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終焉のアリア【完結】
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「ヤット見ツケタヨ、小鳥遊花月…」


ドンッ!!

天井にへばりついていたマジョルカが2人の真上から落下。狭いエレベーター内に立ち込める灰色の煙。


パラ、パラ…

エレベーターの壁が崩れる。
「ん?」
マジョルカがゆっくり体を起こし足を上げるが、下に2人の姿は無い。首をゆっくり扉へ向ける。
「チッ。逃げたかい」
扉に人が2人通れる分の刃物で斬った跡が入っているのを見て、舌打ち。
「けど逃がしやしないよ。今回は前回と違ってこの千葉の街の地球人全員が、あたしらの仲間なんだからね!!」


























「はぁ、はぁ…」
「何なのあいつ!花月の名前知ってた!」
「大きさは前の時より小さくなっていたけど、あいつはこの前イベント会場に現れたでかいMADだよ!」
「あのバラバラになった赤い髪の!?体が元に戻って、」


ドゴォン!!

「!!」
「逃ガシハシナイヨ、小鳥遊花月!」
12階の廊下を2人で走っていたら後方から聞こえた爆発音。壁を右手拳で殴ったマジョルカが立っていた。
壁は壊れ、其処から外が見える。すると、2人を全速力で追い掛けてきた。速過ぎる。
「何あいつ!小さくなったら身軽になってる!」
「くっ…!」
――エレベーターは電気が止まっていて使えない。階段はあるけど、MADのこの速さなら確実に追い付かれる…!――
「お鳥ちゃん!蝶の髪飾りは?!」
「え?これの事?…あ!そっか」
バスローブのポケットの中から取り出した物は、いつも鳥が髪をとめている黒とピンクの蝶の髪飾り。


ガシャン!

花月は立ち止まると、魑魅で窓ガラスを割る。
そして鳥は髪飾りの蝶をその窓の割れたところへ差し出せば、何と髪飾りの蝶が本物の蝶になりパタパタ羽をはばたかせ動き出したのだ。ぐん、とあっという間に巨大な蝶へと姿を変える。
割れた窓ガラスから出た外でパタパタ浮かんでいる蝶に飛び乗る花月は、鳥に手を伸ばす。
「お鳥ちゃん!」
「うん!」


パシッ!

掴んだ腕を引っ張り鳥も蝶の背中へ乗れば、2人を乗せた蝶は真っ暗な夜空を羽ばたいていく。
「待チナ!小鳥遊花月!」
ホテルの中から2人を見上げてキーッ!と癇癪を起こし地団駄踏むマジョルカが見えたから、鳥はあっかんべーをする。2人互いに顔を見合わせ笑う。
「ふふっ。バーカ」
「ははっ」
「でもよく思い出したね花月。この子が飛べる事」
「うん。でも確か15階より下の階じゃないと落下する可能性がある、ってお鳥ちゃんがずっと前言ってた気がしたから」
「うん。そう」
2人下を見下ろせば、こんな真夜中にも関わらずビルや店には明かりが灯っている。
「街はどうなっているんだろう」
「降りてみよう」
蝶は2人を乗せたまま急降下し、街へと降りていった。
























「なっ…!?」
「嘘…」
降りた街の様子は壊滅的。それはビルや建物が破壊されているからとかそういう意味の『壊滅』では、決してない。
街を歩くスーツのサラリーマン、派手なワンピースを着たキャバ嬢。とにかく街を行き交う人々全員がMADになってしまっているのだ。ホテルに現れたMAD同様皆、腰を曲げ、両腕をブラブラさせたチンパンジーのように歩いている。
「花月っ…」


ぎゅっ…、

花月のコートを両手で握る鳥。一方の花月も顔が真っ青。携帯電話を取り出す。
「とにかく先輩達や姉さん達にもう一度電話を、」


パァン!

「!?」
「きゃあ!?」
何処からともなく放たれた水鉄砲。しかしそれはただの水鉄砲ではなく、威力はまるで拳銃。撃たれた蝶が真っ二つにぱっくり割れてしまい、乗っていた2人はそのまま街へ落下。


ドスン!

