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終焉のアリア【完結】
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同時刻、
街中―――――――


ガタガタ震える自分の両手に付着した、固まってきたミルフィの血を見る鵺。
「うっ…俺、はっ…。ぐすっ…で、でももう嫌ら嫌ら嫌ら!ミルフィが嫌なんじゃねぇ…俺がミルフィを傷付けたのは…雨岬に辛い思いをしてほしいからなんら…」
両手で顔を覆う。
「そうら…。雨岬が…雨岬さえ居なくなればこんげ、息ができねくなるぐれぇ胸が痛くなる事も無ぇんら…。雨岬…雨岬なんか居なくなっちゃえば良いんら…!」


パチパチパチ

「お見事。そう。まさに仰る通りです。Mr.鳳条院」
「!?」


バッ!

拍手とその声に鵺が咄嗟に後ろを振り向くと、いつの間に。店の屋根の上に立っていたメイド姿のドロテアが1人。
鵺は警戒して一歩下がるが、ドロテアは両手を前に出して首を横に振る。
「MADけ!俺を殺しに来たんらな!!」
「そんなに生き急がないで下さい。わたくしはMr.鳳条院。貴方と戦うつもりはありません」
「嘘つけ!そう言って隙を見て攻撃してくるんらろ!」
「本当地球人はせっかちですね。わたくしは先程の一部始終を拝見させて頂きました。Mr.鳳条院。貴方今、Mr.雨岬が居なくなってしまえば良い…と仰いましたよね?」
「っ…!そ…そんげ事、おめさんに関係ねぇねっか!」






















ドロテアは首を横に振る。
「とてもありますよ。わくしもMr.雨岬が邪魔ですから」
「…!?なっ…、なしてら!?シルヴェルトリフェミアは雨岬の事を連れて行こうとしてたねっか!だすけ、俺が邪魔だって言ってたねっか!」
「そんなに大声を出さないで下さい。耳鳴りがしてしまいます。…確かに貴方が仰る通り、シルヴェルトリフェミア様はMr.雨岬にとても好意を抱いていらっしゃる。初めての友人ですから。…しかしMr.雨岬の両親こそが我々プラネットが何故地球へ助けを求めにやって来たかの話も聞かず、我々の外見だけで化物だと騒ぎ立て、シルヴェルトリフェミア様の両親を殺害した諸悪の根源なのです。Mr.雨岬の両親がもっと誠実な地球人ならば、今頃地球はこんな事にはなっていなかったのですが」
「なっ…!?雨岬の…両親が…?!い、言ってる事の意味が分かんねぇて!」
「詳しく存じ上げなくて結構です。詰まる所わたくしが申したい事。それは、プラネットの長であるご両親を殺害した地球人を親に持つMr.雨岬なんぞとシルヴェルトリフェミア様が親しくなられては困るのです。しかしシルヴェルトリフェミア様はわたくしの話に聞く耳持たず、Mr.雨岬を我々側へ引き連れる事ばかりを考えていらっしゃる…。そうとなれば、シルヴェルトリフェミア様に隠れてMr.雨岬を殺害してしまえば良いのです」
「…!!」


ドクン…!

鵺の鼓動が大きく鳴る。


カツン、コツン…

鵺に歩み寄ってくるドロテアの靴の音が近付いてくる。鵺は戸惑ったまま。
「如何です?経緯は違えど、同じ目的を持った者同士。共に手を組み、Mr.雨岬をこの世から消し去りませんか」


ドクン、ドクン…

「っ…、」
「さあ。迷っている暇はございませんよMr.鳳条院。貴方がわたくしと手を組まないならば、わたくしは今すぐにでも貴方を殺害致します」
「っ…!」
「何を迷う必要があるのです。Mr.雨岬は貴方を酷く傷付けた。貴方の気持ちを分かっていながら、率直に貴方の気持ちを否定した。酷い地球人ですねぇ…。嘘でも、その場凌ぎの暖かい言葉を貴方に掛けてあげれば良いものを…。Mr.雨岬はそんなリップサービスすらせず、貴方をただただ否定した。果てにはMr.雨岬のガールフレンドも貴方の気持ちを分かっていながら貴方を傷付けていた…。ガールフレンドを傷付けた貴方の事を睨んだMr.雨岬の目、酷く恐ろしかったですね。怖かったですね」
「うっ…、あ…、」
「Mr.雨岬はあんな事を言っていましたが、本当はMr.雨岬もそのガールフレンドも、貴方がMADの血を引いているから貴方を否定し、傷付けているのかもしれませんね…」
「うああああああ!!」


ガクン!

