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終焉のアリア【完結】
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「久し振りやなぁお前ら。随分と人数が減ったようやけど。ま、これからももっと減るわなぁ。お前らは将軍はんがこの地球(ほし)を治める為に、シルヴェルトリフェミアに勝つ為に、今俺に殺されるんやからなァ!」
赤い剣を振り落とした。


ドンッ!!

海の上の鉄橋を走っていた電車のアリス達が乗車している車両が爆発し、鉄橋からまっ逆さまに落下した。爆発の灰色をした煙が立ち込めている為、アリス達が落下した様子はアイアンからは見えず。
「後で死体引き上げて将軍はんに献上せなあかんな」
「誰が死体だ」
「!!」


ゴオォッ!

「熱っちぃ!?」
煙の中から真っ赤な炎がアイアンに襲い掛かった。
「この炎…!ファンやな!?チィッ!あいつら生きていやがるんか!?ならここは一旦瞬間移動で離れんと、」
「瞬間移動瞬間移動姑息なんだよクソ野郎!!」


ドスッ!

「ぐあ!」
真っ黒い剣がアイアンの左腕を貫通して鉄橋のコンクリートに突き刺さった。まるで画鋲に突き刺された紙の気持ちのアイアンはじたばた身を捩らせるが、身動きとれず。そんな彼の前に、晴れた煙の中から姿を現したアリスとファン。
「チッ!」
アイアンはばつが悪そうに舌打ち。
























「突き刺されたら瞬間移動したくてもできねぇと思ってなァ。我ながら名案だぜ」
「自分から攻撃を仕掛けてきておいてこのザマか。無様だな」
「はっ!クソババァMADに付くような男なんざ息してるだけで無様なんだよ」
「黙れェエ!!お前はんらは将軍はんがMADやと気付きもしぃへんかったアホ共やないかァア!」
血走った目で怒鳴り散らすアイアン。自分の耳に指を入れて塞ぐアリスと、呆れた顔のファンは顔を見合わせ溜め息。
「アイアン大佐。いや…アイアン・ゴルガトス。将軍がMADだと分かって何故行動を共にしている」
「王やからや!」
「はあ?王だぁ?」
「将軍はんはシルヴェルトリフェミアより力のあるMADや!ほんなら、シルヴェルトリフェミアをぶっ殺した後地球は将軍はんのもんになる!そうすれば地球は俺のもん同然や!!」
「アッホくさ。グレンベレンバなんざ、てめぇを使うだけ使って最後は食うと思うけどな。ま、ババァを信じる信じないはどうだっていい。てめぇ、情けねぇと思わないのかよ。地球を侵略した化け物に媚びへつらって。てめぇの家族やダチもクソMADに殺されたりしてねぇのか?あ?」
「弱者が強者に付いて何が悪いんや!世の中そうせなあかんやろ!!」
「…はあ。それだよそれ。自分の事を弱者っつって恥ずかしくねぇのかっての。まあいいわ。てめぇのグレンベレンバとの馴れ初めなんざ気持ち悪過ぎて聞きたくもねぇしな。堅物ヤロー」
「ああ。分かっている」
ファンは左手をアイアンに翳す。
「クソ坊っちゃんが居ねぇけど、俺とてめぇで殺るぞ!」


ゴオォッ!

ファンがアイアンに向けて炎を噴き出す。その中にアリスが突進し、アイアンに突き刺さっている剣を外そうとする。
「終わりだ裏切り野郎!!」
「バァカ」


ヒュン!

「んなっ…!?」
何とアイアンは、剣が突き刺さった左腕を置いて瞬間移動したのだ。置いていかれたアイアンの左腕から噴き出す真っ赤な血がアリスの顔にかかる。


ブシュウウウ!

「ぐあっ!?くっそ!」
「どうしたアリス!」
「あの野郎!!腕置いて逃げやがった!」
「なっ…!?」
「クソ!いっそ心臓に突き刺さしてやれば良かっ、」
「可愛い女の子達残してよく離れられたなぁお前はん達」
「!?」
鉄橋の下からアイアンの高笑いしながらの声が聞こえ、バッ!と鉄橋の下を見下ろすアリスとファン。
鉄橋の下の海には"俺達でアイアンを殺るからてめぇらは鉄橋の柱にしがみついて隠れてろ!"とアリスに言われた通り、胸まで海に浸かって柱にしがみついている風希と鳥が見える。
アリスとファンが見下ろしている事に首を傾げている2人が見えてホッとした2人。だが…
「つぅかまえたァ」
「きゃあ!」
「お鳥ちゃん!」


ヒュン!

