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終焉のアリア【完結】
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ハロルドの前に、おぼんに乗った特盛りの白飯と特盛りステーキを持って座ったアリアに、ハロルドはギョッとする。勿論周りには訓練生しかいないから、突然の隊長の登場に周りも驚愕。
「少佐で構わんぞ」
「あ、あ、え、えっと、えーと…ど、どうして此処に?」
「隊長連中は普段街へ外食に行くんだが。どうも私は隊長連中とは気が合わなくてな。いつも食堂で飯を採るんだ。1人飯だが、なかなか美味いぞ?まあ、寂しくないと言ったら嘘になるけれどな!」
「あ、あ…ええっと…」
――どうしよう!!緊張してご飯が喉を通らないし言葉が出てこないよ〜!隊長となんて何を話せば良いのかな!?――
「何だ。ハロルドお前1人か」
「えっ。あ、あ…あはは…一緒に食堂行こうって誘ったんですけど、馴れ合うつもりは無いって断られちゃいました…」
「ふんっ。あの馬鹿2人。同じ部隊の仲間だからこそ親交を深めなければいけないというのに。ちょっと他の訓練生よりデキルからって、1人ではMADに立ち向かえる事などできんのに。それでこそのEMS軍組織だという事を分かっとらんようだ!お前らなんて隊長クラスから見たら、まだ生まれたての雛同然だ!」
「あはは…」
「ところでだハロルド」
「は、はい!」
口に手をあてて、周りを見ながらハロルドにヒソヒソ声で話すアリア。ハロルドはアリアに耳を傾ける。
「グレンベレンバ将軍から聞いたぞ。お前、すごい能力を2つも持っているそうじゃないか」
「い、いえ…そんな事無いです…。結局誰も守れなかったですし…」
隈が酷い顔で視線は虚ろで笑うから、アリアも切なそうに顔を歪める。
「…お前が志願した時に提出した来歴は読ませてもらった。お前はその能力を使っても尚、MADにお前の大事な者達を奪われたそうだな」
「はい…」
「でももう大丈夫だぞ!」
「??」
アリアは途端に笑顔になると、ハロルドの鼻の頭に自分の人差し指を突き立てる。だからハロルドは、頭上にハテナを幾つも浮かべる。


















「あの時のお前は力こそあったが、所詮民間人。MADに対抗できる技術や知能が備わっていなかった故、自分の能力を最大限に活用できなかった。だが、EMS軍で心身共に鍛え、実戦経験を積んでゆけばお前の能力は最大限に引き出され、憎きMADからもう大事な者達を奪われなくて済む!」
自分を元気付けようと明るい笑顔、明るい声で励ましてくれているのが分かる。分かるから、ハロルドは思わず涙腺が緩んでしまいそうになるのを堪え、笑顔を向けた。まだ隈が酷くてやつれている笑顔だけど。
「はい!」
「お前にはまだ両親と姉夫婦が居るらしいじゃないか。家族の為に頑張るも良し。仲間の為に頑張るも良し。私は可愛い甥っ子を張り合いに頑張ると決めているぞ」
「そうですね。僕は家族も勿論そうなんですけど…」
「けど?」
「FグループだけじゃなくてEMS軍の仲間全員や地球人の皆の為に頑張る気でいます。勿論アリス・ブラッディ君や、ファン・タオ君…それから、まだ会っていないこれから仲間になる人の為にも」
アリアは腕組みをして、パイプ椅子にギシッ、と寄り掛かる。
「ふふっ。規模がでかい夢だな。良い事だが、全てを守ろうとするあまり、自分を疎かにするのは駄目だぞ?」
「僕は自分を犠牲にしてでも大切な人達が生き残ってくれた方が良いです」
「それは感心せんな。残す方も辛いが、残される方も辛いんだぞ。まあ、私は死んだ事が無いからはっきりとは分からんが多分そうだろう。ところでだハロルド」
「は、はい!」
「お前の能力はどちらもその能力の強大な力の代償に、お前の心臓や体を蝕むらしいな」
「はい…」
「グレンベレンバ将軍からの命令だ。お前の持っている二つの能力。どちらも、無闇やたらに使うな。ここぞという時だけにしろ。特に烏化だな。あれは頻繁に使うとヒトに戻れなくなるのだろう」
「でも…」
アリアは豪快に笑いながらハロルドの背中をバシバシ叩く。
「ははは!何、心配するな!お前は拳銃の腕前もピカイチだ!それだけでも充分やっていけるから安心しろ!じゃあな。私はこの辺で失礼する」
「あ、あの…!」
「ん?」
去るアリアはハロルドに声をかけられると、笑顔で振り向き立ち止まる。
「元気付けてくださりありがとうございました」
アリアは白い歯をニィと見せる。
「礼など要らん。仲間なら当然の事をしたまでだ!」
去って行くアリアの背を見つめながらハロルドはぽつりと呟く。
「仲、間…」

