ぐわんぐわんする頭を抱え、崩れ落ちた鵺。まるで言葉の催眠術にかかった鵺はガクガク震えながら俯いている。
そんな鵺に更に近付くドロテアが、そっ…と鵺の頭に触れた。
「ああ。もうこんなに陽が高い。Mr.鳳条院。そろそろ昼食のお時間ですよ」
ユラリ立ち上がった鵺の一つの目玉に太陽の陽射しが反射して、ダイヤのように真っ赤に光った。








































その頃、
空とミルフィ――――


ガタン!ガシャン!

「何処だウソつきアイドル!」
「さっさと出てこいよぉ!俺の友達と同じ目に合わせてやるからな!」




















「はぁっ、はぁっ…」
人っこ1人居なくなった街中の店々が立ち並ぶ中の1軒のドラッグストア。そのトイレに身を潜めている空とミルフィ。
店員の居ないドラッグストアから勝手に包帯と消毒液を使い、ミルフィの失った左腕に何とか応急処置はできた。だが、やはりただの切り傷とは違う。失ったのだ、関節から下を。ミルフィの顔は真っ青で、呼吸が荒い。
ミルフィを抱き抱えながら空はギリッ…!と歯軋り。そんな中容赦なく近付いてくる男性達の罵声と、窓ガラスを割っていく音。
「はぁっ…、くっ…!何なんだよ次から次へと…!それより…鵺だ。あの馬鹿野郎ッ…!」


きゅっ…、

「駄目だよ…」
「!」
空の服の裾を引っ張り、彼女らしくない蚊の鳴くような声。
「喋るな!傷口が、」
「駄目…駄目…、雨岬君駄目…。そんな顔したら駄目…。鵺ちんは…雨岬君の大事な友達でしょ…?」
「あんなの…!あんな奴もう友達でも何でもないんだよ!そりゃ世の中色んな人間がいる。けど、あいつは俺が言った事分かったつったのに何一つ分かってなかったんだ!だからお前の事を!」
「ミルは仕方ないよ…鵺ちんの気持ちに気付いてて、雨岬君を独り占めしてきた罰だから…」
「それを言う前だっただろあいつがお前の事を切り付けたのは!もうあんな奴知るか!あんな奴…!」


ガシャン!!

「男のでっけぇ声が聞こえるなァ!?」
「!!」
ドラッグストアの出入口のガラスの割られた大きな音。空はビクッ!としつつも立ち上がり、トイレから出ようとする。
しかしぎゅっ、と服の裾をミルフィに掴まれた為振り返る…が、ミルフィの"行かないで"を意味する横に振った首を無視してトイレから出て行った。


パタン…、

「雨岬…君…」
真っ暗なトイレの個室に1人残されたミルフィがゆっくり開いた口。
「両目が真っ赤だった…」































ガシャン!ガシャン!

「オラァ!居るんだろウソつきアイドルミルフィちゃんよぉ!」
「てめぇがMADに売ったせいで俺のダチが何10人食い殺されたと思ってんだァ!それなのにお前はのうのうと生きやがって!」


ガンッ!

「なっ…!?何だこの赤い光は…?!」
店内の棚が崩れる音。
そして店内いっぱいに血のように真っ赤な光が広がり、男性達が辺りを見回す。
「あっ…!あいつだ!ミルフィの男だ!」
1人が指差した先には、真っ赤な光を放つ魍魎を手に持った空がユラリと奥から現れた姿が。
その殺気に男性達はガタガタ震えながらも、各自が既に所持していた鉄パイプやバットを構える。
「な、な…何だお前!何だよ刀ぁ!?」
「ま、まさか本物じゃねぇだろ、」


キィン!

