[携帯モード] [URL送信]

終焉のアリア【完結】
ページ:1
「きゃ〜!本物の花月さん〜!!」
「あ、ちょ、ミルフィお前!」
空の静止も無視し、一目散に飛んでいき抱き付いた。


ガバッ!!

「!?」
その大胆さに、風希と鳥を除く空達5人は目を見開き顔を真っ赤に染める。一方の花月は顔が引きつっていて後退り。
「雑誌で見るより本物の方がやっぱり超かっこいー!!初めまして!私ミルフィ・ポプキンっていいまーす♪元共和派首相でしたけど、今日からEMS軍の人間として頑張るのでよろしくお願いしまーす♪」
「あ、あ…あはは…どうもこんにちは…こちらこそよろしくお願いします…。…リア充な上DQNな上ビッチ女とは…」
「え?今何か…」
「いえいえいえ!!何も言ってませんよ〜!」
「花月さん♪サインお願いしまーす♪ミルへ☆って入れて下さいね♪」
鞄の中から取り出した色紙とペンを無理矢理持たされ、苦笑いを浮かべ頬には冷や汗を伝わせている花月。困り果てたままペンを握っていると…


スパンッ!

「!」
「あー!色紙が〜…!」
突然飛んできた手裏剣が色紙に命中。真っ二つに斬られた色紙がミルフィと花月の足元に落ち、真っ二つの色紙を手にとてもショックそうなミルフィ。


















カラン、コロン…
下駄を鳴らして、2人の間にお構い無しにズイッと割って入ってきたのは鳥。ビシッとミルフィを指差す。
「そういうの女の子として恥ずかしい。ムカついたから、君の指導はあたしがやる」
「可愛いお姉さまから直々にご指名して頂けたのでミル、頑張りまーす♪」


バチバチバチ!

2人の間には火花が散っていて誰も近付けない。
「お鳥ちゃんは花月の事…昔から一番可愛がっているから怒るのも無理ない…。そうだ…私達も誰について指導するか決めなきゃ…。ハロルドさん達はいいとして…」
くるり。風希と花月が振り向いた視線の先には、空と鵺。鵺はビクッとするとすぐ空の後ろへ隠れてしまうから、空は「はは…」と苦笑い。此処へ来てから苦笑いしか浮かべていない気がしてきた。
風希は花月の方を向く。
「月見姉様は部屋に戻ったから…。どうする花月…どっちの子を指導する…?」
「はぁぁ…現ヤンにDQNにリア充にギャル…。みんな積極的過ぎるんだよぉぉ…第一、間髪開けずにペラペラペラペラよく喋っていられるよな九官鳥かよっての。はぁ…早く家に帰って来月の戦隊少女オンリーイベントに出す新刊の続きを描きたい…あ、でもリリアたんの服のトーンが無いんだった。どうしようあれが無いと原稿が進まな、」
「花月…1人で何をぶつぶつ喋ってるの…」
「え?!え、あ、何でしょう風希姉さん!?」
「今まで話、聞いてなかったの…?」
「ご、ごめんなさい…」
「……。死んじゃえば良いのに…」


ドスン!!

「!!」
表情も声色も全く変化無し…なのだが、風希は持っていた鎌を思い切り壁にぶっ刺したのだ。鳥を除く一同が目をギョッと見開き、その行動に口をぱくぱく呆然。


スッ…、

「ひぃ?!」
その鎌を壁から引き抜くと鎌の刃先を静かに、鵺に向けた。
「決めた…私の相手は黒い髪の君…。花月は白い髪の子…。反論は許さない…」
「は、はいっ姉さんっ!」
このやりとりだけで、姉弟の力量関係が分かった空達だった。


























中庭訓練場――――

ハロルド達3人は射的場で射的訓練中。
一方の空、鵺、ミルフィの新米3人は先程決まった指導者の下、2人1組計3組に分かれる。
まずは鳥&ミルフィペア。
「花月さんのお姉さま直々のご指名だなんて嬉し過ぎまーす♪」
「何その言い方。わざとムカつかせてるの」
「そんな事あるわけないじゃないですかっ!お姉さまに気に入ってもらえるよう頑張って強い女になります♪だから、認めてもらった暁には花月さんとのお付き合いを承諾して下さいね☆」
「君、本当ムカつく。容赦しな、」


