[携帯モード] [URL送信]

終焉のアリア【完結】
ページ:1




倉庫――――

「んー!本っ当イ・ケ・メ・ン!んーまっ!」
気絶しているアリスの顔をまじまじ眺めていたオカマMADはアリスの右頬にキスをする。右頬には真っ赤な口紅のキスマークが付いた。
「さ、て、と〜!貴方達。この地球人をそこの台に乗せてくれる?」
オカマMADは他3人のMADに指示を出す。気絶しているアリスと男児を部屋の中央にある台に仰向けで乗せる。
そして各々が塩コショウ、砂糖、マスタード、マヨネーズを持ち、何と男児にかけていくではないか。それも何の躊躇いも無く。彼らMADにとったら、我々地球人がステーキに塩コショウを振りかけ、サラダにマヨネーズをかけるのと同じ感覚なのだ。
1人のMADがマスタードをアリスにかけようとするとオカマMADからの制止が入る。
「ダメー!」
「何で?こいつも食うんじゃないの?」
オカマMADは顔の前で人差し指を横に振る。
「non・non!イケメンはとっておくの!最後のお楽しみでしょう?」
「はっ。気持ち悪いな相変わらずお前は」
「うるさいわよーう!それじゃあまずはこの地球人なのにMAD化した男児の肉を味わいましょう!」
「えー。俺、子供よりそっちの男の方から食いたいー」
「だからダメって言ってるじゃない!美味しい男はとっておいて後でゆっくりじっくり味わうものなの!」
「そうかな…全然…美味しそうに見えない…寧ろ…不味そう…」
「んもー!あんた分かっていないわねェ!若い男は若い女並みに美味し…、!?ななななな何者あんた!?」


ビクッ!

いつの間にかオカマMADの隣に立っていて会話に入ってきていた少女の声が聞いた事の無い者の声だと気付いたオカマMAD。隣にはフード付きのコートをかぶっていて顔が見えない小柄な人間が1人。


ザワッ…!!

得体の知れない人物。しかも誰1人として、その人物が現れた事に気付かなかった。MAD達は動揺。
「ななな何者だお前ェ!」
「何処の区の奴だ!?」
「待ちな!こいつ、地球人の肌をしているよ!」
「で、でも地球人に化けれる上級MADなんじゃ…?だってもう東京には、こいつみたいに俺達に気付かれないように現れられる地球人は残っていないはずじゃ…!?」
「あんた!名前は何ていうんだい?」
「私…?私の名前…」


パサッ…、

フードを脱いだ人物の顔が露になる。
「小鳥遊風希…EMS軍の…所属…」
「EMS!?」


ピキーン!!

その瞬間MAD達の刻が止まり、MAD達4人は驚いた姿のまま硬直。まるでDVDの一時停止のよう。

























「無様だな。アリス」
言いながら倉庫に入って来たのはファン。その後ろに続いてハロルド。
「アリス君気絶しちゃっているみたいだね。あれ?この男の子は誰かな?」
「知らん。だが見るからに地球人だ。ハロルド。私がアリスを運ぶ。お前はこの男児を頼む」
「オッケー」
ハロルドが男児を、ファンがアリスを倉庫の外へ連れ出してからもう一度倉庫へ戻ってきた3人。
「じゃあ2人共、僕が手を叩いたらMAD達の刻が動き出すからね」
「ああ」
「早く…して…」


パンッ!

ハロルドが両手を叩いたと同時にMAD達の刻が再び動き出す。
「あ!?あ、あれ!?今刻が止まってい、」
「小鳥遊流…五月雨…」


スパン!スパン!!

「い"、あ"で?」


ゴロゴロ…、

風希が目にも止まらぬ速さで一度でMAD達の首を鎌でスッパリ綺麗に斬り落とす。頭だけが床に転がりブシュウウ!と、断面の首から緑色の血を噴いた体はバタンバタン!と次々倒れる。だが…
「い"ぎゃああああ!?ああああ頭が!頭がぁあ!」
「ちくしょおお!下劣な地球人の分際でェエ!何をしたぁあ!」
頭だけとなったにも関わらず怒鳴り声を上げるMAD達に、ファンと風希は呆然。
「彼らは頭や体をバラバラにされただけじゃ死なないんだ。時間が経てば離れた四肢はくっつく」
そう言うハロルドは、にっこり笑顔でファンの肩に手を置く。
「だから最後はファン君がこの倉庫をMADごと焼き払ってくれればMADは再生できない。ファン君、とどめお願いね」
「ああ、分かった」
背後でギャーギャー怒鳴り散らす頭だけのMAD達を無視して外へ出た3人。
ファンが右手の平を倉庫に向けるとチリ、チリッ…手の平から微かに火が出ると次の瞬間には、真っ赤な炎が燃え上がり、倉庫を丸々焼き付くした。
「ぎゃあああああ!!」
「熱い熱い"い"い"!」
「くっそーー!地球人めぇええ!!」
燃え盛る倉庫からはMAD達の断末魔が聞こえて、やがてそれも聞こえなくなった。






































「まさか、こんなにも早くにアリスを見つける事ができるとは」
「良かったよね!本当の本当に良かった〜!」


ドン!ドン!

