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終焉のアリア【完結】
ページ:1




1ヶ月後、
MAD領日本―――――


くんくん。
辺りをキョロキョロ見回しながら匂いを嗅ぐ1人のスーツ姿のMAD。
「美味そうな匂いがするぞぉ?さては近くに飯が居るな?」
血のように真っ赤な夕焼け。匂いを頼りに、廃墟と化した住宅街の路地裏に体を滑り込ませて入っていく。
「んんん?行き止まりか」
しかし路地裏の奥は行き止まり。MADは顎に手を添えながら首を傾げる。
「おっかしいなぁ。確かに地球人の美味そうな匂いがぷんぷんするんだけどな」


スパン!

「ギャッ!?」


ゴロゴロ…、

MADの首がスパン!と突然斬れ、頭が地面に転がる。


ブシュゥウウウ!!

綺麗にすっぱり斬れた首の断面から緑色の血が噴き出せば、信号を送る脳が離れたMADの体はそのままバタン、と1人でに地面に倒れる。
「っとー」


タンッ、

路地裏の民家の屋根から飛び降り、黒い光を放つ剣を降り下ろす1人の青年。
「攻撃力は化け物そのものだが、知能はガキ以下だなクソMAD」
キィン!と剣を左胸にしまう青年アリス。
「さて、と…」
辺りを見回し、頭上を向く。いつの間に。民家の屋根にはざっと20数体のMADがアリスを見下ろしていた。
ニィッ。アリスは八重歯を覗かせて笑むと、再び剣を左胸から取り出す。
「かかってきやがれクソMAD!」


ドンッ!!

黒い光が辺り一帯を飲み込んだ。
































東京某所―――――

「ふむ」
「どうしたのぅドロテアー?」
パソコン画面を前に顎に手を添えて考え込んでいるドロテアに、後ろから抱き付いてパソコン画面を覗くシルヴェルトリフェミア。
「日本制圧後、EMS軍人のような攻撃力を持つ地球人は皆、アメリカ合衆国へ退散したはず。しかしここ1ヶ月程東京地区のあちこちで我ら同士が殺害される事件が増えております。そして今もまた21名の者が」
「そらだよ!きっとそらだよその人はっ!」
「いえ、残念ながら…。同士が大量に殺害されていた場所付近の防犯カメラに映っていたこの者が犯人と考えて間違いはないでしょう」
「ぶーっ!そらじゃないのぅ〜?シトリーやる気出な〜いっ」


カチ、カチッ、

マウスで防犯カメラ映像記録のファイルをドロテアが開く。
アップになって映し出されたのは、防犯カメラに映っていたアリスの顔。
「EMS軍所属地球人アリス・ブラッディ」


ガタン…、

立ち上がるドロテア。
「ドロテア何処行くのぅ」
「只今より、アリス・ブラッディ殺害を決行致します。我々の秩序の為」

























































同時刻。
EMS領アメリカ合衆国――

「あははは〜!超楽しいねぇ〜!」
「ちょっと!しっかりしてよ!!」
夕食を外で食べていたハロルドと鳥。店を出て駅へ向かっているのだが、泥酔状態ですっかり出来上がってしまっているハロルドは大声で喋りながらとても楽しそうにニコニコして、あっちへフラフラこっちへフラフラ。こんな彼を見た事が無い鳥は呆然。ハッ!として声を掛ける。
「危ない!其処、」


ズボッ!