ちゅっ、

「!?」
「ふふっ♪日本の方には少し刺激的過ぎましたか?外国流の挨拶ですっ♪」
鳥の頬にキスをしたミルフィ。鳥はキスされた左頬を乱雑に拭うから、ミルフィは「えー!そんな〜!」と言うが、ショックそうには見えない。
自分の右腕を掴んだままのミルフィの左腕を鳥はブンブン振って振り解こうとするが、解けない。
「キモい。最悪」
「照れちゃうところも可愛いですねお姉さま☆」
「どこをどう見たら照れているように見えるの。やっぱり君ムカつくから容赦しな…っ?!」
鳥が攻撃開始しようとするが目を見開く。その様子にミルフィは、にっこり微笑む。
「残念♪お姉さまは既にもうミルの手の中なんですよ♪」
キスをされ、ミルフィに掴まれた鳥の右腕。彼女に触れられている間、鳥はもう彼女の思うがままに動かされる人形となったのだ。
「えいっ!」


ドンッ!!

腕を掴んだまま鳥を壁目がけ放れば、大きな音と共にたちこめた煙。煙が晴れた其処には、パラパラ落ちる壁のコンクリート片に髪を汚し、頬や手足に傷を負った鳥。
「ふふっ♪この手は放しませんよ。一緒に踊りましょうお姉さま☆」
「っ…、ムカつく」
「あらあら〜?そんなに大口叩いて宜しいのですか?お姉さまの全ては今ミルの手の中なんです、よ!」


ボチャン!

腕を掴んだまま鳥だけを池の中へ放り込めば、驚いた鯉達がバシャバシャ跳ねる。
「ふふっ♪ずぶ濡れになっても可愛いなんて、さすが花月さんのお姉さまっ♪」
馬鹿にされた鳥は口をヘの字にして眉間に皺を寄せている。ポーカーフェイスの彼女が初めて、顔を酷く歪めた。
「これではどちらが訓練のご指導を受けているか分かりませんねっ♪」
「……」
「残念ながらミルは共和派時代、首相の座に就いているただのお人形さんではなかったのです。だから、ご指導を受けるのはお姉さまの方かもしれませんね♪」
「君、本当ムカつく。痛い目にあった方がいいよ」
「ふふっ♪どうぞっ!ミルを痛い目にあわせてみて下さい☆」
「分かった。そうする」
「え?」


ザワ、ザワ…

掴んでいた鳥の右手から紫色の粉が舞い、ミルフィが首を傾げていると…
「な、何?!蝶!?」
鳥の右手から紫色の蝶の大群が出現したのだ。蝶達は鳥の腕を掴んでいたミルフィの左腕にまとわりついて離れなくなる。
「きゃああ!」
思わず鳥から腕を放してしまい、自分にまとわりついて離れない蝶達を両手で追い払おうと必死。


ザパッ…、

ミルフィに池の中へ落とされ濡れたせいで重たくて水の滴る着物の袖を持ち上げた鳥は、ミルフィへ右手の平を翳す。


ザァッ…!

蝶達はあっという間にミルフィの全身を包み込みミルフィの姿は見えなくなってしまった。
「きゃあ!?離れて!何?何!?ミルから離れて!!」
「離れないよ。だって君が頼んだんじゃん。痛い目にあわせてみて、って」
「!!」
背後から声がし、後ろを振り向くと。其処には、いつの間に。蝶達の羽の音で聞こえなかった。鳥が背後に立っていた事に。ミルは頭を抱え、顔を青くする。さっきまでの余裕っぷりはとうに消えていた。
「ご、ごめんなさいっ…ミルこんなつもりじゃ…」
「今更謝ったって遅いよ」
「ご、ごめんなさいお姉さまっ…!」
「あたし、君のお姉さんになった覚えない」


ぐっ…、

鳥はおもむろに自分の胸をミルフィの胸へ押し付ける。
「貧乳のくせに調子に乗らない方が良いよ。次調子に乗ったら本当に怒る。あと…。君みたいな子に花月はあげない」
「お姉さっ…」


ザァッ…!

