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「快適に暮らせてるなら言うこたないが、楠木とは連絡取り合えよ!」
「わかったよ」
「あと、当分女がらみのスキャンダルは注意してくれ、今回のでっち上げが無駄になるからな!」
「…──…っ…」
「頼むぞ!!」
「う…わ、かってるよ…」
念を押されて電話がプツリと途切れる。
「………」
微妙に焦りが浮かんだ。
スキャンダル関係全般──
当分は御法度だな…
じゃなきゃ…
俺とデキてるなんて知れたら晶さんが巻き込まれる──
彼女は一般人だから
スキャンダルを踏み台にして乗し上がろうとする芸能人達とは違うから──
「冷凍のシャケがあったよな、バター蒸しにするかな……」
時刻を今一度確認するとふと浮かんだ今夜のメニューを俺は呟いた。
・
守りたい人ができちゃったから──
これからのことをつい真剣に考える
これって進歩?
仕事だけこなしていればよかった生活から一変して
それ以上の色んな物事を想像する
俺の気持ちは君に向かってる
初めて乗り込んだ行き先未定のバスみたいに
揺られてるあいだずっとドキドキが止まらない
今の俺は正しくそんな状況
君はいったいどこのバス停で待っていてくれてるんだろう──
「…なんて…俺って詩人?ポエマーだな…」
自分の感情に浸りながら解凍したシャケをアルミに包む。
冷凍されたシメジを振りかけたらバターと調味料で味付けしてオーブンへ…
出来上がるまで、彼女がどんな顔して料理を眺めるかを想像しながら俺は電子レンジを見つめていた。
・
ガチャ──
「──…っ…あ、びっくりした…」
背後で音がして振り向いた瞬間驚いた。
何時ものただいまの言葉がなかった為に、気配だけを感じて気持ちちょっとだけびびった。
彼女は玄関先で靴を履いたまま鼻をクンクンさせている。
「なに作ったの?」
無表情で聞いてきた彼女に少し戸惑った。
俺の想像だともっと“うわー”とか“あれ〜?”とか言ってニコニコしながら尋ねてくる姿を思い描いていたわけで、どこかしらテンションの低い彼女の様子が少し引っ掛かっていた。
「シャケのホイル蒸し作ったけど食べる?」
絶対食べるっていうと思って作ったけど……
彼女は相変わらずなテンションだ。
「バター使った?」
「うん」
「………」
お昼前の賄いがオムライスでバター
五時の賄いがきのこパスタでバター……
部屋に帰ってバターの匂いに包まれる──
胃から込み上げてくるものがある。。。
「賄い五時に食べたから今日はいらない…」
「……そ、か」
あれー…
なんかショックが……
笑顔が見られなかったことに膝から崩れ落ちそうな打撃を受けた気分だった……
・
当然食べてくれるだろうと思ってた料理を前にしてがっかりと肩を落とす。
しょうがないからラップをしてそのまま明日の食事へと冷蔵庫にしまった。
帰ってくるなり彼女はソファに腰掛けテレビのリモコンを無言で操作し始めた。
なんか気持ちのやり場が……
無視されたような空気の流れ。
無性に淋しさが込み上げる。
帰り、ずっと待ってたんだけど──
思わず彼女の背中にそう言い掛けた。
旦那を待つ専業主婦みたいな感情だ。
なるほど、これは結構辛いな…
旦那に振り向いて貰えない侘しさが何となくわかる気がする……
「俺、浮気に走っちゃおかな…」
「………」
あれ?無視ですかっ!?
それとも聞こえなかった!?
呟いた言葉に笑いも怒りもしない。
「……晶さん」
しょうがないから構ってアピールを決め込んだ。
ソファで胡座をかいてテレビを観る彼女の狭い後ろに無理矢理座り、背中から抱きすくめるように抱っこした。
肩に顎を乗せて甘え方を真似て見せたけど画面に食い付いたままやっぱり無反応──
悔しいからそのまま襟足に唇を押し当てて吸い付いてやったら
「邪魔。テレビ観たいから」
「……──」
目も合わさず冷たい言葉が返ってくる。
・
突き放された状態に言葉が見つからない。
無性に切なくて黙ってテレビに向かう彼女の肩に額を預けて唇を押し当てたらふと呟いた…
「あんまり触らないで」
「──…っ…」
「………」
「なにそれっ…」
「………」
「どういうこと?」
「………」
「晶さん!?」
強いショックを受けた…
完全に拒否をしたような彼女の声に胸が震える。
「夏希ちゃん…芸能人だから…あまり噂たってもよくないでしょ?」
「──…っ…なに言ってんの…っ」
唖然とした──
なんでそんな平然と言えるんだろう──
俺が今、どんな顔してるか見もしないで
なんでこんな平気にっ…
「夏希ちゃんほとぼり冷めるまでのお客さんだから──」
「───…」
「家がないわけじゃないし、落ち着いたらここは出ていくでしょ?」
「何考えてそんなこと言うわけっ…──
俺達、恋人じゃなかったっけ?
キスたくさんしたら恋人になるって約束したよねっ!?」
だからあれだけ不安だって言ったのにっ──
気持ち悪いっ
なんか心がぐちゃぐちゃだっ
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