鳥の後ろに瞬間移動をして姿を現したアイアンは背後から鳥の首を右腕で固める。その右腕はアイアンの能力である赤い剣に変形しており、剣の刃先が鳥の頬に触れていてツゥッ…と僅かだが真っ赤な血が滴る。風希は後ろを振り返り、アリスとファンは顔を真っ青にする。
「お鳥!!堅物ヤロー!此処から下に飛び降りるぞ!」
「ああ!」


バシャーン!!

2人が鉄橋から海に飛び降りると、海が大きな飛沫を上げた。






























一方、鳥を人質にとられている風希は鎌を振りかざし、待ったを言わせずアイアンに襲い掛かる。
「許さない…!妹を返して…!!」


ヒュン!

「おいおい!俺に鎌を振り回したら大事な妹にも鎌があたるっちゅー事も分からへんのか!?」

「風希ちゃん!あたしの事は気にしないでこいつ殺っちゃって!!」
「分かってる…」
「何や何や?お前はんら頭オカシイんとちゃうか?!」
「オカシイのは貴様だ!!」
「…!!しもた…!」
背後からファンの声がしてアイアンはハッ!として後ろを振り向く。


ドガッ!

「ぐあっ!」
ファンが高く振り上げた脚でアイアンの顔を蹴る。その衝撃で鳥から手を放したアイアン。風希が鳥をキャッチし、強く抱き締める。
「お鳥ちゃんごめんね…私が油断してたせい…」
「風希ちゃんは悪くない。あたしがのろまだから…」























一方。水中というだけあって振り向くだけで動き辛い中、アリスは黒い剣をアイアン目掛け振り上げる。
「これで終いだァ!!」


ヒュン!

「また逃げやがったかよ!腰抜けが!」
瞬間移動で逃げたアイアンに対し剣を海に叩き付ければ飛沫が上がった。
一方。ファンは至って冷静だ。腹部まで海に浸かりながら鉄橋を見上げる。アイアンによる攻撃で破壊され途切れている鉄橋。そして、先程まで自分達が乗車していた電車が海にプカプカ浮いている。後方にはEMS軍本部。
「仕方ない。こんな水浸しの服のままじゃ任務にも向かえんな。一度本部へ戻るか」
「面倒くせぇ!!つーかよ、こっから本部までは鉄橋で行くしかなくね?でも鉄橋は途切れちまっているし、それに俺ら鉄橋から落っこちて海の中だぜ?」
アリスの言う通り、海から本部がある場所へは本部の土台となっている断崖絶壁を登らなくてはならない。否、人間では登れないだろう。
「仕方がない。取り敢えず壁まで行こう。其処から海に上がれる。長時間海の中に居ては凍死してしまう」
「そうだな。オラ!向こうの壁まで行くぞ。堅物ヤロー。てめぇが風希おぶってやれ。俺はお鳥をおぶる」
「ああ」
「え!?大丈夫だよ!歩けるよ!ね、風希ちゃん」
「バーカ。水中は俺ら男でも歩き辛ぇんだよ」
「素直に甘えても良いのではないか」
いつも強面な2人が珍しく笑顔で優しいから、風希と鳥は顔を見合わせる。
「何かキモいね今日の2人」
「うん…。でも…いつも…だけどね…」
「てめぇらあああ!!」


























ザバァ!

断崖絶壁の窪みに登り、海から上がる4人。
「うっし。やっぱ登れそうにもねぇな」
腰に手を充てて断崖絶壁を見上げれば、頭上すぐ真上にはEMS軍本部があるのに、この断崖絶壁を登らなければ辿り着けない。
「無理だろう」
「くっそ!じゃあ本部の奴に電話するしかねぇな。ヘリで迎えに来てもらうか。かっこ悪くて電話なんざしたくねぇけどよ」
「仕方がないだろう」
「くしゅん!」
「む」
頭から爪先まで濡れているのはアリスとファンも同じだが、風希と鳥はくしゃみをしてカタカタ震えていた。


