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終焉のアリア【完結】
ページ:2
と言いつつ、鳥から赤ん坊を受け取る。抱き方が分からずおかしな抱き方だが。鳥と同じ藤色の髪をして、海の色をした瞳をぱちくりしながらアリスを見ている赤ん坊。それを隣から覗くファン。
「全く人見知りしないのだな」
「ほい!堅物ヤローパス!」
「なっ!?アリス!急に渡すな!落としたら大変な事になるだろう!」
ファンにパス。渡せば、慌てつつも慣れた手付きで上手に抱きゆらゆら揺らしてあげれば、きゃっきゃっはしゃぐ赤ん坊。
「堅物ヤローてめぇ意外だな」
「妹と弟をあやしていた日の事を思い出してな。小鳥遊。何歳だ」
鳥は人指し指で1を表す。
「1歳か。これからが大変な時期だな」
「ったく。アイツによく似た顔してるぜ」
「まだMADが居る危ない時代だけど。元気に強く生きてほしい」
「だな!」
アリスは立ち上がる。
「うっし。準備するぞ。また正門集合な」
そう言えばアリスとファンは右側を。風希と鳥は左側を。廊下を歩いて行った。



































男子更衣室――――

ちゃんと白いワイシャツに着替え、黒のネクタイに黒のスーツに横に並んで着替えるアリスとファン。
「つーかさぁ」
「何だ」
「お鳥と付き合ってたのかよアイツ」
「…さあな」
「ふーん。ま、大体何がどうしてそうなったかくらい予想はつくけど…な!」


バタン、

ロッカーの扉を閉めると2人はキュッ、とネクタイを締め、更衣室を出る。
「日本だと数珠っつーモン付けるんだったか?」
「らしいが、日本の風習は私もよく分からんな」
「あ、あの…」
「あ?」
2人が廊下を歩いていると真正面から歩いてきてペコリ一礼をする金髪で優しそうな女性が1人。よく分からないが、ファンだけは女性に一礼を返した。
「民間人は立ち入り禁止だぜ姉ちゃん」
「あ、いえ、その許可は頂いています。私の弟がお世話になったので、お礼を申しに今日は来たのですが…」
「弟?何つー名前だよ。俺らみてぇな上官は、下っ端の名前なんざ覚えちゃいねぇぞ」
「そうですか…。でも弟が本当、皆さんにお世話になったそうなのでお礼だけでも…。あ。そうです!アリス・ブラッディさんとファン・タオさんという軍人さんにお会いできますか?弟が最もお世話になった方々だそうなので…!」
その女性の一言と金髪に青い瞳の女性の容姿を見たら、女性の弟が誰なのか気付いた2人。
「……。そうかよ。でも生憎だなァ姉ちゃん。そういう名前の軍人だったら確かもう2年前のあの大戦後EMSを辞めてるぜ」
「ほ、本当ですか…?」
悲しそうに女性がファンの方をチラッと見れば、ファンも頷く。
「だからもう此処には居ない」
「そう…でしたか…」
アリスはくるっ、と女性に背を向けて廊下を歩き出す。
「それに。同じ軍の仲間同士なら礼なんざ言う必要無いんじゃねーの?」
「え…?」
「助け合うのは仲間ならば当然の事だからな」


