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なんだかんだ言っても、怒る晶さんも、拗ねる晶さんも可愛い……。

「今はだめ」

「だめってなにが?」

そう聞きながら抱き寄せた晶さんの首筋に顔を近づける。

「まだ話の途中だからだめっ」

「話、終わったじゃんもう…」

「まだだよっ」

晶さんは巻き付く俺の腕を無理に剥がした。

「──…っ何が気になるわけ?香水のことも、勃起した理由も話したじゃんっ!?」

「あの舞花って女と夏希ちゃんちゃんと終わってる!?」

「は?──」

晶さんは訳のわからない疑問を吹き掛けてきた。

「最初に喫茶店に来たときも意味深だったじゃんっ夏希ちゃんにべったり寄り添っててさっ…夏希ちゃん何も拒否してなかったじゃん!」

「そ──…」

……それはアイツより晶さんのミニスカに夢中だったから気付かなかっただけじゃんっ…

「なんか信用ないよ夏希ちゃん…」

「なっ!?」

「口先で別れたって何度言われてもこれじゃ…」

「………」

「あの舞花って女、まだ恋人気分のままじゃんっ」


「………」

「スキャンダルの為にセックスするんだから結構本気じゃん二人してさっ…」

「………」

「でっち上げのつもりが本気になることなんてあるもんね、ミイラとりが何とかってさっ…」

「………」

「なんで何も言わないんですか?」

「………半分当たってるからです…」

「──…っ…」

自分で散々言ってくれちゃってなに驚いてんだこの人は?




