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終焉のアリア【完結】
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桜花駅―――――

「雨岬空君!鳳条院鵺君!ミルフィ・ポプキンちゃん!」
緑色の血が飛び散った駅のホーム。階段を降りてきた3人に笑顔で駆け寄るハロルド。
カタン。
鳳条院空が刀を鞘へしまうと、雨岬空が表に戻ってきた。
「良かった、無事で!」
「電話ありがとうございました」


ゴォッ…

その時頭上からヘリコプターの音がして風がホームに吹き込み、頭上を見上げる。
「迎えが来たんだ」
EMS軍のシンボルマークをつけた黒い大きなヘリコプターがやって来て、ゆっくりホームへ降下するから皆が離れる。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。私EMS軍日本支部西日本所属アニー・アスキン少尉と申します。グレンベレンバ将軍からの命により、少佐殿方のお迎えに参り、」
「堅苦しい挨拶してる間にクソMADが来るぞ!オラ!早く乗せろ!」
「ア、アリス君…」
迎えに来てくれた少尉が挨拶中なのもお構い無しに、少尉を押し退けてヘリコプターの中へズカズカ入るアリスにハロルドは苦笑い。ファンは呆れて額に手をあてていた。
「アニーさん。民間人の方3名もよろしくお願いします」
「承知致しました。他の市民は」
「何処にも見当たらない。恐らく…」
「…承知致しました。ではすぐにご搭乗下さい」


ドスン!

「?」
大きな物音がして、乗り込む途中足を止めて皆が見た視線の先には。ホームの床に思い切り鎌を突き刺した風希と、その前には俯いた花月の姿が。
「何かあったのかな」
ハロルドが駆けて行こうとするが…。
「いい。俺が行く」
「アリス君」
もう一度中から出てきたアリスが2人の元へ走って行く姿をryo.達3人は顔を見合わせて、心配そうにしていた。
























「お鳥ちゃんが居ないって言ってるの…何処に居るの…。部屋、花月と一緒だったでしょ…」
「……」
「黙っていないで早くして…時間が限られているの…花月。お鳥ちゃんは何処へ行ったの…」
「……」


ドスン!!

今度は鎌を花月スレスレの所、壁に突き刺した風希。
「早く言って…。まさか花月が居ながら…なんて事…絶対無いでしょ…?ねぇ何処に居るの、早く言って…」
「…ごめん…なさい…」
「…意味分かんない…。死んじゃえばいいのに…」
ぐわっ。
持ち上げた鎌を、花月に向けて振り上げた。


キィン!

「……。退いて…アリスさん…」
「お〜危っねぇ。風希お前って本っ当容赦ねぇのな」
花月に振り落とされるはずの鎌を寸のところで花月の前に立ちはだかり、剣で受けとめたアリス。


ドスン…、

風希は仕方なく鎌を降ろす。
「アリスさん…どうして花月を庇うの…。何も言わないけど恐らく花月は…お鳥ちゃんと一緒に居たのにお鳥ちゃんの事を守れなかっ、」
「よっし。乗り遅れるぞ。いつまで下向いてウジウジしてんだ。行くぞ、カズ」
花月の肩を組み、飄々とした態度でヘリコプターへ連れて歩いて行くアリスの背後から…


キィン!

降ろされた風希の鎌を、アリスはまた剣で受け止める。
「アリスさんは何とも思わないの…」
「ンなわけあっかよ。でもな、察してやれよ。お前の弟だろ」
「そんなの関係無い…。察するとか察しないとか…そういう問題じゃないでしょ…。お鳥ちゃんもアリスさんも花月の事を甘やかすから…女々しい男になるの…。あっ…」
風希の鎌を取り上げると風希の肩も組み、2人を無理矢理ヘリコプターへと連れて行くアリス。
「やめて…放して痛い…」
「風希」
「何…」
「戦には、付きモンなんだよ」
「……」
初めて見た切なそうなアリスのその瞳が自分をジッ、と見ていたから風希はパッとすぐ反らした。













「風希ちゃん…花月…」
「月見」
ファンに肩を叩かれ、切なそうに彼らを見つつ、ヘリコプターに乗り込む月見とファンだった。






































「では全員ご搭乗なさいましたね。それでは今から西日本へ向かいます」
「今壊滅してしまっているのは日本全土ではなくて、東日本なんだよね」
「少佐の仰る通りでございます」
鳥以外の全員がヘリコプターに乗り、ヘリコプターは上昇。真っ暗な闇夜の中、真っ赤な月を背にして西日本へ飛び立つ。


キィィィィン!

