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3P

窓ガラスから外を眺めると夏の夕焼けが凄く綺麗だった。

見慣れていた商店街の懐かしい景色──

この辺でコーヒーショップを開く自分の姿を思い浮かべる。。。

その店はたぶん、ほっといていても仲のいい同級生達の溜まり場の様になって毎日笑いが絶えない──


はっきりとそんな未来が目の前に浮かぶ──


「ここへ…帰って来ようかな……」


勝手にそんな呟きが漏れていた──

健兄はほとんどあの家には居ない。

だだっ広いマンションで一人は結構淋しい


淋しいのは嫌いだ


皆と一緒に居たい…


皆の笑い声を
聞いていたい──


「ねえ、晶!」

電話を手にした多恵ちゃんが入り口から呼び掛けた。

「帰るの明日にしない?今からビアガーデン行こうって丸山が──」

あたしはこの誘いに間髪入れずに頷いていた──



花菱百貨店の屋上で開かれる納涼フェスタとビアガーデン。

ステージでは本日の催し物のファイヤーダンスなるものが披露されている──


「明日バイトじゃなかったのか?」

丸山と先に着ていた高槻がそう話し掛けてきた。

まるで企んだように男女ペアで席に座る。

「喫茶店は10時からだから始発で帰れば充分間に合う」

あたしは隣に座った高槻にそう言った。

「そか…」

そう短く返した高槻は柄にもなくほんのりと頬を緩めて嬉しそうだ。

隣り合わせの席が微妙に近い気がする…

高槻は急に膝にあったあたしの手をぎゅっと握った。
急なことでドキッとしていると多恵ちゃんが口を開いた。

「八時から花火あるらしいよ」


「えっマジ!?やるじゃん花菱」

「友達かよ?」

多恵ちゃんの情報に驚くあたしに丸山がツッコんだ。

「うちが今年から花菱の協賛で入ったから。親父が病気と不景気の厄払いだって派手にやるんだと…」

「高槻んとこの花火?」

「うちだけじゃないけど出資はデカイ」

「なる、それでビアガーデンのチケットあったんだ…」

食べ物のチケットも束で沢山ある。多恵ちゃんは好きに色々と料理を取ってきていた。

高槻はあたしの手を握ったまま枝豆を食べてはビールを口に運ぶ。

「ちょっとは傾いた?」

「なにが?」

急な高槻の問い掛けにあたしは顔を向けた。



高槻はニヤリと笑う。

「気持ちが俺の方に」

「……」

「なんだよその無表情は?」

言われてハッと思い出していた──


夏希ちゃんのメールに返事してないっ…

あたしは高槻の手を振りほどくと慌てて携帯を開いた。


届いてたメールを今一度開く──



⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
愛してる

浮気したら俺泣くからね
( p_q)

できれば予定より早く帰ってきて(;o;)


⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒


「………っ」

夕べ届いてた泣き顔の顔文字で綴られた夏希ちゃんからのメール。

高槻に押し倒されたあとだけに、気付いても返事が出来ず保留のままだった…


どうしよう──


そう思いながらあたしはメールを打った……


⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒

あたしも愛してる


⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒

嘘臭いだろうか──


こんなに遅くなってから打ち返したメールなんて…

愛が足りないってまた怒られそうな気がする…


でもしょうがない──


あたしなりに色んな心の葛藤があって…

なんかいままでの人生にないってくらい色々悩んでっ──




「うあぁぁっ…掛かってきたっ!…」


居るだろうか?

恋人からの着信にこんなにビビる奴って──


まさしく怪しいことやってますよってな疚(やま)しい気持ちの現れじゃないだろうか?

メールを送信した直後に掛かってきた夏希ちゃんからの電話をあたしは中々取ることが出来ない…


電話を握ったままあたふたしているとプツ──っと着信音が途切れていた。


「どうしよう…」

呟くあたしを多恵ちゃんが気にかける。

「どうしたの晶?」

「あ〜ちょっと…電話してくる…」

あたしは皆から離れて静かな場所を捜した。

意を決して夏希ちゃんに電話をかけ直す。


「もしもし、晶さん?」

「は、い…」

「…何してんの?──」

「え──…と…」

口ごもるあたしの背後で今回目玉の催しもの。打ち上げ花火が上がり始めていた・・・



タイミング悪すぎ──っ…




「今、新幹線に乗ってるはずだよね?」

「……ぅ、…はい…」

夏希ちゃんの声のトーンの低さにあたしはビビる。

「窓からどんな景色が見えてるのかな?」

「あー…と…真っ暗な夜空が」

「夜空…そう…」

「………」


「いいね…夜空と花火──…って」

「……そっ…そだね」


「どこで見てるの?花火を──」


「花菱デパートの屋上…」

「……晶さん…」

「は、い…」

「いいよ…楽しんでて…俺ももうすぐ仕事終わるから──」

そう言った夏希ちゃんの電話の向こう側で“藤沢さん”と呼ぶ声が聞こえていた。


「じゃあ…またあとでね」

相変わらず低い声のままそう告げると夏希ちゃんは電話を切った──


「…帰ったら…なんて言い訳しよう…」


あたしは電話を見つめたまま小さくそう呟やいていた。



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あきゅろす。
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