バサッ、

「あ」
「オラ。着とけ。つってもそれも濡れてるけどよ。でもちょっとは暖けぇだろ」
アリスとファンが制服の白い上着を2人に投げる。アリスとファンはすぐ背中を向けると、携帯電話で本部へ連絡しながら奥の方へ歩いて行いってしまった。
「風希ちゃんがアリスの着なよ」
「嫌…煙草臭い…」
「風希ちゃんのそういうとこツンデレじゃなかったんだね。本当にアリスの事嫌いだったんだ」
「……」
風希は立ち上がる。アリスの上着は着ず。ファンの上着を羽織って体育座りをしている鳥が風希を見上げる。
「風希ちゃん?」
「他に…上に登れそうな所ないか…見てくる…ね…」
「うん。あたし此処でいいこに待ってる」
「うん…」
風希が鳥の頭をいいこいいこして撫でてやれば鳥は嬉しそうに笑って、風希に抱き付く。また頭を撫でてやってから風希はアリスとファンとは反対側を歩いて行った。
ぽつん。1人残された鳥はザザン…ザザン…と小さな波音をたてて揺れる蒼々した海をボーッと眺めている。
「…ん?」
すると。海の向こうちょうど此処から約200m先に1人の人影が見える。だが、ぼうっとぼやけている。鳥は目をゴシゴシ擦って目を細めて見る。
「…花月?」
風希に"いいこに待ってる"と言った事なんてすっかり忘れてしまっている。立ち上がると、何かにとり憑かれたかのようにフラフラ…と歩き出し、


ドボン!

海へ飛び降り、海の中を1人歩き出した。

































「花…月…?」
ぼやけていた人影のすぐ傍まで辿り着いた鳥。
海の真ん中で1人、背を向けて佇んでいる人物が居る。その帽子、髪型、服装、体型。まさに…
「花月…?」
ふっ…、とその人物が振り返る。EMS軍日本支部長の姿をした花月が其処に立っていた。
「花月!!」
目から大粒の涙を溢れさせ鳥はザバザバと海の中を走り、花月に抱き付き、胸に顔を埋めた。
花月は黙っているが、そっ…と鳥の肩を抱き締める。
「花月、花月、花月ぃ!会いたかった!会いたかったよぉ!花月生きてた!花月生きてたんだね!?花月に化けたMADを食べたの。あたし!でもよく考えたらあたし、花月が殺されたとこを見てなかった。だからあのMADが花月に化けられたのは、たまたま。そうだよね?だって花月は今此処に居るもん!花月!花月!か…、あれ?」
顔を埋めていた胸元を見ると先程と服装が違う。花月の黒い制服ではない白い着物だし何より胸がある。鳥が顔を上げる。
「月見ちゃん!?」
其処には花月が居たはず。なのに今、鳥を抱き締めている人物は優しく太陽のような笑みを浮かべた月見。
「月見ちゃん!?あれ!?今花月が居たはずだよね?」
「いいえ。わたくしですよお鳥ちゃん」
「月見ちゃんの声だぁ…!!」
懐かしい姉の優しい声に更に涙が溢れた鳥は月見をぎゅっ、と抱き締める。




















「月見ちゃん月見ちゃん!会いたかったよ月見ちゃん!月見ちゃんが庇ってくれたから、あたしと風希ちゃんは今生きてられるの!でもね聞いて月見ちゃん!花月が…、花月が死んじゃっ…あれ?でもたった今、花月が居たはず…?あれ?何で?どうして?あれ?」
「鳥ちゃん」
「…!」
月見とは違う男性の声。だが月見同様の優しい声に、目を見開いた鳥が顔を見上げる。
「ハ、ハロルド…!」
其処には月見が自分を抱き締めていたはず。なのに、今自分を抱き締めているのはハロルド。いつもの優しい笑顔で微笑んでいる彼を見て、鳥の涙はもう枯れてしまうのではないかという程更に更に溢れ出る。
「ハロルド!ハロ…!ハロ!やっぱり生きてたんだ!棺の中が見れなくて、ハロが死んだ事ずっと信じられなかったの!」
ぎゅっ、と抱き締めれば抱き締め返してくれる暖かい腕。
「ごめんね、ごめんねハロいっぱい傷付けたよね。あんなお別れの仕方でずっと後悔してたの。でもハロが生きてたから。ハロ。お願い。やり直そう。あたし花月が一番なのは変わらない。でもハロをもう傷付けないから。あたしとやり直して。おね、が…い"…?」


ポタ…ポタ…、

海を赤く染めてゆく血。痛みを感じた鳥が自分の左肩を見ると…。
ハロルドが、人間とは思えない獣のような牙で噛み付いていた。


ブチッ!

「きゃあああああ!」


バシャン!