「うっ…!?」
「ぐあっ…!何だこの音は…!」
「きゃあ…!耳が千切れる痛い…!」
突然耳に障る嫌な音が辺り一帯に響き渡り、激しい耳鳴りがして、全員が耳を手で押さえる。
「…!エ、エンジンが…!」
「え!?」
何とヘリコプターのエンジンが消えてしまい、ヘリコプターが急降下。つまり落下していくではないか。
「ちょっとごめんね!」
慌てる少尉を押し退け、ハロルドが操縦席に着く。機械を手早く操作。


パッ!

「ホッ。ついた!」
エンジンメーターに灯りがつきエンジンもかかり、ヘリコプターは再び上昇する。あと少しのところで地上へ落下してしまうところだった。同時に、ほんの一瞬の耳に障る音も止む。
「何だったんだ今のは…」
「耳超痛たかったぜ」


ドンッ!ドン!ドン!

「え…?」
下から爆発音がいくつも聞こえて、真っ暗だった闇夜が突然明るくなった。皆がヘリコプターの中から地上を見下ろすと…。
「な、何だよこれ!?」
地上には真っ赤な炎の花がいくつも咲いていたのだ。
「くっ…!」
上がる炎にヘリコプターが巻き込まれないよう、ハロルドがヘリコプターを上昇させる。
「何だよこれ!?」
「街が燃えている…」
「だ、だろも、さっきまでこんげ事になってねかったねっか!」
「見て!街に居たMAD達も燃えてるよ!」
「つー事は、これはMADの仕業じゃねぇって事か?なら一体誰が…」
「見ぃつけた♪」
「え、」


ガシャァン!!

「うあ"あ"!!」
「ハロルド!!」
少女の声が外から聞こえてすぐ、突然ヘリコプターのフロントガラスが割れ、飛び散った破片がハロルドに襲い掛かる。アリスとファンがハロルドに駆け寄った時。
ニヤリ…。
割れたフロントガラスの向こうつまり、闇夜に浮かぶ1人の少女に気付く。
「はぁ〜い♪おバカな地球人の皆さーん♪こんばんは!プラネット東京支部長アリスでぇーす」
「なっ…、フラン…!?」
「はあ?」
MADアリスの姿を見た途端目を見開き、パクパク震える口で名を呼ぶアリス。対してフランという名前ではないMADアリスは「何の事?」状態。
「ど、どうしたアリス」
MADアリスを見上げたまま硬直しているアリスにはファンが声を掛けても、まるで聞こえていない。
「キャハッ☆あたいの運命のダーリン見ぃっけ!」
MADアリスの視線の先には割れたフロントガラスの破片が突き刺さり、腕や頬から血を流しているハロルド。
「き、君はあの時の…!」
「覚えててくれたぁ?ん・じゃ☆今度こそ、アタイと一緒に来てちょーだい。…逆らったらあんたの仲間もあのガキ共みたいにするから」
「っ…!?」
「ハロルド!アリス!伏せろ!」


ゴォッ…!

「きゃあ?!熱ちちち!」
呆然としていたハロルドとアリスの前へ飛び出してヘリコプターの中からMADアリスへ指から出した炎で攻撃したのはファン。もろに炎を食らったMADアリスは、手で炎を消そうと必死に藻掻いている。
「今の内だ!」
ハロルドの前へ無理矢理入って操縦桿を握り、MADアリスから逃げるようにヘリコプターを急上昇させるファンだった。






















「ふぅ…何とか逃げ切れたね。ありがとうファン君!」
「いや、大した事は無い。それより…」
チラッ。
ようやくおさまった騒動。しかし、まだ隣で呆然と立ち尽くして口をパクパクさせているアリスに目を向ける2人。こんなに動揺して顔が青いアリスを見た事がない友人2人。
「アリス…何があった」
「……」
「あのMADを見た瞬間、お前はいつものお前ではなかった。何があった。あのMADを知っているのか」
「知らねぇよ!何も知らねぇ!!」
「しかし、あの動揺は…」
「うるせぇ!何でもねぇっつってんだろ!!」


パシン!

