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終焉のアリア【完結】
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購買に昼食を買いに行く生徒や、他教室へ昼食を食べに行く生徒がいる為2―C内はガランとして、一気に人が減った。残っているのは眼鏡をかけたおとなしそうな男子数人グループや女子数人グループ。または、1人で食べる男子生徒や女子生徒。
「リベイル」
「はいっ」
教科書を机の中へ片付けて席を立った空に呼ばれ、リベイルは可愛い声で返事をする。
「悪い。今日こいつと昼飯食うから。今日だけだから。ごめん」
「分かってますっ!」
「鵺。弁当2人分、ちゃんと持ってこいよ」
「え、あ…おい!待ててば雨岬!」
そそくさと教室を出ていってしまうから、鵺はザックの中から2人分の弁当箱(しかも何故か重箱)を慌てて取り出す。
「仲直りできて良かったですねっ♪」
「え?あ…べっ、別に嬉しくなんてねぇんだろも!」
「うふふ、いってらっしゃ〜い」
教室に残ったリベイルは満面の笑みで2人に手を振るのだった。























廊下――――

空と鵺が校舎屋上へ去っていった姿を見ているスーツ姿のいかにも不審な2人。アリスとファン。
「何?あの変な人達」
「不審者?先生に言った方が…」
「でもちょっとかっこ良いよね!」
廊下で仁王立ちの2人を生徒達はヒソヒソ話しながら視線を送る。なのにアリスはそんなもの全く気にしていない。(ファンは少なからず気になっているようだが)
「フフフ…はーはっはっは!ついに追い詰めたぜクソガキ共!今にその、人間に化けた面必剥がしてやっからな!!」































屋上――――

「つーか…何で重箱なわけ…?」
誰もいない静かな屋上。
快晴の下、少し風が強いが、その風が心地好い涼しさでもある。
早速、屋上のコンクリートの上に腰掛けた2人。空は用意された弁当…しかも重箱のそれを前に、目の下をピクピク痙攣させて苦笑い。一方の鵺は見た目に似合わず、その重箱の一段目を既に平らげている。
「何か文句でもあるけ?!せっかく…モゴモゴ、人が…モゴモゴ、作ってやったって…モゴモゴ、がんに!」
「いいから、食いながら喋るのはやめろ!!…はぁ。こんなでかい弁当、誰が食えるっつーんだよ。正月のおせちじゃねぇんだっつーの」
パチン!割り箸を割り、何だかんだ言いつつも空が弁当に箸を付けてくれた事を横目で見ながら鵺は嬉しそうにしていた。
「雨岬」
「んー?」
「さっき、そのっ…えっと…えっとらな!!えぇっと…」
「ああ、別に。いいよ。つーか、ごめんな」
「え"?!な、なして急に謝ってんだて?!おめさんが謝るんて明日土砂降りになるねっか!」
「はあ?お前、人が真面目な話しようとしてる時に何だよそれ。だから、さっきあのくらいの事で俺がイライラしてごめんな、つってんの」
「〜〜っ、べ、別に…!」
「一応お前に言っとくけど俺、結構周りから"怒らない人"とか"クールな人"って言われるんだけど、それは広く浅く付き合ってる奴らに対してであって、友達には結構…何つーのかな。本音で話したりするし、俺短気だからまたイライラしたりする時があるかもしれないけど、その時は…まあ、注意してもらえると助かるっつーか。自分で気付けりゃ一番良いんだろうけど。だから、俺がイライラしてるが時あってもお前が心配したり落ち込む必要無いから。つーかさお前もいい加減、人の顔色伺って態度変えるのやめろよ。俺に対してムカついた時は思い切り怒ったって良いんだしさ。友達だから…って、恥ずっ…何言ってんの俺…ってえ"?!何!?鵺お前、何で泣いてんの?!」
「なっ、泣いてねぇて!!ひっく、どこに目ぇ付いてんだ、ひっく、おめさんはっ…!うっ…うぅっ…くそーっ!!雨岬!!」
「はいっ?!」
ポロポロ涙を流しながらも指差してくる鵺に、空は目をギョッとする。
「おめさんあんまそんげ話すんなてば!お、俺、な、なな…涙脆いんだすけな!!覚えとけ!すっとこどっこい!!」
「…!はは、何だよそれ。分かったよ。覚えておくわ」
ポン、と空が頭に手を乗せた時鵺は下を向いて肩を上下にヒクヒクさせていたから、空は黙って、隣で空を見上げながら弁当のおかずを口にする。





