肩の肉を噛み千切られた瞬間。痛みに耐えきれなくなった鳥は左肩を押さえ、後ろに転倒してしまった。転倒した衝撃で海の飛沫が上がる。
「痛い!痛い痛い痛い!何するのハロ!」
「あはは!信じ込んじゃってるわねぇお鳥ちゃーん」
「!?」
ハロルドの声なのに、全く違う口調。違和感があるのに、何が起きたのか思考が追い付かない鳥は尻餅を着いたまま唖然としている。
一方。ハロルドは右手人指し指を自分の下唇にあてて斜め上を見る。
「あらっ。こーんな喋り方じゃなかったかしらぁ」
鳥の方を向き、ニコッ。いつもの穏やかな笑顔を向ける。
「鳥ちゃん。久しぶりだね」
「ハロ…ハ…ロ…?」
「うん。どうしたの鳥ちゃん?顔真っ青だよ!?大丈夫かな!?」
笑顔で手を差し伸べるハロルド。鳥はゆっくり歩み寄り、その手に自分の手を伸ばす。
「ハロ…?ハロだよね…?ハ、っあ"あ"!!」


バシャン!

背後から突然現れた人物に頭を踏まれ、海の中に沈められた鳥。
「がはっ!」
水中から慌てて顔を出すが鼻や口に水が入ってしまったようで、むせる。
「ゴホ!ゲホ!ゴホ!う"あ"あ"!」
背後から前髪を強い力で掴まれた。むせ返りながら目線を背後へ移す。
「っあ"…!」
「よお。四期生訓練以来やなぁ。淫乱豚女」
「アイ"、アン"…!ぐあ"!」
背後から膝で蹴られ、悲鳴を上げる鳥。



















首を剣化した右腕で再び掴まれてしまい、安易に身動きがとれない。
「あははっ!アイアン大佐やっる〜!あらぁ。ハロルドちゃんはこんな喋り方しなかったわねぇ。ま、いいわぁ」
「!!」
目の前でハロルドの姿がグレンベレンバに変形。その瞬間を目の当たりした鳥は、アイアンに首をがっちり掴まれながらも目を見開く。
「あ"…!グレンベ…、レン…バ…!ぐああ!」
「将軍、やろ?年上を呼び捨てすんなや淫乱豚女?」
キッ!
アイアンを睨み付ける鳥にアイアンは「お〜おっかなおっかな〜」と、全く怖がっていない様子。
グレンベレンバは腰に手を充て、鳥の真ん前まで来ると笑顔でヒラヒラ手を振る。
「はぁ〜い!お鳥ちゃん。久しぶり〜!MADにさらわれたり大変だったそうねぇ。元気してたかしらぁ?」
「さっきのは何だったの!」
「さっきの?あらぁん!お鳥ちゃん知ってるでしょ?MADは食べた地球人の姿に化ける事ができのよん。例えそれが肉片や血でもねん」
「そん…な…!じゃあ…」
「そっ。あたしが今変身した花月ちゃん、月見お姉ちゃん、ハロルドちゃんぜーん員もう死んじゃっているわよーん♪」


ザワッ…!!

一瞬で血の気が引いた。
カタカタカタカタ。
震え出す鳥の体、唇。目線を合わせて身を屈めるグレンベレンバはカタカタ震える鳥の唇に、手を置く。
「このお口かしらーん。花月ちゃんとハロルドちゃんとちゅーした悪い子なお口はぁ♪」
「…!!」
「何で知ってるっちゅー顔やな豚女。俺と将軍はんはずぅーっとお前はんら10人の事を観察してたんやで。シルヴェルトリフェミアとの戦いに備えてなぁ」
「んふっ。そゆコトっ」



