肩に乗っていたファンの手を乱暴に払うと、アリスは座席に腰を下ろす。まるで顔を見られないように下を向いて。
心配そうなハロルドと、相変わらずポーカーフェイスなファンは顔を見合わせていた。



























しん…
一騒動あってからの静寂は酷く息苦しい独特の空気。そんな空気を何とかしようと話題を持ち出したのは、月見。
「そ、それにしても先程のMADは空も飛べるんですね…わたくしびっくりしてしまいました」
「ですよねお姉さま!でももう追ってこないみたいですし、あとは西へ行くのみっ!って感じですね!」
「そうだな。まあそれなりに距離はあるからもうMADが襲ってこない事を願うしかないな」
「じゃあじゃあ!着くまでのあいだ、みんなでトランプしてあそぼーっ!」
「そうだな…って…!?」


ドクン…!

皆は聞き覚えの無い、しかし空だけは忘れられない甲高い声が聞こえて顔を青くし、声がした方をバッ!と向く。
一方の皆はキョトンと不思議そうに向く。
其処には、黒髪に赤の帽子と赤の上着。白の短パンを履き、左頬にダイヤのペイントをした小さな子供が1人いつの間にか鵺の隣に座っていた…。
「何だ、このガキ」
「さあ…?」
「誰かの知り合いか」
「私…知らない…」
「わたくしも存じ上げません。花月、知っていますか?」
「うんうん…」
「それにしても可愛い子供ですな!」
「もしや、この騒動に紛れて入ってきた子供でしょうか?!」
「超可愛い〜!友里香こういう可愛い子供超スキー♪」
「だよねー♪ミルも子供だーい好き♪」


ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン

一斉に騒がしくなったヘリコプター内。しかし、空の鼓動だけは破裂寸前。
――何でどいつもこいつもおかしいと思わないんだよ…!どいつもこいつも、何で子供の容姿のこいつに騙されてんだよ!まさか、こいつの姿知らないのか?何で…!――
「雨岬…」
「鵺…?」
ヒソッ。
謎の子供の隣の鵺が、空にしか聞こえないように耳打ちする。
「こいつ…俺知ってるて」
「…!そうか、お前、あの時見たよな…!」
「うん…」























「ねぇねぇ。早くトランプしようよぅ。ねぇ、そら?」


キーン…!

「んなっ…!?」
何と、たった今まで騒がしかったハロルド達(空と鵺を除く)全員が、まるで石のように硬直してしまったのだ。まるで彼らの時間だけが止まってしまったかのよう。
「ふふふっ!おどろかなくていいよぅ。きょーはね、そらにお話があってきたの。だから、ほかの人にはちょっとの間、石になってもらったんだよ。だいじょーぶだよっ!死んじゃってなんていないからっ」
「っ…!お前…何処から入ってきた…!」
「ねぇ、そらぁ。きょーこそいっしょに来てくれる?そらはお友達だからあそんでくれるよね。これからまいにち、ずーっとずー、」
「黙れシルヴェルトリフェミア!!」
空が怒鳴り叫んだ名前。そう。最初は乗っていなかったはずなのに、いつの間にか乗っていた謎の子供の正体はMADの長…シルヴェルトリフェミアだったのだ。
ハロルド達はシトリーの姿を見た事が無い為子供の正体がシトリーだと分かっていなかった。しかし鵺が気付けたのは、あの日。空の部屋に侵入したシトリーの姿を見ていたから。






















シトリーは大きな目を潤ませ、涙をボロボロ流す。まるで、欲しい玩具を買ってもらえずぐずる幼児。
「うっ…ひっく…そんなぁ…そらぁ、どうしたの…そらこわいっ…シトリーのことっ、シトリー、って呼んでくれなくなったっ…」


キィン…

シトリーには返事はせず、空は鵺の刀魍魎を抜刀。ヘリコプターの外にまで刀の赤い光が放たれる。
「よう、雨岬。ついにボスとの決戦ってとこか」
《…お願いだ鳳条院空。こいつを…跡形も無く殺してくれ》
「あーいよ」
《さっきみたいにふざけて挑むな…。こいつが、地球を侵略した化け物共の長だ》


ヒュッ、

ヒクヒク泣くシトリーに刀を向ける鳳条院空。
「あいよ。分ーってる。そのくらい、こいつから漂う殺気で気付いてるっつーの。俺を誰だと思ってんだよ」
「ひっく、うっ…そら…?そ、」
「首、ぶっ飛ばしてやるぜ!」
「ふぇ…?」


スパァン!

