終焉のアリア【完結】 ページ:2 スパン!スパン!スパン! カラン…! 「はぁ、はぁ…」 シルヴェルトリフェミアの圧倒的再生能力に逆に空の体力が続かなくなり、を魍魎落とし、地面に手を着いてしまう。 「はぁ…っ、はぁ…」 「アハハハ!シトリーはそらを殺せない。でもぅぬえを盾にしちゃえば、ぬえを殺せないそらはシトリーを殺せないのぅ!」 「黙れ化け物!!」 「雨岬っ!ぐっ…!俺なんて気にすんなて!いいからっ…、いいから!こいつを殺れて!おめさんの仇なんらろ!」 「お前を殺ったからってその化け物が死ぬわけじゃねーだろ!っくそ…!どうやったら死ぬんだよ…!」 「こうやったらじゃね?」 ガブッ! 「うああああああああ!」 「…え?」 聞き覚えある男性の声がして、空が顔を上げると。シルヴェルトリフェミアが白目を向いて絶叫。何が起きたのか分からない空と鵺の前に、肩を食い千切られたシルヴェルトリフェミアがドサッ…と倒れた。 「なっ…、は?」 食われたシルヴェルトリフェミアの肩からは、真っ赤な肉が見えていてグロテスク。 「っはー!やっぱこの肉は美味くねぇなァ。そう思わねぇか?メガネ」 「…!アリス…さん!?」 突然現れ、シルヴェルトリフェミアの肩を食い千切ったのは何とアリス。たった1人で現れ、肩に自慢の黒い剣を置いて2人に歩み寄るアリス。 「なっ…!?何で此処に…」 「バァカ。言っただろ?シルヴェルトリフェミアと殺る時になったら万が一の為に俺らも呼べって。メガネてめぇ俺様に電話かけ忘れやがっただろ」 「あ…」 「あ…、じゃねぇよボケ!」 のんきに煙草を吹かすアリス。 「あ…あ。でも他の人達はどうしたんだよ…あ、じゃなくて、どうしたんすか」 「あん?さっきな。グレンベレンバとアイアンが本部を襲撃して来てよ。それであいつら攻撃喰らっちまって今は本部で治療中よ。で、俺しか来れなかったっつーわけだ」 「そうなんすか…」 「んで?メガネと鳳条院てめぇら、クソMADを殺せなくて困ってるみたいじゃねぇか。クソMADはバラバラにしても死なねぇ。ならどうするか?」 アリスはフォークとナイフで肉を切り食べるジェスチャーをしてニィッと八重歯を見せて笑む。 「食うんだよ」 「は…?」 「は?じゃねぇよ!!だから!逆に俺らがこいつらを食う!そうすりゃこいつらは完全に死ぬんだよ!」 「ちょ、ま…、は?言ってる意味が全っ然分かんないんすけど」 「だぁからガキは嫌いなんだよ。いいか?事実なんだよ。お前もこっち来やがれ。こいつを食って平和を取り戻すぞ」 クチャ、クチャ、 モグ、モグ、 アリスがシルヴェルトリフェミアの肉を食べる嫌な音がする。空は真っ青な顔を歪ませている。 「ンだよ。いいから、もぐもぐ。早くこっち来ててめぇも食いやがれ。もぐもぐ仇なんだろ?」 「っ…、」 ――は?ちょっと待てよ、は?俺がMADを食う?は?ふざけんな。でもそれでMADがマジで死ぬんだったら…―― 空の脳裏で育ての親である父親、妹、ミルフィ、そしてアリアが浮かぶ。空はギュッ、と目を強く瞑り、意を決す。 「っ…!」 ――くっそ!あいつらの為だ。やるしかない。食うのなんてほんの一瞬で終わるだろ?そうだよ。大丈夫だ。やるしかない―― アリスの元へ1歩、踏み出す。 きゅっ、 「…?鵺…?」 そんな空のシャツの裾を後ろから引っ張り、行くのを止めさせた鵺。空はキョトンとして鵺の方を向く。しかし、鵺はMADの姿な為、なにぶん表情が分からない。 「鵺?どうした?」 「……」 「鵺?」 「おーい。もぐもぐ。早くしねぇと俺が全部食っちまうぞー。てめぇらの仇なんだろ?敵討ちしなくて良いのかー?もぐもぐ」 アリスに呼ばれ、アリスの方を向いてからまた鵺に向き直る空。 「鵺?黙ってちゃ分かんないだろ。ほら。あいつがシルヴェルトリフェミアが元凶なんだ。