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終焉のアリア【完結】
ページ:2
《…?魂が食われてもう何処にも無い…?な、何だよそれ…。俺みたいに鵺の中にもお前の妻の魂があるんじゃないのかよ》
「……」
《おい!肝心な時に黙りかよ…って、おわっ?!》
――こいつ、都合悪くなったからって俺の意識を前に出して自分は逃げやがった!!――




















「雨岬君!」
「げっ…」
腰に両手をあててご立腹のミルフィを前に、顔を反らす空。
「これはどういう事っ!」
「いや、その、今の俺じゃないし…」
「説明してもらいますっ!可愛い可愛いミルを差し置いて鵺ちんに浮気するなんて許しませんっ!!」
「はあ?!浮気って何だよ!つーかその前に俺、お前の彼氏でも何でないし!」
「うわあああん!俺、雨岬に気持ち悪ぃ事言われたすけ、もう一生結婚できねぇて!天国のお祖母ちゃんに言い付けてやるて!!」
「よしよし、可哀想な鵺ちん!」
――何だよこのカオスな状況!!――
泣く鵺の頭を撫でてあげるミルフィ。空の事を軽蔑の眼差しで見るファンと風希。自分の事のように顔を真っ赤にして照れているハロルドと月見。


ガクン…、

テーブルに顔を伏せる空。
「はぁ…。取り敢えず、シトリー達から逃れられたし一件落着…なのかよこれ…」








































EMS軍本部――――


カツン、コツン…

「まだ1ヶ月経っちゃいねぇのに、もう修理終わったのかよ?」
本部に到着したアイアン、アリス、花月の3人。
以前と何一つ変わらず元通りの本部内を見回して歩くアリス。その後ろにぴったりくっついているのは、ずっと俯いて歩いている花月。
「花ブタァ。おめぇ随分とまあ、日本ではモテモテだったらしいやんか」


ビクッ!

先頭を歩きながら花月に話し掛けるアイアンに、やはり花月は挙動不審。だから花月の方を向いて眉間に皺を寄せ、神妙な面持ちになるアリス。
「まあ、それもそうやろなァ。約40kg脂肪吸引して痩せて、大金かけて顔も全身も全部整形したんやから、モテなきゃ意味あらへんわなァ」
「っ…!」
「なっ…!?カズ、お前…」
くるっ。
足を止め、アリスと花月の方を向いたアイアンの意地の悪い笑み。
「アリスお前さん知らへんやろ。そいつ昔、周りから"花ブタ、花ブタ"言われるくらいのデブで不細工で陰気臭ぇ友達の1人も居らへん親不孝者やっちゅー事。支部長になってからキャラ作ってたもんなァ」
「は?何言ってんだあんた」
「これがホンマのお前やろ。なぁ、花ブタ?」
「…!!」
アイアンが出してきた写真それは、丸々太っていてお世辞でもとても良いとは言えないパーツの顔をした中学時代の花月の顔写真。それを見た花月の顔が、真っ青になる。
「MADが襲来してきて支部長に任命された時。お前さんはコンプレックスの自分の容姿を世界中に見せる事になるのが嫌で、本部来て将軍に整形してもろたんよな。親父の大金使うて。こんな親不孝で自己中で陰気臭ぇ息子持って、親父も難儀やったろなァ」
「っ…、」
「アリス見てみぃ。こいつ頭おかしいんやで」
「っ…!?」
花月の上着の袖をぐっ、と捲り上げるアイアン。花月の両手の手首には、刃物で切った浅い傷痕が何本も入っている。



















「分かるやろ?リストカットっちゅーやつや」
「っ…、うっ…」
「本人らは死のう思うてやってるらしいんやけど本当はただ構ってほしくて自分で自分の手首を切ってる、頭のおかしい奴やっちゅー事や。ドン引きやろ?俺もなァ、初めてこいつが此処来た時、こいつの気持ち悪りぃ容姿以上に、この手首を見て悪寒がしたんや。アリスお前さんは花ブタの事えらく気に入ってるようやけど、こいつキャラ作っとるで。ホンマは陰気臭い気持ち悪ぃ奴なんやで。お前さんも同類に思われるとあかんからな、気ぃつけや」


パシン!

