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終焉のアリア【完結】
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MAD領東京――――

「見ておくれ小鳥遊花月!あんたが今まで載った雑誌全部買ってたんだよ!」
「へ、へぇ…そうなんだ、すごいね。あ、ありがとう…」
マジョルカは花月の策略にまんまとハマり、シルヴェルトリフェミアやアリスに気付かれぬよう自分達MADの巣窟へ花月を連れてきた。
マジョルカの自室で彼女は、今まで花月が取り上げられた雑誌をベッドに広げて見せる。だが、当の花月は挙動不審に辺りをキョロキョロ。
「それでねぇ。あたいはこの時の小鳥遊花月のショットがお気に入りかな」
「そ、そっかー。あ、ありがとう…」
「そうだ!今まで牢屋に入れられていたんだろう?小鳥遊花月!一緒にシャワー浴びないかい!」
「え"え"?!いや、無理!無理です無理!」
「あっはっはっ。ウブだねぇ〜。じゃああたいが先に入ってくるよ。この部屋から出ずに大人しく待ってな。この部屋を出たら、アリス達にあんたを勝手に連れて来た事バレて、あたいもあんたもアリスに斬りきざまれちまうからね」
「そ、そうですねー…」
「うふふ。じゃあシャワー浴びてくるね。情事の前は綺麗にしなくちゃだからね!」


ピシャン!

「……」
シャワー室の扉を閉めると、シャワーの水音が聞こえてくる。


ダンッ!

床を思い切り叩いて立ち上がる花月。
「情事?!何をだよksが!!」






















さてと…、と呟き、部屋の扉の前に立つ。
しかし暗証番号を入れないと室内からでも扉は開かない仕組みになっているようだ。すると花月は扉に右手を添える。


ドンッ!!

辺りに金色の光が放たれた直後大きな爆発音と共に扉は焼け焦げ、破壊。
「なっ、何の音だい!?」
バタバタ足音をたててバスタオルを体に巻いて部屋へ戻ってきたマジョルカは、壊された扉と、其処に居るはずの花月が居ない事に顔を真っ赤にさせて怒り狂う。
「ムキィーッ!やっぱり!やっぱりあれは演技だったんだね!?キィーッ!!初対面であたいの腕を斬り落とすDV男!あたいをその気にさせてキスまでしたのにそれは全て演技だった詐欺男!地球人の分際で!許さない!許さないよ小鳥遊花月!!」


ゴキッ、ボキッ…

下を向いたマジョルカの緑色の体の血管が浮き上がり体は巨大化し、あっという間に全長5mの大きさに変貌。EMSビッグドームに彼女が初めて現れた時の大きさだ。
「許さない、許さないよ小鳥遊花月ィイ!!」


ドンッ!!

壁に突進して壁を壊して廊下へ出て、怒り狂いながら彼を走って探しに行った。


































一方。
アリスの自室―――

「花月の声…聞こえてたのに…聞こえなくなっちゃった…」
まだシャワー中のアリスは部屋へは戻ってきていない為、室内では大量のぬいぐるみの海に埋もれた鳥が1人でポツリポツリ寂しく呟いていた。


カラン…、

蝶の髪飾りを手に取り、見つめると蘇る思い出。
『修学旅行は3日間独りぼっちでいじめられて辛かったけど、お鳥姉さんにお土産を買って喜んだ顔が見たいって思っていたから3日間耐えられたんだよ。だから…これ。はい!』
『わあ。可愛いね。蝶々の髪飾り?』
『うん。でも俺、女の子の好きな物って分かんないから、気に入らなかったら捨て、』
『そんな事絶対ない!ずっとずーっと付ける!寂しい時があったらあたし、この髪飾りを見て花月の事思い出す!』
『本当?じゃあ大切にしてね』
『うん。お婆ちゃんになっても、ずーっと付ける!』


きゅっ…、

蝶の髪飾りを左胸にあてる。
「花月…花、」
「扉からできるだけ離れて!!」
「!?」
部屋の扉の向こうから慌てた大声が聞こえ、顔を上げる鳥。
「え。その声…」
「いいから早く離れて!」
鳥はオロオロしながらもその声に従い、床に敷き詰められたぬいぐるみ達を踏み、扉から一番離れた壁に背をくっ付ける。
すると、扉の隙間から金色の光が射し込み…


ドン!ドンッ!!