お前の婆ちゃんの敵討ちにお前も。な」 「……」 「鵺…?」 「アリスさんじゃねぇて…」 「は?いや、どう見たってあの人だろ」 鵺は首を横にフルフル振る。 「お母さんのニオイがする…」 「お母さ…、なっ…!?お前の母さんって…!?」 「ピンポーン。さっすが鵺ちん。あたしの息子♪」 「!!」 バッ!! すぐ後ろを振り向く空。わずか50cmたらずのすぐ其処に、アリスの姿声をしているのに違う誰かの口調で喋るアリスが立っていた。 ドンッ!! 「っく…!」 「アハハ!咄嗟でも魍魎で攻撃できちゃうなんて!んふっ。さっすが空ちゃんねん!」 アリスの姿をしているのに。聞き覚えある憎くてたまらない口調に、空は歯をギリッと鳴らし、魍魎を構える。その後ろで鵺も身構える。 「グレンベレンバ…!」 「ピンポーン♪でもぉ、呼び捨てはダメよん。将軍を付けないとぉオシオキされちゃうかもねん!」 「は?何言っ、」 ドスン! 「ぐああ!」 「う"あ"!!」 突然瞬間移動で2人の前に現れた巨大なMAD化したアイアンに手だけで凪ぎ払われ、ビルの端まで吹き飛ばされた空と鵺。 「あらぁん。アイアンったら。危うくビルから落ちてぐちゃぐちゃになるところだったじゃなぁい。殺しちゃダメって言ったでしょ。んふっ」 「おーおー。そうやったなぁ。こりゃ悪かったわ将軍はん」 「っ…、その…声…、鵺を…MAD化促進させた…アイアン…っつー…ジジィかよ…!」 「何やメガネ。お前はんアホそうな今時の高校生の見た目の割りに記憶力良いんやなぁ。いかにも。俺が鳳条院の化け物化を早めた張本人やで?」 ブチッ! 空の中で何かがキレる音がした。 「うあああああああ!」 「雨岬!!ダメら!」 怒り我を失った空は魍魎を振り上げ、2人に飛び掛かる。無謀にも真正面から。そんな彼をグレンベレンバとアイアンは顔を見合わせて鼻で笑う。 「はっ。だからガキなんや」 「んふっ。空ちゃんってこんなに熱くなる子だったかしらん?」 キィン! 「っぐ…!!」 アリスの姿をしたグレンベレンバの剣と空の魍魎がぶつかり合う。 「くっそがああ!!」 「あらあら〜?空ちゃんは今まで通りクールな空ちゃんのままの方があたし、好きよん?」 「あああああああ!!」 キィン!キィン! 2人の剣と刀がぶつかり合う。しかし、我を失って闇雲体当りな空の攻撃など、グレンベレンバからしたら痛くも痒くも無いから余裕の笑み。 「んふっ!その程度?じゃああたし遠慮抜きでいっちゃうわーー、よん!」 「なっ…!?」 グレンベレンバが剣を振り上げ、ビルの屋上の地面に勢い良く振り落とす。 ドォンッ!! 「っあ!?地面が…!?」 その重い一撃で足元が大きく揺れる。 ピシッ…! 「!!」 この一撃により、ビルの屋上が間の亀裂を挟んで二つに分かれてしまう。 西側に鵺とアイアン。東側に空とグレンベレンバ、そして気絶しているシルヴェルトリフェミア。 「鵺!!」 西側の鵺に腕を伸ばす空。しかし、鵺の元へ行くにはこの大きな亀裂を飛び越えて行かなくてはならない。まず、常人には無理だ。 「くっ…!」 「あらぁ〜可哀想!離ればなれになっちゃったわねん。これはもぉ〜、あたしと空ちゃん。アイアンと鵺ちんで戦わなきゃいけなぁいって状況ねん」 「あんたがそうしたんだろ!!」 キィン!! 空は休む暇も無く、グレンベレンバに猛攻。しかし空が両手で魍魎を扱うのに対して、グレンベレンバは剣を片手で扱っている。 「ふん♪ふふん♪」 しかも鼻唄混じりで。 「くっ…!なめんな!!」 「あらん。弱い相手をなめて何が悪いのかしら?悔しかったら強くなりなさぁい。そーれっ!」 ドガッ!! 「う"ぐあ"あ"!!」 アリスの姿をしたグレンベレンバに膝で思いきり顔を蹴り上げられた空。鼻と口から血を出す。赤と緑色が混ざった血を。 