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終焉のアリア【完結】
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もしも明日。食物連鎖の頂点に君臨する私達地球人が極当たり前のように食している鶏や豚の肉のように。魚のように。調理された姿で食卓に並び、地球に侵略してきた異星人に食される日がやって来ると言われたら貴方ならどうしますか?
笑い飛ばしますよね。だってそんな馬鹿げた話はどうせ空想上のモノでしょう、と…。











































2509年――――

「見えてきました。あちらの青い惑星が地球です」
闇夜にも似た宇宙を飛行する一隻の大型宇宙船。コックピットのガラスを通して見える惑星地球はとても美しい。地球を見つめる、緑色の人型で顔と思われる部位はダイヤのように真っ赤な大きい瞳が一つある異星人。彼らは異星『プラネット』の人間だ。
プラネットの長である男と、長の妻である女は地球のその美しさに息を呑んだ。
「とても素敵…」
「我々の惑星は寿命が僅かだ。そうとなれば、我々プラネットは地球人に力を貸してもらう以外手段は無い。地球人は知性的だと聞いている。我々が話し合えば彼らならすぐに理解し、我々プラネットを受け入れてくれるさ」
夫婦は寄り添う。髪も無い為、プラネットの人間の性別を見分ける方法は服装しかない。
長の妻である、女性ものの服を着た妻が優しく抱いている、タオルに包まれた赤ん坊。夫婦の息子だ。彼もまた夫婦同様プラネット特有の緑色の身体に赤いダイヤのような瞳が一つある。夫婦は赤ん坊を優しい目をして見つめた。
「ふふ。早く地球人のお友達ができると良いわね。シルヴェルトリフェミア…」




























地球、バロック帝国――

「貴様ら何者だ!」
「気持ちの悪い珍獣め!」
「ち、違う!話を聞いてくれ!我々はプラネットという惑星の住人で、地球との相互理解を望み、」
「言い訳は聞かん!どうせ地球を侵略に来たのだろう宇宙人!」
「違います!寿命のもう少ない私達の惑星プラネットを救ってほしいと考えて、」
「撃て!!」


パァン!パァン!

バロック帝国皇帝が振り上げた右腕。それを合図に、皇帝の前に壁の如く並んだ兵士達が一斉に、プラネットの夫婦と侍女に向けてライフル銃で無慈悲に連射。
身体と同じ緑色の生々しい血がプラネット達の身体から噴き出せば、まるで踊り狂うように撃たれ、その場に崩れ落ちた。


しん…

静まり返れば皇帝は椅子に腰掛け、溜息を吐く。足元で横たわるプラネット達の気味の悪い亡骸を軽蔑の眼差しで見つめながら。
「ふぅ…。異星人…か。そんなもの、架空の生き物だとばかり思っていたが、地球外惑星が存在するということは異星人が居てもおかしくはないという事ではあるが…。現実に存在し、目の前に現れるとは考えてもいなかったな。はは。しかし言葉も通じるとは」
「何故…何故…?まだ何も話していないというのに…敵視したのだ地球人よ…」
「なっ…!?」
静寂が打ち破られる。確かに死んだはずのプラネット達が何と喋り、立ち上がったのだ。身体中には、食らった銃弾がめり込み穴があいているにも関わらずまだ生きていた。これには皇帝は勿論、兵士達も唖然。全身から血の気が引く。
「我々はただ…力を貸して欲しかっただけだというのに…。話も聞いてくれず地球人達は…」
「なっ、何だ貴様ら!気味の悪い宇宙人め!」
「地球はこんなにも美しいというのに…其処に住む地球人はどうしてこうも…愚かで非情なのだ…」
「お、お前達!撃て!直ぐにこの気味の悪い宇宙人共を抹殺しろ!こんな身の毛もよだつ訳も分からない宇宙人共に、地球人が適わないなどそんな物語はフィクション!我々地球人がこの宇宙で最も優れている!」
「地球人は愚かで非情だ…争いでしか解決しようとしない…この宇宙で最も下衆な生き物だ…!!」
真っ赤な血飛沫が天井を、壁を、床を、染めた。






