「…?」
花月の上着の袖を捲っていたアイアンの手を振り払ったのは、アリス。
「どないしたんやアリス」
「知ってっよ」
「何をや?おお、そうか花ブタの気持ち悪りぃ事他にも仰山知っとんのやな?どれ、聞かせてみぃ」
「こいつが実は軽いチャラい男のキャラを作ってて、でも実際は引っ込み思案で根暗なオタクな事くらいこの前知ったよ」
「へぇ。オタクかぁ。カカカッ!まあ、そんなオタク臭さあるわなァ。他に無いんか?」
「だから何だっつーんだよ!」
「…アリス?」
「あんたに言われたから俺が気を付けるとでも思ってんのかよ!つーかその前に、気を付けろって何だよ!同類に思われる?上等だろ!あんたバッカじゃねぇの!?自分の子供くらいの年のガキに嫌がらせして、何が楽しいんだよ!ダッセ!頭おかしいのはあんただろーが!!」
「……」
「うっ…ひっく…うっ…」
怒鳴り終えたアリス。


しん…

静まり返った本部エントランスホールに、花月がアリスの後ろで声を圧し殺しているのだが微かに洩れる泣き声が聞こえるだけ。
上司相手だろうが睨み付けてくるアリスを、ジッ…と見下ろすアイアン。
くるっ。
背を向けると、歩いて行ってしまう。
「オイ!謝罪も無ぇのかよ!」
「やめや、やめや。お前さんの気性の荒らさを買って俺の部隊に入れてやろう思っとったんやけど、やめや。つまらへんやっちゃなァアリス。まあそこで師弟2人。仲良しこよし待ってろや。準備が整ったら呼びに来るさかい」
ポケットに両手を突っ込み奧へ行き、やがて姿の見えなくなったアイアンだった。

























「うっ…ひっく、うっ…」
「カズもカズだ!いつまでもメソメソ泣いてんじゃねぇ!」


ドスッ!

「痛っ…、」
下を向いてヒクヒク泣いてばかりの花月の背中を思い切り蹴ってやったアリス。すると、ゴシゴシ目を擦って泣き止む。(まだ肩がヒクヒクしていたが、気付かないフリをしてやる)
「はーあ。上司相手に怒鳴っちまった。俺、格下げか左遷かもなァ」
ドサッ!とソファーに腰をかけて、煙草に火を点ける。
「っ…すみません…俺のせいで…」
「あぁ?ンな事気にしてんじゃねぇよ。カズが言い返してくれ!って頼んだんじゃねぇ。俺が勝手にぶちギレて言っただけだろーが。まあ、座れや」
ソファーの自分の隣の席をバシバシ叩いて座るよう促せば、相変わらず下を向いたままの花月が頷いて座る。やはりまだ下を向いているから、アリスは溜息を吐くが。
「まあ今回の日本襲撃の罰は、せいぜい長くて1ヶ月の謹慎処分ってとこか」
「すみません…」
「だーから謝んなっつってんだろ!つーかいい加減泣き止め!このっ、モヤシ野郎!」
「っ…すみません…。先輩、もういいです…」
「あ?」
「俺に関わるのはもうやめて下さい…」
「何だよ。カズのくせに急に偉そうに」


ぎゅっ…、

自分の両膝に爪を立てる花月。
「俺のせいで、庇ってくれた先輩が大佐に嫌みを言われたり、俺のせいなのに、たまたま日本に居た先輩も罰を受ける事になるのがもう嫌なんです…。全部、俺のせいなんです。俺と一緒に居てくれて俺に優しくしてくれる人は、みんな居なくなっちゃうんです…父さんも母さんも、お鳥姉さんも…!」
「お鳥…そういえばカズお前、お鳥はどうした」


ビクッ!