遠くからEMS軍の砲撃音が聞こえるが、此処は静か。静寂が広がるコンビニの真裏にアリスと男児を運んできた。
「だが小鳥遊。すごいな。戦闘機に乗って東京上空に着いただけでよく、すぐにアリスの居場所が分かったな」
「これ…」
「なるほど。GPS機能か」
風希が2人に差し出して見せる小型の携帯電話のような機械。
「私は日本で…MAD侵入防止の任務を…やっていたから…誰が何処に居るかは…国内の範囲なら…分かる…。今回は…アリスさんの携帯電話の…GPS機能を…探知機代りにしたから…居場所が分かった…」
「すごいな。アリスの携帯電話も登録していたのか」
「うん…。この前…みんなの携帯電話…登録しておいた…。だから…誰が何処に居るか…分かる…」
「す、少し怖いな」
「雨岬空と…鵺と…ミルフィの携帯電話も…登録しておけば良かった…」
ぽつり、風希が呟いた一言にファンはピクッと反応し、険しい顔付きになる。それに気付いたハロルドはこの話題を替えようと、男児に注目する。
「それにしてもこの男の子は誰なんだろうね?アリス君の知り合いかな。ファン君知ってる?」
「いや。知らん」
「あ。それとも、街中で1人ぼっちだった男の子を助けて同行していたとか!ありえそうじゃないかな?」
「無いな。アリスは大の子供嫌いだぞ」
「じゃあ…」
「自分の子供だったら…許さない…」
「でぇええ!?小鳥遊風希ちゃん何やってるの!?」
風希は気絶しているアリスの顔にマスタードをかけていた。ゴーグルは全面マスタードだらけ、口の周りを囲んで髭のようにしたり。寝ている人に子供がマジックで悪戯描きをしているのと同じだ。
慌てたハロルドがひょい、とマスタードのチューブを取り上げれば、ギロッと風希に睨まれる。
「人の顔で遊んじゃダメだよ!ましてや気絶している人の顔で…!」
「だって…ムカついた…から…」
「と、というか小鳥遊はそのマスタードを何処から出してきたのだ?」
「さっきの倉庫で…MADが持っていたから…盗ってきた…」
「ぐああああああ!?顔が沁みるじゃねぇかあああああ!?」
「!」


ガバッ!

悲鳴にも似た叫び声を上げ飛び起きたアリス。風希はすぐさま振り向く。
「い"ぎゃあああああ!ななななな何だこりゃああああ!前が見えねぇし顔中しみるし!一体何しやがったクソMAD!!」
「私…」
「あァ?!」
ひょい、とマスタードだらけで前が見えないアリスのゴーグルを上にあげて顔を覗き込んだ風希。アリスとはばっちり目が合っているのに、アリスは瞬きをして首を傾げている。
「あァ!?誰だよ!?」
「え…?私の顔…忘れた…?」
「くっそ!ゴーグル返しやがれ!それが無ぇと…!」
「はい、アリス君」
上からゴーグルをかけ直してマスタードをハンカチで拭き取ってやったハロルド。ここでようやく視界に光が射し込んだアリスは、目の前で顔を覗き込んでいる風希が見えて目をギョッと見開く。
「な…!?んなあぁ!?風希てめぇ何で東京に居やがる!?」
「ねぇ…さっき…私の顔…見えなかった…?」
「つーか!クソ坊っちゃんと堅物ヤローまで居やがるじゃねぇか!」
風希の問い掛けはわざと無視して立ち上がったアリスは、ハロルドの胸倉を掴み上げる。




























ガッ!