「痛だーーっ!!」
深い側溝に左足ごと落ちてしまった為、予期せぬ事態の衝撃で思いきり塀に体を打ち付けたハロルドは塀をドンドン叩いて側溝相手に怒っている。酔った真っ赤な顔と虚ろな目で。
「もーー!何でこんな所にそっこーがあるんだよぉ」
「いいから!うるさい!早く帰ろう!」
「ままーあの人何で落っこちてるのー?」
「シッ!見ちゃいけません!」
「わ〜!可愛いねお嬢ちゃん〜!」
通りがかった親子連れの女児に指を差されている事など気にもせず、子供好きなハロルドは側溝から足を外し、女児と目線を合わせて屈む。鳥と女児の母親は顔がひきつっている。
「お嬢ちゃんいくちゅ〜?」
「きゃー!ままー!このお兄ちゃんお酒臭いよ〜!」
「だから言ったでしょう!ああいう変な人に声掛けちゃいけません!ほら!行くわよ!」
「あ〜行っちゃったぁ」
酒臭さに女児が母親に抱き付くと、母親は女児を連れて駆け足でこの場を去って行った。残念そうにするハロルドの右手をガシッ!と掴んだ鳥は駅の方へ歩く。ハロルドをズルズル引きずって。
「小鳥遊鳥ちゃあ〜ん〜何処行くの〜??」
「うるさい酔っ払い!電車乗って本部に帰るの!」
「え〜!僕まだ次の店とその次の店と更にその次の店梯子したいんだけどぉ〜」
「駄目!!」
――大人ってかっこ良いって思ったあたしが馬鹿だった!こんなべろんべろんに酔って、大人ってかっこ悪い!!――
ズルズル。自分の+40cmはある身長と格の成人男性を駅まで引きずるから鳥ははぁはぁ息が上がりっぱなし。
「はぁ〜それにしてもさっきの女の子はエミリアちゃんにそっくりで可愛かったなぁ〜」
「?エミリアって誰」
「エミリアちゃんほんっっとぉーに可愛いぃ〜!」
ムカッ。
全く聞いていないハロルドに目頭をピクッとさせる鳥だが、酔っ払いには何を言っても無駄だと察したから、怒るのも喋りかけるのもやめた。


























電車内―――――


ガタンゴトン…
ガタンゴトン…

「うぅ〜まだ飲み足りないよぅ〜」
「うるさいっ」
人も疎らな夜の電車内。この車両には2人以外居ない。横長の座席に並んで腰かける。
はぁ、と幻滅した溜め息を吐いて車窓の外に目を向ける鳥。海の上の鉄橋を走る電車からは、まるで古城のような外観のEMS軍本部が見える。本部のオレンジ色の灯りが、真っ暗な闇夜にボウッ…と浮かんでいて幻想的。景色に鳥が見惚れていると。


ガクン、

「!?」
急に自分の左肩が重くなったので、嫌な予感がしてそーっと隣を見ると。
「……」
案の定、うとうとしているハロルドが無意識に鳥に寄りかかっていた。
「はぁ」
溜め息を吐きつつも少し頬を薄ピンクにする鳥。
「こんな人だと思わなかった。普段真面目な人程酔っ払うと本性が出るって言うもんね」
「うぅ〜?ん〜?そうかなぁ〜あははは」
何も面白い事など言っていないのに、1人で楽しそうにケラケラ笑っている。
「…風希ちゃんの事好きだったんだね。最近そんな感じしてたけど。ちょっと意外」
「ん〜意外かもねぇ〜自分でもびっくりだよぉ〜」
「アリスが居ない時に近付くなんて、案外腹黒いんだね」
「そんなんじゃないよぅ〜!!」
ハロルドは虚ろな目を少し開ける。その目はとても寂しそう。
「僕にとってアリス君も風希ちゃんも大切な人だから〜…もう捨てたよ風希ちゃんへの感じょ…、うぅ〜〜!」
「?!ど、どうしたの」
突然ガバッ!と自分の両手で自分の顔を覆った彼に、目をギョッとさせる鳥。
「うぅ〜でもやっぱり風希ちゃんに会いたくないなぁあ〜…。あ〜、アリス君モテモテでいいなぁあ〜来世は僕、アリス君になりたいです〜」
「……。ならなくていいよ。そのままでいい」
「え〜〜?」
ハロルドが顔を上げるとすぐ近くに鳥の熱っぽい顔があって、普段ならギョッとして逃げ出すであろうハロルドも泥酔中の為か、虚ろな目をぱちくりさせるだけ。鳥の顔をまじまじ見ている。
「風希ちゃんとは全然似てないけど、あたしは風希ちゃんの妹だから。あたしでも良いでしょ」
「ん〜〜?え〜っとぉ…小鳥遊鳥ちゃんどういう意味かなぁ〜?」
「あたしの事、風希ちゃんもファンも相手にしてくれないの。花月も居なくなっちゃったし。ハロルドだけだよ、優しいのは。だからあたしも優しくしてあげる」
「ん〜〜?でも小鳥遊風希ちゃんとファン君も優しいよ〜?」
「優しくないもん。あたしが寂しいの分かってて相手にしてくれないんだもん。みんな嫌い。…でもハロルドは優しいから好きになれるかも。ねぇ、誰も居ないし。ちゅーしよう」
「あははは〜!ちゅ〜かぁ〜した事無いなぁ〜!じゃ・あ〜!ちゅ〜しよっかぁ〜!あはは!」
――酔って我を失ってる人相手になんて姑息なの最低な女、って思われるのなんて分かってる。でももうあたしに優しくしてくれる人が居ないんだもん。仕方ないじゃん…!――
「んん〜?あれ〜?でもお付き合いしてないのにちゅ〜ってしても良いんだっけ〜?」
「いいよ。へーき」
「あっ良いんだっけぇ〜?あはは〜」
目を瞑って顔をちょっと突き出す体勢のハロルドに罪悪感を抱きながらも鳥も目を瞑り、唇をちょっと突き出す。
「ハロルドはあたしの事好き?」
「ん〜。でも、可愛いなぁって最近ちょっと意識しちゃうんだぁ〜小鳥遊鳥ちゃんは〜?」
「…分かんない」
「あはは〜〜!何か悲しい〜!」
――酒臭っ…――
互いの唇が重なる一歩手前。


