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終焉のアリア【完結】
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バタン!!

「鵺!来い!」
「なっ?!ちょっ…!?」
ノックがした直後。壊れそうなくらい勢い良く開かれた鵺の部屋の扉。訪問者は、血相変えた空だった。
たったさっき会ったばかりの空の突然の訪問に鵺が目を点にしているのもお構い無しに、鵺の右腕を自分の左手で引っ張る空。引っ張られながらも鵺は空いてる右手で、玄関に立て掛けてある刀魍魎を掴む。
空は鵺を部屋から外へ引っ張り出して、廊下を走る。
「なななっ?!何なんだておめさんはいきなり引っ張り出して!俺、家の鍵かけてねぇねっか!!」
「そらぁ〜どうしたの?」
「…?」
空の部屋の前を通り過ぎてすぐ。扉の向こうから甲高い声で空の名を呼び現れたシトリーに、空は顔を真っ青にする。しかし、アリアと空やEMS軍上層部の人間しかシトリーの姿を知らない。その為シトリーがMADの首という事と彼の名前を知っていてもシトリーの姿を知らない鵺にとったらシトリーは、ただの小学生にしか映らない。だから、首を傾げて不思議そうにきょとんとするだけ。
「…?雨岬おめさんの従弟か何か、」
「お待ち下さい空様。何故、お逃げになられるのです?」
「…!!」
シトリーの背後から姿を現したメイド服姿のMADドロテアを見た瞬間、鵺の目がつり上がる。一方の空はばつが悪そうに舌打ち。
そんな空などお構い無しに空をひらりかわした鵺は、抜刀しようとする。だから空は鵺を、突き当たりのエレベーターの中へ突き飛ばす。そのせいで壁に背を打ち付けた鵺は、相当おかんむり。顔を見ただけで分かる。
「痛っ…、何なんらておめさんはさっきから!!止めんな!!」
「ギャーギャーうるせぇよ。事情は…あいつらから逃げ切れたら話す」
「そらっ…!」


ガコン!!

エレベーターのドアが閉じてゆく隙間から、空を追い掛けてきた悲しげな顔をしてこちらへ手を差し伸ばしてくるシトリーの姿が見えたが、エレベーターのドアは容赦なく閉じるのだった。



























7、6、5……
エレベーターは静かに、下のロビーへと降りていく。
「はぁ…はぁっ…」
エレベーター内。ボタンの前で、鵺には背を向けて立ったままの空は息を切らしている。かいた冷や汗を腕で何度も何度も拭うのに、冷や汗は止まってくれない。


ドクンドクンドクン…

心臓がうるさい程大きく速く鳴り続ける。気が狂ってしまいそうになる。脳裏では、あの日、自宅の食卓に並んでいた養父と妹の人肉を使った料理が思い出され、先程用意されていた人肉の料理と映像が重なる。


ドン!

「くそっ…!何なんだよ俺ばっかり…!!」
エレベーターを中から思い切り殴る。
「雨岬!」
「…ハッ!」
鵺の声に我に返り振り向いた空の顔が真っ白で全身から血の気が引いていて、さっき自分の事を茶化してきた人物と同一人物とは思えないから、鵺は目を丸めてしまう。
「な、何だよ…」
「え…あっ…な、何度も呼んだってがんに、なして返事しなかったんて!」
「え。マジ?悪い。考え事してて聞こえなかった。ごめん」
「え…いや…うん…別にいいて…うん」
空の真面目な返答を前にしたら、鵺は怒る気になれなかったそうな。


しん…

静まり返ったエレベーター内。鵺はハッとすると鞘から抜刀し、刃を空に向けた。こんな狭い空間だから、少しでも揺れたら刃が空の額を貫通してしまうだろう。そのくらいの距離。けれども空は動じず俯いてばかりだから鵺は調子が狂ってしまう。が、1回、唇を噛み締めて決心した。
「なしていきなり俺を引っ張り出したんだて!」
「…さっきのあいつ見たら分かんだろ」
「なら尚更ら!さっきおめさんの部屋からMADが出てきたろ!あれは一体どういう事なんらて!」
「…知らねぇよ…。何で俺ばっかりつきまとわれなきゃいけねぇのかなんて…知らねぇよ…」
「聞こえねぇがて!言い訳は聞きたくね!おめさんがMADと関わってんなら俺は絶対に許さない…。俺の大事な人を殺したMADと関わってるって言うんなら…」
「…!」
「だからっ!」
「知らねぇよ!俺が聞きたいくらいなんだよ!俺の父さんと妹もMADに殺されてんだよ!」
「え…」
声を荒げた空の赤と黄色の瞳がこんなにも恐ろしいから鵺は萎縮してしまい、言葉が出てこない。そんな鵺を見たら、ハッ!と我に返った空は申し訳なさからか、鵺に背を向ける。
「…ごめん」
その謝罪が鵺に聞こえたかどうかは定かではない程の声量だった。


しん…

再び静まり返る。
3、2…
もうすぐエレベーターはロビーに着く。
「雨岬…おめさんは…」


ドンッ!!

