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終焉のアリア【完結】
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ピチャ…ピチャ…

「此処は…どこら?」
足首までの深さがある海。辺りは真っ暗闇。鵺は、足首まで浸かった水中をピチャピチャいわせながら辺りを見回して歩く。
「雨岬?雨さ、…?」
空の名前を呼んでいると。前方に黄色の長い髪をした1人の女性が、水中に腰まで浸かり背中を向けて座っている姿を見つけた。鵺は目を細めて見る。
「何ら…?あの人見た事ある気ぃするて」


ピチャ…ピチャ…

水音をたてながら近付く。
「ひっく…ひっく…」
真後ろに来て分かった。金髪のこの女性は肩を震わせ両手で顔を覆い、泣いているのだと。
「この人…」


くるっ、

女性が誰なのか口に出そうとした時。女性は鵺の方を振り向く。座ったまま。
「ひっく…ひっく…」
「…!!」
大きい目から涙をボロボロ溢している美しい顔をした女性。
「月…見…さん…け?」
「ひっく…ひっく…」
金髪の女性月見は返事はせず、ただただ鵺の方を見て悲しそうに泣いている。
「な…何ら?なしてこんげ所に居るんら?それに此処はどこなんら?俺な、雨岬がシルヴェルトリフェミアと話してくるすけ、1人で待ってろ言われたんだろも。気付いたらこんげ分からねぇ所を歩いていたんら。月見さんは此処が何処か分かるけ?」
「ひっく…、ンさん…ひっく…」
「え?何ら?何言ってるか聞こえねぇて!」
「ひっく…ファンさんが…ひっく…みんなが死んじゃう…ひっく」
「え…?」
ただただ悲しそうに泣きながら鵺を見てそう言う月見に、鵺はポカーン。

























「少尉達け?でぇじょぶら!少尉達は強いすけMADなんかに負けねぇて!」
「ファンさん…ファンさんの…ひっく…所へ帰してください…」
「え?月見さんおめさんも此処が何処でどうして此処に居るのか分かんねんけ?困ったてー。俺もさっぱ分かんねすけ。うーん?周りは真っ暗で俺達以外誰も居ねぇみてぇらし」
「ファンさんの所へ…妹達と弟の所へ帰して下さい…」
「分かったてば!だすけ今それを考えて、…!!」
振り返った瞬間。鵺は固まった。月見の姿が、真っ赤な血があちこちに付着した骸骨になっていたから。
「なっ…!?」
「帰…シテ…」


ガシャッ!

骨の手で鵺の左手を掴んだ。
「うわあああああ!!」


バシャッ!

鵺は月見の手を振り払うと顔面蒼白にし、水飛沫を上げて逃げ出す。


バシャッ!バシャッ!

「うわああああああ!!」
「帰シテ…帰シテ…皆サンノ所ヘ…。返シテ…返シテ…私ノ体…」
追い掛けてくる月見。
――そうら!俺ら。MAD化して自分を止めれなくなった俺が月見さんを殺したんら!俺が、――


ガシャッ!!

「!?」
足を何者かに掴まれ、立ち止まり下を見ると。其処には水中から顔と手だけを出したシルヴェルトリフェミアとドロテア、MADアリス、マジョルカが鵺の両足を掴んでいた。
「ひぃっ…!」
「ヌエハ邪魔ナ子。MADニモ地球人ニモ入レテモラエナイ、コノ世界二必要ナイ子」
「うわああああああ!!」


バシャッ!!

彼らを蹴りつける事で彼らの手から逃れた鵺は再び走り出す。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
その時。前方で、背中を向けて立ち尽くす空を見つけた鵺の表情に光が射す。
「雨岬!!」
振り向いた空は彼らしかぬ優しい笑顔を浮かべたから、鵺はピタッと止まる。
「な…何ら…?おめさん…雨岬じゃねぇろ…?」
「んふっ。いかにも〜♪アタシよ鵺ちん♪」


ズズズズ…!

