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終焉のアリア【完結】
ページ:2
「勿論捜索はする。恐らくあのままなら東京に居るままだろう。しかし、我々の最優先事項は地球人…残された民間人の救出だ。タイムリミットまでに見つけられなければ今回はそれまでだ」
「うん…」
視線を下に向け、無表情なのにどこか寂しそうに返事をする風希。そんな風希をチラッ、と見るハロルドはやるせない表情を浮かべていた。


バタン、

「ではハロルドお前は1人で。小鳥遊は私の戦闘機に同乗して行くぞ」
「分かった…」
モニタールームを出た3人は廊下を歩く。先頭を歩くファンは気を引き締める為か、白い手袋をキュッ!と力強くはめる。
最後尾を俯き加減で歩く風希を、前を歩くハロルドは心配しながらチラチラ見ている。
「た、小鳥遊風希ちゃん」
「……」
「タイムリミットって言っているけど、僕はタイムリミットが来てもアリス君を探すから大丈夫だよ」
「……」
「勝手な行動は慎めハロルド。将軍のお前を於いてはいけないだろう」
「う、うーん…。でも…」
「余計なお世話…」


コツ、コツコツ…

顔を上げた風希はそう言いながらハロルドを追い抜くと、ファンをも追い抜いて2人の先頭をさっさと歩いて行ってしまう。ハロルドとファンは顔を見合わせ苦笑い。
「ハロルド!」
「た、小鳥遊鳥ちゃん…」
背後から自分を呼ぶ声がして立ち止まり、振り向くハロルド。ファンも振り向く。だが、風希だけは振り向かず立ち止まらず。
























「今日任務があるなんてあたし聞いてない」
「う、うん…。小鳥遊鳥ちゃんだけはこの任務のメンバーに入っていないんだ…よね」
「何であたしだけ!?」
「私がそうしてって…頼んだの…」
ようやく立ち止まり振り向いた風希。鳥は口をへの字にする。
「また風希ちゃん!?風希ちゃんはあたしの事いつも除け者にする!!」
「お鳥ちゃんに関わる男…みんな変になる…。花月も…ハロルドさんも…。だから…私がお鳥ちゃんを外してって頼んだ…。でも…男も男なんだけど…ね…」
「何それ!!あたしが犯罪者みたいな言い方しないでよ!風希ちゃん知ってるクセに!花月が死んで、あたしが毎日寂しいの知ってるクセに!!どうして意地悪ばっかりするの!ファンだって話聞いてくれないし!」
機関銃のように話す鳥にハロルドはオロオロ。ファンと風希はいつもの厳格な表情。
「小鳥遊。決して私達は意地悪をしているのではない。お前はまだ高校生だから仕方ないと大目に見てはきたが、お前はEMS軍人。地球人をMADから守る為の人間だ。なのにお前はよく公私を混合し過ぎる。まあ、まだ学生のお前にあまり仕事云々のキツイ事を言いたくはないのだが」
「うんうん…。言って大丈夫…ファンさん…。この子…私が叱っても聞かないから…」
「いちいち風希ちゃんムカつく!!ファンも怖いしムカつく!!2人共嫌い!ハロルドだけは優しくしてくれるもん!!」
「小鳥遊。ハロルドの優しさはお前の身の為にはなっていない。それは優しさではない。甘さだ」
「意味分かんない!優しいは優しいじゃん!それにあたしとハロルド付き合ってるから!とやかく言われる筋合い無い!」
「へぇ…そうなんだ…。でも…だから何…?」
「だから軍内で仲良くしてたっていいじゃん!」
聞く耳を持たない鳥にさすがのファンもまいってしまう。ハロルドが前に出て鳥と目線が合うように屈む。



















「ハロルド。2人に言い返して。みんなあたしの事悪者扱いするんだよ?」
「小鳥遊鳥ちゃん…」
「ねぇハロルド」
「ごめんっ!!」


パンッ!