カツ、カツ…カツ…

廊下を歩いて行く2人の遠くなる背を女性がボーッと眺めている内に、2人は階段を降りて行ってしまった。






















「行ってしまったわ…。でももうお辞めになっていた後だなんて…。弟に良くしてくれたお礼を申せなくて本当に残念…」
くるっ。女性はしょんぼりしたまま後ろを向き、反対側の廊下を歩いて行く。すると、前方を歩いている風希と鳥を見つけて、すぐ手を振る。
「風希ちゃん!鳥ちゃん!」
「あ。お義姉ちゃん。どうしてこんな所に居るの」
「弟がお世話になったお礼を申したくて来たの。けれど…もうEMSを辞められた後だったみたいだわ…」
「ふぅん。辞めてないけどねあいつら」
「え!そうなの?でもさっき会った人達はお辞めになられたって…」
「さっきの人達が…アリス・ブラッディと…ファン・タオ…」
「!?」
女性は驚いて目を見開くと自分の両手で自分の口を覆い、笑顔で涙を浮かべる。
「そう…そうだったのね…。お礼を言わせない為にさっきの人達は私にあんな事を言ったのね…。仲間同士ならお礼を言う必要は無い、と…」
女性は溢れさせた涙を拭い、優しい笑顔に戻る。
「風希ちゃんと鳥ちゃんはこれから何処へ行くのかしら?」
「みんなのお墓参り」
「そう!弟も喜ぶわ。あの子、他人の子供でも大好きなくらい子供好きだったから墓前で自分の子をよく見せてあげてきてね。お願いね」
女性は2人と、赤ん坊の頭を撫でる。
「風希ちゃんも鳥ちゃんも。いつでもうちに来て良いのだから。ね」
「お義姉ちゃんありがとう。でもあたし、風希ちゃんとこの子と一緒に日本で、故郷で暮らす」
「ふふ。じゃあたまにはアメリカに帰ってきて顔を見せてね。鳥ちゃんのお家は日本だけじゃないのよ」
「うん」
女性は優しく微笑みバイバイと手を振り、エレベーターで降りて行った。
「優しいお義姉さん…良かったね…」
「うん。あ。風希ちゃん早く行こう。あいつら待ってるよ」
「待たせても別に平気だけど…ね…」
カラカラと風希の車椅子を押して、赤ん坊をおぶりながら廊下を駆けて行く鳥だった。







































墓地―――――

真夏だというのに日陰になっており、風が冷たい墓地。白い十字架の墓が建ち並ぶアメリカの墓地にて。真新しい白い十字架の墓に花の輪をかけてやり、4人並ぶ。
「ハロルド。ようやくアリスも連れて来たぞ。こいつはお前の葬式に出なかったからな。会えなくて寂しかったろう」
「うっせ。誰がクソ坊っちゃんの葬式なんて出るか。面倒くせぇ」
「意地っ張り…」
「あ?風希てめぇ今何つった」
「喧嘩しないでよ。ほら。天国で幸せにねってみんなで言おう」
鳥が促せば、ファンと風希は素直にコクン、と頷く。だがアリスは「けっ!」とまだ悪態つきつつも、4人静かに目を瞑り、それぞれ思い思いのコトを伝えたようだった。
















「っしゃー。おーわり。おい。次は日本行って墓参りだ。さっさとこんな陰気くせぇ場所出ようぜ」
終われば感傷に浸る事無く、ポケットに手を突っ込んでさっさと墓地を出て行ってしまうアリス。
傍から見れば"何て無慈悲な人なんだ"と思うだろう。だがファン達はアリスの性格をよく分かっているから一切無慈悲だなんて思わず、クスッと笑っていた。
「小鳥遊。見せてやらないのか」
「あ。そうそう」
鳥はおぶっていた赤ん坊を墓に向ける。見せるように。
「ほら。こんなに可愛い男の子だよ。よく似てるでしょ。同じ青い瞳してるよ。世界一幸せな子にするから。天国から可愛がってあげてね」
「お鳥ちゃん…行くよ…」
「うん」


バタン、

アリスの真っ赤な車に4人が乗り込み、アリスは煙草をくわえ…かけたがすぐにやめ、車のエンジンをかける。


ブロロロ、

「っしゃー。次は空港向かって日本だな!あん?」
出発進行!…かと思えば墓地の出口白い花のアーチの下。車の前にたった一羽の烏が居る。辺りに他の烏は居ないのに。
「何だよあのバカラス!邪魔で発進できねぇだろうが!轢かれてぇのか?あ?」
「烏…か。ふっ…」
「あ?何1人で笑ってんだよ堅物ヤロー。気持ち悪りぃな」
「烏…お礼に会いに来た…のかな…」
「あ?風希まで何言ってんだよ」
「だってアリス。烏だよ。分かんないの?あの烏きっとハロの、」


バサバサ!