バロック帝国宮殿一階、中庭前廊下―――

プラネット達が乗ってきた宇宙船へと走るのは、宇宙船の操縦士である白いエプロン姿の侍女。緑色の血に塗れた侍女が大切に抱えるのは、たったさっき皇帝と兵士達に殺されたプラネットの長夫婦の赤ん坊『シルヴェルトリフェミア』
侍女は皇帝と兵士達や、宮殿内の人間を殺して何とかここまでやって来れた。が、プラネットの代表である長と、その妻を地球人に殺されてしまった。
「はぁっ、はぁ…!くっ…!長と奥様が殺されてしまった…!地球人は何て非道な生き物なの!」
「ふぇっ…」
すると、ぐずりだしたシルヴェルトリフェミアの泣き声にハッと我に返った侍女は、さっきとは別人のような優しい声で話し掛ける。
「大丈夫。大丈夫ですよ。私が必ず貴方様をお守りしますから。貴方様だけが私達プラネットの希望です。長と奥様が残してくださった希望なのです。シルヴェルトリフェミア様…」
その時。人の気配を感じた侍女が咄嗟に顔を上げると其処には、バロック皇帝と同じ真っ白い綺麗な長い髪をした若い女性と、その女性に抱かれた真っ白い髪の男児。若い女性は皇帝の皇妃で、男児はその子供つまり皇子。
皇妃は目を見開き、ガタガタ震えているが皇子はまだ赤ん坊。幼過ぎる為か、目の前のプラネットを前にしても動じない。敵だと理解できていないのだ。一方の侍女は、再び険しい顔付きに戻る。
「くっ…!貴方達もこの宮殿の人間ですね!非道な地球人…」
「こ、皇帝陛下や宮殿の皆様を殺したのは貴方なのですか…」
「そうする必要がありましたから…」
「何て酷い…!何故そのような事をなさったのですか!貴方は他の惑星の人間とお聞きしました。目的は何ですか?地球侵略なのですね!?」
「…何故そうやって話し合いもせず端から決め付けるのでしょう…。さすがは非道な地球人ですね…!」


ドッ!

一瞬だった。何が起きたのか皇子には解らなくて。ただ、目の前でプラネットの侍女が、皇子の母親である皇妃の頭をおもむろに掴んだ瞬間。皇妃の頭が吹き飛び、血飛沫が皇子の顔や髪にべっとり付着。自分の足元で横たわる変わり果てた母親の姿を前にしても、幼過ぎる皇子には、今、何が起きているのかさえ解らない。
一方の侍女はというと。何と、皇妃の右腕を、真っ赤な目の下にある口で丸呑みしてしまったではないか。
次は左腕、その次は右足…それはまるで我々地球人が鶏や魚を食べるかのように、何の躊躇いも無く、極普通に皇妃の亡骸を食べ始めたのだ。
ベチャベチャと食する度に真っ赤な血が雫となり床に落ちて赤く染める。まるで我々が、チキンにかかっているソースを舐めとるかのように、口に付着した皇妃の血を分厚い舌で舐めとるのだ。
「嗚呼…これは絶品です。とても美味しい。非情な地球人ですから不味いと思いましたが、味だけは格別に美味しい。シルヴェルトリフェミア様も是非お食べください…」
引き契った皇妃の指を一本。シルヴェルトリフェミアの口元へ運んだ時だった。


パァン!

「ぐっ…!」
侍女の頭部に、何処からともなく飛んできた一発の銃弾がめり込み、緑色の血が噴き出す。が、この程度では死なない侍女。銃声がした方へ、ゆっくり顔を向ける。
すると其処には、皇子と同じ真っ白な髪を黒いリボンで耳の下で二つに結び、黒い軍服を着用した小柄な女性が拳銃を構えていた。灰色の煙が噴く拳銃を。
一見、少女に見えるこの女性は48歳。皇妃の姉であり、皇子の叔母である。名を『アリア・L・ミリアム』という。
「…まだ居ましたか。この宮殿の地球人は皆、殺ししたつもりでしたが…」
ゆらり、と立ち上がった侍女はタオルに包まったままのシルヴェルトリフェミアをそっ、と床の上に置く。向かい合ったアリアは、皇子を庇うように前に壁となり立ち塞がれば、鬼のような険しい形相で、未だ銃口を侍女に向けている。
「貴方がたは勘違いをしていらっしゃる。私達プラネットは地球人と力を合わせ、互いの惑星の寿命を永らえる為この惑星へやって来、」


パァン!

話し終えていないのもお構いなしにアリアは発砲。また、頭部を。しかし侍女はぐらっ、とふらついただけで、すぐ体勢を整える。
「まだ話は終わっていません。せめて私の話だけでも聞いて、」
「ふざけるなもののけめ!お前らはどうせ、そうやって甘い言葉で私達を引き付け地球を侵略するつもりだ!」
「ですからそれは貴方達地球人の勝手な思い込みで、」
「黙れ侵略者!」


パァン!パァン!

何発もの銃声がして直後、ドサッ、と人が倒れる鈍い音がした。やっと地に伏した侍女。もう、ピクリとも動かない。





















アリアは強ばっていた全身の力が抜けると、安堵の息を吐く。すぐに皇子へ駆け寄れば、目線を合わせる為身を屈めて、皇子の両肩を優しく掴む。
「ソラ!無事だったか。お前のことは私が守ってやるからな。だからもう怖いものを見なくて良い、」


ズキッ!

