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終焉のアリア【完結】
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カラン、コロン…

下駄を鳴らして去っていく鳥の姿はあっという間に見えなくなってしまった。辺りには、まだこびり付いているMADの血や転がったテーブル、同人誌やアニメグッズの残骸が散らかっている。
他の皆が逃げ、空となった会場にぽつん…と残されたryo.とタクロー。
「初めての…」
「友達…」
2人、顔を見合せる。
「あんなにちやほやされているリア充の初めての友達が我々…?」































3日後。早朝、
EMS軍日本支部―――――

「一!ニ!」
「まだまだぁ!気合いが足りんぞ!」
「はっ!」
いつも通り、花月が立てた度の過ぎた訓練を行っている支部中庭訓練場。
坊主頭でガタイの良い強面の軍曹の指導の下、竹刀を振る軍人達の顔色がだんだん青くなっていく。
「ニ…さん…しっ…」


バタン!

「清水また貴様かぁ!」
目が四方を向いたまま倒れてしまった眼鏡をかけた細身の中年男性"清水三郎"。
訓練を一旦中断させ、ドスドスと重たい足音をたてて清水へ歩み寄ると、軍曹は清水の胴着の首根っこを掴んで持ち上げ…


ゴツン!

「〜〜っ!」
「貴様は何度倒れれば気が済むのだこの軟弱者ォ!」
その堅い頭で頭突きをした軍曹。目をぐるぐる回して、青から白へと顔の色を変える清水。
「また清水さんだぜ」
「いい加減にしてくれよなー」
「でも確かに此処の訓練は度が過ぎてねぇか」
「何でも噂だと、本部よりキツいらしいぜ此処」
「どうせ支部長が本部より成果を挙げたいが為だろ?」
「俺らはあのガキの人形じゃねぇんだっつーの」
「そこォ!私語は慎め!」
「はいぃ!」
ビクッ!として背筋を伸ばす面々。




















「全く!こんな軟弱者ばかりでは、支部長殿に恥をかかせてしまうではないか!」
「そんな事はありませんよ」
「し、支部長殿!!」
突然やって来た花月に、軍曹の後に続いて軍人達が敬礼する。
花月の視界に入ったのは其処で目を回して倒れている清水。すると軍曹は清水の首根っこを掴み、持ち上げる。
「くぉらああ清水ー!支部長殿が来られたというのに挨拶も無しか!この無礼者ォ!」
「そんなに怒鳴り声を上げなくて良いですよ、最上軍曹」
「し、しかし…!」
「穏便にいきましょう」
「お、押忍!!」


ピラッ。

「む?これは…」
軍曹の顔の前に花月が出した一枚の紙。軍曹が目を凝らして見ると…
「ななな何ですかこの、軟弱な訓練内容はああ!!」
頭を抱え、絶望に叫び声を上げる。
「俺…あ。いや、僕の立てた訓練内容が厳しいと思いまして改善してみました。最上軍曹。今日から今後しばらくはこの訓練内容でよろしくお願い致します」
「し、しかし…!くっ…敬愛する支部長殿の命令…!承知致しました!!ではお前達!本日の訓練内容を変更する!」
「変更…?」
「厳しいと思って変更した、って言ってたけど…」
「どうせ更にきつくなってるに決まってんだろ…」
















「静粛に!では、本日の訓練内容その一!場内ランニング5周!」
「ご、5周?!」
「そのニ!腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット各10回ずつ!」
「じ、10回?!」
「その三!射撃訓練20分!」
「に、20分?!」
「その四!竹刀素振り30回!以上!」
「な、何だってぇ!?」
「騒ぐな!これは支部長殿のご命令だ!ではまずは場内ランニング5周!いくぞ!」
「ど、どうしたんだよ支部長…」
「秋なのにこりゃあ明日は雪が降るぜ…」
騒がしい彼らには背を向けて、其処で倒れている清水を担ぎ、支部内へと姿を消す花月だった。

























