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終焉のアリア【完結】
ページ:2
「だ、大丈夫大丈夫だよ…花月あたしの事好きって言ってくれたもん…付き合えたのだって花月が告白してきたからじゃん。だ、だから大丈夫大丈夫。もうフラレない。フラレない…」


ゴクン…、

唾を飲み込んだ鳥の目はぐるぐる回っていて動揺具合が異常だ。
「どうしようどうしよう!やだやだやだ!あたしには花月しかいないのに!花月幸せにしてくれるって言ったじゃん!どうしようどうしよう!…あ!そ、そうだ赤ちゃんできたから責任とれって嘘吐けば良いじゃん。そうだよ!できたって嘘吐けば…」


ぺたん…、

壁に背を預けたまま座り込んでしまった鳥。膝を抱えながら天井を見上げる。天井を見上げた大きな瞳からは大粒の涙。
「嘘なんて吐きたくないよ…。あたしも花月が大好きだから…花月の為に花月から離れなくちゃいけない…。仕方ないよ、花月の為だぞお鳥!花月だって言ってた。お鳥の事が好きだから別れるんだ、って。あたしの事嫌いになったから別れるんじゃない。好きだからなんだってば!…でも…でも花月が他の子と一緒に居る所なんて絶対見たくないよ…うっ…、うわあああん!」
涙をボロボロ流し、一思いに膝を抱えて泣いた。






































カチャ…、

「…?あれ、姉さんは?」
部屋に戻ってきた花月。ベッドにはムスッ、とむくれた友里香が座ってこちらを見ているだけで、鳥がいないから部屋の中を見回す。
「知らない。花月が出て行ったから追い掛けて行ったっぽい」
「えー、何処行っちゃったんだろう」
ベッドに腰掛けて頭を掻く花月の隣に移動してきた友里香に顔を覗き込まれ、ギョッとする。
「な、何…ですか」
「友里香達、助かるよね?」
「え、」
「あんな化け物にうちら地球人が負けるわけないっしょ?いつ?いつ平和になる?ねぇってば!」
「それは…」
「また黙りかよ!マジうざい!…はぁ。ま、良いもんね。約束したよね花月?花月はEMS軍人なんだから友里香の事守ってくれるって」
肩を掴んで覗き込んでくる友里香の魔女のような表情に花月は困惑。そんな彼を余所に、友里香は花月の上唇を自分の右手人指し指でトン、と触れる。
「もしも花月があいつら化け物に食べられても、友里香だけは守ってくれるよね?」
「っ…、」
「何で黙ってるわけ?意味分か、」


ドクン…!

「…!?」
胸騒ぎがした花月はハッと顔を上げ、辺りを見回す。
「何花月?今真面目な話してるんだからよそ見しないでくれ、」
「見ィツケタ…小鳥遊花月…」
「え、」
「佐藤さん伏せて!!」
「!?」


ドンッ!!

2人が座っていたベッドの後ろの壁が外から派手に突き破られた。寸の所で花月に押されて回避できた友里香。


パラッ、パラッ…

辺りには壁が壊れた衝撃で発生した煙と壁の破片が舞っている。


ドス…、ドス…、ドス…

「な、何…?この音…?」
煙で見えないが、確実に室内に巨大な何かが這う足音がする。
「!!」
煙の隙間からチラッと見えた足音の正体。2人が真っ青な顔をして目を見開く。足音を鳴らす侵入者は、室内の天井ギリギリの長身で巨大な緑色の体をした…
「MA…、MAD!?」
友里香のその声に、壁を突き破って侵入してきた巨大MADの首がグリン!とこっちを向いた時、花月の鼓動がドクン…!と鳴り、目が更に見開かれた。
「あ、あ…赤い髪…!ど、どうしてこいつが…!?」
「久し振りだねェ…小鳥遊花月!!」
グワッ!と振り上がったMADマジョルカの巨大な腕。花月は友里香の前に立ちはだかると、目を金色に光らせる。
「か、かづ、」
「佐藤さん逃げて!」
「え、え!?に、逃げてって何処行けば良いの!!」
「いいから早く!!」
「っ…!!」


バンッ!

部屋の扉を開いて廊下へ飛び出した友里香。それと同時に、マジョルカの腕が振り落とされた。


ドスン!!

しかしその振り落とされた腕を足場に、腕にタンッ!と飛び乗った花月はマジョルカの腕を駆け足で登り、マジョルカの顔面まで来たところで唱える。
「小鳥遊流奥義、桜花昇天!!」
金色の光が部屋いっぱいに広がる。


ドンッ!ドンッ!!



