音をたてて空の姿がグレンベレンバに変わる。
「あ…あ…お母…さん…?」
「お母さんなんて呼ばないでくれるかしらぁ?鵺ちんはMADにも地球人にも入れてもらえない世界でたった1人の要らない子!アハ、アハ、アハハハハハ!」
「っ…!!」
グレンベレンバの笑い声が脳に響く。鵺は自分の耳を塞ぐ。
「嫌ら…、嫌…、嫌らああああああああああ!!」



























「…ハッ!!」
目が覚めた鵺。
「ゆ…め…?」
今まで見ていたモノは全て夢だった。
鵺は寂れた公園の草村に隠れるようにして、いつの間にか眠ってしまっていた様子。悪夢の後で嫌な汗をびっしょりかいたまま上半身を起こし、辺りをゆっくり見回す。
人っこ1人居らず。MADが侵略したせいで荒廃した公園が広がっているだけだ。
「夢…か…。でもやけにリアルらったて…特に月見さんの言う事は…」
ふと、顔を上げる。遠くの空が夜なのに赤いし、黒い煙があちこちから上がっているのが見える。まるで戦争中のように。
「雨岬…まだ来ねぇな。でぇじょぶなんらろっか…。"アリスさんからの話によると、シルヴェルトリフェミアの侍女や他の上位MADは全員死んでいる。そしてシルヴェルトリフェミアは俺を信頼している。だから地球人の中で唯一俺だけがシルヴェルトリフェミアに近付けるんだ。その隙を突いて俺がシルヴェルトリフェミアを殺す"…ってかっこつけて言ってたろも…。作戦がバレて今頃殺されてんじゃねぇろな…雨岬、なまら馬鹿らすけ…」
鵺の脳裏で、空と鵺そしてアリスがハロルド達地球人側から逃げ出した日の事が思い出される。
1人逃げ出したアリスは荒廃したアパートに居た所を空と鵺に見つけられた。その時空は、自分は何故かシルヴェルトリフェミアに気に入られている事をアリスに話す。しかし、それを周りのMADは快く思っていない。特に侍女のドロテアは。
シルヴェルトリフェミアを殺すにはまず、周りのMADを始末してからだ。その為彼らをアリス達EMS軍側が始末し、シルヴェルトリフェミアだけとなったところを空が行く。という話になった。(因みに"親玉は俺が殺るんだからその代わりに鵺は見逃せ"と交換条件を持ち出した空。案の定アリスと戦闘になり欠けたものの、今はとにかくMAD達を何とかしたいアリスが折れた)
だから、戦闘中アリスは空に携帯電話の通話だけを繋げていたのだ。アリス達の音が空に伝わるように。ドロテアが死んだ事が音で空に伝わるように。その通話は謂わば、シルヴェルトリフェミアを殺しに行け!の合図でもあった。
また、シルヴェルトリフェミアは自分の友人空は鵺という友人ができて、鵺が空にシルヴェルトリフェミアから離れるよう吹き込んだから自分に冷たくなったと思い込んでいる為(本当は空がシルヴェルトリフェミアと出逢ったばかりの頃はシルヴェルトリフェミアが地球を侵略してきた化け物と知らなかっただけ)鵺もシルヴェルトリフェミアの元へ同行するのは危険だと踏んだ。だから、鵺は所謂お留守番中。
しかし、鵺が言われた通り待っていられるような性分では無い。
「やっぱ雨岬1人じゃ心配ら。あいつうっすら馬鹿らすけ、シルヴェルトリフェミアに作戦バレて殺されそうら」
すくっ、と立ち上がると左手しかない片手で、むん!と力瘤を作ってみせる。
「よーし!ここは戦闘経験大先輩の俺が、すっとこどっこい雨岬を助けに行く時らなっ!」
自信満々に公園を飛び出して行く鵺だった。










































その頃、空は―――――

「そう!そうっ!そらねっシトリーにくまさん買ってくれたんだよぅ!」
「ああ。覚えてる覚えてる」
「そらやっぱり覚えててくれた!わーい!わーい!」
ハロルドVSドロテアの戦闘があったビルの屋上でシルヴェルトリフェミアと談笑していた。
しかし、談笑している2人の微笑ましい雰囲気には全く似合わない辺りの光景。このビル以外全てのビルが倒壊し、地上にはMADや地球人の死体がゴロゴロ転がり、空と月は赤黒い血を溢したように赤黒く染まっている。
そんなの気にもとめず、空が戻ってきてくれた事にはしゃぐシルヴェルトリフェミア。
「お互いの名前も聞いてないにも関わらずお前が俺にいきなり、くまのぬいぐるみ買わせたんだよな」
「違うよぅ〜!シトリーがくまさんをそらに見せにお店のお外に出たら、お店の人にシトリー怒られちゃったのぅ!シトリーあの時まだ地球に来たばっかりだったし、地球に来た代償で記憶も無くしていたから、お店のくまさんをお外に出しちゃいけない事まだ分からなかったのぅ!」
「はいはい。そういう事にしといてやるよ」
「ぶ〜っ!そらの意地悪ぅ!」
「ははは」
まるで友達のように。楽しそうに笑みながら話す2人。
「えへへ!シトリーね、嬉しいのぅ。そらがシトリーのところへ戻ってきてくれてっ」
シルヴェルトリフェミアは無垢な笑みを浮かべて、空を見る。
「そらがシトリーと今まで離れてて辛くしてきたのは、ぬえがシトリーに悪さしないように、ぬえと一緒にいてぬえを見張っていたからなんだよねっ?」
「ああ。そうだよ」
空も、彼らしかぬニコッとした笑みを浮かべる。それだけでシルヴェルトリフェミアはパァアッ!と明るい笑顔になり、仰向けで寝転がる。