「っ〜、お鳥ちゃん大丈夫だった?」
「花月が下になってくれたから平気。でも花月、今ので背中の傷口が開いてる…!」
「俺は平気だよ」
「チキュウジン…チキュウ…ジン…」
「くっ…!」
2人を見つけると、MAD達がのっそりのっそり集まってくる。
「今発砲してきた奴の事は後回しだ!お鳥ちゃん、走るよ!」
「う、うん!」


ぎゅっ、

鳥の右手を強く握る。すると花月は、空いている右手に持った魑魅を振り上げ、目を金色に光らせ…


スパン!スパン!

「ギャアアア!!」
「グアアアア!」
鳥の手を引き、MAD達の間を走り抜けながら、寄ってくるMAD達を魑魅で斬り裂いていった。
「グアア…ヒドイ、ヒドイ…ワタシタチハ…MADジャナイノニ…」
「ドウシテ、キヅイテクレナイノ…ウウ…クルシイ…クルシイ…ドウシテ、オレダケ…」
「くっ…!」
斬り裂いて走って行く度に聞こえてくる。元は地球人今はMAD達の断末魔。心が酷く痛むが歯をぐっ、と食い縛り、花月は鳥の手を引き、桜花駅へと駆けて行った。
































桜花駅構内――――


ズッ…ズッ…

「ア"ア"…ア"ア"…」
「ア"ア"…ア"…」
駅の改札、ホーム、駅の中にあるゲームセンター…。店々は光々とした明かりがついているのに、人っこ1人居ない。代わりに、服を着たMAD達がのっそりのっそり歩いている何とも不気味な光景。























改札口隣、
薬局店の奥――――

棚の陰に隠れて座っている花月と鳥。
鳥はMADに気付かれないよう、薬局の棚にある売り物の包帯を花月の背中の傷に巻き付けていた。鳥が包帯を巻き終えるとコートを上から着る花月。礼を言うと、皆に電話をかける。
「駄目だ。皆、圏外だ」
「お父さんとお母さんは」
「まだかけてないけど…」
「もしかしたらMADの手が及んでいるのはまだ此処ら辺だけかも」
「そっか。家の方はまだ無事かもしれない。無事だったら父さん達に軍を出してもらおう」
しかし…
「駄目だ、圏外だ」
「そんな…」


ズッ…ズッ…、

「ア"ア"…」
「クルシイ…クルシイ…」
すぐ其処棚の反対側から、足音と、ヘリウムガスを吸ったような不気味で低い声が聞こえる。
「電車も動いていないし…。それより姉さん達は何処に…」
「花月…」
「え?」
「もし、日本に居る人間でMADにされていないのがもうあたしと花月だけだったら…」
珍しく顔を青くして微かに震えている鳥。
「怖い?」
花月の問いかけに首を何度も横に振る。下を向いていて体育座りしている鳥。
「我慢しなくて良いんだよ」


ぎゅっ、

握っている鳥の右手を両手で握る花月。
「俺じゃ頼りないだろうけど、俺は殺されても死なない。お鳥ちゃんを守る」
「花月…ぎゅっ、てして」
少し戸惑うも、花月は恋愛感情とは違った意味で優しく鳥を抱き締める。花月の背中に爪を立てる鳥の目には、薄ら涙が。
「今までMADなんて日本には全然侵攻してこなくて、たまにしてきてもすぐ倒せたから安心しきってた。この前本部が襲撃されたのだって、こんな言い方最低だけど、本心は他人事だった。日本だけは絶対大丈夫だって、確信も無いのにずっと思ってた。でもお父さんとお母さんと月見ちゃんと風希ちゃんとみんなと電話が繋がらなくなって、みんなが居た部屋が血塗れになっているのを見て初めて怖くなった。初めて、本当に死んじゃうんじゃないか?って思った。あたしは弱虫が嫌いだから絶対弱音を吐かないって決めてたのに。あたしが一番弱虫だ。泣いてごめんね」
「……」
「みんないなくなっちゃう。怖い…すごく怖いよ花月…」
「まだ皆がMADにされたとは限らないよ」
「うん。でも怖い。花月…」
「何?」
「来月のクリスマス、2人でお出かけしたいの」
「うん。しよう」
「絶対だよ」
「約束する」
2人静かに離れると花月は真剣な顔をして静かに立ち上がるから、鳥は不思議そうに座ったまま彼を見上げる。
一方。立ち上がった花月にやっと気付いたMAD達はゆっくり顔を向けると、


ズッ…ズッ…、

足音をたてて近寄ってくる。
静かに目を瞑った花月は魑魅を抜刀。刀を顔の前で静かに立てる。
「花月…?」
「約束を守る。だから…」
「花月?」


ゴオッ…!

