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終焉のアリア【完結】
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パッ!

「何だぁ此処はぁ!?」
シトリーが手を叩いて直後強制瞬間異動させられたハロルド達。気付くとそこは真新しい学校の教室。ハロルド達7人は皆が席に着いて…いや、これまた強制的に着かされている。
「ンだよ、学校なんざ何年振りだってんだ」
早速教室内をキョロキョロ見回し始めた好奇心旺盛(26にもなって)なアリス。
「でも、此処には僕達しか居ないみたいだね…?」
ハロルドが言う通り、この静まり返った教室内には7人しか居らず。席は簡単に説明するとこのような座席になっている。

    【黒板】
    《教壇》
 ○○  ○ア  ○○
 フ○  ○○  ○○
 ○ハ   ○風  ○○
○○  ○○  ミ○
○鳥   ○○ ○○
       ○花

「ンだよ、窓の外も赤黒い空で気味悪りぃしよ」


ガタガタ、ガタガタ

先程から辺りを見回しながら椅子をガタガタいわせている典型的落ち着きの無い小学生なアリス。そのアリスは今中身だけが入れ替わっている為、姿は風希。だから傍から見れば、風希が落ち着きが無いように見える。そんなアリスにしびれを切らした見た目アリス中身風希は…


ドスン!

「うおぉ?!危っねぇな風希てめぇ!」
アリスは抜群の反射神経で椅子から立ち上がり、机を飛び越えて、風希が振り落とした鎌を回避。
「私の姿でこれ以上…黒歴史を生み出さないで…」
「あァ?誰が黒歴史を生み出しているだって?」


ガタッ、

立ち上がり、風希を睨み付けるアリス。
「風希てめぇ、俺とやろうってのか?あ?」
「やめろ2人共。こんな時に痴話喧嘩など」
「誰が痴話喧嘩だァ!?」
「誰が痴話喧嘩なんて…」


ギロッ!

「な、何も2人してそこまで睨まなくても良いだろう…!」


ガラッ、

「フフフ、やはりこのような状況下に置いても争いをやめられないのですね、愚かな地球人」
「!!てめぇは!」
教室の扉が横にスライドして開くといつものメイド姿…ではなく、教師ぶった紺色スーツにミニスカ姿のドロテアが入ってきた。




















キィン!

すかさず立ち上がったのは男4人で、真っ先に剣を振り上げたのはアリス。
「調子乗ってんじゃねぇぞクソMADがァ!!」


スカッ、

「んなぁ?!」
何故だろうか?ドロテアに振り下ろしたアリスの剣はドロテアの体をすり抜けてしまったのだ。いや…、
「いや違う…こいつは今此処には居ない」
「あァ?何寝ぼけた事言ってやがんだ堅物ヤロー。こいつは今此処、目の前に居んだろうが!!」
「いや、先輩。少尉が言う通りですよ」
「な、何だよカズまで!」
「フフフ。その通りですよ地球人。わたくしは今此処には居りません。今此処に居るように見えるわたくしは…」
「映像…」


パチパチ、

「お見事です。miss風希。本体は別の場所に居り、今貴方がたの前に居るわたくしは幻影…とでも言えば、愚かな地球人にも理解ができますか?」
「さっきから愚か愚か愚か愚か、地球人様見下してんじゃねぇぞクソMAD!!」


キィン!


スカッ、

「うおっ?!」
「だからアリス君!このMADは幻影だからどんな攻撃をしても効かないんだって!」
「〜〜!くっそ!」


パチパチ!

「アッハッハッハ!すご〜い!地球人のお兄ちゃんすっごく面白いネッ!ドロテア〜」
「…!今度はシルヴェルトリフェミアの幻影!?」
無邪気な子供の声が背後からして皆が一斉に振り向けば、一番後ろ花月の机に座って楽しそうに拍手をしているシルヴェルトリフェミアの幻影が。















「くっ…!大体姑息なんだよてめぇら!戦う気あるのかねぇのかはっきりしやがれ!幻影なんざで誤魔化して俺らの前に正々堂々出てこれねぇんなら勝負挑むんじゃねぇ!このっ、へっぴり腰が!」
「フフフ、さすがはこの7人の中でも成績下位から数えて二番目且つ、問題児ですねアリス・ブラッディ」
「は、はぁ?!成績下位且つ問題児だァ?!」
「ぷっ…!」


キィン!

