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終焉のアリア【完結】
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地面に炎の花が咲き、空まで燃え盛る火の海の中。足元にあるのは誰の腕で、誰の足か分からない真っ赤な血に濡れた人間のバラバラの四肢達。
「皆いなくなっちゃう、皆いなくなっちゃう、皆いなくなっちゃう!」
熱いのなんて気にならない程、裸足でひたすら逃げる。
「お姉ちゃんもゲームオーバーだよ」
「ひっ…!」
あたしの前に現れたのはあの日初めて見た化物。人間の皮をかぶった化物シルヴェルトリフェミア。
――もう駄目…!――
死を受け入れ、目を強く瞑った。


ドスッ!!

「…?」
音がして恐る恐る顔を上げる。其処には、刃物でバラバラにされたシルヴェルトリフェミアが倒れていて、辺りには血みたいに真っ赤な光が広がっていて。魍魎を右手に握って、亡骸の中に1人、立っていたのは白い髪の少年…
















「…ハッ!」
飛び起きた鳥。冷や汗でびっしょり。


チクタク、チクタク…

時計の秒針の音しか聞こえてこない静かな辺りを見回せば、真っ暗なAM0時20分。
「スー、スー…」
隣で寝息をたてて眠る花月を見て、気付いた。ホッと息を吐いて自分の左胸に手をあてる鳥。
「夢…か…」


ドクンドクンドクン

それでも鳥の鼓動は破裂しそうな程、大きくうるさく鳴り続けていた。


























































翌日19時00分、
コンビニ――――

「休憩入りまーす」
大学生アルバイトと入れ替わり立ち替わり、休憩を終えた佐伯涼…基、空がレジに立つ。
チカチカする店内の灯り。夕飯刻という事もあってか店内には客が誰1人もいない。だから、2台あるレジの内1台に空1人が立っていれば問題ない。今の時間帯は先日の大学生アルバイト2人と空の合わせて3人体制。
「3人もいらなくね?人件費の無駄遣い」
レジの台を拭きながら呟く空。


ピンポーン、ピンポーン

「いらっしゃいま、…!!」
チャイムと同時に自動ドアが開いて来店して来た黒スーツ2人組の客を見た瞬間、空の顔が凍り付く。客2人はサングラスをかけているが、ずっと共に行動してきたから一目で分かった。ハロルドとファンだ。



















ガタン!

「何だよ佐伯ー」
慌てて事務所へ駆け込んだ空に、夕食休憩中の大学生アルバイト2人が嫌そうに振り向く。
「…すみません。体調が優れないので早退します」
「はあ?!」


ガタン!

カップラーメンを食べていた割り箸をテーブルに叩き付けて立ち上がる大学生アルバイト。
一方の空は、2人の返事を待たずにさっさとロッカーを開けて制服を脱ごうとしているから…


ガッ!

大学生アルバイトが胸倉を掴み上げる。
「昨日から調子乗ってんじゃねぇぞ佐伯。ピンピンしてんじゃねぇか。どこがどう優れないんだ?言ってみろ」
「……」
「優れないのはお前のココだろ?」
「アハハ!だな〜」
「くっ…!」
ココ、と言いながら自分の頭を指でつついてからかう2人。
「あのー、すみませんレジお願いしまーす」


ビクッ!

「おい。店の方から客の声するぞ。ほら、行ってこいよ佐伯!」


ドンッ!

「っ…!」
背中を蹴られ、無理矢理店内へ出された空。下を向いたままだが、其処に2人の人間が居る気配を体が震える程感じ取れる。
「すみませんレジお願いしま、」


ダッ!

「!!」
何と空はレジを出て客2人の脇を下を向いたまま走り…


バタン!!

トイレへと駆け込んだ。
「逃げたという事はあの少年はやはりか。追うぞ、ハロルド」
「う、うん!」
「どうしまし…って、あれ?!佐伯は?」
「あ!君達は昨日の!」
「あ…あー!おっさん達まーた来たんですか?」
騒々しさを聞き付けて渋々店内へ顔を出した大学生アルバイト2人は、ハロルドとファンを見て思い出す。





















「佐伯は?居なくね?」
「例の少年なら今、トイレへ駆け込んで行った」
「マジですか?つーかおっさん達佐伯の事探しているんじゃなかったっけ?」
「うん。そうなんだ。ごめんね、今その事で…」
「ハロルド。追うぞ」
ポカンとしている大学生アルバイト2人を背に、ハロルドとファンはトイレの扉を開き、更に中の扉のノブを回す。


ガチャ、ガチャ

「鍵がかかっているよ」
「ハロルド。下がっていろ」
「え、」


ボオッ…!!