「!?」
「見付けましたよ空様。さあ、どうぞ。記念の食事会にご参加下さい」
あと1つ降りればロビーに着くという時。エレベーターのドアがもの凄い勢いで外から破壊され、壊れたドアの破片と灰色の煙で咳き込む空と鵺。
煙が晴れたエレベーターの外には、このドアを拳1つで破壊したドロテアが待ち構えていた。
「そらぁ〜…どうして逃げるの?うぅ…」
その後ろには、涙をボロボロ流すシトリー。
空はばつが悪く舌打ち。すると、辺りが一瞬にして赤い光に包まれた。さっき見たばかりのあの光。ハッ!とした空が後ろを振り向いた一瞬の内に。


ドッ!!

「うぐっ…!」
「ド、ドロテア〜…」
赤い光を放つ刀魍魎でドロテアの頭を一突きしたのは、鵺。貫通した刃には緑色の血が、べっとり付着している。


ズッ…、

勢い良く刀を引き抜けばドロテアはよろめき、その後ろではシトリーがオロオロして泣き喚く。その隙を狙い、鵺があと一発攻撃してやろうと刀を構えたのだが…
「!?邪魔すんなて雨岬!!」
空は鵺の左腕を掴むと、鵺を連れて階段を駆け降りていくのだ。これには、とどめをさしたい鵺はおかんむり。だが、空に引っ張られるがままにマンションの階段をカンカン鳴らしながら駆け降りていく2人だった。









































マンション入口―――

「なして邪魔したんら!!」
「かなわねぇからだよ!」
「なっ…?!何らて!?おめさんもう一辺言ってみろ!俺がMAD如きにかなわねぇって言いてぇんか!!」


ガタン!

空は他の自転車を薙ぎ倒して、無理矢理マンションの駐輪場から引っ張り出してきた自分のシルバー色の自転車のストッパーを蹴り上げた。あきらかに、イライラしているのが分かる。
「あのガキはシルヴェルトリフェミアなんだよ!!」
「なっ…!?ふわぁ!?」
「落ちんなよ、ド田舎者!」
「なっ、何らて!?って、おめさんスピード出し過、う"わわわっ!?」
空は鵺を自転車の荷台に無理矢理乗せると、自分はサドルに跨り前屈みで立ち漕ぎをして、自転車とは思えぬ高速度で街を駆け抜けていった。





























同時刻、
マンション2階廊下――

「ドロテア!ドロテア!しっかりしてようぅ…シトリーをひとりぼっちにしないでぇ…」
「うわっ…!何だ?!」
「きゃああ!あれってMADじゃない?!」
「うっそ!?つか、死んでるし!」
騒ぎを聞き付けたマンションの住人がやって来た。シトリー達から距離をとってはいるものの、人集りとなる。シトリーは涙を流したまま不思議そうに野次馬達をキョロキョロ見回す。


パシャ!

「!?」
「すげ〜レアなもん写メっちゃった!」
「あたしMADって生で初めて見た〜本当に居るんだね!」
1人の金髪の男子高校生が携帯電話で写真を撮ったのをきっかけに、初めは怯えていた住人達も、ドロテアが倒れているのを良い事に楽しそうに写真を撮り出すのだ。これにはシトリーも泣きながらではあるが、ドロテアの前に両手を広げて立った。それすらも面白がって写真に収める住人達。
「や、や、やめてよぅ!ドロテアは死んじゃったのに、みんなはどーして笑ってるのぅ」
「はあ?何だこいつ?」
「人間のガキがMADと仲良しこよししてっぞ!」
「こりゃ傑作だな!おい、お前。そのMADの事何か知ってんのか?ちょっと来いよ」
ぐっ、
面白がっている男子高校生数人に腕を引っ張られその力強さに、顔を痛そうに歪めるシトリー。
「こいつをメディアに売ったら報酬貰えんじゃね?!」
「いや、EMSに売った方が良いだろ?」
「バイトのせこい給料の何10倍も良い金入るよ、な…っ…」


