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終焉のアリア【完結】
ページ:2
「そうだねぇ。何にせよ鵺を退治できたようだしここ最近妖怪が人里へ下りてこないから平和になったねぇ」
「そうだねぇ」




















カタン、

「そういえばよぉ」
団子の串を串入れに入れる空。
「ここ最近夜中、俺ん家の玄関の外に木の実置いてんのおめぇ?何あれ。新手の嫌がらせか?」
「はあ?木の実?そんな事するわけないじゃない」
「え。何、本当におめぇじゃねぇのか?」
「違うわよ!」
「ふーん」
「近所の子供とか?あ、でも夜中ならあり得ないわよねぇ。まさか…妖怪とか?!毒入り木の実を持ってきて妖怪退治屋の鳳条院家に仕返し?!」
「いや、それは無ぇよ」
「何でよ」
「毒入ってなかったし」
「でええ?!アンタ、誰からとも知れない木の実食べたの?!」
「ああ。小腹空いてたしなー。でもやっぱ、美味くはねぇわ」


ガシッ!

顔を真っ青にしたイサネが空の両肩を掴む。
「空アンタ!そういう所直しなさいよ!」
「そういう所ってどういう所だよ」
「だから!誰からとも知れない木の実食べるなんて常識的にしないわよ普通!」
「でも最近毎晩あるんだぜ。食べなきゃさすがに悪いかなーと思って」
「はぁ…」
呆れて座ってしまうイサネは頭を抱える。






















「23になったんだから、いい加減その子供っぽい発想どうにかしなさいよ…。仮にも妖怪退治屋の中の大剣豪様なんだからもっとそれらしくしなさいって。幼なじみとして心配だわ、アンタ…」
「おめぇは俺のおふくろか!ま〜男はこのくらいじゃねぇとな。龍みてぇな男女なんて日本男児じゃねーよ。じゃーな、また来るわ」
後ろを向き手をヒラヒラ振り、刀を持って町の人混みの中へと消えていく空。呆れつつも、笑顔で空を見送るイサネに…
「イサネちゃん!」
「うわああ?!びっくりした〜。何?清子さん、沙代子さん」
先程の中年女性店員が2人ヤニヤして話し掛けてきた。
「空君ったら本っ当鈍いわよねぇ〜」
「はあ?!」
「イサネちゃんが小さい頃からなのに、ねぇ!」
「何言ってるの2人共?!」
「あらあら顔真っ赤にしちゃって〜」
「空君、お付き合いしている女性はいるの?」
「し、知らないわよそんなの!!」
腕を組んで立ち上がったイサネは、空が食べ終えた団子の串と湯呑みをおぼんに乗せて店の奥へさっさと行く。顔は真っ赤だが。
「でも鳳条院家っていったら名家だから、そろそろご両親が結婚の話を持ち出す頃じゃないかねぇ?」


ビクッ!

あからさまに肩を震わすイサネ。
「イサネちゃん、今が好機だよ!」
「ファイト!」
くるっ。
2人の方を向いたイサネは、顔を真っ赤にして怒る。
「2人共いい加減にしてよ!あたしはあいつの事なんてどうも思ってないんだからっ!!」
ぷんすか頭から湯気を出して厨房へ戻るイサネ。
「もう!あの2人ときたら!」
湯呑みを流しに置いた手がピタッ、止まる。
「…でもあいつ本当、昔から女の影が一つも無いのよね。…って!何考えてんのあたしのバカー!!」































晩、23時。
鳳条院家―――――


ガタガタ、

また玄関の戸が音をたてて揺れる。


カタン…、

「おい」


ビクッ!!

戸を静かに開けた空が見たもの。それは、いつも通り玄関の外に木の実をこっそり置いていた…
「やっぱりおめぇか、鵺」
桜ノ宮 鵺が居た。今まさにダッシュで逃げようとしていた感じだが。


ガシッ、

ビクッ!

