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終焉のアリア【完結】
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付けた空にパチパチ拍手して喜ぶミルフィに照れた空は背を向けると1人でさっさと歩いて行ってしまうから、その後ろから追い掛けてきたミルフィが腕をぎゅっ、と掴む。
「気に入ってくれた?」
「まあ」
「もーっ照れ屋さん☆」
「…お前は」
「え?」
「だ、だから!お前は何が欲しいって聞いてんだよ!」
「ほわぁ〜〜!雨岬君からそう言ってもらえるなんてミル感激!!うんとねあのねっ、雨岬君がくれる物なら何でもイイ♪」
「じゃー、其処に積もってる雪玉な」


ドスッ!

「痛っ〜〜!」
「雨岬君?冗談が許されるのは2回までだよ☆」
――こいつ、思いっ切り脚の脛蹴った!!――
雪が降るツリーのイルミネーションで煌びやかな街を並んで歩いて行く2人だった。



































同時刻――――


ドンッ!

「お客さん飲み過ぎじゃないかい?」
1軒のバーカウンター席。30本の空き瓶を前に、カウンターにうなだれているのはアリス。
「あ"ァ?!店的には高ぇ酒をこーんなに飲む客は神様じゃねぇのか?あァ?!」
「いや、それを言ったらそうなんだけど、お客さんの体は大丈夫なのかいって…」


ドン!!

「うっせぇんだよどいつもこいつも!!てめぇらは俺のオカンかっつーんだよ!あ"ーうぜぇ!俺らが血ぃ流して死にもの狂いで戦ってる時にこの国の連中ときたら、バカップル共がクリスマスを満喫かよ!」
「お客さん、お酒はそのくらいにしておいた方が体の為だよ」
「だからうっせぇっつってんだろハゲ!!」
「わ、私じゃないよお客さん〜!」
「あァ?」
顔を上げたが、どうやら今の声は店主のものではないらしい。店主がおどおどして指を差す後ろを振り向くアリス。
「えへへ。僕でしたー」
ひょこっ。
後ろから現れたのは、両手を振って笑顔のハロルド。今の声もハロルドだったのだ。だから余計…


ぐっ!

「痛だだだ!!」
「てめぇだと余計うぜぇんだよクソ坊っちゃんが!!」
「い、痛いよアリス君!」
前髪を鷲掴みにされたハロルドは本当に痛そう。
「やめておけアリス」
「っんだよ、まーたてめぇかファン」
それを止めるのは、お決まりファンの役目。
「こんな所で1人で居るなら僕達を誘ってよね」
「ケッ!」
ガタン。
アリスの隣にハロルド。その隣にファンが座る。
「ファン君何飲む?」
「ウイスキー」
「じゃあウイスキーと生5つお願いします」
「俺様に説教しといて、てめぇは相変わらず飲兵衛だなクソ坊っちゃん」
「お酒大好きだからね〜♪」





















カチャ、カチャ…

グラスの音とジャズの静かなBGM。窓の外に見える雪の降り方が少し強くなってきただろうか。ハロルドが腕時計に目を向けると、22時30分をまわっていた。
「マディナ帝国の事。どうしようか」
ハロルドは真剣な顔で話し出す。
「申し訳ないけれど今まで知らなかった国だから驚いちゃったよ。あの氷の兵士や氷の作り物はMADのせいによるものなのかな。それにしても、人の居る気配がしなかったんだけれど…。ねぇ、ファン君。ファン君はどうしてあのヘリコプターや兵士が氷だ、って分かったの」


カラン…

ファンのウイスキーの氷が音をたてて溶ける。
「いや、分からなかった。ただいつものように攻撃をしたらたまたま溶けたので氷だと判明しただけだ」
「そっか」
「ああ」
「嘘。つかなくて良いよ」
「…!」
にっこり笑んでこちらを見るハロルドに少し怖さを感じたファン。アリスも同様に。
「ごめんね。怒った?」
「いや…」
カクテルが入ったグラスを両手で握り、グラスの中の氷を見つめるハロルド。
「小さい頃からね。人の嘘が分かっちゃうんだ。何でだろう」
「うっぜぇ。そんなんマグレだろ」
「だよね〜」
頬杖を着いてつまらなそうに煙草を吸い始めるアリス。
「今日のファン君の事もそうだけど、僕達同期で任務も大抵いつも一緒に行動しているのに、お互いの事を何も知らないよね。何を目的にEMS軍に入ったのかとか…」
「そんなん知りたくもねぇし、教える気もねぇけどな」
「…でもそれを知れたら人は今よりもっと、一つになれるんじゃないかな。共和派が無くなってEMSとMADの戦いにはなっているけれど、MADが言うように人間は…地球人はやっぱり、まだ一つになれていない気がするんだ。でも僕達が1人1人もっと歩み寄ったら、MADが居なくなったその後の世界だって戦争が一つも無くなるんじゃないかな、って。皮肉だけど、敵に気付かされた所があると思うんだ」
「おい、ハロルド」
下を向いたアリスの低い声に、少しだけ物怖じしてしまうハロルド。





