飛び立っていった烏。ようやく車を発進できたアリスは、3人の話など無視。
「烏が何だっつーんだよ。あー。これでやっと発進できる。清々したぜ」
「……。意地っ張り…」
「あ?風希何か言ったか?」


ブロロロ…

エンジンを鳴らして墓地を出て行くアリス達が乗った車を、墓地出口白い花のアーチの上から1羽の烏がずっと見送っていた。

























































同時刻、
日本東京――――

「ありがとうございました」
コンビニのレジで、ミントカラーの制服を着て客に挨拶する1人の少年。
「おー。雨岬君慣れてるねぇ。とても入って2週間とは思えない仕事っぷりだよ。前、コンビニで働いた事あるかい?」
ふくよかで優しそうな中年男性店長にそう言われ、ぎこちないが笑顔を見せる少年店員は、空だ。
「ええ、まあ。短い期間でしたけど」
「それでこれだけできれば充分だ。はい。お疲れ様。これ新作だから食べてね」
店長は笑顔で"夏期限定!塩キャラメルメロンパン"を一つ空に渡す。空は目を見開いて喜ぶ。
「あ…、ありがとうございます」
「じゃあまた明日ねー」


ピンポン、ピンポーン…

出入口から店を出て行く空。
「でさぁ。今日の花火さぁ」
「あたしチョー楽しみにしてたの!」
「日本はMADの残存勢力が居ないんでしょ?なら今日の花火大会、思いっきり楽しめるね!」
「うん!」
店を出れば、あんなに閑散として地獄絵図と化していた東京が元の賑やかさを取り戻していた。
華やかなネオンの下、賑やかな夜道を浴衣姿の女性や甚平姿の男性、親子が幸せそうに行き交う。
空は、貰ったメロンパンが入ったビニール袋を片手に夜空を見上げる。
「ああ。そっか。今日は…花火大会か…」
だが、人々が花火会場へと向かう方向とは逆の方向を1人、歩いて行くのだった。































アパート――――


ガチャッ、

「鵺。ただいま」
都会の喧騒から少し離れた場所にある、見るからに格安のアパートに帰宅した空。靴を脱ぎ部屋へ入ると、夏なのに毛布をくるんだMAD姿の鵺が背を向けて微かに呼吸している。
「鵺。帰ったよ。ただいま」


ピクッ…、

鵺は片手をピクッと動かして反応する。
あれから2年が経ち。やはり地球人とMADという相反する性質は互いに受け入れない存在なのだろう。鵺は日に日に弱っていき、今では床から起き上がる事も体を少し動かす事も困難になっていた。まるで死を静かに待つ老人。
だが空は、そんな素振りを見せず。東京の街であの日と同じようにコンビニで働いて毎日を食い繋ぐのだ。
「鵺」
頭をコツン、と軽く叩く。
「うん…?」
鵺は唸りながら、ゆっくり体を空に向ける。体を起こしてやり膝の上に乗せて空はポンポン、と頭を撫でる。向かい合わせになり背中をきゅっ、と抱く。
「鵺、ただいま」
「おかえり」





























「ふー…、」
それから1時間後。
シャワーを浴び終えた空は濡れてボサボサの頭を掻きながら「あ」と何かを思い出すと、その何かを、再び布団で横になっている鵺の顔の前に出して見せる。
「良いもん見せてやる。じゃーん。夏期限定!塩キャラメルメロンパン!」
「塩キャラメル…?」
「食いついたな」
具合が余程悪いのだろう。最低限の会話しかできなかった鵺が喋って反応してくれたから嬉しくて空は鵺の前に座り、塩キャラメルメロンパンを開封。千切って口に運んでやれば、ゆっくり食べる。以前の旺盛な食欲はもう見られないが。
「美味い?」
「うんめ」
「良かった」


〜♪〜♪〜♪

「?何ら…?祭り囃子が聞こえるろも…」
遠くから聞こえてくる太鼓や鈴の音に、起こせない体を起こそうとする鵺。空は鵺の体を起こしてやり、窓際へ連れて行ってやる。
「今日。祭りなんだよ」
「祭り?」


ドン!ドン!