「っ…!」
爆風と強い金色の光が室内に立ち込める。顔の前に腕をかざした鳥は爆風に耐えきれず足元がよろめき、転んでしまいそうになる。
「お鳥姉さん!!」
「か、花月!!」
そんな鳥を軽々抱き上げて転ぶのを防ぎ、やって来たのは花月。



























鳥は驚いて目を丸める。花月は心底ホッとした安堵の笑みを浮かべて、目を潤ませ鳥の事を見る。花月の金色の瞳には、鳥ただ1人が映っている。
「良かった…良かった、本当良かった!俺のせいでお鳥姉さんが死んじゃったりMADにされたんじゃないかと考えると毎日怖くて…!」
「花月どうやって此処に来れたの!?どうしてあたしがこの部屋に居る事が分かったの!?」
「お鳥姉さんの声が聞こえたんだよ」
「!!」
「幻聴だと思ってた。でもお鳥姉さん、俺の名前呼んでくれてた?」
「うん!うんっ!!呼んでた。ずっと、ずっとずっと毎日毎日呼んでた!あたしもね、花月の声が聞こえた!」
「本当!?」
「うん!これってすごいよね!あたし達絶対すごいよね!」
「うん!うん!絶対すごいよ!」
「良かった…良かった!花月も無事で良かった」
「約束したのにクリスマス一緒に居れなくて、ごめんね」
「来年は一緒に居れば良いだけの話じゃん」
「うん!」
鳥は、花月の頬に両手で触れる。
「花月すごく痩せた…やつれた?何があったの?大丈夫?花、」
「お鳥姉さん!」
「は、はいっ!?」
「お鳥姉さん、俺の彼女になって下さい!!」
「!!」
顔を真っ赤にして目は相変わらず合わせられなくて視線は下を向いているし、声は裏返っている。突然の告白に目をギョッと見開く鳥。
「お鳥姉さんがMADに連れて行かれてから俺ずっとEMS軍本部の牢屋に入れられて、支部長も降ろされて、お鳥姉さんを失って…。全部自分が悪い事なんだけど、もう何もかもどうでもよくなってた。舌を噛み切ろうと思った。でもお鳥姉さんの顔を思い出したら、そんな馬鹿な事絶対にしちゃダメだって思った。それから毎日浮かんでくるのはお鳥姉さんの顔や声で、そのお陰でまた俺は救われた。中学の頃俺、自殺を考えていたじゃんか。その時もお鳥姉さんが止めてくれた。今回もそうだったんだよ。あの時はあんな酷いフリ方してごめんね。俺にはやっぱりお鳥姉さんしかいないよ…。俺、今度こそお鳥姉さんを守りたい!お鳥姉さんが俺に今までしてきてくれたみたいに、今度は俺がお鳥姉さんを幸せにしたい。幸せにする!だ、だだからそのっ…もし良かったら俺と付き合って下さい!!」
「……」
何度も頭を下げて懇願する花月の姿はとても腰が低い低姿勢。顔は真っ赤。しかし鳥は俯き、口をきゅっ、と摘むんでいる。
「…そっか。花月ありがとう」
「うん!良かった…お鳥姉さん言ってたじゃんか。いとこ同士なら好きになっても良いんだよ、って。姉さんが本当の姉さんじゃなくて良かった」
「……」


きゅっ、

遠慮がちに鳥の右手を両手で握る花月。
「行こう。MADに見つかる前に此処を出よう。月見姉さんや風希姉さん達みんな心配していたんだ。早く帰ろう、みんなの元へ」
「…花月ごめん。あたし、嘘吐いてた」
「え?」
「みんなに応援してもらいたくて…花月に軽蔑されたくなくて…ずっと嘘吐いてた。嘘に嘘を重ねてた」
「な、何言ってるのお鳥姉さん…?」
パッ。顔を上げた鳥。しかし、重い声色とは正反対のにっこり笑顔を浮かべていたから、そのギャップに花月は戸惑う。でもそれを掻き消すかのように鳥は花月の両手を握り、背伸びをして彼の右頬にキスをする。
「うんうん。ごめん。何でもない。今のは聞かなかった事にして。花月は今日からあたしの彼氏。ね」
「う、うん…。でも、嘘って何?嘘って…。俺の事嫌だったら無理しなくて良いんだよ…?俺なんて顔も体も偽物だし、根暗だし性格悪いし…。お鳥姉さんは優しいから、無理してない?付き合いたくないなら素直に言って良いんだよ…」
「バーカ。あたしから惚れたんだから、そんな事あるわけないじゃん。はぁ〜。頼り無い彼氏で先行き不安。だけど…ま、いっか。そこが花月だもんね。花月。これからもよろしくね」
「うん!」
顔を真っ赤にして頭を掻いて照れる花月とは対照的に、笑顔なのに目線は下を向いていてぎこちない鳥。






















