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First Kiss【完結】
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(side.Kanata)

最低だ最悪だ。初めて好きになった人を泣かせた。なのに嫌われたくなくて、また笑顔を見せてほしくて仕方ないのに、手の届かない存在になった君に俺は一生恋い焦がれる事しかできないなんて苦し過ぎる。
「でもそうしてしまったのは紛れもない俺自身なんだ…」
































翌日は登校したくなくてでもしなきゃ俺は一生登校できなくなりそうで。
でも登校したら、全校生徒が俺を軽蔑の眼差しで見ている気がして、俯いたまま校内を歩いてやっと辿り着いた教室。俺の席。
当たり前だけど昨晩は一睡もできなかったし、精神的にくるものがあったからか俺の目の下にはひどい隈があるし、顔は青白い。傍から見たら病人。
ただの被害妄想なのに、教室を見渡して視界に飛び込んできた生徒達が昨日俺がしてしまった事を知っていて軽蔑の眼差しで見ている気がして…
「…うっ!」
ストレスの膨張により吐き気がした俺は、顔を青くし右手で口を覆い、男子トイレへ駆け込んだ。…超情けない。


























それから教室へ戻れば、時期1時間が始まるというのに相変わらず騒がしい教室内。少し平常心を保って教室内を見渡してみれば…
――何だ…誰1人として俺の事なんか見ていないじゃないか――
友達同士楽しげに談笑しているクラスメイトを見て、ようやく被害妄想から解放される。
肩を落とし、息を吐き、席に戻って図書室から借りた本を開くんだけど、やっぱり本の内容なんてこれっぽっちも頭の中に入ってこなくて。
脳内では昨晩から、エミリーを襲った時のあの場面が生々しい程鮮明に延々と繰り返されているんだ。神様が俺に反省させる為にこの映像を流しているの?俺はもう充分反省しているよ。俺はもうあんな事間違ってもしないよ。…俺はもう自らエミリーには一切関わらないと誓うよ…。























幼なじみのエミリーと俺との思い出なんて、要約してしまえば1時間も無い短編映画。
俺が悪かった。俺が悪かった。けど、だから、これ以上エミリーとの幸せな思い出をあの悪夢で塗り潰そうとしないでくれ!昨日の事は一生償う。けど、もう一生関われないなら、せめて綺麗な思い出だけは奪わないでくれ…!
ケータイの内側に貼ったエミリーとの1枚のプリクラに写る俺は馬鹿みたいに浮かれて、自惚れた笑みを浮かべていて、吐き気がした。
けど、その隣でピースをして笑顔を浮かべるエミリーを見た途端、男のくせに情けないけど目頭が熱くなってすぐケータイを閉じて、読書を再開する。
…やっぱり本の内容なんてこれっぽっちも頭に入ってこないんだけど。これしか気を紛らわせる手段が思いつかなかったんだ。
「鮎川」
「!な、何…」
驚いた!俺の前の席の鈴が椅子に座ったまま俺の方に身体を向けていた。あの無表情な感じの顔。
やばい。エミリーとのプリクラを見ていたところ見られた?どうしよう。そのせいでまたエミリーに迷惑かけたら俺の居場所は…とっくのもう無いけど…。
「昼休み体育館で応援練習あるけど振り大丈夫?」
――応援練習?何の事…嗚呼!そうだった…!――
鈴に言われて思い出した。俺は体育祭の応援団幹部なんだった!
仕方なく入れてもらったって感じだけど…いや、てか寧ろ入れてもらいたくなかったのに!こいつ鈴がおかしな事言い出すから、俺の憂鬱の種がまた一つ増えたんだよ!
エミリーの事が頭いっぱいで忘れていた。俺には体育祭応援団幹部という、憂鬱な行事があるのだという事を。