両手を自分の顔の前で合わせるハロルド。
「え?」
目を強く瞑って、両手を顔の前で合わせたままハロルドは謝罪。
「2人の言ってる事はやっぱり正しいと思うんだ…。世界がこんな状況なのに、ましてや地球を守るEMS軍人なのに最近の僕達は任務そっちのけになっちゃっていたし。だから…僕達の関係はやめた方が良いのかなぁって…」
「全然分かんない!てゆーか今更そんな事言うなら付き合わなきゃ良かったじゃん!デートしなきゃ良かったじゃん!今更言われてもムカつくだけ!」
「そ、そうだよね〜、うーん本当ごめんね全部僕が悪いんだ。ごめんね、僕が優柔不断だから…」
ハロルドの制服の裾をぐいぐい引っ張る鳥。
「ねぇハロルド。あたしを1人にしないで。此処に残って。ハロルドが行かなくてもファンと風希ちゃんが居れば任務は大丈夫でしょ」
「ごめんね。仕事だからそうはいかないんだ。本当ごめんね」
「じゃあ帰ってきたらまた一緒にいっぱいデートしよう」
「う、うーん…」
チラッ。
ハロルドがファンを見る。ファンは黙ったまま首を横に振る。
「それは…うんと…平和になったら…かな〜…」
「今ファンに意見求めたでしょ!本当に自分の意志が無いよね!そんなんだから風希ちゃんにフラれるんじゃないの!?」


パァン!

「っ…!?」
無表情の風希が無言で鳥の左頬を打った。鳥は勿論、ハロルドとファンも目を見開いて驚く。























呆然の男2人を他所に、鳥は打たれて赤い左頬を押さえながらキッ!と風希を睨み付ける。
「痛い!!」
「そりゃそう…痛いように叩いたから…」
「何で打つの!風希ちゃん前もあたしの事打った!暴力的!こんなんなら優しい月見ちゃんが生きていれば良かったのに!!」
「確かに優柔不断でムカつくところもあるけど…一緒にお買い物したり…優しくしてくれた人に言う言葉じゃない…でしょう…」
「じゃあ何で出掛けるのすら駄目なの!?別に良いじゃん!」
「お鳥ちゃん…出掛けるだけじゃないんでしょ…ファンさんとハロルドさんに…体求めたんでしょ…だから駄目なの…。そういうの…男狂いって言うの…分かる…?」
「っ…、ムカつく!男のくせにお喋り!」
「ご、ごめんね鳥ちゃん…」
ハロルドが2人を止めようと切なそうな顔をして間に入れば、鳥は怒った顔をしてハロルドを指差す。
「今更あたしより仕事優先するって何!ファンと風希ちゃんに言われたからでしょ!」
「ご、ごめんね。本当にごめんね…」
「風希ちゃんにフラれて傷心で女の子と付き合った事も無いハロとデートしてあげてえっちもしてあげたのに、何で今更ファンと風希ちゃん側につくの!何で今更別れようみたいな事を言うの!大体あたし、今までハロと居たのなんて寂しさをまぎらわす為だったもん!あたしは花月が好きなんだもん、ハロの事なんて本当は好きじゃなかったもん!」
「…っ!」
「このっ…馬鹿妹…!」


スッ…、

鬼の形相をした風希が再び鳥を叩こうと前へ出た。だが、風希の顔の前にハロルドが右手を出して制止するから、風希はハロルドを見上げる。やはりいつもの気弱で優しい顔で風希に微笑んでいた。
「だってあたし、花月が居なくて本当に寂しいんだもん…仕方ないじゃん…」
弱々しい声になって俯く鳥をきゅっ、と抱き締める風希。
「1人が寂しいなら…私の部屋に来れば良い…一緒に遊んであげるから…。寂しいからって…他人に迷惑かけちゃ…駄目…」
「女の子の風希ちゃんじゃ意味無いもん…」
「寂しいからって…誰とでも寝るような子になっちゃ駄目…。お父さんとお母さんと月見姉様…花月が…悲しむ…。お鳥ちゃんにはいつか…好きになれる人が現れるから…焦る事無い…。次同じ事したら…私の鎌で首…はねちゃうから…」
「風希ちゃんならやりかねないね」
「うん…」
鳥から離れると、鳥の頭を撫で撫で。
「良い子にお留守番してて…」
「うん」


