「…よし」
攻撃後。木っ端微塵になったのだろうマジョルカの姿は其処には無く、今の攻撃で壊れたベッドや壁や室内の備品の残骸が其処に広がっているだけ。花月の瞳の色が普段の黄色に戻る。
「ふぅ…。でも何であのMADが生きていたんだろう。あいつはこの前勝手な事をしたからって、シルヴェルトリフェミアに殺されたじゃんか。俺達の目の前で」
そこで、以前EMSビッグドームのイベント会場でバラバラになったはずのマジョルカの体が繋がり復活した事を思い出した花月。
「あいつらバラバラになっただけじゃ死なないって事じゃんか!くそっ。此処に死体が無いって事は跡形もなく死んだ?…いや、絶対あり得ない。今もまた何処かに逃げたかもしれない。此所は危険だから、少佐達に伝えに行かないと」
くるり。扉に体を向け、右足を一歩前へ踏み込んだ。


ドスッ…!

「え…?」
それ以上前へ踏み込めない。足が体が動かない。
鈍い音がして恐る恐る自分の腹部を見たら、自分の腹部を背中から貫通している1本の緑色の腕。爪はナイフのように鋭利で赤色。
「がはっ!!」


ボタボタッ!!

口から血を噴き出した花月。前に倒れこみたいのに、背中から貫通させられた腕が支えとなってしまい、腕にぶら下がっている状態だから倒れこめない。
「やぁーっと2人っきりになれたねぇ小鳥遊花月!」
「ぁ…、の…こ…、え、は…」


ボタボタ…

金色に光った両目。
鼻や口から血をボタボタ垂らしながらもゆっくり首を後ろに向ける花月。霞む花月の視界には、ぼんやりぼやけているが確かに赤髪で豹柄のワンピースを着たMADマジョルカの姿を捉えていた。
「ぁ…、ど…して…、生き…て、」
「シルヴェルトリフェミア様もまだまだお子様だからねぇ。あたいはあの程度じゃ死なないよ。ま、お陰で死んだ事にしてこうやってシルヴェルトリフェミア様とドロテアさん達から解放されて小鳥遊花月を追えたんだけどね」
「く"っ…」
掴みかかろうとしているのだろうか。花月はガタガタ震える左腕をゆっくりマジョルカへ伸ばす。
「ふふっ!」
ガシッ!マジョルカは花月の左腕を掴むと、ワンピースのポケットの中から取り出したある物を花月の左手薬指にはめた。それは、銀色に光る男性用の指輪。
「きゃー!これであたい達は晴れて夫婦になれたね小鳥遊花月!」
はしゃぐマジョルカの左手薬指にも同じ指輪が。自分の左胸を押さえて顔を赤らめるマジョルカ。
「あたいね、本当に嬉しかったんだよ。小鳥遊花月があの日あたいに告白をしてくれてキスまでしてくれただろう」
「ぁ…な…、の…でまかせに…決まっ…、て…」
マジョルカは花月の正面に回る。


ドサッ!

「っあ"…!」
そうすれば、花月の体を貫通していたマジョルカの腕が抜けて、支えを失った花月の体は床に落ちる。ドクドクと流れる腹部からの血がクリーム色の床を赤黒く染めていく。
くいっ、と真っ白な花月の顔を持ち上げ、至近距離で顔を合わせるマジョルカ。
「そう。でまかせだろうね。そんな事もう分かっているんだよ。あんたがあたいの事を殺したい化け物としか思っていない事もね。あたいは地球人みたいに馬鹿じゃないからね。小鳥遊花月あんたは姉と恋人関係にある。なら、どうやったらあたいは小鳥遊花月と一つになれるか?あたいは来る日も来る日も考えたんだ。それにね、この方法なら夫の小鳥遊花月と妻のあたい。そして夫の両親とも一緒に暮らせるんだよ」
「…?な、…がはっ、…何…言っ…て…?」
「嫁姑問題は嫌だけど、これも、小鳥遊花月の妻となるあたいの宿命。仕方ないと割りきったさ。さぁ、小鳥遊花月。ようやく一つになれるね」


グワッ…!