ドサッ、

「え?」
人の倒れる音が背後からしたから、シトリーを連れた住人達が一斉に後ろを振り返ると…


















バリ、バリッ…!
そこには、死んだと思われていたドロテアが立っていて、さっき1番乗りで写真を撮っていた金髪の男子高校生を容赦なく頭からバリバリ食べていた。


ゴクン…、

調度頭から首にかけて食べたところで飲み込めば、首から上を食べられた男子高校生の腕が、ガクン、と力無く垂れ下がった。
「う"…お"え"…、う"…うわあああああ!!」
「キャアアアア!!」
"MADは人肉を食らう生物"
その情報は知っていたし現に、世界のニュースではMADに食べられて死亡した人間の事件も流れていた。それでも、その現場やMADという生き物をこの目で確かめた事が無い者にとったら、それは別世界の他人事に過ぎなかった。まさか、この目で目撃する事になるなんて。
さっきまでの余裕の笑みは何処。住人達は我先にと、老人や幼子をも蹴り飛ばしてマンションの廊下を走り、階段を駆け降りていった。
「わっ!?」
シトリーの事などどうでもよくなった高校生が手を放したからシトリーはその場に尻餅つく。すると、肩に暖かい手が添えられた。見上げたシトリーの顔にとびきりの笑みが浮かぶ。
「ドロテアぁ…!生きてたんだねっ!シトリー、ドロテアがいなくなったらもう生きていけないよぅ…」
「ご安心下さい、シルヴェルトリフェミア様。私は何度殺されようと、死にません。シルヴェルトリフェミア様の最期までお側に居ると誓いましたから」
「うんっ!ありがとうぅ!シトリーねっ、ドロテアの事、そらと同じくらい大好きだよっ!」
"空"その名にドロテアがピクリと反応したが、シトリーは無邪気にニコニコ微笑んでいるだけ。
「シルヴェルトリフェミア様。此処で2分程お待ち頂けますか」
「えっ…シトリーひとりぼっちになっちゃうのぅ…?」
「いえ。すぐ戻ってきますから。約束しましょう」
「うんっ!やくそくっ!ゆ〜びき〜りげんま〜ん嘘ついたらはりせんぼん〜の〜ますっ!ゆびき〜ったっ!」
指きりを交わし、ドロテアは目にも止まらぬ速さでマンションの階段を駆け降りていった。





























「ひぃぃい!き、来たぞ!!」
「キャアアアア!」
「ここ、こっちへ来るな化け物!!」
メイド服の白いフリルたっぷりのスカートを揺らめかせながら、マンションの外へ出ても尚、猛スピードで住人達を追い掛けるドロテア。
「と、止まれぇぇえ!!」
すると、騒ぎを聞き付けた警察官2人が拳銃を構えてドロテアの前に立ちはだかる。これには住人達も「助かった!」と安堵の笑みを浮かべるが…


バリッ!!

「…!!」
威勢良く構えた拳銃の出番すら出させてはもらえず警察官は一瞬にして2人まとめて、掴まれた頭から丸呑みで食べられてしまった。バリバリ…。人を食べる、何とも云えぬ生々しい音が耳にこびり付いて離れない。住人達の顔が青ざめた先には…
「い、行き止まりだ…!」
閑静な住宅街の奥は行き止まり。どうする、近くの家へ逃げ込むか?そう言い合っている間にも…


カラン、カラン…

6人分の真っ赤な血の付いた地球人の骨が、道路に落ちる音。ドロテアの口には、生々しい程べっとりした赤い血。それを腕で拭い、「ぺっ!」と、血を道路に吐く。
「不味い奴ら…」
ドロテアは満腹になった腹を擦りながら、シトリーが待つマンションへ戻っていった。






































同時刻、
ダグラス駅前――――

「はぁ…はあ…だーっ!つっかれた!!」
平日の午前にも関わらず人混みの駅前。
駐輪場に自転車を停めた空は汗をダラダラ流しながら叫ぶから、行き交う人達が彼を見てクスクス笑う。そんな空に耐えきれなくなって恥ずかしくなった鵺はさっさと自転車から降りると駅の中へ入っていくから、空は追い掛ける。
「おい!礼無しかよ」
「話し掛けんなて!おめさんと知り合いだと思われたくねんだて!!」
「あーっそ!お前が今度またMADに殺されそうになってても俺、見て見ぬふりするからな!」
――ったく!何なんだよこいつさっきから!そんなんだから友達できねぇんだ…いや、やっぱさすがにこれは言い過ぎだな。やめとけ俺!――
「ん?」
ふと目に入った駅中の売店。空は空腹の腹を押さえる。売店のドアを開けながら、鵺の方を見て言う。
「ちょっとそこで待ってろ」
「……」


