くるり。鳥に背を向け2人に深々頭を下げる風希。妹の分の謝罪だろう。
「時間とらせてごめんなさい…。行こう…」
「ああ」
「う、うん」
スタスタと前を歩いて行く風希。ハロルドはやはり笑顔だが、誰が見ても作り笑顔の悲しそうな笑顔を浮かべ歩きながらもチラチラ後ろの鳥を気にかけている。そしたら目が合ってしまったから、ギクッとして思わず立ち止まるハロルド。しかし鳥は唇を強く噛み締めてから、口を開いた。
「ハロごめん…あたし本当はハロの事恋愛感情で好きじゃなかった…なのに2人きりで出掛けたり思わせ振りな事言ったり、付き合おうって言ったり、さっきは酷い事言ってごめん…。寂しくて寂しくて、そんな時ハロが優しくしてくれるから甘えてた。あたし、ハロを花月に重ねて見てた。ハロじゃなくて花月を見てたの。だからもうハロとは恋人じゃいられないよ…。本当にごめん…」
「僕は全然平気だよ。僕こそ優柔不断で鳥ちゃんを困らせてばかりでごめんね」
「うんうん…。ハロは初めての彼女だからって頑張ってくれたのに、騙してごめん。最低な女が初めての女でごめん」
ハロルドは鳥の目線に合わせる為に屈むと、いつもの優しい笑顔で微笑みながら鳥の頭を撫でる。
「大丈夫大丈〜夫!鳥ちゃんもう謝らないでね。それに鳥ちゃんは最低なんかじゃないよ。優しい良い子だから。ねっ?」
「……。ハロ…」
罪悪感で暗い表情の鳥を心配させないように明るい表情で話し掛けるハロルド。
「じゃあさじゃあさ。帰ってきたら、僕と鳥ちゃんとファン君と小鳥遊風希ちゃんの4人でご飯食べに行こっか。仲間として。それなら良いかな、小鳥遊風希ちゃん」


ピタッ。

呼び止められた風希は立ち止まる。ゆっくり鳥の方を振り向き、右手を広げ、指で5を表す。
「4人じゃない…アリスさんも一緒…だから5人…」
「…!うん!そうだね」
鳥に背を向けて廊下を歩いていく3人。去り際、チラッとハロルドが後ろを向いたら、調度後ろを向いた鳥と目が合った。
いつもの穏やかな笑顔で手を振れば、鳥もニコッとして手を振り返していた。
































EMS軍本部裏滑走路―――

風希がトイレから戻ってくるのを部下達が戦闘機で日本へ飛び立つ様を見上げながら待っているハロルドとファン。
「いや〜分かってはいたけど、いざ面と向かって好きじゃなかったって言われるとちょっとグサッときちゃうね」
ハロルドはヘラヘラ笑いながら言うが、ファンは勘付いていた。鳥が言っていた"そんなんだから風希にフラれる"という事も気になっていたし何よりも驚いてはいたが、ファンはその事には触れようとはしなかった。
「女など気紛れでそんなものだ。男が真剣になりやすい反面、女は案外そうではない場合が多い。落ち込む事は無い。だが…お前には良い勉強になったんじゃないか」
「うん…」
「…どうした」
ハロルドは本部の壁に寄りかかり、顔が見えないようにわざと俯く。
「あんな偉そうな事を言ったけど僕本当は、本気にしてたんだよね。女の子から食事に誘われた事も好きって言われた事も無かったから嬉しくてさ。初めて男として見られてるんだーって。ファン君に言われたみたいに正直浮かれてた。だから昨日も夜分遅くまで外出したし。任務前日なのに」
ファンはチラッとハロルドを見てから腕組みをして空を見上げる。真っ青な晴天だ。
「今の誰にも言わないでよ」
「分かっている」
「戻った…」
風希の声がして、パッ!と顔を上げたハロルドはいつもの笑顔に戻っていた。だが風希はハロルドの顔を見た瞬間、目をギョッと見開く。そんな風希にハロルドは首を傾げているが。
「じゃあ小鳥遊風希ちゃんはファン君と一緒の戦闘機に乗ってね」
「分かった…」
「ファン君。僕が先に行くからファン君達はその後に続いて来てくれるかな?」
「ああ」
「じゃあアリス君救出作戦決行ー!」
「アリスさんなんて…地球人救出作戦の…オマケだけど…」


