「っ…!!」
魍魎で店内の棚を真っ二つに斬って見せた空に、男性達はガクガク震えたまま全身からはダラダラ汗を流し、果てには失禁してしまう者まで。
「あいつがやった事は許される事じゃない…。だから…」


カラン!カラン…!

「!?」
何と空は魍魎をその場に投げ捨てたではないか。これには彼らも動揺。
「!?」
「!!?」
空は下を向いたまま口を開く。
「これで気が晴れるなんて思っちゃいない。ただ、あいつを傷付けるのだけは頼む、やめてくれ。代わりに俺があいつの罪を償うから」
「…は?」
「な…!?ギャハハハ!何だこいつ!?漫画の見過ぎじゃねぇのか!?代わりに俺を打てってか!?ギャハハハ!こりゃ傑作だなァ!」






















たった今まで殺される目前の顔をしていた男性達。しかし空が攻撃をしてこない、寧ろ攻撃して良いと自分達が優位に立てば、人が変わったように店内は男性達の嘲笑い声で満たされる。それでも空は、ただ下を向いたまま黙って唇を噛み締めていた。


ゴキッ、ゴキッ

1人の青年が拳を鳴らす。
「っしゃぁ!じゃあお望み通りやってやるかぁ!ちょうどさ、MAD共のクソ意味分かんねぇ騒動に振り回されてて鬱憤溜まってたところだし…な!」


ゴキッ!!


ガターン!

「ギャハハハ!本っ当に抵抗しないんだな!」
「ウソつきアイドルミルフィちゃんも良い男を見つけたもんだぜ!」


ゴキッ!ドスッ!

代わる代わる殴り蹴られても、ただただ黙って無抵抗な空。
――嗚呼、視界が霞む…こいつらどんな顔かも分かんねーくらい視界が霞む…。でもこれで良い…。俺だってこいつらの気持ちが分かるんだ…知り合いをMADに殺された気持ちが。だから…――


ドクン…!!

「っ…!?」
その時。薄れ行く意識の中空の奥深くから、喉へ込み上げてくる程の強烈な鼓動がした。全身の血がざわめく。感じた事の無い感覚。


ドクン、ドクン、
ドクン!

――っ…?!何だよこの感覚…!?吐きそう…!――


ガッ!

「っ…!?」
そんな空の異変になど気付きもしない男性達は、とどめをさす為空の前髪を掴んで顔を上げさせた。
「んじゃ、最後は顔面ぶっ潰して…、ひぃいい!?ななな何だこいつ!両目が赤い…!?こいつ…まさか…MADか!?」


ドクン…!

その瞬間。霞む視界ながらも、今。すぐ其処目の前。男性達を見ても今まで沸き上がらなかった…いや、沸き上がるはずが無かった欲が空の中で沸き上がった。
「嗚呼…何だよこいつら…超美味ソウ…」
空の左手が男性達にゆっくり伸びる。


ドスッ!!

「ぐあああああ!?」
「ハッ…!」
そこで男性達が腹部から真っ赤な血を噴水のように噴き上げた事とそのけたたましい悲鳴により、ハッ!とし我に返った空。同時に、右目の色が普段通りの黄色に戻る。






















ドサッ!ドサッ!

