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終焉のアリア【完結】
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ザァー…

降り止まぬ雨。
「はぁ、はぁっ」
バシャバシャと水溜まりの地面を、服が濡れる事も気にせず走る一行。
「ギャッ!ギャッ!そんなに急いで何処行く?地球人さんよォ!」


ドスン!

「!!」
ビルの上から一行の前に立ちはだかるようにして降りてきた1体の巨大MAD。
「邪魔だ」


ゴオッ!

ファンが翳した手の平から炎を噴き出し、その間に前へ進む一行。炎に包まれたMADの脇を風希が走り過ぎる。


ガッ!

「っ…!?」
炎の中から出てきたMADの右腕が風希の首を掴み持ち上げた。風希は顔を歪める。
「小鳥遊風希ちゃん!!」
風希の前を走っていたハロルドは引き返し、風希を助けに駆け出す。
「小鳥遊流奥義…鎌鼬」


ザッ!ザッ!

「ギィヤアアアア!!」
鎌であっさりとMADをぶつ切りにした風希はストン、と地面へ降りる。
MADは炎の中でぶつ切りにされたまま、まるでサイコロステーキのように焼かれていった。
「小鳥遊風希ちゃん強いね」
「……」
何事も無かったかのようにスタスタと歩いて行ってしまう風希にハロルドが声を掛けても無反応だったから、ハロルドは苦笑いを浮かべていた。
































住宅街―――

「表札が外れている。MADの襲撃に関わらず、元から廃墟なのだろう」
あれからMAD達と遭遇し何度か交戦し、ようやく逃れてきた住宅街。
表札がかかっておらず古びて生活感の無い1軒の家のドアを開ける。
「こ、こんにちはー…」


ガラガラ…


しーん…

引き戸を開けたが返事は無し。この家に限らず、どの家にも人の気配が無いが。
「よし。では此処をryo.と佐藤を匿う場所にしよう」
ズカズカと入っていくファンの制服の上着を後ろから引っ張るハロルド。
「いくら無人だからって躊躇い無く勝手に入っちゃ駄目だってばファン君!」
「躊躇おうが躊躇まいが結局入るなら同じ事だ」
「うっ…。そ、そうだけどさー、もうちょっとこう…ねぇ?小鳥遊風希ちゃん」
「私にばっかり…同意を求めないで…。自分の意思が無い人…嫌い…」
「ご、ごめんね」
ズカズカとファン同様入っていく風希の横で頭を掻きながら笑っていたハロルドがどこか寂しそうに見えた鳥は、隣の花月にヒソヒソ声で話す。
「ねぇ花月」
「ん?何?」
「アリスが居なくなってからやけに風希ちゃんに喋りかけてない?」
「え。誰が?」


ぎゅっ!

花月の足を踏む鳥。
「痛っ!?」
「ハ・ロ・ル・ド!」
「あ、ああ…そうかなぁ」
「どう見たってそうじゃん!あたし達と合流した時からずっとチラチラ、風希ちゃんの事ばっかり見てるよ。風希ちゃん全く気付いてないけど。風希ちゃんモテるんだね」
「だねー」
「でもハロルドは知らないんだよね。風希ちゃんも何でかMAD化している事」
「うん」
「ここ最近MAD化覚醒していないけど…風希ちゃんどうなっちゃうのかな」


きゅっ…、

花月の上着の裾を引っ張りながらくっつく鳥。
「花月はMADになっちゃ駄目だよ」
「はは、大丈夫だよ」






































「よし。ではお前達は此処に居ろ。私達はMADとの戦闘、」
「ぐ、軍人殿!!」
「軍人殿?」
ryo.の震える声に振り向く一行。ryo.はガタガタ震えているが唇を噛み締め、左胸に手をあてる。
「わ、私にも行かせて下さい!!」
「はあ…?死にたいの…?」


キィン!