「おいハロルド!堅物ヤロー!てめぇら今笑っただろ?!」
「剣こっちに向けないでよアリス君〜!」
「お気付きではありませんでしたか?この席順はわたくしが観た成績順に並んでいるのですよ。最前列から最後列にゆくに連れて、成績上位から下位に並んでおります」
「あ?てー事はいっちゃん前の席の俺は、いっちゃん成績が良いって話になるじゃねぇか」
「いいえ。貴方だけは例外特例です。問題児程、教師は一番前のど真ん中の席にしますでしょう?」
「クソMADてめぇぇえ!!」


キィン!


スカッ!


「だ、だからアリス君!攻撃しても意味無いんだって!」
「〜〜!!」
「アハハハッ!アハハハッ!」
「ケタケタ笑ってねぇでさっさと姿見せて戦いに来やがれシルヴェルトリフェミアァ!!」


ビシッ!

真っ赤な顔をしてシルヴェルトリフェミアを指差し、宣戦布告するアリス。
「…あれ?じゃあ席順に成績が決まっているって事は一番後ろの席の花月って…」
「げっ…」
鳥の一言で、皆の視線が後ろに居る花月に注がれる。花月は口角をヒクヒクさせ顔を青くし、苦笑い。
「カ、カズ、俺より頭パァなんかお前…」
「はは…あはは…そういう事みたい…です、ね…」
「アニメばっかり見てるからじゃん、バーカっ」


















「そうそう。成績が最も不良の地球人には、シルヴェルトリフェミア様の下僕になる価値もございませんので、この中でずば抜けて成績下位の小鳥遊花月貴方は地下で待ち構えている餓えたMAD達の餌になるのがせいぜいお似合いです」
「は…?」


ガタン!

「!?」
「花月!!」
突如、花月が立っていた足元の床だけ穴が開き鳥が駆け寄るが、時既に遅し。花月は真っ暗まるでブラックホールのような穴の中に落ちてしまった。


パタン、

そしてすぐ穴は閉じ、其処はただの床に戻る。
「花月!花月!」
閉じた床に屈み、床に向かって何度も何度も弟の名を呼ぶ鳥。涙目になりながらドロテアを睨み付けた鳥は、自分の顔の前に両手を振りかざす。
「小鳥遊流奥義、乱舞!」
「小鳥遊鳥ちゃん!」
だから、今此処に居るドロテア達には攻撃はきかない!と続くはずのハロルドの言葉までも遮り、鳥の両手から出てきた紫や黒い蝶の大群がドロテアに襲い掛かる。
「フフフ」


スカッ、

案の定すり抜けてしまう攻撃。
「花月を返して!!花月を何処へやったの!!」
「てめぇらいい加減姿見せやがれ!あれか?俺らに勝てる見込みがねぇから遠隔攻撃しかできねぇってか?」
「まさか。だって貴方がたのまずの敵は、わたくし共ではありませんから姿をまだ見せないだけです」
「何…?」


ガラッ!

「…?」
突然開かれた教室の扉。其処には大勢の地球人。
「き、君達は?!君達もMAD達に連れ拐われた人達なのかな?!なら早く僕達の方へ!僕達EMS軍が君達の事をMADから守っ、」


ヒュンッ!

「え…、」
「ハロルド!!」
1人の地球人の男が投げた果物ナイフが、ハロルドの右肩を掠めた。


ブシュウ!

「うっ…!」
「ハロルド!」
真っ赤な血が噴き、右肩を押さえながら崩れ落ちるハロルドに駆け寄るアリスとファン達。
「き、君達…どうして…僕達は敵じゃ…、」
「言われたんだ!」
「あァ?」
「言われたんだ!MADに!地球人全員が今この校舎内に集められていて!その中で生き残った奴だけが助かるって!」
「あァ?何だそのあきらかに胡散臭ぇ釣りは」
「本当よ!それに校舎内に居るMADに捕まった場合もその場で即アウト!」
「だから俺らは俺は自分が生き残る為、此処から出る為、地球人同士だろうが家族だろうが恋人同士だろうが友達だろうが、構わず…」


ギラッ、

1人の狂乱の男が振りかざした刃渡り30cmの包丁に、集まった地球人(民間人)達の姿が映る。
ハッ!としたハロルド、アリス、ファンが顔を真っ青にしてその男の元へと駆け出した。
「やめろ!それはクソMAD達の罠だ!」
「家族だろうが、恋人だろうが友達だろうが、自分が生き残る為に、皆ミンナミンナミンナミンナ殺すんだああああああ!!」
「やめろおおおお!!」


ドスッ!!ドスッ!