♪〜♪〜♪〜

「あ〜!僕のケータイだぁ〜!」
ハロルドの携帯電話から陽気な着信音が鳴り、パッ!と顔を離し、発信者名も見ずに電話に出る。
がっくり呆れて肩を落とす鳥は、座席の背もたれに力無くもたれる。
「はぁ〜何なのこのギャグ漫画みたいな展開!もー!」


























一方。
「はぁい!もっしもぉ〜し〜」
ヘラヘラ笑いながら電話に出たハロルド。
「先日は随分な真似をしてくれましたね烏…」
「!!」


ドクン…!

聞き覚えがある女の低い声に、目を見開いたハロルド。一瞬にして酔いが覚めた。

『きゃあああああ』
『先生先生助けて!先生!』

たくさんの幼児達が泣き叫び、自分へ小さな腕を伸ばして助けを乞う忌まわしき記憶がフラッシュバック。
携帯電話を持つハロルドの右手がカタカタ震えている事に気付いた鳥は首を傾げる。
「ハロルド?どうかし、」


ブツッ!

「?」
一方的に携帯電話の電源を切る事で、通話を終わらせたハロルド。先程までのヘラヘラしていた酔いはすっかり覚め、顔を真っ青にして下を向いて震え出すから鳥も異変に気付かないはずがない。
「ハロルドどうかしたの。誰から電話。ねぇ、」
「終点EMS軍本部前ー、EMS軍本部前ー。お降りの方はお忘れ物の無いようご注意下さい」
調度よく鳴った電車のアナウンス。そしてちょうどよく駅に着いた電車。ハロルドは立ち上がり、そそくさと電車を出て行く。
「た、小鳥遊鳥ちゃん駅に着いたみたいだね!じゃあ帰ろうか」
「ちょっと!待てっ!」
誰からの電話だったのか、何故突然顔を青くしたのか。問い質してもヘラヘラ笑って誤魔化すだけのハロルドはさっさと自室へ戻るから、鳥はムカムカしながらも自分も自室へ戻って行った。


パタン…、


























































AM0時00分―――――


ガチャ、

「ハロルド」


ビクッ!