「てめぇ!何で戻って来た!?俺があん時言っただろーが!風希を頼むって!それで俺が言いてぇ事伝わっただろーが!」
「い、痛い痛いよアリス君!」
「てめぇ、見ただろーが…」
急に真剣な顔付きになるアリスに、ハロルドとファンも険しい表情になる。
「俺がMAD化している姿を…!」
「うん…」
「うん、じゃねぇ!なら何で戻って来た!何で助けた!?いらねぇんだよそういう同情!!俺様を殺しに来たっつーなら上出来だ。殺れよ!」
「そ、そんな事…!」
「鳳条院のガキにもメガネにも殺しにかかったんだ。なら、MAD化している俺だっておんなじだろーが!いいから殺れよ!」
「考えたよ僕達だって!MADは地球人を食料とする生き物だから、例えまだヒトを喰らっていなくてもMAD化した地球人はお腹が減ればいつかはヒトを喰らう。だから、アリス君も…。ても…でもやっぱり僕は、僕達はできないよ!それに今アリス君は普段通りでしょ?MAD化はおさまったんじゃないの?」
「違げぇよ!俺にもいつMAD化していつ元に戻るか分かんねぇし、自分の体を制御できねぇんだ!だから…だから俺がまた我を失っててめぇらを殺しにかかる前に殺れっつってんだよクソが!!」


パンッ、

「ん、なっ…!?」
アリスとハロルドの間に入った風希が、アリスの右頬を叩いた。口を開いて呆然とする男3人。
アリスはパチパチ瞬きをしてから目をつり上げて…
「てんめぇ風希!何しやが…!…そうか、そうかよ…」
食って掛かろうとしたアリスだったが、無表情の風希を見たら怒りはおさまり、ハッ、と自嘲した。腰に手を充てて下を向く。
「そうだよな…。殺れっつったって俺の本心はそんな事を望んじゃいねぇ…。MADとしててめぇらに殺されちまうなんて絶てぇ嫌なんだよな、本当は」
「アリス君…」
アリスは顔を上げる。彼らしかぬちょっと申し訳なさそうな笑顔を風希に向けて。
「風希てめぇ分かってたんだろ。俺が心にも無い事を言ってる、素直になりやがれ、って。だからぶっ叩いたんだろ」
アリスは3人に背を向け、叩かれた右頬を掻く。その頬が薄ら赤い事は、3人には見えていない。
「助けに来やがってサ、サンキューな。てめぇら」
ハロルドは笑顔でファンと顔を見合わせる。
「アリス君…!」
「アリス…」
「ななな何だよてめぇら!何か言えよ!こういう微妙な沈黙されると困るだろー、がぁあああ!?風希てめぇ何で鎌振り回してきやがるんだ!?」
ブンブン、アリス目掛けて鎌を振り回してくる風希に驚いてアリスは逃げ回る。
「アリスさんが心にも無い事を言っている…?素直になれ…?そんなの知らない…。そういう意味で叩いたんじゃない…」
「はあ!?じゃあ何でいきなりぶっ叩いたんだよてめぇは!?」


スッ…

「あァ?」
手鏡をアリスの顔の前に差し出した風希は、自分の右頬を指差す。
「右頬の…キスマーク…何…」
「はあ?キスマ…、でぇええ!?何だよこれ!?ぐわあ!?ばっ、バッカヤロー風希!てめぇ今鎌、俺の前髪かすったぞ!?殺す気か!!」
「うん…殺す…ぐちゃぐちゃに…原型留めなくなるくらい…」
ニヤリ。と笑った風希は相も変わらず鎌を振り回して振り回して振り回す。






























「止まれ!アホ鎌女!!」


キィン!

左胸から取り出した剣で風希の鎌を受け止め弾き返せば、ようやく風希も止まってくれた。口をへの字にして不服そうだが。アリスはがっくり肩を落とす。
「はぁ…。多分こりゃ、さっきのMADだぜ。カマヤローだったしそいつ口紅してたからよ。俺は今まで気絶してて分かんねーけど多分そうだろ」
「……」
アリスはニヤリ。八重歯を覗かせて腕組みをしながら、意地悪な子供のようにケラケラ笑う。
「つーか何だァてめぇ?俺様に付いてたキスマークでぶちギレるなんておかしくね?まっ!俺様がかっこ良過ぎるからそうなっちまう気持ちも分かるけどなァ!ギャハハハ!」
「だって…」
「あァ?」
風希はアリスからは目を反らしながら、自分の口に手を添えて言う。頬をピンクに染めて。
「だって…私の知らない所で…私の知らない人に…そんな事をされているアリスさん想像したら…悲しくなった…から…」
「んなっ…!?」


しーん…

遠くから聞こえる砲撃音に似つかわしくない空気が流れている4人の間に沈黙が起きた。相変わらず風希は目を反らして下を向いてしまう。頬をピンクに染めて。
アリスも目を見開き、口がポカーンと空いたままで頬がピンク色。
「ばっ…、バッカ!か、からかって言ったんだよ!冗談だよ!真に受けてんじゃねーよ!い、言い返してもらえねーとこっちが恥ずかしくなるじゃねーか!!」
「ヒューヒュー」
「おいぃぃい!堅物ヤローてめぇぇえ!真顔&棒読みで囃し立てんじゃねー!」


ガッ!

