[携帯モード] [URL送信]

終焉のアリア【完結】
ページ:2
2人の予想通り目の前に現れたのは、今まさに城内へ堂々と派手に侵入してきた赤いマフラーを巻いたアリス。右手に持った黒い剣を左胸にしまい、腕を組むと2人には背を向けてしまう。
「アリス君どうして!?」
「あぁ?てめぇらのその…その…何だ!暇潰しにてめぇらの部屋行ってやったら居ねぇから外見てみたら居たから、から…あ"ー!何でもイイだろクソが!!」
「ついてきたんだ?」
「うるせぇえ!違げぇよ!!アイアンの野郎が後で作戦会議するっつったのにすっぽかしたてめぇらをぶん殴りに来ただけだ!!」
「クスクス。アリス君って意外に優しいよね」
「優しいかどうかは微妙だが、素直ではないのは確かだな」
「だよねっ!僕達に置いていかれて寂しかったなら寂しかった、って素直に言えば良いのにねっ」


ドンッ!

「ひぃ!?」
肩をプルプル震わせ壁に穴をあけたアリスがゆっくりハロルドとファンの方を向き、八重歯を覗かせて笑う。まるで鬼が笑っているようだ。
「てめぇらァ…調子乗ってんじゃねぇぞゴルァ!!」
「ご、ごめんってば〜!」






















「…で?堅物ヤローは俺らに隠れてコソコソ1人で何、此処にまた戻って来たんだよ」
「それはねアリス君!ほら。僕達みんなの過去を知らないでしょ?その中で、いくら仲良くても言いたくない事ってあるでしょ。だからね僕、ファン君に言ったんだ。僕も話せない過去があるからファン君も話したくない過去は話さなくて良いよ。でも、手助けしてほしいなら言って、って!」
「バッカじゃねぇのお前ら」
「えぇ!そ、そんな直球な…」
しょんぼりするハロルドの向こうで、ジッ…と黙っていつものポーカーフェイスでどこか遠くを見つめるファンを見て、溜息を吐くアリス。
「はぁ。訳分かんねぇまま手助けできるかよ。万が一その話せない事っつーのがMAD絡みだったらどうすんだ?あ?」
「そんな事無いよ!ファン君がMADと仲間なわけないでしょ!アリス君、ファン君を疑っているの!?」
「疑ってるなんざ一言も言ってねぇだろ。ハロルドてめぇが言うようになァ、仲良くても言えねぇ事があるだァ?言えねぇんならそれは、仲が良いって言わねぇんだよ。マジで仲が良いんなら、誰にも言えねぇ事もそいつらだけには言えるもんだろ普通。俺はなァ、てめぇらみてぇにそうやって必要以上の事を言わないでお互い傷付かないようにしてるクセに、お互い分かり合った風に勘違いしてる奴らが大嫌いなんだよ。口があんだろ?なら、喋りゃ良いだけの話じゃねぇか」
「ア、アリス君…」
「何だよ」
「アリス君、僕達と仲良いって初めて言ってくれたね!」
「俺がてめぇらと仲良いだなんていつ言った!!」
「え。だって今…」
「一言も言ってねぇよ!!"マジで仲が良いんなら"って例え話をしたただけで、誰も、俺とてめぇらの話なんざしてねぇだろうが!」
「クスクス。そういう事にしておこっか。ファン君」
「これ以上アリスに何を言っても聞く耳持たないからな」
「うっぜぇぇえ!!てめぇらマジうぜぇんだよ!!何、人の事おちょくってんだゴルァ!!2人まとめて後でサンドバックにしてやっからな!!」
「ワンッ!ワン!」
「あ"ァ?」
「あ!」
顔を真っ赤にして怒るアリスの後方真っ暗な廊下から犬の鳴き声がして、振り向く。
「わんこだ〜!」
茶色の斑点模様に深い毛で目が隠れている1匹の子犬が尻尾を振って3人の元へ駆けてきたのだ。


