蝶の大群の中から鳥だけが出た次の瞬間。蝶達がミルフィに襲い掛かった。


ドサッ…、

蝶の大群の中から、気を失ったミルフィが倒れて出てきた。
「ご苦労さま」
蝶達に礼を言い手を翳せば、蝶の大群は鳥の右手の平の中へと吸い込まれるようにして戻っていった。其処で気を失い倒れているミルフィの事をチラッ、と見る。
「貧乳だけど顔可愛いから…ムカつく」





















風希&鵺ペア。
「じゃあまず…私の鎌と貴方の刀で勝負…」
「わ、分かったて!」


ドスン!

「え"?!もも、もう開始け!?」
開始の合図も無しにいきなり鎌を振り下ろしてきた風希。鵺はギリギリのところで右へ回避したが顔を真っ青にしてビクビク。
一方の風希は静かに鎌を地面から引き抜き、持ち上げる。鎌が突き刺さっていた地面は抉れていてそこから白い煙がシュウゥ…と噴いている。
「か、開始の合図くれぇ言えてば!このっうっすらぽんつく!!」
「合図…?そんなもの…戦場でMADは出してくれないでしょ…」
「っ…、」
「早く見せて…本家鳳条院家の刀、魍魎の力を…」
「なっ…!?おめさんなして俺が持ってる刀の事知ってるんだて!」
「何で…?…だって君は私達の従弟でしょう…鳳条院鵺…」
「え、」


ドスン!!

また鎌が振り下ろされた大きな音がして煙が立ち込める。次第に煙が晴れていくと…
「っぐ…!」
「……。魍魎は赤い光なんだ…」
風希の鎌と鵺の刀がお互いぶつかり合い、二つの刃がプルプル震えていた。鵺は歯を食い縛り、鎌の強大な力を何とか刀で受け止めている。
「従弟!?おめさんは俺の従姉なんけ!?」
「鵺は知らないんだっけ…幸男叔父さんに捨てられたから…」


ドクン…!

その一言そして、忘れたいのに忘れられない名前を聞き、鵺の鼓動が酷く大きく鳴る。
「っ…俺は…!!」
「鵺の家は本家…私達は鵺のお父さんの妹の子供だから…。じゃあ鵺はこの話も知らない…?」
「何らてば!!」
「鳳条院一族に代々伝わる妖怪退治の刀は2本あって…1本は鵺の持っている魍魎で…もう1本、魑魅っていう名前の刀があるの…」
「魑魅…?魑魅魍魎…?」
「そう…魑魅はね、花月の愛刀…」
「!!」


ドッ!!

話に気をとられていた鵺は集中を欠いてしまった。ほんの一瞬だったのだが、その一瞬が命取り。





















ピチャッ…、
鎌は鵺の左頬を掠めた。緑色の血が頬からドクドク流れるから、呼吸を乱しながら血を乱暴に拭う鵺。
「その血の色…。鵺はやっぱり…人とMADの子…」
「うるせぇ!!」
「MADがその刀を持っていちゃダメ…鳳条院一族を汚さない為にもその刀…早く返して…」
「返すわけねぇねっか!これは俺がお祖母ちゃんから貰ろうた刀ら!この刀でお祖母ちゃんの仇を討つ為にMADと戦うって決めたんだて!」
「返してくれないんだ…。分かった…。なら、力付くで奪い返す…」


ザァッ…

「!?」
突然青い光が現れると、風希の周りを渦巻く。この光景に鵺は唖然。
「一族の中にMADが居るなんてダメ…。刀、返してもらう…鵺…」
風希がスッ…、と鵺を指差したと同時に青い光が鵺を囲んだ。
「なっ…!?くっ…、邪魔らて!前が見えな、」
「うん…やっぱり鵺はこの刀に相応しくない…」
「…っ!しまった…!」
視界を青い光に塞がれている隙に、背後に立った風希に刀を奪われた。慌てて後ろを振り向く鵺だったが、ギラリと銀色に光った鎌の刃が鵺目がけ振り下ろされる。


ドスン!!


