逃げようとしたから右腕を思い切り掴んでやればビクッ!と震える。
その時見た腕の包帯が、空が先日してやったままでボロボロになって汚れていたから、空は目をギョッとする。
「何お前、包帯替えてねぇの?!意味無ぇじゃん!つーか余計傷口が悪化するだろ!今新しいのに替えてやるから来い!」
「〜〜!?」
無理矢理腕を引っ張って家の中へ入れる空だった。























自室―――――

「ったく。化膿してたじゃねぇか。包帯くらい小まめに取り替えろよ」
静まり返った屋敷の空の自室。蝋燭のぼやけた灯りだけの室内で、鵺の包帯の取り替えが完了。
正座して相変らず顔を直視できないで下を向いている鵺に、空は笑ってしまう。
「ははは。大丈夫だって。そんな緊張すんな!今日は親父もお袋も龍も侍女達も全員出掛けて居ねぇし、くつろげって!」
「〜〜」
「ンだよー。あ。つーかさ木の実置いてたのってやっぱおめぇだったんだな。ありがとな」
「〜〜〜」
「この前の礼とか?」
コクッ。
顔を真っ赤にして小さく頷く鵺。
空は脚を崩し、胡坐を組んでいた太股に右手を乗せて、右手の平に顔を乗せる。
「そっかーやっぱなぁ。ま、あれあんま美味くなかったけどな!」


ガーン!

「ははは!そんなあからさまにショックな顔すんなって。不味くはなかったからさ!美味くもなかったけど!はははっ!」
直球な空にガーン!とショックを受けて更に下を向いてずーんとしてしまう鵺を見て笑う空は、やたら笑顔だ。
「ところでおめぇ、いくつだ?学生か?」
「〜〜〜」
「てか、何か喋れって!ほら!」


パンッ!

手を叩いて催促する。
「ほら、ほら!」


パン!パンッ!

手を何度も、下を向いている鵺の顔の前で叩いて面白がっている空に、鵺の細い肩が小刻みに震え出しついに…
真っ赤な顔を勢い良く上げて空をビシッ!指差す。
「人の事面白がって遊んでんじゃねぇてば!おめさんオラの事ぜってぇ面白がってるろ?!」
「うっわ!何それ方言?!何処の?おめぇやっぱ山奥のド田舎者なんだな〜はっはっは!」
「〜〜!!失礼だねっか!おめさんがそんげ人間だなんて思ってなかったすけ幻滅したて!木の実だって、不味くても普通本人の前で言わねぇがて!!」
「はっはっは、まぁまあそう言うなって」


ガシッ!

「は、放せてば!!」
立って逃げようとする鵺の腕をがっちり掴む空に、じたばた暴れる鵺。
空も立ち上がると、近くで見たら空は身長が高くて鵺はビクッとしつつ、顔を見上げる。
「まあまあ、其処で待ってろって。茶ァくらい飲んでいけよ。あ。でも早く帰らないと親に怒られるか?」
「お、怒る親居ねぇすけ平気だろも…!」
「あ。そうなんか。じゃー待ってろ」


カタン、

障子戸を閉め、廊下へ出る空。


カタン、

「逃げんなよ?」
「に、逃げねぇてば!」
閉めたかと思ったらまたすぐ戸を開けて顔を出した空に、ドキッ!としてしまう鵺だった。






















「おめぇ、もう大丈夫なんか?」
湯気のたつ茶を入れてやる空。
「また妖怪にいじめられたら言えよ。何てったって俺は妖怪退治屋名家、鳳条院空様だからな!」
「う、うんっ…」
「何だよ。俺の名前知らねぇの?一応妖怪退治屋の中でも、大剣豪って呼ばれてるんだけどなー」
「し、知ってるろも」
「あ、本当か?やべ、ちょっと嬉しいかも」
頭を掻いて珍しく照れる空。だがすぐに、客人を前にしても平気で畳の上に寝転がる空。
一方の鵺は正座をして湯呑みを口に付けながら頬を赤らめて、空の事をチラチラ見ている。
「しっかし、あんなぐれぇで毎日礼に木の実を持って来るなんて古風っつーか何つーか。おめぇ律儀なのな。言葉は方言バリバリのド田舎者のクセに!」
「誉めてんのか貶してんのかどっちなんらて!」
「ははは。一応誉めてるよ〜」
「〜〜っ」
「そうだ鵺!」


ビクッ!