扉にかざしたファンの左手の平から噴いた炎で一瞬にして扉を焼き払ったファン。しかし…
「くっ…逃げ足は速いようだな」


ゴオォ…

開きっぱなしのトイレ内の小窓から冷たい夜風が吹いているだけで、トイレ内には既に空の姿は無かった。
「外へまわるぞ」
「うん!」
「おっさん達佐伯探してんの?」
「え。う、うん」
「ふぅん…あ"ー!!俺のチャリ無ぇし!」
ハロルド達4人が外へ出てトイレのある位置店の裏へまわると駐輪場があり、其処に停めておいた大学生アルバイトの内1人の自転車が無くなっていた。
「鍵つけておいたのに!」
「恐らく雨岬が盗んでその自転車を使い、逃げたのだろう」
「うん、そうだね」
「まだそう遠くへは逃げられないはず。追うぞ、ハロルド」
「うん」
真っ暗な夜空の下、何処へ逃げたかも分からない空を追う為走り去って行ったハロルドとファンに、大学生アルバイト2人はポカン。
「な、何だったんだよ結局あのおっさん2人は…」
「知らね…。つーか俺のチャリ…この前駅で盗まれて買ったばっかりだったのに…あ"ぁ…」
「チャリの1台や2台どうって事ないだろ」
「あるし!」
「分かった分かった。つーかこりゃ、佐伯はクビだな。オーナーに電話しないと」
「窃盗罪も追加な!」
「はいはい」


















ピンポン、ピンポーン

「あ。客じゃね?やべっ。いらっしゃいませー!」
2人が店へ戻るより先に店の自動ドアと共にチャイムが鳴るのが聞こえたから、店内へ走って戻る2人。
「いらっしゃいませ」
其処には、2人には背を向けて赤い長い髪に豹柄ワンピースを着た…
くるり。
「ひっ…!!」
「MAD…!?」
マジョルカが立っていてまさに今、振り返った。
「ぎゃああああ!」
「まままMADが出たああああ!!」
顔を真っ青にして店の外へ飛び出す2人。
「なっ…?!何だよ此処…外じゃねぇ?!」
何と、出ると其処は店の外ではなく、極ありふれた何処かの学校の校舎内だった。
「なっ…!?何だよ此処?なっ…」


ドスン!

「っ…?」
後退りした2人が後ろに居るナニカにぶつかった。2人が恐る恐る振り向くと…
「こんにちはっ!ぼくはシルヴェルトリフェミア!シトリーって呼んでねっ。お兄ちゃん達2人をシトリーの学校に入学させるよぅ!」
「なっ…?!」



























































その頃――――――

「はぁっ、はぁっ」


ガシャン!

アパートの前に自転車を放り投げ軋む階段を駆け上がり、勢い良く部屋の扉を開いて中から鍵をかける冷や汗かいた空。
「う"う"っ…」
「はぁ、はぁっ、鵺!此処から離れるぞ!」
コンビニの制服姿のまま駆け込んできた空。部屋の片隅に体育座りで踞っている鵺に自分の黒いパーカーを着せフードをかぶせ、部屋を出る身支度をする。
「う"う"っ!!」


ガッ!

「っあ"…!!」
そんな空の気持ちなど知るよしも無い鵺は案の定いつもの如く空の頬を切り裂き暴れ出すから…。


ガタン!

「う"う"う"!」
鵺の肩を両手で掴み、押し倒して押さえ込む空。
「おとなしくしろ!おとなしくしてくれ鵺お願いだ!今お前に暴れられたら…」


コンコン、

「!!」


ビクッ!!

扉をノックする音。青ざめた顔で、恐る恐る扉の方に顔を向ける空。


コンコン、コンコン、


ドクンドクンドクン…

――このタイミング、この時間帯…。あいつらしかいない!どうするどうするどうするどうする!?玄関にはあいつらが居る。此処は2階。窓から飛び降りて逃げるか?でもあいつらは2人で来ていたから、玄関とは反対つまりアパート裏にもう1人が待ち伏せしていてもおかしくない――


コンコン、コンコン、

――トイレの窓から…いや無理だ。どっちにしろ部屋の窓から飛び降りて着く場所と同じ。アパートの真裏に出る事になる。くそっ!どうすれば…!!――
「佐伯さん?お留守ですか佐伯さん?」
「大家?!…さん?!」
――マ、マジかよ…あいつらかと思ってたら大家だった…!――
訪問者がハロルドとファンではなく大家だった事にホッとした空。鵺を毛布で包るんで隠して、玄関の扉を開ける空。


















ガチャッ、

「はい」
「良かった。部屋の灯りが消えていたから、てっきりお留守かと」
「すみません」
「あのね、佐伯さん。佐伯さんのお隣…203号室の田中さん。昨日から連絡がとれないの」


ドクン…!

