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終焉のアリア【完結】
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東京――――

「オオオオ」
声には例え難い雄叫びが上がる火の海東京。
EMS軍西日本支部のヘリコプターの中から見下ろすハロルドは切ない表情を浮かべる。
「でも良かった。雨岬空君とミルフィ・ポプキンちゃんを西日本に降ろしてきて。まだ子供で未来のある彼らをこんな戦場へは連れてこれないもんね」
今から1時間前。
西日本支部に空とミルフィを無理矢理降ろしたハロルド。案の定空は「俺も行かせて下さい!」と言って止まなかったから、少し手荒ではあるがハロルドの能力である刻を止める技を2人に使用して2人の時間を止めている間にハロルド、アリス、ファンの3人でヘリコプターに乗り、東京へやって来たのだった。



















「何だありゃ。あのデカMADを、地上に居るMAD共が攻撃してるぜ」
「え。本当だ」
「MAD同士が争っている…異様な光景だな」
地上に居る服を着たMAD達が巨大MAD目掛け、石や空瓶を投げたり攻撃しているのだ。バラバラとヘリコプターのプロペラ音が聞こえれば、10数機のヘリコプターに乗ってやって来たMAD達がヘリコプターごと巨大MADに体当たり。
「オオオオ!!」
何度もヘリコプターで体当たりをされている巨大MADは身を捩らせその痛みに叫び声を上げて暴れるから、蚊の如くあっさり払われるMADヘリコプター。巨大MADが暴れれば暴れる程、近隣のビルが倒壊していく。
「あんなでけぇんじゃ、地上から攻撃したところで俺らなんざ蚊同然だ。おいハロルド。あのクソMAD共の真似すんのは胸クソ悪りぃが、俺らもヘリに乗ったままあのデカMADを攻撃すんぞ!」
「しかし、今は月見が何処に居るのかを探す方が先ではないか」
「月見月見うっせぇんだよてめぇは!まずあのデカMAD片付けりゃ、月見の身の安全が保障されるだろーが!クソ坊っちゃんてめぇがあいつの時間を止めろ!次に堅物ヤローが炎で攻撃!最後に俺が剣で脳天真っ二つ!これでオジャンだぜ!」
「アリス君の作戦って、いつも自分がオイシイ所を持っていってる気がするよね」
「あ"ァ?何か言ったかクソ坊っちゃん」
「い、いえ何も〜」
「おっしゃ!じゃあ行くぜ!」
ヘリコプターの操縦をハロルドからアリスへ代われば、ヘリコプターのドアを開けるハロルド。


ゴオッ…!

「っ…、熱い…!」
辺りの火の粉が飛んできて熱風も吹き込んでくる。
「よしっ、うわあああ?!アアアアリス君?!急加速しないでよお!?」
「あ?うっせー!操縦士は俺だ!逆らうんじゃねぇ!ここからじゃ攻撃が敵に届かねぇだろーが!だからこうして俺様が今スピード出してデカMADに近付いてやってんだろ!おっとぉ!目の前まで来てやったぜ!…って、うげっ!?」
巨大MADの顔の真ん前までヘリコプターを操縦したアリス。…しかし、巨大MADの前に出るなんて度胸があり過ぎるだろう。巨大MADはヘリコプター目掛け手を振り上げ…


ドゴォッ!!

「だあああ!あっぶねぇえ!!」
降り下ろしたが、寸の所でアリスが左旋回した為運良く回避できた。お陰でビル1軒が巨大MADによって破壊されてしまったが。

























「何やってんのアリス君!」
「クソ坊っちゃんのクセに俺を説教すんじゃねぇえ!てめぇがさっさとデカブツの時間止めねぇからだろーが!」
「そんなぁ!」
「オラァ!さっさとやりやがれ!」
「うぅっ…人使いが荒いアリス君の方が充分MADだよ!よしっ」
目を瞑るハロルド。


ピキーン!

すると次の瞬間。巨大MADだけでなく、地上のMAD達の時間までも止まる。
「よっしゃ!その調子だ!次!」
「ああ。分かっている」
アリスが巨大MADの目玉目掛けヘリコプターを飛ばせば、左手の平をMADの赤い一つの目玉にかざすファン。
「…いけ」


ゴオオオッ!!