「っ…!臭っ…!?」
目の前で血飛沫を上げてドサドサ倒れていった男性達のぽっかり丸く空けられた腹部からドクドク流れる血のニオイに空は顔を歪め、咄嗟に鼻を摘まむ。
「雨岬…」
「…!!鵺ッ…!」
男性達の背後から現れたのは、右手にドロリとした真新しい血を付けた鵺。空は眉間に皺を寄せ、ギリッ…!と歯を鳴らすと立ち上がり、魍魎を握り締める。
「お前は!お前は何やってんだよ鵺ぇえ!!あいつの事といい、こいつらは地球人なんだぞ!?何でぶっ殺してんだよ!!正気の時にぶっ殺してんじゃねぇよ!お前もう、ヒトに戻れなくなるぞ!!」
「だって…だって雨岬の事を殴ってたから…殺そうとしてたから…」
「だからそうじゃねぇだろ!」
「嗚呼…そうら…雨岬…。もうすぐお昼ご飯の時間らな」
「話逸らしてんじゃね…ぇ…?」


ピトッ…、

鵺の赤く鋭い爪の先端が空の喉仏に触れる。空はその爪と鵺をゆっくり交互に見る。
「鵺、」
「雨岬ごめんな…。雨岬が頑張ってくれたんだろも、俺もう戻れない…戻れないんら…」
「…!んな…そんな事…ねーよ!お前は…お前は人…間…、」
「MADの血ぃ引いてなくたってきっと俺はあの時、おめさんの彼女を傷付けてた…心がMADな俺はもう戻れねんら…。だって…だって俺は雨岬によぉく言われてたみてぇに本当我儘だすけ…。雨岬が居なくなっちゃえば俺のこの辛い気持ちが一生無くなるんら、って思ったから今此処に居るんら…」
「!!」



ザワッ…!!

鵺のその一言が何を言いたいのかを理解した空。全身の毛穴が開き、ダラダラダラ噴き出し始める脂汗。
「…!?」
その時。鵺の背中越しドラッグストアの外に見えた見覚えあるメイド姿のMADが見守るように鵺の事を見ている事に気が付いた空は目を見開く。
「雨さ、」
「!?」
空は鵺が喉仏に付けていた指を払い鵺の左腕を掴むとそのまま出入口には背を向け、鵺を連れてトイレへ駆け込む。
「なっ…?!あ、雨岬!?」


バンッ!!

トイレの扉を勢い良く開いた空。ミルフィは息を上げながら、びっくりして鵺を見つめる。
「ぬ、鵺ちん!?」
「鵺、ミルフィ。下がってろ」


キィン!

「!」
真っ赤な光を放って魍魎を抜刀した空は何と、トイレの壁ごと…


ドンッ!!

斬ったのだ。


ガラガラッ…

崩れ落ちるアスファルトの残骸による煙でむせ返るミルフィをおぶると、空は鵺の左腕を掴む。
「行くぞ鵺!」


パシッ!

「鵺!」
しかし案の定鵺はその手を振り払ったから、空は声を荒げて名を呼ぶ。しかし鵺はフルフル首を横に振る。
「鵺!早くしろ!MADがすぐ其処に居るんだぞ!」
「嫌ら!お、俺は雨岬の事もミルフィの事も、もっ…もう顔も見たくねぇぐれぇ大嫌いなんら!!雨岬だって俺の事殺そうとしたねっか!あんげ事した俺の事大嫌いらろ!」
「ああそうだよ!こいつの左腕の事も、今こいつらを殺した事も、お前は人間として最低だよ!お前なんて死んじまえって思ったよ!ぶっ殺そうと思ったよ!」
「ほらやっぱそうだねっか!だすけ言ったねっか!俺はもう戻れねぇ、心も体もMAD…化物なんらって!」
「でも俺、約束は守るたちだっつったよな!」
「え…、」
「だから俺はこれから先お前がまた最低な事をして、俺がまたお前の事を死んじまえって思うような事があったとしても、俺はお前の罪を全部背負ってやるって言った約束、死ぬまでぜってぇ守る!その為にはお前も俺達と一緒じゃなきゃ意味無ぇんだよ!」
「…!」
「お前は俺の事もう顔も見たくねぇ、居なくなれって本気で思ってるかもしれないけど…。口ではお前に死んじまえって言ったとしても、どうしてか俺は本気でそこまで思えねーんだよ!」
「うっ…うっ…、ひっく…あま…さ…、雨岬!!」


ガシッ!