『…!!何やってんだよお前は…!!』

脳裏では昨日、鵺が食べていた隣の部屋の男子大学生田中の無惨な姿が思い出される。
「し、知らないっす」
「そう…。大学にも連絡無しで休んだらしくて。何か聞いていない?」
「聞いてないっす…つーか挨拶しかした事ないんで…」
「そう…。ごめんなさいね突然」
「いえ…」
「じゃあ失礼しま…、ひぃっ?!ま、ま、MAD?!」
「え?…!!」
「う"う"う"!!」
「鵺!?やめろ!!」


グシャッ!!

「きゃああああ!!」
空の背後から空の肩越しに飛び越えて大家に襲いかかった鵺。鋭いナイフのようなその爪で、大家の首を吹き飛ばした。


ボトッ…、

廊下に転がった大家の白目を向いた頭を手に取り、口へ運ぶ…。
「やめろ鵺!もうやめてくれ鵺!!」
「う"うっ?!」
鵺の後ろから大家の頭を振り払い、食べようとしていた鵺を止めた空。後ろから空に体を掴まれ、暴れようとしても身動きのとれない鵺。



















「う"う"う"う"!」
「やめろ鵺、もうやめてくれ!!俺の言葉本当に聞こえないのかよ!?」
「聞こえないだろう。鳳条院は完全なるMADとなったのだから」
「!!」
聞いた事ある低い声が廊下奥の階段から聞こえ、ハッ!とする空。其処には、空と鵺2人に向け、鬼の形相で右手をかざすファンの姿があった。
「ハロルド達は隠しているが、私には分かっている。…鳳条院。貴様が…月見を殺した!!」
――まずい…!!――


ゴオォッ!!

いつもクールでポーカーフェイスのファンの目が鬼の如くつり上がり、彼の右手からは彼の憎しみが込められた炎が空と鵺に向かって渦を巻いて襲い掛かる。
止めをさす為、炎の中、2人目掛け走るが…


ガクン!

「っ?!」
危うく下へ落ちるところだった。ファンの炎で焼け落ちた2階廊下。手摺に掴まり、何とか落下を免れたファン。
「くそ…!!」
下に視線を向ければ、鵺の手を引いて自転車の方へ逃げていく空の姿が見えた。ファンはすぐ、耳につけていたイヤホン型無線機をONに切り替える。
「ハロルド!建物正面へ逃げた!」
「了解だよ、ファン君」

































一方の空と鵺。
先程盗んだ自転車を立たせて荷台に鵺を乗せる。
「う"う"…」
「いいか鵺。俺の腰にしっかり掴まっていろ。暴れたり、勝手に降りたりすんなよ!」
「う"う"う"!!」


ガッ!

「痛っ…!」
しかし、また暴れて空の腕や頬を切り裂く鵺。
「くっ…!鵺!聞け!!」


ガシッ!

爪を立てる程鵺の肩を掴み向き合わせれば鵺はビクッ!として、少しおとなしくなる。
「お前と会ったばっかりの頃!俺のマンションにシルヴェルトリフェミア達が居て逃げた時!覚えてんだろ?!あの時みたいに俺、チャリぶっ飛ばすから!しっかり掴まってろ!」
「う"う"っ…」
「忘れたなんて言わせないからな!お前と今まで過ごしてきた思い出全部忘れたなんて言わせないからな!!無理矢理にでも全部思い出させてやる!!」
「う"う"う"!!」


ガッ!ガッ!!