俺は顔を青くし、頭を両手で抱え込んで机に顔を伏せて、お決まりの独り言をぶつぶつ呟く超キモい奴。いいさキモいだの何だの思われる事なんて何を今更ってやつだ。
「最低だ最低だ最低だ…そりゃ確かに願ったさ、このまま何の変哲も無い高校生活なんて嫌だ、って。だからってこう次々と試練を与えないでくれよ神様…!俺が何か悪い事し、」
続くはずの言葉が詰まる。…した。悪い事はした。まさに昨日…。いや、でも応援団幹部になったのは昨日よりもずっと前の高校生活で。なら、昨日俺が犯した罪への天罰はまだ待ち構えているってこと?
考え出したら1人、頭の中でテンパっちゃってぐるぐるしていたら。
「大丈夫?具合悪いの」
俺の顔を覗き込んできた鈴の、眉毛を垂れ下げた心配そうな顔が本当すぐ其処…其処!にあって。
小学生の頃から女子とは接点なんて無かった俺はちょっとドキッ!としてしまって目を見開いて顔を上げて、身体を後ろへ引く。こうして女子に心配されたのも初めて…ではないけど。…孤児院時代の頃、よく体調を崩した俺をエミリーが心配してずーっと傍についてくれていたのって女子に心配されたに入る?だってほら、幼過ぎるとあまり異性を意識しないとか言うし…。
「何を1人でぶつぶつ言っているの」
「えっ!?おお俺今何か言ってた!?」
「うん。よく聞こえなかったけど。言ってた」
最低だ最低だ最低だ!やばい。俺超キモい奴じゃん!嘘!?マジかよ!心の中で呟いていたつもりが声に出ちゃっていたとか本当…キモい。
鈴は相変わらず無表情だけど、内心絶対ドン引きしてるって!俺がこいつの立場だったらドン引きする!
あーあ。変わった子だけど、この3ーBで唯一俺を侮辱せず普通に接してくれる子だったのに。今の独り言でキモい奴と認識された俺は完璧1人。クラスで孤立。
別に寂しいだとかそういう女々しい事は一切思わないけど俺の中に俺を客観的に見る俺がいて、客観的に見た結果…俺って超哀れでカッコ悪い男。




















なんかそう考えたら、エミリーや他の奴らが俺をキモい呼ばわりする理由が分かってきたかもしれない…。何か俺もう…超マイナス思考。
「あたしは独り言言ってる人を変だなんて思わない」
その一言に俺が顔を上げれば、相変わらず無表情なんだけど青の丸い瞳をジッ…、と真剣に向けてくる鈴が居て、ちょっと…いや、かなり驚く。
「いや、同情なんていいよ。俺どうせ、」
「教えて」
「っえ、」
こっちが話中にも構わず自分の白いケータイを開けてぐっ、と俺の前に差し出した鈴の意図が全く分からない!
何?何?ケータイの画面に何か映ってるの?そう思ってちょっと視線を下げたんだけど、人のケータイの中を許可無く見ちゃまずい!特に女子のは!って、鈍い俺でもすぐ気が付いてハッ!として視線を上げる。
「教えて鮎川」
「え!?だから何を、」
「アドレスと番号」
あ、ああ…そういう事か。呟きながら俺は青のケータイをズボンのポケットから取り出して開けるんだ。
「赤外線何処」
「え、あー…何処だったっけ」
「ここじゃない?」
「あ!そうだ!ありがとう。はは、俺、滅多に赤外線使わないから場所分からなくて…」
鈴に赤外線の場所を見つけてもらい、俺のケータイの先端と鈴のケータイの後ろで赤外線通信をやれば…すげー。相手のアドレスも番号もすんなり受信できちゃうんだ?





