「あ?何だこの犬っころ」
すぐ屈んで、両手で子犬を手招きするハロルド。
「わんこ可愛いね〜♪おいでおいで〜」
「はっ!相変わらずガキだな。やっぱりクソ坊ちゃんだなァ、ハロルド」
「酷いよアリス君!あっ。わんこに嫌われちゃった…」
「ギャハハハ!ダッセ〜逃げられてやんの〜」
「うぅ〜。あ。ファン君の所行った」
「ワンッ!」
「む」
ハロルドを素通りした子犬はファン目がけ駆けると、尻尾をフリフリ。ファンが抱き上げれば、「くぅーん」と鳴いて擦り寄る。
「うぅ〜嫌われちゃった」
「ところでよー。てめぇらも自力で此処ん中入れたんじゃねぇか」
「うん。でもさっきは雨岬空君達子供も居たから、無理はしないでおいたんだ。僕達軍人だけなら遠慮も怪我の心配もいらないからね」
「何だよ、同じ考えか」
「え。アリス君も?」
「ああ。あ"!ばっ…!ち、違げぇよ!はあ?!何わけ分かんねぇ事言ってんだよてめぇは!!」
「アリス君子供嫌いって言っていたのに意外だね!今日は何だか色々なアリス君を知れて僕嬉しいな〜!僕達仲良くなれてるって事だよね?」
「ふざけた事言ってんじゃねぇぞクソ坊っちゃんが!!」
「ふぇえ〜!い、痛ひっ!引っ張らなひでよぉ〜!」
ハロルドの両頬を餅のように思い切り引っ張って怒るアリス。
「ハロルド、アリス。騒ぎ過ぎだ。敵に見つかる」
「あ"ァ?偉そうな口利いてんじゃねーぞ堅物ヤロー」
「ファン君〜だってさっきアリス君がド派手に侵入したからきっともう、僕達がこの階に居るのバレてるよ…痛たたたた!」
「ハロルドてめぇ!八つ裂きにされてぇようだな、あ"ァ?」
「いい痛い〜!!」
「はぁ…」
相変わらずな2人に溜息を吐くファンは城内を見回す。
――しかし、おかしい…。これだけ騒ぎを起こしておいて、誰1人として敵が此処へやって来ないなど…――
「ワンッ!ワン!」
「む。何だ」
子犬はファンに甘えて擦り寄るから、頭を撫でてやる。
「しかしあいつの力。やはりMADから得たモノなのか…。だとしたら早急に見付け出さねば、あいつは取り返しのつかない事に…」
「ワン!」
「どうした。腹でも空い、」


ガブッ!

「ぐあああ!」
「ファン君!?」
突然、彼らしかぬ悲痛な声を上げたファン。
ハロルドとアリスが振り向くと何と、子犬がファンの左腕に噛み付いて離れない。どれだけ腕を振っても離れない子犬の鋭い牙が、ファンの左腕をどんどん食べている。その姿はまるで…
「MAD…!!」
「ぐあっ…!」


ゴオオオ!

無事な右手で炎を噴くが、何と子犬には全く利かない。ちっとも焼けないのだ。
「何っ…!?ぐああああ!!」
「ファン君!!」
「退け!ハロルド!」
顔が真っ青なハロルドを押し退けたアリスは左胸から黒い光を放つ剣を引き抜き、子犬目がけ振り上げる。
「クソ犬が!!」


カンッ!

「んなっ…!?斬れねぇ!?」
何と、子犬に剣も通じず。しかも剣が振り落とされた子犬の体からはカンッ!と、まるで鉄のような硬い音がした。




















「ぐあああ!」
その間にも、ファンの左腕肘まで容赦無く食べていく子犬をアリスが引っ張ったり蹴ったりするが、子犬はまるで鉄のように硬く、ビクともしないのだ。さっきまでは犬らしい柔らかい体をしていたのに。
「ちっくしょう!離れろクソ犬!」
「ガルルル!」
「んなっ!?っあ"!」
何と子犬はファンの腕から離れると、アリスの方を向いて飛び掛かってきたのだ。剣を振り上げ避ける事はできたが、その衝撃でアリスのゴーグルがカラン!と、床へ転がり落ちる。
「ファン君!」
「うっ…ぐっ…、早くあいつを…この城から連れ出さなければ…」
「あ、あいつって…?そんな事よりファン君の左腕が…!ここは取り敢えずこのお城を出よう!」
「逃がしはしませんよEMS軍の皆さん」
「!?」
「っ…、MA…D…か…!」
「その呼ばれ方、気に入りませんね。やはりグレンベレンバの部下。指導が成っていない様子」
廊下奥から現れたのは、メイド姿のドロテア。ハロルドは珍しく怖い顔をしてファンの前に立つ。
「そちらの茶髪の青年。妹さんが会いたがっておりますよ」
「…!」
「妹…?ファン君のいもう、」