結局ハロルドの部屋へ訪れた鳥がいつものnoノックでハロルドの部屋へ入れば。ベッドに腰をかけて窓の外を見ていたハロルドがビクッ!とする。部屋の明かりも付けてない真っ暗闇。窓の外から射し込む青白い星の明かりだけが頼り。


ギシッ、

鳥もベッドに腰をかけてハロルドの肩をトントン、と叩く。
「ねぇさっき誰からの電話だったの」
問い掛けには答えず、カタカタ小刻みに肩を震わせているだけ。
「ばつが悪くなるといつも返事しないよね」
「そうじゃないよ…」
「そうだよ」


ギシッ、

ベッドの軋む音がしたのは鳥がハロルドを仰向けに倒して上に乗ったから。ハロルドはハッ!として起き上がると、鳥を両手で突き放す。
「鳥ちゃん!」
「何。夜中に大きい声出しちゃいけないって月見ちゃんが言ってた」
「そ、そうだね。そうなんだけど!鳥ちゃんもう夜中だからお部屋に戻ろう。寝不足になっちゃうよ。ね?」
「やだ。子供扱いしないでよ。経験無いハロルドの方が子供なクセに」
着ているワンピースを鳥自ら捲って脱げば、ハロルドは目を見開いて動揺。
「鳥ちゃん!!」
下着姿になった鳥がハロルドに抱き付いて首筋にキスをすれば、散々「駄目だよ」と理性を保っていたハロルドもビクッ!として呼吸が少し上ずる。
痕が付くくらいキスを繰り返す鳥をハロルドは鳥の両肩をさっきより強く掴んで無理矢理引き剥がす。
「鳥ちゃんやめようよ!」
ハロルドは鳥が脱ぎ捨てた服をかき集めると鳥に着せようとするが、頑なに拒まれてしまえば無理矢理には着せられない。
「鳥ちゃん本当、寝よう。ね?」
「此処で寝る」
「そうじゃなくて鳥ちゃんのお部屋で寝ようね」
「何なのさっきから。子供扱いしないでって言ってるじゃん」
「そうじゃないよ、子供扱いなんてしてない。でもこの前言ったよね?こんなの鳥ちゃんには良くないし、小鳥遊花月君が可哀想になるって」
「でもあたしも言ったじゃん。花月は"血の繋がった自分じゃ幸せにできないから他の誰かが幸せにしてくれ"って言ってたって。花月の事は好きだよ。悪いけど、ハロルドより好き。でも今はハロルドがいいの」
上唇にトン、と指を置く。相変わらずハロルドは眉間に皺寄せて口をへの字にぎゅっ、と閉じている。
「好きかどうか分かんないってさっき言ってたじゃん…」
「ハロルドのクセに口答えするの?あたしはあたし自身が寂しいからっていうのもあるけど、ハロルドが風希ちゃんにフラれて可哀想だと思って言ってもいるの」
「小鳥遊風希ちゃんの話はもういいよ!」
「ふぅん。でもよくやるよね。誰がどう見ても風希ちゃんはアリスが好き。アリスは風希ちゃんが好きじゃん。ハロルドも分かってたんでしょ?」
「だからもういいよ!!」
「アリスと友達なんじゃないの?なのに、アリスが行方不明の間によく風希ちゃんに近付けたよね。優しい人程何考えてるか分かんないって言うからハロルドはまさにそれだね。怖い人」
「っ…!!」


ガタン!

ハロルドは珍しく怒りを露にして、椅子を思いきり蹴り倒す。だが鳥はわざと挑発をしたからだろう、平然としている。


























「夜中だよ。うるさいよ」
「っ…帰ってほしいんだ…自分の部屋に…」
「ふぅん。でもあたしなら寂しさを紛らわせてあげられるのに」
そう言って鳥はハロルドをベッドに座らせて、膝の上に跨がる。
首に両手を回して顔を覗き込んだら、眉間に皺を寄せて鳥の事を睨んでいるハロルドが居て少し驚く鳥。だが、彼のこんな目など風希から比べたら全く怖くないのだろう。鳥はやはり、平然としている。
「……」
「ハロルド、しようよ。ね?あたしが全部教えてあげるから。いいでしょ?」
「……。僕は」
「何?」
「付き合っていない人となんて絶対にできない」
「そ。じゃあ付き合って。今からあたしが彼女ね。これなら良いんでしょ」
「……」
ハロルドの首筋にまたキスを落としていく。首に抱き付きながら。
「ハロルドもして。でも痕が隠れるトコね。風希ちゃんに見つかったら怒られるから。ハロルドは首筋なら制服で隠れるから良いでしょ?」
「……」







