「ぎゃあああああ!!」
「きゃああああ!」
「ハハハハハ!アハハハハハ!!」
噴き上がる真っ赤な血渋き。吹き飛ぶ地球人の首、腕。MADに騙され、自分が助かる為に、同士である地球人を滅多刺しにしていく男。
ハロルドが男の背後から抱き付いて止めさせようとする。
「やめるんだ!君はMADに騙されているんだよ!MADはそう言って、最後は皆殺すんだ!僕達を騙して、僕達地球人同士が殺し合う様を嘲笑いたいだけなんだよ!」
「うるせぇぇえ!俺は生きる!何としてでも生き残ってやるんだあああ!だから力のあるお前ら軍人をまず殺してやるぅぅうう!!」


ギラッ!

血眼の男が振り上げた包丁にハロルドが映る。
「…!!」
「ハロルドォオオ!!」


ドスッ!!































「か、はっ…あ"っ…、」


ポタッ、ポタッ…

滴る真っ赤な血。足元の血溜まりがだんだん範囲を広げていく…。
「ア、アリス君…!」
ハロルドの危機に咄嗟的に剣を取り出したアリスはその剣で何と、民間人の地球人の…同士の左胸を突き刺してしまったのだ。お陰でハロルドは助かったが…。


バタン!

「…!!」
男は白目を向き、ピクピク体を痙攣させその場に崩れ落ち、死んでしまった。
「アリスお前…!」
「…っ!」


パチパチ!パチパチ!

「アハハハハハ!アハッ、アハハハハハ!すごいすごーい!お兄ちゃんEMSの中で、いっち番乗り♪一番乗りに地球人同士で殺し合っちゃったね!」
「黙れシルヴェルトリフェミア!」
放心状態のアリスに代わりファンがシルヴェルトリフェミアに怒鳴る。それでもシルヴェルトリフェミアは無邪気な笑顔で拍手喝采。
「アハハハハハ!さっすがお兄ちゃんっ!この中で、いっち番頭がわるい花月お兄ちゃんとは別の意味でアリスお兄ちゃんはいっち番頭がわるいってドロテアが言ってた通りだぁ〜!」
「黙れクソMAD!!!」


キィン!

「アハハハハハ!」


スッ…!

「くっ…!!」
剣はすり抜けるのは分かっていた。けど、シルヴェルトリフェミア目掛け突き刺した剣。その瞬間シルヴェルトリフェミアの幻影は消え、ドロテアの幻影すら消えてしまった。
「アハハハッ、アハハハハハ」
教室には、シルヴェルトリフェミアの無邪気な笑い声だけが響き渡っていた。

























広げた右手の平には、べっとり付着した真っ赤な血。広げた手の平の指の隙間を通して見えるそこで死んでいる男の死体。


ぎゅっ…、

それが見えないように右手を強く握り締めたアリス。
「くそっ…、くそっ…」
「アリス君…」
「アリス…」
「くっそぉぉおお!!」


ガシャン!ガシャン!

「…!?」
アリスの絶叫に混じって聞えてきた教室廊下側の窓ガラスが割れる音。一斉に振り向く。
「ギギギギ…見ツケタ!美味ソウナ飯ッ!」
「MAD…!」
割った窓ガラスの中から上半身を入れて覗いてくるMAD達。ドガン!という音と共に、教室の前後の扉までも木っ端微塵にして侵入してきたMAD達。ざっと見て30体は居るだろう。
ジリジリ…
ハロルドとアリス、ファンを先頭に、後ろへ下がる面々。
「…みんな、時間は30秒…その間に一気に此処を出るよ!」


ピキーン!