突然起き上がった空に、やはりビクッとしてしまう鵺。
「な、何らて…」
「おめぇ、学校行ってねぇだろ?」
「う、うん…」
「いくつ?」
「え。えっ…えっ…と…」
「待て。言うな。俺が当てる!う〜ん、18?いやもっと下だな、おめぇ童顔だから。うーん、16くらいか?」
「う、うん…多分…」
「多分って何だよ!まあ16にしちゃあ、おめぇドチビだけどなぁ」
「〜〜!」
怒って顔を真っ赤にしてポコポコ叩いてくる鵺を笑う空。
「はっはっは!なぁ鵺。明日の昼、暇か?」
「ひる?」
「ああ。俺調度休みでさ。町、行ってみねぇか。おめぇド田舎者だから、町行った事ねぇだろ〜」
「……」
「鵺?」
突然神妙な面持ちで下を向いてしまった鵺に、空は首を傾げる。
「どうしたんだよ」
「町って…に、人間いっぱい居るねっか…」
「?何意味分かんねぇ事言ってんだよ。当たり前だろ。…ああ。おめぇ人見知りするもんな。それ気にしてんのか?大丈夫大丈夫!な?」
「…う、うんっ。行ぐっ」
「よっしゃ。決ーまり☆」


パチン!

指を鳴らして立ち上がる空を、顔真っ赤にして見上げる鵺。
「待ち合わせ何処にする?桜ノ宮山トンネルとかどうだ?」
「うんっ」
「じゃあ明日桜ノ宮山トンネル前に13時な。遅れたら置いてくぞ」

















廊下を歩き、玄関の外へ出る空と鵺。
「あの村でじっちゃんとばっちゃんと住んでんのか」
「う…うんっ」
「じゃあ心配してるだろ。あ。でも泊まっていくか?親父達は朝にならねぇと帰って来ねぇし。まあ、さすがに帰ってきたら俺が女連れて来てたなんてあの頑固親父が知ったら俺ぶっ殺されるから、その前までなら」
「い、いいて!うん。オラ帰るすけ!」
「送っていくぜ」
「いい、いい!いい!」
「でも危ねぇだろ」
「うんうん、平気らて!」
「まあおめぇ暴力的だから大丈夫そうだけどなっ」
「何らて?!」
「はっはっは。じゃあ明日13時な。忘れんじゃねーぞ」
「わ、忘れねぇて!」
ポンポン鵺の頭を軽く叩く空に、顔を真っ赤にした鵺が背を向けて帰って行く。姿が見えなくなるまで見送ると…。


カタン、

玄関の戸を閉める空。戸に背を預けたまま顎に手をあてる空の顔が、ほんのり赤い。
「やべー…何ちゃっかり約束してんだよ…。こんなの初めてだ、やべぇ…」


































翌日、13時
桜ノ宮山トンネル前――

「鵺」
「あっ」
既に待っていた鵺。
トンネルの周りに咲く桜の花弁が彼女の頭に積もっているところからして、結構待たせてしまったのだろう。
「悪ぃ悪ぃ。よっしゃ行くか」
頭の上の桜の花弁を払ってやり、傍に咲いていた椿の花を取って鵺の頭に飾ってやる空。鵺はカァーッと顔を真っ赤にしてゲシゲシ、空の脚を何度も蹴るのだった。
































町――――

「今日は木の実持ってきてねぇの?」
「あんま美味くねぇ言われたすけ、一生持ってこねぇて」
「だから、不味いとは言ってねーじゃん」
「ふんっ!」
「あーあ」
外方向く鵺だった。




















平日の昼間だというのにやはり町だから、人で混雑している。店を物珍しそうにキョロキョロ眺めている鵺。
「ぷっ」
「何笑ってんだて!」
「いーや、本当におめぇ町出た事無ぇんだなーって思って」
「うるせぇて!!」
「お〜い空〜」
「お」
「?」
少年2人に呼ばれた空が振り向く。鵺も同様に。
其処には、駄菓子屋から出てきた学生帽と学ラン姿の少年2人。近所に住む、空の幼なじみの高校生だ。
「健太、良次。久しぶりだな〜。おめぇら真面目に勉強してんのかー?」
「空よりは真面目だぜ!」
「おーおー、年上のお兄さん相手によく言うぜ生意気なクソガキ共」
「それより空〜お前、ついに女できたんか!」
「んなっ…、はああ?!」
「ギャハハ!動揺してる!空が動揺してるぜ健太!」
頭の上で手を叩いてからかってくる2人に空が珍しく顔を真っ赤にしている。一方の鵺は2人が言っている意味がさっぱり分からなくて、笑顔で首を傾げているだけ。
「ばっ…、違ぇよガキんちょ共!!こいつはたっ…ただの友達だっつーの!普通に見てそうだろ!!」
そんな空に、口に手を添えて鵺を見ながらヒソヒソ話す健太と良次。
「なかなか可愛いじゃねえか空〜」
「うっせぇ!だから友達だっつってんだろ!」
「で?で?どこまでいったんだ空〜」
「はああ?!」
「接吻か?もしかして、最後までいったか!?」


キィン!