お決まりのボロボロ涙を流しながら空の右腕を掴んだ鵺に、空とミルフィは顔を見合わせ微笑む。
「ごめんな、ごめんなごめんなミルフィ!俺っ…俺本当に我儘だすけあんげ事っ…!うっ…ひっく」
ポン、ポン。
ミルフィは鵺の頭を優しく叩く。
「鵺ちん。仲直りしよっか」
「うっ…、できるわけねぇて!俺っ…俺はおめさんの大事な左腕っ…!」
「ミルも悪いとこいーっぱいあった…。だからおあいこね。ミルが仲直りしたいって言ってるんだから仲直りしなさいっ!」
怒ってはいないが、ぷくーっと頬を膨らませて怒っているように見せるミルフィ。鵺は涙を右腕で拭い、コクコクと何度も縦に頷いた。
そんな2人を見て、微笑みながらも深い溜め息を吐いた空は静かに魍魎を抜刀。
「さてと。待っててくれたみたいだし、さっさと片付けるか」


キィン!

刃先を向けた先には、おとなしく待っていたドロテア。そのおとなしさが逆に恐い。
「Mr.鳳条院」


ビクッ!

ドロテアに呼ばれ、体を大きく震わした鵺は空の後ろに隠れる。
























「貴方、先程仰いましたよね。わたくしと貴方の目的は経緯は違えどMr.雨岬を一緒に殺害する事。わたくしと手を組む、と」
「はっ!そんな言葉に騙されてたのかよ鵺。仮に俺を殺した後、鵺も殺すのが見え見えだろ。こんな馬鹿に騙されてんじゃねーぞ鵺。だからお前は世間知らずなんだよ」
「こんな…馬鹿…?誰の事ですそれは?」
「お前しかいねーだろ、MAD!!」


ドンッ!!ドドンッ!!

その言葉を合図に空の魍魎が放つ赤い光とドロテアの全身が放つ黒い光とがぶつかり合い、爆発が起きた。
「ゲホッ!ゲホッ!」
爆発の煙の中から出てきたのはドロテアだけ。
「くっ…、わたくしから逃れられると思わない事です…よ…?」
ふと目線を下げたら、何と真っ白なエプロンの中心部にぽっかりと丸い穴が空いていてそこから向こうの景色が見えるではないか。つまり、いつの間にかドロテアの腹部が貫通していた。
「…!?」


ボタボタボタッ!!

次の瞬間。貫通された腹部から緑色のドロリとして重たい血が一気に吹き出して地面に血溜まりを作っていった。
「くっ…!」


ガクン!

さすがのドロテアもこの傷には片膝を着き、踞ってしまう。だが、傷が付く程の力で地面に爪を立てたドロテアの全身が怒りに震えていた。
「だから大嫌いなのですMr.雨岬…!地球人の分際で…!わたくしをここまで怒らせたのはグレンベレンバ以来…いえ、グレンベレンバ以上の怒りですよ…!」













































「はぁっ、はぁっ…っ、どうやら追ってきてはいないみたいだな」
2人を連れて、逃れ逃れた場所は閑静な住宅街。
静まり返った辺りを見回す。物音一つしなければやはり人の気配すら無い。しかし、住宅のブロック塀には時が経った赤黒い血が人型に付着した跡がある。空は眉間に皺を寄せてそれに触れる。
――化物共…!でもあいつらの方が戦闘力は格段上…。くっ…!でも俺はあいつらを必ず全員ぶっ殺す。父さんと楓の…ババァの仇を討つまでは死んでも死にきれねぇんだ!――


くい、

「雨岬君」
「…!あ、ああミルフィ腕は大丈夫か」
服の裾を引っ張られ、ハッと我に返る空。その時。


ぐうぅぅ〜…

「あっ…」
盛大に空の腹の虫が鳴いたから、鵺とミルフィは目をぱちくり。すぐ笑い出した。
「あははっ!もうっ雨岬君ってば!かーわいいっ!」
「馬鹿ッ…!お前あんまでかい声出すな!傷口が開いて…、」
「アハハハッ!雨岬やっぱさっきのメロンパン食えば良かったねっか」
「〜〜!」
耳まで真っ赤にした空は恥ずかしさを隠す為の苛立ちからぷいっ、と2人に背を向ける。
「し、仕方ないだろ!金が無いからここ最近まともに食ってなかったんだよ!」


ドクン…!