「ぐあ"…!!」
再び暴れ出し、空の腕や体を狂ったように切り裂き続ける鵺。しかし空は痛みを必死に堪え、叫ぶ。
「俺がお前を匿っている事が正しいとは思わない!!無意識とはいえお前が月見さんや他の人間を殺したのは事実だし、あいつらがそれに怒ってお前を殺しに来るのも分かる!!」
「う"う"う"!!」
「だから俺がお前の罪を全部背負ってやる!!」
「う"う"う"…!」
「俺を信じろ鵺!!」
「う"…、う"…」


ピタッ…

裏返った空の大声に、鵺の動きが止まる。























「はぁ…はぁ…。…しっかり掴まっておけよ。落っこちたって知らねーからな」


ガタン…、

自転車のスタンドを足で蹴り上げて、サドルに跨がり鵺に背を向ける空。


ギッ…、

鵺の左手の爪が、空の背中を引っ掻く。
「何だよ。しっかり掴まっていろって言って、」
「ア…マ…サ…、キ…」
「!?」


バッ!

鵺の声が自分を呼んだから咄嗟に振り向く空。
途切れ途切れだし、本当にそう言ったかは確信できない。空耳かもしれない。でも確かに鵺の声がした。
「鵺…今…俺の名前…」
「アマ…サ、キ…ア…マ…サ…キ…」
「…!!」
――柄にもないな。こんなの俺らしくない。友達なんてモノはその場凌ぎのモノでしかない。ずっとそう信じ込んできた。何事も面倒くさいからと言って、何事にも無関心なフリをしてきた。だって熱い友情とかかっこ悪いじゃん?信じて裏切られた時かっこ悪いじゃん。だから、友達も恋人も全部全部無関心でクールなフリをして、他人とは広く浅く付き合ってきた。それが一番居心地が良かった。裏切られた時苦しまなくて済むじゃん。…でも心の深い所に居る俺は、そんな俺の嘘を見抜いていたかもしれない。でも俺はクールを貫いて、何事も広く浅く付き合ってを貫いてきた。だから、こんなの…――
「友達相手にこんなにマジになるなんてこんなの俺らしくないんだよ!!お前のせいだからなド田舎者!!」
――笑いながらなのにボロボロ涙を流してこんなに感情的になるなんて全っ然俺らしくない。こんな俺を俺がムカつくはずなのに、心の奥底からすっきりした…。散々こいつの事をツンデレとかからかってきたけど嗚呼、そうか。俺の方だったんだ。傷付く事を恐れ、強がって素直になれずにいたのは――
「アマ…サキ…ア、マ…サキ…アマ…サキ…」
小指に括り付けたお守りをつき出して、何度も何度も親友の名を呼びながら涙をボロボロ流す鵺。
空は腕で自分の涙を拭うとフードをかぶせた鵺の頭をポン、と叩いてすぐ背を向ける。
「しっかり掴まっておけよこの、ド田舎者が」
コクコク何度も頷く鵺。
空は自転車のハンドルを力強く握り、漕ぎ出そうとする。


ピキーン!

「…ごめんね雨岬空君、鳳条院鵺君…」
その瞬間、全ての刻が止まった。夜空を飛んでいた烏も同じ場所で停止している。まるで一時停止をした世界。その中でたった1人だけ刻が止まっていない人間ハロルドが姿を現す。





















ハロルドは切なそうな目をしながらも、刻を止めた2人の背後から近付く。
「ごめんね…僕も本当はこんな事はしたくない。聞いたんだ、小鳥遊花月君から。鳳条院鵺君とグレンベレンバ将軍の事…。それでもアリス君達は酷く怒っていたけど…。小鳥遊月見ちゃんや大勢の人を殺めたけど、僕は鳳条院鵺君も救われるべき魂だと思っているよ。…でもごめんね。僕はEMS軍。MADから地球を守る使命を背負った人間だから。だから…せめて…」


スッ…、

懐から、銀色に光るダガーナイフを取り出したハロルド。
「刻が止まっているこの間に、苦しまずに…」
ナイフを2人に向けて振り上げた。


カッ!

その時。辺り一帯に血のように真っ赤な光が広がった。
「はっ。残念。何でか分かんねーけど俺らあんたの術がかかっていないんすよ」
「えっ…!?」


ドン!ドンドン!!

「ハロルド!!」


シュタッ!