ryo.に鎌を向ける風希。
「ヒ、ヒィイイイ!!」
そんな風希の前に出るハロルドとファン。
「恐がらせてごめんね。うんと…民間人のryo.君と佐藤友里香さんにはMADもいない安全なこの家の中で待っていてほしいんだ。どうして、行かせて下さいなんて言ったのかな?何か理由でも…」
「私の両親と兄がMADに殺されたのです!!」
「…!そっか…本当ごめんね。僕達が不甲斐ないばかり、」
「私は仇を討ちたい!!最終的に自分が死んだとしても仇が討てればそれは本望!私に家族とそして…タクロー氏の仇討ちをさせて下さい!」
ryo.は床に額を擦り付けて土下座をする。
「お願いします!!」
「ryo.君それは…」
「無理に決まっているだろう」
「!」
きっぱり言うファン。
「ファン君…」
「ハロルド。こういう馬鹿者にははっきり言わなければ分からない。だが言ったところで恐らく反論してくるだろう」
「何故ですか!!」
「ほらな」
首を横に振って呆れるファン。目をカッと見開き声を荒げるryo.に、ハロルドはオロオロ。
「私みたいな一般人…しかもその中でも運動オンチな私みたいな人間がMADにかなうはずがない事は分かっています。けれど!仇討ち一つできず生き残ったって、それを生きているとは思えません!生きながらにして死んでいるのと同じです!!」
「仇討ち?ではお前はお前の家族を殺めたMADの顔を覚えているのか。コイツだ、と特定できるのか」
「え…そ、そ、それは…」
「分からないだろう。ならばお前の言う仇討ちは全てのMADを倒すという意味になる。できるか?」
「っ…、」
口ごもり、下を向くryo.。
「ファン君!」
「分からせてやっただけだ。ならハロルド。お前はryo.を戦場へ赴かせると言うのか」
「それは…できないよ」
「ならば口を挟むな。お前のそういう優しすぎるが故の優柔不断が戦場では短所だ」
「…ごめん」
少し口を尖らせてファンにはぷい、と背を向けると、ハロルドはryo.と目線を合わせる為に屈む。


























「ごめんねryo.君。ryo.君の気持ちはすごく分かるよ。でも…僕達はryo.君を戦場へは連れていけないんだ」
「…はい」
「ryo.君の大切な家族を守れなかった僕達だけど、ryo.君の分まで仇を討ってくるから…待っていてくれるかな」
「…分かりました。私の方こそ…無理だと分かっている事を言ってしまい…すみませんでした…」
ハロルドは顔の前で両手をブンブン振る。
「うんうん!全然!ryo.君が謝る事じゃないよ!?」
「でも少佐。佐藤さんとryo.氏だけを此処に置いていくのは危険じゃないですか」
花月が話に入ってきた。
「そうだよね…じゃあ誰か1人、」
「俺、残ります」
「ダメダメ絶対ダメ!!」
ガシッ!と後ろから花月の腰にしがみついた鳥が否定するからハロルドと花月は苦笑い。ファンは溜め息。風希はイラッ。
「私が居ない時に花月と友里香を居させちゃダメ!」
「お鳥姉さん〜…。ryo.氏も居るってば。2人きりになるわけじゃないんだから」
「ダメ!ていうか嫌だ!」
「そんなに俺って信用無いかな」
花月は笑ってから、鳥の耳元で囁く。
「大丈夫。俺が愛してるのは1人だけだよ」


ボンッ!!

真っ赤になった鳥は頭から湯気を出して、爆発。
それを見ていたファンははぁ、と呆れる。
「何て言ったんだろうね小鳥遊花月君」
「聞こえなかったが、恐らく、浮気はしないという旨だろうな。あいつらは今がどういう状況か分かっているのか?けしからん」
「本当そう…だよね…」
風希はキィン!と花月に鎌を向ける。だが花月はニコニコ。
「花月…さっき話したでしょ…私に言った事…嘘だったの…?」
「まあまあ。風希姉さん怒らないで下さいよ」

「話反らさないで…このっ…馬鹿、」
「こんな雑談をしている暇は無い。花月。お前が残る。それで良いな」
「ちょっと!」
「大丈夫です!」
「ちょっと!花月!ムスッ」
むくれる鳥をファンがズルズル引きずりながら家を出ていく一行を花月はヒラヒラ手を振り、見送るのだった。

































民家に残った花月、ryo.、友里香――――

「はーあっ!もう嫌!こんな生きた心地がしない毎日なんて嫌!」
リビングに寝転がり足をバタバタさせてキーキー怒鳴る友里香に、花月とryo.は目を合わせて苦笑い。
「こんな楽しい事が何一つ無い毎日なら死んだ方がマシだし」
「し、死んだ方がマシだなんて言ってはいけませんぞ佐藤氏!死にたくないのに死んだ私の家族が報われません!」
「つーか、キモオタあんたうざい。邪魔。2階行ってよ」
「キ、キモオタ!?ふざけるな!黙れこのクソビッ、もごっ?!」
堪忍袋の緒が切れたryo.の口を後ろから塞いだのは花月。
「r、ryo.氏穏便に〜…」
「穏便になどいられませんよ峠下氏!!」
「ぷっ。その口調マジキモーい!」