「雨岬!!」 「他人の心配してるなんざ、えらい余裕やなぁ鳳条院」 ドォンッ!! 巨大なMAD化したアイアンが両手を振り下ろす。だが、鵺は跳んで回避。アイアンは顎に手をあてて感心する。 「ほう。なかなかやるやんけ」 「図体ばっかりでっけくてノロマなんら!バーカ!バーカ!うっすらバーカ!」 ブチンッ! アイアンの中で何かがキレる音がした。 「ほお…。こりゃあやっぱり将軍はんの血ぃ引いとるわぁ。えらい生意気やからなぁ?せやなぁ…鳳条院…いんや、鵺ェ。お前はんの新しい父ちゃんになる俺がお前はんの事、キツーく躾たるさかい…覚悟せぇよガキが!!」 「!!」 図体が大きいだけで動きは鈍かったはず。しかしアイアンは体をぐりん!と捻らせながら、巨木のような右足で鵺に跳び蹴り。 ドゴォンッ!! しかし其処に鵺は居らず。 「チィッ!何処や!?」 「だすけ、図体ばっかでっけぇすけノロマら言ったろ!!」 「!!」 頭上から声がし、ハッ!として見上げる。 ブスッ!! 「う"ぐああああああ!」 MAD化した鋭利な爪で、大きなアイアンのダイヤのような瞳をかち割った鵺。アイアンは目を押さえてジタバタ暴れる。その都度、ビルがグラグラ揺れる。 「う"ぐあああああ!!」 「アイアン!」 その様子を、東側で見ていたグレンベレンバの顔色が変わる。 「雨岬!」 「?」 「魍魎貸せて!」 「は?お前じゃもう持つ事すらでき、」 「いいから貸せて!俺はMADじゃねぇ!人間ら!!」 「…!!」 そう言った鵺の姿が一瞬、人間の姿をした昔のあの鵺本来の姿に戻った…気がした。 「…、ほら!!」 カラン! 西側に居る鵺に魍魎を投げ渡す空。アイアンの肩に乗ったまま鵺が魍魎をキャッチ。 「鵺…!」 魍魎を持てた事に驚く空とグレンベレンバ。 一方。暴れるアイアンの肩に乗っている鵺は静かに立ち上がる。辺り一帯を真っ赤な光が包み込む。 「う"ぐあああああ!!」 「誰が躾するら?誰が新しいお父さんら?」 「う"ぐあああああ!目が!目が割れるぅうう!!」 「勝手な事言うなて。俺のお父さんは最低な人らったろも、俺のお父さんは…」 鵺の脳裏で鵺の実の父親幸雄との記憶が走馬灯のように次々甦る。ほとんどが殴られたり蹴られたり切られたり、虐待を受けている記憶。 ――良い思い出なんか一つもねぇ。でも…でも…―― キッ!と顔を上げた鵺の姿は本来の人間の姿をしており、両目は血を溢したように真っ赤に光っていた。 「おめさんじゃねぇ!俺のお父さんはたった1人だけら!勝手に名乗るんじゃねぇ!!」 ドスッ!! 「ギィヤアアアアア!!」 魍魎の真っ赤な光に包まれた中アイアンの目玉を魍魎で貫通させ、そこから真っ二つに斬った鵺。 ブシュウウウウ!! 東側の空達にまで、アイアンの赤と緑が混ざった血が飛ぶ。 ドスン…! 真っ二つになったアイアンの体内から、赤と緑色の血を頭から爪先までべっとりかぶった鵺が現れた。 「雨岬!」 カラン! 魍魎が鵺の手から勝手に離れ落ちる前に、空に魍魎を投げ返した。そして鵺の姿もMAD化した姿に戻った。 「鵺…!」 「えへへ!すんげぇろ!俺すんげぇろ!雨岬!」 「ああ…、ああ!お前やべぇよ!マジで超すげぇよ!」 鵺は腰に手をあてて鼻高々。 「えっへん!どうら?恐れいったろ!今度からは鵺師匠って呼んでも良いんらよ!」 「呼ばねぇよ」 「なしてそこだけ真顔で低い声になるんらて!!」 「嗚呼…アイアン…アイ…アン…」 「…ハッ!」 背後からグレンベレンバの掠れて途切れ途切れの声がして、振り向く空。 「あっ!でも真っ二つにしてもMAD化したすけアイアン大佐は生き返るんらよな!?」 「それは…無いわよん…アイアンは…元が…地球人だからねん…」 グレンベレンバの彼女らしかぬ低く力の無い返答に、空と鵺は何か嫌な予感がした。 