「良い天気だなー」
「雨岬…」
「何だよ」
顔を向けてもやはり鵺は下を向いたまま。
「俺…学校、まともに行ってねがった言ったろ…」
「ああ。言ってたな」
「…小学4年の時不登校になって、それから行ってねかったんら」
「…そっか」
「人とMADの子供らろ?その頃はまだMADの存在を皆が知らなかったすけ、俺がたまたま怪我した時に流れた血が緑色だったのを見た奴らが、"化物の子だ!"って広めたんら。だすけ、クラスメイトなんて当然。教師からもいじめられて不登校になったんだろも、人間の俺の父親からは小せぇ頃から虐待受けてて。だすけ、不登校になったらなったで家に居れば学校行ってた時より父親から暴力振るわれたんだて。だすけ、逃げるように学校へまた行き始めたんだろも、そしたら今まで陰口程度だったクラスメイトも暴力振るい始めて…。何遍も自分で死のうとしたんだろも、やっぱり死ぬのは恐くて…。でも、学校行くのも家に帰るのも…もう生きる事が恐かったすけ、結局お祖母ちゃんに引き取ってもらったんだろも…」
「お前の親父はどうしたんだよ」
「…詳しくは分かんねんだろも、前、知らない女の人と小せぇ子供と3人で楽しそうに町で買い物してるのを見たすけ…」
「…そうか」
鵺は弁当箱をコンクリートの上に置くと、体育座りをして顔を伏せる。
「俺にはあんな優しい顔一度も見せてくんねかったのに…。俺には"鵺"っていう不吉な名前まで付けたのに、俺には毎日死ね死ね言いながら殴ってたのに…。何で新しい子供にはあんなに優しい顔見せるんらて…。何で、手も繋いでやってるんらて…。俺なんて小せぇ頃手なんて繋いでもらった事ねかったってがんに…手なんて何回も包丁で切られたってがんに…っ…」
「あのさ」
「っ…、ぐすっ…」
「そんな屑なクソ親父の事なんか忘れりゃ良いじゃん。あいつ今頃くたばってるかなー?とか、あいつこそMADにぶっ殺されりゃ良いのにとか、何で思わねぇの」
「っ…なの…そんなの、俺の親だからに決まってるねっか!!あんな父親だろもどこ探したっていねぇ、俺のたった1人の親だからに決まってるねっか!!」
「そう言うと思ったけどさ。お前のそういうところを周りの馬鹿共が調子に乗って悪口言ったりいじめてくるわけ」
「っ…、ぐすっ…」
空は完食した1段目の重箱の上に、2段目の重箱を乗せる。
「それに。あきらかに相手が悪いのにお前が悩んだり考え込んでると、マジで病気になるからな。まあ、今俺にぶっちゃけたみたいにさ。嫌な事は吐き出すようにしろよ」
「……」
「ま、結論を言えば。お前が弱虫で良かったわ」
「…?」
鵺は顔を上げ、空は白い歯を覗かせ鵺の方を向いてニカッと笑う。こんなに笑顔の彼は滅多に見れないだろう。
「お前が死ぬのが恐い弱虫だったお陰でこうして今、一緒に飯食っていられるんだからさ。…ってクサいか」
「…!っ…うっ…うっ…」
鵺の瞳は揺れ、今にも光るモノが零れ落ちそうだからまた顔を伏せ声を押し殺した。肩をヒクヒクさせて。一方、空は隣でまた弁当を食べ始める。
「まあ、俺だっていじめられた事あるからなー」
「え?雨岬がけ?」
パッ、と顔を上げた鵺の頬には涙の跡がある。
「そーそー。中学の頃だったかなー?俺なんてさ右目は黄色で左目は赤色じゃん。まあその頃はMADなんて誰も知らなかったからMADだ、とは言われなかったけど"キモい"とか"何で両目の色が違うんだよ"とか、よーく言われたわ。俺はそういうの無視できる性格だけど、無視できる奴とそうじゃない奴ってのはいるからな。でもさ、お前もできる限り、馬鹿の言う事は無視できるようになれよ。大人になったらもっとそういう嫌な事あるかもしれないんだからさ。っはー!食った食った!すごくね?!これ、3段全部食ったんだけど!」
空になった重箱を見せる空。鵺は目をぱちくりさせてから、満面の笑みを浮かべる。
「美味かったろ!お祖母ちゃんが手ぇ悪くなって料理作れねくなってから俺が作ってたすけ、料理は得意なんら!」
「へぇ。そうなん。まあ確かに美味かったけどな」
「だろ!」
えっへん!と言わんばかりに腰に手を充てて得意気な鵺。昨日の暗い彼とは別人なくらい元気になっているから、笑む空。
だが、知ってしまった事を知らないフリはできなかった。箸を閉じ、重箱の蓋を閉じる。