カチーン!

ryo.の怒りが沸点に到達。ryo.は階段をわざとダン!ダン!と音を鳴らして登っていく。花月はリビングを出て、階段の下からryo.を呼ぶ。
「ryo.氏!?何処へ行くんですか!」
「2階です!!軍人殿が戻ってくるまで私は2階に居りますので!!大体峠下氏もそのビッチを叱ったらどうなんですか!?悪いのは喧嘩を売ってきたビッチでしょう!!」
「そ、そうなんですけどこんな時ですからryo.氏どうか穏便に…」
「はん!リアルの女子に好かれたくらいでビッチだろうとビッチを庇うのですね峠下氏は!我々は二次元だけを見ていた!しかし峠下氏にはもう三次元しか見えていないご様子!見損ないました峠下氏!」
「ryo.氏、」


バッターン!!

2階にある部屋の扉を強く閉めて部屋にこもってしまうryo.だった。





























「はぁ…」
リビングに戻ってきた花月はがっくり肩を落として、何も無いリビングの床に胡座を組む。
「はぁ…どうして仲良くできないんだよ〜…」
「花月ぃ」
「えー?」
ピタッ。くっついてきた友里香にドキッ!と顔を赤くして驚く。
「戦い戦い戦い…戦いばっかりで友里香つまんない。日常が恋しいし」
「そ、そうだね」
「友里香、ぱぱとままと妹と友達が死んで悲しいの。花月…友里香に優しくして」
「!?」
花月の上に股がり座ってきた友里香。座られているから自分より目線が高い位置にある友里香から見下ろされ、ドキドキがうるさい。小悪魔の笑みを浮かべる友里香は自ら上着を脱いで肩を出す。
「ちょ、まっ…!さ、佐藤さん!?」
「ぷっ。声裏返ってるし。だいじょーぶ。みんなまだ戻ってこないって。キモオタは2階に当分居るし。友里香溜まってるんだよねー。花月はリスカの痕とかあってキモいって思ってたけど…やっぱ花月のコト好きだし」
くいっ、と顎を持ち上げる友里香の睫毛が花月の睫毛に触れそうな程顔が近い。
「さささ、佐藤さん!?」
「うざいお姉ちゃんも今居ないから、いーじゃん。花月も溜まってるんでしょ?友里香が教えてあげる。まずは、前花月からした時超下手だったキスから教えてあげる」
「さ、佐藤さ…、…!!」
友里香から深いキスをすれば、あわあわしていた花月の言葉も止まる。


しん…

まるで今地球が危機的状況下ではないかと思う程静まり返った室内。2人、キスをしたまま。


ブスッ!!

花月の上に股がりキスをしたままの友里香の後頭部から、赤い剣のような舌が貫通した。


ビチャッ!ビチャ、
ビチャッ!

壁や床に真っ赤でドロリとした血が飛び散る。


グラッ…

舌が貫通したままの友里香の体がよろめき…


バタン!

そのまま背中から床に倒れた。口から後頭部に貫通したと思われる長く赤い舌をまるでフックショットを戻すかのように素早い速さで口内へ戻した花月は、口端に付着した友里香の赤い血を…
「ジュルリ、」
舌で舐めとる。




























「ふふふ」
立ち上がった花月は不気味な程ニコニコ笑みながら、ゆっくり友里香に歩み寄る。彼女は白目を向いて頭部から血を流しながら絶命していた。
彼女は絶命したにも関わらず、血は生きているかの如く未だ頭から流れ出る。
「んーっ!」
ジュルリ。舌に付着した血を美味しそうに舐めとりながら味わう花月は、自分の唇に人指し指を添えて友里香を見下ろして、微笑む。
「憎い女だけど血の味は逸品!若い女はやっぱり一番美味しいねぇ」
友里香の顔を覗き込み、笑う。
「どうやってあのオタク小僧を追っ払って2人きりになろうか考えていたけど。ふふふ!アンタからオタク小僧を追っ払ってしかも誘ってきてくれるなんてねぇ!…馬鹿な小娘。キスまでしちゃってさぁ。小鳥遊花月に化けたあたいだとも知らずに」


バリッ!