グレンベレンバは笑顔を絶やさない。それが逆に恐ろしい。
「お鳥ちゃーぁん?実力があるからあたしが入軍に判を押したのに、貴女って子は遊んでばっかりいるんだもの。日本が襲撃されたEMS軍大会議があった日の事を覚えているかしらん?花月ちゃんと痴情の縺れで隙のできたお鳥ちゃんに入り込んだMADのせいで、日本が襲撃されたでしょう?あれ、ほとんど貴女のせいよん?その後はあたしがEMS軍を追放されちゃったわけだけど、貴女達の事は観察していたからねん。貴女が遊んでばっかりいるからみんなを引っ掻き回して困らせていたの、ちゃぁんと見ていたのよ」
「最低!あたし達の戦力が薄くなった今を狙って来たんでしょ!あたし達が少ない人数にならないと勝負挑めない弱い奴らのクセに!!」
「ギャーギャーうるさいっちゅうねん」
「あ"ぐっ!!」
ぐっ、と首を掴んでいる腕を上にあげられたせいで首が絞まり、もがき苦しむ鳥。アイアンはニィッと笑む。
「弟が気持ち悪りぃ陰気花豚なら、お前はんは男漁りが趣味な淫乱豚女やなぁ」
「っぐ…!うる"…さい"…!」
「せやろ?豚は残飯漁るんやから似たようなもんや。仕事中だっちゅーのに男と寝る事しか考えてへん馬鹿女やもんなぁ。お前はんのせいで日本が壊滅したから花豚も将軍はんから監獄送りにされたやろ?しっかも弟とヤるなんざ、お前はん頭オカシイんとちゃう?ハロルドも任務前日だっちゅーのにお前はんとヤりよったから、翌日の任務で疲れてそのせいで戦闘に本領発揮できへんで死んぢまったんとちゃうか?ようまあアリスやファン達も、未だにこんな豚女を同行させてやってる思ったわ。俺なら絶対無理やな」
「うるさいうるさいうるさい!!MADとMADの仲間になるあんた達に侮辱される筋合いない!!小鳥遊流奥義、乱舞!!」


バサッ!

鳥の体の周りに紫色のりん粉のような光が放たれ、蝶の大群が現れた。
「んふっ。小鳥遊流奥義、桜花昇天♪」
「なっ…!?」


ドンッ!

金色の光がグレンベレンバから放たれ、鳥は直撃。グレンベレンバは今、花月の姿をして笑む。


バシャッ!

アイアンの腕からするりと落ちた鳥は水中へ。

























ドスッ!

アイアンが頭を踏みつける隣でグレンベレンバは笑み、2人で見下ろす。嘲笑いながら。
「これでよう分かったやろ。お前はんは仲間のお荷物やっちゅー事や。良かったなぁ。今まで見捨てられへんで。優しい奴らばっかりで救われたなぁ」
「んふっ。でももうこーんな悪い子いらないわよねん。でも、良い能力を持っているからぁ〜このまま捨てちゃうのも勿体ないのよねん。だ・か・らぁ!あたしが食べてアゲル!」


ガッ!

「っ…!!」
「大丈夫か将軍はん!!」
鳥に食いかかろうとしたグレンベレンバ(元の姿に戻っている)の顎に飛んできた大きな鎌が命中。
よろめくグレンベレンバにアイアンが駆け寄ったところを…
「…ハッ!!」
気配がし、振り向くアイアン。


キィン!!

アイアンの右腕と一体化した赤い剣と、風希の鎌がぶつかり合う。
「よお。久しぶりやなぁ生意気豚女ぁ!」
「黙って…。私の妹を傷付けたの…貴方達…?」


キィン!キィン!

水中の動き辛い中にも関わらず、目が金色に光り周りに青い光を纏わせた風希がアイアンと互角に渡り合う。
「日本支部に俺が出向いた時は、大層生意気な態度をとってくれたなぁ鎌豚女!よ〜う覚えとるわあ!ムカつく女やからなぁ!」
「うるさい人…。程度が知れる…」
「何やて!!」


バシャッ!

剣と鎌が離れ互いに間合いをとり、アイアンはグレンベレンバの前へ。風希は鳥の前へ立ち、互いに武器を構える。
「風…希…ちゃ…ん?」
水中からボロボロの姿でよろめいて立ち上がる鳥。風希は背を向けたまま。
「風希…ちゃ、」
「いいこに待ってるって…言ったのに…嘘吐いた…」
「ごめん…ごめんね風希ちゃん…。あたし…あたしやっぱりみんなのお荷物だよね…?」
「え…?」


ピチャ!ピチャ!

水中に、鳥の目からボロボロ零れる涙が落ちる。
風希は後ろに居る鳥に顔を向ける。鳥は泣きながらぎゅっ…、と風希の背中に抱き付く。
「風希ちゃん…風希ちゃん…あたし悪い子だから…もういいよ…もうあたしの事なんて捨てていいよぉ…」
「何…何言って、」
「せやなぁ!鎌豚女ぁ!捨てちまった方が楽やで!」
「…!!」


ブシュウウウ!