「えへへ!えへへへ!嬉しいなったら嬉しいな♪そらやっぱりシトリーの親友だねっ!そらは頭がイイね。ぬえと仲良くしてるように見せてぬえを見張っていたなんてっ!」
空はただ、笑むだけ。
「えへへ。シトリーのぱぱとままにも見せたかったなぁ〜。シトリー、そらっていう親友ができたんだよって」
「ああ。そういやお前、両親どうしたんだよ。メイド姿の侍女しか見た事無いけど」
「殺されちゃったんだよぅ」
「…へぇ。地球人にか」
しかし、シルヴェルトリフェミアは突然悲しそうに笑みながら月を見上げるから空は首を傾げる。
「……」
「…?シトリー?」
「……。そらの本当のぱぱとままだよぅ…」
「は?」


しん…

沈黙が起きる。
空はただただポカーンとしているが、シルヴェルトリフェミアは寂しそうに笑む。
「あっ!そら怒ったっ?違うのぅ!シトリーね、そらを怒らせる為に言ったんじゃないよぅ!」
「怒ってなんかいねーし。つーか何それ?その話俺、知らなかった」
「えっ?」
空は真剣な眼差しでシルヴェルトリフェミアを見る。
「そら?」
「俺さ。東京に来るまでずっと…いや…今も知らないままなんだよ。俺が何処のどいつで、俺の本当の両親が何で殺されたのかさ。あと。俺とシトリーお前の目。反対だけど同じ赤と黄のオッドアイだろ。それも関係してんの?」
シルヴェルトリフェミアはゆっくり上半身を起こし、ビルの屋上にぺたん。と座ると話し出す。






























