終焉のアリア【完結】 ページ:3 結婚式をしているアリスの姿を見てもただの通行人の月見と風希は"あぁ結婚式をやっているんだなあの人は"としか思わない。アリスと彼女らは面識が無いから。 迷子を保護していたファンにお礼を言うハロルドも、彼とは面識が無いたまたま出会っただけの赤の他人だから"迷子を保護してくれた良い人だなぁ"としか思わない。 花月と鳥がマジョルカとアリスに後ろ指指されても、それをたまたま見ていたryo.やタクローや友里香は気にもとめない。アイアンが花月とたまたまぶつかっても、ただの邪魔なガキとしか思わない。彼らとは赤の他人だから。 握手会でソラが握手をしてもミルフィはソラの事を"たくさんのファンの中の1人"としか思わない。 鵺の父親とグレンベレンバと鵺がソラの脇を通り過ぎてソラが鵺を呼んでも、振り返りもしない。ソラとは出会っていない事になっているから。みんな、出会っていない事になっているから。 「これで良い…。これで良いんだろ。これこそがMADに侵略されなかった地球で、MADと共存していく地球で…。この平和をみんなが求めて戦ってきたんだ。時間を戻して俺があの日シトリーの両親を撃ち殺さないよう説得したから、もう誰も戦わなくて良いんだ。地球人とMADがあんなにも普通に平和に幸せに暮らしていただろ。こうなる為にシトリーが時間を戻して俺に託したんじゃないか。…ハッピーエンドだ…」 そう口では言うのだが、ソラの表情は曇天のよう。 「みんな出会っていない事になってる。だからミルフィの握手会に行ってもあいつにとったら俺は大勢居るファンの中の1人で、あいつには世界で人気のアーティストの彼氏がいる。他の奴らだってそうだ。アリスも月見さんも風希さんもハロルドさんもファンさんも鳥さんも花月さんもMAD2人組もオタク2人組とギャルもアイアンも他人行儀だったのは、みんなみんな出会っていない事になってる…赤の他人。たまたま今、街で擦れ違った通行人同士だからだ。それに…」 ソラは開いた右手の平を見つめる。寂しそうに。 「MADを受け入れたからバロック帝国が滅びなかった。だから俺は雨岬家の養子になる事は無かった。だから…雨岬家の子供は楓1人なんだ」 チュンチュン… 優しい小鳥の囀りさえ、ソラには残酷に聞こえる。 「MADが地球と共存しているこの世の中で。地球人とMADの夫婦も地球人とMADから生まれた子供も当たり前になっている。だから、鵺はもう"鵺"っていう名前じゃないんだ」 『俺には"鵺"っていう不吉な名前まで付けたのに』 出会ってまだ間もない頃。1日だけ鵺が学園に入学した昼下がり。屋上で話した言葉を思い出す。 ソラは、フッ…と下を向いたまま笑む。 「良かったな、鵺。お前はもう化物の子なんかじゃない。だから鵺なんていう不吉な名前を付けられる事は無かったんだ。…愛斗って呼ばれてたな、鵺」 ソラは真っ青な空を見上げる。 「愛情の"愛"…か。良かったな、今度はちゃんと可愛がって良い名前付けてもらえてさ…」 ゆっくりゆっくり風に流れる雲を、両方黄色の瞳に映す。 「だから俺の名前も雨岬空じゃない。ソラ・ライムンド・ハロッズなんだ。みんな俺の事は覚えていない。いや、会ってすらいなかった事になっているんだから覚えているもなにも、会った事すら無い。名前も姿も知らない赤の他人。みんな幸せそうだっただろ。嗚呼良かった。本当に良かった。これでみんな幸せ。ハッピーエンド。なのに…、」 ソラは下を向き目をぎゅっと閉じ、両手拳をぎゅっと握り、肩を小刻みに震わせる。 「寂しいなんて思っちゃいけないのに、何でこんなに孤独感が抜けないんだよ…!」 ザァッ… 秋の涼しい風に公園の木々が吹かれ、風で木の葉が音をたてて揺れる。ソラは相変わらず下を向いたままベンチで1人、腰を掛けている。 そんなソラの背後から公園へ入って来た1人の人間が足音もたてず、ゆっくりゆっくり歩み寄る。 しかし下を向いたままのソラは全く気付かない。 「俺も平和に…時に流されながらただただ…普通の毎日を過ごして生きていく…。普通の日常が一番幸せな事なんだ。あの日みんなが求めて欲しても決して手に入る事の無かった普通の日常が一番…」 トン、トン 「…?」 ふいに背後から右肩を軽く叩かれて、ソラはゆっくり目を開く。顔を上げてゆっくり後ろを振り向く。 其処には、黒い髪に赤い瞳をした1人の少年が笑顔で立っていた。ソラは目を見開く。 「…!?お前!何で此処に、」 「雨岬。おかえり」 [*前へ][次へ#] [戻る] |