この後、俺が鈴に赤外線送信。無表情で鈴は礼を言い、ケータイを閉じる。一方の俺は、ちょっと笑顔。だって雄大以外の友達ができたんだ。
…友達って呼んで良いのか微妙なところだけど!
あ、これをきっかけに!って感じで目を開いて、俺はとある話題を思い付く。前を向こうとした鈴の肩を叩くんだ。
「あ、あのさ」
「何」
相変わらず無表情。でも不思議と、怖いとか嫌な感じとかはしない。何でだろ。俺はギャルやギャル男が超がつく程苦手なのに。
「よく本読んでるけど、好きな作家とか、い…居るのかなって…」
…やばい。質問をしている最中で俺の声のトーンがだんだん下がっていった。何故なら、こういうギャルにがり勉な話題を出した事が俺の失態だったからだ。
確かにこいつは普通のギャル達とは一風変わっていて、10分休憩とかも1人で読書をしている時もある。だからと言ってこの話題は…駄目だったかな、とやってしまった感に満たされて目伏しがち。
「や、やっぱ今の話無し!無しでいいから」
「…作家は固定しない。けど、森の王女シリーズは面白いから」
…あれ?俺は思わずキョトン。
意外や意外、話題にのってくれた上に鈴は、自分の机の中から今言った『森の王女』というシリーズ化されている分厚い小説を4冊取り出して、俺の机の上に乗せるんだ。
俺は、鈴と4冊に積まれた本を交互に見る。
「貸してあげる。でも5巻はまだあたしが読み途中だからまた今度」
「え…あ…ありがとう…!はは…。おすすめしてもらった事ないから嬉しいよ。本当にありがとう」
「返すのいつでも良いから」
「なるべく早く返す」
「うん」
そう言って、ちょっとだけ微笑ましい友達同士の会話が弾んでいたんだけれど…。俺が鈴から借りた4冊の本を鞄の中へしまっていた時。頭上から降り注いだんだ罵声が。
「つーかお前、アン姉が優しいからってメアドまで交換してんじゃねーよがり勉のクセに」
「なっ…!?」
降り注いだ声に、今まで笑みが浮かんでいた俺の顔は一瞬にして曇り空。いや、土砂降りかな。























顔を上げれば、罵声を飛ばした奴…相坂が腕組みして俺を見下ろしているし、その後ろでは坊主に近い髪型のアンジェリカの彼氏喜多田が目は合わせてこないものの、眉間に皺寄せて苛立った雰囲気で立っているし。
…何かこいつら、目だけで人を殺せそうな程俺を睨んでくるんだけど。俺は何も悪い事しちゃいない。なのに…なのに、がり勉とかオタクとかキモいとかで行動を制限されなきゃいけないんだよふざけんな!
…って相も変わらず心の中で怒鳴る事しかできない情けない俺。
相坂には目を合わせないように、伏しがちにする。
「別に俺はただ…」
「つーかお前!アン姉には彼氏の大輝がいるんだから無理無理!ま、彼氏がいなくてもお前みたいなチェリーには無理ってやつ?キャハハ!」
声高らかに腹かかえて笑う相坂に、俺は机の下に隠した右手拳を力強く握り締めて眉間に皺を寄せる。相変わらず伏しているけど。
マジムカつく。こいつ、言って良い事と悪い事の分別もつかねぇのかよ。別に鈴を好きとかじゃない。だって俺には…好きな人がいるし。
鈴の事を恋愛対象として見てはいないけど、そうやって簡単に無理とか言われるとムカつく。





















鈴は無表情ながらにオロオロしていたけど、大輝に強引に腕を引っ張られて行くし、その後を相坂と永山がケラケラ笑いながら教室を出て行こうとした時。もう、限界だったんだ。俺は音をたてて席を立ち上がっていた。


ガタン!

音が思いの外でかかったらしくて、教室を出て行こうとしていたあいつらが足を止めて俺の方を見てきた。勿論、教室中の生徒が。
「つーかそうやってキモいとか簡単に言うなよ!俺がお前らに何したって言うんだよ!俺に対してだけじゃない。自分達と違うグループだとか地味だとかですぐキモいって言って笑うお前らの方がよっぽどキモいから!」


しん…

沈黙が起きる事は分かっていた。クラスメイト達が目を丸める事は分かっていた。
その直後、あいつらが腹かかえて爆笑してまた俺への侮辱の暴言を吐く事は分かっていた。他のクラスメイト達も俺を横目で見ながらクスクス笑いだす事は分かっていた。
でも俺は反らさず、しっかりとあいつらを、クラスメイトを、睨み付けたんだ。だって俺は間違っちゃいない。
この光景が、孤児院に居た頃エミリーを庇った俺のあの日と重なる。
――同じだ。でかくなったってそれは身体だけの話で、孤児院の頃エミリーをいじめていたみたいな奴らが今、俺を侮辱する。…お前だけにはこんな間違った奴らと一緒にはなってほしくないって思う俺を、お前は笑うんだろうけど…――
侮辱の言葉を受けながら、俺は机の中から次の授業の家庭科の教科書と青の筆箱を脇に抱えて、顔を伏せながらあいつらの脇を通る。
「わーかったわーかった!そんなにキモいって言われるのが嫌だったの?なら今度から言い方変えてあげるぅ」
教室を出る直前、相坂に耳元で大声で叫ばれたその一言は、尋常な人間が発する言葉じゃなかった。
「死ねば?」
でも俺は間違っていないから。…いないから、そのまま胸を張って次の授業が行われる4階の家庭科室へ1人で向かったんだ。鈴を除く3ーBの生徒達からの嘲笑いを背に受けながら。