ハロルドの掛け声の直後、彼の技によってMAD達の時間が止まった。その間が30秒という意味だ。
「行くよ!」
ハロルドがミルフィの、アリスが風希の、ファンが鳥の手を引いて、時間が止まったMAD達の脇をすり抜けて教室から逃げ出すのだった。





























2階、階段――――

「はっ、はぁっ、」
階段を駆け降りる面々。
「きゃああああ!」
「ひぃいいい!助けて!」
階段の下からは、此処へ強制的に連れて来られた地球人達の切羽詰まった悲鳴や、それを嘲笑うMADの不気味な笑い声、爆発音が聞えてくる。
「くそっ…どうしたものかやはり人間というものは自分の身に死が迫ると最愛の人間までもこんなに躊躇い無く手にかけてしまえるものなのか…!」
「みんなミル達と敵対するのかな?みんな、さっきの人達みたいにミル達を殺しにくるのかな?誰か、ミル達みたいに協力してMADを倒そうと思う人はいないのかな?」
「…!そうだよ、そうだよね、ミルフィ・ポプキンちゃん!」
ミルフィの一言に、ハロルドの青い瞳が輝く。
「そうか。私達のように冷静に捉えて、これはMAD達が地球人同士を殺し合わせる為の罠だと気づいている者がいるかもしれない」
「うん!でも、そうじゃないとしても僕達が守らなきゃ。我を忘れて混乱している民間人のみんなを」
「そりゃ俺への当て付けか、てめぇら」
「あっ…!アリス君…!」
階段上から聞こえたアリスの一言に、風希以外の皆がハッ!とし、先程アリスがハロルドを庇う為に我を忘れて民間人を殺してしまった事を思い出す。
言い出したハロルドは特に申し訳なさそうに顔を青くしてアリスと目を合わせられないから、そんな彼の仕草が逆にアリスの感情を逆撫でする…のかもしれない。アリスは皆を階段上から見た後、皆に背を向けてしまう。
「ケッ。そんじゃあお前らとは此処でお別れだ」
「え?」
「ただの殺人鬼になった俺はお前らのお荷物ってわけだ。じゃあな」
「え!?ア、アリス君!?待ってよアリス君!!」
「待てアリス!誰もそんな事は一言も言っていないだろう!おい、アリス!」
3階へ戻り、1人走り去って行ってしまったアリス。追い掛けるハロルドとファン。その時…


ガクン、

「え…、」
何と、アリスが去って行った3階へ昇る為の階段が大きく揺れたと同時にハロルドとファン、ミルフィ、鳥を乗せたまま階段ごと下へ…


ガタンッ!!

「わああああ!?」
「きゃあああ!」
落下してしまった。
「ケケケ!ザマアミロ地球人共!仲間ヲ助ケニナンテ行カセネェゾ!ギャッ!ギャッ!」
「MAD!!」
アリスを追わせないように階段を割ったMADが天井から降ってきた。その下にはハロルド達が居るのだが、そんなのお構い無しにMADはハロルド達の頭上に…


ドスン!!

落下してきた。















































3階――――

「はぁ、はぁっ…。此処まで走ってくりゃ、あいつらを撒けただろ」
立ち止まり後ろを向けば、そこは静かな普通の校舎内の廊下。誰も居ない。ハロルド達が追いかけてこなくてホッとするのに、胸の奥が締め付けられる。
「…良いんだ。これで良いんだ」
――いくら我を忘れてとはいえ俺は、民間人を守る為にだけ存在するEMS軍人だってのに民間人を殺しちまった。だから…―
アリスは笑いながら頭を掻く。
「お人好しなあいつらの事だ。俺の事を気遣って、俺の罪を背負うとか言われちゃたまんねぇからな」
笑っているのにアリスの目は、酷く寂しそうだった。





















キョロキョロ。
辺りを見回しながら歩くアリス。ふと、窓の外に目を向けると。
「きゃあああ!」
「いやああああ!来ないで来ないで来ないで!」
「ギャッ!ギャッ!逃げろ逃げろ、逃げ惑え地球人共!ギャッ!ギャッ!」
隣の校舎の廊下が見えてそこで今まさにMADに追われている若い女性達が居て。


ぎゅっ、

アリスは拳を強く握る。
「俺はもう、やるっきゃねぇ…!!」
その時。窓ガラスに映る自分の後ろに、今まで居なかったはずの真っ赤なツインテールの少女が映っている事に気付いたアリスが振り向く。
「ハッ…!」
「はぁ〜い♪EMS軍の劣等生さ〜ん♪」
「フラン…!?」


ドンッ!!