挙動不審に震える花月。
「カズ」
「っ…あ…、」
「大丈夫だ。風希みてぇに怒らねぇから言ってみろ」
「っ…、ホテルを出た後…俺が不甲斐ないからMADにっ…、連れて行かれ…ました…」
「…そうか。よく話してくれたな」
顔は見ずに、花月の髪をぐしゃぐしゃにするアリスだった。





















「いつもいじめられていた事、お鳥姉さんにしか言えなくて…。お鳥姉さんは、中学時代の俺のキモい容姿とかオタク趣味で陰気臭い性格とか、俺の体に付いた傷痕とか全然気持ち悪がらなくていつも励ましてくれて…」
「そうか。お鳥はカズにべったりだったからなぁ」
「俺が何一つ言い返せなかったせいもあるんですけど、日に日にエスカレートしていって、裸の写真を撮られたり、いじめてくる男子のものを咥えさせられたり、果てには行為を強要させられたり…。さすがにそれはお鳥姉さんに言えなくて…。堪えきれなくなって初めて手首を切って自殺しようとしたんですけど、その時お鳥姉さんに見付かって…。そしたら姉さんは"花月が死んだらあたしも死にたいくらい辛い。だからもうそういう事するのやめて"って言ってくれて…。いつも学校でクラスメイトや周りから"死ね"って言われていたから俺なんて死んでも誰も悲しまなくて、寧ろみんな喜ぶものだと思ってて…。だからお鳥姉さんは、俺が死のうとしていたところを助けてくれたのに、俺は姉さんを守れなかった…!そのせいで姉さんが死んじゃったら俺、どうすれば…!」
「今すぐお鳥を助けに行けば良い。ただそれだけだろ」
「えっ…でも俺、今から将軍に今回の事で罰せられるじゃないですか。そしたら最低でも1ヶ月は牢獄行きじゃないですか…」
「バーカ。逃げりゃ良いんだよ、そんなの」
「ど、どうやって…」
「今」
「え?!」
「バカ大佐が戻ってくる前にな。オラ!立った立った!」
「わっ?!」
ぐっ、と花月の腕を引っ張って立たせるアリスの強引さに戸惑いっぱなしの花月。
「カズ」
「は、はいっ…」
「風希から聞いたんだけどよ。お鳥は中学の頃からカズの事好きだったらしいぜ。つー事は、お前が整形する前ってとこか」
「…!」
「まあ、俺みてぇなバカがこんな事言うのもかっこ悪りぃんだけどよ。要は人間見た目じゃねぇ、中身だ、っつー事な。俺はオタクとか陰気臭ぇ奴苦手だけど嫌いじゃねぇ。だからカズ。死のうなんてこれから先一生、死ぬまで思うんじゃねぇぞ。死んだらお前の好きなアニメだか何だか知らねぇけど、見れなくなる。そんなのつまんねぇだろ?分かったか?」
「…はいっ!」
ニィッ。八重歯を覗かせて笑うアリス。
「よっしゃ。合格だ。バカ大佐が戻ってくる前に出るぜ!お鳥を助けに行くぞ!」
「はい!」
アリスを先頭に、本部の重たい扉を開けるアリス。


ガシャン!!

「んなっ…!?カズ!!」
その時何と、天井から花月の真上に鉄の牢屋が降ってきて、花月は捕らえられてしまったのだ。
鉄の壁は厚く、中は見えないが、アリスはドンドン!壁を叩く。



















「おいカズ!出れるか?カズ!」


カツン、コツン…

「んふっ♪アリスちーん。ダメでしょぉ?花月ちゃんの先輩なら、ちゃあんと教えなくっちゃ。悪い事をしたら人は誰でもお仕置きを受けるもの…ってね?」
「グレンベレンバ将軍…!」
奥の暗闇から姿を現したのは、にっこり微笑んだグレンベレンバと、その後ろには煙草を吹かしたアイアン。アリスは歯をギリッ、と鳴らして2人を睨む。
「あたし、何か間違っているかしらぁ?アリスちん」
「くっ…、クッソ!」


ガンッ!