ファンの胸倉を掴み上げるアリスは目をピクピク痙攣させてイライラしながらファンを見上げる。だがアリスの頬がピンク色だから、何だか情けない構図になってしまっている。
「良かったな。アリス」
「てんめぇ…死にてぇようだなァ堅物…?!」
そんな2人に、まあまあ!と言いながらハロルドはチラッと風希を見る。彼女らしかぬまだ頬を染めている風希を見ているハロルドは笑顔だが、とても寂しそうで目は空虚だったそうな。
































「ゴッホン!あー、で?俺はてめぇらと同行しても良いのかよ?」
仕切り直しの為の咳をするアリスは、やはりまだ頬が薄ピンク。一方の風希はいつも通りに戻ってボーッとした無表情だから、アリスは何だか恥ずかしくなる。
――切り替え早過ぎだろあいつ!俺だけバッカみてー!――
「勿論だよ。ね?ファン君」
「ああ」
「でもマジでいつMAD化するか分かんねーぞ。まあ、MAD化しても自我を失わねぇよう何とかするわ。それでも駄目な場合は」


ビシッ!

ハロルドとファンを指差すアリス。
「てめぇら遠慮無く殺れよ。躊躇っている隙があればてめぇらはソッコー俺の胃の中だ。分かったか?」
「う、うん…」
背を向け、煙草に火を点けるアリスは笑っていた。
「ま、鳳条院のガキみてぇに完全なMADになるまではEMS軍人としてMADをぶっ殺しまくるから安心しとけ」
――アリス君…いつも粗野で怖いところがあるけど本当は人一倍周りを大切に思ってくれていて、だから人一倍自分をみんなの為に犠牲にしようとするんだよね。吹っ切れたように明るく振る舞っているけれど、本当は…完全なMADになるのが怖いんだよね…――
ハロルドは、ケラケラ笑うアリスの心の内を分かっていた。それはファンも同じで。


ガーッ、ガガーッ、

『ハロルド将軍!こちら新宿C隊です!』
「あ!え、あ!はいっ!ハロルドです!」
「ハロルド…将軍だぁ!?」
ハロルドに繋がった部下からの無線にアリスは目を見開く。部下と会話をしているハロルドではなく、ファンに問い質す。ハロルドを指差しながら。
「堅物ヤローてめぇどういう事だ!クソ坊っちゃんが将軍だぁ!?」
「グレンベレンバ将軍はMADだと聞いただろう」
「知ってっよ!だから次に位が上のクソ坊っちゃんが年増ババァの後任ってか!?」
「因みに。グレンベレンバ将軍と共に消えたアイアン大佐も追放とした。故に私は大佐に昇進した」
「…は?」
くい、くいっと自分のネクタイを直しながら得意気に笑むファン。
「ファン大佐と呼んでも良いぞ」
「誰が呼ぶかよクソが!!」


ゴッ!

ファンの頭を殴るアリスだった。



























通信を終えたハロルド。
「ねぇ、みんな!やったよ!新宿MADは壊滅状、」
「おい坊っちゃん!」
「え?何かなアリス君」
「てめぇが将軍っつーのは納得いかねぇが、まぁ順番的に仕方ねーのは分かる。けどなァ!俺様より下位だった堅物ヤローが俺様をすっぽ抜いて大佐ってどういう事だゴルァ!」
「煩わしいぞ、アリス中尉」
「うるせぇボケ!」


ゴツッ!

本日2度目のアリスからファンへの殴り。
「え。あ!そっか!じゃあアリス君は大佐の上の少将ね!」
「しょ、少将…」
「チッ」
舌打ちするファン。
「これからまた頑張ろうねアリス少将!」
「アリス少将…や、やべぇ…!超偉くなったんじゃね?俺!?」
「アリス君嬉しそうだね〜」
「バッカ!嬉しくなんてねぇよ!!あ"、痛でででで!」
「アリス君!?」
突然右腕を押さえて右脚をガクガクさせて踞ったアリスに、嫌な予感がしたハロルドとファン。
「アリスお前まさかMAD化が…!?」
「そんなの嫌だよアリス君!」
「違、違げぇ!!さっきの…MADに踏まれた時…右腕と右脚を折ったっぽい…痛ででで!」
「え…い、今まで元気だったよね?」
「ああ。私の事を2回も2回も殴ったしな」
「2回を繰り返すんじゃねぇ!あ"だだだだ!叫ぶと響く!緊張が弛んだせいで痛みが戻ってきやがったんだよ!」
「ここ…痛いの…?」


バキッ!