「お鳥姉…あ。お鳥ちゃん。この城の構造は大体把握したから、出口まで突っ走るよ。手、ちゃんと握っていてね」
「うん。あたしが花月の事越しちゃうかもだけどね」
「何だよそれ〜」
鳥の手を引き、部屋を出ていく。パタパタ遠退いていく2人分の足音。


カタン…、

シャワー室の扉が静かに開く。


トン、トン…

しかし中から人は出てはこなくて、代わりに床には1人分の足の影が静かに部屋を出ていく。
部屋を出て足の影が止まる。足の影は、花月と鳥が逃げていった方向を向く。


トン、トン、トン…

すると再び歩き出す足の影。花月と鳥が逃げていった方向へと。











































「え。グレンベレンバ将軍がMAD?」
真っ暗で広く長い廊下を駆ける2人。
「うん。それで鵺兄さんに何か薬…かな。そんな感じの物を打ったら鵺兄さんはMADになって、もう人間の面影が無いんだ」
「じゃあ将軍は他のMAD達と仲間割れして、そのMAD達を見返す為に自分の私利私欲の為にあたし達をMADを倒す道具として利用していただけなの?」
「うん。そういう事になるよ」
「ムカつく…!」
「だからすぐに先輩達の元へ行って事情を話さないと。鵺兄さんにもあんな事をした将軍だよ。シルヴェルトリフェミア達に勝ちたいが為に、先輩達にも危害を加え兼ねない。それに何より、将軍を野放しにしていたら地球は将軍のモノになっちゃう」
「でもアリス達が今どこに居るか分かんの」
「分かんない…」
「ダメじゃん。バーカ」
「だって俺、今までEMS軍本部の牢屋に入れられていたんだから分かるわけないじゃんか!」
「それって、何でなの」
「日本の関東地方をMADに奪われたのが一番の原因…かな…」
「だからこんなにやつれたの?ごめん。花月のせいだけじゃないのに。あたしのせいなのに。花月が辛い思いしたの?ごめん」
痩けた花月の頬に両手を添え、切ない瞳を浮かべる鳥。
「お鳥ちゃんだって痩せたよ。俺のせいだ…。本当にごめんね。どこか痛んだりしない?」
「うん。もう平気。体の自由も利くし。あの時はMADに操られていたからって、花月の事を攻撃してごめん。傷、残ってない?」
「何言ってんだよ。俺なら全然大丈夫だよ。お鳥ちゃんをMADに連れて行かれて謝るのは俺の方じゃんか」
「じゃあお詫びにこれからずっと一緒に居てね」
「当たり前じゃんか」
敵の陣地にも関わらず、無事の再会を幸せそうに微笑み合う2人。















「この扉。これが出口だよきっと」
「うん」
花月は裏口の小さな扉を手で押す。


パチパチパチ!

「すっごぉ〜い!敵の陣地なのにそ〜んなに暢気にイチャつけちゃうんだ地球人って本っ当ーバッカだよね〜!」
「…!!」
拍手と共に頭上から少女の甲高い馬鹿にした笑い声が聞こえて、直ぐ様花月は鳥を抱き寄せる。目をつり上げ、辺りを見回す。


スッ…、

「あ?!扉が!」
何と、今まさにそこから脱出しようとしていたら裏口の小さな扉が消えてしまったのだ。ただの壁となった其処を何度も何度も2人で叩く。そんな事をしたって扉が現れる事なんてないのに。
「キャハハ!面っ白〜い!絶望の淵に立たされても、まだ希望を捨てないの?そういうのかっこ良いって言わないの。諦めが悪いって言うんだよ、お鳥ちゃん、花月君?」



ストン、

「っ…!」
真っ暗な天上から降りて現れたのは、今まさに2人の出口の扉を消したアリス。
八重歯を覗かせ怪しく笑みながら、コツン、コツン、ヒールを鳴らして近付いてくるから、花月は歯をギリッと鳴らして鳥を左腕できつく抱き締め目をつり上げる。瞳の色が金色に変わる。
「小鳥遊流奥義、桜花昇天!!」


ドン!ドン!ドンッ!!