「てめぇらいい加減にしろよマセガキ共!!」
「ぎゃ〜〜!抜刀する奴がいるかよ!?」
耳まで真っ赤にした空は何と、町中だという事も忘れて魍魎を抜刀。辺り一帯に赤い光が広がり、健太と良次は逃げていった。


ジーッ…

「げっ…」
冷静になったら、町の人達の冷ややかな視線にようやく気付いた空。
――やべぇ!俺何やって…――
「あ!鵺?!」
空の後ろで空の着物を引っ張り、空の背中に顔をぴったりくっつけてビクビクしている鵺。


カチャン、

すぐ刀を鞘にしまった空。
「悪りぃ!魍魎の光、眩しいんだっけ?」
コクコク頷きながらも、まだ背中に顔をぴったりくっつけている鵺に、空の全身が真っ赤になり体温はぐーーんと急上昇。空は慌てて鵺を自分から引き剥がす。
「あ〜〜っ、そそそ、そうだ!腹減っただろ!何か食おう!そうしよう!はっはっはっは〜」
鵺を置いてさっさと歩いて行く空の後ろから鵺が追い掛けてくる下駄のカタカタいう音が聞こえるから、余計顔が真っ赤になる空だった。























「ほい」
「?」
駄菓子屋から出てきた空は、買った紅色の巾着を鵺に渡す。巾着の紐を解き中を見ると、ピンクや黄色、緑の色とりどりの可愛らしい金平糖が入っていた。
しかし鵺はそれが何だか分からないらしく首を傾げているから、空は1粒ひょい、と自分の口の中へ放り込む。
「甘ぇから好き嫌いあるかもだけど。俺がガキの頃よく食ってたんだ」
「……」


ぱくっ!

「おい…」
一気に5粒口の中へ入れてバリバリ音をたてて食べる鵺の豪快さに、目尻をピクピクさせて苦笑いの空。
「うんめぇて!」
「だろ?」
頬を赤らめ、ぱああっと笑顔を向けてきた鵺に、空も何だか嬉しそう。
「それ全部おめぇにやるわ」
「本当け?」
「あ、ああ」
――うっ…。たかが金平糖でそこまで喜ぶのかこいつは…!!――
とっても嬉しそうに笑う鵺を、横目でチラチラしか見れなくなっている自分にドギマギする空。

























茶屋―――

「空!いらっしゃ…だ、誰その子…?」
空の姿が見えたから飛んできたのに。イサネが見たのは、のれんを潜った空の隣にちょこんと立っているピンクの着物に紺色の羽織を着た鵺。
鵺を見たら胸の奥がズキッと痛み、自分では笑顔を浮かべているのだが、傍から見たら立派な苦笑いだ。
「友達。イサネ、団子2本くれ」
「う、うん…分かった…」
初めての茶屋で、キョロキョロしてどうすれば良いか分からない鵺に、赤い傘の下、畳の椅子に座るよう教える空の横顔が今までイサネが見た事の無い優しい笑顔だった。


ぎゅっ…、

自分の着物の胸元を締め付けるイサネだった。
























「美味いか?」
「うんめぇ!」
「ははっ。違う違う。それはこうやって食うんだよ」
「?」
団子を串から一つ一つ抜いて手で食べている鵺に、隣に座っている空が串に刺さったまま団子を食べて見せて、食べ方を教えてやる。
「こう。な?」
「でも、串が喉に刺さらねぇんけ?」
「はあ?そんくらい大丈夫だろ。ま、でもそれが怖ぇなら今のままの食い方で良いんじゃねーの」
「う〜ん?」
「はい、お茶」
「おーサンキュー」
2人に茶を持ってきたイサネに、相変わらず普段通り明るく接する空。しかしイサネは、鵺の事ばかりジッ…と見ているから、視線に気付いた鵺はオドオドしつつもペコリと頭を下げる。
「片桐イサネです。よろしく」
「あっ…あ…う、うん…」
「ほら。おめぇも自己紹介しろよ」
「うぅ〜」
「ははは、悪りぃ。こいつかなりの人見知りでさ」
「ふーん…」
「桜ノ宮鵺っつーの。女同士仲良くしてやってくれよ」
「鵺…!?」


カラン、カラン…!