【間もなく、一番線に特急列車が通過します。黄色い線の内側にお下がり下さい】
「ねぇ聞いた?週末、ミルフィ様がお忍びで、此処EMS領にご訪問なさるんだって!」
「うっそ本当!?じゃあライブしてくれんのかな?平和への歌の!」
「あたし生で聴きたいな〜♪きっと声も超っっ可愛いんだろうね!!」
電車を待つホームでは、在り来たりで極普通でだから愛しい平和な光景が広がっているから、ベンチに腰掛けた鵺はその光景を不思議そうにボーッと眺めている。友人と楽しそうに戯れたり話す学生を見ている時だけやけに羨ましそうに眺めている感じがする。
「ほら」
「!」
背後から差し出された未開封のメロンパンと声にハッとして後ろを振り向く。パンを咥えた空が立っていた。空は鵺の隣に「よっこいしょ」なんて年寄りくさい事を言いながら腰掛ければ、脚を組んで、メロンパンを無理矢理押し付けてくる。
「ほら、取れって。腹減ってねーの?」
「……」
「何だよ。人がせっかく買ってきたのに。これ嫌い!とか言うんじゃねぇだろうな」
「これ…何ら?」
「…は?何…って…。メロンパンじゃん」
「メ、メロンなのにパン?!メロンなのかパンなのか結局どっちなんらて!!」
「はぁ?!お前まさかメロンパン知らねぇの?」
「知るわけねぇろ!それに、パンなんて西洋人の食べるもんら!」
「…あー、お前もしかして米以外食べた事無い?つーか食べない!…みたいな?」
「当たり前らて!!日本人なら米しか食わねぇのが常識らろ!!」
「…お前と話してると本っ当頭痛くなってくるわ…」
額を押さえ、はぁ…と溜息を吐いてがっくり肩を落とす空だった。
























「そういえばさ」
バリッ、
2個目の菓子パンの袋を開ける空。
「MAD。追ってこないみてぇだな」
後ろを向きながら言う。
「でもあいつら生体からして未知だし、またいつ現れるか分かんないから。さっきチャリ乗ってる時お前が言ってた"MADが来ても安全な場所"教えてくんね?そこって電車で行けるんだろ?どこら辺?」
「……」
「おい、シカトすんなよ。聞いてんの鵺?」
「なななな、何らてこのなまらうんめぇ食いもんは!!」
「…は?」
隣を向けば、空から貰ったメロンパンを食べていた鵺が目をキラキラ輝かせ、普段の数倍高い声で初めて食べるメロンパンの美味しさに感動している真っ最中だった。
「あのー…鵺さん、聞いてます?」
「雨岬!これ、そこに売ってたんけ?!」
「え?!あ、ああ、そこの売店な…って、おい!勝手に買いに行くな!またMADが追ってくるかも…!…はぁ。ぜんっぜん聞いてねぇし…」
空の声など聞こえていない鵺が売店へ駆け込んで行った為、がっくり肩を落とす。
「はぁ…あいつあんなキャラだったか?今のが本性なんだろうな…。トンネルで会った鬼と同一人物とは思えない…つーか思いたくないし!人の話聞かないし世間知らずだし、不思議人だし、勝手にいなくなるし…」
そんな性格がシトリーと重なった瞬間。脳裏ではシトリーと過ごしたほんの2、3時間の出来事が蘇るから、拳を強く握り締める。
「くっそ…!あいつの事なんて思い出すな…!早く…早くあいつらから逃れないと…!つーか、何で俺なんだよ…あの時ただちょっと話しただけだろ…。友達…?ざけんな…。誰が、家族ぶっ殺して侵略してきた化けもんなんかと…!」


ポン、

「…!」
背後から肩を叩いてきた誰かの手に挙動不審に反応した空。目を鬼の如くつり上げ、勢いよく振り向いた。
「触んな!俺はお前の友達なんかじゃ…、…!ぬ、鵺…?」
シトリーの事を考えていたからてっきりシトリーかと思い込んでいたが、肩を叩いてきたのが鵺だった事に気付き、我に返る。しかしその酷い怒鳴り声は、周りの人間の視線を集める事になった。
一方、鵺はきょとん、と目を丸めている。空は目を反らし、額を押さえてまた下を向いた。
「…悪い。今の、別にお前に言ったわけじゃないから…」
「……」


スッ…

立ち上がる空。
「お前がさっき言ってた"MADが来ても安全な場所"に一番近い駅ってどこ?切符買ってくるから」
買ってきたメロンパンを大量に抱えている鵺は、ハッとする。
「え。あ…エムス…」
「了解」
下を向いたまま鵺の脇を通って切符を買いに行った。































ガタン、ゴトン…

駅構内人混みだったのにエムス行きのこの電車内には空と鵺と、同じ車両で2人の向かいの席に座っている黒づくめでフードを深くかぶって顔の見えない1人の男…計3人しか乗客がいないし、車両は何とたったの1両。今日に限らず、毎日この電車には乗り手がいないのだという事が分かる。