顔の皮膚を剥ぎ取り、露になった花月の真の顔…いや、花月ではない者の真の顔。真っ赤な長い髪に緑色の肌をして真っ赤なダイヤのような一つの目玉。
「小鳥遊花月に化けたあたいマジョルカだとも知らずにねェ!!」


ガンッ!

友里香の遺体を蹴れば、動かない遺体はされるがままにゴロンと転がるだけ。
「空腹だけど、アンタを食べたらせーっかくあたいの血となり肉となった小鳥遊花月の血肉が、薄汚い小娘のアンタの血肉と混じるからやめておこうかね」
マジョルカは再び花月の姿に化ける。リビングの奥の部屋にある三面鏡の前に立ち、右、左、後ろ、正面を向いてから両手を頬に添えて片足を上げきゃっきゃっはしゃいでいる。
「あーん!やっぱりすっごくすーっごくかっこいいよ小鳥遊花月!これでいつ何処でも小鳥遊花月の姿を見れる!それに…」


トクン、トクン…

自分の左胸に手をあてて、鼓動を聞く。
「嗚呼、小鳥遊花月があたいの中に流れている音がする…。やっと本当の意味で一つになれたんだよ小鳥遊花月」


ガチャッ、

「む」
2階の扉が開く音が聞こえてマジョルカは反応。
「あのオタク小僧降りてくる気だね。でも小娘を静かに殺せたから、バレてはいないだろう。…ふふ、それじゃあ一つ…」


スゥッ…

息を大きく吸い込む花月の皮をかぶったマジョルカ。
「うわああああああ!!」
「!?ととと、峠下氏!?」


ガシャン!!

花月の姿に化けているから声も花月そのもの。花月の姿をして悲鳴を上げてからリビングの窓ガラスを割れば、バタバタと階段を駆けりてくるryo.の足音が聞こえる。マジョルカはニヤリ笑んだ。
「峠下氏!?どうしま、…!うっ…!うお"ぇ"え"ええ!!」
リビングへやって来て目に入った友里香の無惨な遺体に、ryo.は座り込み吐いてしまった。
「r、ryo.氏!!」
花月の振りをしてryo.に駆け寄り、背中を擦ってやるマジョルカ。
「う…ぇ…、と…げ…氏…これ…は…、一…体…」
「た、たった今…俺がトイレへ行って…ガシャン!と窓ガラスの割れる音がして急いで戻ってきたら…こん、なっ…!うっ…、うわああああああ!!」
頭を抱え後ろへ反って叫ぶ花月を、口の周りを拭いながら顔を上げて見るryo.。
「と、峠下…氏…」
「俺が、俺が一瞬だからって目を離したせいで…そのせいで佐藤さんは…うわああああああ!!」
――ふっ…。どうだい?あたいのこの完璧なまでの女優っぷり。小鳥遊花月の事ばかりを見ていたからね。化けるのなんて朝飯前さ。アハハ…アハハハハ!――





















































1時間後――――

「そうか…」
「うっ…ひっく…ごめ…なさい…」
戻ってきたファン達に事情を説明したら、俯き啜り泣く花月。その隣で俯くryo.。ハロルドの水色のハンカチを顔にかぶせた友里香をリビングの奥の部屋に移動した。
顔を見合わせるハロルドとファンも言葉が出ない程切ない表情を浮かべている。


ドスン!

「!」
「た、小鳥遊風希ちゃん」
無表情ではあるが風希は花月スレスレに鎌を振り落とす。彼女からは、ただならぬ怒りを感じる。
「風希姉さ、」
「何の為に花月が残ったの…意味が無い…。何なの…これ…。…花月は支部長になりたくてなったんじゃないから…仕事に手を抜いているんでしょう…」
「違、」
「花月みたいな…自分の使命を果たせない弱い子…目障り…」
「っ…、」
「花月。外、行こう」
「え?」