「シトリーもねっ。ドロテアに聞いたからシトリーが覚えている事じゃないからせいかくには分からないのぅ」
「それでもいい。何でもいいよ」
「うんっ。…シトリー達はプラネットってゆー惑星のヒトなのぅ。プラネットに住むヒトは本当はプラネットっていう名前だよぅ。MADっていうのは地球人が勝手に付けた名前なのぅ」
「ああ。MADの意味って確か狂気じみた、とかだっけ。地球人からしたらシトリー達は侵略者だからそう例えたのかもな」
シルヴェルトリフェミアはパチパチ拍手する。
「すごぉーい!そらやっぱり頭イイねっ!」
「はいはい。で?続きは」
「うんっ。シトリーのぱぱとままはそのプラネットの長だったんだってっ。王様みたいなものですよってドロテアが教えてくれたよぅ」
「ふぅん。だからシトリーがその後を継いだから、みんなお前に従うんだな」
「そうそぅ!でねっ。プラネットがどおして地球に行ったのぅ?ってゆーのは、地球人はプラネットが地球を侵略に来たって言ってるけど、本当は全然違うのぅ。プラネットってゆー惑星のじみょう?うん?じみょー?」
「寿命な」
ポン!と手を叩くシルヴェルトリフェミア。
「そうそぅ!寿命寿命っ!惑星の寿命が少なくなっていたのぅ。燃料も枯渇してプラネットってゆー惑星だけじゃなくて、プラネットってゆーヒト達まで死んじゃうよぅ!って大ピンチになったから、シトリーのぱぱとままはシトリーの"刻を調節"する能力で、何億光年離れた地球に助けを求めに来たのぅ。それでも一番地球が近かったからなんだってっ」
「ふぅん。じゃあ地球に来たのは初めから地球が目的じゃなくて、プラネットから一番近かったのが地球だからってだけだったんだな」
「さっすがー!そらぁ!」
空の頭をいいこいいこ撫でるシルヴェルトリフェミアを、「いいから!」と照れくさそうに払う空。
「でねっ。えっとぉ…。今から17年前にシトリーのぱぱとままとシトリー、あとドロテアの4人が地球にとーちゃくしてたまたま辿り着いた地球の中の国に助けを求めに行ったんだって。でも、そら知ってるよねっ?シトリー達、地球人と違って緑色の姿でしょぅ?」
「ああ」
「だから、その姿を見たけで地球人はシトリー達の話も聞かずに"化け物!"って言ってぱぱとままを撃ち殺しちゃったんだよぅ。地球人が未だに同じ地球人同士で戦争をしているのもっ話し合いじゃなくて武力で解決させようとするからなんだ、ってドロテアが言ってたよぅ」
「……。ちょっと待て。そのたまたま辿り着いた国のたまたま出会した地球人ってのが俺の本当の両親っつーの?」
「うん」
「……。国の名前は?」
「バロック帝国。だからね、そらはバロック帝国の皇子様なんだよぅ。その時はそらは確かぁ〜えっとぅ〜0歳かなぁ?」
「はっ」
「そら?」
空は頭を掻きながら、鼻で笑う。
「信じらんねー」
「本当だよぅう!だからねっ。本当はシトリー達悪くないのぅ。シトリー達が自分達と違う姿だからって、話も聞かずに敵と判断してぱぱとままを殺した地球人が悪いんだよぅ。だからドロテアは、プラネットは、地球人に復讐する為にプラネット全員でようやく結託した14年後にふたたび地球に来たのぅ。そして地球人を食料とする事で、プラネットが食物連鎖の頂点に君臨するイコールプラネットは地球人を支配できるぅを体現したのぅ!ってドロテアが言ってたんだけどむずかしー言葉ばっかり使うから、シトリーよく分かんないけどねっ。えへへっ」
「へぇ。じゃあ俺も俺の両親もいや、地球も。たまたまっつーだけでプラネットの標的にされたわけか」
「…そら?」
先程までの優しい笑顔の空とは様子が違う事に気付いたシルヴェルトリフェミアは、空の顔を覗き込むようにして首を傾げる。
「そ、」
空は立ち上がる。すると何と、辺りに血のように真っ赤な光が広がった。
「そら、…!?」
シルヴェルトリフェミアの瞳には、魍魎をシルヴェルトリフェミアに向けて構える空の姿が映し出される。
「えっ?え?えっ??そら?そらっ?どうしたのぅ?そらっ?そらっ??怖いよぅ。そらのお顔、前みたいな怖いお顔してるよぅ!」
「たまたまお前らの目にとまったっつーだけで何億っつー地球人が食い殺されたのかよ!!この、化け物が!!」
「!!」


ドンッ!!

空は魍魎でシルヴェルトリフェミアに斬りかかる。大きな爆発音共に、赤い光と黒い煙が上がる。






























空の攻撃を喰らい、腹部から真っ二つに斬られたシルヴェルトリフェミア。しかしその体はドロリ…スライムのような液体になりながらくっつく。
「痛たた。痛いよぅそらぁ!親友にどうしてこんなことするのぅ!」
「親友?はっ!そんなの思った事ねぇよ!!」
「…え?」
「今だってそうだろ!何でお前らは斬られても体がくっつくんだよ?!おかしくね?!それだよ!そういう化け物な姿見りゃ、誰だってお前らが助けを乞うフリして地球を侵略してきた化け物だって思うに決まってるだろ!!」
「うっ…うぅっ…!」


ポロッ…ポロッ…

シルヴェルトリフェミアは口をぎゅっ、とつむんで堪えようとしてはいるものの堪えきれない大粒の涙がポロポロ溢れ、床にポタポタと雨の雫のような染みをつくっていく。
「そ、らぁ…っ!」
「ふざけんじゃねぇぞ。何が地球人が悪いだよ。そんな化け物みたいな姿をしてるお前らが悪いんだろ!!」
「じゃあっ!!逆に!そら達地球人がっプラネットに助けを求めに行ったら、プラネットから見たら地球人は化け物な姿をしてるんだよぅ!!」
「うるせぇんだよ化け物の分際で!!俺の両親も、育ての父さんも妹も、俺の彼女も全員お前ら化け物に殺されたんだよ!!」
「だからっ!それはそらのぱぱとままや、地球人がシトリー達の話も聞かなかったのが悪いんだよぅう!」
「うるせぇうるせぇうるせぇ!!お前らが来なきゃこんな事にならなかったんだよ!!」


ドンッ!!