ガシャン!ガシャン!!

後ろに音も無く現れたMADの少女アリスは間髪入れず、長い爪の生えた腕をアリスに振り落とした。窓ガラスが派手に割れたが、屈んで回避したアリス。
MADアリスの背後へ回り込み、風希の姿のままだが自分の武器の黒い剣をMADアリスへ振り上げた。…だが。

『アリス…』

「うぐっ…!?フラン…!?」
MADアリスの姿を見ていたら脳内から少女が自分の名を呼ぶ声がして、MADアリスに剣を振り下ろせないでいた。その隙を…
「貰った!!」
「…!!」


ドガンッ!!


































パラッ、パラッ…

家庭科室へ勢い良く吹き飛ばされたアリス。
そのせいで家庭科室内の椅子や机が崩れ落ち、その下敷きになったアリスは埋もれていて見えない。


ゴキッ、ゴキッ…

MADアリスの肩から右腕だけMADの緑色に変化していた。腕に浮かび上がりボコボコ動く血管が何とも気味悪くて、まさに化け物。
「なーんか分かんないけどチャンスくれてありがとーっ。ねぇねぇ、アンタ姿は女だけど中身は男なんでしょー?何で何で?どうしてそうなっちゃったワケ?地球人って面白ーい。キャハッ!」
「…ラン、」
「えー?」


ガラ、ガラッ…、

椅子や机の中から自力で姿を現したアリス。額から血を滴らせ腕や足からも血を滴らせているが少しふらつく程度で、立っていられる。
「フラン…何でお前が…生きてんだよ…」
「はぁー?フラン?誰それ?」
「忘れたのかよ!MADに何かされたのか!?俺だよ!俺だろ!?アリスだよ!」
「…何。アンタもアリスって名前なの?」
「は?そうだよ!お前はフランだろ?なぁ、おいフラン!」
「あー…アンタが何を勘違いしているのかアタイ分かっちゃった。でも教えてあげなーい。教えてあげる前に喋れなくしてあげちゃおーっ。だってムカつくもん。アンタみたいな地球人の中でも下位の頭の悪さの男と優秀なアタイとが同じ名前だなんて…さ!!」
「…!!」
――速っ…!!――


ガシッ!!

「かはっ…!!」
MADの右腕がアリスの首を締め付ける。MADアリスの右腕の力はみるみる強まっていくから、アリスの顔から血の気が引いていき、身動きとれず。
「がっ…、かはっ…!」
――畜生!!風希の身体じゃなきゃ、これくらいどうって事ないっつーのに!女の非力な身体じゃあ身動きすらとれねぇ!!――


ポタッ、ポタッ…

額や口角から滴る赤い血。足元に点々と丸を描く血。
「あはっ!イイねイイね!今日の3時のオヤツはアンタの血のジュースにしよっか!そしてアンタの仲間達のミルフィーユパイ!ほらアンタの仲間ひぃ、ふぅ、みぃ…7人来てたでしょ?だから七層のミルフィーユ!美味しそうでしょ〜?食べてみたいでしょ〜?でも、あげないっ!キャハハ!」
――くそっ…!意識が遠退いてきやがった。頭がボーッとしちまう…。視界がぼやける…ぼやけるのに映る、目の前に居るアイツの姿をした…アイツの皮を被ったMAD…。嗚呼そうだ…アイツが生きてるはずがねぇ。クソMADの中には食った地球人の姿声同じに変身できる奴がいる、って確かクソ坊っちゃんが言ってたよーな、言ってなかったよーな…。…そうだ、コイツはアイツじゃねぇ。だってアイツはあの日、俺の目の前で殺されたんじゃねぇか…――


















