ぐいっ、

花月の右手を引っ張った鳥を、首を傾げて見上げる。
「おい。鳥。勝手な行動は慎め」
「大丈夫。花月、今情緒不安定だからちょっと外で頭冷やしてくるだけ」


バタン…

鳥に手を引っ張られ民家を出て行った2人。扉の閉まる音の後、ファンは深い溜め息を吐きながら首を横に振る。
「はぁ…。まああの2人ならMADと遭遇しても心配無用か。すぐに戻ってくるだろう」
「馬鹿な妹と弟で…ごめん…」
「小鳥遊風希ちゃんが謝る事じゃないよ!気に病まないでね」
「うん…」
「ryo.」
「は、はい…?」
あのような無惨な遺体をしかも、今まで関わってきた友里香の遺体を目の当たりにしてしまったのだ。いくら友達ではないとはいえ、顔見知りの人間の遺体を見たばかりのryo.は、ファンに呼ばれても蚊の鳴くような声でしか返事ができず。
「大変な思いをしたな。お前は先に寝ていろ」
「ありがとう…ございます…軍人殿…」

















































公園――――

住宅街の外れにぽつんと佇む公園。砂場しか無い簡易的な公園の砂場の囲いに腰を並べる鳥と花月。電気が通っていない為公園を照らすのは闇夜に浮かぶ真っ赤な月のみ。
「雨、いつの間にか止んだね」
湿った砂場を見た後、夜空を見上げて呟く鳥。俯きっぱなしの花月を心配してきゅっ、と頭から抱き締める。
「大丈夫。誰に何言われてもあたしはずっと花月の味方。花月の味方があたしだけになってもあたしだけはずっと花月の味方」
「うん…」
「ほら!慰めてやったんだからいい加減顔上げる」
ぐいっ、と花月の顔を掴んで向かい合わせる。花月は泣いた赤い目をぱちくり瞬き。
「ありがとう。いつも助けられてるね」
「…?」
鳥は花月のその言葉に一瞬疑問を抱き首を傾げた。だが、すぐに元に戻す。
「本当そう。あたしがいなきゃ駄目なとこ、いい加減直して。でも…」


ビシッ!

花月を指指す。
「今回慰めてやったお礼はあたしの好きなケーキ10個で許してやる!」
「ははは」
「笑って誤魔化そうとするなっ。じゃあ、あたしの好きなケーキは?」
「えっと…何だっけ。あ。それよりさ」
「…?さっき答えられたじゃん」
「え。あ、そうだよね。ごめんド忘れしちゃって」
「…?」
笑ってはいるものの、鳥の好きなケーキの種類が答えられない時から花月は目を反らすから、鳥は首を傾げた。
「ド忘れすんな!」


ぎゅっ、

花月の胸に顔を埋めて抱き付く。
「ねぇ花月…」
「何?」
「さっき花月が風希ちゃんと話していた内容聞いちゃった…」
「あ。マジで?聞かれちゃってたんだー…ははは…」
鳥は顔を上げる。熱っぽいトロンとした目をして睫毛と睫毛が触れ合いそうな程顔を近付けて、花月の下唇にトン、と自分の人指し指を乗せる。
「花月、風希ちゃんの反対を押し切ってまであたしと結婚したいって言ってくれてたでしょ」
「うん」
「すごく嬉しかった。花月」
花月は鳥の髪を撫でる。
「何?」
「名前呼んで」
「もう、甘えんぼうだなぁ。…お鳥姉さん」


ぎゅっ…

花月の背中にしがみつくように更に強く花月に抱き付く。
「もう1回…」
「お鳥姉さん」
「誰、あんた」
「え?」


ドスッ!


「え…?ドスッ…?」
鈍い音。花月は何が起きたのか分からず。しかし数羽の紫と黒い蝶達が自分の腹部から背中を貫通している。


ドロリ…、

貫通させられた腹部から垂れる緑色の血を手に取り…
「ギィヤァアアアア!!」


ドサッ!