魑魅から放たれる金色の光とはまた別に強い風が吹き始めるから、棚の中の商品がパタパタ落ちていく。
「か、花月…?」
「魑魅魍魎之使者余、舞降史我之下」
「え?え?」
ボソボソと呪文のような言葉を唱え出した花月に鳥は呆然。こんな彼、こんな技、見た事が無いから。




















呪文を唱えていけば、次第に花月の周りの金色の光が桜の花の形になる。
「花月どうしたの。花…ハッ!」
バスローブの袖口から覗く花月の左腕に、刀から流れてくる赤い奇妙な模様がじわじわと彼の体に侵食している事に気付いた鳥。
「か、花月!何してるの!腕大変な事になってる!花月!!」
「桜花昇天!!」


ドンッ!

「え…?」
刀をMAD達へ向けただけ。1ミリも触れていないのに。刀から放たれた金色の桜の花の光と強風で、一瞬にして薬局内の商品や棚、そしてMAD達は消えてしまった。
辺りには原型を留めない黒い灰の塊があるだけ。まるで、此処にだけ爆弾が落ちた跡のような目の前の光景に鳥は呆然。
「…ハッ!花月?!」
我に返り彼の方を向いた途端、全身から血の気が引いた。彼の顔から下の首と腕と脚には赤色の奇妙な模様が侵食していて、その模様はまるで血管のように浮き上がり、ピクピク痙攣しているのだ。当の花月も目の下に幾重もの隈をつくり、目は開ききっていてガタガタ震えている。だが歯を食い縛り、堪えている。
「か…花月…何…それ…」
「はは…キモいよね、ごめ、」
「そんな事思ってない!そういう意味じゃない!どうしたのそれ!そんなの見た事無い!今の技だって見た事無いよ!花月何したの?どうしてこうなっているか、花月は知ってるんでしょ。あたしに教えて。花月!」
「魑魅…」
「え?」
「お鳥ちゃんは魑魅の意味。知ってる?」
「し、知らない…」
「魑魅っていうのは、顔は人間で体は妖怪の姿をした山の怪の事だよ」
「顔は人間で、体は妖怪…?…ハッ!」
何かに気付いた鳥。もう一度花月の姿をよく見る。化け物のような模様は花月の首から下にしか浮き上がっていない。
「花月、まさか…」
「こんな姿じゃお鳥ちゃんに絶交されるね」
「するわけないじゃん!あたしは…あたしは、花月がどんな姿になってもMADになってもずっと好…あっ。ず、ずっと…ず、ずっと一緒に居るよ!」
青い顔をしたままだが、花月は微笑む。
「ありがとう、お鳥ちゃん」





