ガタン、ゴトン…

3人しかいないから電車の走る音が目立つ。横に並んで座っている2人。
「雨岬」
「何」
「おめさんさっき、詳しい事はあいつらから逃げ切れたら話す、って言ってたろ。話せて」
「ああ…あの後自分ん家帰ったらさっきのMAD共が居たんだよ。俺、鍵かけて出かけたのに。あいつらって施錠された家の中も入れんの?つーか、あいつらの存在自体SFの世界の話だろ…目の当たりにしても、まだ信じられねーし。毎日おかしな夢を見てるみたいなんだ」
「あの童がシルヴェルトリフェミアだって、なして知ってたんらて」
「2年前…」
「2年前?」
「学校帰りにたまたま街中で絡まれてる奴を助けた。そしたらそいつ、俺の事を兄だとか友達だ!とか言ってきて。変な奴だなって思ってたけど、自分がどこから来たのかとか、テレビって何?とか、記憶喪失っぽいからとりあえず俺の家に泊めてやろう、ってなったんだ。そしたらそいつが…」
「シルヴェルトリフェミアだった、って言うんけ」
空は車窓の外を眺めながら頷く。
「確かに、上級のMADは見分けがつかないくれぇ人間と全く同じ姿だから気ぃつけなせって聞いとった。やっぱり本当らったんらな…」
「それで家に帰ったら緑色のMAD共が居て、俺の父さんと妹を…」
その続きを言えず口籠もってしまったから、鵺が空の方を向くが、空はやはり車窓の外を眺めたままで表情が見えないから鵺はわざと別の話題を持ち出す。
「は、話は大体分かったすけ!それよりもらな!おめさんの家にMADが居たってだけで、なして隣人の俺も巻き添えくわなきゃならんかったんて!」
「そんなの…友達だからだろ」
「え…」
「自分ん家にMADが居たら隣に住んでる友達も危害を受ける可能性があるから助けに行くのが普通だろ」
「…!!」
「〜って!!何、恥ずい事言わせんだよおまっ、…!?」
顔を赤くして照れくさそうにしながらやっとこっちを向いた空は目を見開く。鵺も照れくさそうに顔を空以上に真っ赤にして、目を泳がせていたから。
「べべべ別にっ!おめさんと友人になった覚えなんてねぇがて!!まっ…まあ、おめさんが俺と友達になりてぇ言うんなら仕方ねぇんだろも!!」
――な…何だこいつ!?これが巷で噂のツンドラ…あれ?じゃなくて、ツン…なんだっけ?――
空は苦笑いを浮かべ、少しの間を空けてから口をきる。
「別に俺はお前となりたくて友達になったわけじゃねーし?お前は友達がいない、ってお前のばあちゃんが言っててお前のばあちゃんが悲しんだまま天国行くのが可哀想だからなってやっただけだし。お前が俺と友達になった覚えが無いっつーんなら、無かった事にしような?」
「え"!?」
「あ!何そのキョドった顔!ウケるんだけど!なら素直になれば良いんじゃないですか〜?ぷぷっ」
「〜〜!もう怒ったっけな!!人の事指差したらいけねって教わってねぇんけおめさんは!!」
「ぷぷっ!超なまり過ぎて何言ってるかさっきから全然分かんねーし!」
「わ、笑うなて!!」
「クスッ…」
「え?」
2人以外の笑い声が聞こえて空と鵺が同じ方を振り向いた先には、2人の向かいの座席に座っている全身黒づくめでフードで顔を隠した小柄な男。空と鵺のやり取りを聞いていて、思わず笑ってしまったのだろう。もう笑い声は出してはいないものの、肩がプルプル震えているイコール笑いを堪えている。だから空の全身の体温が一気に急上昇して、鵺から離れた場所に脚を組んで座り直す。
――超恥っ!つーか、何で俺の周りってこいつみたいに世間知らずの不思議な奴しかいねぇんだよ!――
はぁ、と溜息を吐いて座り直し、呆れた顔をして見つめる空視線の先には先程鵺が大量に買ったメロンパンの山。1、2、3…5つもある。
「つーかお前、メロンパン如きであんなに喜ぶとかどんだけ米命!だったんだよ」
「パン買える程裕福じゃねかったすけ、食べた事ねかっただけら」
「…!あー…そっか。その…何か…ごめんな」
「何しんみりしてんらておめさん!?気色悪ぃなぁ。明日雨降らせんなて!」
「はぁ?!おまっ、人が気遣ってやったのに何だよその言い種!」
隣で楽しそうにケラケラ笑う鵺に始めは苛立っていた空の表情も、次第に穏やかな笑みに変わっていく。





