2年前、
2524年―――――

「でさー、」
「私あの店が良いなぁ」
夜の都会の街。近代的なビルや店のネオンが光々と光る中を高校生達やカップルが行き交う。
「ぷはーっ、」
黒い携帯電話を開きながら煙草を吹かす1人の青年。アリス・ブラッディ当時24歳。
時計台に背を預け、携帯電話をカチカチカチカチ。特にする事もないのだが、緊張を紛らわす為、携帯電話をいじっているだけといった調子。
「はぁ、はぁっ!ごめーん!」
声がして、ふっ、と顔を上げる。真っ赤なロングヘアーをなびかせてアリスの元へ走ってきた1人の女。


パタン、

アリスは携帯電話を閉じ、煙草を靴で踏み潰す。
「はぁっ、はぁっ!バイト終わるの長引いちゃってさぁ」
「遅れたのは仕事のせいだから自分は悪くないってか?」
「えへへ〜」
「えへへ〜、じゃねぇよバーカ」


コツン、

女の頭を軽く叩く。
「痛てっ」
「おら、行くぞ」
「待ってよ〜!」
女にすぐ背を向けて先を歩いて行くのに、左手を後ろへ出して女が手を繋ぎやすいように然り気無く然り気無く。


ぎゅっ、

女は心底幸せそうに頬を赤らめてアリスの左腕に抱き付く。
「歩き辛ぇんだよ!!」
「またまたぁ〜!良いじゃないかっ〜!」
「うるせー」
赤いロングヘアーの女はアリスの恋人。名を『フラン』といい、年は20歳。
2人は、行き交うカップルと同じ赤らめた頬をしながら華やかな街の中へと消えていった。

























「ふぃ〜!食った食ったぁ!ごちそうさま!へへっいつも悪いね〜アリス!」
「だーっ!てめぇの胃袋は俺の財布を何回空にすりゃ気が済むんだコノヤロー!!」
「あははっ〜♪良いではないか良いではないか〜!」
レストランから出て夜の街を歩く2人。空になった財布を何度も何度も逆さにするアリスだが、無いものは無い。財布の中からはレシートがはらりはらり落ちてくるだけ。
「はぁああ…来月の給料までもつのかよ、これ…」
「もつもつ〜♪痛てっ」
「随分他人事だなァ、フランお前」
「痛いよ〜アリスさっきからあたしの頭叩き過ぎ!潰れちゃうじゃん!」
「潰してやるよ!」
グリグリ。軽くだけどフランの頭を手で押さえつけるアリス。
「ぎゃ〜!痛い痛い!潰れる〜!!」
そんな戯れもこのくらいにして…。
ヘラヘラしているフランとは対照的に、アリスは真剣な顔をする。
「おい、フラン」
「何ですか〜」
「こっち向きやがれアホ女」
「ムッ!そりゃあたしはアホだけど、アリスよりアホじゃ、な…い…、何?これ?」
振り向いたフラン。其処には、アリスが差し出した手に小さな箱が一つ。フランは首を傾げる。
「…?何これ?ねぇ何?何だよ〜アリス〜!急に真面目な顔されたらあたし困るよ〜」
「見て察しろアホ!指輪だ指輪!」
「指輪?」
「〜〜!!だーっ!!言わせんじゃねぇ!!フラン!俺と結婚しやがれ!!」
「!!」
顔を真っ赤にした乱暴な彼の言葉。顔を真っ赤にしてびっくりした彼女。


しん…

起きた沈黙。街の方から遠くに聞こえる人の声。
「え、え、え、えええ?!」
「早くしやがれ!」
「何を?!」
「yesかnoかに決まってんだろーが!!だから、俺に言わせるんじゃねぇよ!!」
「〜〜!いいい、yesに決まってるじゃん〜!ぐすっ、ひっく!」
「んなっ?!フランお前何泣いてやがんだよ?!」
「だ、だって〜!あたしバカだから、あたしなんかをアリスが貰ってくれると思っていなかったんだもん〜!」
わんわん泣き出すフランにアリスは目をギョッとさせ戸惑っていたが、すぐ冷静さを取り戻す。






















「はぁ〜。オラ。泣いてねぇでさっさと受け取りやがれ。1秒以内に受け取らねぇとそこの質屋で売ってくるぞ」
「わ〜!待って待って!今貰う!貰うから!」
「ギャハハ!バッカじゃねぇのお前?!冗談に決まってんだろーが!」
「だって〜!」
「泣くな泣くな。さっさと受け取、」