「な、何かなアリス君」
「MADが言うように、つったか。今」
「う、うん…」
「MADの肩もってんじゃねぇぞ、てめぇ」
「肩なんてもっていないよ!でも確かに彼らの言う通りな所もあるかな、って。今回MADに侵略されて気付かされたでしょ」


ガンッ!

「っ…!」
テーブルを派手に叩き、立ち上がったアリスはハロルドの胸倉を掴むから客からは、
「きゃあ!」
と悲鳴が上がる。店主はオロオロ。ファンがすぐ止めに入るが、アリスは手を放さない。
「てめぇ!何の為にEMSに入った!MADに恨みがあるからじゃねぇのか!」
「っ…、そうだよ」
「なら二度とMADに同意すんじゃねぇ!この、偽善者が!」
「アリス、やめろ」
「うるせぇ!てめぇもだファン!いっつもいっつもすかした面して偽善者ぶりやがっ、」


パシン!

「っ…!?」
何と、胸倉を掴んでいたアリスの手を強く払ったのはハロルド。これにはアリスは勿論、ファンも目を丸めて驚く。
「僕はアリス君が言う通り偽善者かもしれない。確かに、MADにたくさん恨みがあるアリス君の気持ちも考えずに言った事は謝るよ。でも、戦争だってそうでしょ。間違いを犯して敵に気付かされてそこから平和を導きだせる事だってあるでしょ」
「っ…!クソッ!ムカつくんだよてめぇ!!」


ドッ!

「きゃあ…!」
思い切りハロルドの右頬を殴ったアリス。ハロルドはよろめき、ファンが何とか肩に手をやり支えてやった。
「いつも良い子ちゃんぶりやがって!同期の中で自分だけ位が上だからって、今度は上から目線でお説教か?!ざけんじゃねぇ!大体、あの赤髪ツインテールのMADと何の関わりがあるんだよ!」
「あのMADは…」
「ンだよ!お互いの事知ろうって言い出しといて自分は言わねぇつもりか!」
「ムッ…。あのMADは!MAD地球襲撃の時に逃げていたら僕の前に突然現れて何かよく分からないんだけど、言い寄られたってだけだよ!」
「んなっ…てめぇ!フランとどういう関係だよ!」
「フラン?え?な、何の事?僕、あのMADの事何も知らないよ?!すぐ逃げてきたから名前も知らないし…アリス君はあのMADの事何か知ってるの?」
「っ…、くそっ!」
「アリス君?アリスく、」


バンッ!

カウンターに力強く酒代の札束を置き、コートを羽織り…


バタン!!

「アリス君!?」
1人でさっさと店を出て行ってしまった。
「す、すみませんでした」
店主や客に謝罪するとハロルドとファンも、店を出て行った。





































「チッ…くっそ!!」


カラン、カラン!

店を出たアリスは、空き缶を思い切り蹴飛ばす。酷く苛立っている。
「……」
すると、コートのポケットの中から銀色の一つの指輪を取出し、彼らしかぬ切なそうな目をしてそれを見つめる。
「何見てんすか、アリスさん」
「んなっ…!?う、うっせぇ半MAD!」
「半MAD?!」
集合場所のツリーに現れた空とミルフィ。空に呼び掛けられたアリスは、慌てて指輪を隠す。
ビシッ!空を指差した。
「いいか!?俺はてめぇと鳳条院を仲間だなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇからな!一応戦力になるから仕方なく了承してやってるだからな!MAD菌が移るだろ!二度と話し掛けんじゃねーぞクソガキ!」
ムカッ。
さすがにムカついた空が言い返そうと口を開くが…
「何や何や。まーた喧嘩かあんさんら」
「アイアン!」
「大佐、やろ?アリス」
煙草を吹かしながら現れたのはアイアン。親指で後ろのこじんまりしたホテルをくいっ、と指差す。
「ハロルドの話だと、このホテルの予約を取ったらしいで」
「じゃあ俺はあのクソ野郎共が来る前に先、入るぜ」
さっさとホテルへ入ったて行くアリスに、肩を竦めて笑うアイアン。

