ドスン…ドスン…

「何…?この音…」
ドロテアの背後奥から、何か巨大なモノがこちらへ向かって歩いてくる大きな足音がする。足音がする度、床が揺れる。ドロテアは左手を後ろへ向けて紹介する。
「ご紹介致しましょう。我らが同士。別名、地球人の裏切り者ミス・レディアナ・タオ」
「ア"ッ…アー…」
「レ、レディアナ…!?これが…!?」
暗闇から現れたのは、緑色の体に顔の部分にダイヤのような一つの目玉があり天井スレスレ4〜5mの巨大なMAD。銀色の長い髪が生えているところが唯一レディアナだと分かる外見だろう。
巨大MADと化した妹レディアナを前に呆然として顔が真っ青なファン。
しかしぐっ、と唇を噛み締めると、残った右手の平を巨大MAD化したレディアナに向ける。だから、ハロルドがファンの前に両手を広げて立ちはだかる。
「無茶だよ!ファン君、左腕が無いんだよ!?僕達が戦う!だからその隙にファン君は逃げて!」
「其処を退いてくれ、ハロルド」
「嫌だよ!僕はもう誰も見殺しにしたくない!」
「頼む。ハロルド」
「…っ、」
ファンのその真剣な瞳に、ハロルドは物怖じしてしまう。



















一方のドロテアは3人に腕を向ける。
「ミス・レディアナ。彼ら3人を殺めなさい」
「ア"ッ…ア"ア"…」
巨大な左手を3人に向けて翳すレディアナ。
「ファン君分かったよ。でも取り敢えずこのお城から出て、敵を外へ誘き寄せよう!こんな狭い城内じゃ僕達には不利だよ」
「ああ」
「アリス君!一旦、外へ出るよ!」
「クソッ…!ねぇ…ねぇ…!」
「アリス君?」
しかし、声を掛けてもまるで聞こえていないアリスは、先程から床を手探りで何かを探している様子。だからハロルドがもう一度声を掛ける。
「アリス君!一旦外へ出るよ!早くしないと…」
「っ…ハロルドか?」
「え…。アリス君、まさか…」
ハロルドが呼んだ方とは反対側の右側を振り向いたアリスに、ハロルドは感付く。ふと視界に入った物は、アリスの目の前に落ちているアリスのゴーグル。


カチャッ…、

それを拾い、アリスの手の上に乗せる。
「アリス君。探している物って、これ?」
「あ…あった!あったぜ!」
スチャッ。
ゴーグルをかければ、今度はちゃんとハロルドが立っている左側を振り向き立ち上がるアリス。
「で?何だっけか」
「アリス君…」
「あ?」
「もしかしてゴーグルを外すと目、見えないの…?」
「っ…!てめぇ、何を見、」
「雑談はそのくらいで宜しいですか、愚かな地球人」
「んなっ…!?」


ドドドドド!!

レディアナが翳した手の平から、氷の銃弾が3人に向けて何百発も放たれた。


















立ち込める灰色の煙が晴れる。
「居ない…」
3人の姿はおろか、銃弾が当たった傷の血痕も見当たらない。彼ら3人は何百発もの銃弾を一弾も当たらず避けたのだろうか?ドロテアは顎に手を充てて首を傾げる。
「今一瞬、刻が止まったような…。そんな事、低能種族の地球人にできるはずがありませんね。わたくしの考え過ぎでしょう。…ベス」
「ワンッ!」
ドロテアが呼ぶと、一瞬にして巨大化した犬ベス。口の周りに付いたファンの赤い血を白いハンカチで拭ってやるドロテアは、ベスの背中に乗る。
「ベス。ミス・レディアナ。彼らを追いますよ。彼らが向かう場所に雨岬空も居るはず。シルヴェルトリフェミア様の明日の朝食の献立は、先程の軍人3人…金髪青年烏のソテー。黒髪青年の冷静スープ。茶髪青年のサラダ。…こんな所で宜しいでしょうか」


















































