目にも止まらぬ速さで鳳条院空はシトリーの脳天から真っ二つに斬った。
「やったて!」
それを喜ぶ鵺の声が聞こえたから、鳳条院空はふっ、と優しく笑む。後ろに居る鵺の方を向いた。
「鵺…。俺はお前を…、っ…?!」
「?なしたて雨さ、」


ユラリ…

今真っ二つに斬ったはずのシトリーが、何と鵺の後ろに現れたのだ。鵺も気配を感じたのか、後ろを振り向いた。
「そらがいじわるするからいじわる返し…。そらがいま斬ったシトリーはニセモノだよ。こっちがホンモノのシトリー」
「鵺!!」
顔を真っ青にした鳳条院空が鵺の元へ駆け出す。
「きみがそらのお友達になってから、そらがおかしくなった。シトリーのことを殺しにくるようになった…。きみ、そらに何を吹き込んだのぅ?きみはいらない。シトリーね、きみのことだいっきらい」


ガシッ!

「っ…!?」
シトリーは悪魔のようにニヤリと笑い、鵺の顔を右手で鷲掴み。
「鵺ぇええ!!」
「ふふふっ、ばいばい、ぬえ」


ドン!ドン!ドン!!

























ストン、
赤い光を放ったヘリコプターの中から燃え盛る地上へ…つまり、ヘリコプターの外へ投げ出された1人の子供をキャッチしたのは…
「うぅ…、ドロテア…?」
そう。ヘリコプターの外へ投げ出されたシトリーをキャッチしたのは、先程の戦闘でボロボロのドロテア。その周りには、焦げてご機嫌斜めなMADアリスと、タイヤに轢かれた跡がくっきり残ったマジョルカが上空に浮かんでいた。
「申し訳ありません。シルヴェルトリフェミア様を前線へ出させるなど…」
「うぅっ…そらが…そらが行っちゃったよぅ…」
まるで流れ星の如くキラリ光ったヘリコプターがこの街を去っていくのが見える。
「今回は仕方ありません。しかし日本の東は我々のモノとなりました。今日はもう屋敷へ帰りましょう」
「うぅっ…ひっく。でもそらが、そらがぁ…」
「帰りましたら、シルヴェルトリフェミア様の大好きな温かいミルクをご用意致しますよ」
「うんっ…。ひっく、ひっく。ねぇドロテア…」
「如何なさいましたシルヴェルトリフェミア様」
「そらといつもいっしょにいるぬえっていう子、シトリーからそらをとったからシトリーだいきらい…。だからつぎ会ったとき…殺して」
「承知致しました」


シュッ!

4人は一瞬にして姿を消してしまった。




















バチバチ、
「ギャアアア!」
「アツイ、アツイ!クルシイ、クルシイ!!」
炎に包まれた街から聞こえてくるのは、MAD化させられた元地球人達の断末魔…。
































ヘリコプター内―――

「あれ?えっと、僕今何していたんだっけ…?」
「あれれ?ミル、何か記憶がとんでいるような…って雨岬君?!怪我してる!」
シトリーの術から解放された面々の様子からしてシトリーの事も覚えていないから、石化されていた時とシトリーの記憶は消されているようだ。
一方。鳳条院空のお陰でシトリーを取り敢えず追っ払えた空の左頬からはツゥッ…と赤い血が伝う。だからミルフィが駆け寄るが、パッと軽く手で払う空。魍魎はしまったから、今前に出ている意識は雨岬空だ。
「ああ。大丈夫。いつの間にか切れてたみたいだな」
「ダメだよっ!ばい菌が入っちゃう!手当てしないと!」
「はは、サンキュ」
ミルフィに礼を言いつつ隣に座る鵺をチラッと見てアイコンタクト。2人言葉は交わさずとも取り敢えず回避できた危機にニコッ、と微笑むのだった。
「あ!見えてきたよ。あそこが西日本だ!」
操縦しているハロルドが指差した先には、灯りがついた美しく平和な夜景の街が広がっていた。