ドスッ、

「…え?」
「なっ…!?」
フランが嬉しくて泣きながら、アリスの手の中にある指輪に両手を伸ばした時。フランの背後から鈍い音がした。
何が起きたか分からなくて、でもアリスの視線は無意識の内に下がっていき、フランの腹部に視線が向いた時。
「…!!」
フランの真っ白いワンピースが真っ赤に滲んでいて、腹部には赤い爪をした緑色の化け物の右腕が貫通していた。


ドサッ、

「フラン!!」
顔面蒼白のアリスは、倒れたフランに駆け寄るがフランの身体が何者かによってアリスから引き離された。
顔を上げると其処には、緑色の人型をして顔にはダイヤのような真っ赤な一つの目玉がある化け物が1体立っていて、アリスを見下ろしていた。


ゾッ…!!

喧嘩負け無し。ヤーサンもビビって退散する程のアリス・ブラッディ。しかしそんな彼も顔面蒼白。身動きとれず、言葉を失った。目の前の化け物に。
「あ"…、あ…、な、何だてめぇ、」


バリッ!

「!?」
アリスの目の前でその緑色の化け物は何と、フランの頭をバリバリ、まるで地球人が牛肉を食すかの如く極普通に食べ出したのだ。
「バリッ、バリッ…美味しい美味しい!やっぱり若い地球人の方が味が濃くて美味し、」
「ふざけんなぁああああ!!」
アリスが鬼の形相で拳を化け物に振り上げる。だが…。
「邪魔」


ドスン!ドスン!!

ピンッ!と化け物にデコピンをされただけで、アリスは向こうの建物まで勢いよく吹き飛ばされてしまった。辺りに立ち込める土煙。そんなものお構い無しに、化け物はフランを食べていく。


















「うーん。この地球人結構可愛いし…よしっ。決ーめた。アタイ、この地球人の姿に化けようっと!」


ガシッ!

「ん?」
足首を掴まれた感触。化け物が目線を下げると其処には、頭から血を流して傷だらけで息も絶え絶えにも関わらず好戦的な眼差しを向けるアリスが居た。
「何ー?」
「はぁ、はぁっ…はぁっ…」
「ふん、邪魔だってば」


ゲシッ!ゲシッ!

「ぐああ!!」
化け物の大きな足で何度も踏みつけられる度聞こえるアリスの悲鳴を楽しむ化け物。
「アハハハ!」
「はぁ、はぁっ、を…!フラ、を…!フランを、返せぇぇえええ!!」
「あ。そうだっ」
化け物は踏みつけるのをやめると、その顔と呼び難い顔でアリスの顔をぬっ、と覗き込む。
「アタイ、地球に来る時視力ほとんど失っちゃったんだぁ。だからアンタのその視力…」
「…?」
「チョウダイ!!」


ブスッ!!

「ぐあああああああ!!」
化け物の長く赤い両手の爪がアリスの両目に突き刺さる。


ズッ…、

その両手を自分の赤い瞳に突き付けた化け物。
「キャハッ!これで手に入った手に入った!可愛い容姿と存分な視力!キャハハハ!」
満足気にビルとビルを跳んで去っていった化け物…後にMADと呼ばれる事になる彼女はMADアリス。



















「う…、あ"…」


ズッ…、ズッ…

自分の両目から滴る真っ赤な血。
「見えねぇ…見えねぇ…何も見えねぇ…」
アリスの視界。真っ暗。闇。僅かな光すら見えなくなっていた。
身体は全身が酷い状態で激痛なんてものでは済まされない程。しかしそんな激痛よりも酷く痛む心。見えないが、確かにアリスの右手の中には、渡せなかった…一生渡せなくなってしまった指輪がある。それが唯一、今起きた出来事が夢ではなく現実だと証明する物。
「フラ、ン…フラン…」

『アリス!』

フランの無邪気な笑顔が。声が甦る。


ダンッ!!