「風希ちゃん!!」
隙を見せてしまった風希はアイアンの剣に右腕を斬りつけられた。緑と赤が混じった血が噴き出す。
「ほう。やっぱりお前はんMAD化しとるんやなぁ」
「んふっ!綺麗な緑色ねん♪」
よろめきながらも鎌を構える風希を引き留める為、後ろから抱き付く鳥。
「風希ちゃんもうやめて!!もういいの!あたしなんて放っておいて!あたしみたいなみんなの迷惑かけるような子なんてMADに食べられちゃえば良いんだよ!あたしが悪い子してもみんなが優しくしてくれるからあたしもう、みんなとは居られないよ!」
「うるさい…」
「うっ…!風希ちゃ…」
金色の目をした風希は相変わらず無表情だが、背を向けたまま鳥の右手を強く握り締めた。





















「風希ちゃ、」
「近年稀に見る悪い子…でも…私の可愛い妹…。だから…言ったでしょ…命に代えても守る…って…。それが…お姉ちゃんの役目…」


ゴオッ…!

「な、何や!?」
「あれは…何かしらん…?」
風希の周りに纏っていた青い光が一層強く、そして不気味に広がり、辺りを飲み込んでゆく。グレンベレンバとアイアンは眉間に皺を寄せ、目を細めて見る。
一方、鳥もこんな風希を見た事が無いから呆然。
「ハッ!」
その時。風希の顔から下の腕や脚など全身に赤い不気味な模様が浮き上がっていた。花月が魑魅を使う時と同じあの模様だという事に鳥が気付く。風希が風希でなくなるような気がして恐くなる。風希は目を瞑る。
「風希ちゃ、」
「小鳥遊流奥義…」
カッ!と金色の目を見開いた。
「桜花昇天!!」
「なっ…!?」


ドン!ドン!ドンッ!!

辺りの海一帯に水中爆弾が爆発したかのように、海が飛沫を上げて噴水の如く吹き上がる。
「ななな何やこれは!?」
「アイアン!」
「!!」
グレンベレンバの声にハッ!としたアイアンが頭上を見上げる。飛び上がった風希が鎌を振り上げていた。


ドスン!!

降り下ろした瞬間、海の飛沫と一緒に真っ赤な血飛沫も上がった。
「アイアンンンン!!」























「アイアン!」
バシャバシャ水飛沫を上げてアイアンに駆け寄るグレンベレンバ。そんな中でも辺りの海は水中爆弾を喰らったかのように噴水の如くドン!ドン!噴き上がっている。
アイアンを水中から引き上げると頭は真っ二つ。血がドクドク流れ、辺りの海が真っ赤に染まってゆく。
「アイアン!」
「死んだ…?」
「!!」


ドォン!!

アイアンの死。悲しみに浸る隙すら与えず、風希はグレンベレンバに鎌で襲い掛かる。
「くっ…!」
「死んだ…死んだ…。次は…貴方だけ…」
「あたしだけ?はん!それはどうかしらねぇ風希ちゃん!?」


ズブッ!

「…!!」
グレンベレンバは自分の左胸に手を突っ込むと、何と緑色の血にまみれた自分の心臓を取り出し、それをアイアンの左胸に…


ズブッ!

入れた。
「あ…ああ…これ…これ…が…」
風希の脳裏で、アリスが血まみれになり死んだ時の姿がフラッシュバック。
グレンベレンバは緑色の血を舐めとる。
「んふっ。風希ちゃんも同じ事したものねぇ。でもね。MADであるあたしの心臓貰ったアイアン大佐はただ生き返るだけじゃないかもしれないわよーん?」
「え…?」


ゴキッ…ゴキゴキッ…

アイアンは下を向いたままゆっくり立ち上がると緑色のMADそのものの姿に変形。更に、ゴキゴキ音を鳴らしてみるみると巨大化。周りが陰になる程。軽く全長10メートルはある。
「う…そ…何これ…化けも、」
「ウ"ガア"ア"ア"ア"!」
「!!お鳥ちゃん危ない…!」


ドスン!!

赤い剣化はそのままの右腕を2人目掛け降り下ろしたアイアン。すると、海から飛沫が上がるなんてものではない。海の下の地面がピキピキと音をたてて真っ二つ。
「っ…!!」
鳥を強く抱き締めたまま、真っ二つに割れた亀裂に顔を青くする風希。
――あと1歩遅くて…この亀裂に落ちていたら…――


きゅっ…、

「お鳥ちゃん…?」
そんな風希の不安を感じ取ったのだろう。鳥は風希の右手を力強く握る。大丈夫だよ、と言うように。




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