その頃、ファンは―――

軍内の売店で購入した弁当と新聞。弁当を食べながら新聞に目を向けていた。彼のブラウンの瞳に映る記事の見出しは
【極寒の地マディナ帝国皇帝一家MADに惨殺!】
「……」
記事をただ黙々と目だけを追って読む。
「唯一生き残った長女レディアナ・タオ皇女が女帝となるが長男皇子の行方だけ不明。遺体は見つからず…か」


グシャッ!

新聞に八つ当たりをしながら丸めるとゴミ箱に放り投げた。同時に食事を採り終えたファンは立ち上がり、ハロルドとアリスの荷物が散らかった足の踏み場も無い狭い室内を見渡す。
「こんな狭い場所が部屋だなんてな。城の小屋でももっと広かったぞ」
そう呟くとファンはバスルームへ移動。
バスルームの狭さとトイレと一緒になっている事に驚愕しつつ。束ねていた長い髪をほどく。
「チームワークなど必要無い。母国を乗っ取ったMADを滅ぼす事だけが目的。馴れ合いなど必要無い」


ザーッ、

静まり返った室内にバスルームからのシャワーが流れる音だけが聞こえた。
































その頃のアリス――――

「あァ?何処見てほっつき歩いてんだてめぇ!ぶつかるんじゃねぇ!」
夜の繁華街を1人、ズボンのポケットに手を突っ込みながらまるでヤクザのようにガンを飛ばしながら徘徊していた。
アリスからは煙草のヤニ臭さに混じって酒の臭いもするから、夕食ついでに何処かで飲んで来た様子。
「ふーっ…」
コンビニの脇にたむろして煙草を吹かしながら空を見上げる。MADが侵略してから真っ赤な月。
「クソMADが…!俺はあいつらみてぇにEMSをただの就職先としか思っていねぇ奴らとは違う。MADに大切な奴を殺された事もねぇからあいつらはノウノウとしていられるんだろーな。…チッ!あの坊っちゃんと堅物の事を思い出すだけで腹立つぜ!クソが!!」


ガンッ!

蹴り倒したコンビニのゴミ箱をそのままにして、また街へ徘徊に戻る為立ち上がるアリス。


ポン、

アリスの肩を背後から掴む男。
「おい」
「あ?」
振り向けば、其処にはいかにもアリスと同類のような不良の男集団が8人。髪は派手な色をしているし背中に金色の龍が描かれた服や、ダボダボのズボン。


ぐいっ!

1人のリーダー的な男が自分の右足を出す。
「お前が今蹴ったゴミ箱から出てきた缶ジュースの残りがオレのズボンにかかっちまったんだよ。どうしてくれんだ?あ?」
「は?俺が飲んだやつじゃねーし」
「あ〜?お前がゴミ箱蹴り倒さなきゃこんな事故起きなかったんだよ!!あーあーどうすっかなぁ!これ超高かったんだよなぁ!一着10万もしたんだけどなぁ!」
「マジっすかー!?」
「やべぇー!」
「そんな高級なズボン汚しちまったとかこりゃもう弁償するしかないんじゃね!?」
アリスを見ながらギャハギャハ笑う不良達。
「おい」
「あ?何だ?弁償する気になっ、」


ドガッ!