花月&空ペア。
「なっ…?!訓練じゃなかったのかよ!」
先程からミルフィと鵺達の居る方からまるで戦場さながらの爆発音が聞こえてくるから、空は振り向いて声を上げる。
「おい、あんた!あんたの姉ちゃん達に、ちゃんと手加減するように言ってあるんだろうな!鵺は軍人だけどまだ新人だしミルフィなんて軍隊経験の無い普通の女子なんだぞ!」
「はぁ…どうしよう。いくらキャラを作っているからってリア充相手にどういう事を話してどういう顔をすれば良いかなんて分かんないし…嗚呼もう嫌だお腹痛くなってきた…リア充やDQNやビッチってどうしてああも煩いんだろう、本当に早く帰りたくなってきた…」
「おい…あんたマジでさっきから独りでブツブツ何喋ってんだよ…」
「!!」
下を向いて酷く憂鬱そうにブツブツ独り言を呟いてばかりの花月の目の前にやって来た空。
目の前にやって来るまで気付かなかった様子の花月はビクッとして、咄嗟に顔を上げる。別に睨んでいるわけではないのだが、元からつり目の空にガン見されては睨まれていると被害妄想をした花月は…
「ごごごごめんなさいぃい!!俺別に君の事リア充とかDQNとか言っていないんで許して下さい!!orz」
「は…はあ?」
――何かこいつさっきとキャラ違くね…?――
「…ハッ!あ、あ、えっと、空さんでしたよね?!」
「え?ああ…そうだけど」
――あれ。キャラ戻った?何こいつ、二重人格…とか?――
オドオドしたのは一瞬でハッ!としてから花月は登場時の強気で自信に満ち満ちた笑顔に切り替わったから、空は首を傾げて頭上にハテナを浮かべる。
「空さんの指導者として務めさせて頂きます小鳥遊花月と申しま、」
「いや、自己紹介はもういらないし」
「え"っ?!え、あ…そ、そうですよね〜ははは〜…。こ、これだからDQNは…!人の好意も無視して善悪考える前に自分の思った事をすぐ喋るんだ!」
「あのさ…マジでさっきからあんた独り言ウザいんだけど…」
「ウ、ウザい…!?そ、それは失礼致しました…ははは…」
――ウ、ウザいぃい?!そういう事は心の中で思っているか相手の目の届かないブログで愚痴るものであって、本人の目の前で言う事じやないだろJK!!―――
「?」
空には背を向けた花月は立て掛けてある竹刀片手にダラダラと冷や汗を流す。その表情は"支部長花月"の強気で自信に満ち満ちたモノとは掛け離れた自分に自信が無い、いかにも気弱な少年の表情をしていた。













「あはは…遅くなってしまいましたが、では空さん。只今から訓練を始めたいと思います。空さんは民間人の方でしたよね?」
「まあ…そうなんじゃね」
――なっ、何だよその曖昧な返事!かっこつけてるつもりか?!返事は"はい"か"いいえ"だろ!はぁぁ…これだからDQNは…――
「ではこの竹刀をお渡しします。僕は自分の愛刀を使って空さんとの訓練を致しますので」
「ちょ、おい、待てよ!俺が竹刀であんたは刀?!殺す気か!」
「いえ、僕は刀は鞘に閉まった状態ですからご安心下さい。訓練中は僕が右や左…といった風に空さんが避ける方向を言いますからその方向へ避けて下さい。空さんの竹刀が僕の体のどこか一ヶ所に一瞬でも触れれば、合格。次の訓練に進みます。質問など、何か聞きたい事はありますか?」
「無いけど…」
腰に括り付けていた刀を鞘に閉まった状態のまま取出し、構えた花月。
一方の空は剣道すらやった事が無いから、竹刀といえど刀を持ったのは初めて。表向き平然としているが、実は内心ドキドキしっ放しだ。

