空が攻撃。しかしシルヴェルトリフェミアはひょいと回避。だが空は間髪空けず、刀でシルヴェルトリフェミアに何度も何度も襲い掛かる。鬼の形相で。反対にシルヴェルトリフェミアは攻撃はせず、回避ばかりで涙を流しながらとても悲しそうだ。
「そらっ…!」
「うるせぇえ!!口も利きたくねぇんだよ!!お前らのせいなんだ!お前らのせいなんだよ!!」
「そ、」


スパン!

「あ"う"!!」
シルヴェルトリフェミアの右腕を斬り払う。しかしすぐに体にくっつこうとするシルヴェルトリフェミアの右腕を、空は…


スパン!スパン!!

「!!」
粉々になるまで斬り続ける。シルヴェルトリフェミアの目からは更に大粒の涙が。
「あぁ…!あぁ…あぁあ…そらぁ…!そらぁ…!ひどいよぅそらぁ…!」


スパン!

原型を留めなくなるまで斬りつけて最後、シルヴェルトリフェミアの方を向く。緑色の返り血に染まった顔で。
「それだよそれ」
「えっ…?」
「化け物のクセに気安く呼ぶんじゃねーよ」
「っ…!うぅっ…!そ、らぁ…!」


























《へーえ。俺から見たら雨岬お前の方がよっぽど化け物らしいけどな》
「は?この声確か…。ああ。俺の前世とかぬかしてる鳳条院空か」
久し振りに脳内で空の前世・鳳条院空の声が聞こえる。
《ぬかしてるだ?はぁ。本当お前は相変わらず躾のなってねぇガキだな。まあそんな事今はどうだっていい。お前、シルヴェルトリフェミアっつー化け物に地球が侵略される日に出会っててラッキーだったな》
「は?最っ悪だよ」
《だからお前はガキなんだよ。あの日出会ってなかったら、あの日お前がシルヴェルトリフェミアに優しくしていなかったら。お前は今頃この化け物にミンチにされて夕飯にされてただろ?》
「は?どういう…」
《シルヴェルトリフェミアはお前を親友だと思っているからお前に攻撃できねぇ。お前は我を失って攻撃していたから気付かなかったかもしれないけどな、あいつお前に1回も攻撃してきてないぜ?》
「…!」
空は自分の体が返り血しか付いていない事にようやく気付く。
「マジだ…」
《気付くの遅せぇ!》
「うるせー!!」
「そらぁ…ひっく、誰とお喋りしてるのぅ?シトリーだけじゃなきゃ嫌だよぅ」
シルヴェルトリフェミアは泣きながら空に近付いてくる。
《ほぉら。あれだけ攻撃されてもお前に攻撃の一つもしてこねぇ。…鵺は別の場所に居るんだろ》
「ああ。よく分かんねーけどあいつの事毛嫌いするからなこの化け物は」
《ならあいつを巻き込む事もねぇな。…雨岬。今しかねぇぞ。俺の名刀で、俺と鵺の故郷地球をこんなにした化け物を殺っちまえ!!》


キィン…!

空は魍魎をシルヴェルトリフェミアに、構える。
「あんたに言われなくても始めからそのつもりだよ」
「そ、」


スパァン!!

「そ、らぁ…」


バラ、バラバラッ!

空はシルヴェルトリフェミアを脳天から真っ二つに斬った。パズルのピースのようにバラバラになったシルヴェルトリフェミアの体が辺りに散らばる。




























《っしゃあ!つーかラスボスだってのにチョロかったな?やり甲斐無かっただろ?》
「分かんねー。こいつ、前もこうしたけどまた生き返りやがったんだよ」
《はあ?!何だよそれ!》
「だから、どうやったら完全に殺せるか分かんない。でもここまでバラバラにすれば元の体に戻るまで時間はかかるはず、」
「雨岬ー!!」
「んなあ!?何で来てんだよド田舎者!?」
はぁはぁ息を切らしながら走ってビルの屋上へやって来た鵺に、空は目を見開く。
《おぉ。鵺、化け物の姿になっちまったけど元気そうだな。んじゃ。ラスボスもぶっ倒した事だし。あとは鵺をお前に任せるぜ雨岬》
「は?あ?!おい!ちょ、まっ…!」
鳳条院空はまた消えてしまった様子。空は腰に手をあてて溜め息。
「はぁ」
「雨岬!って!!このバラバラになってる奴もしかしてシルヴェルトリフェミアけ?!」


ゴツン!!