3月の後半とはいえ、まだ冬の寒さが残っている。毛布をかけたベッドの中で重なる2人。
束の間の平和な静寂に包まれた深夜の室内にはベッドの軋む音。彼女の甘い声。上がる息の音が規則的に聞こえてくる。深い口付けを何度も交わした後、シーツに爪を立てる鳥から甘い声が規則的に聞こえ出す。
「んっ、ん!はぁっ、ハロ本当に26年間彼女できた事無いしえっちもした事無かったの?」
「無いよ。全然モテなくて」
「超意外。優しくてかっこいいのにね。ぁっ!そういやハロの事っ…、あっ!全然知らないやっ…、これからたくさん教えてねっ、」
「うん」
「ねぇ。どうして花月みたいにいっぱいキスしてこないの?あたし魅力無い?」
「鳥ちゃん」
「何?ハロルド?」
「他の男の名前出さないで」
意外な事を言ってきたハロルドに、鳥は瞬き。笑いながら首に絡めた腕で抱き寄せる。
「嫉妬しちゃうんだ。意外だね。普段は良い子なフリしてるんだ」
「っ…、違うよ」
「違うか。そうかも。そうだね。優しいもんね」
最中にふと、視界に入った壁にかけられているハロルドの制服を見たら、平和なこの時間はもうすぐ終わり、やがてまた彼はこの制服を着て戦場へ出る。そして自分も…。そう考えてしまったら現実に引き戻される感覚が酷く恐ろしくなる。
――戦いたくなんてない。普通の女子高生でいたかったのに。なのに何であたしは戦わなくちゃいけないの?――
そんな恐くなる事は頭から掻き消して、今この刻だけを考える事にした鳥。
「鳥ちゃん、好きだよ」
「あぁっ!あっ!!」
「鳥ちゃん」
「ぁっ、ハロ、ハロすきっ」
「やっと言ってくれた」
「えっ?」
「僕も鳥ちゃんが好きだよ」
先程までの怒った顔ではなくいつもの気の弱そうな優しい笑顔を向けるハロルド。だが、理性が吹き飛んだ鳥にはハロルドの言葉は遠くで聞こえる。何を言っているのか分からない様子でただただ甘い声を上げ続けている。
「始めは、小鳥遊花月君が可哀想だし、何よりも、本当に好きじゃない人と付き合う事なんて鳥ちゃんに良くないと思っていたよ。でもここ1ヶ月くらい…かな。鳥ちゃんと一緒に居たこの1ヶ月、鳥ちゃんの寂しさが満たされたかは分からない。でも、僕は本当に楽しかったし嬉しかった」
「あっ!ぁあん!」
「こんな経緯じゃ良くないだろうけど…。鳥ちゃん。僕とずっと一緒に居てほしいんだ。僕、頑張って幸せにするから」
「あぁっ!あ!」
「ち、鳥ちゃん聞こえてる?!」
真面目な話をしているのにあまりにも話が聞こえていない鳥。顔を真っ赤にしたハロルドは鳥を膝の上に抱っこする。






















膝の上に乗っている鳥の方が目線が高く、鳥は熱っぽい目で口に手を添えながら見下ろす。ハロルドは鳥をきゅっ、と抱き締める。抱き締めてきたハロルドの肩が少し震えていた事に気付く。
「こんな事を言うのは女々しいけど、嫌いにならないでほしいんだ。鳥ちゃんに偉そうに注意しておきながら、本当は僕も小鳥遊風希ちゃんにフラれちゃって寂しかったんだ。そんな時、鳥ちゃんから遊びに行こうって誘ってもらえて正直すごく嬉しかったんだよ」
「っ、はぁっ…、んっ…。そうだったんだ…。やっぱハロも寂しいってなるんだね。いつもニコニコしてるから、分かんなかった」
「鳥ちゃんは別に僕なんかじゃなくても良い事も勘付いていたし、小鳥遊花月君みたいにはなれない…。それに、鳥ちゃんが小鳥遊花月君を忘れられないのと同じで、僕も実はまだ小鳥遊風希ちゃんを忘れられない。でも今は鳥ちゃんが隣に居てくれる毎日がこのまま続けば良いのにな、って思ってるよ。せっかく鳥ちゃんが僕の所へ来てくれたんだから、鳥ちゃんは僕の事を何とも思っていなくても良い。僕が一緒に居る事で笑顔になれるなら頑張りたいって思ったんだ。…って、実際言うとクサいね!ご、ごめ、んんっ!?」
言葉が遮られる程の舌を入れた深いキスを鳥からする。口を離したら目をぱちぱちするハロルドを見下ろしながら体に触れる。指を体に伝わせ、だんだん上へ。最後唇にトン、と指を置いて。
「じゃああたしの事。花月より満足させて。でもあたしだけじゃ悪いから、あたしもハロの事満足させてあげる。風希ちゃんなんて忘れちゃうくらいね」

