車窓の外に首を向ければ電車は調度、浅い海の上の鉄橋を走っていた。太陽の光でキラキラ輝く青い海が、空の赤と黄の瞳に映る。
「そういえばさ」
車窓に背を預け、足元へ視線を向けて話し出す空。
「お前とお前のばあちゃんが住んでた山。すっげぇ綺麗だったよな」
「だろっ!」
「何か懐かしいっつーかさ」
その時。あの時空の脳裏で映し出されたあの映像が再び脳裏に蘇る。
町並みや、行き交う人々の服装からして江戸時代辺りだろうか。闇夜に舞うピンク色の美しい桜の花弁の中を潜り、自分の前を歩いていくピンク色の着物を着た、真っ黒く長い髪の美しい1人の女性。あの時は彼女の後ろ姿しか見る事ができなかったが今、脳裏の映像で彼女は立ち止まりこちらを振り向いたから、2度目にしてようやく彼女の顔を見る事ができ……
「…!」
…なかった。
振り向いたそこで映像はテレビの電源を消したようにブツッ!と途絶える。空はハッ!と目を見開く。
――この前から何なんだ。度々蘇るこの映像…。こんな、時代劇の中にタイムスリップしたみてぇな町行った事ねーし。今時着物着てる奴なんて本でしか見た事ない…。完璧、知らない奴なのに…なのに…――
「…?雨岬、なした?どっか具合でも悪りぃんけ?」
「え?いや…あの桜並木を見た日から変な映像が頭の中で度々過ってさ」
「変な映像?」
「別に、小さい頃の記憶とかそういうのじゃない。見覚えの欠片も無い、全っ然知らない映像なのに…」
「なのに?」
「なのに何か懐かしくて落ち着くんだ」
らしくない事をらしくない穏やかな笑顔で空が言うものだから、鵺はまたからかってやろうと思った。だが空の顔を覗き込んだら、どこか遠くを愛しむように見つめて真面目な雰囲気が漂っていたから、鵺は目をぱちくりさせ、からかうのをやめた。
「そ、そんげ懐かしかった言うんなら、似たような景色を小っせぇ頃見たんじゃねんだ?おめさんどこの生まれら?見たところ西洋の人間っぽいろも、名前は日本っぽいよな」
「俺?あー…まあ一応日本で育ったから出身は日本ってとこかな」
「ってとこ、って…テキトーらな…」
呆れる鵺の隣で空は、自分がどこの国の人間なのかを教えてきたアリアの言葉を思い出していた。

『空…いや、ソラ。お前はバロック帝国の皇子で、私の大切な大切な世界で一人の甥っ子だ』


ぎゅっ…、

太股の上に乗せた両手拳が震える程握り締めた。
――俺の名前は雨岬空、1つだ…!――
「そ、そんげ懐かしかった言うんなら、こっ、今度俺が日本行ぐ時連れていってやってもべ、別に良いんだろもっ!」
「…は?」
顔を隣に向ければ、鵺はお決まりの顔を赤らめてツンとした態度。空は鼻で笑い、肩を竦める。
「べっつに?戻れるんなら日本にはまた戻りたいけど、お前みたいなのに連れてってもらわなくても俺1人で行けるし?ま。お前が1人で寂しいっつーんなら、仕方ねぇなー行ってやっか。ったく。本当お前は寂しがりのド田舎者だよなー」
「そんなんじゃねぇわね!!別に俺だっておめさんみてぇな性悪と好き好んで行ぎたいわけねぇ!!おめさんみてぇなうっすらぽんつくじゃ行き方分かんねと思って言ってやっただけらろ!かっ、勘違いすんなっ!おめさんの為に言ったんじゃねぇっけな!!俺も日本に帰りたいってたまたま思ってただけだっけな!!」
「はいはい。お前のそういうのに言い返すのもうつっかれたわ」
「〜〜!!」
耳に指を突っ込んで聞こえないふりをする空に、鵺は思わず立ち上がってまだギャーギャー言い返していたけれど、やはり空は聞こえないふりを通すのだった。























「そういえばさお前、剣道か何か習ってんの?」
「わっ!勝手に触ろうとすんな、うっすらバカ!!」
突然空が鵺の刀魍魎に手を伸ばして触れようとしてきたから、鵺は大慌てで魍魎を空から遠ざける。
「何だよ。つーかお前、いくらMAD退治の為だからって軍人でもないのに刀持っててさ。刀法違反で捕まんねぇの?…あ。そっか。此処、日本じゃないから銃刀法も何もないのか」
「これはなっ鳳条院家に代々伝わる、日本いや、世界でも貴重な刀の内の1つなんら!」
「こんな古臭い刀が?」
「こんげがん言うな!!」
「はいはい、悪かったよ。でもさ、この前のMADがその刀の事を"対MAD用"つってなかったか?MADってつい2年前現れたんじゃないのかよ。そんな昔からいねぇだろ」
「俺もよく分かんねぇんだろも、昔は妖怪退治に使こうてたってお祖母ちゃんが言ってたすけ、そこから対MAD用にも使こうようになったんろ」
「ふぅん。つーかそれ、マジすごくね?光出るじゃん、光。MADの存在自体も漫画の世界って感じだけどお前のその刀も漫画の世界って感じだし。抜くと光が出んの?」
「だから!触ろうとすんな言うてるがんに、おめさんは本っ当に人の話聞いてねぇんな!」
興味津々で刀に伸ばしてくる空の右手を、左手でペシペシ叩く鵺。そして空をビシッと指差した。
「いいか!?これは鳳条院家の人間しか抜けねぇ刀なんら!おめさんみてぇな余所もんは触れる事すらできねぇ神聖な刀なんら!分かったけ!?このっ、すっとこどっこい!」
「す、すっとこどっこい?!」
「ぷっ!」
「!!」
また2人の会話を聞いていた向かい側に座る黒づくめの男が口を押さえて笑って吹き出したから、2人が一斉に顔を向ける。と、空は思わず立ち上がり、男の事を指差すから、鵺も目を見開いて驚愕。






