「え?!と、父さんそれは本当ですか?」
「おお、そうだぞ清一郎!あの鬼支部長に何があったかは知らんが、昨日からの訓練内容がそりゃもう楽過ぎるくらいの内容になってなぁ!おまけに鬼支部長なんて別の双子か?ってくらい優しくなってなぁ!心配かけて悪かったなぁ清一郎!父さんこの仕事、頑張るからな!」


ツー、ツー…

「峠下氏…」





























17時30分、
桜花駅――――――

「ふぅん。この子が、花月が好きなリリアたんっていうんだ」
本部から家へ帰る為電車に乗り、駅に降りた花月と鳥。学校帰りの学生や会社帰りのサラリーマンが行き交うオレンジ色の夕焼けが眩しい駅のホームを歩く2人。
「もういいだろっ」
「あっ」
花月の携帯電話で花月が好きなアニメキャラクターリリアの画像を鳥が見ていたら頭の上から携帯電話をとられた鳥。鳥は頬を膨らませて不服そう。
「リリアたんっておっぱいあんま無いね」
「ぶっ!!な、何だよ急に!」
「男の子は大きい方が好きって月見ちゃんが言ってた」
「それは固定概念!俺は身長が小さくて可愛いキャラが好きなの!胸はでかけりゃ良いってもんじゃないんだよ、形が…って!何言わせんだよお鳥姉さんっ!!」
「ふぅん。あっ」
「え?」


ボスッ、

駅のホームの長い階段で前を歩いていた顔が真っ赤の花月の背に、後ろを歩いていた鳥がよろめいてぶつかったから、花月が振り向く。
「ど、どうしたの」
「下駄だと階段登り辛いから。ずっ転けそうになった」
「へぇ」
「へぇ、って何」
「いや、だっていつも下駄じゃんか」
「ムッ」
鳥が頬を膨らませてみても花月は首を傾げるだけ。
「あー痛ーいっ。今ので足挫いたー」
「え?大丈、」
「夫じゃなーいっ。どっかの誰かがおんぶしてくれないと歩けないなーっ」
「いいよ!ほら!ていうか本当大丈夫?足、腫れてない?」
――うっ…。本当は嘘なのに何も疑わないで心配してくれるから何か…罪悪感っ…――
全く足など挫いていないし痛くない鳥は、背を差し出して屈んでおんぶする気満々で純粋無垢な花月に罪悪感を抱きつつも、顔を真っ赤にして花月の背に乗る。
「よしっ、と」
「お、重いと思ってるでしょ」
「何が?」
「〜〜っ、バカッ!」
「何が?え?俺の事?」
「しかいないじゃん!」
「はぁ?!」
「峠下氏…」
「…!r,ryo.氏…!」
階段を登り終えた所でばったり会った…いや、ryo.は待っていたのだ。花月が此処を通る時を。
ryo.に声を掛けられると花月はパッ、と目を反らして下を向いてしまう。
「勤め先からこの駅を通って帰宅すると聞きましたので」
「え、誰から…」
――ハッ…!まさか…―
パッ!と後ろを向けば、鳥がわざとらしく顔を反らす。
――お鳥姉さんかよ!―
「峠下氏」
「は、はい…」
行き交う周りの賑やかな人々の温度とは温度差のある花月とryo.。
知らずの内とはいえ、自分はryo.の父親と家庭の平和を奪おうとしていたのだ。どんな言葉を浴びせられても仕方ない。どうせ罵倒なら中学の頃で慣れているから…なんてのは建前だけれど。
「r,ryo.氏その…お礼が遅れてしまったのですが先日は助けてくださり…ありがとうございました。そのせいでryo.氏に怪我を負わせてしまい…。あ、あと…ryo.氏のお父さんの事なのですが…お父さんに仕事を辞めさせる事にな…なぁ?!」
ふと顔を上げたら、花月の顔の真ん前に差し出されたリリア水着フィギュアに、神妙ムードが総崩れ。
「r,ryo.氏?あの…」
「峠下氏ー!!出ました出ましたぁー!!リリアたんピンク水着フィギュア!」
「あの、だからryo.氏。今はそういう話をするのではなくて…」
「通常盤がスク水で、これはシークレットのビキニバージョンッ!!ふははは!残念ながら今回は峠下氏には渡しませんよ!欲しければご自分でゲトって下され!」
あっかんべーをして逃げていくryo.にカチンときた花月。
「ryo.氏何ですかそれ!あ!ちょっ、待っ…はぁ…行っちゃったよ…。何だったんだ今のは…」
「良かったね」
「え?」
鳥に顔を向ける。
「あの子なりの仲直りじゃない?」
「そう…だと良いな」
「そうだよ。てゆーかそれしかない。花月が支部内で変わったから。それが通じたんじゃない」
「うん」
「でもあの訓練内容は甘過ぎ。てゆーか、バカ」
「バッ…はぁ?!だって本当の俺はあのくらいの訓練内容で良いかな、って思ったからそうしただけじゃんか!支部長花月の訓練内容だと、また元の訓練内容に戻るじゃんか」
「その中間をとれば良かったじゃん。本っ当花月ってバーカ」
「…お鳥姉さん知らないだろ…いつもおとなしい奴が怒った時が一番怖いって」
「知ってる。でも花月は怒っても怖くない」
「あーそーですかっ!」
まだ何かをブツブツ言っていたが気にせず鳥は顔を赤らめ、とても嬉しそうにおぶられながら花月の背に顔を埋めていた。

