「…!!」
今まで見せなかったから無いものだと思っていたMADの大きな口。マジョルカの口がグワッ!と開いた。中はまるでブラックホール。
――ひとつになる?父さんと母さんとも…?…まずい。こいつ、まさか…!――
「さあ、小鳥遊か、」
「小鳥遊流…おう…ぎ、桜花…昇天!!」


ドン!ドン!ドン!!













































「はぁはぁ、く"っ…、くそっ…!」
何とか力を振り絞り、攻撃ができた。その隙に廊下へ飛び出した花月。だが歩く事はおろか、立ち上がる事すらできないから、腹部と目、口、鼻から血を垂らしながら床を這ってしか移動できない。
そして、さっきまで静かだったこのホテル内に爆発音が鳴り響いているし廊下の先…ハロルド達の部屋へと続く道が、瓦礫の山で塞がれているではないか。
「くっ…、くっ…そ…、何で…、」
――立つ事すらできないのにあの瓦礫を越えなきゃ少佐達と合流できないなんて…!――
花月は床を這いながらポケットの中から携帯電話を取り出し、ハロルドに電話をかけ…られない。やはりまだずっと圏外。
「ぁ、…はぁ…、く…そ…、」
――お鳥ちゃんは何処行ったんだよ…まさかMADに…?…いや、大丈夫だ。きっと風希姉さん達と合流して…いや、でも風希姉さんも何故かMAD化しているんだ。駄目だ、MADから逃れられても風希姉さんと一緒に居たら、覚醒した風希姉さんにお鳥ちゃんが殺されるかもしれない。嗚呼…駄目だ別れなきゃいけない。でも、お鳥ちゃんを守ってくれる男(ヒト)が現れるまではやっぱり俺が守ってあげなくちゃ…――
鳥に電話を何度もかけるが、無理だ。圏外。
花月は鳥宛にメール作成のページを開く。ガタガタ震える指で血を画面に付着させながら、一字に10秒かけながら打っていく。


ピッ、ピッ…

「はぁ…はぁ…」


ピッ、ピッ…

「っぐ…!く、そ…はぁ…、」
「貴方は病む時も悩める時もこの方を愛し、互いに助け合い夫婦として生涯支えあっていくことを誓いますか?」
「…!」
こんな時に女の場違いな言葉がすぐ背後から聞こえて、花月はピタリと止まる。ゆっくり顔を後ろへ向けると、すぐ其処には無傷のマジョルカが立っていた。
「っ…、」
「返事が無いねぇ。じゃあもう一度。貴方は病む時も悩める時もこの方を愛し、互いに助け合い夫婦として生涯支えあっていくことを誓いますか?」
花月は下を向き、ハッ、と鼻で笑うと顔を上げた。金色の瞳で。全身に金色の光を纏わせて。
「誓うわけ…ないだろっ…このっ…、ブス!!」
「あはは!そんな照れ屋なとこも食べたくなるくらい可愛いよ小鳥遊花月!!」


ドン!ドン!ドン!!

花月の金色の光の攻撃とマジョルカの攻撃とが激しくぶつかり合った。


























































その頃――――

「MAD…襲撃…」
マジョルカが引き連れてきたMAD達がハロルド達にも奇襲を仕掛けていた。ハロルド、風希、ファンが戦い、ryo.は陰に隠れている。
「ハロルド!鳥と佐藤に電話は繋がるか!」
「繋がらないよ!ずっと圏外!」
「はぁ、はぁっ…!みんな!」
「む。あれは鳥ではないか」
「え。あ、本当だ!小鳥遊鳥ちゃん!」
紫色の蝶でMADを攻撃しながら息を上げて駆けてきた鳥。
「はぁ、はぁっ…、花月は!?」
「え?」
「花月と友里香居ない!?MADが襲撃してきたからあいつらの部屋行こうとしたら部屋に続く道が瓦礫で塞がれてた!」
「小鳥遊花月君と佐藤友里香さんは此処にはいないよ。てっきり小鳥遊鳥ちゃんと一緒に居るかと…、」
「た、た、た助けて!助けて!!」
「さ、佐藤氏ですよ、あれ!」
ryo.が眼鏡を上げて見る視線の先には、よろめきながら駆けてくる友里香の姿。
「友里香!」
あれだけ嫌っているはずなのに鳥は友里香に駆け寄ると、倒れこみそうになる友里香を抱き止める。
「はぁ、はぁ、ひぃ…MAD…MADがぁあ…!」
「友里香。花月は!?」
「か、かづ…かづ…き…」
「落ち着いて。花月は一緒じゃないの」
「か、づ…、き…は、MADから友里香を逃がしてくれて…!今1人で戦ってる!」
「…あの馬鹿。かっこつけて。だからアニメの見過ぎなの!」
鳥が友里香をハロルドに渡す。
「小鳥遊鳥ちゃん!?」
「先行ってて。あたしはバカづき助けてくる」
「1人じゃ危ないよ!僕達も、」
「お鳥姉さん!」
「…!花月!?」


ドンッ!!