「雨岬。そういえばおめさんは隣の席の子といっつも昼飯一緒に食べてるんけ?さっき、そんな風な事話してたろも…。もしかしてあの子、おめさんの彼女なんけ?」
「違げーし。あいつも友達いないから、席隣だし一緒に飯食ってるだけ」
「ふぅん…そうなんけ」
「鵺」
「何らて。あ!そういえば次の授業何ら?俺、体育は得意だすけ、体育だと良いんだろも。英語は苦手だすけ英語だったらどうし、」
「同じ部屋の兄弟にいじめられてるだろ」
「え…」
一瞬にして鵺の表情が暗くなり目を反らすから、これで確信する。
それ以前に、ダーズ兄弟の会話を聞いたからそこで確信していたも同然だが。
「……」
「今日宿舎出る時、そいつらがお前の悪口言っててさ。ぶん殴っといた」
「っ…!なして余計な事すんだて!!」
「そう言うと思ったよ」
「え…」
空は真剣な顔付きで向き合うから、鵺は目を反らしてしまう。
「そういう事したらまたいじめられる、って言いたいんだろ。だから駄目なんだろ?お前のその気持ちも充分分かる。けどな、そうやってやり返さねーからいつまでもお前が苦しい思いをするんだよ。まあ、今回はお前に断りを入れずに勝手にぶん殴って悪かったけど…。俺は根本的に、争い事とか面倒くせーから介入しないタチなんだけど、間違ってる奴が嘲笑ってんのが一っ番ムカつくから。お前がやり返さないんなら、俺に言いに来い。俺がやり返してやる」
鵺は目を反らしたまま、肩を震わせる。
「…っ、そ…そんげのかっこ悪いねっか…!」
「なら、頑張ってやり返してみろ。それでも駄目なら俺に言え。それならかっこ悪くないだろ。ただ、今までみたいに、何も間違っていない悪くないお前が我慢するのだけはもう絶対すんな。人とMADの子供だから何だよ。お前は他人を傷付けないけど、人と人の子供の奴らは他人を傷付ける。そいつらの方が余程MADみたいだろ。MADの血を引いてるからとか、もう気にすんな。俺はお前の事ちゃんと、人間だと思ってるから。これから先もな」
「雨さ、」
「MADの血を引いてるからとか、もう気にすんな?そりゃあダメじゃね?MADの血を引いてる奴は即刻ぶっ殺されなきゃなんねぇよなァ?!」
「…?!誰だ!?」


ドンッ!!

「っぐ…!?」
男の声がして振り向いた次の瞬間、屋上の扉が吹き飛び、同時に屋上出入口のコンクリートが破壊された。


























壊れたコンクリート片が辺りに煙幕のように舞うから空と鵺は咳き込む。
「ケホッ、ケホッ…っ…、な、何らて今のは…」
「今の?今のはEMS軍アリス中尉のMAD撲滅作戦の合図だぜ、クソガキ!!」
「!!」


ドンッ!!

「鵺!!」
また爆発音がし、灰色の煙が立ち込めたから空が駆け寄ろうと足を一歩前へ踏み入れるのだが……
「っ…?!」
背後から、首を筋肉質な太い腕で拘束され身動きがとれない。睨み付けた視線を空は後ろへ向ける。空の赤と黄の瞳に映ったのは長身の男…ファン。
「手荒にしてすまない。しかし、MAD抹消を理念とする我々EMS軍としてお前達を野放しにしてはおけない」
「っ…、誰がMADだ…ドアホ軍人!!」


ドンッ!!