小鳥遊邸前――――

「でも俺がryo.氏と仲直りをして平穏な日々を楽しんでいて良いのかな…って思う」
「何で」
屋敷の門前で止まる花月。おぶられたままの鳥。


カーカー、

オレンジ色の夕空を飛ぶ烏しかいないもの寂しい夕暮れ。
「あの日…昔、俺をいじめていた奴らが目の前でMADに食われた。その後もあの場に居たたくさんの人が殺された。…俺が居たのに。でも俺は、あいつら5人の存在に怯えてMADを前にしてもすぐに前へ飛び出せなかった。…そのせいで犠牲が出た」
「……」
ぎゅっ…。震える自分の拳を握り締める。
「最低だよ俺は…。支部長なんて立派過ぎる肩書俺には向いてないんだ。だって俺は自分が一番大事だからあの日…すぐに前へ出る事ができなかったんだ」
「花月、抱っこ」
「…お鳥姉さん、今真面目な話…」
「いいから抱っこ」
「…はぁ」
一旦降ろしてから子供のように小さい鳥を抱き上げる。
「足、本当に痛いの?」
「痛い」
「怪しいなー」
「よしよし」
「!」
頭を何度も撫でてくる鳥に、花月は続くはずの言葉を止めてしまう。これがしたくて抱っこに変えろと言ってきたのだろう。小さい腕を伸ばして、今もまだ花月の頭を撫でている。






















「支部長に向いてないから支部長を降りるの?」
「いや、そうとは…」
「花月が支部長を降りたらあたし、一生口利いてあげないよ」
「…分かってるよ。続ける…。それで罪滅ぼしにはならないけど、俺は続けるよ。MADが侵略する前の平穏な地球に戻るまで」
「うん。それで良い。泣かなくなったね。よしよし」
「なっ…!?人を何才だと思ってるんだよ!」
「10才くらい」
「はぁ!?」
「嘘嘘。ごめ、…!!」
「え?」
突然目をギョッとさせて顔を真っ赤にした鳥の視線を辿って花月が後ろを振り向くと…
「いやあ〜お鳥。抱き上げてもらうなんて大胆なアタックだなァ!」
「!!」
「アリス先輩!?皆さん?!」
小鳥遊邸の門からこちらをニヤニヤして覗いていたアリスが声を掛けてきた。その他にミルフィもニヤニヤしてこちらを見てくるから花月は頭上にハテナを浮かべるが、鳥は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にさせる。
――もしかして月見ちゃんと風希ちゃん、あたしが花月の事…喋った!?――


ドスッ!