「う"ぎゃあああああ!!風希てめぇぇえ!!」
背後から忍び寄り、アリスの折れた右腕をチョップして折れた右脚を膝かっくんした風希。アリスは目玉が飛び出しそうな程目を見開き、その場に倒れて暴れる。
「だ、駄目だよ小鳥遊風希ちゃん!」
「うるさい…ダメ男…」
「う"っ」
「ごめんなさい…冗談…」
「あ、あはは…だ、大丈夫だよ気にしないで〜」
「?」
微妙な雰囲気のハロルドと風希に首を傾げるアリス。
「ん…?」
「む。アリス。お前が連れていた男児が目を覚ましたぞ」
「あ?おお!無事かよガキ!」
男児は目を擦りながらも、見知らぬ3人の大人を前にしたらびっくりしてアリスの後ろに隠れる。
「うおぉい!だからひっつくんじゃねーよクソガキ!!」
「お、お兄ちゃんこの人達誰…?」
「あ?俺様の下僕共だ」
「ちょっとアリス君!?あのね、僕達アリス君の仲間なんだ!EMS軍って知ってるかな?その軍人なんだよ」
「知ってる!MADを倒してくれる人達だ!」
「可愛い〜!!」
子供好きなハロルドは男児の笑顔に一発ノックアウト。
「クソ坊っちゃんてめぇガキが好きだったよな。オラよ!」
そう言ってひょい、と抱き上げた男児をハロルドに渡せば、満面の笑みで男児を抱っこする。
「可愛いねー!いくつ〜?お名前は〜?」
「そいつさ、MAD化してるんだ」
「え…」


しん…

アリスの一言に一同沈黙が起きる。
男児は悲しそうに下を向くから、ハロルドは戸惑いつつも男児の頭をぎゅーっと抱き締めてやる。
「大丈夫、大丈夫だよ。泣かないで。ね?」
「おいガキ。俺もてめぇとおんなじだ」
「え…?お兄ちゃんも…?」
「ああ。何でか知んねーけどMAD化してるんだ。だから心配すんな。まあ、何とかなるだろ!」
ぐしゃぐしゃ、と男児の髪を撫でてやるアリス。男児は少し不安そうだが笑顔を浮かべる。


トン、

ハロルドは男児の鼻に指を置く。
「え?」
「僕はハロルド。君を助けてくれたお兄ちゃんはアリス君」
「てめぇの兄貴じゃねぇ!」
「で、そっちの背の高いお兄ちゃんはファン君」
「よろしく」
「で、あっちのお姉ちゃんは小鳥遊風希ちゃんっていうんだよ」
「どうも…」
「君のお名前は何ていうのかな?」
男児はオロオロしながらも満面の笑みを浮かべた。
「将太!」









































同時刻、
東京MAD本部――――

「シルヴェルトリフェミア様。ドロテア様はどちらへ?」
ぬいぐるみとお菓子が散乱した子供部屋で、お手製の空ぬいぐるみと自分のぬいぐるみで遊んでいるシルヴェルトリフェミア。
「う〜んとねー!EMSのアリスお兄ちゃんを殺しに原宿へ行ったよぅ〜!シトリーもね、今から行くのぅ〜!」
「シルヴェルトリフェミア様もですか!?危険です!今、東京はEMSに攻撃されております!」
立ち上がったシルヴェルトリフェミアはにっこり無邪気な笑顔。
「EMSのお兄ちゃん達を囮に、そらを誘き寄せるんだぁ〜♪」
その無邪気に見える笑顔には、ただならぬ邪気が渦巻いて見えた。















































同時刻―――――

「新宿は壊滅か。やったな」
「うん!さっすがEMS軍!って感じだよね!」
先程部下から届いた無線での通信は、新宿MADを壊滅させ地球人35名の救出に成功したとの報告だった。
すっかり眠っている男児将太を抱っこしているハロルド。一方のファンは腕時計を見る。
「戦闘機の燃料、ミサイルなどの武器量から考えてタイムリミットは確か…明日の正午だったか」
「うん。でもアリス君を早々に救出できた事は大きいよね!」
「ああ。あとは地球人の救出のみにじっくり取り掛かれるな。…む。アリスと小鳥遊は何処へ行った?」
「多分向こうにあった廃墟の家じゃないかな。久し振りの再会だから積もり積もる話があるんだと思うよ。お邪魔しちゃ悪いよ」
「…そうか」
アリスと風希の話になると背を向けて空元気のハロルドに、薄々気付いているファンだったが、敢えて聞かなかった。


