2階廊下から飛び降りてきたファンは、ハロルドの元へ駆け寄る。ハロルドの左腕には刀で斬られた傷跡が。
「大丈夫か!」
「うぅっ…平気平気。ねぇファン君。どうしてかな」
「どうした」
「僕が今、刻を止めたはずなのに雨岬空君と鳳条院鵺君…動けたんだ」
「なっ…!?だから今、雨岬から攻撃を食らったのか」
「確かこの前…鳳条院鵺君が東京を荒らしていた時も誰かの力によって、僕の技が解かれたんだ。…もしかして地球人とMADがかけ合わさった特殊なMADにはこの技が効かないのかな…」
「…?!どういう事だそれは…。鳳条院はともかく…その言い方ではまるで雨岬が…」
〔おい!そっちはどうなっていやがるんだクソ坊っちゃん!堅物ヤロー!〕
「アリス君!?」
2人の無線機からノイズと共にアリスの乱暴な声が聞こえてきた。
「ご、ごめん逃がしちゃっ、」
〔はあ?!またかよ!てめぇらいい加減にしやがれクソが!!〕
「ごめんね!僕達も今すぐそっちへ合流し、」


ブツッ!!

「あ…。無線、切られちゃった…」








































一方。
「はぁ、はぁっ」
閑静な住宅街を抜けた裏にある人気の無い林道を、鵺を荷台に乗せて猛スピードで自転車を立ち漕ぎする空。
「アマ…サ、キ…アマ…サキ…」
「はっ。何不安そうな声出してんだよ、お前らしくねーし」
「アマサキ…ア、マサキ…」
「…大丈夫。約束は絶対守るから」
「どーんな約束だ?俺にも聞かせろよクソガキ共」
「んなっ…?!」
「いけよ!!」


ドンッ!!

「っ…!!」
黒い光が空達目掛け前方から襲ってきた為、空はギリギリの所でハンドルを左にきり、回避する。


ドスン!

空が回避した事により、空達の真後ろにあった大木が黒い光によって真っ二つに斬り落とされた。
その光景を、ゾッ…として振り返って見た空だが、すぐ右手に魍魎を構える。
「一丁前に刀を握ったところでガラ空きなんだよクソメガネ!!」
「っ?!」


ドンッ!

「ぐあっ!!」
「う"う"う"!!」
2人の真上に飛び上がったアリスが現れると、黒い光を放つ剣を2人目掛け振り落とす。その攻撃を腕にモロに食らった拍子に自転車ごと吹き飛ばされた空と鵺。空は左側へ、鵺は右側へ吹き飛ばされてしまった。




















ドスッ!!

「ぐあっ!!」
仰向けに横たわる空の腹を右足で踏みつけるアリス。空は口から胃液を吐く。
「ほーら見ろ。やっぱり俺の言った通りだったじゃねぇか。メガネと鳳条院はMADの手下だってなァ!」
「ぐっ…、違げぇ!!鵺をあんな化けもんと一緒にすんな!!」
「月見姉様を殺しておいて何がどう違うの…説明して…」
「!!」


ドスン!

背後から声がして、倒れたまま目線だけを声の方へ動かした空の瞳に映ったものは、其処で倒れている鵺の頭スレスレの地面に鎌を突き刺した風希の姿。


ドクン…!!

空の背筋が凍り付く。
「やめろ!!鵺には!!」
「何もするな、って言いたいの…?無理…絶対無理…。月見姉様の仇だもん…。原型留めなくなるくらい…グチャグチャにしてやる…」
「やめろおおおお!!」


ピカッ!

空の右手が握っている魍魎が真っ赤な光を放った。


ドンッ!ドン!!

「っ…!?」
「風希!!」
その光はまるで空の心に反応したかのように、アリスと風希を吹き飛ばしたのだ。


ドスン!

「痛っつ〜…!」
吹き飛ばされた風希を受け止めた時、2人の頭と頭が激突してしまった。そんな中でもアリスは見逃さない。この隙に鵺の手を引いて逃げようとしている空の姿を。
「させっかよ!!」
剣を振り上げた。


ドクン…!!

「なっ…!?」
ただ睨まれただけ。ただ空に睨まれただけなのに体が動かなくなってしまったアリスは驚愕。
まるで鬼の形相の空の黄色かったはずの左目までもが、つまり両目が赤く染まっていた。

















「…ハッ!」
その間に2人は忽然と姿を消していた。
「くそ…!な、何なんだよ?!体が動かなかった…?!何なんだよメガネは!あいつは人間のはずだろ?!メガネはマジでMADだったのかよ?!」
「うっ…」
「おお!目ぇ覚ましたか風希…って、おわあああ?!なななな何で俺が其処に居るんだよ!!」
「え…?あ…本当だ…私も目の前に居る…どうして…?」
何と、アリスの前にはアリスが。風希の前には風希が居る。そこで先程、空の攻撃を受けた時アリスと風希の頭と頭が衝突してしまった事を思い出す。
サァーッ…。顔から血の気が引いていくアリス。だが体は風希のアリスがプルプル震える指で、体はアリスの風希を指差す。
「お、お、おい風希これってまさか…」
「うん…そのまさかかも…」
「俺ら中身が入れ替わっちまったってかあああ!?」
「最低…」


























