「おっしゃあ!良い調子だぜ堅物ヤロー!」
無抵抗の敵巨大MADの頭部は、ファンが攻撃した炎に包まれる。ハイタッチをしてアリスとファンが操縦を替わる。


ズッ…、

左胸から闇のように漆黒の光をまとった剣を取り出したアリス。八重歯を覗かせ、笑む。
「ハッ!そんじゃあラストは俺様が有終の美を飾るぜ!!」
剣を、燃えるMADの頭目掛けて振り上げた。
「んふっ♪」


パチン!

「オオオオ!」
「んなっ…!?」


ドゴォッ!!

「ぐああああ!」
「うわあああ!」
「くっ…!」
アリスの剣がMADに振り落とされる直前。何処からか指をパチン!と弾く音と笑い声がした直後、巨大MADをはじめとする全ての時間が再び動き出した。ハロルドは術を解いていないというのに。
そのせいで、3人が乗ったヘリコプターは巨大MADの右手であっさり凪ぎ払われ吹き飛び、近くのビルへ突っ込んだ。
「オオオオ!!」
巨大MADは燃える頭を抱え、その炎の熱さに身を捩らせ暴れ狂い次々とビルを破壊していく。


ドスン!ドスン!

「ギャアアアア!」
「アアアア!」
巨大MADがぶつかり崩れたビルが地上に居るMAD達へ崩れ落ち、下敷きになる。
「オオオオ!!」
巨大MADは、ビルや建物に頭を擦り付けて頭に付いた炎を何とか消す事ができた。しかし頭は黒く焦げ、大火傷の痛みにまだ悲痛な叫び声を上げ、頭を抱えて暴れている。
頭を抱えている巨大MADの左手の小指には、紫色をした一つのお守りが紐でしっかり括りつけてあった。









































ガラガラ…、

「っだあああ!生き埋めで死ぬかと思ったあああ!」
巨大MADに吹き飛ばされ、突っ込んだ3人のヘリコプター。倒壊したビルの瓦礫とヘリコプターの瓦礫の中から瓦礫を蹴飛ばして顔を出したのはアリス。
「っ…、」


ツウッ…、

額から伝う血を乱雑に拭って立ち上がる。
「おい!クソ坊っちゃん!堅物ヤロー!どこ行った!死んだなんて言わせねぇかんな!」
「うっ…、ア、アリス…君…」
「くっ…、お前はこんな目にあっても何故そこまで…元気なのだ…」
「おーおー。死にそうじゃねぇかてめぇら。よっ、と!」
瓦礫の中から手を出していたハロルドとファンの手をアリスが引っ張って出させてやれば、2人の上に乗っていた瓦礫がガラガラと音をたてて崩れる。
「ンだよ、てめぇら。このくらいで死にそうになってんじゃねぇか。なっさけねぇなァ」
「うぅ…ビルに突っ込んでビルの下敷きになっても元気でいられるのは…世界中でアリス君ただ1人だよ…」
「ああ…。生きていただけでも強運だというのに…」
「うるせぇ。人の事変人扱いすんじゃねぇぞゴルァ!おらよ!この包帯を巻いとけ!隣で血ぃダラダラ流されても目障りだからな!」
そう言って、持参していた包帯を2人に投げてすぐ背を向けるアリス。悪態をついてはいるものの、内心、自分はこんなにも頑丈だが、傷だらけで血塗れの2人を見ていられなかった。…のかもしれない。
「あ、ありがとうアリスく…痛てて…、駄目だ…立てないや…」
「あ?」
「ああ…私は先日切断した腕の出血が再…び…」



ドサッ、ドサッ、

「お、おい…?おい!?てめぇら何寝てんだよオイ!!」
ふらついてその場に俯せに倒れてしまった2人。2人の体から赤い血がじわりじわり音も無く染みていくから、アリスの全身の血の気が引く。
「おい!てめぇら暢気に寝てんじゃねぇぞ!此処は戦場だ!分かってんのか!?あ"ァ!?」
揺さぶっても耳を広げて怒鳴っても返答の無い2人。
「っ…だよ…、嘘だろ…てめぇら…。てめぇら…寝てんじゃねぇぞ!!」