「ぐえ"っ!?」
花月の腹を思い切り蹴って降りると、さっさと屋敷の中へ入って行ってしまう鳥。
「風希ちゃん達は!?」
「何だよお鳥イライラして。風希なら今、この前MADがレーダーに観測されずに日本へ侵入できた経緯を部屋で調べてっぞ」
――MADがレーダーに観測しなかった…やっぱり、あの風希姉さんが気付けなかったんだ――
花月は顔を上げ、風希の部屋がある屋敷2階を見上げた。






















小鳥遊邸2階、
風希の部屋――――

「分からない…分からない…」
カーテンを閉めきった真っ暗な自室で、パソコンを前に同じ言葉を繰り返す風希。
「どうして…私が気付けなかった…どうして…」


ブツッ!

パソコンのコンセントを思い切り抜くと、キーボードの上に顔を伏せる。
「分からない…分からない…どうして…」



























EMS軍本部――――

「花月ちゃんが居合わせたにも関わらず地球人35名の犠牲者…んふっ。きつーいお仕置きが必要ね♪」
暗い自室でパソコンを前に呟く女性グレンベレンバ。


バリッ、バリッ!

左手に持った、地球人の腕を美味しそうに食べて真っ赤な舌をペロリと見せるのだった。







































MAD領域、東京――――


ガツン!

「ギャアアアア!」
「ふんっ。バッカじゃないの」
モニターがたくさんある暗い室内。
バラバラだった体が元に戻っている赤髪のMADは仲間から頭にナイフを刺され、その痛みに転げ回る。このMADはあの日EMSビッグドームに現れた巨大MAD『マジョルカ』だ。


カツン、コツン…

真っ赤なヒールを鳴らして巨大MADマジョルカに歩み寄る1人の少女。マジョルカの顎を、カラフルなネイルが施された爪で持ち上げる。
「あんなガキに負けるなんて。あんたみたいなババァの不始末のせいで、東京支部長のアタイがドロテアのオバチャンに叱られんのよ。分かってんの、オバチャン?」
「オバッ…、何だい、小娘の分際で偉そうに!」
「キャハハ〜だってアタイ偉いしぃ〜?つーかぁこんなガキに惚れてたの?」
「あっ!」
マジョルカが着ている服の胸ポケットから取り出したのは、花月の写真。
「ふーん。ブサイクな男」


ビリッ、ビリッ!

「あー…」
「キャハハ!ごっめーん破いちゃったぁ」
ビリビリに破いた写真の残骸をマジョルカの頭上に落とすと、ケラケラ笑って部屋を出ていこうとする。
「次は来週開かれるEMS大会議よ。アレは地球人共からアタイらへの宣戦布告なんだから。売られた喧嘩は買わなきゃね。その日はアタイも手伝ってやるから。次こそヘマすんじゃないわよ、オバチャン?」
部屋の自動ドアが開く。廊下からの明かりに照らされよく見えるようになった少女の姿。真っ赤なツインテールの髪にミニスカートでノースリーブのウエイターのような服装をした赤い瞳で猫目。八重歯が特徴的な顔。何処からどう見ても地球人にしか見えない上級MADの少女。名は『アリス』


















to be continued...
































後日――――

『先日EMSビッグドームにたまたま支部長が居合わせとの事でしたが、支部長はあの会場にMADが侵入してくる事を事前に知っていて変装をし、潜入していた…という事でしょうか』
『いやぁ、でもあの時支部長の姿を見た少年少女らの話によりますと、支部長らしき人物が友人らとアニメキャラクターの少女フィギュア片手にイベントを満喫していた姿が目撃されていましたからねぇ』
『ではイケメン支部長の本当の顔は、アニメの美少女キャラクター好きのオタク…という事でしょうか』
『年相応らしいと思いますけどねぇ。はっはっは』
昼間のバラエティー番組をテレビの前で並んで見ている花月と鳥。
「花月、もうキャラ作らなくて良いんじゃない。良かったね」
「はあぁ…オワタ…orz」





















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