キーンコーンカーンコーン

うぅ…最低最悪の時間がやってきてしまった…。あと4時間、あと2時間…と指折り数えて時計にばかり目を向けていたらいつの間にかやってきた昼休み。
昼休みに入ってすぐ永山が教壇に立って「飯さっさと済ませてすぐ体育館来いよ!遅刻したら分かってんだろうな?」なんてヤクザみたいに脅すから、いつもより10分も早く購買の弁当を食べ終えて、早くも教室を出た俺は相当なビビリ?いや、だって俺一応…一応!応援団幹部だから、早めに体育館行った方が後から文句言われないかなー、って。























はぁ…。俺ってば、超情けないしかっこ悪い。肩を落として1人、賑やかな廊下を歩いていたら…
「鮎川君。張り切っていますね」
「雄大…」
背後から声を掛けてきた背の低い男子雄大も、今まさに応援練習会場の体育館へ向かっている真っ最中だったらしい。
つーか、いつの間にか友達3人も引きつれているんだけどこいつ。まあ言っちゃ悪いけど、友達3人もトニーみたいなオタクって感じかな…。
友達が居るってのに、わざわざ俺と並びながら歩くから気に食わない。わざと早足にするけど、ついてくるから余計イライラ。
「体育祭嫌いの君が早々体育館へ出向くなんて。明日雪を降らせないでください」
「はぁ?べ、別に張り切ってなんか…」
「君と同じ組だと先が思いやられますね」
「……」
「昨年のようにオール種目ダイブしないでもらいたいですね」
「うっさい!黙れチビ!」
眉間に皺寄せて反抗するけど、雄大ときたらニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべて昨年の体育祭を思い出しているんだろうな。何故なら、雄大が今言ったように、俺は昨年の体育祭全種目ダイブしてしまった。つまり…100Μ走も借り物競争もクラス全員対抗リレーもものの見事に全て前へ倒れてしまった。まるで海へダイブするみたいに。
あああ!思い出すだけで羞恥心で死んでしまいそう!周りからの冷ややかな視線や罵声も思い出してしまったら、やる前から諦めている。そんな自分が大嫌いなんだけど、今年くらいかっこ良いところ見せたいけど、生まれつき運動オンチな俺には体育祭というものは苦痛で仕方ないものなんだ。
今年は競技だけじゃない。応援団幹部のダンスだって…今迄放課後何度か練習はしたけど、結果はまるで駄目だ。なのに、今日は応援団幹部以外の生徒しかも全学年の生徒に指導しなきゃいけないだなんて苦痛を通り越して悪夢。























肩を落としていたら、いつの間にかついていた体育館内ステージ側には俺の所属する組青組の応援団幹部達が輪になって、大声で楽しげに喋っていた。いつも授業開始15分後に教室へやってくるってのに、こういうイベントの時ばかりは早過ぎるくらい集合時間前に集まっているギャルやギャル男達を、憂鬱な瞳で、離れた場所から見る。
あーあ…俺もあの輪の中へ入らなければいけないのか…と思うと、今すぐにでも逃げ出したい。逃げ出して趣味の読書でもしたい。なんて思う俺だけど、足は勝手にあいつらの元へ向かっていて。「?何処へ行くのですか鮎川君」
あ、そうだった。他の生徒達つまり応援団以外の生徒達と応援団は向かい合ってダンスを踊るんだったっけ。だから、俺が応援団幹部達の方へ歩いていったから雄大は頭上にハテナを浮かべ、首を傾げている。
そうだった。地味なこの俺がまさかまさか応援団幹部だなんて事を知っているはずがないし、教えてもいないから、不思議そうに目を丸めているんだ。
…どうしよう。仕方なしに、って言っても俺みたいな奴が応援団幹部って事を知ったら雄大の奴腹抱えて笑うに違いない。いや、それよりも、もう少ししたら俺は雄大や同級生や下級生の前であの超パラパラみたいな…てかパラパラだなあれは。パラパラを踊らなきゃいけないのか?!…生き恥もいいところだ。




