ガクン…、

あのアリスが、俯いて膝から崩れ落ちてしまった。
「っぐ…、くっそ…くそ!くそ!くそ!くそ!!何だよ異星人って!何なんだよMADって!人から奪っていくんじゃねぇよ!!何でだよ、何でまた俺だけが生き残るんだよ!!同じ攻撃食らって、何でまた俺だけが生き残るんだよ!!俺はもうフランの時の二の舞にはなりたくねぇから軍に入ったっつーのに!何でまた俺だけが生き残るんだよ!!クソおおおお!!」
「はぁ、はぁっ…、アリスさんっ!お、お2人はまだ生きておられます!!」
「あ…?…!!つ、月見!?」
瓦礫を這い上がり、ふらついて息を切らしながら走ってきたのは月見。白の着物は所々破け汚れ、裸足は傷だらけで血が流れている。






















「お、おい月見!どうしたんだよボロボロじゃねぇか!」
「EMS軍の紋章が描かれたヘリコプターがこの辺りに墜落したのが見えて、来てみたらやっぱり皆さんでした!」
「お、おおそうか。良かった。俺らもお前を探そうと…」


スッ…、

ハロルドとファン2人の前に正座した月見。目を瞑り、2人に自分の両手をかざす。


ポワッ…

すると、月見の両手から放たれた天使のように白く優しく暖かな光が2人を包み込む。
「おお…!さすがだ月見!」
「あ、ありがとうございますっ!!」
「うっ…痛たた…」
「う…?」
「ハロルドさん!ファンさん!」
月見の能力によって体の傷がみるみる癒えた2人が目を覚ました。
月見は自分の両手に胸をあててホッとする。アリスはパチン!と指を鳴らし、柄にもなくとびきりの笑顔を浮かべる。
「アリスさんも、はいっですっ!」
「おお!サンキュ!月見」
アリスの事も白い光で包めば、傷は全て癒えた。
「小鳥遊月見ちゃん?!良かった、会えたんだね!」
「はいっ!」
「月見。その怪我はどうした。服も破けているではないか。私達の手当てより先に自分の、」
「ファンさんその左腕!!」
「む?ぬぁああ?!」
「わ〜!!」
「ヒューヒュー!戦場だっつーのに熱いねぇ、てめぇら!」


ガバッ!

思わずファンに抱き付いた月見。何故なら、左腕の無いファンを見て感極まったから。






















顔を赤らめるファン。囃し立てるアリス。…の雰囲気とは異なる月見はファンに抱き付いたかと思えば、細い肩が小刻みに震えているではないか。
「つ、月見…?」
「あ?どうしたよ月見」
「小鳥遊月見ちゃんもしかして…」
「ふっ…ふえぇっ…ひっくひっく!ファンさんの腕…!わたくしの力では治す事ができませんでした…うっ…うわああああん!」
「な、泣くな月見!お前のせいなどこれっぽっちもないぞ!これは私がヘマをしたせいで失ったんだ!」
「うわあああん!ファンさんの腕が、腕がっ!!わたくしにもっともっと力があれば、ファンさんの腕を元通りに治せたかもしれないのに!うわああああん」
大泣きで聞く耳を持たず自分を責める月見の口を…
「むぐっ」
ファンの右手が塞げば、月見は泣き止む。まだ肩がヒクヒクしていたが。
「月見、静かに。敵に気付かれてしまう」
「ふえっ…ごめんなさい。わたくしまた皆様にご迷惑を…」
「だからそうやって自分を責めるな。それはお前の悪い癖だぞ」
「はうぅ…すみません…」
「風希は何処に居る」
「分かりません…。ヘリコプターを飛び出してからわたくしも地上へ降りて護衛の方と一緒に探していたのですが、途中、MADに襲われた所わたくしを庇ってくださった護衛の方は…うっ…うぅっ」
「だから泣くな月見!」
「うっ、えっぐ、ひっく…は、はいっ…!わたくしもう泣きませんっ…!」
「よし。良い子だ」
「ケッ。そういうのは戦闘終了後にしろよな」
月見の頭を撫でるファンの隣で腕組みをしてつまらなそうに言うアリス。と、自分事のように照れるハロルドだった。
右手で月見の左手を握り、立ち上がるファン。
「月見も来い。此処に1人で残す方が危険だ。風希を探そう」
「はい…。あの…ファンさん」
「む。どうした」


きゅっ、

ファンの左手を両手で包み込む月見はまだ瞳に薄ら涙を浮かべているが、満面の笑みをファンに向ける。
「これからはわたくしがファンさんの左腕になりますから、片腕だけになっても心配しないで下さいね」
「〜〜〜っ!!」
「もう!2人ったら〜!」
「だあああ!月見までかよ?!そういうのは全てが終わった時だろ普通!」
「ふえっ?!わ、わたくし何かおかしい事を言いましたでしょうか…!?ご、ごめんなさいっ!」
「い、いや…その…。月見」
「は、はいっ」
月見に背を向け、耳が真っ赤のファン。
「風希を見つけ、関東をMADから取り返したらその…話がある」
「お?堅物ヤロー遂にかァ?!」
「ファン君まで!こんな時に〜!」
「お話ですか?でしたら今でも…、」


ガシッ!