「鵺、大丈夫か。怪我、無いか」
「う"う"う"う"!!」


ビチャビチャッ

「ぬ、鵺…!!」
林道奥に自転車で何とか逃げてきた2人。しかし鵺は口から緑色の血を大量に吐いた。
どうして良いか分からない空は、とりあえず鵺の背中を擦ってやる事しかできない。無力な自分を殴り付けたくなる。
「鵺苦しいのか!どこがだ?!怪我はしてないんだよな?!」
「う"う"ぐっ…!」
「じゃあどこが…」


ピカッ、

「…?」
その時。背後の遠くで、車のライトのような金色の光が一瞬光った。後ろを振り向く空。
「車のライト…か?」
しかし、それっきり光は見えなかったから気に留めず鵺の方を向き直す。
「大丈夫か、鵺」
「う"う"っ…」
そんな2人の後ろの木の幹が人の形に浮き上がっている事など、知りもしない2人。


















「鵺…くそ!どうすりゃお前を助けられるんだよ!」
「…!」
ハッ!とした鵺は吐血しながらも顔を咄嗟に上げ、辺りを見回し出す。
「う"う"っ!!」
「どうしたぬ、」


キィン!!

「なっ…!?花月!!」
空の背後へ飛び出した鵺の方を振り向けば、いつの間に居たのか…実は、背後の木の幹に姿を隠していてずっと2人の後ろに居た花月が突然姿を現したのだ。すぐさま花月と対峙する鵺。


ドンッ!!

「う"う"う"!」
「鵺!!」
魑魅の色の光が放たれ鵺が吹き飛んできたから、駆け寄る空。しかし空よりも早く鵺に追い付き、鵺の首を締め付けた花月。
「う"う"っ!!」
「なっ…!?ふざけんなてめぇ!!」
頭に血が昇った空は花月へ魍魎を振り上げる。魍魎が花月へ迫っていき、今まさに花月に振り落とされ…


カランカラン…!

「くっ…そ!!」
魍魎は地面へ音をたてて転がる。
殺せない。空には人を殺す事など、できない。



















一方の花月は彼らしかぬ据わった瞳で空を見る。
「空さんは殺せない。俺や先輩達の事を殺せない。ハロルド少佐の言った通りだ」
「くっ…!放せよ!鵺から手を放せ!!」
魍魎を捨て、花月へ殴りかかる空。しかし…


ドンッ!!

「ぐあっ!」


ドスン!

金色の光で反対側の木まで吹き飛ばされてしまい、花月に近寄る事すらできず。花月の首から下にはあの赤い奇妙な模様が浮き上がっていて、花月自身の顔色も酷く悪く、呼吸が荒い。
「鵺兄さんごめんなさい。お鳥ちゃんはダメだって言ったけど…俺にはそんなの無理だから…。鵺兄さんごめんなさい…お鳥ちゃんが助かる為に…死んで下さい」


ぐっ…、

鵺の首を締め付ける花月の腕力が強くなり、花月の瞳が金色に光る。
「鵺ぇぇえ!!」


ザァッ…!

「!?」
突然黒い蝶の大群が花月に襲いかかり全身を覆い、鵺の首から花月の手を引き離した。
「お鳥ちゃん!?」
蝶に全身を覆われ周りが見えない真っ暗な空間の中、邪魔をした人物の名を呼ぶ花月。
一方の空は呆然としていたが、すぐ
「ハッ!」
とし、鵺に駆け寄り鵺を自転車の荷台に乗せる。
よく分からないが花月が攻撃できないこの隙に再び逃げ出そうと、自転車のサドルに跨がった。
「くっ…!」
しかしすぐに魍魎を構えたのは、目の前に鳥が現れたから。
「大丈夫だよ。あたしは君達に攻撃しないし、捕まえもしない」
「んな事バレバレの嘘なんだよ…!」
「本当だよ。だって今、鵺が花月に殺されそうになった所を助けたのはあたしの蝶達だもん」
「…!?な、何でそんな事するんだよ!あんたも鵺と俺の事ぶっ殺しに来たんじゃねーのかよ!」
「みんなそうだよ。でも花月だけ別の理由」
「別の理由…?」
「花月は鵺を殺して、メガネ君君をシルヴェルトリフェミアに献上しようとしてる」
「?!」
「そんなのやめて、って言っても聞かないから、あたしが君達を助けた」
「なっ…何でだよ…どうして…」
「…シルヴェルトリフェミアに脅されてる。あたしと花月」
「え…」



