コックピットに座り、ヘルメットをかぶるハロルド。


ガー、ガガーッ、

「ファン君?」
ノイズがして通信が繋がる。ファンだ。
「どうしたの?」
「今小鳥遊がヘルメットを取りに行っていて、機内には私しかいない」
「あはは。忘れ物しちゃうなんて小鳥遊風希ちゃんらしくないね」
「ハロルド」
「何?」
「泣くなら人の居ない所にしろ。先程顔を上げたお前の目が真っ赤で、小鳥遊が驚いていたぞ」
「…!」
「小鳥遊が戻ってきたようだ。では東京で合流しよう」
「……」
キーを挿入すればエンジンがかかり、機体の振動がハロルドにも伝わる。下を向いたまま操縦幹を握っている左手がカタカタ震えている。


ポタ…、ポタ…、

雨のように滴る雫が制服のズボンに染みとなってすぐ消えていく。
「昨晩の事も会話も好きも全部嘘だったなんて、今更もう無理だよ…!」
ぐっ、と歯を食い縛り、目から溢れる雫を腕で乱雑に拭えば顔を上げ、真剣な顔付きをして白い手袋をきゅっとはめると、滑走路を発ち、日本へと飛び立って行った。
















































MAD領日本、東京―――

「何故、東京上空を奴らが飛んでくるまで気が付かなかったのですか!!」
「も、申し訳ありませんドロテア様!」
おとぎ話に出てくるようなMADの城。
城内のモニタールームのモニターには、東京へ襲来して来たEMS軍が戦闘機で上空から街を攻撃している様子が映し出されている。ドロテアは握った両手を怒りでプルプル震わせる。
「結構です!わたくしが前線へ出ます!いつまでも愚かな地球人にやられる様を指をくわえて見ていられません!!」
「ドロテア様が戦場へ!?し、しかしそれは…!!」


バタン!

扉を強く閉めて部屋を出て行った。






































その頃、東京―――

ウーウーと東京の街一帯に鳴り響くサイレン。
「ぎゃあああ!」
「地球人が侵略してきたわ!早くシェルターに避難し、」


ドォンッ!!

逃げ惑うMAD達を上空から戦闘機でレーザー攻撃したEMS軍。攻撃した場所の地面は抉れ、其処で逃げていたはずのMADの死体すら無い。死体もろともレーザー攻撃で焼き付くした。
「おっわ。マジかよ。つーかまだ此処には逃げ遅れた地球人の奴らが居る事忘れてるんじゃねぇだろうなあいつら!」
そんな様子を、高層ビルとビルの間に身を隠して見ていたアリス。
アリスの言う通り、東京だけでなく日本はMAD領とされてしまい、日本に移民してきたMADの数は半端なものではない。だがしかし、日本にはまだ逃げ遅れた地球人が居るわけで、彼らが居るからEMS軍は今こうして戦闘機で日本に救出作戦を決行しているわけで。
サイレンが鳴りやまぬ灰色の煙が上がる真っ赤な空に浮かぶEMS軍戦闘機のレーザー攻撃の発射口がまたこの街に向けてガコン!と開いた。アリスは目を見開き立ち上がる。
「おいおい…!そのやり方ならMADを一掃できるけどなァ、ンなやり方してたら日本にまだ取り残されている地球人もMADもろとも木っ端微塵になっちまうじゃねぇか!」
「うわああん!お母さん!何処!?お母さぁん!」
「!?」
逃げ惑うMADの大群の中を1人の幼稚園児5歳くらいの男児が泣き喚いている姿を発見。逃げる事に必死なMAD。だが、その中でも抑えきれない食欲を爆発させるMADはいるわけで。
「お母さぁん!う、うわあ!?」


ガッ!

男児のボロボロのパーカーを引っ張り、軽々男児を持ち上げた1人のMAD。泣き暴れる少年を見上げながら唾液のつまった大きな口を開く。
「ハハッ!こんな所に調度良い飯が居たぜ!腹が減っては地球人との戦はできねぇって言うしな!」
「うわあああ!?やだやだ助けてお母さぁん!」
「ん、じゃあいただきます!」


スパン!!

「あ"、で?」
大きな口を開いたMADの頭が斬られ、ゴロゴロと転がった。頭は、逃げ惑うMADの大群に気付かれないまま蹴られゴロゴロと何処かへ転がっていく。


ドサッ!