月見の肩を組みニヤニヤするアリスに、月見は首を傾げる。
「ったく!てめぇらマジムカつくぜ!月見ぃ。堅物ヤローが後でっつってんだから後でにしてやれ。その代わり。後でしっかり聞いてやれよ?」
「…?は、はいっ」
ポン、と月見の頭を軽く叩くと、アリスは先頭をきる。
「っしゃー!風希探しに行くぜ野郎共、」


ドンッ!!


ガラガラ、

「だああ?!何だ今度は!」
近くで爆発音がして、爆風が此処まで飛んできてビルが更に崩れ出すから4人は急いでビルの外へ出る。


ドンッ!ドンッ!

「オオオオ!!」
「あれは…風希か!?」
外へ出てみれば、地上に居たMADは腹に鎌で斬られた傷口から緑色の血を流して全滅。
そして今まさに、巨大MADに攻撃している者が1人居る。小さ過ぎて此処からじゃその人物が誰なのかは見えないが、銀色に光る鎌で攻撃している様子が見える。巨大MADは緑色の血を噴き上げ、暴れている。
「す、すごいや…僕達なんてヘリコプターに乗っていたら一瞬で凪ぎ払われたのに、生身で巨大MADを圧倒しているなんて。小鳥遊風希ちゃんだけは敵に回したくないね」
「だな…」
「クッソ!風希の奴、1人で良いとこ取りなんてさせねぇぞ!」
「あ!待ってよアリス君!!」































その頃―――――


ガッ!ドガッ!

「オオオオ!」
「っ…、何…この、頭に響く呻き声…」
巨大MADと同じ高さのビルが崩れた瓦礫の頂上に乗って、其処から鎌で巨大MADを斬り、圧倒していた風希。


ビチャッ!ビチャッ!

巨大MADの緑色の血が土砂降りの雨の如く風希の髪や顔を濡らす。
「オオオオ!!」
「どうしてMAD同士で殺し合っていたかなんて…どうでもいい…。私達の領土に土足で入って荒らしたMADなんて…死んじゃえばいいのに…」


ドスッ!

「ギャアアアア!!」
巨大MADの赤い目玉を思い切り鎌で斬り裂いた風希。


ドスン!!

あまりの痛みに、遂に巨大MADは目を両手で覆いながら後ろへ倒れた。
「はぁ、はぁ…。ふん…。こんな奴…私1人で充分…」
そうは言っても傷だらけの風希。鎌を降ろし、倒れた巨大MADをいつものポーカーフェイスで見下ろす。くるり。背を向け鎌を引き摺り、この場を離れていく。
「んふっ。それはどうかしらねーん♪」
「え…」


パチン!

「オオオオオオ!!」
「…!?」
何処からか聞こえた聞き覚えある女の声。直後、倒したと思っていた巨大MADの叫びが再び聞こえ出したから、ゆっくり後ろを振り向く。
「な…何…」
目玉から緑色の血を噴き上げながらも立ち上がった巨大MADの赤い瞳は、驚いて目を見開く風希だけを捉えていた。
「オオオオ!!」


ドン!ドンッ!!

































「っ!?何だ!?倒れたと思ったデカMADが復活し、」


ドスン!!

「痛っでぇ!!何か吹っ飛んできたぞオイ!?…って風希!?」
復活したMADに吹き飛ばされた風希。今まさに駆けつけようとしていたアリス達の元へ吹き飛んできて、アリスの頭上に降ってきた。
巨大MADの長く赤い爪で服はボロボロに切り裂かれ、風希の白の下着姿が丸見えな為アリスは顔を真っ赤にする。だがすぐ風希から目を逸らして、自分の軍服の上着を脱いで風希に投げつける。
「うっ…痛い…最悪…。せっかく倒せたと思っ…、…何この服…。あ…ハロルドさん達…?月見姉様も居る…」
「風希ちゃん大丈夫ですか!今お怪我を治しますから!」
「俺の上着を貸してやる!」
「え…」
「いいから黙って着とけっつってんだよ!!その格好でウロウロされたら、こ、こっちが困るんだよ!!」
「分かった…でもこれ…」
「れ、礼なんざいらねぇよ!」
「この服…男臭いから着たくない…」
「うっぜぇぇえ!!」
「オオオオオオ!!」


ドンッ!ドスン!!