その名を聞き、顔を真っ青にしたイサネは思わずおぼんを落としてしまった。



















しん…

3人の間に沈黙が起きる。町の方からは賑やかな声が聞こえてくるのに、茶屋の中だけ空気がひんやり冷たい。
顔を青くしたイサネに対し、俯いてしまった鵺の右手にそっ…と自分の左手を重ねる空。パッ、と顔を上げた不安そうな鵺に空は微笑みかけてすぐ手を放す。
「イサネ。どうした」
「あ…ごっ、ごめん…何でもない…」
空に名を呼ばれ、ハッ!としたイサネはおぼんを拾う。
「酷ぇ親だよなァ。娘に妖怪の名前を付けるなんてさ。そう思わね?」
「う、うん…そ、そうよね…。うん…」
「あのさ、イサネ」
「ご、ごめん…仕事あるから…」
「おう。頑張れよ」
逃げるように店の奥へと走っていくイサネの背をジッ…、と見る空だった。
「……」





























オレンジ色の夕陽が広がる桜ノ宮山トンネル前―――――

「じゃあな」
誰も居ない静まり返った山の中。桜の花が風に揺れる。
「あっ…あのさ!おめさん明日も遊べるけ?」
帰ろうと背を向けた空を思い切って呼び止める鵺に、立ち止まった空はすぐ振り向く。頬を掻きながら夕焼け空を見上げて。
「あー…、悪りぃ。明日隣町に任務があるんだ。明後日で良いか」
「うん!」
「じゃあまた此処で待ち合わせな」
嬉しそうにコクコク頷く鵺に手を振れば、鵺も空が見えなくなるまでブンブン振り返していた。






















それから、空の任務が無い日や、あったとしても半日だけでも会い、町へ遊びに行ったり山で2人のんびり話をしたり…。とにかく会える時間があれば必ず会っていた。そうして、月日は経っていった。





























3ヶ月後、
鳳条院家――――

父親の部屋に呼ばれた空は、相変わらず胡坐を組んでいる。
「空。お前最近女と町へよく出掛けているようだが、気を抜いているのではないだろうな」
「うっせぇなー。友達だよ友達。イサネみてぇな感じだって」
「ここ最近悪質な妖怪が現れないからといって、女にうつつを抜かして背後をとられるなよ」
「分ーってるって!」
膝を立て立ち上がる。


ピシャン!

部屋を出ていった。






















「兄上!」
「ん?」
頭の後ろに両腕を組み廊下を歩いていると、龍が走ってきた。少し頬を赤らめて。
「あ、兄上そのっ…ええと…」
「何だよ。はっきりしろよなー」
「兄上に恋人ができたというのは本当ですかっ!」
「ぶはっ!ちち、違ぇよバカ!!」
思わず吹き出してしまいつつも、耳まで真っ赤にしてしまう空。
「え。侍女の田村さんが町へ買い物をしていたら兄上が小柄な女性と楽しく話をしているところを見掛けたとお聞きしました!あと飯村さんや、高橋さん、田中さんも見掛けたと…」
「ばっ…、何勘違いしてんだよおめぇは!思春期のマセガキんちょめ!」
「なっ…!?僕は決してそういう意味ではなく、おめでたい事ですからお祝いしようと思っただけで!」
「あ〜そうかい!ありがとな!でもあいつはそういうのじゃねぇからな。友達だ、友達。でも親父とお袋にはその話題ぜっってぇ出すなよ」
「え。何故ですか?」
「分かったか!!」
「は、はい…!」
くるり。
背を向け、龍を置いて廊下をさっさと歩いていく空の顔がまだ真っ赤だったそうな。
































桜ノ宮山トンネル前、
17時――――

「へえ!おめぇ町で働き始めたんか!」
切り株の上に2人で腰掛け、誰も居ない静かなこの場所で他愛ない会話を楽しんでいた。
「うん!ちぃとばかし買いてぇがんがあって、でもその為には働かなきゃいけねぇって聞いたすけ夜たまに、町の食堂で働いてるんて」
「いつからだ?」
「先週から。お金は日払いなんだろも」
「良いいじゃん!すげぇよ。いやぁ〜最初おめぇに会った時は、ド田舎者過ぎて団子の食い方すら分かってなかったから先行き不安だったんだぜ」
「余計なお世話らて!それにオラは田舎者じゃねぇてば!」
「そう言うならまず、そのバリバリの訛りを直してからにしろよな〜」
「ムキーッ!!」


ドスドス!