「では、始めましょう」


ザッ…、

「なっ…消えた!?」
開始早々、瞬間移動でもしたのか?と言いたくなる一瞬の内に目の前から姿を消した花月に、空は目を丸める。
すぐ後ろを振り向き辺りを見回すが、其処には美しい日本庭園が広がっているだけで花月の姿はどこにも無い。
「んなっ?!何処行ったんだよ!」
未だ辺りを見回しながら何度も叫ぶ空の背後の白い壁。壁が音も無く人型に浮き上がると…


ドッ!

「っあ"…!」
背後から左太股を思い切り突かれ、その痛みに体勢を崩す空。
「お呼びですか、空さん」
「くっ…そっ…てめぇ…」
後ろを向けば、鞘に閉まった刀をクルクル回して余裕綽々の花月が立っていた。

『花月が壁に隠れている事うっかりバラしちゃいそうで…こっちがドキドキした…』

そこで、さっき風希が言っていた妙な言葉を思い出す。
――そういえばこいつ、会った時何処にも居なかったのに突然俺の背後に現れて…。こいつの姉ちゃんは確か、こいつが"壁に隠れている事うっかりバラしちゃいそうで…"って言ってたよな――
空は鼻で笑う。
「はっ…壁に隠れて隠れ身の術です、ってか。日本支部らしく忍者かよ!」
「お褒めのお言葉、光栄です」
間髪開けず刀を空へ突いてくる花月に「右、左!」と指示を出されても、硬直した空の体は心の言う事を利いてくれない。つまり、動けないのだ。指示を出されても、花月の動きが速過ぎて。
それ故、太股や脚や腕に刀を受け止めてばかりで一度も避けられない。寧ろ全弾命中だ。
――くそ!やる前は、指示なんて出されなくても避けてやる!なんて余裕ぶっこいていたけど、マジで避けれねぇ!始まったばかりとはいえ、こんなんじゃいつまで経っても仇討ちなんてできない…!!――
一応"です"、"ます"口調だったが、生意気な言葉遣いでハロルド達軍人に接していた自分は井の中の蛙だと痛感。
正直、軍人と言ったって刀や銃等の武器を持ってそこそこの訓練をすれば民間人の自分でもすぐになれるだろう…と簡単に考えていた。




















花月は腕や脚以外の大怪我に繋がる箇所は突かないし、今突いている力だっていつもの1/10。いやそれ以下かもしれない程手加減しているのだが、避けられない上、痛そうに顔を歪める空に困ってしまう。
――タメ口で余裕綽々の割に…はぁ…。これだからリア充は口ばっかり達者だよな。この調子じゃ次の段階へ進むのは早くて一年後…――
「なっ…また消え、ぐあっ!!」


ドスッ!!

消えた直後背後にまわった花月の刀が初めて空の背中を突いた。しかも本気…の半分の力で。今まで腕や脚に1/10の力で突いていたのに。


ドサッ…、

背中の痛みと衝撃に一瞬息ができなくなった空はその場に倒れこむ。
「はぁっ…はぁ…はぁ…」
目を見開き真っ青で冷や汗を引っきりなしに流し心臓をドクンドクンいわせている空。
「くっ、そっ…!」
「空さん。もうここでやめましょう」
「なっ…!別に俺はっ…はぁ…はぁ、まだ…やれる!!」


ドン!