「っ…!?」
その時。空の心臓が外へ飛び出してしまいそうな程大きく鳴り、全身の毛穴が開き身体中がざわめく感覚に襲われた。空は目を見開く。


ドクン!ドクン!

――っ…?!な、何だこの感覚…!?――
そんな空の異変に気付かない2人。
「でもミルもお腹空いちゃった。何処かお店探しに行こっか」
「そうらな。俺も空いたて。おーい雨岬!MADに見つかんねぇようにどっか店探しに行こて」
「っ…、」
「雨岬?」
「雨岬君どうかしたの?」
返答の無い空を不思議に思った鵺とミルフィが空に駆け寄る。
「…!?雨岬君顔真っ青だよ!?」
「そ、それに汗がすんげぇて!なしたんらおめさん!?具合悪ぁりぃんけ!?」
覗き込んだ空の顔が真っ青で脂汗がダラダラ流れているから、尋常ではない様子に2人の顔まで青くなる。
空はよろめきながらブロック塀に手を付くが、ズルッ…とブロック塀にもたれ掛かり俯く。
「はぁっ、はぁっ…」
「雨岬君大丈夫?!」
「っ…、俺の事なんてどうだっていいんだよ…はぁっはぁっ…、ミルフィお前は自分の腕の心、配…っ!?」
「雨岬君?」
上げた顔。目の前で心配そうに自分を見つめる鵺とミルフィ。その内、何故かミルフィだけはっきりくっきり見える。それに伴い、この鼓動音も大きくなっていく。
――っ…?!な、何だ何だ何だよこの感覚…!?ミルフィだけがやけにはっきり見える…?!鵺も同じ距離に居るのに何っ…、…嗚呼…もう体がもたねぇな…ここ最近一食すらまともに食っていなかったからな…。同じ鵺とずっと一緒に居たんだ。何故だか周りには地球人が人っこ1人居なかったんだ、そりゃ仕方ないよな腹が減るわけだ…―
























「雨岬君大丈夫なの!?」
寄りかかっていたブロック塀からゆっくり体を離した空が右手をミルフィの肩に置いたから、ミルフィはその手を唯一の右手で優しく握り締める。
「雨岬、無理すんなて!おめさんとミルフィは其処で待ってるんら!俺がどっか店から食い物を持ってくるすけ!」
「うん、ありがとう鵺ちん」
そう言って駆け出した鵺。一方のミルフィは、唯一の右手で空の背中に触れて、片手だけだが優しく抱き締める。
「雨岬君、大丈夫だよ。鵺ちんがすぐご飯持ってきてくれるから。食べればきっとすぐ体調も良くなるよ」
「そうだな…」
「うん」
ゆっくり顔を上げた空。ミルフィが優しく微笑み、空を見つめる…。


ギンッ!

「!?あまっ…さき…君、その目っ…!?」
空の黄色かったはずの右目が真っ赤に染まっていた。両目を真っ赤に光らせ、口が裂けそうな程不気味に笑む空の表情はMADによく似ていた。
「目の前にあるんだもんな。こんなに美味そうな食い物がさァ!!」
「っ…!?」





























「えっと、この道を右?らな!多分っ」
「きゃああああああ!!」
「っ!?ミ、ミルフィけ!?」
遠くからミルフィの悲鳴が聞こえた鵺はすぐさま振り向き、今来た道を走って戻る。
「MADが現れたんらな!雨岬あんな状態だすけ…!くっ!」










































「はぁっ、はあっ、雨岬!ミルフィ!でぇじょぶ、」


ビチャッ!

「ら…、けっ…」
角を曲がって息を切らして戻ってきた鵺の顔に真っ赤な血が飛んできた。その血を手で拭い、ゆっくり視線を落とす。


ビチャッ!ビチャッ!