「痛ででで!!ばっ、ちょ、バカ野郎!背中蹴んな!いででで!」
相変わらず、可愛らしい見た目に似合わぬ暴力的なところにはすっかり慣れてしまった。空は口では怒りつつも、顔は微笑んでいた。




















そうこうしていると、辺りはあっという間に真っ暗くなり、白い月が顔を出す。
「あ。月が出た。おめさん帰えんねぇと怒られるんろ?」
「え?ああ、まあ…な」
スッ…
立ち上がり、尻をパシパシ払う鵺。
「明日は町行ごて!オラ給料で買いてぇがんがあるすけ。おめさんも何か買いてぇがんあるけ?」
「…あのさっ」
「ん?」
「その…おめさん、って呼び方いい加減やめね?」
「え。じゃあ何て呼べば良いんら?」
座って下を向いたままの空の耳が赤い。
「そっ…そ…そ…空!とか…さ!」


ボッ!

言われた鵺も言った空も顔に火が点き、頭から湯気を出して全身真っ赤。ドキドキして張り裂けそうな胸を着物の上からぎゅっ、と締め付ける鵺。
「え、え、あっ…!ああ…うん、わ、分かったて…あ、明日からそう呼ぶて…う、うん…多分…」
「今!」
「え?!」
「い、い、今呼べよ!」
「えええ?!え、え…そ…そっ、そ…」
オドオド。ドキドキ。
自分の心臓の音しか聞こえないくらいいっぱいいっぱいでパンクしそう。鵺は下を向き顔は真っ赤で、口を『そ』の字に開いているのだが、なかなか声が出せない。
そうこうしている間に立った空が、鵺の前に立った。足元に空の靴が見えて距離が近いからドキドキ。
「え、えっと…ええっと」
「鵺!」
「は、はひっ!」
「顔上げろ!」
「うっ…うぅ…で、できねぇて!」
「分かった!」
「ふあっ?!」
鵺の頬を両サイドからがっちり掴み顔を無理矢理上げさせる空に、鵺の顔が真っ赤。目がぐるぐる回ってしまっている程。
「ふええ〜」
「鵺!」
「はひっ…!」
「鵺!好きだ!俺の恋人になってくれ!つ、つーか…ぶっちゃけ俺の伴侶になってほしい!!」
「ふああっ…えっ、ええっ…なっ…な、えぇ!?」
「ちゃんとこっち見ろ!」
「〜〜!」
目をぱちっと開き、空を見…れない。けど、唇を噛み締めて頑張って頑張ってようやく空を直視してみたら、空も顔が真っ赤だった。顔は真剣なのに。
「ふえぇ…」
「返事は、"仕方ねぇなってやるて!"か、"なるわけねぇねっか!"のどっちか!」
「ううっ〜…」
「鵺!」
「し、し、し、仕方ねぇなってやるてっっ!!」
目をぎゅっ、と瞑って大声で言う鵺を空は思わずきつく抱き締めた。だから鵺も空の大きい背中に腕を回してぎゅっ、と抱き付く。かなり身長差があるから、鵺の顔は空の腹部に埋まっている形。
「オ、オラも好きらった!!助けてぐれた日からずっとずっとおめさんの事ばっかり考えて、おめさんばっかりが夢に出てきてこんな感情初めてだすけ、どうして良いか分かんねかった!」
「あ〜〜くっそ!何だよ!俺もおめぇが家にあんま美味くねぇ木の実を持ってきた時からずっとおめぇの事ばっかり考えて、おめぇばっかり夢に出てきてたんだよ!!」


ぎゅっ!

息苦しくなるくらい抱き締める。
「うぐっ…く、苦しいんだろも…!」
「うるせぇ!!」
「うぅ〜仕方ねぇな、空はっ!」


ぎゅっ!