その頃――――

「あー!ビールが飲みてぇ!」
ハロルドの予想通り、ハロルドとファンから少し離れた場所にある廃墟の家屋の庭の縁側に並んで腰を掛けていたアリスと風希。
「キンキンに冷えたビールをこう、くいっとな!お子ちゃまには分かんねぇか」
手でビールを飲む仕草をするアリスを冷めた目で見てから月を見る風希。
――そういや風希…MAD化は大丈夫なのか?つーか風希本人もクソ坊っちゃんも気付いてなくね?―
「おい。風希」
「何…」
「体調。大丈夫か。どっか具合悪りぃとか、ねぇか」
「…?無い…」
「そうか」
――なら、まあ何とか取り敢えずは安心…か――
「くしゅん!」
「あ?」
やたら可愛いくしゃみをした風希を見たら、風希は鼻を押さえていた。
「何だよ。寒いのか?」
「違う…」
「おらよ」


ふわっ…、

EMS軍の白い上着を風希に着せてやるアリス。風希は目をぱちくり。アリスは小恥ずかしそうに顔を反らす。
「な、何か前も上着貸したような気がするな!返す時てめぇ上着に針仕込んで返しやがっただろ!」
「……」
「おい!無視かよ!」
「暖かい…」
「あ?」
「ありがとう…」
「!!」
にっこり笑った風希を初めて見たアリスの心臓はドキーン!と漫画のように飛び出しそうになる。


ドクン、ドクン!

アリスの速い鼓動。熱を帯びる顔。
――なななな何なんだよ今日はぁああ!?こいつ今日別人みてぇにデレ過ぎだろ!?デレ期か!?こいつにもデレ期っつーもんが存在していたのか!?――
「アリスさん寒くない…?」
「あ?あ、あ、ああ」
「そう…。ありがとう…」
「お、おう」
――すっっげぇ調子狂う!!――



























「さっきの子供…MADなの…?」
「ああ。MAD化したから親に捨てられたみてぇだな。ったく、どいつもこいつも。産むだけで親だの偉いだのほざいてんじゃねぇよ。ガキを1人前の人間に育てられてからやっと親って呼べるんだよ」
「珍しい…。アリスさん…そういう事考えてた…?案外真面目…」
「案外ってなんだよ。…まー、俺もさ。ガキの頃姉貴と一緒に両親に捨てられたんだよ。だから感情移入しちまうんだよなー」
「そう…」
「お嬢様な小鳥遊家の風希には分かんねぇだろうけどなー。よっし。そろそろクソ坊っちゃん達の所戻るか」
「うん…」
アリスが立ち上がった時。


カラン、カラン…

「指輪…?」
「あ」
アリスの制服のポケットから落ちた銀色の一つの指輪。アリスが慌てて拾おうとするが、風希の方が先に指輪を拾った。
「これ…」
「いいだろ。返せ」
「日付…入ってる…2524年9月13日…MADが侵略した日…?」
「いいから返せって」
「名前も…入ってる…。アリス…と…、フラン…?」
「風希」
「あ…」
ひょい、と上から取り返されてしまった。指輪をボーッと見ている風希。アリスは指輪をポケットの中へしまう。アリスは頭の後ろで腕を組み、歩き出す。
「おーい。行くぞー、於いていっちまうぞ」
「奥さん…居たんだ…」
「の予定だったけどなー」
「予定…?」
「俺の事はどうでもいーんだよ」
「良くない…」


ぐいっ、

アリスの制服の裾を後ろから引っ張れば、背を向けたままだがアリスは立ち止まった。
「奥さん…になる予定だった人…」
「ああ」
「直前でフラれたんだ…アリスさん性格悪いから…」
「違げぇよ!!」
思わず風希の方を振り向いてしまった。風希は相変わらず無表情だが、いやにジッ…、と見てくるのでびっくりしてしまったアリスは顔を反らす。