「!」
空の顔の前に、鞘の中へ閉まったままの花月の刀が音をたてて置かれる。
「そのお気持ちは評価致します。しかし、僕の指示があっても一度も避ける事ができず、逆に僕の攻撃を全て食らっていては、いくら僕が手加減をしたからとはいえ、民間人の体には相当のダメージなはず。現に空さん。今、立ち上がる事もできていないじゃないですか」
「っ…!違ぇよ!…立てる!」
しかし、手を地面に着けて踏ん張り立とうとしても全く立てない。
12回目の踏ん張りにしてようやく立てたが…ふらついていて壁にもたれかかり、下を向き、呼吸を乱している。
「……」
「はぁっ…はぁ…」
「残念ながらこれは初心者だから、という理由では済まされないようです。空さん、護身術すら身に付けられない貴方には向いていない。軍人は諦めて、おとなしく学業に励む事が貴方にとってベストですよ」
クルッ。刀をまた回して腰に括り付けてた花月の姿がぼやける。
「はぁ…はぁっ…」
――くっ…そ…、ざけんな…俺は…父さんと楓と…くそババァの仇を討って…。シトリーをぶっ殺さなきゃ…。たかが民間人の俺が熱くなって…はぁ…、馬鹿だって事は分かってる…。でも同い年の鵺が…自分の祖母ちゃんの仇討ちの為に死ぬ気で戦ってんの見たら…はぁ…はぁ…負けたくねーんだよ…!――
「花月…終わった…」
「風希姉さん」
歩いてきた風希の声に、視界がぼやけながらも空が視線を移すと…
「!!」
風希の手には、赤い光を放つ刀魍魎が。鞘は鵺の元にある為、抜刀したまま。
「なっ…!?」
――あれは鵺の刀…鵺が女に負けた…?――
辺りに鵺が居ない事にゾッ…とする空。

『貴方達6人は、厳しくて恐〜い事で軍内有名No.1の日本支部でみっちり扱かれてきなさい☆』

グレンベレンバの言葉を思い出し、ガタガタ震える。


















一方の風希と花月。
「僕も今終わったところです」
「そう…。お鳥ちゃんも今来る…。ねぇ、これ見て…。やっぱり鵺は鳳条院鵺だった…」
魍魎を花月に見せる風希。
「その刀は魍魎…?でも何故風希姉さんがそれを持って…」
「だって…鵺は人とMADの子…鳳条院一族の血を汚す鵺が持っていちゃ…いけないから…奪い返してきた…」
「!!」
風希のその言葉に、空の瞳がだんだん鬼の如くつり上がっていく。
「花月…使う…?花月の魑魅と…この魍魎があればもっと強くなれる…」
「え、いや、でもそれは鵺兄さんのものですから…」
「気にしなくていい…だから…」
「気にしなくていいとかそっちが勝手に決めてんじゃねー!それは鵺の大事な物だ!」
「…!」
怒鳴り声を上げながら空が2人の元へ駆けてきて何と魍魎を風希から奪い取ったのだ。2人は目を見開き、一斉に空を見る。
「え…何…?その刀は…鳳条院一族の血が流れていないと…触れる事も…持つ事すらできないのに…?」
「な、何で空さんその刀を持てるんですか…!」
「は…?何が?」
平然と魍魎を右手に持っている空が不思議そうにしていると…


ドクン!

「っぐ…!」
――な、何だよこの、意識が遠退いていく感…じ…―
突然胸が苦しくなり、意識が遠退いていく空。
「どうしてこの子…魍魎が持てるの…」
「…ハッ!風希姉さん!!」
「え、何…」


ドンッ!!

間一髪。空の異変に気付いた花月が風希を抱き寄せ、寸のところで回避した。


パラ、パラ…

魍魎が突き刺さった壁から白いコンクリート片が落ちてくる。
突然魍魎を振り上げ風希に襲い掛かった空の異変に、2人は呆然。そんな間にも空は壁から魍魎を引き抜くと2人を見て嗤った。空なのだが雰囲気が全く違う。とても恐ろしい鬼のような目をして嗤っている。
「はっ!てめぇら散々馬鹿にしてくれたじゃねぇか。俺はこの空とは違う!そして、鵺の刀はてめぇらには渡さねぇ。てめぇらが鵺を化け物扱いして殺そうとすんなら、俺はてめぇらをこの魍魎でぶっ殺す。前世と同じように鵺を殺させねぇ」
「ぜ、前世…?」
「まずは、魍魎を奪ったてめぇからだ女!!」
風希を指差し宣戦布告したかと思えば、何と空は姿を消した。
「え、何…何処行、」
ハッとした風希が前を向くと、魍魎を赤く光らせた空がニィッと嗤い、風希が刃に映る魍魎を振り上げた。


ガンッ!!