トゥルルル、

「あ!電話!?」
花月の携帯電話の着信音が鳴り、目を輝かせる鳥。
「はい、もしもし」
「かづちゃん?!」
「か、母さん!?」
「お母さん!!」
花月から携帯電話を横取りする鳥。
「お鳥ちゃんも居るの?良かったわ…!月見ちゃんや風希ちゃんや皆さんとは電話が繋がったのに、かづちゃんとお鳥ちゃんとだけ繋がらなくてずっと心配していたのよ」
「そうなの?じゃあ月見ちゃん達は今、お母さんと一緒に居るの」
「ええ。今皆、日本支部に避難しているわ。此処にはMADの手から逃れられた民間人の方々も避難しているの」
「そうなんだ…。でもお母さん達の方もMADの手が及んでいるの」
「ええ、そうよ。家から外へ出たら皆MADばかりで…隣の家からもMADが出てきたの。だから、外に居る服を着たMAD達は元は地球人だったんじゃないか、ってお父さんが言っていたわ」
「あたしもそう思ってた。やっぱりそうだったんだ」
「お鳥ちゃん達は今、何処に居るの?」
「桜花駅。駅員さん達もみんなMADにされているせいで電車は動いてない。あとねお母さん。救護班を呼んでほしい」
「え?」
「花月が怪我して、わっ?!」
「母さん。心配かけてしまい申し訳ありません」
「かづちゃん?」
「お鳥ちゃ…あ。お鳥姉さんを連れて一旦、支部へ戻ります。お鳥姉さんを安全な場所に移してから出撃しますので」
「分かったわ。最上軍曹達も援軍として桜花駅へ向かわせます。かづちゃん。お鳥ちゃんの事しっかり守るのよ」
「分かっています」
「ふふ。頼もしいわ。さすがかづちゃん。待っていますよかづ、きゃああああ!」
「母さん!?」


ブツッ!!

「どうしたの花月!」
「分からない。母さんの悲鳴が突然聞こえて、その時電話の向こうで爆発音が聞こえて…一方的に切れた」
「そんな…!MADだよきっと」
「うん。早く帰ろう」
「でも花月、その体…」
「平気だよ。ほら、もうおさまってきたし」
言われた通り、確かにあの奇妙な模様は引いていき、もう浮き上がっていないし腕の模様もスウッっ…と引いていく。けれど鳥は眉間に皺を寄せ、神妙な面持ち。そんな鳥の右手を握り、花月は駆け出す。


トゥルルル

「また電話?」
「でも繋がるようになったって事」
「そうだね。はい。もしもし」
「花月?!」
「っ…!」


ドクン…!

着信相手の名も見ず電話に出たが、声だけで分かった。とても困惑した声。発信者は、友里香だ。
花月の電話の相手が誰か分からない鳥は首を傾げているが。
























「は、はい…」
「花月でしょ?良かった!ねぇ、街がヤバい事になってんの!友達と遊んでたらみんなバタバタ倒れ出してMADになっちゃったの!友里香の事も覚えてなくて襲ってきたから家に帰ったら、パパもママもお兄ちゃんも妹もみんなMADになってたの!!ねぇどうして?どうしてなの!?」
「そ、その…」
「何処もかしこもMADだらけなの!友里香1人で逃げて逃げて今あの公園に居るの!花月、助けて!」
「っ…!」
チラッ。
鳥の事を見てすぐ、ばつが悪そうに目を逸らす花月。
「どうして黙るの?!花月!!」

『何これ、超キモいんですけど!は?何この痣!火傷の痕!分かった、あんた本性オタクでおとなしい性格だから昔いじめられっこでしたーとか、そういう系っしょ?』

脳裏で蘇るトラウマになりそうな友里香の言葉に頬に冷や汗が一筋伝う花月。
「…へぇ。この前友里香にあんなフラれ方したから黙っちゃうんだ…民間人を守るEMS軍の支部長なのに…」
「…!!」
「そうだよね。いいよ、見捨てれば良いよ。友里香がMADになったら花月のせいだから。お飾り支部長小鳥遊花月のせいだから…」


ぎゅっ…、

拳を強く握り締める。
「っ…、行かないなんて言ってないじゃんか!」
「ふふっ。ありがと。待ってるから」


ブツッ!


ツー、ツー…

「花月。誰」
――ビッチの言う通りじゃんか…何、私情を持ち出してんだ俺…!俺はただの小鳥遊花月じゃない。EMS軍日本支部支部長小鳥遊花月だろ。何ですぐに返事ができなかったんだ。これじゃああの日、俺をいじめていた5人が目の前でMADに食われるのを黙って見ていた時と何も変わらないじゃんか!罪は償いきれないけどこれから頑張る、って言ったのに。口先だけなのか俺は…!――
「花月。大丈夫だよ」
「…!お、お鳥ちゃん…」
知らぬ間に全身震えていた自分の左手を両手で握り締めてくれた鳥の声で我に返る。





















「電話、誰」
「…友達。家に帰ったら家族全員MADになってたらしい…。だから支部へ戻る途中拾っていくけど…良い?」
「良いに決まってるよ。友達って?ryo.?タクロー?」
「いや…学校の友達」
「?花月、学校に友達居たんだ」
「……」
「花月?」
「早く行こう」
自分の一歩前を歩いていく花月の背中を、首を傾げて見つめる鳥。


スパン!スパン!