AM2時00分――――

「はぁっ!あ!ハロ、も無理っ…!」
乱れて汗で顔に張り付いた鳥の前髪を手で分けながら額と額をくっつけ合わせれば、ハロルドの金色の睫毛と鳥の藤色の睫毛が重なり合う。呼吸が荒く疲れきっている鳥は甘い声を上げ続けながらも意識が朦朧としているから、限界が近いのだろう。ハロルドが両手を差し出せばきつく握ってくるから、ハロルドも握り返す。
「MADなんかにもう怯まない。もう守れないなんて嫌なんだ。鳥ちゃんが安心して生きれる世界を作るよ」
「あ、あっ、すきっ、すきっ」
「僕も、」
「花月…花月っ、花月すきっ…」
「……」

























































AM5時00分―――――

「ん…」
ぱちぱち。瞬きをする鳥。いつの間にか寝てしまっていたようだ。ベッドの中でもぞもぞ動きながら、閉まったままのカーテンに目を向ける。窓の方を見たらまだ暗い。伸びをして隣を見ると、ハロルドも毛布にくるまったまま本を読んでいた。
「おはよ」
「わ!?」
ハロルドがかけている黒縁眼鏡を鳥が取りながら朝の挨拶を言えば、とても驚いている。
「おはよう」
「うん。何読んでるの?」
「ん?小説だよ」
「ふぅん。あたし小説無理。字がいっぱいなんだもん。漫画が好き」
「あはは。漫画の方が読みやすいもんね」
ハロルドの右腕に両腕を絡める鳥。ハロルドはまだドキッとして、耳まで真っ赤だ。
「昨日ってか今日か。ごめんね。あたし無理言って」
「うんうん。大丈夫だよ」
「ハロまたしようね」
「うん…」
「?」
寂しそうに目を反らして下を向いたハロルドに、鳥は首を傾げる。
「あとまたお買い物したりご飯食べに行こっ。あたしとハロは恋人同士だもんね。あ。でももう居酒屋はダメね。ハロ泥酔するから」
「あはは。ごめんね。お酒はどうも好きでつい飲み過ぎちゃって。気を付けるね。……。あと…僕からも良いかな」
「え。何?」
普段自分から意見を言わない人が口を開くから、鳥は妙に緊張してしまう。
「あ…やっぱやめよう」
「え!?そういうの一番やだ!そこまで言ったなら言ってよー!」
「う、うーん」
「ハロは言わな過ぎだから言って大丈夫だよ」
ハロルドは鳥の方は見ず、小説にだけ顔を向けて寂しそうに呟く。
「してる時は小鳥遊花月君の名前出さないでほしい…かな」
「え!?あたし言ってた?」
縦に頷くハロルドを見て目を見開き驚く鳥。
「嘘!?言ってた?言ってないよ」
「えっとね…最後の方かな。鳥ちゃんが疲れて寝ちゃうまで。ずっと言ってた…かなぁ」
――…やばい。超無意識だった。てゆーかその頃もう半分意識とんでたから、だからきっと無意識の内に花月の名前呼んでたんだ…――
相変わらず小説にばかり顔を向けているハロルドの顔を覗き込む。
「ごめんね。あたし無意識だった。わざとじゃないよ。本当にごめんね」
「うんうん。僕もごめんね。聞いてないフリをすれば良かったね。なんか…女々しいよね。ごめんね」
こんな時までニコニコ笑ってくるから、胸が痛む。
「ハロは悪くない。あたしが悪いの。ごめんね。あたし本当無意識で。気分悪くさせたよね。ごめんね」
「僕は大丈夫だよ。でも…」
「でも?」
またニコニコ笑う。だがとびきり寂しそうに。
「僕達やめた方が良いのかなぁ…」
「え…」
沈黙が起きる。時計がカチカチ時を刻む音だけ。

























