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終焉のアリア【完結】
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ピシャン!

閉じたバスルームの扉の向こうからシャワーの音が聞こえてくる。
ぬいぐるみで足の踏み場の無い室内に1人残された鳥。
「花月…声…花月の声…聞こえる…」










































ゴーダ公国―――

「あんた今…鵺に何をした…」
アイアンの目の前には、顔や肩や腕から血を流し息を切らして戻ってきて眉間に皺を寄せた空が、アイアンを睨み付けて立っていた。しかしアイアンは全く動じず、煙草を吹かす。
「ぷはーっ。未成年がこんな真夜中ふらついとったら補導されるで?」
「質問に答えろよ…」
「ガキのクセに生意気な口きくやっちゃなァ。MADアリアの甥っ子なだけあるわなァ」
「質問に答えろっつってんだろ!!」
「…!」


ドンッ!ドン!

赤い光がたちまち辺り一帯に広がる。空が魍魎を抜刀したのだ。
アイアンは避けるが、そのせいで後ろにあるカラオケ店が魍魎で真っ二つに斬れてしまった。
「ふぃ〜。何や何や雨岬。俺ァ大佐やで?大佐に刀を向けるなんざ、あんさん自殺行為っちゅー事も分からへんゆとりなんかいな。その眼鏡はがり勉の眼鏡やなくて、伊達か?」
「いいから質問に答えろっつってんだろ!てめぇ今、鵺に何した!!」
《おい雨岬お前!魍魎を抜刀したっつーのに俺の意識が表に出ねぇで、雨岬の意識が表のままじゃねぇか!》
脳内で鳳条院空が言う通り、何と魍魎を抜刀したというのに空の意識はそのままで、鳳条院空の意識が脳内にあるままなのだ。
しかし空には鳳条院空の声など聞こえていない。それ程今の空は怒りに頭に血がのぼっている。魍魎の血のように赤い光を纏ったその姿はまるで、鬼。




















アイアンの足元に落ちている三つに分裂して壊れて盤面のガラスも割れ、緑色の血がべっとり付着したシルバー色の腕時計を手に取り強く握り締める空。鵺が空にあげるはずだった腕時計が落ちていたのだ。
「鵺に何しやがった!!あいつを何処へやった!!答えろ!!」
「まあまあ。そんなに声を荒げんなや。どないしてそこまで鳳条院の事を心配すんのや?あんさんのその血ぃダラダラの怪我。鳳条院が負わせたもんやろ?」
「くっ…、」
「化け物の血ぃ引いとる鳳条院が普通の人間として生きていくなんて、始めっから無理な話やったんや。鳳条院とは充分友達をやった。鳳条院も満足してるんとちゃうか?鳳条院なんざ、ただの友達の中の1人やろ?なぁ。もうええやろ?あいつに関わったって、あんさんにとって良い事なんざ何も無いで?」
「だから何遍も言わせんな!質問に答えろっつってんだよ!!」
「ふぅ。たかが友達に、どないしてそこまで情を抱くか俺には分からへんなァ。最近のガキはそういうの流行りなんか?自分を半殺しにした奴やで?…まっ。これを見ればその熱過ぎる思いも消えるんとちゃう?」
「…?…!!なっ…!?」
アイアンが右手を差し出した先。そこには、今魍魎で真っ二つに斬られ、中が外から丸見えとなったカラオケ店内。その店内を見た空の背筋が凍り付く。
此処から見える店内には数10体の地球人の骨とその赤い血が床や壁に飛び散っていた。


ゴクリ…、

言葉が出てこなくて、唾を飲み込む。
「見覚えある光景やろ?MADに親父と妹を食い殺されたあんさんならこの状況。一目で理解できるやろ?誰が此処に居た地球人共を食い殺したのかって事をなァ」
「くっ…!」
「雨岬君!!」
「ミルフィ!?」
雪の中、鼻と頬を赤くして白い息を吐きながら駆け付けたミルフィ。
ニヤリ。それを見たアイアンが笑った。
――まずい!こいつ、まさか…!――






















「きゃ…!雨岬君何これ?人の骨が…!もしかしてMADが現れたの!?」
「ミルフィ。いいから此処ら離れろ。ホテルへ戻れ」
「何で?!この骨と血痕…MADが居たんでしょ?!ならミル、雨岬君と一緒に居る!ミルもう独りぼっちになるのは絶対イヤッ!」
「そうじゃねーよ!いいから俺の言う事を聞け!」
「何や何や。あんさんら痴話喧嘩か?若い奴は元気で羨ましいわなァ」
「!!」


キィン!