「あたしと花月の髪でシルヴェルトリフェミアが作り出した人形があってね。その人形の首を絞めれば本物のあたしと花月の首も絞まっちゃう。そうされたくなかったら、10日以内にメガネ君をシルヴェルトリフェミアの元へ連れてきて、鵺を殺せ。そうしないと、あたしと花月を殺す。ってシルヴェルトリフェミアに脅されてる」
「…?!」
「だから花月が攻撃した。ごめん。怪我したでしょ」
「いや、俺は…。それより鵺が…」
「う"う"っ…」
「鵺、本当にMADになっちゃったんだ」
鵺の緑色の手にそっ…、と触れる鳥。
「月見ちゃんを殺した事、許さない。…でもあたし、できない。いとこの鵺と、今まで一緒に戦ってきた仲間のメガネ君をあたし達の都合で殺したり、敵に献上するなんて絶対できない。月見ちゃんだってこんなの絶対喜ばない。天国で泣くもん、絶対」
「……」
「メガネ君」
「…雨岬ですけど」
「雨岬メガネ君」
――絶対わざとだろ…―
「鵺の事最後まで守ってあげて。人間は1人じゃ生きていけない。あたしがメガネ君と鵺を助けてあげられるのはここまで。あたしは花月を助けなきゃ。だから、鵺にはメガネ君がついていてあげて。独りになるのは、死ぬより怖いから」
「…んな事分かってるし」
「良かった。だから…早く逃げなよ」
「え」
「花月の力量なら、もうすぐあたしの蝶の術が解ける。だから今の内に早く逃げなよ」
「なっ…でも…」


きゅっ、

空の両手を握る鳥。
「その代わり、約束。メガネ君ならきっとMADをシルヴェルトリフェミアを倒せる。地球を救える」
「は?!俺ただの民間人だし!無理だし!俺よりあんたら軍人の方がぜってぇできるだろ!」
「あたし、怖い夢見た。みんな死んじゃう夢」
「夢?」
「でもその中でたった1人立っていたのは…ハッ!花月が来る。早く!遠くに逃げな」
「え?!は?ちょ、」


ドンッ!


ガラガラガシャン!!

2人が乗った自転車を鳥が押せば、2人はそのまま、山のわりと低い崖から落ちてしまった。





























「お鳥ちゃん何やってんだよ!!」
一方。鳥の術を自力で解いた花月にぎゅっと抱き付く鳥。
「やめよう。こんな事したって月見ちゃんは悲しむだけ」
「仇討ちしない方が月見姉さんが悲しむに決まってるじゃんか!!空さんと鵺兄さんは何処行った!?」
「花月、あたしの話聞いて」
「聞けるわけないじゃんか!あの2人を捕らえて殺さなきゃ、お鳥ちゃんが殺されるんだよ!!」
「そんな怖い花月、あたし嫌い…」
「なっ…!?」
「居た!おーい!小鳥遊花月君!小鳥遊鳥ちゃん!」
「少佐!」
後方からハロルドの声がして振り向けば、駆け付けたハロルド、ファン、アリス、風希、ミルフィの姿が。
「はぁはぁ、小鳥遊花月君!」
「す、すみません少佐…逃がしてしまいました…」
「うんうん、大丈夫だよ。というか僕達も逃がしちゃったし…ごめんね。少佐失格だね」
「いえ!そんな事は!」
「ギャッ!ギャッ!」
「!?」
この静まり返った夜空から無数の化物の鳥肌のたつ鳴き声が聞こえ全員が頭上を見上げると何と、闇のような空には数千体のMADが東の方角へと飛んでいた。
「な、何!?あの大群は!!」
「くっ!何が起きているというのだ!街は無事か?」
「無事か?って迷ってる暇はねぇだろが!ガキ共は後回しだ!化物共を追うぞ!」
「…え?い、今のアリス君…?」
「あ?」