声がして辺りを見回せば、壁を金色の光で破壊して其処から現れた花月。金色の瞳から徐々に普段の黄色に戻っていく。
花月を前にしたら鳥は、先程風希と花月が話していた別れ話を思い出してしまう。…が、すぐに花月に駆け寄るとポコポコ叩く。
「馬鹿馬鹿バカづき!女逃がして自分1人で戦うなんてアニメの見過ぎなの!」
「はは、本当そうだよね」
「でも花月が無事で良かった…」
鳥は花月の胸に顔を埋める。花月は少し照れ臭そうに笑う。
「怪我一つもしてないね」
「当たり前じゃんか」
「か、花月無事だった?!良かった…!」
「佐藤さんも大丈夫だったみたいで良かった」
「小鳥遊花月君も無事だったし、建物内じゃ戦い辛いからみんなで外へ出よう!」
「でも…1階はMADが居て危険…」
「窓」
「ま、窓から!?小鳥遊鳥ちゃんそれは…」
窓の下を身を乗り出して覗く鳥。
「この窓の下、ちょうど1階の駐車場の屋根になっている作り。だから屋根に降りて、其処から地上へ降りれるよ」
鳥と一緒に窓の下を覗きながらポン!と手を叩くハロルド。
「なるほど!これなら怪我しなくて済むね。じゃあ窓から外へ出よう!」
「ああ」


ゴオッ…!!

ファンが炎でMADを焼き払っている間にryo.、花月、友里香、鳥が窓の外の屋根に降りる。
ハロルドは風希より先に降りると、上を向いて両手を広げる。
「小鳥遊風希ちゃん!」
「…何…それ…」
「僕がキャッチするからそうすれば怪我しなくて済、」


タンッ!

ハロルドが話している間に窓から屋根へ降り、ハロルドの脇をスタスタ素通りする風希。
「あ、あれ〜…?」
「必要無い…」
「うん、そうだと思ったんだけど…。風希ちゃんに怪我させたらアリス君に怒られちゃうからさ」
「女だからって甘く見ないで…。不愉快…」
「ごめんね」
「……」
































全員が地上へ降りた。
「ファン君。まずはryo.君と佐藤友里香さんを隠せる何処か安全な場所を探そう。戦闘はそれからだね」
「ああ。そうだな」
ハロルドとファンを先頭に、民間人2人の身を隠せる場所を探す一行。


♪〜〜♪

「メール?」
「え。メールが着たの!?」
その時。鳥の携帯電話からメールを受信した着信音が鳴り、皆が足を止める。
「小鳥遊鳥ちゃん。メールが着たのかな?」
「うん。あ…でもすぐに圏外になる」
「じゃあたまたま電波が繋がっただけみたいだね。アリス君に連絡とりたいのに…」
鳥はメールを開く。メールの内容にギョッと目を開いてからすぐに花月の方を向き、携帯電話の画面を見せつける鳥の顔は赤く染まっていた。
「な、な、何このメール!!」
メールの内容は、変換すらできないのか!と言いたくなるようなたった一文。
【あいしてる】
送信者は花月から。
「こ、こ、こんな時によく送れるよね!」
花月は頭を掻く。
「いや〜それさ。さっきMADに殺されそうになったから、もしかしたら死んじゃうかもだから最期に…と思ってお鳥姉さんに送ったんだよね」
「ほ、ほ、本当バカづき!花月が低俗なMADなんかに殺されるわけないじゃん!」
「ははっ」
ぷいっ、と背を向ける。だが、顔を真っ赤にしてドキドキする鳥は自分の左胸に手をあてる。
――や、やっぱりさっきの別れ話は風希ちゃんに言わされていただけって事?…だよね?!よ、良かった…――
一行の最後尾を走る花月は、前を走る鳥と友里香の背を見つめてペロリと舌を出してニィ、と笑うと、誰にも聞こえない声で呟く。
「はぁ…あんたらの大好きな男、とっても美味しかったよぉ…これでようやく本当の意味で一つになれたねぇ…」
口の中から真っ赤な血に濡れた銀色に輝く一つの男性用指輪を取り出し、投げ捨てた。


カラン!カラン…




















to be continued...











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