「なっ…!?雨…さっ…、き…?」
其処には、真っ赤な血の海の中に横たわるピンク色の可愛らしい服を着た人物の身体を、まるでローストチキンを食べるかのように一心不乱に貪る空の姿があった。鵺がそこに居る事にすら気付かない程。
「ヒッ…!あ、雨…っ、雨岬っ!!」


ドンッ!!

肩を掴んでブロック塀に空の背中を叩き付ける鵺。


ツゥッ…、

空の口の周りに付着した真っ赤な血が顎を伝って滴る。
「あまっ…、あ、雨岬っ!おめさん何してるんら!!なしておめさんが俺みてぇな事をしてるんら!」
「鵺も腹減ってんだろ」
「なっ…!?」
「一緒に食おうぜ。最近ちゃんと飯食ってなかったしな」
「なっ…、何うっすら馬鹿な事言ってるんら!!おめさんは地球人らろ!!それにこいつはおめさんの大事な人らねっか!!それを食い物みてぇな事言うなて!!」
「だって食い物じゃん。俺らにとって地球人は」
「っ…!?雨岬…、おめさん…なしたんら…その目っ…!!」
顔を上げた空の両目が真っ赤に染まっていたから鵺は驚愕。ドサッ!と音をたてて尻餅着き、ガタガタ震える事しかできない。喉でつかえてしまうから言葉が出てこない。

























バキッ!

「ほら。食えよ。超美味いんからさ」
「っ…!?」
鵺の口の前に差し出されたモノは、血塗れのミルフィの右腕。
「あっ…、あっ…」


ポタッ…、ポタッ…、

右腕から滴る血が灰色のアスファルトを濡らす。
「食わねぇの?悪い。俺超腹減ってるから、お前が食わないなら俺が全部食うわ」


バキッ!ゴキッ!

「あっ…、ああっ…ああっ…」
アスファルトに映る空の影がミルフィの腕を、脚を、体を、頭を噛んでいく。
鵺は腰を抜かしたまま、後退り。


ゴクンッ!

「あー、美味かった」

「あっ…、あっ…、なして…なしておめさんが…MADになるんら…?おめさんは地球人同士から産まれた…おめさんがなしてMADになるんら…?!」
「鵺。お前本当に何も食わなくて大丈夫なのかよ。顔真っ青だぞ。食ってないからじゃねーの?」
「っ…、」
平然と話し掛けてくる空。鵺はゆっくり立ち上がり、空の右手を握る。空は首を傾げる。
「なしてこんげ事になったのか俺にはちっとも分かんねぇて…。でも雨岬でぇじょぶら…。おめさんが俺の飛んだ理性を取り戻してくれたみてぇに、今度は俺が頑張るすけ…」
「鵺?何の話してるんだよ」
「俺がおめさんを人間に戻してやるすけ、安心しろて」


カランッ!

空の腰に括り付けていた魍魎が、落ちた。


















































































同時刻―――――

「痛い痛い痛いよ花月ィ!どうなってんのよこいつら!!」
道の真ん中で、歯形の付いた右腕からボタボタ血を流す友里香の前に、彼女を守るように立ちはだかる険しい顔付きの花月と鳥。2人が対峙している相手は、口の周りに真っ赤な血を付けたアリスと風希。
「なななな何が起きたというのですか峠下氏!?峠下氏の上司と姉上は地球人ではないのですか!?」
「当たり前ですよ!!」
「なら何故突然、このギャルに噛み付いたのですか!!まるでMADが我々地球人を食べるかのように!!」


ギロンッ!

突然目を真っ赤にしたアリスと風希は白い歯を覗かせて笑っている。まるで、シマウマを見つけたライオンのように。


ドクン!ドクン!

2人の心臓は空同様、飛び出してしまいそうな程大きく鳴っていた。




































































「んふっ♪何の見返りも無く、一度死んだ命を生き還してあげるわけないでしょ。世の中そう甘くないのよん♪」






























to be continued...







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あきゅろす。
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