23時33分、
ゴーダ公国街――――

「くっそ寒!!凍死する!ぜってぇ凍死する!!」
「こんぐれぇで喚くなて。男らろ!」
「元はと言えば、こんな吹雪のクソ寒い夜中遊びに行く言い出したお前のせいだろ!」
「何らて!?おめさんさっきの俺の話、聞いてねかったんけ!?」
イルミネーションの明かりも消え寝静まった家の明かりも消え、閉店した店々の明かりも無い真っ暗な街には、体の芯まで冷える風と共に横殴りの雪が吹雪いている。コートの中につけたマフラーで顔の2/3を覆いガタガタ震える空。だが、ゆっくりゆっくりしか歩けない鵺の肩を支えてやりながら歩いている。
「つーか人っこ1人いねーじゃん!こんな吹雪の夜中自ら外に出て風邪引きにいくバカなんてやっぱりお前だけだな」
「さっきからバカバカバカバカうるせぇてば!バカって言う奴がバカなんら!」
「そういう小学生の発想しかできない奴が真のバカっていうんですよ〜」
「キーッ!ムカつくて!おめさん本っっ当ムカつくて!あっ!あの店開いてるねっか!」
「うぅっ寒…ゲーセンか?…って、おわっ?!ちょ、引っ張んな!つーかお前いつの間にか1人で歩けてんじゃん!さっきのは遊びに行きたいが為の演技だったのかよ!?」
支えてやっていた空を逆に鵺がぐいぐい引っ張り暗い街の中、1軒だけ明かりを放つゲームセンターへ連れて行くのだった。

















しかし…
「駄目だよ駄目だよ君達。未成年がこんな夜遅くまで出歩いちゃ。警察には言わないでおいてあげるから。さっ、風邪引かない内に帰りなさい」


バタン…、

ゲームセンターの店員に閉じられた重たい扉。扉の向こうからは、ゲームの騒がしい音楽が微かに聞こえてくる。
吹雪の中、頭に雪が積もり尚且つ髪がバリバリに凍り、鼻と頬が真っ赤の空と鵺は…
「……」
突っ立ているだけだった。





























「お前が中学生みたいに童顔だから入れなかっただろ!」
「ひ、人が気にしている事言うなてば!このっ、鬼畜白髪メガネ!!人のせいにばっかすんなてば!おめさんが小学生みてぇな童顔だすけ断られたんだねっか!」
「はあ?つーか俺、ぶっちゃけ17の時で普通に酒買えましたけど?」
「うっ…。背伸びして嘘吐いたってバレバレらて!」
「嘘じゃねーし。ぜっってぇ俺は未成年に見られなくてOKだったけど、お前が小学生に見られて断られたんだし。それしかないわ。つーかお前ならお子様ランチ注文できそうじゃね?ぷぷっ!」
「なっ…!なしておめさんは口を開けばいっつもいっつも俺の悪口なんらて!こっちは具合悪りぃんだすけ少しは労れ、うっすらぽんつく!!うっ…!うぐぐ…雨岬が俺の事いじめるすけま、また具合悪くなってきたて…うぅっ…」
蹲る鵺。しかし空は白けた顔をし、鵺を置いてさっさと歩いて行ってしまう。
「於いていぐんけバカ雨岬!!」
「吐くならもっと巧い嘘を吐いたらどうですか〜。めっちゃ元気じゃん」
「〜〜っ!!」
「あ"〜寒過ぎる!死ぬ!あ。店か?あれ」
「あ!だすけ於いていぐな言うてるがんに!このっ!すっとこどっこい雨岬ー!!豆腐の角に頭ぶつけて死ねー!!」
1軒の明かりが灯るディスカウントストア目がけて1人でさっさと走って行く空を、慌てて立ち上がって追い掛けて行くすっかり元気になった鵺だった。
















シュボッ…
そんな2人を、建物の陰に隠れて見ていた1人の男。男が煙草につけた火が、降ってきたばかりの雪を溶かす。
「ふーっ。何や何や。えらく元気やんか」
煙草の煙を吐くのは、コートにマフラー姿のアイアン。ニヤリ。口元を歪ませ白い歯を覗かせる不敵な笑み。
「ほな、元気な内に連れて行こうかいな。お前さんのおふくろの元へ」



























to be continued...






[*前へ]

2/2ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!