花月の全身から強大な金色の光が放たれ、アリスに攻撃。攻撃により辺りに灰色の煙が立ち込め、壁も破壊されていく程の威力。
「今の内に!!」
灰色の煙がスモッグとなっている内にアリスの目を盗み、取り敢えずはこの場から逃げる為、鳥の手を引き逃げて行った。






















パラッ、パラッ…

「痛ったぁー…。何あいつ。この前刀をへし折ってやったハズなのに、どうしてあの刀と同じ攻撃ができんの?意味分かんない」
崩れた壁の瓦礫の中から服や髪を払って出てきたアリス。掠り傷しか負っていない。ポキッ、ポキッ。指の骨を鳴らす。
「てゆーかチョームカつく。アタイの前でイチャつかないでって感じ。お鳥ちゃんはアタイと同じ酷いフラレ方をしたから可愛がってやっただけなのに。アタイ差し置いて幸せになってやんの。あ"ー、超ムカつく。超ムカつく…死ね」


ゴキゴキ、ゴキッ…

アリスの影が映る床。人型のアリスの影の首や頭から無数の太い腕が現れ、アリスの影はみるみると巨大な化け物へと変貌していく。




































「はぁ、はぁ。くそ!出口が何処にも無いなんて!」
1階、2階、3階…。
城内を走り回った花月と鳥。しかしどれだけ探しても何処にも扉が無ければ窓も無い。完全に閉じ込められてしまったようだ。
「くそっ!」
「花月その腕…!」
見るのは2度目になる。花月の首から下、主に腕に血管のような赤い模様が生物かの如くボコボコ動いて浮き上がっている。
「あの時と同じじゃん!魑魅は?魑魅が無いのにどうしてさっき魑魅と同じ攻撃ができたの!」
「扉も窓も無いなら壁を壊せば外へ出られる!」
「花月聞いてる!?魑魅はどうしたの!」
「さっきのMADにこの前、粉々にされたよ」
「じゃあ何で花月は魑魅が無いのに魑魅の攻撃ができるの!」
「…お鳥ちゃん。少し下がってて。今、この壁を破壊して外への出口を作るから」
「花月、あたしの話聞いて…っ、」


ドン!ドンッ!

また金色の光を放つと、花月が右手をかざしていた壁は金色の光によって破壊される。強い爆風が吹く。壁の破壊に成功したその先に広がっていた光景は…
「光…!?」
真っ暗な城内に突如射し込んできた太陽の光。そこには快晴の下、ピンクや白の美しい花畑が広がっていた。
「外だ!」
此処が何処なのかは分からない。しかし、確実に外へ出る事ができた。駆け出す鳥。しかし…
「待って!」
「むぐっ?!」
後ろから口を覆って鳥を引き留める花月。
「何!だって外に出れたんだよ。早く逃げなきゃ」
「違う…外だけど、外じゃない…」
「はぁ?何言ってるの。意味分かんないよ花月」


チチチ…

小鳥の優しいさえずり。優しい太陽の陽射し。優しい空の青。優しい色をした花々。優しく吹き抜ける風。何もかもが平穏過ぎるこの場所。だからこそ、花月は眉間に皺を寄せて辺りを見回す。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん遊びに来たの?」
「!?」
背後から子供特有の高くて可愛らしい声がした。恐る恐る振り向く2人。
其処には、黒髪に赤い帽子、赤い服に白い短パン姿。左頬に黒いダイヤのペイントをした、左目が黄色で右目が赤色のオッドアイの小さな少年が1人笑顔で立っていた。























「…誰。君」
「僕?」
途端、今まで天使の無垢な笑顔だった少年の笑みが真っ黒に染まる。顔は黒く影のようになり、目と口だけ白抜きの怪しい笑みに切り替わる。
「僕のお名前はね、シルヴェルトリフェミア。シトリーって呼んでね」
「…っ!!シルヴェルトリフェミア…!お前がMADの長の…!?」


ドスン!ドスン!

「なっ…!?」
「小鳥遊花月ぃ…やっぱりあたいを騙していたんだね!!」
「2人共超ムカつく。調度良いや。2人まとめてアタイの今日の晩ご飯にしてやるし」
声はマジョルカとアリス。なのに、目の前に現れた2人は全長5mはある緑色の巨大な化け物。
マジョルカは人型のマジョルカがそのまま巨大化した容姿。アリスは典型的MADの緑色の体に赤い一つ目で、今までの人間らしい姿の面影もない。蜘蛛のような体をしていて腕や足が体から計10本生えている。これがアリスの真の姿なのだろう。
「まってまって、みんなぁ。かってにシトリー達のお城な入ってきたお兄ちゃんとお姉ちゃんにおこるきもちはわかるよぅ。でもねでもねっ。シトリー、たのしい遊び思いついちゃったの!聞いて聞いて!あのねそれはね、」
「小鳥遊流奥義、乱舞!」
「え…?」


ザアッ!