駅構内のMAD達を花月が斬りつけ、鳥は手から繰り出す蝶で攻撃しながら2人で走っていく。駅の出口が見えた。
「う"っ…!」
「お鳥ちゃん?」
突然顔を真っ青にして目をギュッ、と瞑って座り込んでしまった鳥。
「ドウシテ…アナタタチダケ…ニンゲンノスガタデ、イラレルノ…」
その背後からMAD達が鳥を襲ってくるが…


ドッ…!

「ギャアアア!」
魑魅が彼らを腹から横に真っ二つに斬る。
「お鳥ちゃんどうしたの?」
「ううっ…分かんない…気持ち悪い…心臓がドクンドクンいう…」
「俺がおぶって行くよ!お鳥ちゃんはもう戦わなくて良いから…!」
「いい…花月だって怪我してるのに…」
「これくらい全然平気だよ!ほら!」
鳥の意見も無視し、半ば無理矢理背中へおぶる。
「う"っ…」
やはり傷が酷く痛み、傷口に心臓があるかのようにドクンドクン脈をうって痛むが、唇を噛み締める花月。
「ギャアアア!」
「グアアア!!」
左手で鳥を支えて右手でMADを斬りつけて、人っこ1人いない街を走っていく花月。


ギョロッ。

苦しむ鳥の首筋でまた、真っ赤な一つの目玉が辺りを見回していた事など2人は知らず…。









































住宅街――――

「はぁ、はぁ…」
「チキュウジンノスガタ…ウラヤマシイ…ウラヤマシイイイイ!!」


スパン!

「ギャアアア!!」


バタン…、

電車が使えない為、駅から歩いてきた花月。
深夜の住宅街。1軒の民家から出てきた女性ものパジャマを着たMADが斬られてしまえば、ようやくMADとの交戦から一段落。
見渡せば、深夜にも関わらずあちこちの家には明かりが灯っているのに、玄関の扉は全て開きっぱなしで表札や玄関の塀に飛び散っている真っ赤な血。真新しい血。
「此処の人達もみんなMADにされたの?」
「多分…」
「花月…」
「大丈夫だよ。もうすぐで支部に着く。そこからが俺達EMS…いや、地球人反撃の刻だ」
会話をしていたら、知らず知らずの間に前を通りがかっていた。あの公園の前を。
「花月!」
「!」
公園の木陰に隠れていた制服姿の友里香。友里香は聴いていたイヤホンを外して、抱きついてきた。


ドクン…!

鳥は目を見開く。
花月は慌てて友里香を引き剥がす。
「お鳥ちゃんごめん…。でももうそういう意味じゃないよ。佐藤さんとはもう何でもない。これは支部長として民間人の保護を…」
「……」
「お鳥ちゃん…!」
「良かった!花月来てくれた!友里香ね、信じてた!花月は優しいから友里香の事見捨てないって!」
「っ…。これから日本支部へ避難させるから…」
「ああ!本当良かった!友里香は花月に酷い事をいっぱい言ったのに花月は来てくれた!友里香やっぱり花月の事好き!ねぇ、花…ひぃ…!」
「…?」
「な…何っ…ねぇ…花月が背中におんぶしてる人それ…何…?」
「え?何って、俺の姉さんだけど…」
「嘘…違うじゃん…だってそいつ…同じ目してる…」
「え?」
「そいつ、MADと同じ赤い目してる!!」
「え?…!!」
振り向くと何と其処には空虚な赤い瞳で、額に真っ赤な一つの目玉が付いた赤い光を漂わせる鳥がいた。
「なっ…!?お鳥ちゃ、」


ブスッ、

「きゃああああ!!」


ドサッ…、

赤い目の鳥はおぶられたまま花月の背を長く真っ赤な爪で刺したのだ。倒れこむ花月。上がる友里香の悲鳴。


ストン…、

花月から降りた鳥。
一方の花月は地面に顔を伏せて、血を吐く。
「かはっ…!」
「か…花月!大丈夫?花月!!」
「だから言ったじゃん。そいつの優しさはあんたを苦しめるだけだ、って。本能のままにしちゃいな。殺しちゃいな。きっと楽しいよ」
鳥の声と別の少女の声とが重なって聞こえる。
花月は痛みに体をプルプル震わせながらもゆっくり起き上がりながら、鳥を見る。


ゴオッ…!