「なんてね!」
ハロルドは毛布から出ると下着を着て、制服のズボンを履いてから水色のワイシャツに腕を通す。
「嘘うそ!僕はもう鳥ちゃんが一番好きだし。鳥ちゃんは…」
「え…」
「鳥ちゃんは僕の事好きかな」
――やっぱりその寂しそうに笑うの…反則だよ。分かっているからそうやって寂しそうに笑うんでしょ。あたしが本当は誰を一番好きか分かっているからそうやって寂しそうに笑うんでしょ…――
「す、好きだから付き合おうって言ったんじゃん!今更馬鹿みたい!もう寂しいから寂しさをまぎらわす為に抱いてほしいとかじゃ…な、無いっ!そういうの聞くの女の方だよ。女々しいのやだ」
「ごめんね」
えへへ、と笑う。本当寂しそうに。だから鳥は見ていられないしどういう顔をしたら良いか分からないからわざと背を向けた。
ハロルドに下着をつけてもらい服も着せてもらうとベッドから出る鳥。最後、髪飾りを付けてくれる。花月がくれた髪飾りを。
「鳥ちゃん。ファン君に言わないでね。ファン君は僕と鳥ちゃんがお出掛けする事も良く思っていないみたいだから…」
「あたしも風希ちゃんには言わないで。風希ちゃん怒って鎌振り回してきそうだから」
「あはは。そうだね」
「あ。やばい。もう6時になる。部屋戻らないと」
「え?」
「風希ちゃんがね。6時くらいになると見回りに来るんだよ。小鳥遊家に居る頃からそう。あたしが夜遊びに行ってないかチェックしに来るの」
「あはは。鳥ちゃんの事が心配なんだよ」
「どうだかって感じ」
バタバタ慌ただしく部屋から出ようとした時後ろから肩を遠慮がちにトントン、と叩かれて振り向く。
「何?」
「鳥ちゃんぎゅってしていい?」
「え!?やだもう!ハロからするって言われるとびっくりする。散々ダメって言ってきたくせに!いいよっ」
ぎゅっとしながら髪を優しく撫でる。
「鳥ちゃん何回も聞いてごめんね。聞くの最後だから…。鳥ちゃんは本当に僕の彼女かな?」
「……。彼女だよ」
「良かった」
ハロルドからキスをしようとすれば、鳥は一瞬目を見開いてからふいっ、と背を向けてしまう。あからさまに避けたわけではないが、背を向けられてハロルドは目を少し見開く。だがそれ以上しようともせず、何故避けたかも問い質さず。ハロルドは扉を開けて「どうぞ」と言いながらいつもの笑顔。
「ハロルド。また後でね」
「うん。あ〜何か今更2日酔いがきちゃった。頭痛いからもう一眠りしようかな」
「ふふ。飲み過ぎダメって事だね」
「そうだね」
バイバイ、と手を振りながら鳥が部屋を出れば、まだ寝静まった廊下を走って行く。エレベーターが着いてエレベーターの扉が閉まり鳥が見えなくなるまで彼はいつもの笑顔で手を振ってくれていた。





