「へぇ!魑魅を持てるだけあってなかなか素早い動きだな、ガキ!」
「花月…!」
風希の前へ飛び出し、空の魍魎を自分の刀魑魅で受け止めた花月。震える互いの刃と刃がぶつかり合う。
「風希姉さん下がって下さい!」
「威勢の良いガキだな。じゃあてめぇから相手してやるよ!」
空の左手が花月の首へ伸びる。
「っぐ…!」


ドンッ!!

「花月…!」
そのまま2人壁へ突っ込み爆発音がし、辺りに白い煙が立ち込める。





















「おいおい。訓練のクセに何派手にやらかしてんだカズ達は?」
爆発音に駆け付けたアリス、ハロルド、ファン。そして鵺、ミルフィ、鳥。
「あれ?雨岬は?」
「鵺…」
怪我だらけの鵺が辺りを見回していると、風希が前に立ったから鵺はビクッ!と挙動不審。
「な、何らて!」
「あの子…白い髪の子…何者…?」
「え?雨岬の事け?」
「あの子今…花月と互角に戦ってる…」
「ほぉ。あのメガネ、ひょろくて口だけ達者のクソガキかと思ったらなかなかやるじゃねぇか」
「違う…」
「あ?それどういう意味だよ風希」
「何か様子がおかしい…人が変わったみたいな喋り方になって…しかも…鳳条院一族の血が流れる人間しか…触れる事も…持つ事もできない刀魍魎を持って…戦ってる…」
「なっ…、魍魎を?!雨岬がけ!?」
風希は頷く。
「おい鳳条院。その刀って何だよ」
「い、今この人が話したみてぇに俺の刀魍魎は鳳条院一族の人間しか触れない、抜けない、持てない、扱えない、代々伝わる対妖怪退治の刀なんら。花月さんは魍魎と対をなす刀魑魅を持っているんだろも、鳳条院一族と何も関わりのねぇ雨岬がなして持てるかが分かんねんだて…!」
その時煙が晴れ、辺りに赤と金色の眩しい程の光が広がる。
「雨岬!」
其処には、空に首を締め付けられ壁に背中を押しつけられ苦しそうに顔を歪めている花月の姿が。形勢逆転。まさかの光景に一同、呆然。
「雨岬!」
鵺が駆け寄るが、2人の刀が放つ光が強過ぎて、とてもじゃないが近寄れない。




















「軍人に向いてないっつったよな、てめぇ」
「っぐ…う"っ…」
「それはこの空の事だ。俺は違う。…まあそんな事はどうだっていい。てめぇが魍魎を鵺から奪った女の上司だろ?部下の不始末は上司が尻拭いしなきゃいけねぇよな!」
「っあ"…!」
「ははは!いいねいいね苦しむその面!首締められて息できねぇだろ?鵺もそうやって苦しんで死んでいったんだ。だからもう俺は決めた。あいつに手を掛ける前に、あいつに近付く奴全てをぶっ殺すと。先手必勝。何事も早い方が良い。そうだろう、ガキ?」


ドッ…、

「あ?」
高笑いまでして余裕綽々だった空。しかし鈍い音がしてゆっくり目線を下げていく。


ポタ…ポタ…

自分の太股に金色の光を放つ魑魅が刺さっているではないか。しかし痛みに顔を歪めもせず、花月を見る。
「てめぇ…この状況で俺をぶっ刺したら殺られるっつー判断すらできねぇのかガキが」
「っ…、何なんだ…お前は…!」
「俺か?」
ニィッ。白い歯を覗かせて笑う。
「俺は鳳条院空。家帰ったら家系図遡って、ママとよーく見とくんだな。大剣豪の名を」
「なっ…!?鳳条、」


ザッ…!