「フフフ…フフ…あはははははは!あはははは!」 「!?」 顔を上げ、真っ赤な月を真っ赤な瞳で見上げたグレンベレンバは狂ったように高笑い。その時。いつも長い前髪で隠れて見えなかった彼女の左目が露になる。 「!!」 ゾッ…!! 其処にあるはずの左目…しかし彼女の其処には、何かで潰されたような、左目とは言い難いグロテスクな傷痕があった。 空と鵺は顔を真っ青にする。 やつれた様子なのに高笑いを続け、狂喜の笑みを浮かべるグレンベレンバ。両目を露にしたまま横にカタカタ揺れながら空に近付くから、空は顔を真っ青にして後退り。 「っ…!?」 「雨岬!あんま後ろ下がり過ぎんなて!亀裂に落ちたら終わりら!」 「分かってるっつーの!」 「アハッ…あはは…」 「キモいんだよさっきから!ゲラゲラ笑って!」 「あはは…あははははは!アイアン死んだ!アイアンあっさり死んだ!!鵺に殺されて死んだあ!あははははは!」 「っ…!何だよこいつ…マジで頭イカレてる…!」 仰け反る体勢で月を見上げながら両手を広げるグレンベレンバ。 「脆い!弱い!これだから地球人はダメ!あたしに相応しい男なんて早々現れやしない!シルヴェルトリフェミアじゃない!あたしこそ!あたしこそが!プラネットの長であるべき人材!地球をも征服すべき存在!!」 『何や。お前はんMADなんか?えらいべっぴんさんやなぁ。ん?何で左目隠してるんや?ちぃと見せてみ』 「…!!」 グレンベレンバの脳裏でアイアンの言葉が甦るとグレンベレンバはピタリ…と高笑いを止める。 「アイアン…。地球人なんて…ただのあたしの道具…。利用できる道具だった…はず…」 急に光を無くしたグレンベレンバの唯一の右目には、鵺の向こうで血をドクドク流して真っ二つになり息絶えているアイアンが映っていた。 遡る事、 2年前――――― 「やめ、やめ…!ぎぃやあああああ!」 バクッ! 23時50分。 アメリカ某所、路地裏。 若い男の肉を美味しそうに食べるグレンベレンバ。 「んん。んん!超絶品!」 グレンベレンバは自分の右頬に手を添える。 「味は絶品なのに。はぁ〜どうしてこう、地球人の男は顔はステキなのに力はあたしより弱い奴ばかりなのん?あたし、強い男が好きなのに。あたしのような強い存在がひ弱な地球人と付き合うなんて無理かしらぁ。やっぱり地球人は食料としてしか存在意義が無い家畜同然の生き物、」 「な…何やお前はん…!?人食うてんのか…!?MADか!?」 「……」 路地裏で若い男を貪っていたグレンベレンバを、ブラウンのコートを着た中年男性が発見。呆然としている彼はアイアン・ゴルガトス。 しかし、見つかっても至って冷静なグレンベレンバ。自分達が食物連鎖の頂点に君臨している余裕だろう。 ――あらあら。これはまた加齢臭が出始める頃の男ね。ちょっと悪そうなトコロがあたし好みだけど、若さが足りないわん。若くないと肉は美味しくないし―― グレンベレンバは立ち上がり、髪をなびかせる。黒いコートと口の周りに真っ赤な血をべっとり付着させたまま。 一方のアイアンは、目を見開いて硬直。 「good evening!こんな夜分遅くに飲み会の帰りかしらん?ダンディーな貴方。貴方、見てはいけないものを見てしまったようねん。んふっ。安い田舎のバーで出会っていれば今頃あたしは貴方の上で腰を振って踊ってあげていたかもしれないのに。残念だわぁ。でもこれが貴方の運命。美味しくはなさそうだけれど、加齢臭がニオイ始まる前に貴方のその贅肉の無いお肉いただいちゃいま、」 「何や。お前はんMADなんか?えらいべっぴんさんやなぁ。ん?何で左目隠してるんや?ちぃと見せてみ」 「!?」 アイアンのまさかの言葉にグレンベレンバは目をぎょっと見開く。 ――え?はあ?何?この地球人頭大丈夫なの?