グレンベレンバの銅像を蹴飛ばすアリス。
「や〜ん!アリスちん八つ当たりは良くないわよ〜?」
「カズの処分は!?」
「う〜ん。支部長から降りてもらうのは当然として〜無期限の謹慎処分かしら」
「無期限?!ざけんな!」
「ざけんなはこっちの台詞よ〜ん。日本支部の人員勢揃いでMADに東を壊滅させられたんだもの。EMSの面目丸潰れでしょ?あたし顔には出さないけど、すっご〜〜く怒っているのよ?」
「くっそ!!」
「って事で〜花月ちゃんとお鳥ちゃんの分の空いた穴にアイアン大佐を充てるから、仲良くしてね〜ん♪」
「はあ?!何でだよ!」
「まあまあ。やるからには仲良くやろうやアリス」
煙草を咥えながら手を差し出したにっこり笑顔のアイアン。
「誰がするかよ!!」
背を向けて、本部を走って出て行ってしまうアリスだった。





















自分の頬に手をあてるグレンベレンバ。
「あらあら。遅い反抗期かしらねぇ」
「26になってもガキのままなんや、あいつは」
シュボッ。
新しい煙草に火を点けるアイアン。
「アイアン大佐」
「何や」
「今回の失態でドロテアにコケにされた汚名。返上してきてちょうだいね」
低い声で怖い目をして言うグレンベレンバに、肩を竦めて笑うアイアン。
「おー怖い怖い。分かったわ。まあボチボチやってくるさかい、そう気張んなや」


カツン、コツン…

アリスの後に続いて本部を出て行ったアイアン。


バタン、

「チッ…」
扉が閉まると、花月が中に入っている鉄の檻を腕を組んで見下ろすグレンベレンバ。
「だからこんなガキを支部長にするのは嫌って言ったのよ。日本支部勢揃いだったのに日本の東の領土をMADに奪われてドロテアにコケにされちゃったじゃない。んふふ…でもまあ…。調度暇潰しの玩具が無かったところだし、たっぷりお仕置きしてあげるわよん花月ちゃん」


ポンッ!

数字を数えると、花月が入った鉄の檻は忽然と消えてしまった。


カツン、コツン
カツン、コツン…

グレンベレンバが去って行くヒールの音が、だんだん遠くに聞こえていった。











































日本――――

「ちゅーわけで、花ブタとロリ巨乳の代わりにお前ら豚野郎共の所に配属になったアイアン・ゴルガトスや。よろしゅう頼むで」


しん…

「何や。歓迎の拍手も無しかい。正直者過ぎるでお前さんら」
あれから日本へ戻ってきたアリスとアイアン。
アリスから花月の事情を聞き、アイアンが自己紹介をする…が、ハロルドをはじめとする面々は引きつった苦笑いを浮かべて、パチ…パチ…と、心の籠もっていない拍手をする始末。
「なんやなんや、俺完璧アウェイやないけ」
頭をボリボリ掻くアイアンが煙草に火を点けようとする。


ドスン!

「何や!?危ないやろ!」
案の定、煙草を真っ二つに斬り落としたのは風希の鎌。
「煙草ダメ…。私達の所に来たからには私達のルールに従ってもらう…」
「何や嬢ちゃん。えらい上から目線やなぁ。俺は大佐やで?分かっとんのか?」
ソファーに両手両足を広げた大きな態度で座るアイアン。
「まあ分からへんか。嬢ちゃん花ブタの姉さんやろ?なんなら、支部長不在の日本支部。俺が支部長になってやってもイイで?」


ドスン!!

寄り掛かっているアイアンの顔から数センチの所の壁に鎌を突き刺した風希。
「ふざけた事言わないで…余所者のくせに…」
「おい風希、やめろって!」
アリスが風希の両手を後ろから抑えに来るが、風希はアイアンを睨み付けたまま。
「はっ。何や。花ブタの姉さんにしては、えらく気の強い嬢ちゃんやな。気に入ったで。俺の部下にならへん?」


スッ…、

風希の左頬に、アイアンの手が触れる。


パァン!

「っ…、」
右手でアイアンの左頬を平手打ちした風希。
「おいバカ、風希お前…!」
「汚い手で触らないで…。それに支部長なら…もう決まってる…」
風希は、支部長花月がかぶっていた黒の帽子をかぶる。
「今から、日本支部支部長は私…小鳥遊風希…。余所者はこれ以上口を挟まないで…」
「はっ!」
打たれた左頬を赤くしつつ、右手で煙草の箱を強く握るアイアン。
「俺に楯突くとどうなるか思い知らせてやるで、鎌豚女!」


グシャッ!

握っていた煙草の箱を握り潰した。




















to be continued...









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