「あ"ぁっ!」
MADの手から逃れられた男児がアスファルトに叩きつけられ、解放された時。


スッ…、

「!?」
男児の目の前に差し出された右手。男児が恐る恐る顔を上げると、其処には何とも無愛想でMADよりも怖い顔付きのアリスが居た。
「おい。大丈夫かガキ」
「ひぃい!MAD!?」
「誰がMADだこんのクソガキ!!」


ガコン、

「やべぇ!」
そんな事をしている間にもEMS軍戦闘機の発射口がこちらを向く。
「来い!クソガキ!」
「わああ!?」
男児を無理矢理引っ張り、ビルの中へアリスが男児と逃げ込んだ瞬間。


ドォンッ!ドンッ!

「うわああああ!?」
「くっ…!」
外ではレーザー攻撃の爆発音がしてビルの中に居ても地鳴りがして、ビルの中がまるで大地震のように揺れた。

































「…おさまったか?」
爆発音や攻撃音が遠退いた事により、アリスはビルの外へ出る。
外のあちこちで灰色の煙が上がり、地面には焼き付くされたMADの死体らしきものがそこら中に黒い影となって地面に付いていた。
「お兄ちゃん!」


ガシッ!

「おわ!?てめっ、いきなりくっついてくんな!ビビるだろーが!!」
アリスを追い掛けて外へ出てきた男児がアリスの腰に背後からしがみつけば、さすがのアリスもビクッ!とする。
「あ"ァ!?バッ、てめぇえ!泣いた顔制服にくっ付けんな!!てめぇの鼻水が付いてるじゃねぇか!!」
男児を振りほどくアリスは眉間に皺を寄せ、目頭をピクピクさせてイライラ。アリスと男児は再びビルの中へ入る。
男児はアリスのイライラなど気にもせず、ひたすら肩を上下にヒクヒクさせて泣いている。子供は大の嫌いなアリスもさすがに放ってはおけなくなったのだろう。腕組みをして壁に寄りかかり、煙草に火を点けてから話し掛ける。とても嫌そうに。
「てめぇ。父ちゃんか母ちゃんはいねぇのかよ?」
「うっ、ひっく。1ヶ月前から…僕1人…ひっく」
「1ヶ月前から?!その間飯とかはどうしてたんだよ!?」
「うっ、ひっく、ひっく、潰れたコンビニとか…スーパーに入って…泥棒してた…。ひっく、夜は…MADが居なさそうな山奥で…ひっく、寝てた…」
「マジかよ…。てめぇの父ちゃんと母ちゃんはMADに食われちまったってわけか」
「うんうん。違う…ひっく、ひっく」
「あァ?どういう意味だそれ」
「お父さんとお母さん…ひっく、僕を於いてどっか行っちゃったの…」
――食料がかかる事とギャーギャー泣き喚くガキがMADから逃げる際邪魔になって捨てたっつーワケか――
アリスの脳裏で、幼い自分と姉を於いていった両親の顔が浮かぶ。


ドガッ!

壁を蹴る。
「チッ!くそっ!どいつもこいつも!産むだけじゃ親って言わねぇんだよ!」
「うっ、ひっく、ひっく…」
「あ"ー!うぜぇ!いつまでもビービー泣いてんじゃねぇよ!」
アリスは男児と目線を合わせる為屈む。


ピンッ!