「ぶへっ!」
「リ、リーダー!!」
リーダーを拳一発で殴り倒したアリス。派手に飛んだリーダー。部下達に集まられながら、真っ赤に腫れた頬のリーダーがアリスを睨み付ける。
「ンだよ。一発でぶっ倒れるとかクソ弱ぇ」
「てんめぇえ!!何しやがんだゴルァ!!」
「10万もする大事な服なら外に着てくんじゃねぇよ。つーか、てめぇらみたいな底辺が10万もする服買えねぇだろ。バーカ」


ブチッ!

不良集団の堪忍袋の緒がキレる音がした。
不良集団はゆっくり立ち上がると、足元に置いていたバッドや鉄パイプ片手にアリスへ近付く。
「言わせておけば…。おい、だっせぇゴーグル付けたそこのお前…。死にてぇようだな…あん?」
あっという間に8人はアリスを囲む。だが、アリスは平気そうな顔をして8人を見ている。腕を伸ばしたり屈伸運動をしながら。
「叩き割っても脳味噌も出てこねぇかぁ?その空っぽの頭じゃなぁ」
「はっ。てめぇに言われたかねぇよ。集団じゃねぇと無理なクソがほざくんじゃねぇ」
「ほざいてんのはてめぇだゴーグル!!」
8人が飛び掛かる。アリスは八重歯を覗かせて笑む。
「はっ。調度いいぜ。クソMADと殺り合う前の準備運動といくかァ!」













































2週間と2日後、
EMS軍本部中庭訓練場――

「駄目だ駄目だ!ハロルド!アリス!ファン!お前達は本っ当に連携がとれていない!そんなではMADに殺られてしまうと何度言ったら分かるんだ!?」
各部隊同室者3人によるチーム訓練をここ1週間行っている。1人個人では成果を出せない訓練生達が多い中、チームプレーとなると出された課題を軽々クリアできる訓練生ばかり。
だが、全部隊で唯一個人能力はピカイチだがチーム訓練は唯一のビリケツ最低評価の"Dマイナス"の訓練生が3人…。Fグループのハロルド、アリス、ファンだ。
「クスクス。あんな簡単なチーム訓練もこなせないなんて」
「個人技はピカイチでもチームプレーができないようじゃ、MADに殺られるね」


ギロッ!

「ヒィイ!」
コソコソ笑いながら陰口を言っている他の訓練生を鬼の形相でアリスが睨み付ければ、訓練生達は逃げて行く。
「はぁ。今日も居残り訓練をしたが、お前達の評価は最低のDマイナスのままだ。全部隊でお前達だけだぞこの課題をクリアできていないグループは。お前達のずば抜けた個人技が合わされば、どのグループに負けない強さを誇れるというのに…」
「けっ!何がチーム訓練だ。そんなの、1人じゃ何もできねぇ弱ぇ奴のやる事だろ」
「訓練中に煙草を吸うんじゃない!」


ゴツン!

「痛でぇ!このクソババァ!」
アリアの拳骨を食らい、ギャーギャー怒るアリス。
「ファン。お前もハロルドとアリスに合わせろ。何故できない?」
「私1人で充分MADに対抗できる。だからこいつらと協力する必要は無い」
「だからそれが駄目だと言っているんだ馬鹿者!」


ゴツン!

「っ〜、」
ファンもアリアからの拳骨を食らった。
「ハロルド。お前は最初は2人に合わせようとするが、途中から個人技に走るな」
「だ、だって2人が合わせてくれないから…」
「だってじゃない!!」


ゴツン!