魍魎の刃が花月の左頬を掠める。
「ほう。よく避けたな」
空を蹴飛ばす事で首を締め付けていた手を外させ何とか回避したものの、ツゥッ…と伝う赤黒い血がポタポタ落ち、地面に生えている草を赤く染め上げていく。


















「ゴホッ!ゲホ!」
今まで首を締め付けられていた為ようやくまともに呼吸ができるようになった花月がむせ返っている背後から、赤い光が放たれる。咄嗟に振り向く。


ドッ…、

「ほう…。こりゃまたすげぇ技だ。さすがは鳳条院一族」
「なっ…!?」
背後をとられた花月に魍魎が突き刺さろうとしたが、寸のところで人間と同じ大きさの紫色の大きな蝶一羽が花月の前に壁となり庇ってくれた。だから、代わりに魍魎が蝶に突き刺さった。


パキッ…

魍魎をもろに食らった蝶は真ん中から真っ二つに割れ、パリン!と散ってしまった。
「たかが訓練中に、殺す殺すって何回も物騒な言葉使わないで」
下駄を鳴らし背後から現れたのは鳥。周りに紫色の小さな蝶達を引きつれてやって来た鳥が先程の大きな蝶を繰り出し、花月を庇ったのだ。
「お鳥姉さん…」
「花月、そいつムカつく。あたしが相手する」
「ほう。女のクセに大した度胸だ、露出女」
「お鳥姉さん何言ってるんですか、こいつは僕が相手しますから下がって下さい!」
花月が言ってもまるで無視の鳥はスッ…、と右手を空へ翳し、目を瞑り…開く。


バサバサ!

紫色の蝶の大群が鳥の右手の平から現れ、空に襲い掛かる。


スパン!スパン!

「嘘…!?」
「はっ!相手にもなんねぇぞ女!」
一瞬にして魍魎で蝶達を斬り刻んだ空に、鳥は呆然。そんな間にも空は花月と鳥へ刀を振り上げ襲い掛かってくるから、花月は左腕で鳥を抱き寄せ右腕には魑魅を構える。
「雨岬やめろてば!!」
花月と鳥2人の前へ両手を広げて、何と鵺が飛び出してきた。


ピタッ…、

空は刀を止める。


















「雨岬おめさんなした?!おめさんはそんな奴じゃねぇろ!なしてその刀を持てるかとかそんな事今はどうだっていいんら。おめさんはそんな…そんな、見境無く人を殺そうとするMADみたいな奴じゃねかったねっか!!」
「鵺…お前はやっぱり気付いていないんだな…」
「な、何らて?気付く?何を…、」
「それでも良い…。何世代にも渡ってやっと見付けたんだ…今度こそお前をあんな惨い最期になんてしない。誰にも殺させない…。俺がお前を…」


カラン…、

「雨岬!?」
魍魎を落とすと、ふっ…と意識を失い倒れた空。駆け寄る鵺とミルフィ。
一方。異常とも呼べる光景を目の当たりにしたハロルド達花月達は呆然。
「何だったんだよあのメガネ?あいつあんなにめちゃくちゃ強かったか?」
「いや…何が起きたのか私には分からない…」
「でも何だかあの雨岬空君は雨岬空君じゃなかったよね…?」
「はあ?ハロルドてめぇ何、漫画のキャラみてぇなぶっ飛んだ事言ってんだよ!んな事あるわけねぇだろ。メガネはメガネだっつーの!」
「だ、だからって殴るなんて酷いよアリス君!」
「花月、大丈夫?」
「ありがとう、お鳥姉さん…」
「あの子…何者…?」


































17時58分――――

「雨岬…なしたんらて、おめさんは…」
日本支部内の空部屋内。息はしているがまだ意識の無い空は、布団の上で眠っている。
オレンジ色の夕焼けが射し込む和室の室内で鵺は正座をして、友が目を覚ますのをただただ待っていた。
























to be continued...










1/1ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!