両手で地面を叩き付ける。
「うあああああああ!!」
最愛の人フランの死という現実を受け入れたアリスの叫び声が響き渡る。
視力を奪われたアリスには見えない、血のように生々しく真っ赤な満月の晩。この日は、地球が異星人MADに侵略された日。










































現在―――――


グググ…、

「キャハッ!あれー?アンタあいつらの中で一番好戦的って聞いていたんだけどどうしちゃったのー?無抵抗じゃん。諦めちゃった?アハッ!」
MADアリスに首を締め付けられたまま無抵抗のアリス。人間、死ぬ気になれば火事場の馬鹿力が出るだろう…しかし今のアリスには無理だ。アリスはもう、生を手放そうとしているから。
歪み霞む視界に映るのは最愛の恋人フランの姿なのに、フランではない。なのに…。
――ダメだなァ俺は…。こいつはフランの皮を被った化け物なんだよ…でもできねぇ…できねぇんだ…。もう…あんな、グチャグチャにされたフランの姿見たくねぇ…―
「…はっ」
「何?」
「やっぱり姑息だぜ…てめぇらクソMADは…」
「はぁ?」
「姿を見せねぇで遠隔攻撃したり…人様の大事な奴に化けて…攻撃できねぇようにしたり…クソだ…やっぱりてめぇらはクソMADだ…」
「グチグチうざい男嫌い。さっさと死んじゃえよ?」


グワッ!

MAD化したMADアリスの左腕がアリスの顔面に向かってきた。血の気の無い顔をしたアリスは自ら目を閉じた。
「…はっ。じゃあな、お前ら…」























スパンッ!!

「キャアアアアア!!」
「…!?」
アリスの首を締め付けていたMADアリスの腕が離れた…違う。吹き飛ばされたのだ。一本の大きな鎌によって。噴水の如く噴き上がる緑色の血。MADアリスは悲鳴を上げ、家庭科室内を駆け回る。
一方。見覚えある鎌に、ハッ!と顔を上げたアリス。其処には、自分の本来の姿をしているが中身は違う…
「ふ、風希!?」
見た目アリス中身風希が居た。
「ゴホッ!ゲホッ!ふ、風希どうし、」


ビシッ!

「うおっ?!」
相変わらず、鎌を仲間に向ける風希。
「馬鹿…大馬鹿…。何、諦めてるの…それ、貴方の身体じゃない…それ、私の身体…」
「お…お、おお。そうだったな。ははっ!ひょー!危ねぇ危ねぇ!そうだったな俺があそこで死んでたら、死ぬのは俺の意識と風希お前の身体だもんな!」
「……」
「おい?どうした風希。ここはいつもみてぇにツッコミ入れ、」


スッ、

「…?」
風希はただ無表情で黙ったままアリスの右目頭を手で拭うと、黙ったままアリスの前に立ち、そこで暴れているMADアリスに鎌を向けた。
「…そういう、キャラじゃない事はしない方が良い…」
「は?何がだよ?キャラ?は?」
「……。気付いてないなら良い…」
「は?!風希何だよ?!黙ってねぇで、」
「やめた…?」
「は?!だから何がだよ!お前は主語が無ねぇから意味伝わんねぇよ!」
「生きる事、やめた…?」
「…!!」
アリスはその一言に顔を青くして、口をつむぐ。
「…やめ、」
「ねぇよ…!」


ポンッ、

風希の左肩に手を乗せたアリスが風希と並ぶ。その瞳にはもうさっきの生を手放そうとしたアリスは居無く、生を何がなんでも奪われないと決心した瞳のアリスが居た。
「悪かったな風希。確かに俺らしくねぇ。こんなの俺のキャラじゃねぇよな」
「……」
「よっしゃ!人様の女の姿に化けたドクソMADなんざ、このアリス・ブラッディ様が木っ端微塵にしてやんぜ!!」
「…それじゃない…。まだ気付いてないし…」
「あ?何か言ったか?」
風希は首を横に振る。
一方、起き上がったMADアリスの顔はまるで鬼。アリスと風希を睨み付けている。
「うぅっ…、許せない…可愛いアタイの腕1本駄目にした地球人、許せない…!」


ビシッ!

アリスは黒い剣の刃先をMADアリスに向けた。
「いいぜいいぜ、その好戦的な所。殺し甲斐があるってもんだ。1分で終わらせてやんよ、クソMAD!!」
































to be continued...







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