なんてがっくり肩を落として俯いていたら俺の肩をトントン、と2回叩く人が居て。
げっそりして病人みたいな顔で振り向けば。ちょっと慌て普段通りの顔に戻すんだ。
「良かった。来てくれないと思ってた」
肩を叩いてきたのは鈴。いつもの無表情ではなくて、今はちょっとだけ優しい安堵の笑みが浮かんでいる。
…からと言って油断できないんだ俺は。ほら、ね。ちょっと目線を動かしてみれば、俺の事をギロリ睨む相坂や、何でこんな奴と一緒なんだよ!な目で見てくる応援団幹部達の視線がムカつくし、痛い。
いや、別に俺からこいつに話し掛けたわけじゃないのに何でそこ、俺を睨むんだよ!だからと言って、自分に普通に接してくれる鈴がこいつらに睨まれるのも嫌なんだけどな…はぁ。何か人間って難しい…。
…てか、あれ?俺に敵意剥き出しの視線を向けてくるギャルやギャル男達の中で、あの視線だけが無いんだ。もしやまだ来ていないのかな?って辺りを見回してみるんだけど、やっぱり居ない。エミリーは居ない。
今日は会いたくないな、って思っているはずなのに、朝からずっとあいつの姿が見えない事だけがモヤモヤしている俺はやっぱり矛盾している?仕方ないだろ人間なんだから!
あー…えーっと。因みにエミリー以外で居ない応援団幹部の存在に気付いた途端、俺の中のモヤモヤがたちまちイライラへと変わるんだ。だって、居ない幹部が城田なんだ。そういえばあいつも朝からいなかった…気がする。
一昨日までの俺なら、この2人が居ない事に対してよく分からないもどかしさに襲われていただけなんだろうけど、もう違う。昨日俺は、俺がエミリーをどう思っていたのかという事を知ってしまったから、あの2人が居ないって知っただけで超イライラする!超ムカつく!…超虚しくなる。
「?どうかした鮎川」
「い、いや!別に何でもないよ…」
「あ、鮎川君…!まさか君がこういう方達と同じグループだったとは…!」
あーあ、ほらね。雄大は俺を見て目が点で驚愕のあまり、口はだらしなく開きっぱなし。そりゃそうだよな。俺みたいな奴が応援団幹部だなんて…な。…頭数合わせだとしても。
そんな雄大の事を、首を傾げたアンジェリカがまじまじと見つめるものだから、雄大と他3人のオタク…じゃなくて友達は顔真っ赤にして目反らす。他のギャル達特に相坂と喜多田からの視線が背中に突き刺さって超痛いんですけど…。
「別に俺は頭数合わせってだけで、」
「…頭数合わせで誘ったんじゃない」
ムッと口をへの字にしてみせる鈴の天然…いや、空気の読めなさには俺はもうフォローしきれません!お手上げです!
そんな時、予定時間よりちょっと早めに集合した生徒達のせいで…じゃなくて!お陰で?俺達青組だけ先に応援練習を始める事にしたんだ。























「はは!他の奴ら集まるの超遅ぇし!やる気ねぇのかよ!」
「これじゃあやる前からうちらの勝ちは見え見えじゃん?ねーっアン姉!」
相坂に肩を組まれても、口をへの字のまま珍しくご機嫌斜めというか珍しく自分中心な態度を表す鈴の左腕を、喜多田が引っ張る。
「…杏夏、どうした」
「……」
相変わらず黙ったままでご機嫌斜めな鈴を、喜多田や相坂や永山や他の幹部達が心配そうに見つめるが、すぐに切り替えたのは永山。幹部の中でもリーダー的存在のこいつが真ん中に立てば、下級生の女子達(って言ってもギャルばっかり)からは黄色い声援を受けるし、下級生の男子達つまりギャル男達からは先輩!って憧れの声援を受ける。
…はぁ。よくよく考えればこの学園の生徒の比率ってギャルとギャル男が8、俺達みたいな地味な奴らが2の割合だから、仕方ないのかな…。
だってほら。下級生からも応援団幹部が選出されるんだけど、そいつらも全員化粧のドギツイギャルや髪色が派手なギャル男。すっごく蚊帳の外な俺は目立たないように目立たないように…と、幹部が一列に整列している一番右端で俯きがちなんだ。…てか、エミリー何処行ったんだろう…。




