「MADにぶっ殺されたんだよ」
「MADに…。だから…侵略された日付…」
「たまたまだよ。プロポーズした日がその日になっちまったんだ。…くっそ、化け物共め…」
「……。目が見えないのは…?」
「あ?ああ、さっきのか。風希なら知ってんだろ?MADは地球に来た際、体の機能や体の部品を何かしら失う。俺と婚約者の前に現れたクソMADは視力を失っていたみてぇだな」
「そう…。それで…奪われた…」
「ああ。でもこのゴーグルはEMSに作らせた特殊なやつで、視力ゼロになった俺でも見えるようになるんだぜ。ま、ゴーグルが無きゃ何も見えやしねぇけどな」
そう言いながらゴーグルをかけたり外したりしてみせるアリス。
「じゃあ…」
「あ?」
「奥さん予定さんの為に…MAD…全滅させなきゃ…」
「奥さん予定さんってなんだよ」
「アリスさんは…」
「何だよ!さっさと喋れよ!」
「奥さん予定さんの事…今も…好き…?」
「……」
アリスは真剣な顔付き。風希には背を向ける。
「好き…?」
「珍しいな。風希がそんな話題に乗っかってくるなんてよ。明日どしゃ降りになるじゃねーか」
「好き…?」
「好きだよ」
「……。そう…」
沈黙が起きる。
遠くから聞こえていた砲撃音もいつのまにか止んでいた。夜の空気が、いつもより一際冷たく感じる。
背を向けたまま立っているアリス。アリスの方を向いたまま正座をしている風希は目線を下げた。
「可哀想だろ」
「…?」
「あいつはMADに食われちまったのに、たまたま運良く生き延びた俺が新しくできた好きな奴と人生を楽しんでいたらよ」
「報われない…?」
「そういう事っ。おわっ!?もうこんな時間じゃねーか!クソ坊っちゃん達の所戻るぞ!」
「新しくできた好きな奴…?」
「あァー?まだ何かあんのかよ?俺のお涙頂戴話はもう終わりだぞ?」
「居るの…?」
「……」
「居る…?」
「…居ねぇよ」
「そう…」
「風希。風邪引くぞ。さっさと歩け!」
「……」
静かに立ち上がった風希はアリスの後ろを下を向きながらついて行く。羽織っているアリスの上着に皺ができる程ぎゅっ、と爪をたてて。
「過去に縛られているだけだよ…」
「あ?今何か言ったか?」
「ううん…。何も…」
「あん?ボソッと聞こえた気ぃしたんだけどな」
「空耳…」
「そうか」








































「あーもう!やっと戻ってきた!MADに攻撃されたかと思って、今迎えに行こうと思っていたんだよ。ね!ファン君」
「いや。私は大丈夫だろうと思っていた」
「てめぇは面倒くせーだけだろ堅物ヤロー」
戻ってきたアリス達にホッとするハロルド。すぐさままた喧嘩になり、火花をバチバチ散らすアリスとファン。
「あれ?アリス君上着は?」
「あ?ああ、こいつ。寒いみてぇだから」
親指で後ろに居る風希を指差せば、上着を羽織った風希が下を向いていた。いつも暗いが、今の彼女はより一段とどんよりしているから、ハロルドとファンはすぐさまアリスを見る。
「アリス君」
「アリス」
「あ?何だよ」
「小鳥遊に暴言でも吐いただろう。小鳥遊暗いぞ」
「はあ!?」
「小鳥遊風希ちゃんをいじめたらダメだよ!」
「何でそうなるんだよ!つーかこいつが暗いのなんて前からじゃねーか!」
「私…いじめられてない…」
上着を脱ぎ、アリスに返す風希が一言。
「あ?まだ着てろよ。寒いだろーが」
「いい…」
無理矢理アリスに押し付ける形で返すと、風希は背を向けてスタスタと歩いて行く。
「おい。何処行くんだよ風希」
風希は鎌の柄を肩に乗せて顔だけ振り向く。
「地球人救出任務…今回の私の…任務…。行く…」
「あ!その事なんだけどね小鳥遊風希ちゃん。僕らが今居る渋谷区と他の部隊の人達が居る新宿区、千代田区、その他数10ヶ所は地球人救出ができたんだ!」
「そう…」
「あとは、えっと。東京23区で言えば中央区だけなんだ。だけとは言ったけど此処はMADの本拠地がある場所だから戦力も他の区とは比べ物にならないくらい強いんだ。だから、制圧できた区の部隊の人達から先に此処に集合してもらって、それから再開するよ」
「一気に総力戦というわけだな」
「うん」






