「くっ…!」
一方。巨大MADは目から血を流しているのも気にならないのかとにかく自我を失っているようで、狂ったように暴れて次々とビルを薙ぎ倒していくから炎が上がり、街は更に火の海と化。吹き飛んでくる火の粉が熱い。


キィン!

剣を取り出すアリス。
「風希が生身で戦えたんだ!俺らなら楽勝ってこった!行くぜ、てめぇら!」
「うん!」


ドンッ!!

「オオオオ!」
「あ?何だこの金色の光は?」
突如広がった金色の光が巨大MADを攻撃。
「あの光って…」
「姉さん!先輩!」
「お?おお…!おおお!!カズ!お鳥!!」
声がした方を向けば、傷だらけだが花月と鳥が手を繋いで笑顔で駆けてきた。
「月見ちゃん!風希ちゃん!」


ガバッ!

一目散に姉2人に抱き付いた妹鳥に、姉2人もとても嬉しそう。
























「お鳥ちゃん良かった!本当に本当に良かったです!無事だったんですね〜!」
「うん!だって花月が助けに来てくれたんだよ」
「それは当然…。だって花月のせいで…お鳥ちゃんが連れて行かれたんでしょ…」
「風希ちゃん怪我してる。大丈夫!?」
「平気…。今、月見姉様に治してもらうから…」
「ねぇねぇ月見ちゃん、風希ちゃん聞いてっ!」
「どうしましたかお鳥ちゃん?」
「何…」
ヒソヒソ。
月見と風希の耳元で口に手を添えヒソヒソ話す鳥。途端、月見は満面の笑みを浮かべて鳥の両手を握る。
「まあ!本当ですか?良かったですねお鳥ちゃん〜」
「あいつのせいで…辛い思いしたのに…お鳥ちゃん一途だね…」
「風希ちゃんが彼氏なら心配無いんだけどね。花月は風希ちゃんみたいに強くないから、あたしが付いてないとダメなんだもん」
「あいつが不幸にさせたら…いつでも私に言ってね、お鳥ちゃん…。でも本当…良かった…お幸せに…ね…」
「えへへっ!」
一方。
「いやあ、お前が捕まっちまった時はどうなるかと思ったけど。どんな手を使ったかは知らねぇけどよくお鳥を助けてこれたなァ!弱っちくてウジウジした奴だと思ってたけど、ちょっとは男らしくなったじゃねぇか!」


バシ!バシ!

「い、痛いですアリス先輩。背中叩き過ぎです…。…ハッ!そうだ先輩達!あの巨大MADは…」
「ああ。何だか分かんねぇけど、あのデカMADと他のMADがいがみ合ってる。しかも此処はもうクソMADの領土になったっつーのに、あのデカMADは何故か自分らの領土を荒らしてる。まあどうせ仲間割れなんだろうけどよ。母国を荒らされた風希がぶちギレて1人で戦いに行ったっつーの聞いて、俺らが加勢に来た所だったんだけどよ。つーかカズ。お前らどうやって此処へ来れたんだ?俺らが此処に居る事も分かってたのか?まさかな!」
「っ…、そ、その話はまた後で!…先輩!少佐!少尉!あのMADがMAD同士殺し合う理由は、あの巨大なMADが鵺兄さんだからですよ!」
「はあ?!」
「え…あ、あれが鳳条院鵺君だと言うの?」
「いくら半分MADの血が流れているとはいえ、鳳条院は我々人間と何ら変わり無い姿をしていただろう」
「でもそういえば雨岬空君が、鳳条院鵺君がアイアン大佐に連れて行かれたとか…言っていたよね」
「そうなんです!アイアン大佐は将軍とグルなんです!」
「何がグルなんだよカズ?」
「グレンベレンバ将軍の正体は、シルヴェリトリフェミアと敵対するMADなんです!!」
「MAD!?」
目を丸めた3人が声を揃えれば、会話が聞こえた月見と風希も話に入ってくる。
「何…その話…意味分かんない…」
「えっ?えっ?将軍さんがMADだったのですか?」
「ギャハハハ!な〜に寝惚けた事言ってんだカズ!」
「本当だよ」
「お鳥ちゃんまで…」
「あたしは現場を見てない。でも、花月が捕まっていた時グレンベレンバ将軍が鵺に変な薬を打って、完全なMAD化させたんだって。それは何故かって言うと…」