あいつがこの学園に転校してきてからまだ間もないけど、遅刻や早退する事はあったけど、欠席する事なんて無かったのにな…。やっぱり昨日の俺が原因なんだよな…女の子にあんな事するなんて俺は最低最悪だから、エミリーは傷付いて欠席…?
どうしようどうしよう。でも城田と多分一緒に居るんだよ…な?それならエミリーが1人じゃないからちょっと安堵。だけど、その相手があの城田ってのがなぁ…。ってか元はと言えば俺が…、
「鮎川」
あ、やばい。また1人で考えて周りが見えなくなっていた。
ハッ!と我に返って顔を上げてみれば幹部以外の生徒達は学年ごとにつまり3つに分かれて円になっていたんだ。
俺がキョロキョロしていたら、右腕を鈴に掴まれてぐいぐい引っ張られるから、慌て顔を上げれば水色の瞳と視線が合う。
「な、何?」
そう聞いても何も答えてくれない鈴を追い掛けてきた喜多田が強引に彼女の肩を掴んで振り向かせるんだけど…。
「杏夏!」
「誰と組もうがあたしの勝手!」
珍しく目をつり上げて鈴が喜多田に反抗すれば、喜多田はばつが悪そうに舌打ちして…ってそこで何で俺を睨むんだよお前!ちょっとビビッたじゃん…!
「っ…、杏夏。放課後話がある」
「今日は駄目。お仕事がある」
「仕事は6時30分からだろ。すぐ終わらせてやるから」
「……」
何か何か!よく分からないけど喧嘩…いや痴話喧嘩か?てかお仕事って何?ああ、バイトの事か!
2人共外方向いて、喜多田は永山達の元へ行ってしまうし。























俺がキョトンとしていたら鈴が俺の前に立った。
「鮎川とあたしが、1年生に踊りを教える係」
そう言って有無を言わさず、1年生の円の中へと俺をぐいぐい引っ張っていく鈴に半ば呆然の俺。
…てか、うわぁ…。1年生と言えど化粧で3年生にも見えるギャルや、髪色や顔が大人びていて3年生にも見えるギャル男ばっかりじゃん!中にはちょっとほんのちょっとだけ、俺みたいな地味な女子と男子が計7人…しか居ないんだけど。
ギャルやギャル男達は俺の事を「何であんな地味な奴がいるわけ?」とか何とか、小声じゃなくてわざと大声で聞こえるよーうに文句を言ってくるから超やり辛いっていうか居辛い!!穴があったら入りたい!
てか、お前ら俺を先輩として見ていないだろ!はーあ。鈴は鈴で、そんな俺の気も知らず。
「じゃあまず、一番からやるから」
そう言って、1年生達がやり易いように後ろを向く俺と鈴。
音楽をコンポから流せばテンポの速い…てかこれ、エミリーが昨日唄っていたディアナ?とかいう歌手の歌じゃん!なんてちょっと喜んでいたら、その間に曲は結構進んでいた。イコール、ボーッと突っ立っていただけの俺に注がれる冷たい視線。ハッとして隣の鈴に顔を向ける。
「ご、ごめん…!」
「…平気」
いや、目が平気って言ってないんですけど!
でも今のは俺が悪いから顔の前で手を合わせて何度も何度もペコペコ頭下げて謝る。その間にコンポへ行き、音楽をまた最初から流し始めてダンス再開。
…結局俺は横目で鈴の振り付けを盗み取りながら踊る事しかできないっていう、全く指導者として機能していない駄目な奴。だから、背を向けている1年生のギャルからは罵声を浴び、ギャル男達からは文句無しの大爆笑を浴びる。



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