すると、鳥の周りを纏う赤い光が大きさを増して同時に鳥の長い髪が上へなびくと、鳥の首筋の目玉と額の目玉両方から人の腕が片腕ずつ現れ、次に胴体、次に脚が現れる。それらは一つになり、真っ赤なツインテールの少女の形になる。
「あ、あれは…!」
大会議で花月が発表中、鳥の頭上に浮かんでいた少女と同じ少女だという事に気付く花月。
ツインテールをなびかせ顔を上げた少女はチャームポイントの八重歯を覗かせ真っ赤な瞳を光らせて、2人に手を振りながら笑う。
「はぁ〜い。こんばんわ。地球人のクズヤロー共♪東京支部長アリスでーす」
「東京支部…お前、MADか!!」
「MADって言い方酷くない?アタイらにはプラネットっていうちゃんとした名前が、」


ドンッ!!

振り上げた魑魅を少女アリスへ振り下ろすが、何とアリスは自分の左腕だけで魑魅を掴んであっさり受け止めてしまった。その力が尋常ではない。刀を放してくれないのだ。























「あらま〜威勢の良い男の子だこと♪」
「くっ…!お鳥ちゃんに何をした!!」
「何をした?キャハハッ!あんた本っ当バカな男!おっかしい〜!何をした?そんなのぜーんぶあんたのせいじゃん?」
「なっ…!?」
「あんたがそのケバい女の所に行ってお鳥ちゃんに酷いフリ方をしたせいでお鳥ちゃんぶっ壊れちゃったんだよー?アタイは、その情緒不安定な心の隙間から入っただけ。心の隙間が無けりゃアタイらも地球人の体になんて普通入れないの。だ・か・ら〜この子をこんな風にしたのも日本の連中がMADにされたのも、ぜーんぶあんたのせい!キャハハ!」
「っ…!?」
アリスは鳥の頬に両手を添える。
「お鳥ちゃんちょー可哀想〜。ねぇ、気付いてた?EMS軍大会議でこの子度々誰もいないのに誰かと喋っていたり、1人でフラーッとどっか行っちゃったでしょ?あの時、この子の中に入っていたアタイの力でホテル内の奴らほとんどに種を植え付けたの。それが芽を出し花を咲かせれば、種を植え付けられた地球人はあんた達的に言えば、あら不思議!地球人がMADになっちゃった〜?!ってワ・ケ!街の奴らがMADになったのは、あんたがお鳥ちゃんをフった後、アタイがこの子の中に入って街の奴らに種をバラ撒いたからなの。どう?意味お分かり?」
「っな…、お前はずっとお鳥ちゃんの中に…!」
「そーそー!この子の意識はあるっちゃあるけどこの子の体はもうアタイのもの!この子はアタイのお人形さん♪いつでも操れちゃうの。返してほしければかかってきなよ、クズ地球人」
「っ…、くそっ!!」
刀を振り上げるが…
「!!」
鳥を盾にされてしまい、花月は手が止まってしまう。
「キャハハ〜いいねいいねーそのブッサイクなか・お♪お鳥ちゃんを盾にされちゃあ何もできないよね?!キャハハ〜面白くなってきたねぇ〜?!」


タンッ!

踏み込み飛び上がり、花月は鳥の後ろに居るアリス目がけ魑魅を振り上げる。なのにアリスは逃げもせず、にんまり笑んで余裕の表情。


ザッ…!

「なっ…!?」
「小鳥遊流奥義…乱舞!」
「!!」


ドンッ!!