確かに今まで幸雄ちゃんを含む地球人の男達全員、あたしの美貌に惹かれて付いてきて食べられちゃったけれど…。けれど!それはあたしがMADだって知らずによ!?この男はあたしがMADだと知って尚且つ、あたしが地球人を食べている食事姿を見ても尚、べっぴんと言ってきたのよ?!…やっぱり頭イカレているわぁ…― 「何や?そんな怖い顔して。お前はんも俺を食う気か?」 「いえ…。貴方ちょっと稀に見るおかしい地球人だったから」 「ははは!せやなぁ!おかしいわなぁ!俺はよう言われるわ!なんせ、まだ捕まっとらんって有名な連続殺人犯やからなぁ!」 「!?」 グレンベレンバは更に目をぎょっと見開く。しかしアイアンはケラケラ笑いながら、腕時計に目を向ける。 「まあまあ。こんな夜分遅くに外で物騒な話してたらお互い捕まっちまうわ。どや?其処のホテルで話しでもせぇへん?」 くいっ、と親指で後ろにあるホテルを指差すアイアン。 ――ホテルってモーテルじゃないの!!この地球人あたしをなめているわ絶対!!…でも連続殺人犯ってトコロが使えそうねぇ。あたしのシルヴェルトリフェミア抹殺・地球乗っ取り計画にね!―― 髪をなびかせるグレンベレンバ。 「んふっ。良いわ。あたしも貴方に興味があるし」 「ならお互いOKやな」 ホテルの一室――――― 「ふぅん。で?ストリートチルドレンだった貴方は、自分を捨てた家族や自分をゴミ同然に扱う人間を憎んで。人間が大嫌いになったから、見ず知らずの人間を殺めているのねん?」 グレンベレンバとアイアンは同じベッドに座り、語る。 「せや」 「ふふっ。地球人の犯罪って殺人が多いって聞いたわぁ。あたし達プラネットからしたら可笑しい話よん」 「何でや?」 「だって同じ地球人同士よ?つまり仲間同士なのに殺し合うのでしょう?あと地球人は何千年も戦争をやめられないって聞くわねん」 「でもお前はんは、長とその侍女を裏切っているんやろ?なら、お前はんも同じ惑星の仲間を殺すんやないけ」 「んふっ。それはあたしがプラネット初じゃないかしらん。普通プラネットは同じ惑星の仲間を殺したりはしないのよん。いくらムカつく相手でも、理性が助けてくれるの。その点、地球人は本当ダメねん。弱いし、仲間同士殺し合うし。唯一良いのは美味しい事くらいかしらぁ」 グレンベレンバは枕を抱きながらクスクス笑う。 「なぁ」 「なあに。可笑しな地球人さん」 「お前はん何で左目隠しとるんや?」 アイアンの手が、グレンベレンバの長い前髪を掻き分ける。グレンベレンバはビクッ!として…、 「触らないで!」 パァン! アイアンの手を払うが、遅かった。前髪が浮き、潰れたグロテスクな元左目が露になる。 ポカーンとするアイアンを他所に、グレンベレンバは立ち上がると… ガシッ! 「っ!?」 アイアンをベッドに寝かせたまま彼の上に馬乗りになり、首を絞める。 「っぐ…、がはっ!」 「地球人の分際で。ちょっとあたしが気を許したからって調子に乗ったようねぇ。んふっ。遅かれ早かれ最後はあたしが貴方を食べる運命だった事は変えられない。そう…運命は変えられないのよん。さよなら。なかなかステキだったわ貴方」 ガシッ! 「?」 アイアンは首を絞められた真っ青な顔をしつつも、グレンベレンバの右腕を震える手で掴む。 「お前はん…、となら…上手く…やっていけそう思うたんやけど…なぁ、」 「んふっ。今更でそれにチープな命乞いね。もう遅いわよ」 「お前はんのその…左目に…見せてやりたい思うたんやけど、っ、なぁ…お前はんが征服した…世界、を…」 「……」 パッ。とアイアンの首から手を離し、アイアンの上から降りたグレンベレンバ。腕組みをしてぷいっと背を向ける。その後ろでアイアンは首を押さえて「ゲホ!ゴホッ!」咳き込んでいたが。 「あーあ。興醒めねん。やめよ、やめ。貴方変わり者なんだもの。