エレベーター内――――

「ごめん…あたしやっぱり…」




























































AM7時30分、
エントランスホール――

「これから日本へ救出任務にあたる隊員の点呼をとる。始め!」
「1!2!3!4!」
ファンの低い掛け声を合図に点呼をとる低く勇ましい声達がエントランスホールに響き渡る。
軍人50名が整列し、点呼をとっている。彼らは今日日本へ、未だ取り残されている地球人の救出任務にあたる者達だ。
「うぅ"…頭痛い…」
「自業自得だ。私は一切心配しないぞハロルド」
「ごめんなさい…痛っ…」
隣で頭を押さえて俯くハロルドの方に顔は向けず、点呼をとる部下達を厳格な顔付きで見ているファン。
「小鳥遊にはっきり伝えたのではなかったのか」
ハロルドにしか聞こえない声で話しかけるファン。
「言ったよ〜…あ"ー痛い…」
「その割りに任務前日に夜分遅くまで逢い引きか」
「だから本当にお友達としてご飯だけなんだってば」
「嘘を吐くな。全部知っているんだぞ。夜遅く、お前の部屋に小鳥遊が来ただろう。私の部屋とお前の部屋とは隣室だからな。お前の部屋から聞こえた話声で分かった」
「……」
相変わらずこちらが反らしたくなる程真っ直ぐ目を見てくるファンに、ハロルドは少し機嫌が悪そうに口を尖らせながら目線を下に向けて腰に手をあてている。
「お前は私達同期の中で階級も上位で性格は温厚で。同期といえど、私は尊敬すらしていたんだ。だが最近のお前はどうだ。小鳥遊に誘われたとしてもはっきりと断り、そして注意してやるのが大人というものではないのか」
「ファン君には関係無いよ。それに、僕達付き合ったから」
「それならばまだ良い。付き合いもしていないというのに未だなあなあな関係を続けていると思っていたからな。だが、一つ注意させてもらう。いくら恋人関係とはいえ小鳥遊はまだ学生だ。ちゃんと避妊はしてやったんだろうな」
「根掘り葉掘り聞かないでよ…」
「見損なったぞハロルド」
「…ごめん」
ハロルドの不貞腐れた謝罪など謝罪と捉えられないのだろう。ファンは無視をする。
「点呼はとり終わったようだな。では各自外に出てから、先日説明した通り最新鋭戦闘機に乗り込む事。出動命令があるまで機内で待機。良いな」
「はっ!」
綺麗に揃った部下達の返答に、ファンは腕組みをしながらうんうん、と満足そうに頷いていた。

































部下達を待機させたファン達今作戦指揮官は別室のモニタールームでモニターを取り囲む。指揮官勢はハロルド、ファン、風希。
あからさまにハロルドから離れている風希をチラチラ気にしつつも、公私混合はいけないと割り切るハロルド。
モニターには、先日東京へ地球人救出に向かった軍人がその際録画してきた東京の映像が映し出されている。賑やかな大都会は相変わらずだが、ビルの広告にはMAD達が写ったドラマのポスター。街の大型モニターにはMADがビールを飲んでいるCM。そして何より、MADだけが行き交っている街。
「化け物が…」
眉間に皺を寄せて怒りを込め、呟く風希。


プツッ、

リモコンでモニターの電源をきるファン。
「先日東京へ救出任務に向かったD隊25名の内、無傷での帰還者は8名。重傷者11名。死者6名だ」
「MADの総本山があるだけあって…中東アジアの戦力なんてものじゃない戦力…日本のMADは…」


ギシッ、

パイプ椅子の背もたれに寄りかかり腕組みをするファン。
「そのようだ。D隊には中尉以上の人間で構成させたのだが、死者全員が大尉や少佐クラスの人間だ」
「部下を庇ってかな」
「うるさい…黙ってダメ男…」
「ダ、ダメ…!?えっ!?ダメ男!?」
ハロルドが会話に入ってすぐ、風希からのキツイ一言が下される。ハロルドは目を見開き、自分を指差しながら風希を見る。
「ぼ、僕の事かな?!」
「そう…。お友達としてなんて言いつつ…鼻の下を伸ばして女について行った…ダメ男…。気持ち悪い…視界に入らないで…」
「じゃあ僕は一生、異性と外出しちゃいけないのかな!?」
「おい。話を脱線させるな」
「ご、ごめんね…」
「はぁ」
ファンは腰に手をあてて溜め息。
「我々の最新鋭戦闘機にはステルス機能を導入している為、MAD側のレーダーに感知されにくい。だが、完璧に感知されないというわけではない。東京に着き次第、すぐに救出作戦を決行する」
「うん」
「分かった…」
「そして…アリスの事だが」


ピクッ。

無表情ではあるが、一瞬体がピクッと反応した風希。


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