「…?何だ、あの赤い光は…」
――鵺…!――
爆発音がし、同時に辺り一帯が血のように真っ赤な光に包まれた。この光の正体を知らないファンは眉間に皺を寄せ不思議そうにしているが、この光の正体を知っている空はただただ焦る気持ちに身体が追い付かない。
灰色の煙が晴れたそこには赤い光をまとった刀"魍魎"を右手に構えた鵺と、対峙しているアリスの姿。
「あの子供…何だあの光は…?やはりMADだったのか」
「鵺はMADじゃねぇ!!」
「……」
――くっそ…!かっこ悪ぃのは俺の方じゃんか…!身動きすらとれないなんて…!――



























一方。
刀を抜いた為、鵺の目付きはさっきまでの年相応の少年らしいものから一変。戦場を駆ける鋭い目付き。まさに、鬼の形相。弱々しい面影が無い。
一方のアリスは初めて見る魍魎の力と光を、手をかざしながら楽しそうに眺めている。八重歯を覗かせるくらい口を大きく開いて笑っている余裕っぷり。
「へえ〜。すっげーじゃん。何、この光?その刀抜くと出んのかよ?つーか、てめぇの目の色MADと同じ色じゃん!あ〜分かったぜ?これがてめぇの真の姿なんだろ、クソMAD!はっは〜ん、なっるほど。遂に化けの皮を脱いだってーわけかっ!んじゃあ、ようやく人の面を剥いだって事で!原型留めねぇくらいぶっ殺してやるぜ人殺しクソMAD!!」
アリスはその鋭い目をつり上げ高笑いすると、何と、自分の左胸から真っ黒い剣を取り出したではないか。このフィクション小説のような展開に空は空いた口が塞がらない。
「行くぜ!!」


ドン!!ドン!ドンッ!!

振り上げたアリスの黒い剣と、鵺の魍魎とが激しくぶつかり合う。
「ハッ…!」
やっと我に返った空。脳裏では、あの日の電車内の惨劇とグレンベレンバの言葉が思い出された。

『って〜事は、鵺ちんもその半分の寿命って事も覚えておいてねっ。あと、蘇生は一人一回しかできない事もお忘れのないように☆』

「なっ…?!くっ…!」
何と、ファンの太い腕を力付くで振り払い、鵺の元へ駆け出していったのだ。これにはファンも逃がしはしまいとポーカーフェイスを保ちつつも内心焦り、空を追い掛ける。

























一方のアリスVS鵺。
「へぇ。やるじゃん。つっても俺、本気の0.01%も出してねぇけどなァ!ん?」
アリスの視界端に入ったのは、空がこちらへ駆けてくる姿。鵺は気付いていない様子。
「チャーンス」
八重歯を覗かせ、悪魔の如くニヤリ笑うアリスは鵺に向けていた刃を空へ向けた。そこでようやく空の姿を捉えた鵺は我に返り慌ててアリスを追うが、スピードに追い付けない。
「雨岬、避けろ!!」
「遅っせぇよ!てめぇから先に首とってやるぜクソMAD!!」
振り上げたアリスの黒い剣に空が映る。


ドン!ドンッ!!






































爆発音がして灰色の煙が晴れたそこに居た人物の様子に、ポーカーフェイスのファンが目を見開き慌てて駆け寄る。
「アリス!!」
そう。そこには、左頬から赤い血を流し、左腕にも傷を負ったアリスがよろめいていたのだ。今の爆発音は鵺の魍魎のもの。だから、アリスは負傷してしまった。
「アリス、大丈夫か」


パシン!

ファンの手を乱暴に振り払うと彼を睨み付ける。
「うるせぇよ、あの刀の斬れ味を知りたかっただけだ」
「アリス…」
「何だよ!辛気臭ぇ顔してるとてめぇの首もぶっ飛ばすぞ堅物ヤロー!オラ!あのガキ共追うぞ!」
「…ああ」
黒髪でゴーグルをかけた口が悪く荒々しい性格のEMS男性軍人中尉の名は『アリス・ブラッディ』
その隣の2m越えの長身で茶髪の三編みをした寡黙なEMS男性軍人少尉の名は『ファン・タオ』
――クソッ…!MADの分際でふざけた事しやがって!ぜってぇぶっ殺してやる!ぜってぇ!!――




























to be continued...











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