「キャハハ〜!いいねいいねー!地球人同士が殺し合う光景!最っ高!」
アリスに操られ、アリスを庇う為前に飛びだしてきた鳥。刀を持つ手が止まってしまった花月は、鳥が繰り出した蝶の大群に攻撃されて吹き飛ばされてしまった。






















駆け寄る友里香。
「花月!花月!!」
「っぐ…、」
「ていうかー、画的にそこのケバ女、邪魔」
「え…?」
友里香を指差す不服そうなアリスは自分の人差し指でトン、トンと顎を叩いてから「あっ」と言いにんまり笑むと、友里香を指差す。
「泥棒猫は原型留めないでバッラバラに死ぬの!ね?ちょー良い気味!!」
「え、」


ズルッ…、

アリスの人差し指から出てきた黒い液体がものすごい速さで地面を這って友里香に伸びていき、それが浮き上がり、友里香に襲い掛かる。
「ひぃ…!」
「キャハハ〜!…死んじゃえよ」


スパン!!

「か、花月…!」
「フンッ。何かっこつけてんの?不細工の分際で!」
花月が魑魅で黒い液体を斬れば、友里香は助かる。それがとても面白くないのだろうアリスは腰に手をあてて眉間に皺を寄せる。
「花、」
「逃げろ」
「え?」
「此処からできるだけ遠くへ逃げろ」
「か、花月何言って、」
「此処を出て右へ真っ直ぐ行けば日本支部に着く。そこまで逃げろ」
「無理だし!!友里香も此処に居、」
「早く逃げろ!!」
「っ…!」
初めて聞く花月の怒鳴り声にあの友里香でさえもビクッとして、目に涙を浮かべる。すると友里香はジリジリ後ろへ下がり、公園を出て走って逃げて行くから…
「ここで逃がさないのがお決まりの展開。でしょ?」


ブワッ!

アリスの人差し指から、先程とは桁違いの大量の液体が噴き出して、友里香に襲い掛かる。
「魑魅魍魎之使者余、舞降史我之下…桜花昇天!!」


ドンッ!!

「っ…!?」
強い金色の光と強風が吹き、アリスでさえも顔の前に腕を翳してしまう。
「…ハッ!」


キィン!!

気配がしてハッとして顔を上げれば間一髪。いつの間にか目の前には花月が居て、魑魅でアリスに襲い掛かっていた。
寸の所でまた手で受けとめたアリス。だが今回は両手だし、その両手もプルプル震えていて圧され気味。
「更にここで敵の攻撃を阻止するのがお決まりの展開…だろ!!」
「チッ…!うっざ!!」
一方の花月は先程同様、首から下…全身に赤い血管のような模様が浮き上がっていて、目は金色に光っている。その姿はまるで怪。
「あんたみたいな男のどこが良いのかマジで分かんないんだけど!!」
「お前が街の人やお鳥ちゃんを!!」
「はあ?だからさっき言ったじゃん。それ全部あんたのせいって。ヒーローぶるのキモいからやめてくんない?アニメの見過ぎなんじゃないの?てゆーか、後ろガラ空きじゃない?」
「…!!」


ドッ!!

「っあ"…!」
振り向いた瞬間、真っ黒な蝶の大群が花月に襲い掛かった。






















ドサッ、

「キャハハ〜!お鳥ちゃんナイス〜!」
鳥に背後から攻撃をされて地面に叩きつけられた花月の周りを真っ黒な蝶の大群が取り囲み体内へと侵食し、彼の体を蝕んでいく。
「っあ"あ"…あ"あ"あ"!!」
目は開ききり、声を上げる開きっぱなしの口から滴る唾液。
そんな花月は無視して地面に降りたアリスは、魂の抜けた操り人形の鳥を抱き寄せて頭を撫でる。
「いい子いい子〜。お鳥ちゃんやるじゃん?つっても、操ってんのアタイだけど〜!」
「……」
「お鳥ちゃんよーく見なよ。ホラ、そこ。あんたをこんな風にした男が、あんたの攻撃で命をすり減らしていくよ?楽しいでしょ?超楽しいよねぇ!!アタイもね、お鳥ちゃんの気持ちよーく分かるからさ!ま、さっきのケバ女を殺れなかったのはシャクだけど、後で探しに行ってグチャグチャに殺っちゃおーよ!だってムカつくじゃん?アタイ達がこーんなに不幸せなのに幸せそうにしている恋人達を見ると!お鳥ちゃんもそう思うでしょ?」
「……」
「キャハハ〜!ごっめーん。今アタイに操られてるから返事できないんだっけ?キャハハ、」


ズッ…、

「…え?」


ブシュウウウ!!