鳥が両手から繰り出した黒と紫の蝶の大群がシトリーに襲い掛かる。その隙に、花月はマジョルカとアリスを攻撃。
「小鳥遊流奥義、桜花昇天!!」


ドンッ!ドン!

「お鳥ちゃん今の内に!」
「うん!」
手を引き、3人の隙をついて逃げ出す2人。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。シトリーと遊んでくれないとヤダようぅ」
「え…?きゃああああ!」
「お鳥ちゃん!?」
シトリーの声が何処からともなく聞こえると、突然右腕を押さえながら崩れ落ち悲鳴を上げた鳥。
「お鳥ちゃんどうしたの!?お鳥、…っ!?」
駆け寄ると何と、鳥の右腕は誰も触れていないのに、勝手に右腕が捻れているのだ。
「きゃああああ!痛い痛い痛い!!」
「お鳥ちゃん!!」
その右腕を両手で触れる。しかしそうしたところで鳥の右腕は変化無く相変わらず捻れたままだから、花月はキッ!と鬼の形相をして立ち上がる。先程の花月と鳥の攻撃による煙幕が邪魔して3人が何処に居るのかは見えないが、下手な鉄砲数打ち当たる精神で所構わず攻撃していく花月。


ドン!ドンッドン!!

「くそっ!何処行った!お鳥ちゃんに何をした!出てこいMAD!!」
「ふえぇ…お兄ちゃん怖いようぅ…シトリーのこといじめるお兄ちゃんなんて…こうしちゃえ…!」


ぐっ、

「っあ"あ"あ"あ"!!」
「っ…!?か、花月!?」
誰も触れていないのに。花月の首が誰かに両手で強く締め付けられている感覚に襲われる。もがき苦しみ、その場に倒れこみ顔は真っ青。
この苦痛から解放されたくて自分の首に両手で触れてみても誰も花月の首に触れていないから、見えない敵相手には為す術が無い。


スッ…、

煙幕の中から現れた2体の人形。花月と鳥の姿をしたその人形を手に持っているのは、シトリー。
「う"あ"あ"あ"あ"!」
「痛い痛い痛い!!」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん見て見て〜。こっちはお兄ちゃんのお人形。シトリーが今りょうてでお兄ちゃんのお人形の首をしめつけているでしょ?シトリーが今両手でお姉ちゃんのお人形の右腕を捻っているでしょ?シトリーね、すごいんだよぅ!お兄ちゃんとお姉ちゃんの髪1本あれば、このお人形を作り出せちゃうの!このお人形をいじめると本物のお兄ちゃんとお姉ちゃんにもそれが影響するんだよ。たとえばねぇ〜シトリーがこうしてお兄ちゃんの人形の右腕をこうすると…」


ボキッ!

「あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「花月!!」
シトリーは白い歯を見せて笑った瞬間、花月の姿をした人形の右腕をへし折る。そうすれば、誰も触れていないのに花月本人の右腕の骨も音をたてて折れた。
「アハッ、アハハハッ!ねっ、ねっ!すごいでしょ、シトリーすごいでしょ♪マリオネットにしたいヒトの髪一本さえあれば、みんなみーんなシトリーのお人形さんになっちゃうんだよぅ!」
「やめて!もうやめて!!花月にこれ以上痛い事しないでよバカMAD!!」
「っあ"…、お鳥、ちゃ…ん…」
鳥の裏返った悲痛な叫び声に、シトリーはポカン。だんだん不安そうな表情になると、マジョルカとアリスの顔を不安そうに見る。























「え…え…?シトリー悪いことした…?うっ…うぅっ…お姉ちゃんに怒られちゃったよぅ…。うぅっ…シトリー悪いことした?うっ…うわああああん」
「いいえ。シルヴェルトリフェミア様は悪い事など何もしておりませんよ。悪いのは、其処でキーキーうるさい地球人の女。ですから、シルヴェルトリフェミア様を侮辱したこの女にはこうしてお仕置きをしないと…いけないねぇ!!」


ギチッ…!