殺したら勿体無い気がするわ」 「何や…?ゲホ!殺さんのか?」 「ええ。貴方が気にしているあたしのこの潰された左目。あたしはプラネット…貴方達的に言えばMADの惑星で不老不死の研究者だったの。あたし元から心臓が弱くてねん。あたしが強くなりたい為でもあったわぁ。でも、そんな研究熱心なあたしを侮辱して、終いには左目を潰した女が居るの。名前は"ドロテア"。そいつねあたしの幼馴染みなのよ。はん!幼馴染みなんて言葉使いたくないくらい昔から犬猿の中なんだけど」 グレンベレンバはアイアンの方を向く。 「彼女ね、あたしにこう説教したわ。"そんなくだらない研究をしている暇があったならシルヴェルトリフェミア様の為に尽くしなさい"ですって。あんなガキに媚びへつらって従うなんてあたしには無理よん。あたし、自分が一番じゃないと気が済まない性分だから」 「ううん。よう分からんわ。けど、とにかく俺はお前はんが治めるっちゅー世界、いや、地球が気になるわ。こんな腐った連中ばっかりの地球なんざ、早よ潰れてほしかったさかい」 「あらん。それは、あたしの忠実なシモベになると捉えて良いのかしらん」 赤紫の口紅を艶めかせて笑むグレンベレンバ。 「せやなぁ。お前はん強いんやろ?それにべっぴんさんときたしなぁ。強者の下につくのが世の常っちゅーもんやからな。あ。俺はアイアン・ゴルガトスや。べっぴんさん。お前はんの名前はなんちゅうんや」 グレンベレンバはニィッと笑み、長い髪をなびかせた。 「グレンベレンバよ」 そして1年後――――― EMS軍本部、最上階。 此処はグレンベレンバしか入れない階。真っ暗な自室の窓から身を乗り出してアイアンが見下ろしているのは、中庭訓練場にて訓練中のEMS軍7期生。 「イチ!ニ!イチ!ニ!」 軍隊軍隊した掛け声が煩い中、アイアンは7期生の中の1人だけを注視している。黒い短髪で、軍人か?と疑う程小柄な少年。 「はーん。あのガキかいな。将軍はんの息子っちゅーのは」 「そうよん。かーわいいでしょう。んふっ。あたしに全然似てるトコロ一つも無いのがちょっと寂しいけれど」 真っ暗な室内で何かを選別するように、ビチャビチャ嫌な音をたてているグレンベレンバは言う。 「でもあのガキがEMSに入軍してこなかったらどないするつもりやったんや?あのガキがMAD化したらシルヴェルトリフェミアとドロテアを潰す為の道具にするのが目的なんやろ?」 「鵺ちんはEMSに来る運命なの。来ないなんて有り得ないわん」 「はぁ…。俺はお前はんが時々よう分からんわ」 窓を閉め、中庭からはまだ訓練の掛け声が煩い中。室内で床に座っているグレンベレンバの後ろに立つ。 グレンベレンバが選別しているモノ。それは、真っ暗な室内で、赤と緑の血をべっとり付けてヒトともMADとも呼びがたい…いや、生き物とすら呼びがたい肉片達。 目玉が一つしか無く一頭身の肉片や、片足だけの肉片、腹部らしき箇所だけの肉片など20数体がビチャビチャ血をかぶりながら床をモゾモゾ這っている。 「今回もダメねん。あたしとアイアン貴方の子供はまた奇形。これで20人目。地球人でもMADでも良いからどちらかの姿に産まれてこないものかしらねん」 「地球人とMADの子供って案外簡単にできへんのやな。でも、将軍はんと地球人のガキとの間にできたあの鵺っちゅーガキは一発で普通の容姿で産まれたんやろ。んで、俺とのガキは毎回奇形。何か妬けるわ」 「んふっ。アイアン大佐貴方だから、って事ではないのよん。幸雄ちゃんとの子鵺ちんがたまたま本当奇跡に近い確率で普通に産まれてきたの。だから99.9%は奇形よん。妬く必要無いわん」 バクッ! 奇形の子供達を丸呑みしたグレンベレンバは自分の腹をさすりながら、口の周りに付着した血を舌でペロリ舐めとる。 「さあ。