思わず口を歪めて笑いがもれる。晶さんはそんな俺の顔付きに少し驚いたようだった。


「確かに晶さんの言ったこと半分当たってるよ」

「…っ…──」

「実際ヤってみたらさ、中々いい感度してるしさ、感じやすくてイキやすいってのは男からしたら魅力あるよ──」

「………」

「俺もフリーだったから気がねなく付き合えたし舞花も従順で奔放なセックスするから俺好みだったし」


「……っ…」


「このまま付き合っていいかな〜って思ったしね…」

「ほらやっぱりっ…」

「でも晶さんと知り合ったじゃん…」

「───」

「俺、晶さんと知り合っちゃったじゃんっ」

「……──」

「今は晶さんに夢中じゃんっ…なんで俺責められてるわけ!?」


「………」

「俺なんかより晶さんの方がよっぽど信用ないんですけどっ!?」

「……っ」

「背中にキスマークなんかつけて元カレと手を繋いで花火みる晶さんの方がよっぽど信用がた落ちなんですがっ!?」


「──…」

「なにその顔?反論したい?いいよして?俺、晶さんが浮気したって確信してるし…」

「……っ…」

晶さんは目を見開くと直ぐに下を俯いた。噛んだ唇はその先の言葉を必死に探しているようにも見える。


あーあ…

言いたくなかったのに…

晶さんに言わされちゃった……


言ったら晶さん傷付けるって分かってたから今まで我慢してたのに──

晶さんが自分のこと棚に上げて言いたいこと言ってくれちゃうから…

俺だって──って思うじゃん……

「どうしたの急に黙って?気付かれてて驚いた?自分だけ身は潔白だっていいたかった?…なんか否定しなよ?」

固まったまま瞬きもせずに床を向いたままだ──

晶さんはたぶん俺のキスマークの指摘にショックをうけた様だった。




「酔ってたとこに…」

ボソリと晶さんは小さく呟く。

「………」

「酔ってたとこに無理矢理だったからしょうがないじゃんっ…!」

晶さんはそう声を張り上げた。

「無理矢理?」

「……っ…」

「はっ…無理矢理!?」

思わず笑った俺を見上げて晶さんは直視する。

どうしよう──

言葉が止まらない。

聞きたいことが山ほどあったのに

でもそれは今は絶対に聞いてはいけないことであり…

今のこの感情のままぶつけたら絶対にあとに引けなくなるのに──

「じゃあなに?」

「………?」

俺は切り出してしまった…

「…っ…無理矢理ヤられてキスマーク付けられてっ…無理矢理帰る日にち延期してビアガーデン行ってっ…無理矢理、手を繋いで楽しそうに花火観たわけだアイツと!?──」


「──…!」

「すごい無理矢理のフルコースじゃんっ…嫌よ嫌よも好きのうちってやつ?…晶さんすごいね。帰り待ってた俺のこと忘れて楽しんでるしっ」

「………」

「そういうのは無理矢理って言わないよ…」

「……っ」

「それってさ、“合意の上”て言うんだよ…裁判かけたら負けちゃうよ?どんなに酒で酔って犯されたって訴えても…」

「………」

「違う?…晶さん都合悪くなると黙りんぼなんだ?ズルいよね?」

「……っ…」

口を結んだまま反論出来ずに俯いている。


ほら、真っ直ぐに晶さんのこと想ってる俺に前科者の晶さんが敵う筈ないじゃん…

晶さんが妬きもち焼く以前に、元彼との浮気赦しちゃえるくらい晶さんにベタ惚れな俺に晶さんが敵う筈もない──


「ねえ、晶さん…俺聞きたいよ」

ドアに両腕を付いて晶さんの行き場をなくしてやる。
間近で晶さんを見つめると晶さんはいたたまれずに顔を俺から背けた。

「晶さん…聞かせてよ?アイツとどんな気持ちで手を繋いでたかさ?」

「べつに気持ちとかっ…」

「どんな気持ちで帰る約束破ってアイツの傍に居たとかさ…」

「……っ…」

「俺が迎えに行かなかったらどんな風に二人はなってたんだろうって……考える俺の気持ちってわかるっ?……聞かせてよそれについてもさ」

「………」

晶さんは責められて思いきり怯えたような表情を見せていた。

「ねえ、晶さん…俺が怖い?」

「……っ…」

「嫉妬で狂った俺って怖い?」

「……怖くなんかっ…」

「じゃあこっち見てよ」

「いやっ」

無理に顔を両手で挟んで俺に向けようとしたら晶さんは思いきり抵抗してきた。
「やめっ…」

「見ろよっ俺がどんな顔してるかっ!──」

「……っ──」

「どんな顔してる?」

「……っ…」

「どう思う?俺の顔見てさっ…」

「……すごく…辛そう…」

「………そうだよ…晶さん全然見ないから気付いてくれないじゃんっ」

「…ごめ…っ」

「俺の必死な気持ち全然わかってくれないじゃんっ」

舞花のことで妬きもち妬いてくれたのはホントはすごく嬉しい。

でも信じてもらえないことはすごく辛い──

こんなに想ってるのになんで疑うのかが理解できず俺は片手で頭を抱えた。



「晶さんは…俺がどうしたら納得いくわけ?…」

「………」

「俺、今日は晶さんと一緒にいたいよ」

今、距離を置くのは危険だ──


俺の中で無意識に警報が鳴り響く。

「セックスしなくていいから疲れてるなら晶さんと添い寝したい…それだけでいいから一緒にいたいよ…」

「………」

「なんとか言ってよ…」

そう言ってすがるように晶さんを抱き締めたら今度は拒まなかった…

俯く晶さんの顔を窺うように覗き込み腰を屈めてキスをする。

戸惑って開かないままの唇をゆっくり舌で押し開けて侵入させながら俺は吐息を漏らした。

少しずつ濡れた舌先で晶さんの口腔の入り口を回遊する。

様子を見ながら唇を重ていると不意に晶さんの携帯電話がテーブルの上で震えていた。

短い着信。

「出なくていいの?」

「たぶんメールだから…」

唇を合わせながら聞いた俺に晶さんは俯いて答えた。

「メール誰?」

「………」

聞かなきゃよかったことを聞いた俺が悪かったのかも知れない──…

せっかく仲直りできたと思ったのに…



俺の問いに無言で返す晶さんが気になって、俺は抱いた晶さんを手離すと取ってきた携帯電話を晶さんに差し出した。

「メール…見なくていいの?」

なんでこんなに拘ったんだろう…

「後で見る…」
「返信しなくていいの?俺、待つよ少しくらいなら」

なんでスルーしなかったんだろう…

見せ掛けの余裕を見せた筈がまさかあんな取り返しもできないことになるなんて──


携帯を開くことを何気に拒んだ様子の晶さんに気付かずに、今すぐにでもがむしゃらに抱き締めたい欲望を我慢して余裕のある男のフリをした。


すぐ傍で携帯を開く晶さんを見つめる俺に晶さんは戸惑っている。

「どうしたの?」

「なんでもない」

晶さんはそう言って開いた携帯の画面を傾かせて俺から遮った──


そんなことをされたら覗きたくなくても身体は勝手に意思とは関係なしに覗こうとするわけで……

人間の心理だ。

隠してあるものは剥いででも覗きたくなる…

とくに男ほど、そういった探求心は強くある──


そうやって覗いてしまった俺の目に送信主の元彼の名前が映っていた──



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あきゅろす。
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