「う"っ、あ"あ"あ"あ"」
「お鳥ちゃん!!」
マジョルカは鳥の人形の首を強く締め付けた。
花月は折れた右腕がぶらんとなりながらも、青ざめて目が見開いている鳥の事を左腕で抱き締める事しかできない。
「やめろやめろ!やめてくれ!!お鳥ちゃんにはこれ以上何もしないでくれ!!何でもする!俺が何でもするから、お鳥ちゃんにだけはもう手を出さないでくれ!!」
「キャハハハ♪すっご〜い超かっこいー?!少女漫画の王子様みたいな台詞言ってる奴、アタイ初めて見ちゃったぁ〜♪お鳥ちゃん超愛されてるぅ〜!よーかったねー。…あんたらマジでムカつくから、アタイも殺っちゃおっと」


ドスッ!!

「がはっ…!!」
花月の人形を10本ある腕と足で踏みつければ、花月本人は勢い良く吹き飛ばされる。
「キャハハハ!本当にマリオネットだねあんたら!イイ気味〜!」
「ねぇねぇお兄ちゃん。何でもしてくれるの?」


ピタッ。

泣き止んだシトリー。
泣き顔を覆っていた両手の指の隙間から、もがき苦しみ涙を流す2人を見て悪魔の如くニヤリ笑う。
「じゃあじゃあっ!シトリーとのお約束♪今日から10日以内に、シトリーからそらを盗った鳳条院鵺を殺してきてっ♪そらをシトリーの所へ連れてきてっ♪10日以内にどっちか片方だけでもシトリーとのお約束を守れなかったら、お兄ちゃんとお姉ちゃんのお人形を斬りきざんでシトリーのお夕ご飯のおかずにしちゃうからねっ!」
「…!!」


ゾッ…!

子供らしい無垢な笑顔だからこそ、底知れぬ冷酷さと恐ろしさがある。
「さっすがシルヴェルトリフェミアさまっ!」
「うんっ。シトリー偉い?」
「偉い偉い〜超偉いイイ子ですよ〜♪」
「えへへっ!シトリー、イイ子!」
シトリーの頭を撫でるアリスとマジョルカ。
そんな3人を見ている花月と鳥の顔は青ざめている。呆然として、震えながら花月に寄り添う鳥。
























「花月っ…、」
「っ…、くそっ!!」
「花月!?」
目を金色に光らせ、シトリー目がけて駆け出した花月はシトリーが手に持っている鳥の人形だけでも奪ってしまおうと、シトリーに攻撃する。
「お鳥ちゃんの人形だけでも奪えば、お鳥ちゃんは助かる!…小鳥遊流奥義、桜花昇、」
「えへへっ。お兄ちゃんってアタマ、あんまり良くないんだねっ?」


ドスッ!!

「ぐあああ!!」
花月の人形の頭をシトリーが踏み付ければ、花月本人の体も勝手に地面にひれ伏され、頭を踏み付けられる痛みを受けてしまう。
「花月!!」
「っあ"、ぐっ、」
「逃げようとしても、このお人形さんがシトリーの手元にある限りお兄ちゃんとお姉ちゃんはシトリーのお人形さんだから逃げられないよ。約束を果たしてくれるのは、10日の間なら明日でも良いんだよ。早ければ早い程シトリー嬉しいのっ!だから早くぬえを殺してそらを連れてきてねっ。お兄ちゃん、お姉ちゃん」


パチン!

アリスが指を弾くと、花月と鳥の姿は忽然と消える。
「あれ?あれ?アリスぅ〜お兄ちゃんとお姉ちゃんどこ行っちゃったのぉ…?」
「うふふ!シルヴェルトリフェミア様とのお約束を早く果たしてきてもらう為に2人の仲間の元へ自動転送させてもらいました!」
「わ〜い!すごいねアリス!ぱちぱち〜!これで早くそらがシトリーの所へ帰ってきてくれるねっ♪」
拍手するシトリーに褒められ照れるアリス。
そんな2人の事を、少し離れた場所から眺めていたマジョルカの脳裏で鮮明に蘇る花月の言葉。

『だから気になるっつってんじゃんか…。分かったよ、俺が君の事本気かどうか見せりゃ納得するんだろ…』

――…やっぱり演技だったんだね…あたいは許さないよ。でも…でも10日以内にシルヴェルトリフェミア様との約束を果たせなければ小鳥遊花月は…。くっ…!何を考えているんだいあたいは!あんなDV詐欺男なんて早く忘れな、あたい!――
シルヴェルトリフェミアが持つ花月の人形をチラッ、と見てから、ドスドスと足音をたてて自室へ戻るのだった。




































to be continued...







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