「雨岬おめさん!だすけ人の事指差したら駄目らって言うてるがんに!」
「何なんだよあんた!さっきから人の会話聞いてクスクスクスクス笑って!そういう時は心の中で腹抱えて笑うもん、…!!」


ドクン…、

言いかけている途中、空は突然目を見開き左胸を押さえ、前のめりで苦しそうにした為、鵺よりも先に黒づくめの男が立ち上がった。
「っ…、はぁ…はぁ…何…だ…?頭の中で今…」

【そら……どこに居るの?そら…シトリーのお友達になってくれたんじゃないの…?】

「う"っ!!」
「雨岬!?」

【そらはどうしてシトリー達のこところそうとしてるの…?そらはシトリーのお友達なんだよぅ。いっしょに居たそらのお友達がシトリー達のことを"ころせ"っていったの?そらはやさしいから、シトリー達のこと、ころそうなんて思わないよね、そら…】

「ぐあ"あ"あ"!!」
後ろへ仰け反り、頭を抱え叫び出した空に鵺が駆け寄る。
一方黒づくめの男も駆け寄ると、鵺は空の後ろに居るから気付いていないが、空の真正面に居る男には見えた光景。それは、空の赤い左目だけから緑色のMADの血が流れている光景。
「ソラ…!」
男が彼の名を呼び、彼へ腕を伸ばした時。空はカッ!と目を見開くと、勢い良く鵺の方を振り向いた。
「鵺!後ろだ!!」
「え、」


ガシャン!!

鵺の真後ろつまり、空と鵺が座っていた方の車窓が突然次々と全て勢い良く割れ、辺りはガラスの破片が散らばる。黒づくめの男はその勢いで反対側の座席まで吹き飛ばされ、座席に背を強く打ち付けていた。




















一方、散らばったガラス片の床に倒れこんだ鵺の上に覆いかぶさった空の姿が見受けられる。
「う…、お、重い!早く退け!何なんらておめさんは急、に、……!!」
空の下にいる鵺が体ごと空の方へ向けた瞬間、鵺の目が見開く。全身がサァーッとした。これこそまさに、全身から血の気が引く瞬間。自分の上に覆いかぶさった空の背中や腕に突き刺さったいくつものガラス片。そこから容赦なく流れる、ドロリとした真っ赤な血を見て確信した。何故、突然窓が割れたのかは分からない。何故、窓が割れる事を空が察知したのかも分からない。けど、確かに確信できた事は、空が自分の上に覆いかぶさったのは、自分を助けてくれたからという事。
口がパクパクして声も出せなければこの体勢から動く事もできないくらい目の前の惨状に驚愕している鵺の細い肩が、小刻みに震えていた。
「雨、岬…」

『くそ!騙しやがって人擬いの化け物が!お前は化け物女の子供だ!私の子供じゃない!お前が居ると災いが起きる!何せお前は化け物女の子供だからな!そうだ、お前はまるで鵺だ!』
『どうしてくれんだよお前!お前と関わった奴みっっんな不幸になってんだよ!』
『てかさ、死ねば?アハハハ!』

こんな時に蘇る、過去に自分を毛嫌いして人間扱いさえしてくれなかった父親やクラスメイトの言葉。

『鵺ちゃんが居てくれるから、おばあちゃんは毎日が幸せなんだよ』
『自分ん家にMADが居たら隣に住んでる友達も危害を受ける可能性があるから、助けに行くのが普通だろ』

その後に、こんな自分を人間扱いし優しく接してくれた祖母と空の笑顔が蘇ってすぐ。祖母の死んだ場面と、血を流す今の空の光景が脳裏に浮かべば、見開いた鵺の瞳が揺れる。
「う…あ…、やっぱ…り…鵺だから…俺が鵺だか…ら…」
自分を人間扱いせず嫌悪し苦しめた人間は生きているのに、自分を人間扱いしてくれて優しく接してくれた人間ばかりが遠ざかっていく…。


ピチャッ、

頭から滴った空の赤くドロリとした重い血が、鵺の右頬に落ちる。
「っ…が…、俺が鵺だから…やっぱり…俺が人間じゃないすけ…皆…不幸になっ…」


トン、トン、

「…?」
すると、自分の肩を誰かに叩かれたから鵺がそちらへゆっくり顔だけ向けると…
「美味そうな地球人見ぃーっけ」
「!!」


ガシャアアン!!






