「痛いっ!」
少年の額を指で軽く弾く。
「男だろ?いつまでも泣いてたらかっこ悪りぃぞ」
「うっ、うっ…でもっ…お父さんとお母さんが居なくて寂しいよ…」
「あァ?父ちゃんと母ちゃんが居なくたって何とか生きていけるんだよ」
「無理だよぉ!」
「うるせぇなァ。ガキの時からそんなネガティブでどうすんだてめぇは」
アリスは立ち上がると、ビルの出入口へスタスタ歩いて行く。男児はヒクヒク泣いたまま動かず踞っている。アリスは立ち止まり、男児に顔だけを向ける。
「おい」
「え…?ひっく、」
「いつまで其処で泣いてんだ」
「え…?え?」
「いいからついて来いっつってんだよ!」
「え!?で、でも…いいの?お兄ちゃん?」
「いいっつってんだろ!何べんも言わせんな!」
ぱぁっ…!と顔がキラキラ輝いた男児はパタパタ走ってアリスにまたしがみつくから、アリスはイラッとして体を右へ左へ捻らせたり男児の頭を押して引き剥がそうとするのだが、男児は余程嬉しかったのか離れない。
「離れろっつってんだろこの鼻タレ小僧!」
「ありがとうお兄ちゃん!僕お兄ちゃんに会えて本当に良かった!」
「そのお兄ちゃんっつーのやめろ!俺はてめぇの兄貴じゃねぇ!!」
「ありがとう、ありがとうお兄ちゃん!」
満面の笑みなのにボロボロ涙が止まらず溢れる少年を見ていたら、イライラしていたアリスもはぁ、と溜め息を吐いて諦める。
――こいつみてぇな孤児が出ちまったのも、俺らがクソMADとのケリをつけられねぇせいなんだよな…――









































20時30分―――――


ドン!ドンッ!

普段なら真っ暗な夜空が広がっているはず。だがEMS軍が仕掛けた戦いにより、空は昼間のように真っ赤で明るい。
この辺りは一掃できた為か、あれからEMS軍の戦闘機は来ていない。だがまだ止む事のない戦争の爆撃音が、遠くから聞こえてくる。
そんな戦争の音に怯えながら1人、膝を抱えてガタガタ踞って廃墟と化したコンビニの裏口で身を潜めている男児。
「ほらよ」
「…!お兄ちゃん!」
男児の顔の前にビニール袋を差し出してやって来たのはアリス。しかしアリスの右頬には先程無かった切り傷があったから、男児は心配そうに見る。アリスは男児の向かい側に胡座を組んで腰をかける。
「コンビニよぉ、MADが支配した3ヶ月前から廃墟になっていたから食いもんは非常食の乾パンしか無かったんだわ。飲み物もまあ、あったんだけどよ。冷ケースに電気が通っていねぇからクソ温いぜ」
「お兄ちゃん…」
「あ?」
ガサガサ。ビニール袋の中から乾パンやコーヒー、ジュースの缶を取り出すアリス。
「顔の傷…どうしたの?ご飯探しに行った時MADと戦ったの?」
「まあ、ちょっとな。つーか、てめぇが何飲めるか分かんねぇからテキトーにジュース持ってきてやったからな」
「ごめんなさい…。僕の為にご飯探しに行ってくれたのに…そのせいでお兄ちゃんが怪我しちゃって…」
「うぜーうぜー。ガキは余計な心配しなくていーんだよ。オラ、食え」
「ありがとう…!!」
乾パンの袋を投げれば、キャッチした男児はいちいち目を輝かせて涙をポロリ流すからアリスは何だかむず痒くて、男児に背を向けてコーヒーを飲む。
――だ、だからガキは嫌いなんだよ…!――


























♪〜♪〜♪〜

「あ?」
「お兄ちゃんの?」
アリスの携帯電話から着信音が鳴り、携帯電話を見る。画面には【受信メール1件】の文字。
誰からなのか予想はつく。開けば、やはり風希からのメール。
【東京に着きました。何処に居る?】
「……」
アリスは返事は送らず、携帯電話をズボンのポケットの中へしまった。
――返信しねぇならアドレス拒否すりゃ良いのにな。何やってんだよ、俺…――
「おい。全然食ってねぇじゃねーか」
ふと、顔を上げる。男児にあげた乾パンの袋が全く減っていない事に気付いたアリス。
「何か…食べたくないんだ…。お腹はすごく減っているのに…」
「あァ?意味分かんねー!腹減ってんなら食えば良いじゃねぇか」
「変な味がする…」
「変な味?」
ぱくっ。
試しにアリスが食べてみるが…
「普通じゃねぇか。賞味期限も半年以上あるし腐ってもいねーぞ。さてはてめぇ金持ちの坊っちゃんか。こんな庶民の食い物は食えねぇってか?」
「うんうん…違う…」
「はぁ?ガキって分かんねー」
「火事場から残飯を漁る意地汚い地球人だねぇ!」
「!?」
頭上から声がしてバッ!と立ち上がり、上を見上げるアリス。コンビニの屋根の上には緑色の体をしたMADが6人。
「MAD…!!」


キィン!

