やノート。
最後に中から落ちてきた青のケータイ。不良の1人がニヤニヤしながらそれを手にした瞬間俺は目を見開き、顔を上げる。…けど、こめかみを掴んだ不良の右拳で思い切り左頬を殴られた。鼻血も出たし口も切れて血の味と匂いが漂う。そんな意識朦朧の中でも聞こえてきてた声に、俺は再び目を見開く事になる。
「竜二!マジありえねぇんだけど!こいつのケータイにエミリーとのプリクラ貼ってあるんだけど!」
「…!!」
最低だ最低だ。
知らない奴にそれを見られたってどうって事はない。ただ茶化されるだけだから。なのに何でだよ。何でなんだよ、何でこいつらがエミリーの事を知っているんだよ!!
「どれどれー?」
「ちょ、マジかよ!つーかエミリーもエミリーじゃね?何でこんな童貞君と一緒に撮っちゃってるワケ?」
「この時じゃね?エミリーがこいつに襲われたのって」


ドクン…、

何で…何でそんな事まで知ってるんだよ…こいつらはエミリーとどういう関係なんだよ…。























竜二、と呼ばれているリーダー格の奴が俺の髪を強引に引っ張ってぐっ、と顔を上げさせる。俺はすぐ目を反らした。
「この前の話!?」
「その男ってのがコイツってワケ!?ちょ、マジありえねぇだろ!女襲うような柄じゃなくね!?」
「つーかエミリーもエミリーだろ!何でまたこんなショボい男についていったん?」
「金があるからじゃね?そこまで詳しくは俺も聞かされてねぇんだけど…さ!」


ドスッ!

「ぅぐッ…!」
「うっわ!やべー!マジやべぇってこいつの財布ん中ホクホク!ギャハハ!」
「おぼっちゃまは羨ましいねぇ!」
「これならエミリーも狙うワケだ!金蔓としてな!」
「ギャハハ!」
嗚呼、もう駄目だ。
ATMからおろしたばかりの中身は綺麗さっぱりこいつらに抜き取られ、カードだけになった財布が俺の頭上から降ってきてアスファルトに落ちた。
気力も無い。目はまるで死んだ魚の様。そんな俺を、こいつらは腹抱えて笑うんだ。
ムカつくなんてもんじゃない。こいつらが今している事は犯罪だ。警察に言ってやる。でもこいつらは私服だから何処の学校の奴かも分からないし、第一俺は生きて帰れるのか?なんて…。
――だってニュースでも集団暴行されて死んだ学生とかいるし…――
考えただけで吐き気がして咳き込む。
「ゲホ!ゴホ…!」
「つーかさぁ竜二。お前エミリーとダチだろ?今度紹介してくれよー!こいつから盗った金使ってホテルで可愛がっちゃおうかなぁ!てな!」
「ギャハハ!」
「…はっ。あの女なら軽いから、お前みたいな馬鹿とでも寝るよ?」
「ギャハハ!マジかよ!俺は結構本気なんだけどなぁ!」
「てめぇらいい加減にしろよ!!」
降りしきる雨やバイクや原チャリのエンジン音よりも大きく、暗闇の住宅街に響き渡った俺の怒鳴り声。



声を張り上げたせいかな?咳き込む。止まらない。息苦しい。こいつらは目が点で一瞬静まったけど、すぐに腹を抱えたりガレージを叩いて大爆笑する。何が可笑しいのか分からない。尋常な人間なら、何が可笑しいのか分かるはずがない。俺は血の味がする口内から声を振り絞る。
「エミリーの知り合いだか何だか知らねぇけどな!軽いとかそうやってあいつを侮辱すんじゃねぇよ!女の子を侮辱して何が楽しいんだよ!!」
「そんな女の子を襲ったそーいうお前はどうなんの?」
「え…」


ゴッ!

「っぐああ!」
「お前さぁ。自分の事すっかり棚に上げてヒーロー気取ってるけど、俺らよりお前の方が相当ヤバい事してるよ?エミリーを襲ったんだろ?人の事言える立場じゃねぇだろ偽物ヒーローさんよぉ?」
「っか、は…!」
…無理だ。もう…。
最後思い切り腹を殴られて吹き飛んだ眼鏡を踏みつけられて、その場に蹲った俺はもう何も見えない聞こえない。
殴られたせいで聴覚が異常を来しているのか、それとも意識が朦朧としているからなのかそれは分からない。けど、微かに聞こえたのは遠ざかっていくバイクと原チャリのエンジン音。そしてあいつらの悪魔の笑い声。
――はは…でもあいつらの言う通りだ…俺はいつもいつも自分の事を棚に上げてばかりだ…ただの自己中心的な人間だ…――
震える手を伸ばして、やっと掴めたケータイ。貼ってあるプリクラに写るエミリーが霞む俺の視界に映るから、俺は微笑むんだ。はは…
「偽物ヒーロー…か…」
雨は容赦なく俺に降り注ぐ。けど、いつも降り注ぐ罵声なんかより全然暖かいものだった。












































(side.Emily)

「ぶぅ。まだ来んのか智の奴は!」
昔ままが作ってくれたくまのぬいぐるみをぎゅっ!てしながら自室のベッドでいい子に体育座りしてるエミリー。
黒レースのついたピンクの丈の長いキャミを着たエミリーは超色っぽいでしょ?これから外出する予定も無いのに、化粧バッチリ。リップで艶々の唇で笑む。
「体育祭の衣装はお風呂あがりに着て驚かせよっかなー!ふふっ!」
ずっと体育座りって結構キツーい!ごろん、ってしてリアタイでも更新しようかなーってケータイ開いた時。


ガチャ、

「智だっ!」
耳を澄ましてたから1階の玄関のドアが開く音だってちゃんと聞こえたもん!ルンルン気分で部屋を飛び出して、くまさん抱えたまま階段を駆け降りるの。




















「智おかえりーっ!もーっ!超遅、」
…止まった。目が点。呆然。くまさんを床に落とした。だって…だって…びしょ濡れで帰宅した智が担いできた奴が…
「大変だエミリー!この子が其処の四つ角で倒れていて!」
びしょ濡れで痣だらけで深緑色の制服の所々に血が飛び散っていて、目を瞑ったまま意識を失っている奴を、智が担いできた。超慌てて。そいつは…
「鮎川…?」

























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