悲鳴を上げて地面に倒れた花月は、貫通された箇所から血をドクドク流しながら悲鳴を上げ続けたまま地面を転げ回る。

































「ギィヤァアアアア!ヒィッ、ヒィッ!腹が!背中が!」
「……」


ヒラリ…

紫と黒い蝶の大群を引き連れて下を向き、無言で花月に歩み寄る鳥。
一方の花月は見開いた目から激痛による涙を流しながら鳥に訴えかける。
「お、お、お鳥姉さぁあん!ど、どうしてこんな事するんだよぉ!!まさかお鳥姉さんMADなの!?」
「…喋り方も動作も…匂いもまるっきり同じだった」
「お、お、お鳥姉さん…?」
「馬鹿だな…悲しいな…。あたしの好きなケーキ言えなかった事と…風希ちゃんと話していたって言った嘘の内容で確かめなきゃいけなかったなんて」
「う…嘘の内容…?」
花月はタラリ、冷や汗を流す。
「花月が風希ちゃんと話していた内容。風希ちゃんの反対を押し切ってあたしと結婚したいなんて話じゃない。それはあたしが、花月にしていてほしいと思った話…。本当は、風希ちゃんに反対された通り花月はあたしと別れるっていう話をしてた」
「!!」
「それに…」
蝶達が花月の周りを取り囲む。花月は血を流しながらキョロキョロして蝶を手で払ってみせるが、払えない。
そして、ゆっくり顔を上げた鳥。鳥の目はとてもつり上がり、鬼の形相。なのに、大粒の涙がボロボロ溢れていた。
「あたしの彼氏は二人きりの時、あたしをお鳥ちゃんって呼ぶの!!」


ドン!ドンッ!!

鳥の裏返った叫び声が合図となり、花月を囲っていた蝶達は何と、小型爆弾のように爆発した。






























ザァッ…!

蝶達は紫と黒の輪分を光らせて一斉に鳥の両手の平の中に戻っていく。
其処には、傷だらけで血を流す花月の姿。
「ふふ…」
花月は俯せで倒れたまま笑う。
「ふふ…ハハ…アハハハハ!」
壊れた笑い声を上げながら立ち上がる。貫通させられたままの腹と背中からは向こうの景色が見える。なのに、平然と立って高笑い。血走った目玉でギョロン!と鳥を見つめて、指を差して笑う。
「さっきの小娘は気付けなかったけど、あんたはなかなかやるねぇ!さすが小鳥遊花月の姉!さすが小鳥遊花月の恋人かぁ!褒めてやるよ!」
花月の声と姿でそう言う花月…いや、花月の皮をかぶったMADマジョルカをキッ!と睨み付けた鳥は再び手の平から紫と黒の蝶の大群を繰り出し、タンッ!と踏み込み、マジョルカに蝶の大群を向ける。
「小鳥遊流奥義、乱舞!!」
蝶の大群はマジョルカに逃げる隙を与えさせず、一瞬にしてマジョルカを包みこんだ。その間にも鳥は再び手の平から蝶の大群を繰り出し次の攻撃体制に入り、両手をマジョルカに突き出して構えた。その時。


キィン…!

「!?」
真っ暗な闇夜に有り得ない金色の光々しい光が辺り一帯に広がった。
「この光…!」
「そう。よく分かったねぇ」
「!」
「小鳥遊流奥義、桜花昇天!!…だったかねぇ?!」


ドン!ドンッ!!

何と、すぐ目の前に一瞬にして現れた花月の姿をしたマジョルカは花月の奥義を繰り出した。鳥は逃げる前に、攻撃を直撃してしまった。


































ボタ、ボタ…

「う"…ぐっ…、」
真っ赤な血が流れる左肩を押さえながらよろめく鳥。そんなのお構い無しに、マジョルカは花月の姿をして目を金色に光らせながら右手を鳥にかざす。
「まだまだいくよ!小鳥遊流奥義、桜花昇てェん!!」


ドン!ドンッ!!

「小鳥遊流奥義…、乱舞!!」
「何っ…!?」
何と、マジョルカの攻撃を回避した鳥が直ぐ様攻撃。回避できると思っていなかったマジョルカは蝶の大群にまとわりつかれる。
「チィッ…!邪魔な蝶だね!!小鳥遊流奥義、桜花昇天!!」


ドン!ドンッ!!


バサ…バサ…

蝶の大群は無惨にも焼け焦げた姿で地面に落ちていく。その様を、マジョルカは得意気に腰に手を充てて笑う。
一方の鳥は、「はぁ…はぁっ…」と呼吸を荒くしながら左肩を押さえている。だが、まだ血がドクドク流れて止まる様子が無い。
「アハハ!辛くないかい?小鳥遊花月の姿!声!で殺されるのはァ!
「はぁっ…はぁ…、誰…あんたは誰!!花月をどうしたの!!」
「あたいかい?あたいはマジョルカ。晴れて小鳥遊花月と一つになれた小鳥遊花月の妻さ」
「いいから答えろ!!」




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