「あ"あ"あ"あ"!!」
右腕に、言葉では言い表わせない激痛が走り、今にも殺されるのではないかという程の悲鳴を上げたアリア。彼女の右腕には何と、侍女が鋭い歯をたてて噛み付いていたのだ。それだけならまだしも、侍女は先程皇妃を食したように、噛み付いたアリアの右腕を食べ始めたではないか。
「あ"あ"あ"あ"!」
「…貴女はとても不味い」
そう呟くと、ぺっ、とアリアの腕から口を放してアリアを突き飛ばす。
壁に背を強く打ち付け座り込んだアリアは、関節の下まで食い千切られた右腕を左腕で押さえる。アリアの目は開き切っていて、呼吸は不規則。全身から脂汗噴き出す。
一方の侍女は、口の周りに付着したアリアの血を腕で拭うと皇子『ソラ・ライムンド・ハロッズ』の前に立ち、彼を抱き上げた。幼過ぎるソラは本当に何も理解できていないから、自分の両親を食い殺した侍女に抱き上げられているというのに、きゃっきゃっと楽しげにはしゃぎ出したではないか。侍女は鼻で笑う。
「調度良い…。私達プラネットは今回地球へやって来た時、反動で失ったモノがある。私は右耳の聴力。そしてシルヴェルトリフェミア様は左目の視力。貴方の左目の視力をシルヴェルトリフェミア様に寄越しなさい…」
侍女の右手がソラの左目に迫る。
「ソラァアア!!」


ドサッ、

ほんの一瞬の出来事だった。ソラはドサッと音をたてて床に落とされる。右腕の痛みなど、もうどうでもよくなったアリアは、床を這いつくばって無我夢中でソラに駆け寄っていた。
「ソラ!何かされたかソラ!」
「今後私達プラネットがもっと地球に適応した身体となり、私達を受け入れてくれなかった地球を侵略する時の日の為に。貴女は地球人の生態を知る為の披験体として、調度良い」
背後から首根っ子を掴まれただけであっさりと宙へ浮き上がったアリア。侍女は右手にシルヴェルトリフェミアを抱え、左手には首根っ子を掴んだアリアを引きずりながら中庭に着陸させた宇宙船へと歩きだす。
アリアが暴れて振り解こうとするが、プラネットである侍女との力の差があり過ぎているから侍女は全く動じない。その間にも、どんどん遠ざかっていく甥のソラをアリアが見つめる。綺麗な黄色だったソラの左目だけが、真っ赤に変色していた。
「貴様!ソラに一体何をした!」
「……」
「答えろ!答えなけれ、がはっ…!」
腹部に一発、思い切り拳を入れられたアリアは血を吐く。たった一発拳を入れられただけだというのに侍女のその力は、地球人の十倍もの力があった為、意識まで朦朧としてしまう程。
霞む視界の中、連れていかれる自分。遠ざかっていく幼い甥ソラを見つめながらアリアの口が微かにこう、動いていた。
「必ず戻ってきて…守ってやるからな…ソ、ラ…」
アリアの目の前が真っ暗になったと同時。宇宙船は雲の上へと上昇し、やがて大気圏を越え、宇宙へと上がっていった。



































バロック帝国城下町――

「お母さん!昼間なのに今お空に流れ星が見えたよ」
まるで流れ星のようにキラリと一瞬光った光。それは母星へと帰還していくプラネットの宇宙船。その光が皮肉なまでに綺麗だった。


















その後。バロック帝国皇帝、皇妃をはじめ、ソラ皇子以外の宮殿の人間全員が何者かに殺害されたと報道されたが、実際、彼らの死体はまるで食い千切られたかのようにバラバラであった事は隠蔽された。
当時プラネットを見た宮殿の人間はプラネットにより皆殺しにされた為、プラネットという異星人が地球へやって来た事を知る人間は、この地球上で誰一人としていなくなったのだ。まだ、幼過ぎた為状況を理解できていなかったソラを除いて。






























それから時は流れ、地球は何事も無く平穏な日々を送っていた。
各地で、紛争や殺人事件といった争いは増す一方だったけれど、それらは地球人にとって日常化してしまっていた。悲しい程に。






























2524年―――――

現在地日本、東京。
当たり前のように朝がやって来て、当たり前のように家族と朝の挨拶をかわして、当たり前のように学校や会社へ向かう。
「あれ?まだ朝なのに今、流れ星が光ったよね?」
「うっそー。ないない!見間違えでしょ」
通学途中の女学生が見た空に光った朝の流れ星。それが同時刻、世界各地で大量に目撃された2524年9月13日。今日この日は私達地球人が、当たり前過ぎて気付けなかった"日常"という幸せを失う日となる。



















to be continued...














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