肩を叩いてきたのは、いつの間にかそこに居た極一般的地球人と同じ背丈のMAD。MADが腕を振り上げて直後大きな音がした…のに、自分は痛くも痒くもないから、顔の前にかざした手の隙間から恐る恐る覗くと。そこで、自分を襲ってきたMADがひっくり返ってピクピク体を痙攣させて倒れているではないか。
「…?」
次に視線を移したそこには、あの黒づくめの小柄な男が倒れているMADの前に立っていたから、鵺は驚いて目を見開く。
「なっ…何ら…?まさか、おめさんがそのMADを殺ったんか…?」
「鳳条院。…来るぞ」
「!!」
その聞き覚えある声に、鵺は更に目を見開く。
黒づくめの男はフードで顔が隠れているが、その声とそしてその呼び方でこの男が誰なのかをすぐに悟った鵺。そんな鵺の後ろの割れた車窓にぶら下がっているMADが、ざっと10体。


パァン!パァン!!

大きな銃声と、それに紛れて刃物が物体を斬る音がして。


ドサ、ドサッ!

ガラス片の散らかる車内のあちこちにMADの頭や腕、足、胴体が転がる。その中を歩くのは、赤い光をまとった魍魎を右手に構えた瞳の赤い鵺。その隣には、あの黒づくめの男。右腕には黒の拳銃を持って…いや、右腕が拳銃と化しているのだ。


パサッ…、

男がフードを後ろへ払ってあらわになった2つ結びの白く長い髪。瞳は真っ赤。黒づくめの男の正体は男ではなく、アリアだったのだ。黒づくめでフードをかぶっているから、空達が勝手に男だと思い込んでいた。
「少佐。何故此処に」
「はは、まあ少し所用があってな。ところで鳳条院。私の前では普通の言葉遣いをしたところで今更だぞ。ほれ、さっきの方言バリバリの喋り方をしてみろ!ほれ!ほれほれ!可愛かったぞ?」
「〜〜っ!か、からかわないで下さい!!」
「はっはっは!まあ、ソラが1番可愛いけどな!」
「…!やっぱり、ダグラスに住んでいる私と同い年の甥とは、雨岬の事だったのですか」
「うむ。そうだ。いや〜しかし、鳳条院のマンションがソラと同じで尚且つ隣の部屋だったとはな。それにお前達が友達になったと知ったら、叔母の私は可愛い甥っ子がもう1人できたみたいで嬉しいぞ!」
「お、叔母って…。やっぱり少佐はお幾つで…」
「鳳条院。雑談は帰ってからだ。いや、帰れたら…だな」
アリアが鵺の後ろを銃と一体化した右腕で指差せば。そこには、次々現れたまた新たな10体のMAD達。


パァン!パァンパァン!

「うっ…」
鳴り響く銃声。飛び散る緑色の血。吹き飛び転がる化け物達の頭、腕、足、胴体。車両の隅に避難させられていた空が、ようやく目を覚ます。
「う"っ…!」
目が覚め意識がはっきりすれば、受けた傷の痛みもはっきりする。痛む頭部を押さえれば、両手が自分の血で赤く染まった。悪寒がしたが、すぐ顔を上げれば彼の赤い左目には、MADを刀で次々凪ぎ払っていく鵺が。彼の黄色い右目には、MADを右腕と一体化した銃で次々乱射していくアリアが映っている。
「あいつ…!」
――あの黒づくめの奴はあいつだったのか!――





















自分も何かしようと立ち上がる…が、自分は刀も無ければ銃も無いただの民間人。それを改めて痛感したから、自嘲してしまった。
――父さんと楓の仇を討つって言ってバッカだよな、俺…。漫画の読み過ぎだっつーの…。そう言ったからって何もできない民間人の俺が突然、能力に目覚めるか?突然、すげー強い武器を手にできるか?…無理だ。それが…これが現実なんだ――
瞳に2人を映した空はまた自嘲する。
「俺は何もできない人間…これが、現実なんだ」
仇討ちをしたい!と神に願ったところで、フィクション作品のように平凡な男子高校生が突然潜在能力に目覚めるわけでもないし、強力な武器が天から降ってくるわけでもない。これが空想世界と現実世界との差異。
「くそっ…!」
ぐっ…、と握り締めた両手拳。先程のガラス片が刺さった傷口から血が少し滴る。
一方。割れた窓とは反対側の窓の外で、キラリ一筋の赤い光が光ったのが視界に入った鵺は、今戦っているMADの頭をあっさり斬り飛ばすと、光が光った方…つまり、空の方へと駆け出す。




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