「え!?な、何!?」
背後からアイアンの気配と何か企んでいそうな声に感付いた空は瞬時に後ろを振り向く。間一髪。右腕と一体化しているアイアンの赤い剣と空の魍魎とがぶつかり合った。
「嘘…?アイアン大佐の右腕…!何で大佐が雨岬君を攻撃するの!?何がどうなっているの?!」
「くっ…!行くぞミルフィ!」
「きゃあ!?」
アイアンから離れた空はミルフィの右手を握って雪の中、ダッシュでアイアンから逃げる。
「待ちぃや。せぇっかく楽しくなりそうやったのに敵前逃亡するなんざ、男らしくないで?」
「くっそ…!!」


キィン!キィン!!

異常な速さで2人に追い付いたアイアンは戦闘を楽しむ戦闘狂そのものの不気味な笑みを浮かべながら、容赦なく空に剣で攻撃してくる。
空は顔を歪めながらも、何とか魍魎の強大な力で保っている。
――くそっ…!これじゃあ刀の力に頼っているだけで俺の体が追い付けねー!!鵺はあんなヒョロい体でこれを使いこなせていたっつーのか!?―
《おい雨岬!》
「鳳条院空!?」
《おめぇみてぇなヒョロいガキに魍魎を使いこなせるわけがねぇ!刀に使われてんのはおめぇの方だ。代われ!俺が表に出りゃこんなクソオヤジ一発で、》
「それじゃ意味が無ぇんだよ!!」
《!?お、おい馬鹿雨岬!》


ゴオッ…!

赤い光が力を増し範囲を広げると、空の赤い左目だけではなく右目まで赤色に変色する。花月の時と同様、赤い血管のような模様が魍魎を持った空の右手から一気に腕、上半身、首、そして顔にまで侵食。まるで鬼の形相をして我を失った空は、アイアンに刀を振りかざす。
《雨岬!魍魎に飲み込まれてんじゃねぇ!おい!!》
「うあああああ!!」
「だぁからそういうところがあんさんは若いんや」
「!!」


ヒュッ、

跳び上がり、空の頭上を越えたアイアンが剣を振り落とそうと狙った相手は空ではなく…
「ミルフィ!!」
「イ…イヤッ…!」


ドスッ…!


























ポタッ…ポタッ…
真っ白い雪に滴る真っ赤な血。
アイアンがミルフィに振り落とそうとした剣は、ミルフィを抱き締めて庇った空の背中に突き刺さった。


キィン!

剣と一体化した右手を元に戻すアイアン。普通の刀で言う鞘に戻した状態だ。
「何や。王子様がお姫さん守る典型的ワンパターンは今時もう誰も求めちゃおらへんで?今時は、お姫さんを悪に殺されて復讐に燃える王子様っつー方が、お涙頂戴もんで人気でるで?」
「いやあああ!雨岬君!!」
顔から血の気が引いていき力無くミルフィの肩にもたれかかる空に、いつも底抜けに明るいミルフィからは想像もつかない大粒の涙を溢れさせ声を上げて泣き喚き、空を抱き締める。
「鳳条院にミルフィ…守るモンがあり過ぎて難儀やろ雨岬?大人の世界じゃなァそういうのは難儀やから、人間関係は広く浅く付き合うのが一般的なんやで。社会勉強になったなァ?」
「雨岬君!雨岬君!イヤ!イヤ!!」
「チッ…。ピーピーうるさい女やなァ嬢ちゃん。うるさい女は異性からも嫌われるで?」


キィン…!

再び剣へ変化したアイアンの右手。刃にミルフィを映すと、アイアンは突然姿を消す。
「え?え!?何処?何処へ消えたの!」
「此・処やで、嬢ちゃん」
「!!」
ミルフィの真後ろへ瞬間移動したアイアン。ミルフィが振り向くと動じにアイアンが剣を振り上げる。
「あんさんも嬢ちゃんも俺の素性を知ってしもた。消されても俺を恨んだらアカンで。恨むなら、自分の運の無さを恨むんやな」
「そんなっ…雨岬く、」


ドゴォッ!!

「きゃあ!?」
「くっ…!何や!?」
調度、空&ミルフィとアイアンとの間を割って入る形で雪が吹き抜け、爆発音と共に爆風によって空&ミルフィは右へ。アイアンは左へ吹き飛ばされた。お陰で2人はアイアンに殺される事は免れ、何とか助かった。






























to be continued...





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