鵺も空を抱き締め返す。顔が林檎のように真っ赤でとても幸せな笑みを浮かべた2人は、月夜の下ずっと抱き締め合っていた。




















「えっ」
「だから、言っただろ。今からおめぇを俺の親父とおふくろに紹介しに行く、って」
いつものように空と待ち合わせをしてついて来た鵺だが聞いていない今日のその予定に、顔を横にブンブン振り、意地でも動かないから空が強引に引っ張っていく。
「い、嫌ら!嫌ら!!」
「何でだよ。伴侶になってくれるっつったじゃん」
「そうらろも、嫌ら!だってオラ…」
「はい、残念でした〜もう着いちゃったもんね〜!」
「うぅ…意地悪ら!空は意地悪ら!」
「はいはい。何とでも言えよ〜。おーい。お兄様のお帰りだぞー」
鵺の腕を引っ張って無理矢理鳳条院家に入れる空。しかし…


しーん…

「ありゃ。誰も居ねぇの?つまんねーの」
「ホッ…」
「何ホッとしてんだよ、おめぇは」
「だ、だって〜…」
昼間だというのに真っ暗な屋敷。不気味なくらい静まり返っていて、誰も居ないようだ。使用人も。空は鵺の手を繋いで廊下を歩く。
――何で誰も居ねぇんだ…?――


ミシッ…、

「…?」
その時背後から廊下の軋む音がして空が振り向くと其処には、弟の龍が下を向いて立っていた。
「おぉ。おめぇ居たのかよ。親父とおふくろ知らね?ああ、そう。こいつ、俺の嫁になる…」
「鵺…」


ビクッ!

龍と龍以外の3人の声が重なってその名を呟くから、鵺がビクッ!と震える。気配を感じ取った空は眉間に皺を寄せて、鵺を自分の方へ守るように抱き寄せる。
「…龍おめぇ、何で知ってやがる…」
「あたしが教えてあげたの。空が悪い女に唆されているから、って…」
「その声…イサネか」
龍以外の声の3人が背後の襖を開き現れると、空の父親、母親、イサネが鬼の形相をして立っていた。





















きゅっ、
空は鵺をきつく抱き締める。
「空アンタ、その子が妖怪鵺だと知って好きになったの?嘘よね?その子を唆して、いつか殺そうっていう計画でしょ」
「違ぇ。分かんだろイサネ。こいつが…鵺が俺と一緒になってから妖怪の被害は何も無くなった。鵺が妖怪達の親玉だったからな。…分かり合えたからなんだよ!俺と鵺が…人間と妖怪が!殺し合わずに済んだ!それで良いじゃねぇか!他に何の不服があるってんだよ!」
「そうね…。アンタ達のお陰で人間と妖怪は分かり合えた…こうしてね」


ガラッ、

「なっ…!?」
反対側の襖をイサネが開くと其処には、鵺についていた…つまり下端の妖怪達がうじゃうじゃと居て、2人を嗤っていた。
「ギャッ!ギャッ!鵺ザマアミロ!」
「オ前ラハ人間カラモ妖怪カラモ敵視サレテ、モウドコニモ仲間ガイナイ!」
「なっ…、」
「山から逃げた鵺を探していた妖怪達が、鵺を殺す手伝いをしてくれるって言ったのよ。これで本当に鵺は消滅する。当然でしょ。人を食べてきた化け物なんか消されて当然でしょ」
「何わけ分かんねぇ事言ってんだよ!俺は…、くっ!放せ龍!!」
背後から龍に腕を掴まれ身動きできない空。
「当然ですよ兄上。人間と化け物が純粋に分かり合う…?そんなもの理想に過ぎない。化け物を庇う兄上は人間も化け物も敵にまわした。…周りを巻き込まず、あの世でお2人で幸せになって下さい」
「龍てめぇ、何言っ…、あ"っ…!」


ドスッ…、

「空!!」
背中から腹部を龍に刀魑魅で貫通された空が血を吐く。鵺が空に駆け寄るが…
「ギャッ!ギャッ!人間モ妖怪モ、互イノ種族ヲ裏切ッタコノ馬鹿ナ二人ヲ殺ソウゼ!」


ドドドドド!!

鵺は空の両親とイサネに刺され、妖怪からは体を食いちぎられ、死んでも尚刺され食いちぎられ殺されたという。







































人間を裏切った人間と妖怪を裏切った妖怪の末路は、結果的に同種族をも敵に回してしまう事になった。
「人間とMADの子…鵺を庇う雨岬。おめぇもこれからきっと俺と同じようにいずれ、人間もMADも敵に回す事になるだろう。だからこそ俺は、俺の生まれ変わりの雨岬には俺達の運命(さだめ)を変えてほしい」































to be continued...







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