3P
「………」
「晶…っ…」
「…あ〜…なんれ…こんらことに……っ…なってん…ら……やめれ、らかつっ…」
身体が重い
重いけどふわふわ頭は軽い──
腕が空を游ぐようにたまに動く。
ベットに押し倒されて上に覆い被さる高槻を叩いてもビクともしない。
拒否の言葉を発しても…
力が入らず腑抜けた声になってしまう。
酒に酔った熱い肌を高槻の舌が撫でる。シャツから覗く首筋に唇を這わせられ、酔いで火照る躰は素直に疼いていた──
「ああっ…やめ、れ…っ」
なにコイツ──
セックスの腕が上がってる!?
御互い初めて付き合った者同士だった二人のセックスの経験値はもちろん浅かった──
ただ猿のように腰を振る。
愛撫をするなんて余裕の無かったある意味初々しい時代──
それからの四年という年月の空白はやっぱり重かった──
「晶…っ…お前の声ってかわいいな…」
「らにいって…っ…」
吐息を漏らしながら耳を舐められて思わず喘ぐあたしを高槻は赤い顔で見つめてくる……
やだ…
やめてよそのラブラブ光線っ…
思いきり好きだって視線で見つめては愛撫を繰り返す高槻にあたしは打つ手がなかった。
・
はあっ…
夏希ちゃんごめんっ…
酒がっ──
酒が悪いっ…
今の状況を詫びながらあたしはなるようにしかならないこの状況に嘆いた。
「もっ──…水ほしっ…」
こんな時でも躰は正直だ。喘ぐから余計に喉が渇く。
クラスメイトの企みで酒浸りにされた躰は水分が欲しくて欲しくてうめき声を上げる。
高槻は冷蔵庫からミネラルを取るとあたしの口に含ませた。
高槻の口腔で程よい温度になった水があたしの喉に流れ込み焼けた喉を潤していく──
遠い目をしながらただ水を飲む──
「足りない」
そう一言いったあたしの口に二口目の口移しが注がれた……
「晶……」
唇を放して名前を呼ぶ。
濡れた唇で頬にキスをすると高槻はまた水をあたしに含ませた。
「晶、結婚しよう…」
「………」
この状況で言うのか?
そう思うあたしの隣で高槻は口を開いた。
「俺、去年親父倒れて色々考えたんだ──」
「──…」
「大学辞めて親父の会社すぐ手伝おうかと思ってさ…」
「………」
「あと1年で卒業なのに無駄なことするなって親父に言われて…卒業したら三年は他所の釜の飯食えって言われたから…」
「……から?…」
「就職して三年したらこっちで親父の会社入る──」
「……」
「東京の会社と地元の会社の内定もらったから…」
「……から?…」
「晶に逢ってどっちに就職するか決めようと思って同窓会にきた──」
「……どうすんの?…」
仰向けで天上を眺め質問を繰り返す。あたしの枕元に腰掛けたまま、高槻はらしかぬ真面目な話を続けていた。
「晶がまだ東京に居るなら東京の会社就職する──」
「……あたし」
「………」
「恋人いるから」
いるから…
夏希ちゃんていう
かわいいストーカーな恋人がいるから…
・
「三年ある…」
高槻は呟くと水を口に含んで自分の喉を潤した。
「………」
「──……晶…三年したら俺と一緒に二人で帰ろう…」
「……んでっ…」
「………」
「なんで今さらっ…」
「……あき…──」
1年待った──
1年泣き通しだった──
1年経って忘れることを選んだ
あの淋しさは高槻にはわからない──
別れて大学に入って直ぐに彼女ができた高槻にあたしのあの時の淋しさはわからない──
それでも待ったあたしのあの時の淋しさは──
でももう終わった──
「あきら…」
高槻は顔を覆ったあたしの両手を剥がした。
「そんなに泣くほど俺のこと好きならより戻せばいいだろっ」
「んな簡単じゃないっ…」
あたしには夏希ちゃんがいるっ…
あたしを大事に想ってくれる。
あたしが居ないと淋しくて死ぬなんて言ってくれる
夏希ちゃんが──
高槻は歪むあたしの顔を両手で挟んだ。
「……簡単じゃなくてもさせるっ…三年したら連れて帰るからっ…」
荒々しく重なる唇で息ができなかった──
「……んでそん、…勝手なことっ…自分から別れたくせにっ…」
「──…離れるんだからしょうがなかったんだよっ」
「それが勝手だって言ってんだよっ…バカ男!」
「……っ…」
そんなあたしの言葉に高槻は上に乗ったまま溜め息をついた。
・
「マジでしょうがなかったんだよ…ヤりたい盛りの歳で男だから傍に彼女居なかったら浮気するに決まってんだから…それで晶を泣かしたくなかったし…」
高槻は頭を抱えながら溜め息を長く吐く。
「結果同じじゃん」
「……でも浮気ってのは俺が嫌だったのっ!…俺だって別れて平気だった訳じゃないってっ…」
「なにそれ…嘘臭い」
「嘘じゃない。男は女より寂しがりなんだってっ…」
「……だから彼女すぐ作ったって言いたいわけ?」
「………」
「言い訳のレベル低すぎ」
気まずそうに目を向ける高槻に今度はあたしが溜め息を吐いた。
「とにかくどいて」
「ここまで来てそれは男として無理」
「さっきから男、男って──」
「無理だよ…俺今、すごいヤりたい」
「……」
「あきら…」
「ダメだよ…」
「俺とより戻せって!」
「……っ…」
高槻の舌が鎖骨を這いながら大きな手はシャツの中に潜り込む。
・
荒い息を吐きながら高槻はあたしの名前を何度も呼んで託し上げた胸元に目を止めた──
「──……」
気づいたか…
ヤル気無くしただろバカめがっ…
「すごいなこれ…」
高槻は夏希ちゃんが付けたキスマークの嵐に釘付けになっていた……。
「もしかして彼氏、俺のこと知ってる?」
「………なんでわかる?」
「これ、どうみても俺に当て付けのマーキングだろ?…」
高槻はあたしのキスマークを指でなぞる…
「宣戦布告か…」
「……え?…」
「上等じゃんそいつ…」
「はっ?…ちょっ!?…ヤル気無くさないのっ!?」
「かえって燃えるっ!」
何かを呟いた高槻の顔付きが急に変わる。
高槻は突然、興奮したようにあたしの肌をまさぐり始めた──
そうだ──
根っからのスポーツマン根性だコイツはっ
獲られたボールは取り返す。
逆転勝利の喜びを何よりも知っている──
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