しーん…

アリスのいつもの荒々しい声が風希から聞こえて一堂呆然してから風希を見る。一方のアリスは、ボーッと立っているだけでまるで別人。
ハロルド達が何を言いたいのか察した風希(?)は髪を面倒くさそうに掻く。
「あ"ー、そうだったな。てめぇらにはまだ言ってなかったな。さっきメガネから攻撃食らった時俺と風希がクラッシュしちまって、わっけ分かんねぇんだけどよ、俺と風希の中身が入れ替わっちまったみてぇなんだわ」
「えええ!?」
「うるせぇよハロルド!」
「だ、だってそんな事って漫画でしか有り得ないよ!」
「俺だってそう思ってたっつーの!」
「だが…声も姿も風希だがこの荒々しい口調はどう考えてもアリスだな」
「へぇ。分かるじゃねぇか堅物ヤロー」
「こんな育ちの悪そうな言葉遣いはお前しかいないからな」
「一言多いんだよてめぇ!!」


コツン!

「…?!嘘だろ?!」
ファンを殴ったアリス…だが、女の風希の体で殴っても全く力が出ないから、両手を広げて愕然としてしまうアリス。
「くっそ〜!!生まれて26年間喧嘩負け無しのこの俺様がぁあぁ!なんつー屈辱!!」
一方。アリスの姿だが中身風希に歩み寄る鳥。
「風希ちゃん。大変な事になったね。大丈夫?」

スッ…、

わざと鳥から離れて彼女を避ける風希だった。
























「とりあえず、街の人達の様子が心配だよね」
「ああ。街へ行ってみよう」
「だぁあああ!!何だこの胸の脂肪!尻の脂肪!女の体って何でこんなに余計な贅肉だらけなんだよ!!重くて歩くのもクソ疲れ、」


ゴツン!

「痛っでぇ!!風希てめぇ!お前の体の俺の頭殴れば元に戻った時、頭の痛みはてめぇに返ってくるんだぞ!?」
「そう…でもそんなのどうでもいいくらい腹立ったから…殴っただけ…」
「痛っつ〜俺の拳、痛過ぎるだろ!」
「あ!街の灯りが見えてきたよ」
ハロルドを先頭に、見えてきた繁華街の灯り。足を前へ踏み込んだ。


シュッ!

「え?!な、何!?」
「な、何事だ…!?」
その瞬間。真っ暗だった風景が一瞬にして血のように真っ赤な空の下に佇む真っ黒な学校の校舎前に変わったのだった。
ハロルド達が今居る場所はその校舎の前つまり、校門にあたる場所。
「何だぁ!?何処だよ此処!つーか何だよこの気味悪りぃ校舎!」


ガシャン!ガシャン!

校舎の閉まった10mの柵(最早柵と言うより壁だ)を花月が揺らしても、開かないしびくともしない。
「だめです!出れないです先輩!」
「何処…此処…」
「新入生のみんな、入学おめでとうぅ!」
「シルヴェルトリフェミア!?」
校舎の屋上から拡声器を通したシトリーの無邪気な声がして顔を上げる一同。屋上には、隣にドロテアを付けたシトリーが無邪気に手を振っている。
「てめぇか!こんな所へ俺らをやったのは!!クソ化物!!」
「シルヴェルトリフェミア様。あの者には特別授業が必要のようです。シルヴェルトリフェミア様にあのような口を利くなど…」
「うん、うんっ。そうだねドロテアっ。じゃあみんなっ、シトリーの学校へご案内っ!」
「なっ…!?」


パンッ!

シトリーが手を叩くと、ハロルド達は一瞬にして姿を消された。





























「ふふふっ!ドロテアっ地球人のみんなは何人生き残れるかなっ?」
「生き残れてはいけませんよ。この地球(ほし)はシルヴェルトリフェミア様の物となり、何よりも、地球人同士いがみ合い戦をやめられない彼らはこの蒼く美しい地球には相応しくないのですから」
「ドロテアきびしい〜っ。じゃあ授業はじめよーかっ!」
「しかしシルヴェルトリフェミア様。例の2人がまだ…」
「大丈夫だいじょうぶっ!シトリーが呼ばなくても、そらは優しいから、すぐ此処に来るよっ!此処に連れてきた地球人のみーんなをシトリー達がころしちゃえば、優しいそらは黙っていられないもんっ。シトリーね、そらのそういうところだーいすきなんだっ♪」
「ふっ…さすがシルヴェルトリフェミア様。ご友人の性格をよくご理解していらっしゃいますね。…では始めましょうか。地球人達のサバイバルゲームを」
「うんっ♪何人生き残れるかなぁ♪」



























to be continued...







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あきゅろす。
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