「痛でぇ!!雨岬おめさんなしてゲンコツするんら!!」
「お前が大馬鹿なド田舎者だからに決まってんだろ」
「ド田舎者は余計だねっか!痛てて!これ以上背が縮んだらどうしてくれるんら!」
「縮め縮め」
「キーッ!!」
ドスドス足を踏み鳴らしてお怒りの鵺に溜め息吐きながらも、安堵の笑みを浮かべる空。
「はぁ。まあ良かったよ」
「何ら?」
「お前が此処に来るのがコイツがバラバラにされた後で。コイツ、よく分かんねーけどお前の事毛嫌いしてただろ。だからお前が殺されるかもっつーコト」
「俺はこんげ化け物に殺されるような奴じゃねぇて!」
「はは。どうだか〜?」
「キーッ!!」
怒っている鵺は放っておいて。空は腰に手を充てたまま、バラバラになったままビクともしないシルヴェルトリフェミアを見下ろす。



























「これ。どう思う、鵺」
「何ら!!」
「だーから。こいつら、バラバラにされてもまた生き返るだろ。どうやったら完全に殺せるのか、って」
「うーん…」
「分かんねーの?使えねー」
「何らって!?」
「ぷっ。嘘うそ。冗談だよ」
空はバラバラなシルヴェルトリフェミアを前に、屈んで顎に手をあてながら考える。その隣に鵺も屈む。
「近くで見ると気持ち悪りぃて。バラバラになってる体見るの」
「まあな。でもいい気味じゃね?」
「雨岬おっかねぇ事言うようになったて…」
「こいつらのせいで荒んだんだよ。つーかどうやるんだよー!?あー!くっそ!早くしねーとまた復活するし!」
空は頭を掻きながら、「あ"ー!」と、まるでテスト勉強が捗らない学生のように自棄。そんな親友を隣で笑う鵺。
「あはは。でもすぐ復活しねぇみたいだすけ、ゆっくり考えよーて。んじゃ、戦の後の腹ごしらえでメロンパン食いに行ごて!」
「お前は何も戦ってないだろ」
「えへへ。バレたけ?」
「ソラニ…近ヅクナッテ言ッタヨネ…?」
「え…?っ!!」


ズズズズ!!

「!?」
バラバラになっていたシルヴェルトリフェミアの体が一瞬にして浮き上がり、鵺の体に絡み付いた。シルヴェルトリフェミアの体のパーツ達が鵺の首を絞め体に絡み付き、身動きも息もできなくなる。




























「鵺!!」
「アハ、アハ、アハハハハハ!」
絡み付いていたパーツ達は、次第にシルヴェルトリフェミアの体に戻っていく。シルヴェルトリフェミアは笑いながら背後から鵺の首を絞めていた。


キィン!

「てめぇええ!!」
魍魎を抜刀した空はタンッ!と跳び上がると、鵺の後ろに居るシルヴェルトリフェミア目掛け、刀を振り上げる。


ブスッ!!

刀魍魎はシルヴェルトリフェミアの脳天に突き刺さり、ブシュウウウウ!!と緑色の血を噴く。


バタン!

呆気なく白目を向いて倒れるシルヴェルトリフェミア。
「うっ…!」
「鵺!!」
よろめく鵺に駆け寄る空だが…
「アハッ!無駄だよぅそらぁ!」
「!!」
「ぐあ"あ"!!」
瞬時に元の体に戻ったシルヴェルトリフェミアは再び鵺の首を絞めて鵺を人質にとるから、空はばつが悪く、怒りは沸点に達する。
「てめぇえ!!」


スパァン!

シルヴェルトリフェミアを斬る。しかし、すぐ復活するシルヴェルトリフェミア。
「アハッ!そらぁ!無駄だよぅ!」
「くっそ!!」


スパン!!

しかし、また復活。
「アハッ!」
「くそ!!」


スパン!

復活。
「アハハハ!」
「くそ!くそ!くそっ!!」




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