EMS領日本支部、
西日本駐屯地―――――

「ぷはー」
寒空の下、真っ赤な月の前を通過していった1機のヘリコプターを見上げ吹かしていた煙草を足で潰して火を消す1人の茶髪の中年男性。
「やっと来はったか豚野郎共。全員豚小屋送りにしてやるで。カカカッ!」






















「少佐殿、中尉殿、少尉殿、支部長殿、長旅お疲れ様です!」
ビシッ。
敬礼をして迎えてくれた日本支部西日本駐屯地の軍人達。にっこり礼をするハロルドを先頭に、駐屯地へ入っていく面々。






















「これで傷の心配はご無用です」
「わあ。本当だ!すごいや。ありがとう!」
全員手当てをしてもらいこれからの事についてハロルドが話し出す。
「それじゃあ今回のMAD日本襲撃についてなんだけれど、」
「よおー久しぶりやなぁ。豚野郎共!」
「!」
廊下から姿を現した黒のコートに下はEMS軍の白軍服を着た1人の中年男性。茶色の短髪で、顎に無精髭を生やしている。鋭い目付きをしており、煙草を吹かしている。
「ア、アイアン大佐!」
「よお」
すぐ立ち上がったハロルドが名を呼ぶ。この中年男性はEMS軍大佐『アイアン・ゴルガトス』42歳。
ハロルドの他に立ち上がったアリス、ファン、月見、風希、花月、鵺のEMS軍軍人達はアイアンに一礼。そんな中、ポケーッと座ったままの空、ミルフィ、ryo.、タクロー、友里香をチラッと見るアイアン。
「はっ。甘ちゃんなハロルドらしいやんか。こんな使えねぇアホ面民間人まで連れて来はるなんて。相変わらずあんさん、何考えとんのか分からへんなぁ」
「っ…す、すみません…」
あの優しいハロルドが言い返さずぐっ、と歯を食い縛り、下を向いて謝罪する事しかできない姿を見た空。
――このオッサン。態度がでかい上、階級も上だから誰も逆らえない怖ぇ存在…ってところか。所詮、猿山の大将だろ――
ピタッ。
アイアンと目が合ってしまった。しかしパッ、とすぐ反らした空。
「あんさん確か、ミリアムの所の…」
「ア、アイアン大佐!本部配属になった貴方がどうして今、日本に?」
アリアの話を出そうとしたアイアン。空の気持ちを察したハロルドが、わざとアイアンの話を逸らさせる。
「ああ、俺か?俺はやなぁ。そうやったそうやった。将軍から連れて来い言われたんや」
「だ、誰を…」
「うおーい、花ブタ」
「…!!」


ビクッ!

意地の悪い笑みをニヤニヤ浮かべながら、花月を見て彼を呼んだアイアン。下を向いていた花月はビクッ!として余計下を向いてしまったし、それにアイアンのおかしな呼び方に、この場に居た全員がアイアンに違和感を抱いたのは言うまでもない。
「ちんたらしとらんで、さっさと来いや!」
「す、すみません…」
「あんさんの事、将軍はん直々にお呼びやで。あんさん連れて来るその為に俺がわざわざ日本に来てやったんやからな。ほな、行くで」
「っ…、」
「俺も行く」
「あ?」
「先輩…!」
「何やアリス。あんさんはお呼びでないやろ」
やって来たのは、目がつり上がっていて怖い顔をしたアリス。
「どうせ今回の事で将軍はカズに仕置きするつもりで呼んだんだろ。なら居合わせた俺も同罪だ」
「ア、アリス君!それなら僕とファン君も一緒に、」
「おめぇらは引っ込んでろ。カズは俺の一番弟子だからついて行くだけだ」
「アリス君…」
「はっ。こんなブタが一番弟子ねぇ。よう言うわ」
「……」
「ほな、行きまっか」
「…ああ」
3人は駐屯地を出て行った。