アリスの左腕が突然吹き飛び、其処から緑色の血が噴く。何が起きたのかまだ理解できないアリスがゆっくり視線を上げる。
「はぁ…はぁ…」
いつの間にか蝶の大群が消えて、花月が姿を現していた。しかし花月の刀は其処にあり、此処からでは到底アリスには届かない。では誰が…?
ゆっくり視線を下げれば…
「…うっざ」
空虚な瞳で魂の抜けた人形状態なのに鳥がアリスに手の平を向けて蝶をアリスの腕へ侵食させ、腕を吹き飛ばしたのだ。
無表情の鳥は体を乗っ取られているから言葉も発さないが、頬には一筋の涙が伝っていた。
























「ふぅん。すごいんじゃないの?アタイに体を乗っ取られているにも関わらず、それでも尚アタイを攻撃してその男の攻撃は解いてやったなんてさ!」
「か、づき…の…事…殺したく…ない…あた、し…」
「へぇ〜そうなの。愛だね〜。あんたそんなにこの男の事好きなの?酷い事言われたのに?…これだから地球人って意味分かんない。ムカつく…。アタイを怒らせた事、後悔させてやる…」
「!?」
下を向いたアリスのツインテールが浮き上がり、アリスの周りを赤黒い光が包み込む。花月は慌てて鳥を抱き寄せてアリスから離れて攻撃する。
「小鳥遊流奥義、桜花!」


スパン!!

「なっ…?効かない!?」
アリスを包む赤黒い光に弾き返されてしまった。
「コノ青イ地球ニ、愚カナ地球人ハ似合ワナイ…」
「っ…!?」
その、アリスから漂う今まで感じた事のない邪念に花月でさえもビクッ!と体を震わせた。本能が察した。"コイツは危ない"と。
「くっ…!」
鳥を抱き寄せたまま公園の外へ逃げ出そうとするが…


ドン!

「なっ…?!」
突然目の前に、真っ黒で巨大な十字架が壁となり立ちはだかる。
周りを見回すと、此処は普通の公園だったはずなのに、辺りには黒い巨大な十字架が花月達を逃がしはしまいと立ち並んでいた。空は真っ赤に染まり、真っ赤な月が浮かんでいる。これはアリスが造り上げた異空間。
「な…何だよこれは!」
「食べるだけじゃ飽き飽きしちゃった。アタイらと同じ姿にさせて殺し合わせたり改造したりする方が楽しいじやん?だから…アタイを怒らせたあんた達はアタイに体を蝕まれて、アタイに殺されるのがお似合い」


ドロッ…、

「お鳥ちゃん!!」
抱き寄せていた鳥の額、目、腕から突然ドロリとした黒い液体が溢れ出す。花月は必死にそれを手で払うのだが、キリがない。寧ろその液体はどんどん溢れていき、鳥の体を飲み込んでいく。しかし、強く抱き締めて絶対に放さない花月。
「お鳥ちゃん!お鳥ちゃん!!俺が守る、俺が必ず守るから!!」


コツン、コツン…

「どう、地球人。辛い?苦しい?死にたい?」
「お鳥ちゃん!お鳥ちゃん!!」
「アタイが話し掛けているんだから返事しなよ」
「お鳥、えっ…」


ドスッ!!

「がはっ…!!」


バタン!!

鳥を飲み込んでいるものと同じ黒い液体が花月の腹部を貫通。花月は口から大量の血を吐き、その場に倒れこむ。その時、鳥から手を放してしまった。
そんな花月の目の前に立つアリスは…


グリグリ、

ヒールで花月の頭を何度も何度も踏みつける。



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あきゅろす。
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