そんな話をしていると、上空から戦闘機の飛行音が聞こえてきた。皆が空を見上げれば、EMS軍の軍章が描かれた数10機の戦闘機がこちらへやって来る姿が。
「あれだ!おーい!おーい!」
「はっ。ガキじゃあるまいし。何やってんだよクソ坊っちゃんは」
仲間の戦闘機に向かって両手を大きく振るハロルドを腕組みをしながら呆れた様子で笑うアリス。
「…風希」
「何…」
自分達より少し前に居るハロルドとファンには聞こえない声で、背を向けたまま風希に話し掛けるアリス。風希はいつもより暗い表情で返事をする。
「俺さっき嘘言ったわ」
「嘘吐き…?」
「嘘吐きじゃねーよ!いや嘘吐きか。…新しくできた好きな奴居るわ」
「……。そう…」
「でもよ、フランの事を考えるとさっき言ってたみてぇに、フランに申し訳なくなる。フランの事をまだ気にしてるのに、新しい奴にも申し訳なくなるんだよな」
「過去に縛られているだけ…だね…」
「だなー。だからさ、俺決めたわ」
「どっちを…とる…か…?」
「違げぇな。俺、もう誰も好きになんねぇわ」
「……」
「こんな半MAD野郎だしよ。調度いいだろ!」
「…別に…そんな報告…私には関係無い…」
「ははは、だなー。悪りぃ悪りぃ」
「……」






















戦闘機が近付くに連れて音が耳の鼓膜を引き裂きそうな程煩くなり、地震のように辺りが揺れる。
「おーい!」
「何処へ着陸させる気だ」
「少し先にEMS軍東京支部時代の滑走路があるからそこが良いよ、ってさっき無線で言っておいたんだ」
「なるほどな」
「おーい!おー、」


ドン!ドンドンッ!!

「!?」
「んなっ…!?」
何と、あと少しで合流できた仲間の戦闘機数10機が突然爆発したのだ。真っ赤な炎と灰色の煙を上げてこちらへ落下してくる戦闘機。
「落ちてくる!危ない!」
「ビルだ!其処のビルの中へ避難しろ!」
「風希!」


ガシッ!

風希の腕を掴み、引っ張り走るアリス。
ビル目掛け走る面々だが、ビルへ入るが先か、戦闘機が落ちてくる方が先か危うい状況。
「はぁ、はぁ…!」
「もうすぐだ!死ぬ気で走れ!」
「風希遅ぇよ!」
「ごめ…、!!」
我慢できなくなり風希をおぶったアリスはファンとハロルドを追い抜いて猛スピードで走る。ビルの入口はすぐ目の前。




























「っしゃあ!間に合っ、」
「お久しぶりぃEMS軍のお兄ちゃんとお姉ちゃん♪」
「んなっ…!?」
上空からビルの入口に降りてきたシルヴェルトリフェミアに、皆が驚愕。入れさせまいと入口に立ちはだかるシルヴェルトリフェミア。アリスは風希を降ろしてすぐ、左胸から剣を引き抜いた。
「てめぇ!邪魔だクソMAD!ハロルド!ファン!てめぇらも手伝え!」
「ああ」
「当たり前だよ!」
ファンが右手の平をシルヴェルトリフェミアに向ける。ハロルドが刻を止めようとした時。


ドスッ…、

「ハロルド…?」
ハロルドは口から血を吐き倒れた。アリスとファン、風希は呆然。ハロルドの背後には、真っ赤な爪にハロルドの赤い血を付けたドロテアの姿が。
「ハロルドォオオ!!」
「う"っぐ…、大丈…夫…、ぐあっ!」
起き上がろうとしたハロルドの頭をヒールで踏みつけるドロテア。
「お久しぶりです。最近東京の我々同士を殺めていたのは貴方ですねアリス・ブラッディ?そして…」
ドロテアは足元のハロルドを見る。
「お会いするのは2年振りでしょうか。お久しぶりです、烏」
「っぐ…!」
「あの時居合わせていたエミリアさんはお元気でしょうか?」
「…!!ふ…、ふざける…なっ…!!」
「危ない…!!」
そんな間にも爆発した戦闘機が降ってきたから、風希は顔を真っ青にして空を指差す。
シルヴェルトリフェミアは楽しそうに笑む。
「シトリーとドロテアが爆発させた戦闘機の雨!すってきでしょーぅ♪」
「クソMADてめぇえ!」
「仲間の戦闘機と仲間の亡骸に押し潰されて逝きなさい、愚かな地球人」
そんな中アリスはポケットの中の携帯電話で、ある1人の男に通話を繋げていた。画面には、アリスが繋げている相手の名が表示されている。
【クソメガネ】


ドンッ!

戦闘機が落ちた。





























to be continued...












1/1ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!