「アリス君、大佐にすごい目をしてたね…大丈夫かな」
3人が居なくなってから不安そうに呟くハロルド。
「ああ。しかし、アリスがああなるのも分かる。私も大佐の事はあまり良くは思っていないからな」
「うん、実は僕も…」
「ファ、ファンさん」
「どうした月見」
「アイアン大佐は花月の事を酷い呼び方していましたけれど…か、花月は大佐からいじめを受けていたりするのでしょうか…」
「心配無い。あの人は誰にでもああなんだ」
「そ、そうですか…。でも弟はとても繊細な子なので心配です…」
「だ、大丈夫だよ小鳥遊月見ちゃん!本場のヤクザでも逃げ出すアリス君がついてくれているでしょ!」
「うぅ…お優しいのですね。ありがとうございますハロルドさん」
「あ…ご、ごめんファン君!」
「何がだ」
「え。僕、小鳥遊月見ちゃんに優しくしちゃった…」
「…!!な、何を意味の分からない事を言っているんだハロルドお前は!!」
「ご、ごめん〜!」
「??」




















「はあ…。俺も軍に入ったばっかりの頃1回挨拶したんだろも…アイアン大佐は苦手らて」
「へぇ。そうなんだ?」
「ミルフィおめさんは大佐から漂うあのおっかねぇオーラを感じねかったんけ?!」
「うん♪普通の人だった♪」
「はあ…。おめさんは怖いもの無しって顔してるすけなぁ…」
「ありがと、鵺ちん☆」
「褒めてねぇし、その呼び方やめろ言うてるがんに…はぁ…」
「鵺」
「ん?どした雨岬」
空の方を向く鵺。すると…


ガシッ!!

「ぎゃああああ!?ななな何らてこの手は?!放せドアホ!!」
突然鵺の手を両手で強く握ってきた空。鵺は顔を真っ赤にして耳まで真っ赤にして空の手をブンブン振るが、離れない。
「気持ち悪りぃすけ放せてば!!」
「鵺。話をするのは久しぶりだな」
「は、はあ?!意味分がんねぇて!久しぶり?!おめさん、MADに殴られて頭おっかしくなったんねっか?!」
「声も目も口も鼻も…全部そのままなんだよな…。性別こそ違うが、やっぱりお前は生まれ変わって来てくれたんだな」
「何、意味分がんね事さっきからブツブツ言ってんらて!いい加減放せてば!俺、鳥肌立ちっぱなしなんらて!」
「鵺」
「何らてば!!」
「やっぱりお前はこの国…いや、世界一綺麗だ」
「!!?」


カチーン!

一同全員、顔を真っ赤にして硬直。
しかし、空だけは周りにキラキラオーラをまとい目はまるで、少女漫画の美形少年の如くキラキラ光っている。





















「な、な、なっ…?!おめさんなんてMADにぶっ殺されちまえ!このうっすらぽんつく!!」
「ぐへっ!!」


ドガン!!

顔を真っ赤にした鵺の拳を顔面に思い切り食らい反対側の壁まで吹き飛ばされ、尚且つその壁にめり込んでしまった空…ではなく、鳳条院空。しかし鼻血ダラダラで顔面に拳の跡がくっきり付いていながらも笑顔という気持ちの悪さ。
「フッ…。ツンデレで怪力なところも前世と変わらないぜ…!」
《おい、てめぇぇえ!!俺の体で何て事してくれてんだよ!!》
「ん?雨岬か」
《雨岬か、じゃねぇぇえ!!お前マジでふざけんなよ!!》
「妻の生まれ変わりと接して何が悪い?」
《悪さ1000%だ!!良いか?!あいつは前世かそんなの知らねー"鳳条院鵺"だ!お前の妻の生まれ変わりだかなんだか知らないけど、とにかくあいつは今は"鳳条院鵺"で、俺は"雨岬空"!!勝手な事するんなよ!!》
「雨岬空君と鳳条院鵺君は仲が良いと思っていたけれど、まさかここまで仲が良かったなんて僕知らなかったなぁ〜」
「…最近の若者は分からん」
「ど、ど、堂々とできるなんてすごいですわ…!はうぅ〜」
「気持ち悪い…。2人まとめて死んじゃえば良いのに…」
「雨岬く〜ん!鵺ちんの方が良いの?ミルは?ねぇミルはぁ?!」
《ほらぁあ!お前のせいであいつらに完璧誤解されてんだろ!!あ"〜くそ!お前に実体があったら俺は今、ぶっ殺してるところだ!!》
「まあまあ、いいじゃねぇか。桜ノ宮鵺の魂は食われて、もう何処にも無ぇんだ。姿が同じ生まれ変わりと戯れる事くれぇ許してくれよ」




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あきゅろす。
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