「ん?そういやガキ共。鳳条院の姿が無いやんか」
「そうなんすよ。えっと…」
「アイアン、な」
「ああ。アイアン…さん。鵺、見掛けませんでしたか。途中まで一緒だったんすけど…」
「雨岬のうっすらバカー!!」
「うっ…その声は…」
後方から聞こえてきた息を切らした声に、恐る恐る振り向く空。
「何や。居るやんけ」
今まさに戻ってきて合流した鵺は、顔を真っ赤にして怒っている。いつもの事だ。
「おー、よく帰ってこれたな。方向ドオンチのクセに。感心、感心」
「バカにすんなて!!大体らな!おめさん達が俺の事無視してるすけ気ぃ遣ってやった俺が…、あ…。雨岬、その時計…」
「え?」
今までつけていなかった空が今つけている銀色の腕時計に、鵺は目を丸める。するとミルフィが空の腕に抱き付く。
「ミルから雨岬君へのクリスマスプレゼントなの〜♪ねぇ鵺ちん見て見て!これ!雨岬君からミルへネックレスのクリスマスプレゼントなんだよ♪」
マフラーの下から出した金色のネックレスを見せるミルフィのネックレスよりも、空がつけている腕時計ばかりを見ている鵺。
「ねぇ鵺ちん、このネックレス似合う?」
「……」
「鵺ちん?」
「……」
「おーい、鵺ちん?」
「…えっ?!あ、ああ…すんげぇ似合ってるて!」
「本当?ありがとう!鵺ちんってやっぱりいい子だね〜♪」
「……」





















「はぁ、はぁ…や、やっと着いた〜!」
「お。ハロルドとファンも着いたな」
走ってきたハロルドとファンも合流。
「あれ?大佐あの、アリス君は…」
「先入ってったで。あんさんらに会いたくねぇみたいな事言っとったなァ」
「そう…ですか…」
「あんさんらまーた何かあったんやろ。まあ、ええわ。アリス抜きでマディナへの入国方法を考えようや」
「すみません…」
「何であんさんが謝んのや。さっさ。ガキ共も中入るでー」
「はーい!雨岬君行こー」
「だからくっつくな!」
ゾロゾロ入って行く面々。しかし…
「あれ?ファン君どうしたの。入ろう?」
ファンだけ入る気配が無いから、笑顔で声を掛けるハロルド。
「すまない。先程の店で財布を忘れてきてしまったようだ」
「ええ?そりゃ大変だ!僕もついていくよ!」
「いや、いい。すぐ戻る」
「そっかぁ。気を付けてね」
「ああ」
そう言うと、皆に背を向け雪が深々と降り積もる街へ消えていくファン。
「すまない、ハロルド…」

















一方のハロルドは、ホテルに入ってすぐ立ち止まり、ドアの方を振り向いていた。
「……」
「おーい。ハロルド何しとんのや。さっさと中入れー」
「は、はい!」































ホテル内――――

「ふ〜。やっと暖かい毛布〜♪」
同室の空とミルフィ。ミルフィはベッドにダイブ。一方の空はコートを脱いでいる。
「ねぇねぇ雨岬くーん」
「何」
「チューしよー!」
「はあ?!」
「だってミル達もう既に1回してるじゃん!平気平気〜☆」
「お前なぁ…あれは違うだろ!つーかお前もEMSに入ってるから戦力の頭数に入ってるんだろ。大佐達と話し合わなくて良いのかよ」
「だってミルお呼ばれしてないもーん。それにそれに、またいつ日本みたいに襲撃合うか分かんないよ。もしかしたら明日死んじゃうかもしれないんだよ?!だ・か・ら〜チュー!しよっ☆」
「〜〜っ、はぁ!」
溜息を吐いて、ミルフィには背を向けてベッドに腰掛ける空。後ろから抱き付くミルフィ。
「雨岬君背中大きーい」
「だから何だよ…」
「頼りになるねって意味☆雨岬君こっち向いて☆」
「やだ」
「ぶ〜っ。こっち向いて!」
「やだ」
「こっち向けーー!」
「…はぁ」
渋々向いてやれば、ミルフィはふふん♪と笑う。渋々な態度をとりつつも頬が薄ら赤い空は、ミルフィと向かい合う。目を瞑ったミルフィに唇を近付ける。


バタン!