任務に行くわよ」 「なあ」 「んふっ。まだ何かあるのん?」 「将軍はんと出会えて良かったわ」 「嫌ね。そんな死ぬみたいな言い方。さ。行くわよん。いずれ、鵺ちんに紹介しなきゃね。アイアン大佐はアナタの新しいお父さんよ、って」 「せやな」 ――地球人なんてあたし達よりうんと格下。顔が良くたって弱い男に興味なんて無かった。…でも。憎いドロテアに潰されたあたしの左目を見てもあたしの容姿を褒めてくれるこの人にだけは(と言ってもこの容姿は食べた地球人のものだけどねん)ちょっと興味あるかもね―― そして場面は戻り、 現在―――――― 「そうよ…地球人なんて…EMS軍に集まった奴らなんて…アイアンなんて…あたしの世界を造る為の道具でしかなかった…。なのに…」 「…!お母…さん…?」 顔を上げたグレンベレンバの両目から大粒の涙が溢れていた。その涙を自分の両手で受け止めるが、涙の意味が分からない様子。 「なのに何で…?どうして涙が溢れるのよ…。アイアンなんて…ただの道具でしかなかったのに…なのに…何で…、」 ガクン! 前のめりになり膝を着いたグレンベレンバから、禍々しい闇に似た赤紫色の光が放たれる。空は唇を噛み締め1歩後退り。 「っ…!?おい鵺!お前の母親なんだよコレ!」 「俺が知りてぇくらいらてば!」 「アアアアアア!!」 「な、何だよ!?」 後ろに仰け反る体勢で月を見上げ白目を剥き、奇声を上げるグレンベレンバ。 ゴキッ…、ゴキッ…、 「なっ…!?」 奇声を発したままのグレンベレンバの右腕が黒い翼に変形してゆき、手の平からは炎と蝶が現れ、首から下には血管のようにボコボコ動く赤い模様が浮き上がり、それに何よりグレンベレンバの姿が、空と鵺に見覚えある人間の姿に変形していく。 「あ、雨岬…あれって…!」 「っ…!」 右側半分顔から腕までがハロルド。腕から爪先までが月見。腹部が鳥。 左側頭と口がアリス。目と輪郭が風希。首から肩までが花月。腕から腰までがファン。左側腰から爪先までがミルフィ。 髪の色や髪型は8人の色と容姿が合わさった、何とも言葉に表し辛いモノに変形している。目の色は8人の目の色に変わりながら光っている。 「MADは食べた地球人の姿に変形できるし技も使えるんらよ…!って事は…!」 「はっ…。マジかよ。ミルフィと月見さんも入ってるのは何でか分かんねーけど。取り敢えずもう、いつもの面子の中で俺と鵺しか残っていないって事か。ありえねーし…」 「マジもんの化け物だろこいつ…。はっ。今時ゲームでもこんな、味方の姿が合体したダセェラスボス出てこねーし」 「化け物…?あははははは!それはアナタ達2人も同じよねぇえ?!MAD化しているんだものぉ!そんな体じゃもうどうせ地球人の輪の中には戻れないのだからあたしを殺すなんて考えはやめて、あたしの所へ来なさい!こっちへ来るならアタシの造った世界でシモベとして生かしてあげるわあ!」 キィン! 空は魍魎を抜刀し、白い歯を覗かせて笑む。しかし冷や汗が伝っているが。 「はっ。まっぴらごめんだな」 8人が合わさった姿で笑うグレンベレンバのその姿は、吐き気を催す程の異様な姿。 「んふっ。どうせもうどう足掻いても地球人として生きてはゆけないMADのクセに。生意気ねん」 「あんたらが…」 「ん〜?」 「あんたらがあの日、地球に来なきゃこんな事にならなかったんだろうが!!俺らの時間を返せ、化け物!!」 タンッ! 跳び上がり、グレンベレンバに斬りかかる空。 ピクッ…、 肩から左半分グレンベレンバに先程捕食されて気絶しているシルヴェルトリフェミアの右手がピクッ、と動いた。 「時間…返す…、そ、ら…時間…返…す…」 to be continued... 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