「い、痛い…!」
結局3人はアリアから拳骨を食らったものの、全く合わせる気が無い様子。アリアは腕組みをしながら溜め息を吐く。
「はぁ…。もう今日はいい。部屋に戻れ。明日また再々々々々々テストだ」
「すみません…」
「ケッ!」
「ふん…」
「はぁ…こいつらは全くもう…」















































会議室――――

「なっ…!?それは本当ですかグレンベレンバ将軍!」
グレンベレンバを前に、集まった黒軍服の隊長達全員。アリアは1人、目を見開いて立ち上がる。グレンベレンバはいつもの妖艶な笑みを浮かべたまま。
「ハロルドとアリス、ファンの3人を解雇するというのは…!」
「んふっ。だって、ねぇ〜?そりゃあ個々の能力はずば抜けているわよぉ?でもチームプレーができないようじゃあ何の為にEMS軍に入ったの?って話になるでしょう〜?それに、チームプレーができないって事はアタシの命令に従えないってコト。そんな子達は用ナッシングよ〜ん!そんなに個人で戦いたいなら、EMS軍を辞めて私設武装組織でも作ってちょうだい!って感じじゃないかしらぁアリアちゃん?」
「そ、そうかもしれません…。しかし…!」
「それに、2週間前くらいから街で起きている傷害事件。防犯カメラ映像によるとアリスちんらしいし?」
「なっ…!?」
「ま、先に絡んできた不良相手とはいえ、EMS軍人が民間人に手ぇ出しちゃまずいわよねぇ〜?」
「まっ。結局はアリアお前はんの指導不足っちゅー事や!やっぱりMADと同じ赤目の奴はダメやなぁ〜!」
「クスクス」
「本当そうだな」
「ええ。アリア少佐らしいですわね」


ぎゅっ…、

アリアは自分の拳を強く握る。
「ん、じゃあ今日の会議はしゅーりょう!みんなおやすみ〜グンナイ〜」
立ち上がり、ゾロゾロと会議室を出て行く隊長達。
「グレンベレンバ将軍!!」
「んふっ。まだ何かあるのかしらんアリアちゃん?」
「あいつらに…あいつらに1回だけチャンスを下さい!!」
「はあ?アリアお前はん将軍の言う事聞いとらんかったんか?あのガキ3人はクビや。ク・ビ!」
「あいつらは!あいつら3人はそれぞれ大事な人を殺されています!その仇を討たせてやりたいんです!このEMS軍で!!」
「そんな奴他に仰山居てはるわ!将軍。アリアの戯れ言なんざ聞く耳持たなくてええやろ。なぁ?」
「……」
「将軍?」
グレンベレンバはカツ!カツ!とヒールを鳴らしてアリアの目の前まで歩く。
アリアの目の前に立ち、小柄な彼女を笑みながら見下ろす。一方のアリアは真剣な眼差し。
「良いわ。アリアちゃんのその願い、聞いてアゲル」
「ほ、本当ですかグレンベレンバ将軍!!」
「な、何や将軍!アリアだけ甘やかしてんとちゃうか!?」
「そうですよ将軍!ミリアム少佐にだけそんな…!」
「た・だ・し〜!」
「?」
アリアは首を傾げる。
「普段のチーム訓練テストでチャンスを与えるんじゃないわぁ」
「え?では別のテストですか?」
「んふっ。…明日、本来ならば隊長クラスが行く筈だったインドでの任務をハロルドちゃん、アリスちん、ファンちゃんの3人だけで行ってもらうわ」
「なっ…!?」
その無理難題発言に、他の隊長達はザマアミロとばかりにアリアを見ながらクスクス笑う。
アリアの顔が強張る。
「訓練しか行っていないあいつらに、いきなりの実戦…!?しかも…インドの任務は"地球人に化ける事のできるMADの殲滅"…そ、そんなのまだ訓練生のあいつらに…!!」
「んふっ。ワガママな子。与えられる筈の無いチャンスを与えてもらえただけ感謝なさいアリアちゃん♪」





































カツ、カツ…

廊下を歩くグレンベレンバとアイアン。
「いやぁ〜しっかしまあクビにされた方が良いチャンスを与えたもんやなぁ将軍はん」
「んふっ。チャンスはチャンスよ」
「あのガキ3人死ぬで?」
「それならそれまでの実力ってコト。低級なMADにやられるようじゃ、シルヴェルトリフェミアとドロテアを殺し、地球をモノにするあたしの計画には要らない子達だわ」
「死んでもええと?」
「んふっ。そうっ!」
「はっ!これだからMADの考える事は不気味やな〜」




























to be continued...










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