「雨岬!ちぃとばかし話があるんだろ…もぉおおお?!」
「んなぁあ?!鵺おまっ…!?ノックくらいしろ!!つーかこのホテル、何で外からドアが開けられるんだよ?!」
ノックも無しに部屋に突然入ってきた鵺に、今世紀最大のビビり様の空。
キスこそ見られずに済んだものの、(過去に既に見られてはいるが)柄にもなくミルフィを抱き締めている所をばっちり見られ真っ赤の空。対してミルフィは、全く動じていない。
一方の鵺も自分事のように顔を真っ赤にして…。
「なっ…何らておめさん達はああ!!こここっ、この期に及んでまだイチャついてるんけ?!どんげ緊張感ねぇんらて、このっっスケベ共!!」
「鵺ちん聞いて聞いて〜!ミルね、雨岬君とついにつーいーにっ!カップルになれましたー♪♪」
「んなっ…?!そ、そうだったんけ?じ、じゃあ今までは違ごかったってがんに、あんげイチャついてたんけ?!最っっ低らな雨岬!!」
「俺だけかよ!つーか俺はしてねーよ!今までこいつが一方的だっただろ明らかに!」
「むぅ…。ま、まあそんげ事より…。雨岬!話があるんだろも」
「え。ああ。分かったよ」
「鵺ちーん…」
「わ、分かってるて!すぐ返ぇすすけ、待ってろて!」
うるうるした目で、空を早く返してほしいと目で訴えてくるミルフィにそう言うと、空を連れて部屋を出て行った。


























隣室――――


バタン。

「何だ。お前1人部屋?」
「おめさんが部屋を彼女と一緒にしたすけ、俺だけハブかれたんだねっか!」
「何。寂しいの?デレ期ですか鵺さーん」
「う、う、うっせぇ!!」


シャッ!

カーテンを閉める鵺。空に背を向けてベッドに腰掛ける。一方の空は立ったまま。
「…時計。似合ってるねっか。良かったな」
「あ、これ?そりゃどーも」
沈黙。
――用があるから呼んだんじゃねーのかよ!――
「ぬ、」
「おめさんに言ったからってどうにもなんねんだろも、その…」
「…またなったのか」
前に立った空にビクッとする鵺。だが、両手の手袋をとり、上着の長袖を腕の付け根まで捲る。
「…!!」
一気に両腕がMADと同じ緑色に変色している上、人らしかぬボコボコした気味の悪い緑色の血管が浮き上がっていた。
内心酷く驚いて動揺している空だが、ぐっ…と堪えて、表情には決して出さない。
「…そうか」
「おめさんに見せたからどうなるってわけじゃねぇんだろも。やっぱ、1人で抱え込んでいるのが怖くて…ごめんな、いっつも」
「謝る事じゃねぇだろ」
ギシッ。
隣に腰掛ける空。
「痛みはあんのか」
「最初の時はあったんだろも、今は正直…感覚があんま無ぇんら…。そのせいかは分かんねんだろも、たまに息苦しくなるし…。魍魎もおめさんに渡して、申し訳ねぇて」
「んな事ねーし。仕方ないだろ」
「魍魎も使えねぇし…刀をとったら俺には何も残らねんだすけ、EMSに居たって意味無ぇすけ…もう正直、本気でEMSを辞めよう思ってるんら…。お祖母ちゃんの仇は討ちてぇんだろも、こんなに侵食が早ぇと自分が自分でおっかねぇすけ、おめさん達に迷惑かける前に潔く辞めよう思ってるんら。根性無しって思われるかもしんねんだろも、おめさん達には…特に、雨岬にはもう迷惑かけたくねぇんらて」
「迷惑って何だよ」
「迷惑ってそりゃ…どんどんMAD化して完全なMADになった時俺はきっと、おめさん達の事…」
「だからそういうマイナス思考はもういいっつってんだろ」
「……」



















ギシッ、
両手をベッドの後ろに着いて天井を見上げる空とは対照的に、鵺は俯いている。
「お前に言うわ」
「え?」
「刀…魍魎を俺が使える理由」
「知ってるんけ?おめさん前に俺が聞いた時、知らねぇ風らったねっか」
「あの時はな」
「…?」
空は、静かに口を開く。


























to be continued...





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