左胸から黒い光をまとった剣を引き抜いたと同時にMADが一斉に飛び降りた。
「ギャッギャッ!やっと見つけたぜ食料!」
「EMSが攻めてきたせいで食料難なんだよこっちは!」
「おとなしく食われな地球人!」
「う、うわ、うわわわ…まままMAD…!?」
「下がってろガキ!」
男児の前に立ったアリスは剣を振り上げる。
「雑魚が!てめぇら化け物は餓死より俺様に木っ端微塵にされる死に方の方がお似合いだぜ!!」


スパン!スパン!


「ギャアアア!?」
次々とMADの足や腕を斬りつけていくアリス。
「こここ、こいつよく見ればEMSの制服を着ているよ!」
「げげっ!軍人かよ!?逃げるぞ!」


ズズズッ…、

逃げようとするMADを黒い光が逃がすまいと覆う。
「なっ…!?」
「人様に喧嘩売っといて逃げるだァ?」
剣を振り上げたアリスは戦いを楽しみ、満面の笑み。
「ケリつける根性がねぇ奴は引っ込んでいやがれ!」
「ヒ、ヒィイイ!!」


ドッ…!

「ん…なっ…!?ガキ…!?」
背後からした気配に寸の所で気付いたアリスは、ギリギリだが回避できた。自分の後ろに隠していた男児からの攻撃を。

























「なっ…!?ガキ、てめぇ…!?」
「ううううっ…!」
男児の右腕は緑色に変色し赤い爪でアリスに攻撃しようとしたらしい。アリスが回避した為、男児の腕ごと壁にめり込んでいる。男児は目を真っ赤に光らせ獣のように唸っている。アリスの声は届いていない。その姿はまるで…

『お父さんとお母さん…ひっく、僕を於いてどっか行っちゃったの…』

「ハッ…!」
男児が先程言っていた言葉を思い出したアリス。
「てめぇの親父とお袋がてめぇを捨てたのはガキが煩わしいからじゃねぇ、てめぇがMAD化したからなのかよ…!!」
――だから乾パンが不味く感じたのか?でも俺は普通の食い物が不味くは感じねぇぞ?――
「余所見はいけないんじゃなぁ〜い軍人さん?」


ドガッ!

「ぐあっ!」


ズザザザザ!

背後からMADに頭に蹴りを食らっただけなのに、アリスは吹き飛ばされてしまった。
「くっ、そ…!」


ドスン!

「ぐあぁ!!」
間髪入れず、次はコンビニの屋根からアリスの上に飛び降りたMAD。


バキバキッ!

「ぐあああああ!」
その衝撃で、アリスの腕や肩の骨が折れる生々しい音がした。
「アハハハ!良いわぁその叫び声!もっと聞かせてちょうだぁ〜い!」
声は男だがフリフリのピンクのワンピースを着たMADを睨み付けるアリス。
「こんのっ…、気持ち悪りぃんだよ…カマ野郎…!ぐあああああ!!」
更に体重をかけるMAD。アリスは目を見開き叫ぶ。

























「うふっ!ねーえ。この男連れ帰ってもいーい?ゆっくりじーっくり食べて味わいたいわぁ!」
「アハハハ!お前は本っ当に気持ち悪いな!」
「やあね〜!アタシはこういうワル系の男が好みってだけよ!それに、そっちの子供。MAD化した地球人っていう新種の味も気になるじゃなぁい?」
「じゃあ帰って指1本1本切り離して味わおう」
「賛成ー!」
オカマのMADとその他男性MAD2人は暴れる男児を抱え、オカマMADはアリスを引きずる。
――くっそ…!骨がイっちまって体が動かねぇ…!――
目の前が真っ暗になり、アリスは気を失う。
「さぁて、久々のイケメンたぁ〜〜んと味わわせてもらうわ♪」


♪〜♪〜♪〜

アリスの携帯電話から着信音が鳴る。だが、気を失ったアリスは出る事はできず。携帯電話にはメール1件受信。の文字が。送信者は風希。
文面は…
【見つけた。今行く】





























to be continued...













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