「わあ!」
窓から2人が顔を出せば遠くの夜空がオレンジ色に染まっているのが見えた。ただ、花火は見えないが、心臓に響く音だけは聞こえる。
「花火ってでっけくて綺麗なんらろ?」
「お前見た事ないの?」
「ねぇんだろも」
「じゃあさ。明日見に行くか。フードかぶって人混み避けた遠くから見てりゃ、MAD化してる姿だって周りにバレないだろうし」
「明日も花火あるんら?」
「3日間あげるんだって。今日が2日目。明日は今日より長いしたくさん打ち上げるからさ」
鵺は、うん!と頷く。空は動かない鵺の体を抱えてまた布団に寝かせる。
「でも俺…」
「おぶっていくから動けなくても大丈夫だろ」
「うん!」
再びメロンパンを千切って渡すが、鵺は首を横に振る。
「あんな少しじゃ体保てないだろ」
「もうお腹いっぺら」
「……。そっか。じゃあ明日に備えてもう寝るか」
「うん」
空も隣に布団を敷き、横たわる。背中を向けて。
「雨岬」
「何」
「あのな、えっと…」
「今までありがとうな」
「え?そんげ縁起でもねぇ事言うなてば」
「違げーし。今までありがとう&これからもよろしくな。だし」
「あ。なんら。そうなんけ。うん。ありがとな。そんでよろしくな」
「早く寝ろ。体に響くぞ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ、鵺」


ドン!ドン!

遠くからは花火が打ち上がる音。そして人々が上げる歓喜の声が聞こえてくる。空は鵺に背中を向け、布団のシーツに皺ができるくらい強く爪をたて、目を強く瞑っていた。






































翌朝――――――


チュン、チュン…

「ん…」
雀の鳴き声と、開けっ放しの窓から射し込む太陽の陽射し。まだ早朝にも関わらず熱い陽射しに目を覚ます空。伸びをしてから鵺の方を見れば、鵺は背を向けて寝たまま。
「鵺。おはよ。今日花火行こうな」
返事が無い。
「鵺?寝過ぎだろお前」
まだ寝ているのだろうか返事が無い。
「鵺…?」


キシッ…、

空が立ち上がれば、畳みが軋む。空はゆっくりゆっくり…鵺の顔の方へ歩いて行く。
「鵺?」
返事は無いが、目を瞑り眠っている鵺。しかし、空は鵺の体が呼吸の僅かな動きでさえ動いていない事に気付く。
「ぬ…え…?」
布団の上から鵺を揺する。
「おい…鵺…?鵺…おい…おい…鵺…、」


カタン…、

空が揺すれば、そのままうつ伏せに力無く倒れる鵺の体はまだ少し温かく…しかし、生きている人間にしては冷たかった。空の目が見開いていく。
「ぬ…え…?」
脈をとる。だが、ピクリとも動いていない。
「…!!」


サァッ…

風が外から吹き込み、風によって鵺の髪が揺れるから一瞬、鵺が動いたように見えて笑みを見せた空。だったが、それは風によるもので、鵺はもうピクリとも動かない事に気付いた。
「昨日…あんなに元気になったのに…?」
空は見開いた目を…ゆっくり閉じていき、鵺の前に正座をして頭を深々下げる。左手しか無くなった鵺のまだほんの少し温かい手を握りながら。
「…っ、ぐすっ…、ぬ、え…鵺…!」


ぎゅっ…!

力強く握る。
「今まで…とう…、今まで…ありがとう…」
畳に大きな水の染みがたくさんできていた。




















to be continued...













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あきゅろす。
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