「…じゃあマジだって言うのかよ。あの露出ババァがMADで、俺らの事をただ私利私欲の為の道具として戦わせていたっていうのは」
鳥が説明を終えると、まるで信じていなかった一同が顔を青くして、沈黙が起きる。
「オオオオ!」
遠くからは巨大MAD…否、鵺が声を上げ、街を破壊し、シルヴェリトリフェミア派MAD達を次々食い殺している。
「じゃあ鳳条院鵺君は自我を失っちゃっているっていう事…かな」
「恐らく…」
「ケッ!」


ガンッ!

倒れている自動販売機を蹴るアリス。
「ほら見ろ!俺が最初に言っただろーが!だからクソMADと同じ目の色をした鳳条院とメガネはクソMADの手下だ、って!」
「でも小鳥遊花月君の話からすると、鳳条院鵺君は将軍に無理矢理MAD化させられていたみたいだし…!」
「でも…もうああなった鵺は人間には戻れない…きっと…。だから早めに始末しないと…日本が沈んじゃう…」


キィン!

鎌を構える風希。
「始末って…!風希ちゃん、鵺君とは、い、今まで一緒に居てご飯も一緒に食べた仲ですよ!助けるという方法は…!」
「無いよ…。月見姉様は黙ってて…」
「っ…、は、はい…」
「月見…」
月見の肩にポン、と手を乗せるファン。下を向いた月見の細い肩が小刻みに震えていて両手拳をぎゅっ、と強く握っていた。その拳も震えている事にファンは気付いていなかったが。
「カズとお鳥も戻ってきた事だし戦力は充分だな。俺らが揃えば、いくらデカブツ相手だろうとぶっ倒せるだろ。それからだな。地球人様の振りをしていたババァを探してぶっ飛ばすのは」
「ま、待ってよアリス君!小鳥遊月見ちゃんが言うように、助けるという方法も考えようよ!」
「うるせぇ。てめぇも俺と同じだろ。MADに殺された奴がいる。だからEMS軍に入ったんじゃねぇのかよ」
「でも鳳条院鵺君は仲間だよ!!」
「…ハロルド」
「な、何アリス君…」


キィン…!

剣をハロルドに突きつける真剣なアリス。
「てめぇの優しさはいつか必ず命取りになる。…気を付けろよ」
「えっ…」
ハロルドの脇を黙って通り過ぎると、アリスはファンと花月と風希と鳥を連れて行く。
――め、珍しいな。アリス君があんな事言うなんて…。…それだけ僕の性格は軍人に向いていないって事なのかな――
しゅん、と下を向いてしまうハロルドを心配して駆け寄る月見。
「ハ、ハロルドさん大丈夫ですか…?」
「うん。ごめんね。何でもないよ。小鳥遊月見ちゃんは其処のビルの中で隠れて待っていてね。すぐ、戻ってくるから」
「ハロルドさん…」
寂しい背中のハロルドは皆に遅れて歩き出した。


































「よっしゃ。じゃあ作戦は言った通りな」
「はい。そうですね。鵺兄さんを確実に仕留めないと…」
「花月…」
どこか浮かない顔をして下ばかり向いている花月の右手をぎゅっ、と握る鳥。
「アリス先輩」
「あ?」
「空さん…居ませんよね。今、何処に居るんですか」
「花月!」


ぎゅっ!

止めるように彼の右腕を両手で掴む鳥。
「空?誰だそいつ…ああ。メガネの事か。珍しいな、カズがメガネの事を聞くなんて」
「そうですか?」
「メガネとピンク髪は戦場には連れていけねぇっつークソ坊っちゃんの意向で、西日本支部に降ろしてきたぜ」
「西日本支部…ですか」
「花月!!」
「…?どうしたんだよお前ら。メガネに何か用でもあんのか?」
「何でもない。何でもないよね?花月」
「うん…」
空の事を異常に気にする花月。そんな花月を必死に止めようとする切ない表情の鳥。
2人の様子が少しおかしい事にハロルドやアリス、ファンは首を傾げるだけだったが、風希だけはいつものポーカーフェイスで黙ってただ、ジッ…と2人の事を見ていたそうな。



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あきゅろす。
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